《Falling down Sodomy City》 チャットログ:メインログ Part2


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・観客席ログ

目次

・【MIDDLE ⑦ - BASTARD】
・【MIDDLE ⑧ - Mission 2nd Phase】
・【HOシーン④:Vector-運び屋-】
・【INTERLUDE ⑦】
・【HOシーン③:Call of Duty-戦士の義務-】
・【EXScene⑤/廃都の夢-3】
・【INTERLUDE ⑧】
・【INTERLUDE ⑨】
・【EXScene⑥/秘匿通信-3】
・STAGE『United States』 Round3
・【INTERLUDE ⑩】
・【INTERLUDE ⑪】
・【MIDDLE ⑨ - NIGHT CHASER】
・【MIDDLE ⑩ - Mission 3nd Phase】
・【MIDDLE ⑪ - Apocrypha】
・【HOシーン②:Seeker-責務の為の力-】
・【INTERLUDE ⑫】
・【INTERLUDE ⑬】
・【EXScene⑦/廃都の夢-4】
・【EXScene⑧/深海都市の夢】
・【INTERLUDE ⑭】
・STAGE『United States』 Round4
・【MIDDLE ⑫ - 21st Century Schizoid Man】
・【MIDDLE ⑬ - Moon rising】
・【MIDDLE ⑭ - 戦闘-市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ"】
・【INTERLUDE ⑮】




【MIDDLE ⑦ - BASTARD】

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……

SYSTEM :
【MIDDLE ⑦ - BASTARD】

登場PC: Blue Dickinson
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 元はと言えば、ロサンゼルスにコードトーカーの所在がある可能性を指摘したのはブルーであった。
 ラクシャーサとの対面を置いて、まずこちらの調査に当たるのは自然な流れだ。
 その上で、ブルーはUGNと協力関係にある、シリコンバレーに本部を置く大手IT企業とRラボの協力の元、ウイルスの解析作業に当たっていた。

 彼女にとっては幾つか別の打算はあったが、主な理由としては拠点が此処であるなら発信源が近い可能性は十分にあること、またあれだけ大規模に影響を及ぼし、操作するためには巨大なサーバが必要であること、それを敷設するのは先端企業が立ち並ぶカリフォルニア州の近辺が怪しいと踏んだからだ。

SYSTEM :
 木を隠すには森の中ともいう。UGNの目がノーマークであったことも、猶更に都合が良い。
 加えて言うならば如何なブラックドッグとしての暗号解析能力を持つブルーといえど、処理能力には常に限界があるものだ。
 そうした経緯で、ブルーは自らの機器を駆使して解析を進めていたのだが……

情報源 :
『やはりここのサーバの処理能力でも難しいようですね。辛うじて伝播を止められるのが関の山。
 まあ、ロサンゼルス支部、並びにカリフォルニア州内のUGNの協力のおかげで、ここは被害が少ないようですが』

 ふむ、とアンテナモジュールの回線越しに、同業者の女が、寧ろ感心した様子で息をつく声が聞こえる。

情報源 :
『レネゲイズワーム……そう彼女は言っていたそうですが。
 関数にレネゲイドを感染させたプログラムとは、御見それしました。これらはミリ秒単位で変化、成形される多形性シェルコードを生成しています。
 単純に考えるなら、彼女のノイマンとしての思考力を超えるだけの演算速度が出せねばコードブレイクは難しい』

ブルー・ディキンソン :「だりぃ〜……」

「確か"純血種"っしょ。
 亜種混じりだと確かにキッツいなー。
 あたしもそこまでクラッキングする趣味はないから専門家には負けちゃうんだよね」

ブルー・ディキンソン :
「基本のワーム対策に真っ向から中指立ててるのは随分とロックだと思うけどネ。
 ワームというものの性質を考えたら、それにレネゲイドを混ぜ込むっていうのは"上手い"アイデアだと思う。
 ……敵を褒めてどーすんだって感じだけど……」

ブルー・ディキンソン :
「まー、寧ろ"この程度"で済んでるのが不思議なくらいだよね。
 カリフォルニア州なんて電子部品とコンピュータの貿易で儲けてるんだから、土壌としてはあまりに適してるだろーに」

情報源 :
『ノイマンの思考能力が何処から来るかは諸説ありますが、因子自体が演算子の役割を持つタイプであれば、その因子を外にコピーすればよい。
 言うなれば今合衆国は、肥大化し行く彼女のエゴの舌の上という訳ですね。いやはや、困ったものです』

 くすくすと、他人事のように嗤い

情報源 :
『でしょうね。寧ろ、そこからあなたはコードトーカーの潜伏を導き出したものとばかり思っていましたが……
 UGNの各支部が巧く機能しているおかげ、と結論したいところですが、後手に回っていることを考えるにそうでもない』
 

情報源 :
『寄生虫は宿主を殺すために活動している訳ではありません。カリフォルニアを拠点としている以上、そこの経済を完全に破壊しては、潜伏しての研究に支障が出る……という所でしょうか。
 少しばかり違和感は拭えませんが』

ブルー・ディキンソン :
「寄生虫は自分の生存目的を達成するまでは如何なる手段を用いても宿主を生かそうとする。
 ……流石に合衆国随一の州の経済をブレイクするまでに至ったら、やり過ぎだ」

、   、   、 ・・・・
(んー……だからか? UGNだけが頑張ってるように見えるのは)

ブルー・ディキンソン :
「ま……あくまで"釣り餌"ってことなんでしょ。
 天秤を用意すれば、自分が欲するものが出てくる確率自体は跳ね上がる。
 脅しの駆け引きってヤツだ、脅しを止めるか脅しに屈するかの勝負」

ブルー・ディキンソン :
「……」

ブルー・ディキンソン :
「……にしたって、ちょっと無用心な気もするにゃー。
 自分の脳をそこまで信頼しているのかね、自分のワームは絶対に死なないって。
 あたしが"探り"をしていることくらい、もうすでに把握してると思うんだけど……」

情報源 :
『彼女の衝動は加虐衝動、と伺いました。
 或いはもがくこちらの姿を見て楽しんでいるかもわかりませんし……もしくは』

情報源 :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
『誘い出しているのかもしれませんね?』

情報源 :
『規模が大きいばかりに目が眩むとて。
 脅しをかけている相手は、意外とすぐ近くにいるのかもしれませんよ』 

ブルー・ディキンソン :
「な〜に〜? それ。
 もしかして、あたし? なんちゃって!」

ブルー・ディキンソン :
「……実際、あたしらにはどーにもできない代物だしねえ。
 ちょっと調べただけでも防衛ラインを引くのが最低限、一つの州を生かすのが精一杯。
 サディストが見たら嬉しい光景なことにゃ間違いないねえ」

ブルー・ディキンソン :
「……………ま、ダンスの誘いを受けなきゃいけない状況に持ち込まれてるのも事実だろうけどね。
 軍人さん達は自分のツラの目の前で旗燃やされたようなもんだし。
 しかも下手人は電話でそれを報告してきたと」

ブルー・ディキンソン :
「流通を抑えられるとあたしも流石にキツいし?」

情報源 :
『事態を収めるのに総動員、現状各地の拠点を攻めているのは作戦従事者と一部の身という有様ですからね。
 あなたも今、とても大変そう』

ブルー・ディキンソン :
「も〜超大変!サイアク!」

情報源 :
『どうあれ……このウイルスの打破のためにはやはり本人に解除させる以外に路はない。そういうことですね。
 問題は彼女が何処にいるか……という所でしょうか』

情報源 :
『ただ、これについては少しだけ。力添えが出来るかもわかりません』

ブルー・ディキンソン :
「……? 珍しく弱気だね。
 いつもニコニコしてるのにとても珍しい」

情報源 :
『そう聞こえますか?
 ……まあ、そうかもしれません。如何せん不確定な部分が多いので』

ブルー・ディキンソン :
「ふぅん……? 
 まあ、それもそっか。
 強者イコール堂々ってわけでもない、強者ゆえに臆病、というのもよくある話」

ブルー・ディキンソン :
「基本的に尻尾を掴めることなんて、まずありえない。
 ハッカー最大の弱点は居場所を特定された時に、逃げるしか手段を取れないことだからね」

ブルー・ディキンソン :
「ま〜大丈夫でしょ! そこはほら、UGNの皆さんとアメ公のお犬様達だよ。
 大まかなロケーションさえ掴めれば、あとは絞り出すだけってワケ」

ブルー・ディキンソン :
「むしろスタンドアローンの私達がどうにかできたら"神業"なんてレベルじゃなくない?」

情報源 :
『それもそうです。我々は飽く迄門外漢……
 所詮人の依頼で動いているだけの個人に過ぎねば、手に余るものでしょう。ですから、話半分に聞いていただけますか?』

ブルー・ディキンソン :
「どーぞ。聞き上手のブルーちゃんです☆」

情報源 :
『私の仕事について、以前話をしたと思いましたが……
 あなたと同じに、私は頂いた報酬に相応しい対価を差し出すTinker。厳密には違いますが、似たような仕事です。
 その仕事柄、色々な方に顔を売ることもあります。
 様々な分野で顔が利くのが我々の強み。それはあなたの会社も同じことだと存じていますが──』

情報源 :
『────私。
    ・・・・
 今現在O-Tec社から200万$で依頼を受けております』

ブルー・ディキンソン :
「……」

ブルー・ディキンソン :
「続けて?」
 我慢の限界。一本咥える。

情報源 :
『本来なら、私が出る幕はなかったのですが……
 我々は金銭の多寡によって依頼を受けるもの』

情報源 :
『……これ以上話しても問題ありませんが。そろそろ瞼が重くなってきたのでは?』

情報源 :
『わざわざ音声チャットを開いていただいて、ありがとうございます。
        ・・・・・・
 おかげで立派に射程に捉えることが出来ました』

情報源 :
【Information】
エネミーエフェクト《蝕む声》が発動しました。
使用者:???
対象者:ブルー
効果:対象に提案を受け入れさせる

ブルー・ディキンソン :
「───ぷ。 ……っははは、あははは……」

ブルー・ディキンソン :
「……いやぁ……あたしぃ……甘くなっちゃった、かにゃー?
 それとも……鈍くなってるのかナー……はっは。
 タバコ……火、つける……前で……よかったかも……」

 ……雇われは、金が全て。
 白も黒もない、私たちからすれば、そんなものは容易に引っくり返る。
 金さえあれば、白を黒ということも、黒を白ということもできる。
 だから、これは必然。

 想定して当然なはずの出来事なのだ。

情報源 :
『金とはいつの世も、恐ろしいものです。生きて戻れたなら、夢忘れないことですね』

 くすくす。くすくす。
 電波越しに放たれる魅惑の声が、ブルーの脳を揺らして、ゆっくりと意識を奪っていく。 

情報源 :
 蝕む声と共にブルーの意識が奪われる。目の前が真っ暗になり、目を伏せ、ブルーは倒れ伏すことを余儀なくされた。

『では……暫し、おやすみなさいませ。
 心配せずとも。望み通り、彼女の……コードトーカーのラボへと行けましょう。
 戻って来れたなら、紅茶の用意をしてお待ちしておりますわ』

SYSTEM :
 そうしてブルーは鈴を鳴らすような女の声に導かれるまま、昏々と眠りについた。
 こうなってしまえば最早抵抗など出来ようはずもなく。
 ただ暗がりの中に落ちていくしかなかった……

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
 ……ブルーが目を覚ました時。視界に広がるのは、意識を落とす前まで居たIT企業のサーバルーム……ではなかった。
 仄暗い暗所の中。見えるのは、独房のようなちいさな牢屋だ。あなたは身動きが取れぬよう、手枷足枷を嵌められた状態で横たえられていた。

SYSTEM :
 当然、というべきか。
 手元にあるべき得物は外されている。
 ウェポンケース諸共に、愛刀の行方は知れない。武装となるものに関しては扱えないと見た方がいいだろう。

ブルー・ディキンソン :
「……ん、……んん……やめろ……やめれ……社長専用のカップラー……」
 
 ……呑気に寝言か? というフリを用意してみたのだが。
 あんまり効果的でなかったようだ。
 意識を取り戻した際に状況の把握は済ましたが、中々"嫌"な感じだ。

ブルー・ディキンソン :
「……っはァ〜……ドジったぁ……」

ブルー・ディキンソン :
 ちょっと腕を動かし、両手両足の枷を確認する。
 こんな時、自分がエグザイルだったら! なんてことを思いたくなる。
 むしろ私は柔軟性とは程遠いガチガチの義体女だ、アナクロな捕縛方法だが実際効果的と言えるだろう。

「……なぁんで気づけなかったかなぁ」

ブルー・ディキンソン :
「がァ〜〜〜、一体どれだけ積まれたんだよ〜〜う、聞いときゃよかった!!」

ブルー・ディキンソン :
「ライちゃんまで取られたしぃ……ぐすぐす、ぐすぐす……いいなあ200万……」

 ……とまあ、こんな感じで「あること」「ないこと」をわざとらしく大声でブー垂れて、手足をがちゃがちゃ。
 誰がくるのかはさておき、音を立てておけば何かしらのアクションがある……と踏む。
 無知の阿呆を演じていれば気狂いか?となってくれないだろうか、無理かもしれんなワハハ。

SYSTEM :
 アピールするようにガチャガチャと体を揺らしていた甲斐があったのだろうか。
 暫くして、牢の奥から車輪の回る音が響いてきた。人間の足音ではない。恐らくはドローンだろう。

ブルー・ディキンソン :
「ロボかよぉ……」

SYSTEM :
 それに一歩遅れる形で、硬いアスファルトの床を鳴らす音が続く。女性物のヒールの音のようだった。
 武道に関して他者と比べても一日の長があるブルーならば歩調からして、然程戦いの心得がない足取りであることは容易に想像がつく。

SYSTEM :
 ……女は、意識が落ちる寸前に、コードトーカーの研究所に送られると言っていた筈だ。
 であるならば。先ほどまでの話の流れからも、相手が何者なのかは、想像がつく

ブルー・ディキンソン :
「……」
 歩幅、足音を立てるタイミング、一歩踏み出すまでの間隔。
 場慣れしていない歩きだ、居場所の情報と合わせて、誰が来たのかはすぐわかる。

ブルー・ディキンソン :
「………やば……きつねちゃん来ちゃった……」

"コードトーカー" :
「……さて、と。気分はどうかしら?
 あなたと逢うのは初めてだから、寝ている間に色々と検分させてもらったけれど」

 そうして護衛用のドローンと共にやってきたのは、このアメリカに分断の壁を敷く妖しの魔女……コードトーカーに他ならない。
 

ブルー・ディキンソン :
「あら〜……え〜っと……どこまで見ちゃいました〜……?」

"コードトーカー" :
「ココロの方をほんの少しだけ。ごめんなさい、カラダの方はよく出来てるみたいだけれど、あなたのカラダにはあんまり興味がないの」

ブルー・ディキンソン :
「すけべ〜……ココロて、ココロて」

"コードトーカー" :
「因子は珍しいモノが混じってるみたいだから、取り出してフラスコに収めたいのだけれど。
 その義体は美しくないわね。機能美というのはあるけれど、それならヒトのカタチはやめるべきよ。中途半端」

ブルー・ディキンソン :
「ろ……ロマンの分からん人!
 敢えて人の形でいることでわかることもありますわ!
 ……で、あの、一体何をするおつもりでして……」

"コードトーカー" :
「……改めて名乗らせていただこうかしら。
 私は"コードトーカー"……UGNの、特にドイツの支部には特にひどい目に合わされてね。ありていにいってあなた達みたいな人とは関わらずに、自分の好きなことだけをして過ごしたいタイプなのだけれど……」

"コードトーカー" :
「……そうね。それを訊いてくれるのを待ってたわ。

 自分から訊いてくれるなんて、お父上様の躾がしっかりしてるみたい」

ブルー・ディキンソン :
「………………………………………やっべ」

"コードトーカー" :
「──まずは、そうね。形式的に私は彼への恭順を示さなくちゃいけないの。
                     ・・・・ マスター
 ブラックモア……いいえ、より正確に言えばもっと上の『大導師』に対して。
 私、ここ二週間"彼の手"に付き纏われててね? 迷惑してるから早いところ追っ払って欲しいのよ」

"コードトーカー" :
「元天刑……同僚とはいえ、ジャームらしく自分の理屈で私に狙いを定めてくるものだから、本当困ってるのよ」

ブルー・ディキンソン :
 『大導師』───……?
 とりあえず、メモリーメモリー……。

ブルー・ディキンソン :
「あ、……あは〜……それは……随分と……大変そうで……」

"コードトーカー" :
「だから、まずは"シャンバラ"の仕事もついででやらないといけないのよ。どういう訳かあなたが来たみたいに、こっちにいる事も割れてるみたいだし……
 どこで漏れたのか。何処まで知ってるのか。この際だから全部吐かせちゃおうと思って」

ブルー・ディキンソン :
「ですよねえ……」

"コードトーカー" :
「だから、これから五日掛けてあなたのことを拷問……いいえ、調教しようと思うの。
 カラダとココロに、私の因子を植え付けて、じっくりとワタシを刻みつけてね」

ブルー・ディキンソン :
「……よ……四日じゃダメ?」

"コードトーカー" :
「そうねえ、早く根を上げて全部話してくれたなら、ちょっと加減はしてあげる。
 勿論、向こうには返してはあげないけどね。あなたには、他の連中の寄せ餌になってもらおうと思うし……本命は契約してる方だもの」

ブルー・ディキンソン :
「あ……あたしって釣り餌になるのかしら……。
 い、いやあ、あはは……痛くないといいナー」

"コードトーカー" :
「でもでもぉ、五日じっくり耐えてくれたならそれはそれで別の楽しみがあっていいわねぇ。
 話してくれなかったら無理矢理洗脳して話させるだけだし……」

"コードトーカー" :
「その時は義体と脊髄を引っこ抜いて、別々に遣おうと思うの。
 ほら、機械化兵っているじゃない? あの子たちのメカニズム、簡単に言うと脳髄をボディにインプットして動かしてるだけなのよ。あれと同じ。
 元の義体の性能がよければいい戦力になるし、何より良いメンタル面の"削り"になると思うのよ」

ブルー・ディキンソン :
「っひぃ!!」

"コードトーカー" :
「引っこ抜いた脊髄の方は、培養液の中でじっくり私が面倒を見てあげる。こっちがあなたの本体になるのだけれど……触媒の因子はその辺りに集中してるみたいなのよ。
 あなたは知ってるかわからないけど、『触媒』因子持ちのサンプルは中々のレアものなの」

ブルー・ディキンソン :
「いーやー! 聞いてるだけで痛いじゃないですか!!
 そんなあたしがレアものみたいな! そうなのかもしれないけど!」

"コードトーカー" :
「あなたは培養液にぷかぷかと浮かぶだけのモノになって、そこでたくさんのユメを見るの。
 多くは絶望の夢だと思うけれど、取り敢えずは自分のトラウマの再起から始めるのが王道かしら。
 自我を残さないと、因子は反応しないのよ。強い希望と強い絶望を交互に見せて、その度に記憶をリセットして、どれが一番効果的に反応するかをテストするの」

ブルー・ディキンソン :
「リアル"水槽の脳"じゃないですかぁ!」

"コードトーカー" :
「その時の反応を想像すると、とっても心が震えるのよね……
 その時にはあなた、どんな反応してくれるのかしら」

"コードトーカー" :
「……その時には、そのちょっと余裕ありそうな顔も声も。引きつらせて可愛く哭いてくれそうだしね」

 すん、と。ひとしきり語った後、冷や水を浴びせられたように醒めた表情で口にする。

ブルー・ディキンソン :
「うぅ…………」
 ……ちょっとわざとらしすぎたか?
 ま、あたしも"ノイマン"の端くれ。こういう状況で、特定の役割の実行をメインにした"人格"を演じることができる。
 別にあたしは自分の頭の中に別の自分を用意できるほど器用じゃないから、これは人殺しの現場でもぴーぴー騒いでた子のものを借りたのだが……。

ブルー・ディキンソン :
「………ふう、流石に頭良〜ね……」

"コードトーカー" :
「それはお互い様のようね。でも、人斬りの捨て犬がそんな顔をしていては一目瞭然というものよ。
 ……けれど、赦しましょう。頑強な玩具ほど、そうそう手に入りにくいもの」

"コードトーカー" :
「そういう生意気な子には、実戦あるのみ。
 取り敢えず私から析出したレネゲイズワームで神経系を焼いて、四十六時痛みしか感じられないようにしておこうと思うのだけれど……」

ブルー・ディキンソン :
「……神経焼いたら聞けるモノも聞けない気がするけどナー?
 それとも脳核を引っ張り出して覗き見しちゃうんですか?」

"コードトーカー" :
 義体の神経系に対してワームウイルスを放つ行為は、言ってしまえば剥き出しの神経で硫酸風呂に漬けられるのに等しい行為。
 無論、その加減程度は彼女の因子が含んでいる以上、造作もない。のだが……
 
「実は客を待たせているの。今すぐ、あなたに付き合う時間はないわ。
 ……残念。どんな風に怖がるかを期待して、忙しい中わざわざ直に逢いに来たのに」

ブルー・ディキンソン :
「大型セルの幹部様ともなると、お忙しい様子ですなあ。
 貧乏会社の社長には羨ましく見えますナ……あんま興味ないけど……」

ブルー・ディキンソン :
「いやいや、こっちも残念。
 喚く子供の真似事でもしてれば、そっちの趣味嗜好を少しは満たせるのかと思ったんだけど。
 ……まーアテが外れましたな、お互い様っつーことで」

 ……この女が私の"演技"をどこまで信用したのかは定かではない。
 真似事と"完全演技"は明確に異なる点が存在する。
 彼女もまたノイマンならば気付く可能性は大いにあったが……とりあえず、この場は"白けさせ"ることが出来たようだ。

 サンキュー出来ません出来ませんって言いながら綺麗なヘッショした後輩メイドチャン。

ブルー・ディキンソン :
「……ああでも……、これからを想像すると……流石のあたしでもゾッとしちゃうかもね。
 生身だった頃の、自分がそんな目に合うなんて一ミリも思ってなかったあの時の、嫌な嫌な記憶……」

ブルー・ディキンソン :
   ・・・・・・・・・・・・・・・
「……確かにアレを思い出すのは嫌かも」

 言葉と、感情と、表情は一定しない。

"コードトーカー" :
「全く忌々しいことにね。けど、憂鬱な仕事の合間の楽しみが増えたということにしておきましょうか。
 時間は……そう、幾らでもある」
 

"コードトーカー" :
「あなたの心の傷を掻きまわしてどんな反応が見られるのか……じっくりシミュレートしながら待つことにするわ。
 ……それじゃあね、何でも屋さん。精々最後の自由時間を楽しみなさいな」

 コードトーカーは踵を返し、独房を後にする。……次に会う時は間違いなく今度こそ成す術のない状態での邂逅となる。何か用向きがあるなら今のうちに済ませておくべきだろう。

ブルー・ディキンソン :
 馬鹿げた話だ。
 あの女は研究材料・拷問材料として、最も質の低い獲物を手にしてしまった。
 ……貧乏くじを引いたのが自分でよかったのかもしれない、と思っておけば幾らか気分が楽か?

ブルー・ディキンソン : 
 ……まあ、どっちでもいいのだが……。
 所詮、ありきたりな女だ。
 強い感情の揺れ幅で超人が生まれるようになった世界では、ごくごく自然に生まれ出るもの。
 その体験に特異性などあるわけもなく、ただありふれた悲劇がそこにあっただけ。
 そんなもんの傷を見て何をどう思うというのだろう、逆に興味が湧いてくる。

ブルー・ディキンソン :
 特に助けを期待しているわけではない。
 ドジったのは自分だ、その責任と尻拭いは自分でやるもんだし。
 "よく分からんが情報源だけ信用されてる女中の格好した変な女"をわざわざ助けに来る理由はあるだろうか。

 ……あるのかなあ? あるんだろうな……。
 理由のない善意を向けられるよりは打算があってくれたほうが気持ちがいいのだが。
 大尉はそのクチかもな? きつねちゃんを許す道理もないでしょうし。

ブルー・ディキンソン :
「……や〜ん、どうしましょっかねえ」

 踵を返すコードトーカーに舌を出して餓鬼の威嚇をするだけして、いなくなってから呟く。
 実際悩んでいる。とても悩んでいる。体の一部に組み込んだ緊急加速システムでも作動させようか。
 その勢いで鎖を引きちぎる? いやいやオーヴァードを繋ぐ鎖がそうそう簡単に切れるわけないし。

ブルー・ディキンソン :
 と───まあ、物理的手段が封じられている以上は、取るべき手段と取れる手段は一つしかないのだろう。

ブルー・ディキンソン :さてさて……絶体絶命なワケですが……、
ここ、《タッピング&オンエア》は使えます? もしも妨害電波の類があるなら、《アンテナモジュール》もセットで。

SYSTEM :
 コードトーカーは護衛用の戦闘ドローンを随伴しながら、その場を去って行った。
 彼女がやってきたのは自らの嗜虐心を満たすことにあったのだろう。捕虜の様子を見るだけならばモニター越しで事足りる。それ以外のメリットがあったかどうか。

 ……ブルーの置かれた状況は厳しい。《タッピング・オンエア》によって通信を取ろうにも、妨害電波によって疎外されるようだ。 

SYSTEM :
 水無瀬の干渉が飛んでこないこと、また外で異変に気付かれていないことを鑑みるに、彼が干渉するための媒体も巧く偽装しているようだ。牢の中からでは連絡が取れない。
 ならば体内のアンテナモジュールにて、遠隔地に飛ばせばよいのだが……
 

SYSTEM :
 ……そのような簡単な方法で外部と連絡が取れるとは思うべきではない。恐らく何らかの対策が練られている。
 それが何であるかまででは、今のあなたには判断できない。注意深く観察していく必要があるだろう。

SYSTEM :
【Action!】
 コードトーカーの離席の間に独房から脱出せよ

・周囲の環境を確認できます。それによってギミックの確認が可能です。
・脱出のためのアクションやエフェクトを使用することが出来ます。
・その他、RP上で行っておきたい行為、判定がある場合、GMが許可する限り実施可能となります

GM :注釈として……
《タッピング・オンエア》は、『外部との通信』という手段に使用することはできません。というよりこの何某かの施設の外からもしもしすることはほぼ不可能ということですね

ブルー・ディキンソン :
OK、OK──……じゃあ、まずは【周囲の状況を確認】しましょう。
両手両足を縛られているとはいえ、目で見て分かる情報を全部。▽

GM :了解ですです

SYSTEM :
 絶望的状況ではあるが、レネゲイドが使用できる限り不可能という状況でもない。というより、今しか抜け出せる時間はないだろう。
 もし万が一ウイルスを刺されでもしたら、ノイマンといえど思考を回すことさえ困難になる。

SYSTEM :
 よって視界にある限りのものを検める。
 先ずこの厄介な手枷、足枷は、肉体の力で引きちぎるのはまず無理だろう。自分より高い肉体ならば或いは行けるかもしれないし、刀が手元にあれば易々と断ち切れるやもしれない。
 加えて……どうにもこの枷は単に頑丈というだけではない。赤いランプの付いた枷は、それぞれが何らかの影響を及ぼしているようだった。

 ──枷について深く検めるには《知覚》ないし《知識:電気工学》がいる。
 目標値は7だ。

SYSTEM :
 牢は電子ロックによって閉ざされている。ショートさせることが出来れば解除は容易いが、タッピング・オンエアによる解除は難しいだろう。
 ……だが暗号解読と併用すれば、或いは。

 ──ドアの解錠には《タッピング・オンエア》による知覚判定で解除可能。
 目標値は10だ。

SYSTEM :
 戸の奥にも意識を向ける。どうやらこの周囲を徘徊しているのは人間ではないらしい。
 簡素な警備ドローンだが、ある程度柔軟な動きが出来るようだ。

 ……常ならば触れずに干渉は難しいが。ブルーには《アンテナモジュール》がある。
 電波を飛ばして遠隔操作することができるかもしれない。

 ──ドローンのハッキングには《アンテナモジュール》によって長距離にまで届く《タッピング・オンエア》による知覚判定で可能。
 目標値は8だ。

ブルー・ディキンソン :
 ……さて、縛られた状態で体を器用に動かして独房内の状況を目で把握する。
 
 先ずは枷。目視した限りの強度で判断すると、私にはまず破壊は不可能。
 これを破壊しうる事ができるとすればカイくんくらい。
 
 ……最も、そういった物理的破壊を可能とするターゲットの対策をしていないわけがなく。
 ランプを見れば、それがただ物理的な枷となっているわけではなさそうという事がよく分かる。

 牢屋自体は電子ロック。
 最低限の電脳戦を行う事ができるのならハッキングをかけることができるだろう。
 コードを読み取るだけの力は存在する。
 問題は"開ける"タイミングだ。

 脱獄は十中八九バレる。
 ちょっとした音を聞くだけで、巡回しているのは人間でないことは分かった。
 随分画期的な人件費削減だ、見習いたいもんだね。
 ……これもハッキングができるだろう。外部との通信は無理でも、内部の距離ならばネットすることができる。

ブルー・ディキンソン :
「ASAPで行動が第一。
 脱獄のキホン…………」▽

ブルー・ディキンソン :
「(さ、て……まずは枷の状態を確認といこうかな。
  ハッキングはその後だ。手足が使えない状態でダイブしても意味がない。
  電子の海は現実よりもタトゥーが残る。いくら超人といえど───)」

ブルー・ディキンソン :
▷枷を調べる。
 判定選択:知識

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :さて……あたしは電気工学を持ってない。
だから素振りでいきますよ。

GM :どうぞ!他に宣言があるならってとこだが、遣えそうなのはなさそうだ

ブルー・ディキンソン :流石にねえ。……59なのがうらめしや。
ではいきます。

ブルー・ディキンソン :4dx <精神:知識> (4DX10) > 10[2,3,5,10]+8[8] > 18

ブルー・ディキンソン :Good.

GM :判定成功だ!

ブルー・ディキンソン :さてさて、拝ませていただきますか……。

SYSTEM :
判定に成功しました。

SYSTEM :
 機械工学の知識を用いて枷を検めると、厄介な事実が分かってきた。
 この枷はどうやらEXレネゲイド、特にアニマルオーヴァードの懲罰に使用される強電撃を発生させる装置を兼ねている。常人ならば一発で感電死するだけの電圧が、そこから発されるように出来ている。
 ……あくまで基礎に立ち返り、痛みで制御しようという設計思想は、作成者の嗜好を反映したものだろうか。

SYSTEM :
 その発動条件は、内からの強い衝撃、ないし因子の活性化が観られた際に自動で発動するようだ。
 EEの行使などは、これを前に集中力を散らされるだろう。
 
 ──外部との接触行為に使用される判定の自動失敗、または装着中に判定が失敗した際に2d10のダメージが発生する。

ブルー・ディキンソン :
「…………」

ブルー・ディキンソン :
「(……コイツは厄介だな。
  仕組みとしては害獣対策のそれを、対レネゲイドに向けて発展させた代物だろう。
  痛覚に訴えて、相手を弱らせる……サディズムに満ちたヤツだな)」

ブルー・ディキンソン :
「(……つまり、ハッキングをする場合。
  因子を少なからず活性化させる必要がある。
  それに反応して、私に電撃を浴びせるということだろう)」

ブルー・ディキンソン :
「(無理に外すのも不可能。
  電撃に無理に耐えるようなことでもしない限りは……最も不可能に近いだろうけど)」

ブルー・ディキンソン :
 ……。

ブルー・ディキンソン :
 警備ドローンのクラッキング……、
 《暗号解読》も併用することで敷居を下げられないかな。
 電子ロック錠が出来るなら、いけると思うんだけど。

GM :いけますね、電子ロックより劇的な効果は見込めませんが……
達成値を+1加算することが出来ます

ブルー・ディキンソン :了解。

GM :さて、これで知覚での判定は1dx+2になる
タッピング・オンエアの併用のため、浸食率ボーナスがプラスされて2dx+2というところだ

GM :リスクはあるが、判定自体は失敗して起きるペナルティはダメージだけ。と考えれば、回数回してゴリ押すのも手ではありますね

ブルー・ディキンソン :OK……、……。

警備ドローンっていう名前なだけあるし、カメラは内蔵してるよね?
クラックしたらその映像を見れたりするもんだろうか。
判定成功しないと流石に分からない?

GM :
 クラッキングした場合には映像、音声を確認しながら操作できると予想できますね。
 それ以外は何とも言えませんが、少なくともハックしてすぐに管理側に悟られるほどではなさそうと目星はつけられます。

GM :
また、一度ハックに成功した場合、その端末が破壊されない限りはハック状態を維持できます

ブルー・ディキンソン :
棚ぼた!
 警備ドローンとしての最低限の動きを維持しておけば、怪しまれることもなさそう、か……。

ブルー・ディキンソン :
さて……足踏みしている場合じゃないな。

ブルー・ディキンソン :
▷警備ドローンをハックする。
使用EE:《タッピング&オンエア》《アンテナモジュール》《暗号解読》
判定:知覚

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :さて、先に《タッピング&オンエア》のお支払いかな。

GM :イエス、お願いします!

system :[ "雷霆精"ブルー ] 侵蝕率 : 59 → 60

ブルー・ディキンソン :……60!

GM :ボーナスモード突入!!!(キュインキュインキュイン

GM :ではダイスをどうぞ!

ブルー・ディキンソン :(1+1)dx+2 <感覚:知覚> (2DX10+2) > 8[3,8]+2 > 10

ブルー・ディキンソン :固定値が効いた!

GM :いっっ、た!

ブルー・ディキンソン :よしよし順調。

SYSTEM :判定に成功しました。

SYSTEM :
 ブルーは巡回中のドローンの一機に対して、アンテナモジュール越しの干渉を仕掛ける。
 レネゲイド因子の励起を調整しなければ、手枷のリミッターに抵触して電気ショックが与えられ、強制的にレジストされてしまう。
 が……

SYSTEM :
 ……今回はそれを巧く潜り抜けながら、ハッキングに成功する。サーバからの返信情報に偽装したバケットを送信し、バックドアを形成。命令系統を挿入することにより、ブルーはドローンの情報と制御(コントロール)の獲得に成功した。

ブルー・ディキンソン :
「(最短ルート検索、ルートアレイ展開。
  感覚マスク完了、バックドア形成、全て良し。
  安全最終確認、良し……さてさて)」

ブルー・ディキンソン :
 自身の脳の一区画を置換し、ネットに接続する。
 それを媒介とした端末へのハックは物理的有線による直結LANが最適だ。
 ……今は手錠でそれができない、あくまで無線。少しばかり強度が落ちるが、これだけの簡略化されたシステムならそれで充分だろう。
 ここから脳のリソースの一部を利用して遠隔操作を行える。
 まずは牢の外を確認しよう。現状だと、この手錠を解除する手段が牢内にはない……当たり前だが。

「(……ニューロン損傷の心配は、今は無用かな)」

SYSTEM :
 意識の一部を潜伏させ、機器と同調が完了する。あなたの視界の一部に、サーバの情報がオンエアされる。
 ドローンは約30分おきにメインサーバに情報を送信し、本体のログデータはメインサーバで管理しているようだ。
 よってログ情報を確認しても、ブルーが搬送されるまでの情報は参照できないようだ。

SYSTEM :
 逆に言えばその30分の間はある程度自由に動かせる。この機器の巡回√上は一先ずは安全に動けるが、そこを逸れた場合にもある程度は怪しまれず活動できるということだ。

SYSTEM :
 ……電子ロック解除のためのパスコードを、端末越しに入力するか。
 或いは先に、手枷を千切る道具を運搬させるか。
 最低でもこの機器を通じて直接刀を取りに行けるとは考えにくい。そのような場所に敵の武装を置くことは、常識的にはあり得ず、そこに時間を割くのは得策ではないだろう。

ブルー・ディキンソン :
「(なるほど……ドローン自体のクリーニングは定期的に行っているみたいだね。
  この状態だと30分がリミットかな……ある程度は自由が利くみたいだ)」

ブルー・ディキンソン :
「(……さて、ドアを開けることもできるけど。
  この状態でドアを開けても意味がないな、即拷問のフェーズになるだけだ)」

 コマンド入力…… …… ……▽

ブルー・ディキンソン :
▷手枷を解く道具の探索・運搬
 を選択するよ。

GM :オーケイ!

SYSTEM :
 同調した警備用ドローンのカメラをハックし、巡回ルートをなぞりながら周回、さらに近辺を調べる事によって、ブルーはこの研究施設の構造について大まかに知ることが出来ただろう。
 警備は厳重だが、その多くが人造だ。タッピング&オンエアによってカメラの情報を書き換えれば、隠密行動をとるまでも無く素通りできる。
 無論、その間に強化猟兵と出くわす可能性は否定しきれないが……

SYSTEM :
 案の定、刀は別の場所に配置されているようだったが、拘束具であるならばまだ処置しようがある。
 道中、鎮圧の為に設置された兵器庫が確認された。此処からある程度なら必要な道具を工面できそうだ。
 電流が走る枷を外すことは出来ずとも、鎖を外して自由に動くことも出来るはずだ。その場凌ぎの護身具にもなる。
 

SYSTEM :
 ──《調達》技能を用いて任意の白兵・射撃アイテムを取得する。宣言したアイテムの目標値に達成した場合、成功となる。
 ただしこの判定に財産点は使用できない。

ブルー・ディキンソン :「(人工物による警備、当たり前といえば当たり前か。
  ……真の天才は情報の氾濫するネットワークに失望して、アナクロな犯罪を起こすというけど、本当かしらネー)」

「(……とはいえ──宝探しと洒落込んでる余裕はねーな。
  さっさと鎖を叩き割るなりなんなりして自由を取り戻さんと)」

ブルー・ディキンソン :
「(……さて……この場合は───)」

ブルー・ディキンソン :
「……」

ブルー・ディキンソン :
「……………………」

ブルー・ディキンソン :
「(……やってみるか……アナクロ大作戦)」

ブルー・ディキンソン :
 トンファー

 ギター ◁

 上記選択で調達判定を申請。

GM :ファッ
何故ギターが此処に

ブルー・ディキンソン :きつねちゃんの趣味……? なわけないか……

GM :夢があったってコトなのかもしれませぬ
いいでしょう!

GM :目標値は7ってコトになりますな

ブルー・ディキンソン :オーケー! ではいきますか!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(1+1)dx+1 <社会:調達> (2DX10+1) > 7[5,7]+1 > 8

SYSTEM :判定に成功しました。

ブルー・ディキンソン :……

ブルー・ディキンソン :ドローン君は偉いねえ……

GM :成功しちまったよ……

ブルー・ディキンソン :そんな日もありますナ。がはは!

SYSTEM :
 ……それは突発的に浮かんだブルーの直感か、或いは血の迷いか。彼女はドローンを遣って運び出したものは……

SYSTEM :
 ギターだ。
 しかもこれは……エレキギターではないか。
 YAMAHAの最新モデル。ランダムスターの変形ギターである。
 こんなものが何故置いてあるのか理由は定かではないが……自由のための闘争とあらば、或いはここはその武器こそが似つかわしいのか。

SYSTEM :
 ……果たして本当に、ドローンはあなたの牢の前まで戻り、件の代物を持ってきた。
 それは或いは彼女が自らに付けた名の故なのか? 

SYSTEM :
 コイツを叩き付ければ或いは、自由を物理的に勝ち取ることが出来るだろう。ギターを片手になぎ倒すようなこともあるだろう。
 どうあれ……これが叛逆の狼煙となるのだ。
 掴み取れ、自由を。

ブルー・ディキンソン :
 完全演技。他者の人格を模倣し再現するもの。
 オリジナルを媒介し、オリジナルを標榜する技術。
 これまでの"仕事"の中でピックアップした人間は、一応は肩を並べた者達からだ。
 普段──というより、今回のメンバーに見せているこのチャラけた性格も、模倣物。
 無数の仮面を使い分け、森の中に本当のあたしを隠す。

 ……そうやって生きてきたが……いや、うん、アレだ。今ここ、隠す場面じゃねーナ。
 いくら達観してようと、いくら場慣れしていようと……十八歳の青春への羨望と、鬱屈とした社会への反発、束縛からの解放、その他諸々の衝動が……止められるわけもなく。

 そして多分、ハイになった頭と上昇した体温が戻った時にゲロ吐くレベルの後悔をするだろうと自覚しながら。

ブルー・ディキンソン :
 なんだかなんでも出来そうな気がする!
 The Number Of The Beastを初めて手に取って聞いた時の衝撃! 
 趣味の一つでもと思って手に取ったギター! もはや運命にも等しい再会がそこにあった。
 
 今の私はプリズナーNo.6だ!
 エイドリアンとハリスの描いた世界に脳天をぶん殴られたあの時と同じ!

 律儀に持ってきたドローン君を褒めつつ、あたしはギターを手に取る。
 見覚えのある形だ、レイジーのギタリスト・アキラが愛用していたのと同じタイプ。
 
 ヘマをやらかしたことへのストレスと、ちょっとしたプライドと、少女的反発衝動が馬鹿みたいに噛み合って、混ざり合って、ケミカルXも飲み込んで、一匹の野良オーヴァードの中で弾けた。

ブルー・ディキンソン :
「(TAKE THIS!!)」

 弾けたナンカの勢いままにギターを鎖にクラッシュ!
 もしもここに第三者がいるとすれば関わりたくないと思える光景だ。
 

ブルー・ディキンソン :
 もはや後先考えぬ暴挙だったが、仕方がない。
 明日なき戦争へのイカルスの飛翔なのだ、悪魔のメッセージは破り捨てるし、悪夢への招待にも蹴りを入れてやった。
 
 頭脳改革の時間だ。
 もはや五日だ四日だの悠長なことを言っていられるか。

ブルー・ディキンソン :
 武器は手に入れた。
 ドローンはハックしたまま。
 カメラは"目を盗む"ことで対処可能。
 ケオスの濁流の中で暗黒の航海を続けるテンションに反して、随分とスッキリしてクールになっているのが不思議だ。

 当然だ後先考えない大博打、分が悪すぎる賭けに挑むのだから、むしろ冷静でないほうがちゃんちゃらおかしい。

ブルー・ディキンソン :
「……脱獄作戦開始っ!」

ブルー・ディキンソン :
 ▷ギターで枷の鎖を破壊する。

SYSTEM :
Living on a razor's edge
ギ リ ギ リ で 生 き て 。

 Balancing on a ledge
崖っぷちでバランスをとりながら。

Living on a razor's edge
ギ リ ギ リ で 生 き て 。

 Balancing on a ledge
崖っぷちでバランスをとりながら。


The Evil that men do lives on and on
人 の 邪 悪 は 生 き 続 け る ……

SYSTEM :
 一度火のついた思春期のエンジンは最早止まらない。檻の隙間から投げ渡されたギターを、器用に掴み取ったブルーは、斧のようにギターを振り下ろす!
 一刀の下に鎖は打ち砕かれ、再びその四肢に自由が戻る。
 だが、これでは終わらない。常に体制へと抗い続け、自由を求めるロックンローラーにとって、この檻はあまりに狭すぎる。何より鎖を外しても、この億劫な電気ショックの発生器までは取り外すのには聊か手間だ。

SYSTEM :
 だが、何をか恐れん。今を全力で生き抜くバイタリティのままに、ブルーは突き進むのみだ!
 その果てがたとえ黒歴史ノートに新たな1ページを増やすのみだとしても!!

SYSTEM :
 …………さて。
 自由を勝ち取り、武器を手にし、後は檻を出て、武器を回収して脱出を測るのみ。
 他のドローンは先ほどの音にも反応しない。そして扉は電子ロックが掛けられている。流石にギターでこれをカチ割るわけにもいかないが……今なら手動でこれを解除することもできる

SYSTEM :
 此処なら遠隔操作のためのアンテナモジュールからのタッピング&オンエアも必要ない。直接暗号解読によって判定することも可能だ。
 判定技能に<知識:機械工学>を追加しても良い。

ブルー・ディキンソン :
 さて、あたしの愛しのライちゃん奪還までの相棒を手にし、いざアナクロ大作戦フェーズ2と行こう。
 手足を自由に動かせるようになったからには、より精密な作業をすることができる。
 といっても、プロフェッショナルほどではないのだが……。
 
「……さてさて……どんなマトリクスしてるのか拝ませてもらおうじゃないの……」

ブルー・ディキンソン :
▷扉の電子ロックを解除する。
▷判定選択:<知識:機械工学>//
▷使用EE:<暗号解読>//

SYSTEM :
 ──目標値は10。
 ただし、本来の『暗号解読』を使用した際のボーナス、達成値+2を加算しての判定となる。

ブルー・ディキンソン :お得! それじゃあいっちゃいますか!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(4+1)dx+2 <精神:知識> (5DX10+2) > 9[1,3,4,8,9]+2 > 11

SYSTEM :判定に成功しました。

ブルー・ディキンソン :っし、っしっしっし〜

SYSTEM :
 ブルーは直に自動扉に触れて、意識を集中させる。こうなればやることはルービックキューブのようなものだ、時間は逼迫しているとはいえ焦る程でもない。
 手慣れた様子で難なく解除に成功する。

SYSTEM :
 鉄格子の扉を開けて廊下に出る。
 本来ならば別のドローンに発見されるリスクはある。隠密による行動が必要となってくるが……
 《タッピング・オンエア》による判定で、これらの認識を阻害することが可能だ。アンテナモジュールと併用することで、常時自分の移るカメラ、マイクの情報を常に自分の居ない映像とすり替えることができるだろう。

 ──《タッピング・オンエア》による知覚判定が必要。
 目標値は6とする。

ブルー・ディキンソン :もちろん、目を盗んじゃいます。

GM :オーケイだ! では知覚判定ですな

ブルー・ディキンソン :はぁ〜い、では先にタッピング・オンエアのお支払いをします……

system :[ "雷霆精"ブルー ] 侵蝕率 : 60 → 61

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :よし、いきまーす。もちろんアンテナモジュールもセットで……

ブルー・ディキンソン :(1+1)dx+1 <感覚:知覚> (2DX10+1) > 7[4,7]+1 > 8

GM :次々越えていくねえ

SYSTEM :判定に成功しました。

ブルー・ディキンソン :ぶいぶい。

SYSTEM :
 廊下に出る直前、アンテナモジュールによって射程の延びた電波を用いて周囲のドローン、監視カメラに干渉。通常兵器ならいざ知らず、オーヴァードの干渉を妨げるシェルの類がないことは拿捕したドローンで検証済みだ。
 今ブルーは言うなれば透明人間のようなもの。たとえこの場でThe Number Of The Beastを大音量で熱唱しようとも、誰一人気付くものはいないだろう。

SYSTEM :
 とはいえ、悠長にしていてはコードトーカーが帰ってきてしまう。彼女に見つかれば、大恥をかくどころでは済まないだろう。
 ……幸いにも見取り図はすぐに確認することが出来た。めぼしい所といえば、この先の研究室だろう。敵の武装とはいえ、表に出回っていない高周波ブレードだ。研究材料にしようとしている可能性は十分にある。

ブルー・ディキンソン :
 相手が敵であっても、それがプロなら行動に一定の信頼がおける。
 ライちゃん──"ライキリブレードMk.Ⅲ"は、多種多様なオーヴァードの持つ武器の中において、"決闘者の剣"と呼ばれるカテゴリに属している。
 クソ親父の元から脱走した時に、こっそり奪って、それからずっと整備と改良をしてきたもの。
 "決闘者の剣"が易いルートで入手できる物ではないという点も含めて、解析に回されている可能性は充分ありうる話だ。
 
 流石にラウドネス気分で居続けるのも浮気だし。

ブルー・ディキンソン :
「……ま、相手もそう"読んでいる"可能性はあるけど──」
 
 万が一にも脱獄された場合、まず武器を取り戻す。
 一つの武器を使い込んでいるプロほど、そうする。どれだけ冷徹になろうと、欲と習慣には勝ちようもない。
 とはいえ、とはいえだ。

 ライちゃんがないと、今後が困る。
 今回の依頼だって完遂できない。
 それくらい、あたしを構成する一つのパーツなのだ。
 行かない選択肢は最初から存在しない。「行く」「向かう」「取り戻す」の三択、答えはどれを選んでも同じ!

ブルー・ディキンソン :
▷研究室へ向かう。

GM :オーケーだ

強化猟兵 :
 ……研究室に向かった先には、案の定と言うべきか。武装した強化猟兵が警備として立っていた。研究者にとって研究成果は命より重い。……と言うほど高潔な精神を持っているかは定かではないが。
 少なくとも人に成果を取られるような間抜けでは闇社会を学者として生きていくことは出来はしないだろう。彼らの存在価値そのものである以上、これを易々と渡していては命に係わる。此処を機械頼りにするわけにはいかない。
 だが、今は手が浅い。猟兵は三人とて、奇襲のアドバンテージを考えれば一人でも鎮圧できるだろう。

SYSTEM :
   内容:見張りの猟兵を沈黙させる
 成功条件:「①」「②」のどちらかを満たす
    ①:任意戦闘技能を使用した30↑のダメージ
    ②:判定の成功⇒白兵or射撃orRC:25↑
1ラウンド以内に出来なかった場合、戦闘開始

ブルー・ディキンソン :オーケーオーケー、死の舞踏の時間ってワケね。

ブルー・ディキンソン :あたしはこんなナリでこんなチャランポランだが……武芸に秀でているのだ。意外でしょ?
というわけで②で行くよ! もちろん白兵!

GM :あーいえ、これは疑似戦闘判定ですね
紳士でやってた形式です

GM :なのでどっちかが出ればオッケー!
判定を振り、どっちかが条件を満たしていればオッケイ!

GM :つまりなぐればよいのだ。

ブルー・ディキンソン :おっけ〜い。

GM :特にエフェクトの宣言が無ければ……

ブルー・ディキンソン :つまり白兵技能でギターで殴ればいいワケだ。

GM :そうなります

ブルー・ディキンソン :オッケー、じゃあ早速やらせてもらおうかな。エフェクトの宣言はしないよ。

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :3dx+27-3 <肉体:白兵> (3DX10+24) > 9[5,7,9]+24 > 33

SYSTEM :判定に成功しました。

GM :圧倒的固定値の暴力でざんすなあ

ブルー・ディキンソン :イエス。バンディットブリンガー!

SYSTEM :
 無論、それも読めていたことだ。
 触れた時間の長さでは刀に及ばぬが、触れた時間の早さで言うならばギターの方が上。ならば身に沁みついた武芸のセンスが馴染まぬはずがない。
 ……そんな方向性で馴染むべきなのか、その是非はさておき。

SYSTEM :
 完全に敵兵の虚を突く形で、ブルーの奇襲が決まる!

ブルー・ディキンソン :
もはや問答無用〜〜〜〜〜ッ!!!!!

ブルー・ディキンソン :
 ガン! ガン! ガン!
 
 綺麗に3ヒット。
 流石に叫びはしないが。
 ましてやこのギター、いわゆる変形ギターというもので。
 その中でも……とても、とんがっているのだ。
 それをこう、力を込めてスイングすれば、凶器待ったなし。

ブルー・ディキンソン :
Fates Warning
悪魔 か 神か? ───否、バッドガール!

SYSTEM :
 強かな殴打が三つ続く。死角からの強襲を前に、咄嗟に銃を掲げる者、連絡を入れようとインカムに手を伸ばす者。
 そのすべてが実現する前にカタがつく。

 まさに神業。恐らく死んではいないが、死なれると『例の能力』が発動するやもしれない。ここで眠っていた方が都合はいいだろう。

SYSTEM :
 研究室の扉のアンロックは厳重に設計されているようだが、ブルーにとっては然程の障害ではない。暗号解読によって判定も必要とせず解錠できる。

SYSTEM :
 ──ドアを開けますか?

ブルー・ディキンソン :
 ……、
 ……、
 ……、

ブルー・ディキンソン :
開けるよ。

GM :オーケイ

SYSTEM :
 あなたは手を翳し、自動ドアのロックを解除。
 程なくして、鉄の扉が音を立てて開かれる。

SYSTEM :
 鉄戸を開けた先に、人の気配はなかった。
 培養液の満たされた水槽が複数立ち並び、常に何らかの計器が観測を続けている。
 ここでもブルーのモジュールから放たれ続けるダミー情報がカメラを騙している。そのためか、侵入者の警報は未だに沈黙を守り続けている。

SYSTEM :
 気になる部分は多かろうが、最優先事項である自分の刀の行方は何処か。
 ブルーの読み通り、この研究棟を少し練り歩けば発見することが出来た。幸いまだ搬入されたばかりで誰も手が付けられていない、ライキリブレードMk.Ⅲと、それ専用の鞘だ。
 ……ついでにメイド服に関しても。『こんな格好で出歩くからには何か理由があるに違いない』『UGNで開発されたとされるRC能力を高める女中服か』と期待されたのだろう。汚さないよう丁寧に保管されていた。

ブルー・ディキンソン :
 ふうん そういうことか。
 こんなコスチュームが丁寧に保存されているのを見ると、改めて馬鹿らしく思えてくるが……。
 まあ今更だろう。もうそういうものとして通ってるんだし。
 お…お前 変なクスリでもやってるのかとか言われたら、そりゃもう否定できないくらい人生の悲哀を感じるのですが……。

ブルー・ディキンソン :
 ……まあ、目立つケド。

ブルー・ディキンソン :
 置いていくのもなんだ。
 別に異常メイド服愛者扱いされてももー構わん。しらん。しらない!

ブルー・ディキンソン :
「……なんだか収まりがいいのがムカつくわあ……」
 そんなわけでお着替え。
 ライちゃんも鞘ごと綺麗に保管してある。
 もちろん取り戻す。

SYSTEM :
 かくしてブルーは再び武装を手に取り戻した。コスチュームもついでに。
 これさえあれば怖いものなし、とまではいかないまでも、かなりマシな状況になる。
 ……武装に何か変わった点は見られない。罠が仕掛けられていることもない。ならば……高周波振動する刃先に器用に枷を当てることで、これを破棄することも可能となるだろう。レネゲイドの扱いに慎重になることもない。

ブルー・ディキンソン :
 ふう……そりゃもちろん。

ブルー・ディキンソン :
 ビリビリしてビクビクするのってちょ〜屈辱です! ブッコワ!

SYSTEM :
 抜き身の刀身に、両手、両足に嵌められた枷を断ち切らせる。雷をも断った戦国の武士が携え持ったという剣の名を借りる武器だ。鋼如き、鮮やかに斬り捨てることは造作もない
 器用に刃を動かし、一つ一つ外していく。アラート一つ発さないまま、枷は物言わぬ鉄塊となって地面に転がった。

SYSTEM :
 後は此処から出るだけ……と言いたいところだが。此処は敵地の中枢、"シャンバラ"に纏わる情報が多く眠っていることだろう。
 深追いは厳禁。ではあるものの、時間にはまだ余裕がある筈だ。

 どのみち、見取り図やセキュリティに関して確認しておく必要もある。もう暫く調査を続けねばならない。

ブルー・ディキンソン :
「……ふぅ、ま、このまま敵の罠にハマって捕まって脱走してきました、だけじゃ美味しくないしなあ」

ブルー・ディキンソン :
「……」

ブルー・ディキンソン :
 ・・・・・・・・・・・・・
「どのみち戻ってくるんだしね」

ブルー・ディキンソン :
 ……では色々調べましょうか。

SYSTEM :
 あなたはラボの内部を一通り歩き回り、探索を始める。
 脱出経路を見つけるまでには、そう時間はかからなかった。研究者がバイオハザード発生時に逃走するためのハザードマップが記されていたのである。そちらの経路を武器片手に蹴散らしながら進めば、コードトーカーの追手が来る前に脱出できるだろう。

SYSTEM :
 退路を確保したところで、確認するべきは此処で行われていた研究……或いは、彼女らの担当か。
 組織の背後関係なども当たっておきたい所だろうが、流石にそこまでは難しそうだ。

 論文が分かるように都合よく置いてあることは期待できない。だが、ブルーは専門分野でなくとも敷設された実験用の端末にアクセスし、情報を引き出すことが可能だろう。
 

ブルー・ディキンソン :
(けっけっけ……マップリンクは成功、ルートも把握、これだけで充分お宝ですが……)

(……人の心を覗こうとしたんだ、
 そりゃあ覗き返してやらんとなぁ〜?)

ブルー・ディキンソン : 
 あらやだ、あくどい。
 ま、いいでしょ──それくらいされても、文句なんて言えないし。言わせないし。ギターで黙らせるし?

ブルー・ディキンソン :
さてさてさて、ご開帳といきますか。
端末にアクセスするよ! 《暗号解読》を使ってある程度補強!

SYSTEM :
 生態認証を暗号解読によるハッキングで黙らせ、端末にアクセス。そこから実験のデータバンクを足跡なしにハッキングし、情報を収集する。
 ブルーはデータベースの中で、ここで行われていた研究に関する情報を拾い上げていく。

SYSTEM :
 ……そもそも"シャンバラ"が、何故ここまで高度な科学力を誇っていたのか。
 純粋に優れた研究者がいたため、と結論することも出来ただろう。或いはギルドを味方につけ、設備と資源を確保することが出来ていたとも。
 だが──すべての基幹は、そこにあった。

 ──ここで行われる研究を総括すれば、すべては遺産『シャンバラ』の解析に帰結するのだ。

SYSTEM :
 シャンバラ。それは往年のオカルティズムに傾倒したナチス・ドイツが探し求めたチベットの地底王国、アガルタの理想都市である。
 地球の中心にあり、高度な文明を持ち、各々が特殊な力を有する超越者達の楽土。
 それは嘗てこの地上に、遥かな古に栄華を極めたオーヴァードのみが棲む理想世界であるのだと。

 ……『あるもの』を発掘したアーネンエルベはこれをアガルタの都、シャンバラの名残と解釈した。

SYSTEM :
 尤も、『シャンバラ』とは学者たちが便宜的に付けた名前に過ぎない。
 いや……研究途中でその実態が知れたとしても、明かすことなど出来なかったのだろう。

 皮肉にも彼らが発掘したものは、彼らが思想的には『劣等種』として扱ったユダヤ人たちの先祖らの栄光の名残であったのだ。
 或いは学者たちはこの点を隠すために『シャンバラ』として研究をつづけたのかもしれない。

SYSTEM :
 推定年代、紀元前約二千年。
 地域、イスラエル・ヨルダン死海近辺。
         アポクリファ
 『あるもの』……死海文書外典を寄る辺に導き出されたその存在こそ巨大都市型危険遺物……
 タイプ  SODOM
 名 を『浄罪の都』と呼ぶ。歴史から抹消された超古代文明であった。

ブルー・ディキンソン :
「(……なるほど……事前情報にあったナチ公、それに連なるルーツはこれか!)」

 第三帝国のオカルティズムへの傾倒はサブカルチャーの愛好者の間では語種だ。
 言わば"創作"の類として人気の話題であるのだが……これが実際に"そう"であるという情報が目の前にある。

ブルー・ディキンソン :
「(……ケッ! チョビヒゲの画家が知ったら激怒しそうなルーツだな)」

ブルー・ディキンソン :
 ……それにしても……、
 ”遺産"という代物がカテゴリーで区分されているのはよく分かる。
 こいつは相当なヤバモノだ、情報を持ち帰るだけでも相当な価値がある。

ブルー・ディキンソン :
 拾い上げた情報の一片一片を、自分の記憶領域の中に押し込んでいく。
 一字一句、これは逃してはならない"ネタ"だ……!

SYSTEM :
 そもそもからして、彼らが研究の対象としている古代都市ソドムとは何か。
 少なくともここでの研究では以下のように結論され、その目的で蒐集されていた。

SYSTEM :
 その実態とは、彼らが拠点とした隔離された人工島と、そこで発明された無数の遺産……
 当時の人間が発明した数多のオーバーテクノロジーの集積であるのだ、と。

SYSTEM :
           アーコロジー
 現代ですら成し得ない完全環境都市を確立した彼らは、その内部のみで独自の文明を形成していた。
 そこで発達した技術は、現代のFH組織の如何なるものをも遥かに凌駕していた。
 技術力だけで言うなら、彼らは既に宇宙への進出と、異星のテラ・フォーミングをも可能とするだけのものが、完成していたのである。
 

SYSTEM :
 レネゲイドクリスタル
  賢 者 の 石 と、フォトニック結晶という二つの柱により、動力面とそれの最大効率運用を可能としたこの都市は、その技術のひとかけらを掬うだけでも莫大な利益を齎す、まさに宝の山であった。

SYSTEM :
 ……しかし、ここで問題が生じる。
 それだけの遺物を手にしておきながら、何故未だにこのセルは燻ったままなのか。
 圧倒的な武力を以て、FHという枠組み自体を支配し、星を総べることも決して夢ではない筈でありながら。何故、発見してこれだけの時間を過ごしてきたのか。

SYSTEM :
 ……発掘した彼らでは、この技術を扱うことが出来なかったのである。
 すべての技術には暗号化と何らかの制御が掛かっていた。FHのマスタークラスのノイマンが複数で当たってもその欠片すら解読しえない、強固な守りによって。

ブルー・ディキンソン :
「……んっ、だこりゃ……」

ブルー・ディキンソン :
 ……義体化という、言わば技術の体現者になった身だからか。
 あるいは、少し齧った知識が機能しているのか──……。
 レネゲイドが齎すものへの畏敬の念というものが、より大きくなってくる。

「……馬鹿げてやがる、アニメーションの話じゃねンだぞ……」

ブルー・ディキンソン :
 扱うことができなくて当然だ。
 国家が威信をかけて行なっている宇宙開発プロジェクトを鼻で笑うようなものであり、
 国家が取り組んでいるエネルギー問題を足蹴にするような技術。
 ……それを扱えていたら、ナチ公は戦争に勝っていた。いや、それどころか……星すら支配していただろう。

SYSTEM :
 詰まる所シャンバラの目的の一つとは。
 この現代の人間の身に余る『力』を。
 遺産を継承するために、これを解析し、我がものとすることにあったのである。

 そしてそれは、決して夢物語ではない。
 現代でもその研究が続いているということは、未だ匙を投げられてはいないからだ。
 芽の出ない研究なぞ誰も支持しない。幾ら宝の山が埋まっているとて、それが引き出せねば宝の持ち腐れ。
 今この国を脅かしている以上、それはあり得ないことだ。

SYSTEM :
 ある時点を契機として、この研究は少しずつではあるが進み始めた。
 強固なロックが掛かり、扱いきれないが。
 そのほんのひとかけら……末端の、その末端技術程度を掠める程度ならば、徐々に可能になってきたのだ。
 
 遺伝子操作技術。EXレネゲイド生成手法。より高度なAI……AIDA。
 わけても複製遺物……イミテーション・ミュートスキューブはその量産の可能性と運用の容易さから、O-tec社をはじめとした複数のセルに好まれ、シャンバラの活動資金として莫大な富を授けたという。

ブルー・ディキンソン :
 ……そう、扱うことができなくて当然。
 それは技術の集大成、最終的な"結果"から得られたもの。
 だが、人類の夢見る技術の行き着く先であるならば、その過程を遡っていけば……。

 "賢者"達の叡智を抽出し、一欠片ずつ手にしていった末に……今がある。

ブルー・ディキンソン :
 ……。

ブルー・ディキンソン :
 …………。

ブルー・ディキンソン :
 一つ思い至った、ある疑問。
 それについての思考を重ねていこうとすると、一つの障害にぶつかる。
 ……これをするのは、おそらく今ではないだろう。
 だが、確信的な疑問が浮かんだのは僥倖だった。

ブルー・ディキンソン :
「……やっぱりカルタゴを探らんとダメか───」
 ……思わず、タバコを咥える。火はつけず。

SYSTEM :
 契機となったのが何事に逢ったのかは不明だ。だが、確実に遺産は目覚めつつあり、それを完全のものとする手段を彼らは識っていた。
 これは遺産である。
 遺産である限り『遺産継承者』がいる。
 ……詰まる所。継承者を、都市は求めているのだろう。
 それと正しく契約を果たした時──古代都市ソドムは、完全に現代に目覚める。
 

SYSTEM :
 この星で生まれたすべての技術体系を嘲笑うかのような異次元の兵器が、一気呵成に野に放たれるだろう。努力と研鑽の人類史を土足で踏み入り、蹂躙するそれは最早異星人の侵略と変わらない。
 そこから何が飛び出してくるかなど、わかったものではない。最低でも、現代の秩序は完全に砕け散る。
 新たなる大戦の幕開け……だがそれが、真に戦になどなるのだろうか。
 

ブルー・ディキンソン :
「(……嫌なブレイヴ・ニュー・ワールド……)」

SYSTEM :
 一先ず軽く資料を解析して分かったのは、ここまでだ。
 調査を進めることで、より詳細な情報を検めることもできるだろう。障害となりうるであろう、発掘に成功した機能や、その『あるもの』に関する詳細などがそれにあたる。

ブルー・ディキンソン :
「(……もうちょっと)」

ブルー・ディキンソン :
▷……調査をさらに進める。

ブルー・ディキンソン :
▷『都市』が求めている継承者について。

ブルー・ディキンソン :
 ……十中八九、あのお嬢様のことだろう。
 だからこそ、あのハイウェイでの追走劇があり、アウトロー二人が攻性組織に転がり込んだのだ。
 重要ファクターである彼女を『指す』であろう継承者、その項目を深掘りする。

ブルー・ディキンソン :
 これで違ったら笑ってごまかそ!

SYSTEM :
 ……都市が求める契約者に関して。

SYSTEM :
 かつて『Project Ark』と呼ばれる研究プロジェクトの中で、遺産継承者を人為的に生成する試みがなされていたという。
 この折に『ソドム』の継承者を作る試みがなされたが、そのいずれも失敗していたという。

 失敗が続くうち、条件が別にあると知り、解析を進めるうち、隔世遺伝的にその因子が発現する可能性があると判明する。
 最終的には『預言者』からもたらされる情報によって、一人にまで絞られることとなる。

SYSTEM :
 それが『ナタリー・ガルシア』であった。
 ユダヤ系アメリカ人の家系で生まれた彼女には、出生直後からレネゲイドの因子が確認され、それは都市の管制機構で定めた因子パターンと一致する。
 オールド・レネゲイドを基礎として持つ彼女には、それを継承する資格がある。彼女と都市が何らかの意思の一致を見ることで、契約は果たされるだろう。

ブルー・ディキンソン :
 ……名前が直接出たか。
 隔世遺伝で発現した因子、それを持つのがナタリー。
 ……『預言者』はそれを知っていた。『預言者』が齎したからだ。

ブルー・ディキンソン :
「……」
 タバコを一回口から離して、ため息をつく。

ブルー・ディキンソン :
 "本人"がどう思うかはさておき。

 ・・・・・
「馬鹿馬鹿し」
 あたしは唾を吐いた。

ブルー・ディキンソン :
 くだらない。
 人一人の人生を容易に歪める諸々の全てに心底失望した。
 やはり夢のような技術を作り出し、運用していたとしても、レベル自体は現代とそうそう変わらなかったらしい。
 子供に酷を強いる、そこに大義名分という聞こえのいい言葉を乗せて。

 馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。

ブルー・ディキンソン :
「……アホらし。
 やっぱロクな連中じゃねーナ」

ブルー・ディキンソン :
 ……まあ、組織人は違うのかな?
 秩序のお題目を掲げた人たちとか、自分の命で守れるなら〜とか平気で言いそうだしナ。
 もしかしたらマイノリティはあたしのほうかも? ははは。

 ……私があそこに協力してるのは、そこそこの金額を定期的に貰えるからだ。
 支払いすらしないセルをつかまされた時よりは、安定しているから。
 
 別に、彼らのお題目に賛同したわけじゃない。

ブルー・ディキンソン :
「……まいっか、『目的』に対する『理由』が知れたのでヨシ。
 個人的不快感はこの際、考慮に入れず……」

ブルー・ディキンソン :
「かーえろっ。
 いつまでも居られっか、こんなトコ」

SYSTEM :
 見るべきものは、見た。
 検めるべきものは検めた。
 此処でこれ以上の情報を漁ったところで、どの程度今回の事件と関わるのか、その切り分けが出来ない。すべてメモリーに詰めるには容量と通信速度の問題もある。

SYSTEM :
 それらを踏まえた上で、ブルーの判断は的確だった。何よりこのような場所にいると神経が参るというのは、正常な感性と言える。
 ……先の実験内容を鑑みて、わかることがないでもない。今この培養液に浮かんでいるものの正体も、それが何を行っている最中なのかということも。

SYSTEM :
 だが、ああなってしまってはもう取返しがつかないだろう。どだい、自由と解放のためにここまでやってきたわけではない。富める者は貧しい者を識らないが、貧しき者は識っていたとて手を伸ばす余裕などありはしない。
 

SYSTEM :
 未だにコードトーカーの気配はない。彼女の様子からして、上役の人間と何らかの話があったのかもしれない。
 ……この時のブルーは知り得ないことだが、折しもデトロイトの陥落が各所に伝えられた段階であった。恐らくはそれに関連して対応に入っていたのだろう。
 

SYSTEM :
 警備の網も構造を理解してしまえば脱出は容易い。
 警戒網が敷かれ直すより先に、こんな場所からは去ってしまうが吉だろう。

 ──何もするべきことがないならば、シーンから退場することが出来る。

ブルー・ディキンソン :
 不愉快極まりない。
 私はどうあれ子供を利用することが苦手だ。
 何でもする会社とはいえ、その手の仕事は断ってきた。余裕があれば潰してきた。
 
 私は利用された子供だからだ。
 父親の犯罪のダシにされ、挙げ句の果てに殺されて、誰も知らないままにダストシュート。
 
 だから子供を利用する大人が嫌いだ。
 己の利の為だけに、子供に選択を強いる大人が嫌いだ。

ブルー・ディキンソン :
 ……。

ブルー・ディキンソン :
 本人が、どう思うにせよ、だ。

ブルー・ディキンソン :
 よく思う。
 犠牲を強いる行為が、世界にとって必要だからするのか。
 それが尊いものであるとされるから実行するのか。
 それを選択する子供の精神は、果たして本当に子供のそれだと言えるのか。

 ……答えが出たことはない。
 なにせ他人だ、他人の考えてることなんざ、わからん。

ブルー・ディキンソン :
 少なくとも……。

ブルー・ディキンソン :
 幾つかあった『理由』の欄に、もう一個書き加えられた。
 『シャンバラ』を潰すこと。
 シンプル明快だ、あたしにとっては居心地のいい。

ブルー・ディキンソン :
 色々耳を澄ませる。
 あくまで目を盗んでいるからとはいえ……ここまで何もないと逆に不気味だ。
 あるいは何かが起きているのかもしれないが。
 後者であることを祈りながら、スキップでもして帰るとしよう。

ブルー・ディキンソン :
「───あ」

ブルー・ディキンソン :
 いけない、いけない。
 一個忘れてた。

ブルー・ディキンソン :
「ラブレターでも、置いてってやるか! アハ!」

 そうしてライちゃんを振るい、振るい。
 床に小さく──目敏いならば分かる程度の、自分の小さな似顔絵を刻み込む。
 横には小さく「LOVE」の、Lを反対にしたものを添えて。

ブルー・ディキンソン :
 逃げろ逃げろ!

  The Fugitive
 終わりなき逃亡のはじまりだ!

 ガンバロ!

SYSTEM :
 かくして、ブルーは危機一髪の局面を脱し、研究所を後にする。
 逃走途中、道中のスピーカーが警報を鳴らし始めるが既に後の祭りだ。
 スプライト
 霹靂の妖精は戯れのように、その姿を消していた。

 ──宣戦布告替わりとばかりの徴のみを残して。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :【check!】
 イベントシーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ブルー・ディキンソン :ん〜……。

ブルー・ディキンソン :な〜し!

GM :おっけえ~~ まあほぼソロシーンでしたからね

GM :さて……

GM :本来ならここで全PCの行動が終了、防衛判定に移る訳ですが

GM :一応確認だ、このラウンド内で大尉は〈ディメンションゲート〉を使用しない?

ダン・レイリー :ン。対象はロサンゼルスか…

ダン・レイリー :…いや。状況が変わった、今は使わない。折角のアドバンテージだが固執し過ぎてもな。

GM :流石に連勤は厳しいでしょうからな

GM :了解だ!では、予定通り防衛判定に移るぜ!

SYSTEM :
エリア内の全ユニットの判定が終了しました。
メインプロセスを終了します

SYSTEM :
-CLEANUP PROCESS-

SYSTEM :
各エリアのエネミーの行動を開始します。

GM :
前回同様にダイスバトルの時間なのだが…

GM :デトロイトはUGNの手で奪還に成功した!
シャンバラの敵兵は撤退している様子だ。
既に攻略済みマップでの防衛判定は行われないため

GM :デトロイト組は、おやすみだ!
ゆっくりやすみな

ダン・レイリー :デトロイト州で展開されていた作戦は一段落ということだな。改めてご苦労だった。

アトラ :やた~

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :小休止という所ですね。一先ずは皆、休んでください

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :はぁ~~い(ごろん

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル : 

ダン・レイリー :原因が真っ先に休暇とはな 
いや構わんが 今は

ナタリー・ガルシア :その間にショッピングですわ~~!!

アトラ :いやエンジョイし過ぎじゃない?

ナタリー・ガルシア :リフレッシュするときはきちんとリフレッシュする、諦めそうな時はそれが一番大事ですわ

ダン・レイリー :オンオフの切り替えだ 一月も臨戦態勢で持つメンタルを万人に期待するもんじゃないさ

ダン・レイリー :僕は打ち合わせがあるからこれで(直感的に危機を察知)

アトラ :はえ~

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :アトラも、彼女と積もる話があるのでは?

アトラ :……………

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :今のうちぐらいは普通に話しても、誰にも咎め立てられないと思いますが。

アトラ :う、うん そっちからそういう提案されるとは思ってなかったけど……

ナタリー・ガルシア :姉妹水入らずというやつですわね

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :まーまー、どうせ見納めなんだしぱーっと金遣おうよ

アトラ :ま~ あはは 確かにショッピングとかやる機会あるかもうわかんないし

GM :そしてニューオリンズでは、今回は留守番してたディアスが防衛に当たる…!

ディアス・マクレーン :そのためにずっといつメンでスタンバってたからな! 畜生!

ダン・レイリー :現場の指揮は任せたぞ 少尉

ディアス・マクレーン :アイアイサー! カミンスキー旅団だか何だか知らねえが、物量差ってやつを見せてやる!

ダン・レイリー :折角の権限もあるんだ。派手に使い倒していい、誰に喧嘩を売ったのか教えてやってくれ

ディアス・マクレーン :
メジャーアクション:【支援要請:空母機動部隊】
対象:ニューオリンズ強化猟兵部隊、OTH-24NS "カリギュラ"

効果:防衛判定を成功させる

SYSTEM :
判定に成功しました。
AREA:NEW ORLEANSの防衛に成功しました。

GM :のこすはロス!

GM :防衛戦つよつよマンが二人もいる上に、既にロスの戦闘はクリアしているため……
ポッ立ちの強化猟兵との判定勝負となります!

GM :勝ったな 風呂入ってくる

灰院鐘 :湯冷めには気を付けてね

GM :さあいくぜ……勝った気になるのは、まずはこっちの判定値を見てから言うんだな!!!

強化猟兵 :11dx+5 《アーマーピアシング弾》 (11DX10+5) > 8[1,2,2,2,3,4,5,5,6,8,8]+5 > 13

強化猟兵 :……

ブルー・ディキンソン :あらあら

GM :所詮クズはクズなのだぁ…

灰院鐘 :よし!素振りでいってみよう ブルーさんはゆっくり休んでて

紅 蘭芳 :む、無理しない……無理しなくてもいけそうじゃない? なんか

ブルー・ディキンソン :残業はしない主義で〜す

紅 蘭芳 :ガンバ!なんかいい感じに運が乗ってるよ今!

灰院鐘 :8dx+1 (8DX10+1) > 9[1,1,2,2,4,9,9,9]+1 > 10

紅 蘭芳 :で、でも駄目だったか……!C値の壁!!

灰院鐘 :功夫が足りなかったみたいだ

強化猟兵 :誰がてめぇなんか……
て゛め゛ぇ゛な゛ん゛か゛怖゛か゛ね゛ぇ゛ッ!

野郎ぶっ殺っしゃああああああ!!!

ブルー・ディキンソン :万能な考え方だナー

強化猟兵 :2d10+9 (2D10+9) > 16[7,9]+9 > 25

強化猟兵 :テメェはもう終わりだァ!!!

強化猟兵 :そのご立派な装甲値をブチ抜いてやる!

GM :この攻撃は……装甲値無視!分かりづらいけど!
装甲値を抜いてダメージを計算してネ

灰院鐘 :大丈夫! 穴が開くのはもう大分馴れたから!

灰院鐘 :ガードで受けよう。盾のガード値にスーツの効果を適用すると……

system :[ "ラフメタル"灰院鐘 ] HP : 58 → 50

強化猟兵 :あァりえないィ……

灰院鐘 :がんばりました

GM :なんてやつだァ……!

SYSTEM :
判定に成功しました。
AREA:LOS ANGELESの防衛に成功しました。

SYSTEM :

ブルー・ディキンソン :あら痛そ〜、カイくん応急処置するかい?

灰院鐘 :わあ、いいの? ありがとう!

灰院鐘 :というわけで、ブルーさんから応急キットをもらいました! さっそく使ってもいいかな

ブルー・ディキンソン :あたし運がいいからまだ無傷なんだよネー、どうぞどうぞ。

GM :問題ありません!

灰院鐘 :2d10 (2D10) > 14[10,4] > 14

system :[ "ラフメタル"灰院鐘 ] HP : 50 → 58

GM :うめえ~

ブルー・ディキンソン :MAX、いいじゃない。

灰院鐘 :いつでもばんぜん!

GM :なんてやつだァ……!

SYSTEM :
エリア内の全ユニットの防衛判定が終了しました。
クリンナッププロセスを終了します。




【MIDDLE ⑧ - Mission 2nd Phase】

SYSTEM :
【CAUTION!】

 イベントフラグを経過しました。
 イベントシーンを開始します。
 指定PC:アトラ、任意

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……

SYSTEM :
【MIDDLE ⑧ - Mission 2nd Phase】

登場PC: ALL
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 事件が開始して二週間が経過する。
 レネゲイズワームによる経済活動の停滞は、各支部の面々がカバーしているとはいえ徐々に表面化し始めている。
 幸いにも、或いは不幸にもと言うべきなのか……同時期にサブプライムローンの経済破綻から来る経済の停滞が、現在生じつつある現象の隠れ蓑として機能しているようだ。
 一刻を争う事態であることに変わりはないだろうが、そこからレネゲイドの存在の流出という事態にはまだ陥っていないようだ。

SYSTEM :
 しかし……確実にかのテロ組織を追い詰めていることは確かだ。デトロイトの奪還という吉報がその証拠であった。
 UGN本部は臨時で欧州支部からの応援を募り、支配者の去ったデトロイトに臨時で配置される運びとなった。幹部が陥落し、拠点としての機能を失ったデトロイトは、あちらが本腰を入れて侵攻してこない限りは再征服されることはない。

SYSTEM :
 その他、コードトーカーの潜伏地に関する情報も少しずつ収集出来ており、苦戦はすれど概ね順調にテロ組織の解体に王手をかけていた。
 
 であるからに、一同はブリーフィングのため拠点たるUGN本部ビルの会議室に身を寄せていた。
 デトロイトの攻略が成ったことで、敵の警戒も一層増していることだろう。それを踏まえての作戦会議という訳だ。

SYSTEM :
 …………だが。

 水無瀬とディアスを含め、テンペストの面子は出席していない。彼らの意志、という訳ではないようだ。
 その事について関係することを、込み入った事情があることをデトロイト入りした面子は知っているのだが……

SYSTEM :
 その事情とやらについても、これから紐解かれるだろう。
 一段階目が終了すると共に、新しい疑惑と、この事件の裏で進む何某かが少しずつヴェールを脱ぎ始めていた……

灰院鐘 :
「やあ、一週間ぶり! また会えてよかった!」

 募る疑惑も何のその。開口一番に再会を祝して、ずんずかと巨躯が入室する。

灰院鐘 :

灰院鐘 :choice[ナタリー,ダン,勇魚] (choice[ナタリー,ダン,勇魚]) > 勇魚

灰院鐘 :両手を広げて歩み寄ろう! ひさしぶり!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………」

 勇魚は珍しく、特に手で制することもしなかった。ただ一言

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「傷に障りますよ。
 ……こちらの確認が遅れたとはいえ、定時連絡が随分遅かったようですが」

 双方の距離が狭まった所で、鐘にのみ聞こえる声量でそっと囁く。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 特に拒否しないのは、彼女なりに気を遣っているところもあるのだろう。
 小さく口にしたのは、周りへ怪我の程度を悟らせないため。
 抱擁を受け入れるのも、疵の実態を触れて確かめようということだ。

灰院鐘 :
「う」

灰院鐘 :
「……たいしたことないよ。きちんと塞がってるし」

 ほら、と無事を示すように細い肩を抱えこむが、なんだか動きがぎこちない。

灰院鐘 :
「ただ……」

 潜めかけた声を、ふと引っ込める。

「……いや、これはちゃんと言っておこう」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……?」

灰院鐘 :
「テンペストのみんなと……アトラくんもまだ来てないんだね。うん、でも二人がいるなら先に話しておこう」

 と振り返って、視線をナタリーとダンへ。今度のハグは吉報と共に、と約束した青年がダンへ向かっていく様子はない。

ダン・レイリー :「先に? きみにしては改まった言い方だな」 

ナタリー・ガルシア :「……まさか、何かありましたの?出来れば嬉しい報告であれば心安らかに聞けるのですが」

ダン・レイリー :
 ・・・・
「悪い点数でも取ったか、と決めつけるのは良くないが。折角だ、先に聞かせてもらうよ」

 ………次は吉報と共に、という約束を交わした何時ぞやのことを思い出す。
 出だしの言葉と調子はまるで変わらなかったが、この少年は存外、自分の約束(または責任)を覚えておく性質だ。
 
 その様子で何気ない話一つして終わるとは思わないが、気負われ過ぎても次に関わるところである。

灰院鐘 :
「うん、実はね。"天刑府君"に会ったんだ」

紅 蘭芳 :
「あはははは……ばったりと、出くわしちゃいました……」

ダン・レイリー :「………」 デトロイトの名産について話した時と同じトーンで、なんて話をするんだ

ダン・レイリー :
 ともあれ。

「報告が遅れた理由はソレか………。
 僕の手落ちだ。ロサンゼルスにヤツがいるのは可能性以上ではなかったとはいえ、もっと強く警戒を割くべきだったな」

灰院鐘 :
「彼、とんでもなく強くて……まるで歯が立たなかった。取り逃したうえに見逃されるなんて、流石に嬉しい報告とは言えないね」

ナタリー・ガルシア :「そっ……それは、無事…師匠……」

午後から天気が変わる話でもするかのような雰囲気で放り込まれた爆弾に、なんと言ったらいいものか。
衝撃と、心配と、気遣いが口元で詰まって、全てが断片的な単語としてナタリーの口からこぼれ落ちた。

紅 蘭芳 :
「無事です!」

紅 蘭芳 :
「……何故か無事です!!」

灰院鐘 :
「ね~」なぜか、のあたりで顔を見合わせる

ダン・レイリー :
「ああ。
   ・・・・・・
 ───生きて帰れたのだな。ヤツから」

ダン・レイリー :
「疑問はあるが、そこは吉報だよ。
 嬉しくない報告などと言うもんじゃない」

ナタリー・ガルシア :「せ、師匠……鐘さん、無事なら、無事なら良いのですが……」

ここが会議の場でなければ、ぺたぺたと二人に触れに行ったのであろうことは想像に難くない。
というよりも、若干前のめりに、本当に二人がそこにいるのか確かめていた。

灰院鐘 :
「……ちょっと違うかな。生かして返された、って感じだったから」

ナタリー・ガルシア :「それは、メッセンジャーとして……ということでしょうか?」

ダン・レイリー :「そういうヤツじゃない。そうだな?」

灰院鐘 :
「無事だよ、ほら」

 ナタリーの前へ立たせるように、紅の背を押して。

紅 蘭芳 :
「そんな様子もなかったかなぁ。
 本当に理由なく、というか……」

ナタリー・ガルシア :とりあえず、目の前の紅の手を両手でにぎにぎする。

紅 蘭芳 :
「うわっとっとと……うん、私も無事だよ。ナタリーちゃんこそお疲れ様!」

 前に出て、顔を合わせるように屈んで

灰院鐘 :「うん。ほんとに、ただの気まぐれみたいに……でも理由は分からないでもないんだ」

ダン・レイリー :
「聞かせてくれるか」

 ヤツが見逃すとすれば、その時ではなかった時だけだ。少なくとも僕はそう思っている。
 ………一度狙った獲物を反故にするような性格じゃない、などという話にも、反例がある。

ナタリー・ガルシア :「……は、はい、師匠との特訓のお陰でなんとかなりましたわ。本当に、お互いに無事で良かったですわ」

灰院鐘 :
          ジャーム
「……彼、自分のことを神魔だって」

紅 蘭芳 :
「…………」
 横でその話題が出た折、その表情が曇るのを紅は隠しきることが出来なかったようだ。
 つい、物憂げな表情を浮かべてしまう

ダン・レイリー :「そうだろうな」 嘆息。 

ナタリー・ガルシア :「確かに、刃のような方でした……けれど」

チラリ、と気づかうように紅を盗み見る。
それが意味をすることは、つまり、此方のような丸い収め方を出来ないということでもある。

ダン・レイリー :
「………。妙な話ではある。
 コレと決めたコトを翻す余地があるなら、ジャームなどやってはいられん」

ダン・レイリー :
「だが………。

 ヤツは自分から、そういう生き方を択んだ者の眼だった。少なくとも嘗てはそうで、今も変わりはない。
 そういう人間に退路はないよ。留まることはあっても、振り返ることは決して」

 それを、望んだのかどうかはともかく。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……あくまで自称に過ぎないという可能性もありますが……余り、そちらの可能性は期待できないかも知れません」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ただジャームというものは、基本的にロイス……
 非ジャーム前のロイスの残り香を寄る辺に行動することがあることは有名です」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「そういうコトがない、とは言い切れません。
 彼の巡り合わせに関わる何か……その琴線に触れたのかもしれません」

 その深い事情については、直接彼を見たことのない勇魚が語れることはない。そう判断して、飽く迄一般論を語るにとどめた。

灰院鐘 :「……そんな気がするよ」

灰院鐘 :
「…………」

 投げかけられた言葉のいくつかを想起して──思考の外に追いやってから、

灰院鐘 :「おかげで戦い方の一端を見れたのはよかった」

ダン・レイリー :「…ショウ」

ナタリー・ガルシア :「……それよりも私は、お二人が無事だったことのほうが“よかった”ことですわ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ナタリーの言う通りです。
 ……どうあれ生還した。それ以上の吉報はありません」

ダン・レイリー :
「言いたいことは先に言われたが………。
 命令だ」

    ポーン
「自分を犠牲駒めいて喩えるのは止せ。
 死を覚悟することと、命を擲つことは違う」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……生きて帰らねば、反省も出来ませんから」

じと。

ナタリー・ガルシア :「ま、まあまあ、今は無事だったことを喜ぶ場ですわ!その上、情報も持ち帰ったのなら、大戦果ですし」

紅 蘭芳 :
「そ、そうそう! 情報も持ち帰って巧く生き延びた訳だし! 寧ろ大戦果では!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「あなたのことも言ってるんですよ」

紅 蘭芳 :
「ぐぎ……」

灰院鐘 :
「大丈夫だよ。そんなつもりは特にないし」

「生きるとか死ぬとか、あんまり考えたことはないんだ。頑丈ってらくでいいね」

灰院鐘 :
「……確かに反省はだいじだ。僕が飛び出したせいで、紅さんを危険な目に遭わせてしまった」

灰院鐘 :
「ごめんね」

ダン・レイリー :
「そうだな。
 顧みなければ、同じ過ちを繰り返すだけだ」

ダン・レイリー :
「………だがな、ショウ。
 その反省のためにこれだけは言っておくぞ」

ダン・レイリー :
 ………小さく嘆息する。
 敢えて強めの言葉を択んで使う。

 彼の反省は、あくまで他人への反省だ。
 自分の行いが他人を巻き込んだという事実に対する反省だった。

ダン・レイリー :
「きみがその頑丈さに驕れば、
 瑕を負うのはきみ以外だと思え」

 戦場では良いヤツから先に死ぬ。
 彼はそういうヤツで、その自分が死んだことの影響が頭から抜け落ちているようにすら見えた。

ダン・レイリー :それ以上を言う気はない。後は“よく戻った”と付け加えるだけだ。二度目はそもそも作らせない。

灰院鐘 :
「……うん、すごく痛感した。一撃でやられるなんて、久々だったし」

 耐えて、治す。
 死にさえしなければ後はどうにでもなる。その"後"を誰かに繋ぐことが、今の彼に与えられた役割だ。

 ……元との戦いでは役割を全うできなかった。絶対的な力量差を差し引いても、驕りがあったことは否めない。

灰院鐘 :
「……あれ」

灰院鐘 :
「……? ……」

灰院鐘 :
「…………」

 むぐ、と難しい顔をして黙り込む。
 ・・・・
 そういう話をしているのではないと彼なりに気付いたらしいが、そこで躓いている。

灰院鐘 :
 ──かと思えば。
 よく戻った、の一言にぱっと顔を上げて。

「じゃあ、せっかくだから」

 いいだろうか、と両腕を広げる。

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :

ダン・レイリー :
「まったく。
 聞きたい言葉から捉えるんじゃない」

ダン・レイリー :
 ………これでは初めの俺が懐いた懸念も、わけを話せば納得してもらえるのではないか。
 ショウを見るたび、幾度かこの自問自答は続いている。その結論も然程変わらない。

ダン・レイリー :
 意図を理解しても、呑み込むための言葉に惑った───ように見える───この少年が。
 僕の“この話はおしまい”に乗った理由を量るつもりはない。あるいは、そもそも理由もないんだろう。

 軽い嘆息。

ダン・レイリー :
「だが吉報で帰って来る約束だったな。
 そこはいい。良く果たした。今は及第点にしておく」 

ダン・レイリー :
「二度目を逸らないこと。二度目があれば、鼻を明かしてやること。
 約束できるね」 

ダン・レイリー :僕の側から迎え入れることはしなかったが、応じる姿勢だけは取った。要は『約束できるなら来い』だ。

灰院鐘 :
「もちろん!」

 ほんとに分かっているのか、ちょっと疑わしい早さで応じる。……とはいえ。いろいろ欠けてはいるが、その素直さは彼の取り柄だ。

 理解できることも、そうでないことも。彼なりに受けとめて、懐におさめている。

灰院鐘 :
 その蓄積は、決して無にはならない。彼に自覚があろうと、なかろうと。……いや、どだい若人なんてそんなもの。先に不安を見出せるのは、既に通過した先人の特権だ。

灰院鐘 :
 で──
 許可が降りれば遠慮がないのは、果たして長短どちらなのか。どっ……と余韻が残りそうな勢いで飛びついて、背中に回した腕にぎゅう~と力をこめる。

ダン・レイリー :
 元気の良い、それこそ学生でも相手にするような感覚に陥りそうになる反応を、苦笑いもそこそこに受け止める。

ダン・レイリー :
 敢えて言うなら………これこそが“ラクシャーサ”の“あいさつ”に僕が動じなかった理由だった。

「よろしい」

 体格としては自分を上回る少年が、軍人という緩衝材に甘えて全力でやって来る。おくびにも出さないが、結構なパワーだ。大人というやつはそれにも見栄を張る。

 それに、ひとしきりショウが満足する頃には、“彼女”の心の準備も済んでいるだろう。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………」

 やれやれ、という様子で腕を組み、椅子に腰かける。
 一通り言うべきことはダンが言った。足りない分や蛇足は、後で付け加えればいい
 それより……まだ来ていない二人についてだ

紅 蘭芳 :
「そういえば……」

 まだ来てない子も二人ほど、というか。
 テンペストの面子もまだだ。やけに欠員が多い。
 微笑ましく鐘の様子を見ていた紅は、ふと思い出したように周囲を見渡す。

灰院鐘 :
ありがとうございました! とほくほく顔で解放してから、
「ところでアトラくんは? ブルーさんとはこっちに着くまでは一緒だったけど……」

ダン・レイリー :
    Sure.
 どういたしまして。

ダン・レイリー :それから…。

ダン・レイリー :「そのことについてだが」

ダン・レイリー :
「其方は来る。問題ない」

 それから。
 恐らくは疑問を持たれた内容について、
 先手を打っておく。

ダン・レイリー :
「マクレーン少尉以下、テンペストの各員はルイジアナ防衛の事後処理に当たっている。もとよりそういう配置だったからな。
 確定した事への連絡は僕が行う。心配は無用だよ」

灰院鐘 :「わあ、おつかれさまだ! がんばって、って伝えておいて」

ダン・レイリー :「よく伝えておこう」

ダン・レイリー :どういう返しが来るかの想像はつくが…その辺りの楽観は後にしておくか。 

アトラ :
 ……話すことがある、と言った。自分の口で。他のみんなにも、とも……まあ、言われた。
 都合のいいことに、……と言うより、量ってもらってのことか、メンバーもそう多くなく。
 他の報告も込みでの会議だ。名目としては十分。だが。

アトラ :
(ちょっと間を開けると決意って鈍るもんだとはいうけど、こんな感じで実感しちゃうとはな~)

 そう。端的に言って、今、緊張と怯えが出ている。
 出ているが、言い出したことをやらないのはもっと気分が悪いから。
 そっと、扉の前に立ち。

アトラ :
「ど、ども~……思ったより遅れちゃったかな……」

 適当に繕う元気と言い訳も思いつかなかったので。
 一旦は緊張その他を隠してない雰囲気で現れることにした。

灰院鐘 :「!」

灰院鐘 :
「ひさしぶり! 元気そうでよかった。僕も元気だ! 再会を祝して、どうかな」
 何を──とは問うまでもない。待ちきれずに広げた両腕が、すべてを物語っている。

ブルー・ディキンソン :「ぐゅっ!!」
 気まずそうに入ったトラちゃんと、それを嬉しそうに両手を広げて出迎えるカイくんを、真横の視界で眺めている。
 何故か倒れている。ドアの前で。

ダン・レイリー :

「問題ないよ。
 幾らでもあるわけじゃないが、1分1秒を争うほど時間も器が小さくない」

 遅刻の事例は2回目だからな、と言えば、
 恐らく紅さんの背中がさらに小さくなることは想像に難くない。止めておこう。 

ダン・レイリー :………で。そこで何故かあおむけ…うつ伏せ…どちらだ? 倒れているブルーを拾いに行くか。

ダン・レイリー :
「よく戻った“雷霆精”。
 それはアレか。リアクション待ちか?」

紅 蘭芳 :
「あ、アトラちゃんと……」

アトラ :
「ショーさんもお元気そうで……う、うす」

 以前のときとは違う、何となく乗り気とは言い難い顔をしている。
 と、何か潰れるような声。ちょっと驚く。

紅 蘭芳 :
「……どしたの? 行き倒れ?
 よくやるよくやる」

ダン・レイリー :「会議中にそれをよくやっては査定に響きそうだな」

灰院鐘 :
「……?」

灰院鐘 :
「元気……じゃなさそうだ。また今度お願いしよう」

灰院鐘 :
「理由は聞いても大丈夫──あれ?」

灰院鐘 :
「ブルーさんだ。さっきぶり」
 はいどうぞ、と手を差し伸べる。

アトラ :
「……その、まあ。
 大丈夫。その話するための気持ち固めてたからちょっと遅刻したっていうか……そんな感じでして……」

 引き下がる相手を見てほんの少し申し訳なさそうな表情を浮かべ、視線を行き倒れている女性の方へと移す。

ブルー・ディキンソン :「よっすカイくんさっきぶりぃ〜……っと、ありがとネ」

 キャプテンにペコペコしながら、カイくんの差し伸べた手をとってさっさと立ち上がる。

「いやあ、リアクション待ちっていうか。
 ほらカイくんも言った通り、トラちゃんに元気なさそうだったから」

ブルー・ディキンソン :
「後ろから」

ブルー・ディキンソン :
「こう」
 両手をぐわ、っとあげて。

ブルー・ディキンソン :
「わーっ、って」

紅 蘭芳 :
「それでずでーん、と」

ダン・レイリー :「きみの気遣いが独特なことは分かった」

ブルー・ディキンソン :
「そ、タイミングズレちゃった☆」

アトラ :
「オーウ……」

 ウチのせいだった。ごめん。ごめんかな……?

灰院鐘 :「ワーオ……」

ダン・レイリー :
 こういう時、テンペストの奴がやったなら“笑ってやってくれ、それが一番だ”で片付くんだが。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……まあ、全員無事に揃ったので、よしとしましょう」

ブルー・ディキンソン :「ワハハ!」

ダン・レイリー :
「ああ。
 こうして扉を開けたということは、そう受け取っていいか。“T³”」

アトラ :
「うす」

ダン・レイリー :「ン。二言を翻す情けない真似はしないつもりだ」

ダン・レイリー :後は何も言わない。そのことについては、僕から振ることもしない。そうすると決めて来たのであれば。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……分かりました。
 アトラがそのつもりで来たならば、私も静かにそれを訊こうと思います」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 語る勇魚の面持ちは少し落ち込んでいた。
 『遺産』の齎す悲劇の多くを、彼女は知っているからだろうか。

灰院鐘 :
「……」
 両者の反応をじっと見つめたあと、アトラに向き直る。

灰院鐘 :
「気軽にどうぞ、とは言えそうにないね。でも……」

灰院鐘 :
「君が勇気を出して踏みだす一歩を、僕は受けとめたいと思うよ」

アトラ :
「…… ……」

アトラ :
 深呼吸。のち、ちょっと気合でも入れるように自分の両頬を叩き。
 事情を少しでも察している人たちからは、見守るような視線を感じる。
 見回してみても居ないレイラのことを少し気にしつつ、今一度深呼吸をして。

アトラ :

「……よし。
 ありがとうございます。んで……話す前に、一回謝っときます。ごめんなさい。
 あ、いや、騙してたとかじゃないんですけど。言ってなかったこと、あったから。
 ……ウチのこととか、あの人のこととか、ウチの目的とか。色々話してないことあるし」

 話そうとしていることに絡む話でもあるし。

ダン・レイリー :
「承知の上だった」
 
 だから気にするな───以上、返答。
 僕からは頷くのみに留める。
 後の言うべきことは、話の後、結論と共に言う。

灰院鐘 :「あの人……ああ」

ブルー・ディキンソン :自覚するほどうるさい口を、今は黙らせる。

紅 蘭芳 :
「目的って……」
 手が足りないので、と手を貸してくれる親切な隣人……
と頭から思っていたわけではなかった紅だが、さりとてその理由について今畏まって明かさねばならない理由があるのか。
 一瞬、口にし掛けて押し黙る。

灰院鐘 :「大丈夫だよ。僕だってそうだし」

「だから気にしないで……ってわけじゃないけど。そもそも君に事情があると分かったうえで手を借りてたんだしね」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……あまりお互い様、と言えるかまだ不確定ではありますが」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「我々はどのような事情であれ、あなたを味方する。此処がそういう組織であると信じています。
 少なくとも、私個人としては。より添える限界まで、そうするつもりです」

灰院鐘 :
「……うん」

 友の言葉を、

灰院鐘 :
「結局のところ、僕がしたいのもそれだ。"守護者"として、僕自身の意思として」

アトラ :
「……」

 重ねて感謝の意を込めて頷き。
 少し楽になった。なった分、話した後のことを想像してちょっと苦しい。
 苦しいが……これはケジメだ。私個人としても、彼女の“狙い”に付き合わせることになることに対しても。

アトラ :
「よし。
 ……ほんじゃ、順を追って話すとちょ~っと遡ることになっちゃうんですけど……行きます」

 だから、言ってしまう。
 どう転ぶか分からないけど。言われたように、「最悪置いてもらえなくなる」ことになっても仕方ないことだし。

アトラ :RHO開示要求!しちゃいます!……かな?

GM :
良いでしょう…

SYSTEM :
【Unlock!】

 RHO④のRHO開示宣言を確認しました。

SYSTEM :
 ──そこは、今は名すら忘れ去られた村。
 白い雪の降り積もり、止むことのないアフガンの小さな村。

 移民たちで出来た"雪の止まない村"。
 ……五年前から、ずっと。
   その故郷には、死の雪が降り続けている……

SYSTEM :
Rハンドアウト/Vector-運び屋-
 ロイス:レイラ 推奨感情:P純愛/N憎悪
 推奨Dロイス:対抗種

あなたは五年前、アフガン北東のパンジシールの「雪の止まない村」で起きた事件の被害者である。
あなたはそこで米軍の兵器実験に巻き込まれ、殺人ウイルスに感染してしまった。

その実態は分からない。
判ることは、自分の体内が徐々に結晶化していくということ。
そしてあなたの内に宿るものは、あらゆるオーヴァードを結晶化させ殺しうるものだということだ。
勿論あなた自身も然り。あなたの周りも然り。
あなたの近くにいる者は、一人を除いて誰もが死病に掛かり死に果てた。
            Vecter
そしてあなたは、それの『運び屋』となり果ててしまったのだ。

『ラクシャーサ』……レイラは自分と同じ生き残りで、同じ罹患者である彼女だけが、幼いあなたと寄り添うことが出来た。
今の貴方と彼女は、最早死のウイルスを振りまく媒体に他ならない。
あらゆるものを殺す力を持つ反面、抗生物質の注射を打たなければその体は一年と持たない。
挙句、その由来からCIAに命を狙われる日々。

あなたを殺処分にやってきたCIAから守り、生き方を教えてくれたのが、彼女だ。
そして彼女は、ある時あなたに向けて十分な数の抗生剤を残して去ってしまった。

あなたが旅をしているのは、目的は兎も角理由としては一つ、同じ場所に留まっていてはそこを死の地に変えてしまうからだ。
そして、その兆候は加速の一途をたどり、抗生物質の摂取では止められない速度に達しつつある。
恐らくレイラは、自分を捨て置いた理由と、この蝕みゆく体をとどめる方法を知ったに違いない。
問わねばならない。その真相を。

※あなたにはプレイ開始時点で『予告された終焉』が発動している。
特定の条件を満たさないままエンディングに突入した場合、そのキャラクターはEロイスの効果を受けてロストする。

SYSTEM :─── □ ■ □ ───




【HOシーン④:Vector-運び屋-】

SYSTEM :
【HOシーン④:Vector-運び屋-】

SYSTEM :
 ……五年前。
 富裕層の思惑と扇動された報復の怒りによって戦火が燃え上がった山岳地帯。
 報復措置と核兵器の潜在という口実の元で始められた対テロ戦争の、泥沼のような長い撤退戦が始まろうとする頃。

 当時、子供に過ぎなかったあなたはそんなことなどを知る筈もないままに、あなたたちは日々を過ごしていた。
 

SYSTEM :
 アフガニスタン北東部、パンジシール州の峡谷の辺境に、その村はあった。
 その名前を、あなたは最早覚えていないし、思い出すための記録も残っていなかった。
 そもそもからして当時は、文字の読み書きも最低限出来る程度だったのだから当然か。

 人口は約200人前後。
 州都バザラックからやや離れた谷あいの小さな村。
 あなたは、そこで暮らしていた。
 

SYSTEM :
 パンジシールは当時戦時中であったが、アフガニスタンにおいても比較的平和な場所として有名だった。
 米国の樹立した傀儡政権と、彼らが進駐したISAFの庇護下にあった彼らは、他の地域と比べて安寧を享受し、物資の面でも支援を受けることが出来ていた。
 この村も、その恩恵に与っていた。
 
 村は峡谷にありながら、交流が頻繁に行われた開かれた地であった。
 少なくとも、ここに争いの胤はない。

SYSTEM :
 あなたたちは、そこで日々を過ごした。
 まだラクシャーサが、そう呼ばれていない頃のことだ。
 彼女が後からやってきたのか、アトラの家族が後からやってきたのか。今となってはよく覚えてなどいないが、移民の多い村だったことは思い出せただろう。
 彼女たちは友と呼ぶほどに親しくはなかったが、決して仲が悪かったわけでもない。

 小さな村だからこそだろう。人々の繋がりは密接なものだった。
 血の繋がりをなしにして、子供たちは揃って都市のバザラックに向けて買い出しに向かっていたことを思い出す。
 ことに米兵が語り聞かせる本国の話を聞くのを毎日楽しみにしていた。あの首から提げた銃を握らせてほしいと、もう顔も思い出せない男の子もいたと、朧げに追憶される。

SYSTEM :
 ……場所や時代が違っても、日常の在り方は変わらない。
 それは間違いなくあなたにとっての日常で。原風景の一つだった。

 恵まれてはいなかったが、暮らしに不都合はなく、彼らはゆっくりと流れる刻を過ごし続けていた。
 その暮らしが失われることを、想像すらできなかったほどに。
 

SYSTEM :
 ……その日は、雪が降っていた。
 山岳地帯の気候は変わりやすい。雪が降ることは、多くは灌漑生活を営む彼らにとって厄介事だ。
 大人たちがぼやく中、しかしあなたは外へ出た。
 

SYSTEM :
 動機は何であっただろうか。雪を見るのも久しぶりだから、という理由だったかもしれないし、親に畑の様子を見てこいと命じられたからかもしれない。
 けれど外に出たあなたの目に飛び込んでくるものは。
     レイラ
 まるで、夜空が振ってきたように、輝く結晶の雪だった。

 音もなく、寒気もない。
 降り注ぐ幻想的な結晶の中、その正体が何であるかも分からないままに。あなたは、それをもろに浴びながら……静かに魅せられていた。

“少女”アトラ :
 昔のこと。
 とは言っても、遡るのは五年。長いか短いかは人によるような時間だ。
 少なくとも、この世に生まれて17年ほど生きた自分にとっては人生の三分の一程度を占める時間になるから……多分、長い。
 長短の話で言うなら、そこからが一番“長い”んだけども。これは、そういう部分に触れる話で。

“少女”アトラ :
 朧気ながらに覚えているのは、“故郷”と言っても差し支えない……きっと、居心地の悪くはなかった村の暮らし。
 そこで生きる、両親を含んだ人々。壁がない故に家族に等しい繋がりたち。
 そして。何よりも忘れ難い、ある種での契機の日。

“少女”アトラ :
「ほ~わぁ」

“少女”アトラ :
 白銀が降り落ちる景色は、嫌いではなかった。
 それもきっと、難しいことを難しく考え出せる前の……所謂子ども時分であったからだろう、とは思う。
 ただ、自分は今それを享受できる立場にある。……そんなことまで考えていたはずもないが。
 きらきら輝く結晶を、負けないくらい輝く瞳で、表情で受け止めていた。
 浮かぶ感想はどれも陳腐だから、感嘆しか声に出せない。

SYSTEM :
 暫し魅せられたように、あなたはその大地の中で立ち続けた。
 空は気が付けば、ゆっくりと日が沈み、満点に夜空が広がりつつあった。
 きっと、空を夜のとばりが降りれば、さぞや美しい景色になるに違いない。

 けれど……

SYSTEM :
 その時は腹の虫が鳴る程度のことだっただろう。
 非日常から日常に引き戻すのは、何時だとてそのような感情だった。
 
 あなたは、振り返った。
 村の方へと、日常へ還るために振り返った。

 ──或いはそれが、劫罰の始まりだった。
 まるで伝説をなぞるように。

SYSTEM :
 振り返り、家路についたあなたを待ち受けていたものは、何もなかった。
 子供たちの声も、ラジオを頑張って訊こうとしている父親も、夕餉の準備を進める母親の姿も。
 寝静まったように、村から音のすべてが消えていた。
 家の中であなたはその姿を目で捜すが、何も見当たらない。
 

SYSTEM :
 そこにあったのは氷柱ばかりだった。
 触れても、決して冷たさを感じない、とても分厚い氷の壁のような物ばかりが、そこには屹立していた。

 きっと家を間違えたのだろう。……そんなことなぞあるはずもないであろうに、漠然とした不安だけが少しずつ膨れ上がる中家を出て、再び村を見て回る

SYSTEM :
 景色は変わらなかった。
 昼間に仕事を手伝った両親も。
 二日ほど前に買い出しに一緒に出た子たちも。
 どこにも、その姿は見られなかった。

“少女”アトラ :
 どうなるんだろう。止む気配はないし、このまま積もったりするんだろうか。
 きっと夜に輝く雪も、きれいだ。難しいこと、村のこと……そういうのは、一旦置いといて。
 皆も今日の、ほんのひと時くらいはこの景色でも見ればいいのに。
 そんなことを、考えながら。振り返り、辿り着いた場所には───……あるはずのものが、いるはずの人たちがいない。

“少女”アトラ :
(……あれ?)

 顔を突き合わせて、天候を鑑みて今後のことを話し合っている……という、雰囲気も無い。
 何せ人の音がしない。……どうしたというのか。歩き回っても、知っている景色に知っているはずの人たちはいない。

SYSTEM :
 きっと降雪の対策について話し合っているだろう大人たちの声の代わりに、あなたに語り掛けたのは別の声だった。
 不安げに見渡すあなたに向けて、家屋から出てきた一人の少女は語り掛ける。
 小麦色の肌と、黒い長髪をした、あなたより幾らか年上の少女。やはり、顔は思い出せない。

レイラ :
「逃げよっか」

 少女は、それだけ告げて、あなたの手を引く。

“少女”アトラ :「あえっ」

レイラ :
「此処じゃない何処か。
 今なら、ほら、下に降りても誰も怒ったりしないし」

“少女”アトラ :
「えっ えっ?でも……」

 他のみんなは?父は?母は?手を引かれたまま、不安の色だけは滲み出る。

レイラ :
「大丈夫!!」

 もう片方の手で、その小さな肩をがっしりと掴んだ。
 朗らかに笑う……笑うつもりの強張った表情で、彼女は捲し立てるように続ける。きっと、用意してきた言葉だったのだろう。
 
「ご飯ならあたしが作ってあげる!
 お金だってこんなにある! 
 街の人とはあたし仲が良いし泊まるアテもきちんとある!
 街まで行くのが疲れるなら、おんぶしたげる!」

レイラ :
「だから行こ! きっと、皆も街の方に降りていったかもしれないし……!」

 触れた手も声も、酷く震えていた。
 声も空元気なのが透けて見えるように、不自然に明るかった。
 それは。
 どちらかと言うと、縋るような趣さえあった。

“少女”アトラ :
 びく、と。手を引く彼女に肩を掴まれる、少し怯む。
 その表情は、狭いコミュニティで生きていた自分でも分かる程度には「自然」を感じられるものではなく。
 続けて出る言葉だって、強がりなのか何なのか。
 半ば縋るような声音に、少女は頷くことしかできない。

“少女”アトラ :
「う、うん。分かった、分かったけど……変な雪のせいかなあ」

 何も知らない。気付いてはいない。
 自分も子どもだが、自分の手を引いている彼女だって大人じゃない。
 でっかい柱がいっぱいあった。あんなものが出来るような異常気象だから、みんな避難した……のかな?分からないから、疑問だけが声に乗る。

レイラ :
「大丈夫……きっと大丈夫だから……!」
 
 レイラは、アトラの手を固く繋いで。まだ状況を呑めていない彼女と共に、その村を出た。

 それは、まるで逃げるような足取りだった。
 この時には、既にレイラは薄らと気付いていたのだろう。
 子供というものは、概して大人の想像より敏く。過程や道理を置いて、まず正確に本質だけを見抜くこともある。

SYSTEM :
 どういう理由かなど分からないが。
 もう、誰も此処にはおらず。きっと、二度と逢うこともない。
 
 だがレイラは、それを見た気がした。
 ──あの氷の柱を覗き込んだ先。その奥に、何も理解しないまま、怯えた顔だけを浮かべてこちらを見つめる、家族の死相を。

SYSTEM :
 ──それが。
 後に"雪の止まない村"と呼ばれ、パンジシールの奥地にて封鎖される村の、顛末だった。

 一夜にして村民全員が忽然と姿を消し、その跡地は気候変動の影響か、或いはアフガニスタン戦争にてソビエト連邦の遺した不発弾が大量に発見されたと説明された。
 村民は避難したと、政府は街の人間に説明したが、それを信用する者がどれだけいたか。誰も訴追しなかったのは、日々の営みの険しさの中で押し流された故だろう。

 村のことを知るものは、今や当事者と。
 ・・・・・・・
 事態の主犯だけだった。

SYSTEM :
 まだ何も知らず、覚悟と呼べるものも定まらず。
 訳も分からないまま、二人の少女は村を出る。

  ア ル ニ ラ ム
 オリオン座の星が雲一つない空に瞬く深い夜のことだった。
 二人の旅が始まった日だった。

 けれどどれだけ輝こうとも、星灯りは、太陽程に足元を照らしてはくれない。寄り添い合って尚も、その身に刻んだ傷痕を知るのは己一人だった。
 それは旅とは名ばかりの……世界からの追放だった。

SYSTEM :
 二人は都にまで降りてきた。
 不思議と、疲れは感じなかった。
 どれだけ歩いても疲れない。裸足になって歩いても、擦り傷がいつの間にか閉じている。
 夜道、岩山をろくに見えないまま降りて進むことが出来たのも、きっとそのおかげかもしれない。
 そればかりか、心持ちと裏腹に力が湧いてくるようだった。
 

SYSTEM :
 後に分かったことだが。先のことがきっかけで、アトラは潜在能力が目覚め。レイラは感染する形で、その力を見出したという。
 それは不幸中の幸いと言うべきだったのか。……少なくとも、当事者二人は決してそうと語ることはないだろうが。

 街に降りてきた二人は、レイラの両親のツテで親戚の親元に泊めてもらうことになった。
 アテがあるという言葉は一応は本当だったのだろう。懸命に頭を下げた彼女の必死さに折れた親戚は、狐につままれた様子で二人を家にあげた。
 

“少女”アトラ :
 不思議なこともあるもので。
 人間、追い詰められるとどうとでもできる───……なんて簡単な話には、ならないが。
 それでも、街に辿り着くのに不自然な程苦労が無かったのは事実になった。その時点では、意識するような余裕もないことだ。

 結果、二人。
 レイラのツテ……親戚だったのだろうか。兎も角、家に辿り着くことが出来た。
 快い承諾という風には見えなかったが。不安の色は隠さないまま、手を引いてくれた彼女に付き従う形でその場に収まる。収まってしまう。

“少女”アトラ :
「……」

 それでも。最低でも、歩き通すよりはマシな、腰を落ち着ける場所に辿り着けたことは僥倖で。
 落ち着いたことで、余計なことを考える暇だって生まれる。だって、自分にとっては何も……何も、解決している問題がない。

レイラ :
「ね、なんとかなったでしょ!」

 終始無理をしている、という様子の少女の顔から少しだけ余裕が戻る。肉体的疲労より、遥かに精神的疲労が勝っている。そんな様子で、彼女はひどく汗をかいていた。

「皆どうしてるのかなあ。
 父さん母さん、まだ来てないって」

レイラ :
「でもちょっと得したかも!
 暫く街に出てなくてさ、日がな同じモノ食べてて飽き飽きしてたんだよね! いやあ、これからここで暮らすんだねえ! お夕飯何だと思う?」

“少女”アトラ :
「う、……うん。すごいね。ホントにおいてもらっちゃって」

 年上だから。お姉さんだから。そんな言葉で片付けられるものではないが、彼女の様子を見ながら頷く。
 頷いて、心配そうな表情を浮かべた。父親と母親。あの村にいたはずなのに、此処にも来てないらしい人たち思って、だけではなく。
 汗だくの年長者を、じっと見る。

“少女”アトラ :
「だいじょぶ?」

 ……自分だってあんまり大丈夫じゃないから、力強く手を引いてくれた彼女に少なからず押し流されることで付いてこれたんだけど。
 自分の不安とはまた別の不自然さがあるから、感情をそのまま声に出す。

レイラ :
「だっ……いじょうぶ! だよ、うん!
 うん……」

 当てられた小さな部屋の中、憔悴した様子でレイラは頷く。
 はたから見ても、無理をしているのは間違いなかった。それを隠せるほどの余裕も、レイラにはなかった。

レイラ :
「寧ろ、ちょっと余裕があるんだ。アトラぐらいはおんぶして山を降りれたぐらいにさ」

 ほら、と言って足の平を見せる。……実は素足であの岩山を降りて都まで降りてきたのであり、普通に考えて相当に擦り切れている筈が、疵一つない

レイラ :
「あ、でもお腹は空いてきたかも。ちょっと遅くに来ちゃったから、今ちょっと簡単なものを支度してるんだって」

“少女”アトラ :
「怒られちゃうよ、そういうの」

 分かり易いくらいに憔悴しているのに。そういう無理と嘘は、周りを心配させるだけなのだ。
 ……とも思うが、続けざまに出た言葉にはほんの少し押し黙る。それに関しては、感じるものがあったから。
 彼女がそうであるように、自分にも多少でもあるはずの傷や痛みが無いから。

“少女”アトラ :
「そーなの?そうなら……気になっちゃうなあ。お夕飯。
 わたしもね、雪降り出してからはずっと外居たから……実はちょっとお腹空いてて」

レイラ :
「う、ごめん……」

 笑って誤魔化す。少なくとも、今のレイラにはそれしかできなかった。
 下手な笑いだった。

「お腹が空いてそわそわしてきたのかも。
 お手伝いに行った方がいいかな?」

 などと……口にする傍らで。

SYSTEM :
 ふう、と背に凭れ掛かる。
 凭れ掛かった先で、壁越しに話し声が聞こえた。外の人間の話し声だろう。
 文字の読み書きは、まだできない。だが英語については、二人にも何となく意味が分かった。
 尤も、会話の内容はその時の二人には欠片も理解できないものであったのだが。

壁越しに、声が聞こえる。 :
「本当に、このあたりにまで因子の痕跡が?」

壁越しに、声が聞こえる。 :
「ああ。ワーディングを張られた様子はないんだが、血痕に付着した例の因子がこの付近で見られたらしい。
 拙いな、こりゃ都市部まで延びてるじゃないか。出口は塞いだはずなのに、どっから漏れたんだ?」

壁越しに、声が聞こえる。 :
「誰か勘付いて……巻き込まれる寸前に軽症の状態で此処まで体を引きずってきたのかもな」

壁越しに、声が聞こえる。 :
「おいおい、あんな荒れた道をか? しかもこんな夜中にだぞ」

壁越しに、声が聞こえる。 :
「わからん。とにかく、上に連絡だ。村民のリストも洗い直せ。
 件のウイルスの影響がこれ以上出るわけにはいかん」

壁越しに、声が聞こえる。 :
「だな。ったく、面倒な上に憂鬱な仕事を押し付けやがる……」
 

“少女”アトラ :
「…… ……」

レイラ :
「……、……」

レイラ :
「……だ、いじょうぶだよ、きっと」

“少女”アトラ :
「……う、うん」

SYSTEM :
 落ち着けるように何度も、レイラはその言葉を続ける。
 親戚の老夫婦は二人に対して親切に当たってくれた。子供二人の家出程度に思っているのだろう。
 ありあわせの簡単な料理を振舞われ、二人はそのまま床に就いた。

SYSTEM :
 ……朝。起きたら、親元に還してやろう。
 このやんちゃ娘たちめ。
 しかし説教は自分の役目ではないことを、老夫婦は識っていた。
 朝ご飯にはボラーニを焼いてあげよう。一緒に頭を下げるぐらいは、付き合ってやってもいいだろう。
 落ち着いて家が恋しくなる。そういうものだと思って、二人はあなた達を家においてくれた。

SYSTEM :
 ……だが。
 目覚めた時に、嗅ぎ付けたのは、パンの焼ける匂いとは程遠い……燃える硝煙の匂いだった。

SYSTEM :
 結論から言って。
 その晩、宿を取った街は、一夜にして廃墟となった。

SYSTEM :
 街の外から、しきりに聞こえる銃声と、砲撃の音が、直ちに街ごと消毒するために一つの街を焼いた。
 焼夷弾の雨が降り注ぎ、焼き、燃やし尽くしていく。
 

SYSTEM :
 彼らがそうすると決めた、決定的な要因は。
 老夫婦の失踪と共に、民家から現れた……塩の柱が原因だった。
 それが確認された段階で、現地で秘密工作に当たっていたCIAは、駐屯軍の指揮権を利用して、件の作戦を決行した。

 一木一草、逃してはならなかった。
 何故ならその街に逃げ込んだのは、一切を抹殺する未知の病原菌。そのキャリアーなのだから。

SYSTEM :
 一度漏れ出した病がどれだけの速度で感染し、どれだけの影響を及ぼすか。何を観戦源とし、感染経路とするのか、彼らはそのデータを知らない。 
 それを蒐集するための実験でもあった。だが、その情報を集める前に漏れ出てしまったとあらば……
 もしネズミ講にそれらが増えると仮定するなら、徹底的に潰しておかなければならない。

 飛沫感染、空気感染のリスクを考慮すれば……
 ・・・・・
 この街一つ、焼き尽くしてでも止めねばならなかった。

レイラ :
「あ、う……」

 硝煙の匂いと友に目覚めたあなたが目の当たりにしたのは。
 民家の屋根の下で震え、蹲るレイラと。
 何処かで観た屹立する塩の柱と。
 轟然と燃え盛る火の手だった。

 ……それは、懸命に取り繕った日常が、完全に燃え落ちるような景色だった。

“少女”アトラ :
 不穏な会話を耳にして、尚も気を落ち着けられたのは、置いてくれた家主たちの気立ての良さが故だった。
 ……ほんの少しの安心と、かすかに抱いた希望。それすら───……戦いの臭いが、覆い隠す。

 目覚め、最初に鼻腔を擽ったのは硝煙の匂い。
 目に映る景色は、火と廃屋。震えるレイラと、村にもあった結晶じみた柱。
 それら全てが押し寄せて来た故に、冷や水を浴びた以上の衝撃がある。

“少女”アトラ :
「ちょ、ちょ……ちょっと。大丈夫!?なにこれ、どうなってんの……!?」

 寝ぼけている……はずもなく。駆けるようにレイラのもとへ。

レイラ :
「わかんないよ……、わかるわけないでしょ……!!」

 恐慌状態のまま、レイラは叫んだ。

レイラ :
 何が起きているのか、何故こうなったか。
 ずっと抑え込んでいたものを無造作に吐き出しながら、レイラは叫んだ。

「父さんも母さんも爺も婆も、みんなこの中に閉じ込められた!
 兵隊のおっさん達は目の色変えてあちこちの家を襲ってる!

 こんなに暑くて痛いのに、どうして目が醒めないのよ……!」

“少女”アトラ :
「…… ……!」

 叫ぶ姿に、兆候がなかったわけじゃなかった。
 彼女は……少なくとも、私の手を引いてから、ずっと。不自然に、元気に振舞おうとしていたし。
 だから、その言葉を聞いて。

“少女”アトラ :
「う、…… ……うぅ」

 いやな想像は多分現実だ。結晶の柱は、昨晩からイヤに見ているわけで。
 恐慌に引き摺られるように涙が滲む。かけるべき適切な言葉も出ない。

レイラ :
「……っ、そうだった、泣いてる場合じゃない
 早く、早く逃げなきゃ……!」

 何処へ? とは、考えられなかった。少なくともレイラにそんな考えを回す余地などなかった。
 その言葉は、アトラの涙に意識が現実に引き戻されて口から咄嗟に出たものに過ぎなかった。

SYSTEM :
 ……視界の端に、白い結晶が躍る。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 彼女は無意識にワーディングを発していた。
 緊張状態に陥った、どちらかが。或いは両方が発動させていたのだろう。

 当時の彼女は、未だそんな能力を抑えられるような力もなければ。
 今に至るまで、それを完全に抑制できたことなどない。
 野放図に広げられた劫罰の世界は、すべて滅ぼし尽くすまで閉ざされることはなく。
 なればこそ、時間を置くごとに戦火は苛烈になる。

レイラ :
「アトラ、手を!
 早く此処から出ないと!」

 レイラは手を伸ばす。当てなどないままにその手を伸ばし、アトラの手を引こうとする。

“少女”アトラ :
「なんで、……こんなこと、……」

 何が悪いかも分からず、逃げ続ける必要があるのか。
 出掛けた言葉は、平静を取り戻したように見えるレイラの姿で飲み込まれる。
 どうしよう、何をすれば、などと。確かに考えている暇はない。差し出された手を見て、留まるようなことは出来なかった。

“少女”アトラ :
「……逃げられるの?あんな、武器持ったおとな、…… ……」

 不安は言葉になる。……なるが。
 差し出された手を離したくないから、力強く握りしめる。

レイラ :
「そんなの、わかんないよ! でもやるしかないじゃない!
 ……なんで、なんで……っ!」

 つい昨日まで、まるで玩具のようにソレに憧れていた男子がいたことを思い出す。その口から息吹を吹くまで、それは子供たちの英雄でいられた。
 ……それがこれほど恐ろしく感じたのは、きっと今日が初めてだった。

 手を取り、あてどなく逃げ出す。
 燃える街を、こけつまろびつ、走り続ける。

SYSTEM :
 だが、そこに。

 一発の焼夷弾が舞い込んだ。
 狙い済ましたわけではないのだろう。無造作に焼き殺し、浄化するための一発が偶然、二人の退路に叩き込まれた。

“少女”アトラ :「!」

SYSTEM :
 爆轟が炸裂する。
 避けられるはずもない、庇うことすらできない。
 まず眼が焼かれ、鼓膜が破れた。
 次いで皮膚が燃え爛れ、最後に吹き飛んだ瓦礫が体を引き裂いた。

 ──激痛が少女たちを襲う。
 それは人ならば、まず死んで間違いのないものだった。

レイラ :
 人ならば。
 まず死んで、間違いない。

「熱い」

 燃えさかる戦火に呑み込まれているのに。
 
「痛い」

 崩れた煉瓦の下敷きになったのに。

レイラ :
 少女は芋虫のように、瓦礫の下から這い出た。
       ・・・・
「死んでない……死ねないんだ、私たち」

 それが、平気でいられること。
 立ち上がれてしまえることが、自分たちの異常性を物語っていた。
 オーヴァードのリザレクト能力。
 基礎的な再生能力が、瞬く間に傷を治していた。

 仔細を知らずとも……既に自分たちがニンゲンとして扱われないモノだと。自覚するには十分な、衝撃だった。

“少女”アトラ :
 突然すぎる“死”に成す術などない。
 「人を殺す武器」が、災害めいて襲い来る。来て───……場ごと自分たちを焼き、裂いて。

 それで、終わる…… ……ことは、ない。それは自分だけでなく、彼女も同様だった。
 離すまいと掴んでいた手ごと吹き飛ばされようと、意思ひとつでそれを覆せる。

“少女”アトラ :
 ……こんなの。普通じゃない。
 そんなこと、状況を見ればそれだけで分かるのに。身を以て突き付けられたみたいで、胸が痛む。

「……だから、なの?
 わたしたち、もう人じゃないからこんなことなってんの?」

レイラ :
「違う!」

 血を吐きながら、間髪入れずにレイラは遮る。
 息が苦しい。
 胸の内が痛む。
 口から零れ落ちた血潮から、硝子のような異物が混ざっているのを、その時レイラは見た。

 少しずつ、分かりかけてくる。
 幼心にも、それは分かる。
 体の内を蝕む何かが、絶え間なく体を蝕んでいるということが。

レイラ :
「違うよ、アトラの所為じゃない!
 こんなの…私たちの所為であってたまるか!」

 互いの胸の内を蝕む者に気付きながら。

“少女”アトラ :
「でっ……でも、だって、じゃあ……」

レイラ :
「でもじゃない!!」

 鬼気迫る表情で、血を拭いながらレイラはアトラに向けて続ける。

「生きよう! 生きて、逃げ延びるんだよ!
 何を遣っても、誰を踏みつけても!
 誰も……誰も、悪くなんかないんだから!」

“少女”アトラ :
「う、……うん。……うん。
 わたしも、…… ……レイラも、一緒に?」

レイラ :
「うん、一緒……!
 私たちは、これから一緒に生きていくんだ。誰にも否定なんか、させない」

 しっかりと、少女の手を握る。傷付いた手が重なる。

“少女”アトラ :
「……う、ん。生きる、…… ……死にたく、ない」

 強く握る。不安げな表情は少し和らぐ。

レイラ :
「うん……うんっ」

 生きる希望などなかった。
 進むべき道行きなど見える筈もなかった。
 幼心に、『これ以上生きる術を探ったところで、探っただけどうしようもないことが分かるだけ』であることを、二人は無自覚に理解していた。

レイラ :
 或いはそれは二人であったがために続いた劫罰の放浪だったのか。
 二人、生き残ったが故に、生を望まれぬ者の放浪の旅が続いてしまったのだろう。

レイラ :
 雪の止まない村、及びにバザラック近郊の街一つが、その一日で滅び去った。
 滅び去った街のことは、多くの記録から抹消された。
     ラングレー
 それがC I Aの手によるもので。
 それら一連の一件が、当時雪の止まない村を実験場として利用した米軍の手によるものだったことを知ったのは、少し後のことだ。
 

SYSTEM :
 すべてを殺し尽くす、塩の柱を撒く者として。二人の当てのない旅が始まった。
 放浪と呼ぶべきそれは、決して生半な道のりではなかった。

SYSTEM :
 結局、検体の絶滅を確認できなかった米軍は二人を追い続けた。
 レネゲイドの扱いを覚えるまで、二人は絶え間なくCIAの追手に追われ続けた。

 たとえ彼らが来ずとも、抑えられない死の結晶はただ進むだけでその場所を死の大地へと変えた。
 人とのかかわりなど、望むべくもなかった。
 ──真実、心の休まる瞬間など一瞬もなかった。

SYSTEM :
 多くの人々と出逢った。
 決して出会いがないわけではなかった。
 その果ての多くが死別と裏切りで終わり、ほんの少しの安らぎがあった。
 
 同じ場所に留まることなど出来はしない。
 人に自らの素性や在り方を教えることなど出来はしない。
 真実は誰にも口にすることは赦されない。

SYSTEM :
 故に彼女たちは、罪人とされた。

 米国や裏社会において、彼女は抹殺対象となっている。
 悪名による故ではない。合衆国が人体実験のために、自国どころか他国の人間を遣っていたことに対する問題と。
 純粋に、彼らがキャリアーとしてウイルスを撒き続けることに対する脅威の故だった。

SYSTEM :
 実験は成功した。しかし、成功の結果にもたらされた成果を消毒するために、彼らは犯罪者をでっち上げた。

 レイラはその罪を被ることで、"ラクシャーサ"となった。被検体アトラの存在を隠すために、彼らの脅威になった。
 ラクシャーサの抹殺指令によって出た被害の多くは、殺処分に来た特殊部隊員らによるものだ。
 救いを求めて立ち寄った支部を滅ぼしてしまった経緯すらも、彼女は自らの悪行として誇った。
 アメリカは彼女を戦鬼に仕立て上げるため、より凶悪なパーソナリティを積極的に付加していった。
 力の被害の程と、その殺傷力から『無造作に力を振るい暴れる戦闘狂』という人格をでっちあげるのは、すべてがすべて虚構でない以上実に簡単なことだった。

SYSTEM :
 二人は彷徨い、やがてそこに辿り着いた。
 関連技術の研究に扱われた米国の研究施設で、二人はその実態を知った。
 遺物『浄火の柱』。
 それを扱うアメリカ政府の細菌兵器の研究について。

SYSTEM :
 アルカイダ、FHに対する対テロ戦争の興りと共に、まぎれるように展開されたそれは、戦地を格好の実験場として現地民を被検体とした大規模実験の場所として扱われたのだ。
 あそこに移民が多く配置されたのも、恐らくはその影響だった。

 罹患者は体細胞を書き換えられ、塩結晶に変化し即死する。
 検体の一部はウイルスのキャリアーとして覚醒し、通常とは遅い速度で病状を進めながらウイルスを拡散するために宿主を最低限生かしながら分裂を続けていく。

SYSTEM :
 資料には、実験のデータが詳細に記されていた。
 まるで虫の標本のように、自分たちの村の人間が一人一人データとして記録されていた。
 生前の身長、体重、血液型、職業、経緯、健康状態、そして死後の状態と。結晶化後のレネゲイドパターンや、その活動について。

 家族同然に過ごした者達の『記録』が、淡々と記されていた。

“少女”アトラ :
 終わらない。終われない。
 ある意味では終わっている逃避の旅は、独りでは成立しなかった。
 或いは、二人だったからこそ続いてしまったのか。……当事者である自分たちからすれば迷惑甚だしい話だが、随分とまあ、やった側からしたら都合の悪い存在だなと思う。

“少女”アトラ :
 ……全く、本当にそう思う。
 『浄化』などというふざけた枕詞のついたモノと、それに付随した兵器の研究資料。
 それらを見つけたときに、やはり強く想った。怒りとも、嘆きとも取れない複雑な感情だ。
 そこに記された、色々なものごとの“原因”と、情報と化しても分かってしまう近しい者たちの記録は……実際、有益でもあったが。

“少女”アトラ :
「……なんじゃ、こりゃ」

 思わず手が出て、全部吹き飛ばしてしまおうとしなかったのは理性か無力感か。あるいは度を越えてしまった怒りの故か。
 血の繋がった者、そうではない者。それらの境なく情報を追ってしまいながら、漏れた一声は純粋なものだ。

SYSTEM :
 それら資料は、彼女らに理由を与えた。
 その代わりに、ひとつの希望を奪った。

 それはレネゲイドウイルスという新型のウイルスに由来するものであること。
 レネゲイドを殺す因子に由来する性質を持ち、罹患者とその周囲を塩化し殺害し続ける。その影響を受けたものは、由来の通り『塩の柱』となる。

 そして、それを振りまいた果てに、最終的にキャリアーもまた死亡する。
 最後の塩の柱となり、死を振りまいた罪を贖うのだ。
 現時点での罹患者の致死性は百%、例外はない。

SYSTEM :
 抗生物質を打つことで進行を遅れさせることが出来る。その資料も、手元に残っていた。最終的には治療のための手法も編み出されるハズだったのだろう。
 ……だがそれを治癒する手段については一切書かれていなかった。いや、確立できていなかったというべきか。

 実験は既に凍結していた。
 致死性の余りもの高さ、その制御が効かない性質から、早々に兵器利用の方向性を変えさせられたのだろう。
 なればこそこれ以上の進展の余地はない。
 たとえ実験の最中にキャリアーが発生しようとも、それを治癒しようという研究自体がもう二度と為されない。
 

SYSTEM :
 これは。
 この実験は、ただこんな風にA4用紙数枚程度に収まる情報を収集するために。
 犠牲を出すだけ出して次の実験に移行するために。
 ・・・・・・・・・
 ただそれだけのために、行われたものだった。

レイラ :
「──ふざけんなよ」

 短く、冷たい声がレイラの口からついて出た。

「ふざけんな。何が罪を贖う、よ。こいつらが勝手に押し付けて、こいつらが勝手にばら撒いたくせに、何が──!」

“少女”アトラ :
 ……つまり。何か。
 ただ、周囲に不幸を振りまくだけでは済まない。そのせいで命を狙われ続けるだけでは済まない。
 何方にしろ、何れ来るのは終わり───……『詰み』なのだ、と。
 あの日、みんなのように塩の塊に成り果てなかったわたしたちは。
 それでも生きて、逃げ延びようと……迫る終焉から目を逸らして、此処まで来たわたしたちは。

“少女”アトラ :
「……好きでこうなったんじゃ、ないのに?
 それなのに……勝手に、巻き込んで。勝手に見限られて……死ぬしか道が残されてみたいな書き方じゃん……。
 どうしようもない、みたいな言い方じゃん……」

レイラ :
「こいつらが、死んどきゃよかったんだ。
 私たちが何をした。この子が何をした。
 こいつらが何もしなけりゃ、こんなことにならずに済んだんでしょう。
 何もない村だけど、父さんがいて、母さんがいて、爺がいて、婆がいて。
 畑を耕したり、羊の面倒見たりして、貧相な豆料理をもそもそ食べて、たまに街に出てラジオを聴いたりして、出れもしない村の外のことを思ってぼうっと昼間を過ごしたり。
 そんな……そんな……」

 ──そんな当たり前の暮らしが。
   約束されていた筈なのに。

レイラ :
「……は」

 レイラは、嗤った。顔を抑えて嗤った。
 馬鹿馬鹿しい。余りの馬鹿馬鹿しさに、叫ぶ気力すら湧かなかった。
 啜り泣きとも嗤いとも取れるような表情で、暫し肩を震わせていた。

“少女”アトラ :
「…… ……」

 此処に居たような人たちが何もしなければ、こんなことにはならなかった。
 ……奪われた。わたしたちは、居場所を奪われた。家族を奪われた。友だちも奪われて……日常が掻き消えて。
 残ったのは、彼女と自分だけ。それも、いずれ消えてしまうのだという。振り撒いている死と同じように。

“少女”アトラ :
「……レイラ?」

 本当に、何にも残らない。残ったとしても、多分悪評と塩の柱だけ。
 そんなことを漠然と考えて、気落ちしながら彼女の方を見る。見て、縋るように、支えるように、嗤う彼女の衣服を軽く掴んだ。
 ……大丈夫なはずがないと分かっているから、大丈夫?とは口に出せず。

レイラ :
 ひとしきり満足するまで、肩を振るわせたレイラは暫ししてから目元を拭い、告げる。

「……じゃあ、こうなったら、死んでも生き足掻いてやりますか」

レイラ :
「元はと言えばこいつらが撒いた種。死ねと言う奴等全員ぶっ殺せば、私たちが生きてても良いってコトになる。
 簡単なことじゃない」

“少女”アトラ :「……レ、レイラ?」

レイラ :
「抗生物質のデータはここにある。レネゲイドコントロールで御しきれない範疇は、その薬で進行を遅らせられる。
 ……まだ他に、方法がある筈だよ」

レイラ :
「最後までしぶとく生きて、生きて、生き抜いて。
 邪魔する奴等全員踏み潰して。
 そうしたら、いつかきっとこのウイルスを解くことが出来るかもしれない」

“少女”アトラ :
 頷く。……しぶとく生きて……生きて、何か方法を探すというのには、強く頷くしかない。
 生き足掻くなら、耐えて進むしかないだろうし。

レイラ :
「何時になるかも分からないけど……。
 大丈夫! アトラのことはあたしが守ってあげる。
 だからアトラも、私のことを助けてね。
 ……二人で、生き抜くんだ」

“少女”アトラ :
「…… ……うんっ。ありがと、レイラ。
 わたし……は、守るとか言えちゃうほど、強くないっぽいけど。
 その分ぜったいたすける!支える!……だから、うん。生きよう。生きたいもん、まだ……いっぱい」

レイラ :
「うん、うん!」

 レイラは笑った。心から笑った。或いはその笑顔は、縋るような気持と共に在った。

レイラ :
 放浪は続いた。
 三年間。それだけの間、アトラが抗生物質の分析に成功し、複製が出来るようになっていたことも影響したのだろう。
 
 しかし、次第にそれですら間に合わない域まで病状は進行し続ける。

SYSTEM :
 少しずつ。しかし確かに。
 ウイルスの進行は続いていた。
 街から街へ、村から村へ。
 旅とは程遠い放浪の旅は、少しずつ命と共に執着へ近付いていく。

 だからこそ、レイラは決断を迫られたのだろう。

SYSTEM :
 三年と半年が過ぎた頃。
 その頃にはレイラは、指名手配犯として別の姿を取っていた。道中で出会った剣の師から服装と剣を借りて、迫る追手たちとの戦いで力を磨き上げ、そこで多くの能力を使用した。
 その反動か、髪は白く染まり肌も白く変容していた。

 アトラもまた、何時しか手には猟銃が握られることが多くなっていた。
 生きるための武器。かつて遠くにあったものが、今はとても身近に振るっている。
 たった三年の月日が少女たちを裏の世界で生きる放浪者に変えていた。

SYSTEM :
 だがある日、レイラは姿を消していた。

  追ってくるな
 ──Don't chase。

 と、小さく書き添えて、彼女の姿はいつの間にか消えていた。

アトラ :
 こういう生き方になってから三年。力の扱い方だって、しっかりものにした頃。
 自分の得意と、彼女の腕っぷしと。それらを伸ばして……抗生物質の複製という、生存には近付かないものの死を遠ざける手段は手に入れた。
 が、それも所詮は遠ざけるだけのもの。原因が除かれたわけじゃないのだから、刻一刻と終わりは近付いてくる。

アトラ :
 それでも希望はあった。……希望、などと言って良いものではない気もするが。
 二人で生きる。死にたくないから、踏み越えられるものは踏み越えて生きる。……自分ももう少し腕力に自信が持てれば、レイラの“悪評”だけ広がっていくような形も抑えられるんじゃないかと思うが、どうも其方の才能はないらしい。
 代わりになったのが、銃だった。狙いをつけるのはそれほど得意じゃないのだが……まあ、まあ。
 ……で。

アトラ :
 ……ある日、彼女は姿を消した。
 抗生物質などにはそれほど手を付けず。その姿だけが、忽然と。
 書置きがある以上、不慮の事故での失踪などではない、の、だろうが…… ……。

アトラ :
「ウソぉ」

 ……あの女、どういうつもりで!?何やって……何で?!
 大声を出さなかったのは、理性というよりは衝撃の大きさが故だった。

SYSTEM :
 彼女は、少なくとも生きようと強く感じる意思に関して言えばアトラよりも強かった。
 ・・・・・・・・            ・・・・
 死にたくないから、としたアトラに対して、生きよう、と告げたのがレイラだった。
 
 ……その食い違い。ささやかな噛み合いの悪さが、二人を強く生かし続けた原因であった。
        ロイス
 互いに縛り合う絆しが、そこにはあった。

SYSTEM :
 文面から読み取れることは、それ以上ない。
 だがアトラには……ある意味血より濃い繋がりの故に、その意図するところの当て程度なら存在していた。


 ……彼女は、未だ戦い続けている。
 自分が生き残るために。いや……きっと、恐らくはきっとそれ以上に……

SYSTEM :
 どうあれレイラは打算的で、強かな人間だ。そのことを知るアトラは、彼女が何かを諦めてアトラの元を去った訳ではないことぐらいは分かった筈だ。

 元より、身勝手な人間だった。自分の都合で振り回すことも多々あった。
 だからこそ、問わねばならない。

 

アトラ :
 ……隠しメッセージなどは、特に見当たらず。
 つまるところ、彼女は……投げ出したり、諦めたり、した───……わけでは、絶対にない。
 彼女は、何かを掴んだ……あるいは、掴める何かを見つけたのか。
 兎も角……兎も角!

アトラ :
(だからってわざわざ独りで動こうってところは良くないんじゃない!?ウチの気持ちとかは!?)

 誰にも届かない文句はわざわざ口にはせず。
 何よりも……感じ入るものがあるから、個人的な文句は取っておく。
 彼女の真意は、彼女に直接聞くしかない。……何処に行ったか分かんないけど。
 それでも、それでもだ。彼女が何かを考えて、独りで動いたのだ。多分、自分にとっても捨て置けない話。

アトラ :
「……くそお、まずは居場所からか……」

 此処で、彼女のメッセージ通りにしてやるつもりはない。
 追って、追って、追い付いてやらねばならない。

SYSTEM :
 ──それが、此処までの顛末。
 
 二人の放浪の始まりと、一つのきっかけ。
             アハスヴァール
 一瞬も休まる時のなかった呪われ人の放浪の日々。

SYSTEM :
 分からない事は山のようにあった。
 だが確かに分かることもあった。

 迫る死期。確実に蝕まれる体。
 痛みと苦痛と、周囲からの迫害は、次期限界に到達する。

 この旅の果て、彼女が行き着いた場所が、最後の機会となることを。
           ・・・・・・・・・
 それが達された時……どのような形であれアトラの旅は終わるのだ、と。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
 ……アトラは、長い語りを終えた。
 自分の生い立ちと、その身に抱えた爆弾の存在のこと。そして、そこに至るまでの経緯について。
 包み隠さず告白した。

アトラ :
 ……言い終えて。少女は“その後”について思いを巡らせる。
 真の『最悪』は、レイラが取り付けた協力体制───……もとい、利用し合うような体制まで無しになってしまうこと。ケジメだ何だと言って、手段まで手放してしまう羽目になるのは全く良くない。
 考えつつ、ただ申し訳なさそうな表情で次に飛び出る言葉を待つ。あまり気持ちの良い時間とは言えなかった。

ナタリー・ガルシア :語られる言葉、少女が、少女達が背負うには過酷なその半生。
その歩んだ道筋を、ナタリーは黙して聞いた。
実感出来ない、したくない、痛みと喪失。

共感も出来ず、けれども、時折アトラが浮かべていた困ったような顔を思い出した。

ナタリー・ガルシア :
「――――」

ナタリー・ガルシア :軋み、痛み、悲鳴をあげていることから目を逸らす。
立ち上がろうと力を込めた両足と上体が満足に動かない。
身体を縛る恐れを無視して振り切って、両腕をテーブルについて立ち上がる。
己の心に何があるのか、それを自覚しながらも、ナタリーは思考の片隅へと追いやった。

足取りも、意志を宿す瞳にも、立ち上がるまでの葛藤が現れることはない。

ナタリー・ガルシア :
そこには、いつも通り。
燃える炎を裡に宿した少女が一人。

ナタリー・ガルシア :
心持ち大股で、ナタリーは歩みを進める――アトラの眼の前、その場所まで。

「――大丈夫ですわ!」

両手でアトラの両手を包み込むように握り、宣言するように言葉を紡ぐ。

「アトラさんは、こうして間に合いました。この作戦が終われば好きな場所に住むことも、誰に咎められることもなく旅することも出来ますわ!」

ナタリー・ガルシア :戦いの最後、ラクシャーサの言葉を思い出す。
ナタリーの頑張り次第で、どうにかなる可能性があるという言葉を。

      あす
「東方では、未来の話をするとオーガが笑うという諺があるあらしいですわ。つまり、貴方のお姉さまも笑ってくれるということです」

握る手のひら。
確かに伝わる体温に、どうしても力がこもる。
声が震えないように意識して。
瞳が揺れないように意識して。
けれど、握る手のひらに籠もる力だけは緩められなかった。

ナタリー・ガルシア :「アトラさん、これからはやりたいことをなんでも出来ますわ。何年かけても、やりきれないようなことを、いくつでも」

ですから、と、区切る。
誰にも伝わらないほど、僅かな逡巡のような――息を吸い、覚悟を固める時間を経て、続ける。

「この作戦が終わっても、ずっとお友達でいましょう。私も、アトラさんとやりたいことや行きたい場所がたくさんありますの」

ダン・レイリー :
 戦場で何故と問うことはなく。
 任務の遂行に支障を来してはならない。

 故にこれは、必要な情報の整理だったのだろう。
 あるいは、今までしていたことと代わりもない。 

ダン・レイリー :
「………雪の降る村」

ダン・レイリー :
 ………何故、テンペストは奴と“天刑府君”についてだけ知見を得ていたのか。 
 ………何故、“T³”はイリーガルとしての活動に付き合うことにしたのか。

 答えは意外なほど近くにあった。

ダン・レイリー :
 ───息を零す。
 当人たち以外にとっては、決して前代未聞ではない。

ダン・レイリー :

 珍しいが、珍しすぎることはない。
 国を栄えさせるという絶対的理念の影に巻き込まれたマイノリティの話。
 好悪も、可能性も、その他一切を抜きにして思えば、これはその程度の話だった。

ダン・レイリー :

 ………勿論。当人にとって。
 ・・・・・・・・・・・・・・・  
 その蔑ろにされたものこそが全てだということも、忘れてはならなかった。

ダン・レイリー :
「薄々予想はしていた。
 ヤツの反応から………そして、」

ダン・レイリー :
「ラクシャーサとの交戦の時………。
 きみだけが影響から外れていた時から」

ダン・レイリー :
 それだけを口にして、瞑目した。

 手に余る問題だったのは確かだ。
 どう判断しても角が立つ。

ダン・レイリー :
 ………答えは決まっていた。
 また、そのための懸念も。
 ・・・・・
 そんなことは本人も分かっているだろう。ナタリーなりの励ましの中、敢えて水を差すようなことを長々口にするものではない。

ダン・レイリー :
「何時ぞやの言葉を反故にはしないよ。
 僕にはその理由も、動機もない」

ダン・レイリー :
 その反故にする理由が出来てしまったならば、いよいよ僕は決断の必要が出ることも。

 その理由が出来る原因についても、口にして不安を掻き立てるものではなかった。

灰院鐘 :
 ……そうして。
 おそるおそる語られたのは、後ろ暗いはなしだった。おそらくは誰にとっても。

灰院鐘 :
「…………」

 CIAと米軍の共通点。合衆国のための組織。
 守るべき多くの人々という範疇に含まれない、より多くの人たち。

灰院鐘 :
 ……刑事の誘いを思い出す。きっとそうはならないと、心のどこかで感じたわけを今になって理解する。
 国と国。人と人。あまたの線引きを超える手立てが……いや、すべてを囲う線が鐘には必要だった。

灰院鐘 :GM、ロイスを取ってもかまわないかな。対象はUGN、感情は〇傾倒/隔意だ。

GM :おお、いいでしょう…

GM :しかし 傾倒 傾倒かぁ~

灰院鐘 : 

灰院鐘 :
「……ダンさん」

 青年にはデトロイトでの顛末は分からない。交わされた言葉が何であるのかも。

 ……けれど、これだけは知っている。何でもない理由から始まった戦いの道と、守護者として応じた姿を。

 少なくとも彼にとっては、それで十分だった。

灰院鐘 :
 まっすぐにアトラの手を取りにいく少女の背を見送って、青年は穏やかに微笑んだ。家族以外にもそうしてくれる誰かを得られた少女と、友を想って懸命になれる少女のために。

灰院鐘 :
「……よくがんばったね。君も、レイラくんも」

 とつぜん日常が奪われ、幼い手を取り合うしかなかった日々。その困難と恐怖は計り知れない。

 まして、生きることが許されない身の上など。

 頼れる大人なんてものは、当時の彼女たちにはもう記憶の中にしか存在しない。命を狙われ、進行する病に追い立てられて……かろうじて繋いできた命さえ、失われようとしている。

灰院鐘 :
 ……。
 …………。

灰院鐘 :
「君たちが諦めないでいてくれたことが……たとえ、そうするしかなかったのだとしても……僕には嬉しい」

ブルー・ディキンソン :
 そこにあったもの、悉く。
 一切全てを奪われた苦しみと悲しみを、他者が理解するのは難しい。
 今感じている"コレ"すら、本当の理解とは遠いものかもしれないからだ。
 
 国家という生物が生きていくために"食されて"しまった者達。
 その生き残り。
 どうも、それを他人事のように聞くのは無理だった。

ブルー・ディキンソン :
 ブルーの体は涙を流さない。
 そのような機能はないからだ。
 ただ人間の体であった頃の感情の動きと、感覚を、電脳が認識して、そういった錯覚を見せることならある。
 今がその時だったわけだ。

ブルー・ディキンソン :
 とはいえ。
 この世の中の人生において、偶然というものは存在しないとブルーは考えている。
 命を運んでくると書いて運命、アトラがここにいることも、きっとそういうものだと思う。
 
 そう信じてあげたい。

 少女の手を取るもの、
 少女を認めるもの、
 少女を労るもの、
 ……さて、私は何ができるだろうか?

ブルー・ディキンソン :
「───前言ってたもんねえ、『巻き込む気』で来てますって。
 そんな話聞いちゃったら、ますます降りれなくなっちゃうね」

ブルー・ディキンソン :
「そーだなあ、うん……じゃあ、あたしからはプレゼントでも一つ」

 がさごそ、と小さな鞄から取り出した一枚の"紙"をつまみ。
 ナッちゃんが今手を握っているのだから、と服にしのばせてあげる。

「これ、うちの会社の名刺。
 終わった後の明日のことを考えるのって、すごく楽しいことだから。
 あたしからはその選択肢を一つ、プレゼントしちゃいます。
 夢を想えば明日への気力になるもんだよ」

紅 蘭芳 :
「そんな……そんなことって」

 紅はただ、手で口を覆うばかりだった。
 こんな年端も行かない少女が、周りに支えてくれる大人もいないまま、頼ることも出来ないまま、じわじわと迫る死の絶望に追い立てられ続ける。
 それを、余人の誰が理解など出来ようか。
 ないこと、とは言えない、珍しすぎることでもない。だが、それをよくあることと腑分けできるような醒めた考えになれるほど、紅は場慣れしていない。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「────」

 勇魚は静かに目を伏せて、アトラに近付いた。
 考えるべきことはあった。思う所もあった。
 だが言うべきことはすべて、それとは異なる気がしていた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「辛いことを話させて、申し訳ありません。ですが……勇気を出して話してくれて、ありがとう。
 あなたが、話してくれたおかげで」

 ナタリーの上から片方の手を重ねる。暖かい手の感触が二人に伝わる。
 触れた者、近付いた者、そのすべてを殺し尽くすと。その力の一端を、実際に見ていながらも、勇魚は欠片も怖じることなくその手を載せる。
 
「私も、こうして、手を伸ばすことが出来ます。
 UGNとして、共に戦う同志として。いえ……
 友人として」

灰院鐘 :
「────」

 ……友人として。その言葉が、我が事のようにうれしいと青年は微笑んだ。

アトラ :
 果たして、待っていた反応は───……糾弾でもなければ、追放の言でもない。
 とは言え、責め立てられるとまでは考えていなかった。レイラにも言われたように、自分は人と出会う運は悪くない方らしいから。
 ただ、ほんの少し戸惑ってしまう。

アトラ :
 眼前へと歩み寄ってきて手を掴む少女の言葉にも。そこに重ねるように添えられた、炎の守護者の手のぬくもりにも。
 恐らく、合理的に───……“国”を優先するなら自分もレイラも率先して撃つべき立場の男の判断にも。
 いつも見るように微笑んで、……彼女と二人でいるときにはほとんど聴いたことがなかったような、労わりの言葉を投げかけてくれた守護者にも。
 此方に名刺を忍ばせて、“明日”を考える余地を与えてくれるメイド服の彼女にも。
 よくあることだ、と。切り捨てても良い立場なのに。きっとそれだけの戦いも想いもしてきているだろうに、此方を想ってくれる友の師にも。

アトラ :
「や、その。……ええっと。すんません。あと、ありがとうございます」

 口をついて出たのは、率直な言葉。
 自分に向けられた言葉たちに対する感謝と、死のリスクなどという大きな爆弾を伏せていたことへの謝罪。
 ……特に後者は、本当に捨て置くべきでない内容だった。当初こそ、最悪時間切れで死ぬにしても心が痛まない場所でも……とすら考えていたが。

アトラ :
「……ずっと……こう、此処に転がり込んでくるまで、死なないために生きて来たから。
 レイラが何か掴んでるって分かるまで、何も自分じゃ浮かばなくて……いっぱい困ってたけど」

アトラ :
「期待してる。……って、あんまり本人たちに言うもんじゃないかもなんだけど」

 特に、重要なファクターたるナタリーにだって何をどう頑張ってもらうのかも完全に理解しているわけでもないし。

「それでも……まあ。言い方を選ばないなら、ウチらのためにも頑張ってほしいのも、本当だし?」

ダン・レイリー :
 喜びの先に戸惑い。当然だ。

 渇き、飢えた人間の胃にいきなり食物を放り込めば。
 胃の痙攣という当然の反動が帰って来る様に………。 

 今まで、希望を持てるような一切を知ることが出来なかった人間が。
 希望がある“かもしれない”という言葉を素直に呑み込める筈はない。 

ダン・レイリー :
「それでいい。
 強いて言うなら順序が逆だが」

ダン・レイリー :
「それと。分かっていると思うが、このことはテンペストの連中に口外無用だ」

アトラ :
「……うす。
 悪い気はしますけど、…… ……何のために席外してもらってたか分かんなくなっちゃいますし」

 ダンがこうでも、他の面子までこうだとは限らないし。
 ……疑うようで嫌だが、そもそもはそういう風に此処まで生きて来ている。

ダン・レイリー :
「ああ。
 僕はレイラという人間のことは知らなかったが、“ラクシャーサ”という危険人物のことは知っていた」

 その意味が分かるな? と暗に一言。

ダン・レイリー :「気にするな。少尉も含めて騙され慣れている」

灰院鐘 :「そのあたりは、なんとなく。お互い知らないことが多そうで安心した」

ブルー・ディキンソン :「にゃは。奢りは別腹ってことだね」

ダン・レイリー :「そういうことだ。知っていれば応じ方も違う、とまでは言わないがね」

灰院鐘 :「ところで……」

ダン・レイリー :「………ン。どうした」

アトラ :「うす、…… ……?」

紅 蘭芳 :「?」

灰院鐘 :
「アトラくんの不安も、すこしは晴れたかな。よければさっきの続きをさせてほしい」

 どうですか、と両腕を広げる。手を重ねてる三人まるごと包んでしまえるくらい広い。

ダン・レイリー :
 そう言えば“元気になったら”と言っていたか。
 止めはすまい。彼なりの善意なのは確かで、受け取るかどうかも含めて自由な話だ。

ナタリー・ガルシア :「ええ、もちろんですわ!」

アトラの手を握ったままシェクハンド。ぶんぶん。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……………………そうですね」

ブルー・ディキンソン :「行っちゃえ行っちゃえ」

灰院鐘 :「ブルーさんもおいで」

アトラ :
「おっ、わわ…… ……」

 ぶんぶん振られる手と、その手に重ねている二人を一度見て。
 でも、良いのかと戸惑いの目を向ける。彼女たちもそうだが、そもそも今の私は……言ってしまえば病原体的なものなわけで。

ブルー・ディキンソン :「マジ? じゃあお言葉に甘えて……」

灰院鐘 :「マジです。さあどうぞ」手を引いて、三人のもとへ連れていく。

灰院鐘 :
 ずっと低い位置にある、不安げなまなざしを覗きこむ。
「僕はね、アトラくん。オーヴァードになったとき、これは不治の病なんだと教えられた」

灰院鐘 :
「誰かを生かして、誰かに生かされる病気だと。
 ……君とレイラくんが生きてこられたのは、お互いの存在があってのことだったんだろう」

灰院鐘 :
「でも、その旅路にいたのは彼女だけではなかったはずだ。たまたま行き会って、手を取り合った人がいたんじゃないかな」

「僕たちも、その一部に加えてくれればいい」

 ……誰も彼もを遠ざけて生きるのは難しいと、きっと青年よりもアトラのほうが知っている。

灰院鐘 :
「──うん。要するにね、たぶん何とかなるよ! ならなかったら、何とかしよう!」

灰院鐘 :というわけで四人まとめてぎゅう~っとしちゃおう 潰してしまわないよう慎重にね!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
今だけはスン、とした表情で腕に抱かれる。
この国では親愛の表現として専ら扱われるという、腕の中にかき抱く行為。それをされる事は、当たり前のことで。
その背後に何があろうと変わらない事なのだと、示すように。

ナタリー・ガルシア :四人まとめて抱きすくめられる。
自然と手を握るよりも更に密着して――だからこそ抱きつくように、意識して身を寄せる。

「ええ、お友達を助けるのは当たり前のことですわ!ぜひ期待してくださいまし――私、実は凄いらしいので!」

今度はほんの僅かにも言い淀むことなく、言い切る。
固めた決意で弱った部分が補強され、また一つ進むための理由を得る。

ナタリー・ガルシア :「私も、皆さんも、アトラさんがこれを当たり前だと思えるように――」

誰よりも己自身が信じながら、ニッコリと微笑む。
              あす ゆめ
「――明日を夢見るのではなく未来の希望を追いかけられるように力を貸しますわ」

ナタリー・ガルシア :それは当然の権利なのだと、ナタリーは信じて疑わない。
未来を無条件に信じ、この先に期待することをして欲しいとナタリーは願う。

これまでに諦めた数よりも、ずっとたくさんの期待がこの先に待っているのだと思って欲しい。

「もしもアトラさんにその気がなかったとしても、期待させてみせますわ――そのくらいの意気でやります!」

ナタリー・ガルシア :「ですから、覚悟してくださいまし?」

拒否権はない、と言わんばかりの満面の笑みを至近で浴びせる。

アトラ :
「誰かを生かして、誰かに生かされる病気……」

 絆───……あるいは繋がり。私の根源にあるのはレイラと二人で生きると決めたときの思い。
 だが、当然それだけで生きて来たわけじゃない。人は一人では生きられない。……こうなってからより強く感じた、自分たちの生き方だ。
 覗き込む大きな男に目を合わせながら頷いて。

アトラ :
「…… ……おわ!」

 考える。考えて、そのまま。
 男に、数人纏めて抱え込まれてしまった。戸惑いはそのまま、少し前とはまた違った感覚。
 此方側の心境の変化が原因だろう。……やっぱり自分に触れるべきじゃない、だとか。直接言い出す前にこうなってしまったが。
 何となく、言って見せても結果は変わらない気がして。

アトラ :
 そのまま、より近くなった笑顔を見て、今度こそナタリーの言葉にも強く頷いた。

「うん、……うん。
 けど……それはウチだけじゃない。……やってきたことも、積み重ねちゃったものもあるけど。
 レイラの未来だって、どうにか…… ……するんだ」

 どうにかしなきゃ。巻き込まれるのは、自分の命だけではないのだから。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「うんうん、善かったじゃんアトラ。
 相変わらずくじ運がよくて、こっちも助かっちゃうな~」

 我が物顔で机に座りながら頬杖をつき、へらりと嗤う。

灰院鐘 :「あっ」

アトラ :「…… ……」

紅 蘭芳 :
「ほんとに、どうなることかと思ったけど……」

紅 蘭芳 :
「…………」

アトラ :「ちょっ」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ダン・レイリー :「………」

灰院鐘 :
「えっと……」

「……どうぞ!」

 四人つつんでもまだ一人いけそうなスペース!

ダン・レイリー :やはり今すぐ“紹介しよう、お騒がせのラクシャーサだ”とでも言ってやるべきではないか? 

ナタリー・ガルシア :とりあえずよりアトラに身を寄せる

ダン・レイリー :「友好判断としては正解だがそうじゃない」

ブルー・ディキンソン :「っはぁ!?」

アトラ :「いやいやいや恥ずかしいでしょ!!!」

灰院鐘 :「……! たしかに」

灰院鐘 :「まかせて。ダンさんと蘭芳さんのぶんもなんとか……!」

ナタリー・ガルシア :「いけますわいけますわ!」

いけますか?と視線を鐘へ送る

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「貰えるモンはもらっとく性分だけど、あたしはいーや。
 ……ああ」

ダン・レイリー :「何とかしなくていいそうだ」

灰院鐘 :いけま……いきます!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「一応、お邪魔させてもらってるよ。どーも、その何とかされるレイラです」

灰院鐘 :ション

ダン・レイリー :
「………ロサンゼルスに出向いていたものには説明していなかったな」

ナタリー・ガルシア :「そう、アトラさんのお姉さまですわ」

ダン・レイリー :
「経緯を説明すると長くなるが、
 そういうことになった」

ブルー・ディキンソン :「……んなるほどお……」

ダン・レイリー :「ラクシャーサは死んだ。そこにいるのは“イリーガルの”レイラ・イスマーイールだ」 恐ろしい詭弁だ

灰院鐘 :「えっ」

灰院鐘 :「…………」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「言わないでください。……正直、かなり折衝には気を遣ったので」

灰院鐘 :「おはかつくる?」

ブルー・ディキンソン :「世渡り上手なことだなあ……見習うべきだな……」

ナタリー・ガルシア :「ということになっている、という意味ですわ」

こそこそ耳打ち

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「おっいいねえ、葬式あげよ葬式」

ダン・レイリー :「墓にはぜひとも“お騒がせ”と書いてやってくれ 苦労したぞ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「お供え物持ってきて~」

灰院鐘 :おお……情報の洪水

アトラ :「いやいやいやウチどういう顔してりゃいいのそれは!」

ダン・レイリー :ヤツめ、無敵か…

ナタリー・ガルシア :「お葬式はどういたしましょう、旧式?新式?」

ブルー・ディキンソン :「……まいっか……こっちでいう、イリーガルのような立場でもあったんでしょ」

紅 蘭芳 :
「あっえっあっとぉ」

ダン・レイリー :「当人がいるので希望を聞いてやるといい 地域によっては前向きに見送ることになる」

ダン・レイリー :「…そうだな 混乱している者もいる。続けて良いか?」

紅 蘭芳 :
「オネガイシマス…」

ナタリー・ガルシア :「そうですわね、師匠が可愛らしいことになってしまっていますし」

灰院鐘 :「そうだね、まずはお供え物の希望から」真剣な顔

アトラ :「そこ!?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :「アッハハ、面白いのいるねーこっちには」

ダン・レイリー :
「あるいは俺の口で語るより、当人の口で話した方がいいかもしれんが。
 とのことだ、お供え物のリクエスト後に説明義務を行使する気はあるか」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ん? ああ、それもそうか。
 さっき言った通り……あたしはイリーガルのレイラ・イスマーイール」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 ・・・
「さっきイリーガル登録させてもらってね。
とりあえず"千刃空夜叉"の名前のエージェントは捕縛された体で、入れ替わりに登録した訳」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……この対応も、リリア教官の強い後押しがあってのこと。
 教官と直に掛け合い、この無理を通させていただきました。無論、過去の経緯も一部UGNのイリーガルとして活動したという情報を織り交ぜながら、ダミーデータを作り上げ。
 彼女はFHエージェントと無関係の、パンジシールから放浪の時間を過ごしたイリーガルの"レイラ・イスマーイール"として登録した訳です」

灰院鐘 :
「そっかあ。僕は灰院鐘だ、よろしくね」

ダン・レイリー :「彼女がか。………本部の代理人とはいえ、苦労をかけたらしい」 

アトラ :
「いやほんと、ありがたいことで……」

ブルー・ディキンソン :「……意外とフットワーク軽いんだな、あの人」

ナタリー・ガルシア :「……!」

紅 蘭芳 :
「出来るの、そんなこと!? この人リエゾンエージェントだったのに!? っていうか灰院くん呑み込み早っ!」

ナタリー・ガルシア :さすがですわ、さすがですわお姉さま……

ダン・レイリー :「それはそれで美徳だよ」 

ナタリー・ガルシア :「……師匠」

ナタリー・ガルシア :「諦めて受け入れたほうが、楽になれますわ」

紅 蘭芳 :
「た、確かに……」

ダン・レイリー :
「虫の良い話だったのさ。相互にとって、少なくとも今は。
 此方への協力というかたちで取引を申し出たから、それを受理した」

ダン・レイリー :
 理由については改めて蒸し返すことはあるまい。異議はあっても仕方がないが、不満があれば折り合いを付けてもらう所からだ。
 ………先の話の後で、異議が生まれる余地があるかと言われると微妙かもしれないが。

灰院鐘 :「なんでもいいよ。だってほら、だれも暗い顔してないし」

ダン・レイリー :「………」

ナタリー・ガルシア :驚きでそれどころではない気もしますが

アトラ :
「や、それは…… ……まあ……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そうそう、ウィンウィンってやつ。
 上の人も頭やわらかくて助かったよ」

ダン・レイリー :「まあ、な」

ブルー・ディキンソン :「じゃ、これから同業だね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そうなるねえ家政婦さん。
 ……キミとは一度きちんとやり合ってみたかったんだけどな。利益のない争いはしない主義だ。
 キミさえ理由を工面してくれれば、楽しいことになるかもだけどね」

 ブルーに対して好戦的に嗤いかける。

アトラ :
「こらこらこら……」

灰院鐘 :「そういうときに良い方法を教えてもらったよ」

灰院鐘 :「腕相撲大会」

ナタリー・ガルシア :これは俗にいうツンデレというやつですか?それともサイヤ人というやつですか?

ブルー・ディキンソン :
「構わないよ。
 ……と言いたいところだけど、あたしもお仕事があるので!
 "終わったら"だね──その方が張り合い、あるんじゃないかにゃ」

「……無論、腕相撲でもいい。あたし強いぜ?」

灰院鐘 :こないだテンペストのひとたちに混ぜてもらったんだ 

ダン・レイリー :なるほど 負け知らずのヤツが膝を屈していた原因はコレか…

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「生まれついての闘争衝動というやつでね。理由は自分の口で言いたくないので黙秘ってコトで。
 まあ、やるならあとでゆっくりが安牌そうだ」

ブルー・ディキンソン :
「……あとまあ、あー。アレ」

ブルー・ディキンソン :
「これコスプレなんだ。
 あたしはブルー。家政婦の真似はできるけど、家政婦はしたくないっ。よろぴく☆」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「コスプレ? なにソレウケる。
 なんでそんなカッコを?趣味?」

ナタリー・ガルシア :「……?」

ラクシャーサの服装をまじまじと見つめる

ブルー・ディキンソン :「必要があったんだけど……まあ……」

ブルー・ディキンソン :「なし崩しだなあ……」

ナタリー・ガルシア :これはツッコミ待ち、というやつではないでしょうか!?

ダン・レイリー :世の中には触れずにいたいことがある

ダン・レイリー :今がその時だ

アトラ :
(やっぱり気になっちゃう?)

灰院鐘 :……なんとなく勇魚くんを背中に隠そう いや何がというわけではないんだけど

ナタリー・ガルシア :私、また一つおとなになりましたわ

灰院鐘 :何がというわけでは……ないんだけど……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「なし崩しねえ……まあ何となくわかった、そういうね。
 というかさっきから何コソコソしてんのよ。全員アームレスリングで黙らせたろか」

灰院鐘 :「わあ、やってくれるの? いいね。お近づきの印ってやつだ」

ブルー・ディキンソン :「こう見えて貧乏人です!」

アトラ :
「ウチはパスで!勝てないし!」

ダン・レイリー :「同じくパスだが、穏便なのか横暴なのか分からん手段の選び方だな」

ナタリー・ガルシア :「いいえ、まずは私が先鋒を努めますわ。鐘さんは大将です」

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :「ちょっと待て いつ対抗戦になった」

ナタリー・ガルシア :「大尉は……次鋒でどうでしょうか?」

ダン・レイリー :「分の悪い賭けはしない主義だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「わー、なんかすごいことになってきたじゃん
 此処で全員ハッ倒せばあたしがいちばんつよいってことよね」

アトラ :「いやあっち1人だけど 対抗戦の様相じゃないけど」

灰院鐘 :「負けないぞお!」大役もらったしね。がんばるよ!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「意味のない想定だな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私がいる」

灰院鐘 :わあ~~~~!

ダン・レイリー :………

アトラ :「あれっマジでやろうとしてない?」

ダン・レイリー :ブレーキではなかったのか、“炎神の士師”………

ダン・レイリー :ブレーキでは…なかったのか!

ナタリー・ガルシア :「アトラさんは……どうしますか?やはり姉妹チーム……?」

紅 蘭芳 :(もしかしてアレじゃないですか)

アトラ :「ウチもやんの!?」

ダン・レイリー :(アレとは…いや…まさかな)

紅 蘭芳 :(争いごとになると結構火がつくタイプ!)

ナタリー・ガルシア :「やら、ないのですか……?」

ナタリー・ガルシア : 

ダン・レイリー :(………そのタイプだったか………健やかで安心するべきか、ブレーキがアクセルだったことを懸念するべきか)

紅 蘭芳 :(負けず嫌い……!!!)

ブルー・ディキンソン :「人数がフェアじゃないな〜」

アトラ :「あっ ちょっ……や、やるやる やらせて」

ナタリー・ガルシア : 

紅 蘭芳 :
「でもまあいいんじゃないですか? 懇親会って感じで!」

ナタリー・ガルシア :「そうですわね、ちょうどいい感じの台はありますか?」

ブルー・ディキンソン :「じゃ、あたしトラちゃん達の方いこ〜っと。
 外様組ってことで!」

ダン・レイリー :「(この状況で“やらない”と言うには旗色が悪いな………)」 

アトラ :(あれっ戦いたいんじゃなかったの!?)

ブルー・ディキンソン :「腕相撲なんかで決めたくないからね」

ダン・レイリー :「プライドというやつか?」

アトラ :「なるほど!」

ブルー・ディキンソン :「そ!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そりゃ当然。やっぱコイツで語り合わなきゃ嘘でしょ」
 つんつん、と腰にさげたものを差す

ダン・レイリー :「…理解はしないが納得はするよ」

アトラ :「バトルバカ…………」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「一応、この剣も技も人から教わったものでね。まあ道具として使い潰しちゃいるけど、爪垢程度の矜持はあるわけ」

ブルー・ディキンソン :「ふふん、あたしもそれなりに……」

灰院鐘 :「煎じて飲める量があれば十分だ。じゃあさっそく台を用意しよう」

ナタリー・ガルシア :「たしか、良い感じのドラム缶を倉庫の方で見た気がしますわ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「では、審判が必要そうですね」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
ちらとダンを見る

ダン・レイリー :………ある意味気遣われたかもしれんな。

ダン・レイリー :
「分かった。では僕がやる。
 周到に台の見込みもあるようだから、用意に手間はかからないはずだ」

ダン・レイリー :その気遣いに見栄を張りかけた自分を抑えておく。親睦会という建前でやるなら猶更だ。

紅 蘭芳 :(もしかしてちょっとやりたかったりします?)(こしょこしょ

ダン・レイリー :(多少の見栄への未練がある程度には)

アトラ :(……いや、まあ、思ってたより全然受け入れの空気で良かったっちゃ良かったけど……腕相撲て……)

灰院鐘 :「じゃあ勝ったほうが負けたほうにハグってことにしよう!」自分に都合のいい条件をつけてさっさと台を取りに退散するよ

ダン・レイリー :「もはや隠そうともしていない満面の笑みだな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……何ですか、その条件設定は……」
 呆れながら後ろをついていくように部屋を出る

アトラ :「どっちにしてもハグなんだぁ……!?」

ナタリー・ガルシア :「私もお手伝いしますわ~!」

後をついて台を取りに行く

ブルー・ディキンソン :
「ほらほらトラちゃんもいこうぜ。
 巻き込みに来たんなら、巻き込まれないと!』

アトラ :「いや全員……!?どんなサイズの台用意する気!?」

ダン・レイリー :「そこはナタリーのみぞ知ることだが………」

ダン・レイリー :
「元より時間がないわけでもない。行って来るといい。
 “雷霆精”もだ。ブレーキが一人では足りなくなるかもだしな」

アトラ :「……う、うす。行ってきます!」

ブルー・ディキンソン :「アイ・アイ・サ〜!」

ダン・レイリー :「よろしい。いってらっしゃい」 

SYSTEM :
 ……その後。
 その場の勢いとノリで開かれた、アトラとレイラの受け入れのためのアームレスリングが開かれた。
 エフェクト抜きの真剣勝負。
 流石にテンペストの面々が入ることは出来なかったが、メンバーの中で戦いは大いに盛り上がった。
 

SYSTEM :
 ……この会場には。
 二人と直接素手で触れあうことに難色や嫌悪を示した人間は、ただの一人もいなかった。

SYSTEM :
 …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まあ、うちらのつまんない身の上話を聞いてもらった訳だけど」

 片づけを終えた後、一同は再び会議室に集まっていた。
 ラクシャーサは席に座り頬杖を突きながら、そう話を切り出す。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そういう訳で今後はこっちに協力させてもらうよ。うちらの目的としてもこっちに寄るのが一番マシなルートっぽいからね」

アトラ :「そういうワケでね」 そこだけ復唱しておく。

灰院鐘 :「よろしくね」

ブルー・ディキンソン :「勝ち馬を見定めるのは才能だってね」

ダン・レイリー :「本当にその才能があるなら、旗色が悪くなっては事だな」

ダン・レイリー :
「とはいえ、互いに取引は成立した身の上だ。
 此処からマシではない方向に行ってもらっては、実利としても困る」

ダン・レイリー :僕としても二度あの技の突破に命を削るのは御免だしな。誰の得にもならん。

ブルー・ディキンソン :「なんともまあ、お疲れ様って感じすな……」

灰院鐘 :
 がんばろうね、とか。
 がんばりどころだ、なんて。

 いつもなら言いそうな青年が、ひとり言葉を詰まらせる。……彼なりに黒星を気にしているらしい。席についたまま、そっと背筋を正す。

ダン・レイリー :「………」 僅かに視線を動かす。

ダン・レイリー :
「そうでもない、“雷霆精”。
 兵士というのは、お疲れ様が続く人間だしな」

ダン・レイリー :
「で、そういう時こそ踏ん張り時だ。
 儘ならない状況でも、一つ一つ片付けていかねばならん」

ブルー・ディキンソン :「ん……じゃ、"土台"にはしっかりしてもらわないとですねえ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ま、それなら契約を履行したいとこだけど……そういえば、そこのは元とやりあったんだっけか。
     シャンバラ
 あいつ、ウチらの中でも多分サシなら一番強いからね、気にしない方がいーよ」

灰院鐘 :「な」

灰院鐘 :んでそれを……と声にならない声

ダン・レイリー :
「土台の心配はないと言いたいが、
 ロサンゼルスの“ヤツ”がいてはな」 

 ………それはそうとこの様子、普通に聞いていたな、この女………。
 思うにタイミングを見計らっていたか、決裂の時に“T³”を守るためだったのだろうが。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「初めからいたからね、あたし。
 ……侵入経路、何処からだと思う?」

アトラ :
「こん人そういうの得意だから……」

ブルー・ディキンソン :「ダクト?」
 雑。自分がつい先刻やった方法。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あたしとアトラは、同じ起源でオーヴァードに覚醒した。衝動パターンが違うとしても、その波長は似通ってるんだよね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「だからアトラに生体侵入しといたら、UGNのレネゲイド因子を探知する類のセンサーでも引っ掛からないわけ。
 検問突破した後は壁とかすり抜け放題だから、アトラより先にこっちの部屋来てたんだよね」

アトラ :「…………」

ブルー・ディキンソン :「(すっげえ嫌そうな顔してる)」

灰院鐘 :「……! …………!!」

ダン・レイリー :「………木を隠すなら森の中か。なんとまあ」 

アトラ :「なんちゅーことを……」

灰院鐘 :「な……っ」

灰院鐘 :「かよし、だね……?」動揺を勢いよく押し流す。

ダン・レイリー :
 やつはエグザイルシンドロームの持ち主だ。
 連中は総じて器用で、侵入経路という経路を択ばないものだが………。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「仲良しでしょー?」
 ケラケラ

ダン・レイリー :「(人との間合いで、困惑する、ということがショウにもきちんとあるのか………)」

ブルー・ディキンソン :「……」
 まあ、"目"を盗んで、潰して、堂々と動くのはあたしも変わらんか……。

アトラ :
「仲良しとかそういう括りになるかなあ!?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「家族水入らずってヤツ」

ダン・レイリー :「ずいぶん先進的な水入らずだ」

アトラ :「そういう意味かなあ!!?」

ブルー・ディキンソン :「センシティブ〜」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そういう訳で話は全部聞いてたから、その辺の共有はすっ飛ばしてもオッケーってコトで。
 ま、その辺の話であたしに訊きたいことがあるなら別だけど」

灰院鐘 :「……じゃあ」

灰院鐘 :「気にしてないけど、ひとつだけ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ふむ、何かな」

灰院鐘 :「どうやって倒したらいいと思う?」

ダン・レイリー :「………“天刑府君”をか?」

灰院鐘 :こくりと頷く。

紅 蘭芳 :
「……ですね」
 握りこぶしを強く握り直し

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「へえ、男の子だねえ。ま、やられっぱなしじゃ癪なのはわからんくもないかな」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「とはいえ……弱点らしい弱点がないから強い、ってタイプの強さだからさ。結構難しい話だよソレ」

ナタリー・ガルシア :「遠くから攻撃する、というのはどうなんですの?」

ダン・レイリー :「横からで悪いが、それが可能ならヤツはもっと早くに斃れていただろう」

ダン・レイリー :
「………ヤツの強さは人の“当たり前”を突き詰めた先だ。
 ただ速く、ただ鋭く、ただ重い」

灰院鐘 :「……うん」言葉少なに、身をもって知ったと首肯する。

アトラ :「……う~ん、“普通に強い”ってヤツっすか?」

ダン・レイリー :
「ああ。こういう小細工抜きを突破する方法に、小細工というのは使えない」

 何ならやったヤツと結果を知っているしな。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「概ね大尉殿の言うとおりだよ。だいたい、攻める側で勝てるみたいな発想はやめた方がいい。

 狙撃して、暗殺して、弱点ついて。それ、全部先手取れた前提だよね?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「絶対勝てる状況を作って斃すなんてのは、絶対勝てる状況作れる奴が初めて言える台詞だよ、そう言うのは期待しない方がいい」

ナタリー・ガルシア :「むう……ですが、必勝と言わずとも勝ちの目がある状況に誘い込むのが無理であれば、勝つ方法が無くなってしまいますわ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「それもそーだ。けどまあ、別に正面からやってまるきり勝ち目がないとまでは言ってないでしょ。
 あいつの性能は基本的に『人の技術の延長』なわけでしょ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「だから物量で押すのは結構辛いと思うよ。
 あたしみたいに能力で蹴散らせるタイプの技は使えないだろうし」

灰院鐘 :「…………」

アトラ :(おぉ……まともなアドバイス)

ダン・レイリー :「個人的には反論したいところもあるが…事実だ。一対多が得意分野というわけではないだろう」

ダン・レイリー :「ヤツのハヌマーン・シンドロームはナタリーのようなタイプではないしな」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ついでに言うとあたしほど耐久に優れてる訳でもない。となると……あとは根性で殴り返すとかじゃない?」

ブルー・ディキンソン :「なるほど、古典的だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「殺られる前に殺れ、が戦の常道だけど。
 ・・・・・・・・
 そいつが通じないからオーヴァード戦は怖いんだよね」

灰院鐘 :「うん、だけど……」

ダン・レイリー :「…だけど?」

アトラ :「……?」

灰院鐘 :「一度に死ねるのは一回だ。根性で殴り返す、というのは結構いい手だと思う」

ナタリー・ガルシア :

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そうそう。どだい、こいつは闘いだ。

 無理せず勝ちを拾おうなんてのがムシの良い話と思わない?」

ナタリー・ガルシア :「……それは、勝つまで負けなければ必ず勝てるというような論法ですわよ?」

ナタリー・ガルシア :「――ですが」

ナタリー・ガルシア :「ええ、無茶を通すのがオーヴァード。それしかないのであれば、その無茶を通しましょう」

もっとも、と、本当に実践しそうな巨体を見上げるように見つめる。

「その上で、出来るだけ勝率を上げるための手立てもきちんと考えましょう――無茶はなるべく少ないほうが良いですわ」

ダン・レイリー :
「無理せず勝ちを拾えることなどないが、
 しなくていい無理をする必要性もない。そうだな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ナタリーの言う通りですね。
 無理は通さねばならない時に通すもの。出来る限りの手を打ち、運以外の要素を徹底して詰めるのは戦の常道です。
 初めからそれをアテにするべきではない」

アトラ :
「無茶はやりつつ無理はしないってね。
 まああんまりいつもと変わんないってワケだ。……いやウチ具体案は浮かばないけども」

ブルー・ディキンソン :「ま、詰め方の問題にはなるわな……実際、補給路をどうにかしないといけないんじゃない?」

灰院鐘 :
       受けて、耐える
「……もともと   根性   の部分を担当するのが今の役割だ。アトラくんの言う通り、いつもと変わらない」

灰院鐘 :
「でも僕は……その"いつも"で届かなかった」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……ま、論点をずらすようで悪いけど。
 どうやったら勝てる、というのは一旦棚に置いた方がよさそうだ。最終的に消すとしても、今すぐ消せるでもないからね」

 それよりどう対処するかに絞る方が得策だ、と彼女は続ける。

ダン・レイリー :
 ………とはいえヤツの脅威はどだいシンプルなもの。
 ・・・・・
 事前の対策など望めない類だ。出来るならそうした。

 いざとなれば文字通り、肉を斬らせて骨を断つことになるだろうという点も、間違っていない。
 難儀なコトに。 

ダン・レイリー :
 ただ………この少年はそういう時、痛みを受け取りに行きがちだ。
 汚れ役、貧乏くじを自ら引きたがるとでも言うべきか。

ダン・レイリー :

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あいつはジャームで、そういう方向性に縛られ続けてる。言ってみればあいつ自身が台風みたいなもんなわけでしょ?
 その目的も既に打ち明けた訳だ」

灰院鐘 :「……うん」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「向こうの狙いはリザレクトの進行によるジャーム化なんでしょ?
 暗殺向きの癖、ずいぶん遊びが多いようだ。なら、一発で殺し切られることもないし。
 向こうも殺されてやることはないんだろう」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「一撃でリザレクトが間に合わない、なんてことがないように加減してくれるなら、そいつに乗っかって殴り返せば向こうは退くよ。
 向こうの体力が尽きるより前に」

アトラ :
「うーんパワープレイ……だけど真理っぽい。
 まーまー、実際ウチらも一人二人でぶつかりに行くわけじゃないんだし……一旦は前向きに考えとけそうだね」

灰院鐘 :
「そう、だね。……うん、その通りだ」

灰院鐘 :
「……ありがとう。参考になった」アトラくんも、と微笑みかける。

灰院鐘 :
「僕は……ひとりで戦ってるわけじゃないから。今みたいな役回りのときは、特にそうだし」

 ……言葉に反して、その口調は少しだけ重い。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「どういたしまして~。
 うんうん、お仲間がいると手数も増えて楽だしね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :

アトラ :笑い返しておこう。ウチはあんまり身になること言えてないけども。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「さて……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「取り敢えず見た感じ、きちんと他の米帝の連中は来てないようだし
 上は兎も角下は協力してくれるみたいだ」

ダン・レイリー :「過剰に期待してはくれるなよ」 嘆息。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「つまんない身の上話を聞かせたところで、そろそろうちらの話をさせて欲しいんだけど、いいかな。
 勿論、おたくらにも全く関係がない、って話でもなさそうだし」
 まあ、補足みたいなもんかな。と付け足して

ナタリー・ガルシア :「……?」

ブルー・ディキンソン :「ど〜ぞ。あたしは問題ないよ」

アトラ :「う?」

灰院鐘 :「うん、お願いします。脱線させてごめんね」

ダン・レイリー :「ああ。こうなったからには其方の目的の過程について識る必要もある」

ダン・レイリー :………

ダン・レイリー :「………シャンバラの目的が達成された時のこと。その話を思えば、猶更な」

灰院鐘 :「────」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「いいのいいの。そっちの話も問題だし。
 ……まあ、どこまで知ってるかは知らないしあたしも興味ないから深く知ってはいないけど。
 だいたいおたくらには頗る都合の悪い話だろうからね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「簡潔に、あたしの要求をまとめると、だ──」
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あたしとアトラの中で暴走する遺産『浄火の柱』を止める事。この一点だね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「こいつの影響があたしとアトラのレネゲイドに影響してて、あたしら側からでは動きを押し留めることしかできない。
 別の方法で、遺産を停止させる必要があるんだよ」

灰院鐘 :「……暴走する遺産」

アトラ :「……」

ダン・レイリー :「(………遺産か。だが、それにしては)」

ナタリー・ガルシア :「…………」

回想する、曰く… :“契約者がいる場合といない場合。やはりこれも個人差がありますが、多くの場合は一般的な契約関係より強い負荷に晒されるものです”

ブルー・ディキンソン :「……別の方法ねえ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……あの時の見立ては当たらずと言えども遠からじ、と言ったところだったのでしょう。
 暴走遺物の干渉によって疑似的に契約関係の効果を使用していた。詰まるところ、力を間借りしていたという訳ですね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「方法は幾つかあってね。結局FHに居たのも、今此処に戻るのも。
 その方法のうち、選択肢によるものなんだ。それで──」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そのうちのプランの一つがキミだったわけ、お姫様」

 ぴ、とナタリーを指さす。

ナタリー・ガルシア :「……ええ、私次第の頑張り次第と言っていましたものね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あの遺産『浄火の柱』って言うのは、厳密に言えば別の遺産群に含まれる遺物の一つなんだ。
 ネツィヴ・メラー
  塩 の 柱 って言えば、旧約聖書に語られるソドムの街の伝承として知られるよね、アレアレ」

灰院鐘 :「…………」

灰院鐘 :そうなの? と勇魚くんを見る

ブルー・ディキンソン :「("ソドムの街"──……例のデータ通りか)」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ダン・レイリー :「ありとあらゆる堕落の果てに神の怒りに焼かれた、古き時代のソドムとゴモラ………」

ダン・レイリー :「………まさか、本当に。その産物が現実を殴りつけてくるとはな」

ダン・レイリー :………それがナタリーを指して言った理由は………恐らく、そういうことなのだろうが。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「はい。ソドムとゴモラの逸話は、ユダヤ教の伝説として有名です。
 退廃と混沌、堕落の果てに神の怒りを買い、裁きを齎したソドムの街。
 塩の柱とは、その中で生き残った唯一の義人、ロトの家族の妻が、燃え行く都を振り返った罪を罰する事によって変化したもの」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「女性は欲に弱い存在であるが故に、裁きを齎されたとも、或いは去り際に都市の栄華を僅かばかりにでも名残惜しさを感じた故、とも言われていますが……」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「その故に、今なお古き都を焼いた裁きの象徴として扱われることが多い。
 それが今現実に猛威を振るっているということです」

ナタリー・ガルシア :「…………」

かつては、抱かなかった疑問。
その話のどこまでが本当なのか――彼女が尽くした街が、どうしてそんな道を辿ったのか。

灰院鐘 :
「なんだか、とても厳しい話だ。教えってそういうものなのかな。僕はあまり宗教のことは分からないけど。……」

「遺産の側からすると、何かに対する罰ではあるのかな。例えば、発動の条件付けみたいに」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「言ったっしょ、遺産は暴走してるんだよ。
 今じゃ見ての通り見境なしに殺しまくる殺人ウイルス同然なわけ」
 補足するように割り込んで

灰院鐘 :「ああ、なるほど」

アトラ :「…… ……」

灰院鐘 :「……うん、話の腰を折ってごめんね。続けてほしい」

ブルー・ディキンソン :「ちなみに一つ疑問なんだけど」

ナタリー・ガルシア :「…………元々は、違う用途だったのかもしれませんわね」

ブルー・ディキンソン :「"別の遺産群に含まれる遺物"って言ったね。
 つまり子機に対する親機が存在するわけでしょう。
 それ──親機の方が停止したら、子機の方には連動するのかな?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そうそう、話が早くて助かるなぁ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「つまりあたしが言いたいのはね?
 暴走する遺産『浄火の柱』を停止させるには、その遺産の大元となってる遺産のハンドルを握れば対処できるとなったわけだ。
    S O D O M
 遺産『浄罪の都』。それの契約に適合するのが、ナタリー姫だってこと」

ダン・レイリー :
 ………親機の側から停止させるか、親機ごと停止させるか。要はその違いだろう。

ダン・レイリー :
「理解はした。色々とな。
 ナタリーが頷けば時代が終わるというのは………その遺産故のことか」

ブルー・ディキンソン :
、  、  、  ・・・・・
「なぁるほど……、だと思った」

ナタリー・ガルシア :「……では、私がその『遺産』と契約し、コントロール出来ればお二人を救うことが出来るかもしれないということですわね」

ナタリー・ガルシア :「それで、その肝心の遺産はどこに?」

ダン・レイリー :…“雷霆精”を一瞥だけはする。

ブルー・ディキンソン :
「事はそう簡単じゃないよ、ナッちゃん。
 連中からすれば、それこそが目的だからね」

ダン・レイリー :「………。其方はロサンゼルスに出向いていたはずだな。“雷霆精”」

ダン・レイリー :「その簡単ではない事について、サプライズを持っていると見える」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ありゃ、やっぱ知ってるんだ。
 あたしの心証落ちるような情報だからあわよくば黙ってようと思ってたのに」
 ちぇー、という顔

ブルー・ディキンソン :
「まあま、そこはそれ。
 あたしも一応──イリーガルの身ですから」

「そうですね、サプライズは勿論あります。
 とはいえ、二転三転しちゃいそうなので……先ずは"事がそう簡単じゃない"ところから」

ブルー・ディキンソン :
「レイラちゃんの言う通り、ソドムとは遺産のことです。
 ヨルダンで発見された"文書"に記されていた……、
 ・・・・・・・
 都市型危険遺物、とカテゴリーされるものです」

ブルー・ディキンソン :
「して、その実態ですが。
 『浄火の柱』なる遺産が、その『浄罪の都』の一部であることが既に答えです。
 現在の科学力では成し得ない、言わば超古代のオーバーテクノロジーの集積体。
 
 簡単に例えるなら、この地球という星から脱出し、他の惑星に移住することもできちゃいます! なんて夢のような科学力が詰まってるんですよ」

ブルー・ディキンソン :
「『シャンバラ』は、これを所有しています。
 しかし、彼らはこれを上手く扱えていない。
 
 契約者がいないからです。遺産に選ばれし者が居なければ、都市は目覚めない」

ブルー・ディキンソン :
「つまるところ───『シャンバラ』の目的は、ナッちゃんに遺産と契約させ、
 その技術力の全てを手にし、第三……ああいや、第四の帝国を築くつもりでしょう。

 これが、そう簡単にいかない理由です。
 自ずと彼らの野望も叶えてしまうわけ」

 ……最後の方は、ジョークに近いが。まあ、間違ってはいまい。

ダン・レイリー :「………………………」

ダン・レイリー :暫しの沈黙から、嘆息。

ダン・レイリー :
 オーヴァードというのはこういうものだった。
 遥か未来に辿り着く“かもしれない”ものをすっ飛ばして、現実に招き入れる。
 培われていく技術、見つけられていく物理法則、そういうものを捻じ曲げる………。

ダン・レイリー :
「『シャンバラ』の、ヨーゼフ・メンゲレという男の意思が生きている限りは、な」

ダン・レイリー :
「………未来に託されるような技術が、太古の昔に適っているとはな。とんだオーパーツもあったものだ」

ダン・レイリー :
 本当に。
 ………血眼になる理由も、連中が手を貸す理由も分かる、オーパーツだ。

灰院鐘 :
「……ソドムについて記述している文書か。すこし気になるね。ブルーさん、それについて他に何か情報は?」

灰院鐘 :
「……契約者がいなければ、都市は目覚めない。……」

灰院鐘 :
「ナタリーくんがいれば解決することも、かえって彼らに寄与してしまうことも、理解はした。
 でもこの話には、もっと大事なことが抜けていると思う」

 悩むように俯いた灰色のまなざしが持ち上がって、勇魚を見遣り、次いでナタリーのもとで止まった。

灰院鐘 :
「遺産と契約し、その力を扱うのなら……何らかの代償があるはずだ」

ナタリー・ガルシア :「…………」

波打ちそうになる気持ちを固めた決意で踏みしめる。
直面し、受け止めるには、少しばかり時間が必要な事実――意図的に考えないようにしていたことを突きつけられて、意識的に静かに深く呼吸する。

ナタリー・ガルシア :「……ありがとうございます、気遣って頂いて」

向けられた灰色と視線が重なる。
いつもの心持ち、前向きな思考、冷静な判断――己の中の、これまでを掻き集めて、灰色へと微笑みを返して、言う。

「私も気になりますわ、それほど重くない代償なら嬉しいのですが」

灰院鐘 :
「……もし」

灰院鐘 :
「代償が軽ければ。……君が許容できる範囲であればいいと? ……」

灰院鐘 :
「君は……賢いから。分かっているはずだ。何かを差し出すということの重さを」

灰院鐘 :
「……だからこそ。得られるものと秤にかけてしまわないか……僕は心配だ」

 揺らぎを押し込めるナタリーとは対象に、鐘は苦悩を隠しもしなかった。

灰院鐘 :
「……きみが"正しい"と思う判断と、"できる"判断はきっと違う」

ナタリー・ガルシア :
「…………」

ナタリー・ガルシア :「……人生は、限りなく続く問題集と言いますわ」

一瞬、重ねた視線を外す。床を見つめるように俯いて――顔を上げたときには、変わらぬ微笑みが困ったような笑みに変わっていた。

「選ばなければならない時が必ず来ます――どちらかを天秤にかけて、より良い方を選ばなければならない時が」

ナタリー・ガルシア :「それならば、私は私に出来ることをしますわ――それが正しい判断だと、そう信じて選べるように」

それは、拒絶に近い否定だった。

・・・・・・・
認めてしまってはいけないという、無自覚と自覚双方からの防衛反応。

ナタリー・ガルシア :
「貴方もそうでしょう?自分に『出来る』ことがあるなら、その責任を果たそうとしますわよね?」

それが卑怯な言葉だということは理解していて、それでも尚ナタリーはその言葉に頼らざるを得なかった。

灰院鐘 :
「……正しいと信じなくては選べない判断なら、君はそうするべきじゃない」

「失ってから……これで正しかったのだと自分に言い聞かせるような選択を、僕は正しいとは思わない」

灰院鐘 :
「……いや」

 拒絶の壁を超えようとするように、鐘の足が半歩前へ出た。

灰院鐘 :
「梯子を外すようで悪いけど。僕にはずっと、そんなものはなかった」

 強い決意、重い責任。
 そうしたものとは何一つ無縁なまま、ここに立っている。

灰院鐘 :
「僕は勇魚くんのようにも、君の敬愛するリリアさんのようにもなれない」

 構わない。
 跳ね除ける腕、立ち続ける脚、前を見据える頭。
 それだけあれば鐘には十分だった。

「この身はただ、力なき人々と──戦う君たちのために」

灰院鐘 :
「大好きだから、助けたい。力になりたいんだ」

灰院鐘 :
「理由はずっとそれだけだ。やりたいことをやっているだけの僕に、君と同じ土俵に立つ資格はないよ」

灰院鐘 :
「だから、そうだな……まずは君を、君自身の選択から守りたいな」

「できるからする、すべきことをやる。もちろん大事だけどね。それだけじゃない"ナタリー・ガルシア"の声を聞かせてほしい」

ナタリー・ガルシア :
半歩。

詰められた距離の分だけ、ナタリーが下がる。

ナタリー・ガルシア :投げかけられる真摯な言葉。
心の底から他者を思いやる心。

守りたいと、そう告げた言葉に嘘はない。
哀れみや憐憫ではなく、好意からの申し出であることも、対峙したナタリーには伝わっていた。

けれど、だからこそ――

ナタリー・ガルシア :
 ・・・
「いいえ、私は一人でも立つことが出来ます――貴方のその腕は、力のない人々のために振るわれるべきです」

表情とは裏腹に、絞り出したようなその声音が紡いだ言葉を真実だと信じる者がどれだけいるだろう。

「私もそうです。こうありたいと願い、こうあろうとしたから今の私があるのです――これは、紛れもないナタリー・ガルシアの言葉ですわ」

ナタリー・ガルシア :「――それに、」

貴方が、と。
形作りかけたその言葉を、けれど僅かに残った冷静な部分がブレーキをかける。
呑み込んで、形にはならなかった真っ黒な言葉。
けれどそれは、己の中から溢れそうになった醜さだった。

ナタリー・ガルシア :思わず俯いて、愕然とする。
強く、正しく、善くあろうと努力してきた。
己の醜さも、弱さも、自覚して、目をそらさずに向き合ってきたつもりだった。

けれど、あの時から何も変わっていない。

結局、あの時から、何も。

紅 蘭芳 :
「…………っ」

 絞り出すように告げられる言葉は、見ているだけで痛ましさを覚えずにはいられなかった。
 まるで今、何かが零れ溢れ出しそうな、そんな懊悩の兆し。
 誰もが、それに薄々勘付いていたところはあった筈なのに。

 紅は暫し何を言うべきか分からないまま口を開こうとして……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あのさぁ」

 億劫気にため息をついて遮ったのはラクシャーサ。彼女は……心底面倒そうにパン、パン、と拍手を打って、流れを断ち切った。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まだ最後まで話し終えてないのに、勝手にお通夜になられても困るんだよね。プラン幾つかあるっつったっしょ。
 
 考えるのは取り合えず手札全部覗いてから。これ、レイラ先輩の経験則ね」

ナタリー・ガルシア :「……そ、そうですわね。すみません、話の続きをお願いしても?」

取り繕った表情は殊勝なもので、そこには逸った恥じらいすら浮かんでいる。
俯いたナタリーの表情を見た者がいたならば――その仮面の下に押し隠したものが、なんだったのか理解したかもしれない。

だが、その精巧な仮面はナタリー自身からも己の本心を包み隠した。

幸か不幸か、ボロボロに繕われたパッチワークであろうとも、確かに覆い隠された。

灰院鐘 :
「…………」

 青年は逡巡した。どうしてあげるのが彼女にとって最良なのか、迷いが生じた。
 だが、彼の沈黙が長引くことはなかった。重い空気を打ち破る柏手へ、引き寄せられるように視線を向ける。

灰院鐘 :
「それは……うん、たしかにそうだ。ごめんね」

 また話の腰を折ってしまった、と反省。

 ……そのわりに、立ち位置を変えようとはしなかった。強引に踏み込むのはやめにしても、詰めた距離を戻そうともしない。
 ふだん表に出さない──ともすると自覚さえしてない彼の頑固さが滲むしぐさ。

「改めて続きをお願いします、先輩」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あーあ。本人がこの様子なら、最初から事情話して言いくるめてりゃ案外アッサリいったかもだねえ。……っと、失言失言。
 話、戻すよ。いい? いいね。よし」

 半ば強引に話の流れを戻して、レイラは再び深く椅子にもたれかかる。

ブルー・ディキンソン : 

アトラ :
「こらこらこら」

ダン・レイリー :一度頷いて、

ダン・レイリー :
「続けてくれていい。明日の話をすれば何とやらだからな」

 目に見える失言には触れない。
 本当にそのつもりならやるだろうし、そのつもりにならないようにすればいいだけだ。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「で、何だったっけ。うちらシャンバラの目的の話が出たとこかな。
 うん、概ねメイドちゃんの言ってることは間違いないよ。元最高幹部が保証しましょう」

ブルー・ディキンソン :「コ・ス・プ・レです! ……ごほん、そんなことより」

 ありがたい話なんだかちょっとありがたくないんだか、保証についてはありがたく思っておこう。

ブルー・ディキンソン :「でー……ええ、そうですね。
 少なくとも、あたしが見てきたものに"代償"について詳しく書かれている部分はありませんでした。
 主に"浄罪の都"というものの詳細と、シャンバラが継承者の創作と捜索を行なっていたと言う事実がメイン」

ブルー・ディキンソン :「"浄罪の都"について記されていた文書というのは……、
 ちょいと歴史に詳しければ聞いたこともあるかもしれませんね、『死海文書』というものです。
 1947年以降に死海周辺で発見された、ヘブライ語聖書の写本を含んだものです」

灰院鐘 :「死海文書……」

ダン・レイリー :「ヘブライの最古の写本というやつか」 

ダン・レイリー :………。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :「…………」

ブルー・ディキンソン :「…………まあ、この文書も含めて、代償については"意図的に記してなかった"可能性もあります。

 シャンバラにとって、
     ・・・・・・・・
 それってどうでもよさそうですから」

 ラクシャーサが"悪者"というような表現をどこかで使ったのは、そういうことではないか……という個人的な推察だ。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まあね。概ねその通り。実際問題、あたしも調べてないし」
 

ダン・レイリー :
「必要なものは遺産を扱うための鍵であって、
 遺産を継承する個人ではない…そういうことか」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「"コードトーカー"あたりは、こんなアブないオモチャのナードだから趣味で調べてそうだけどね。
 基本的に押し付けるものだから考慮してないんだよ」

アトラ :
「……わぁ~」

 アブないオモチャのナードて。

灰院鐘 :「……そっか」

ダン・レイリー :
「(………だが、それにしては………)」

 ………あの女。エヴァンジェリンとかいうのか。
 あれのナタリーへの意識は、遺産を扱う者への意識だったのか?

ダン・レイリー :
「………時に“雷霆精”。
 一つだけ気にかかる発言があったな」

ブルー・ディキンソン :「どうぞ」

ダン・レイリー :「継承者の創作というのは」

ブルー・ディキンソン :「言葉通りの意味です。
 継承者が見つからないのだから、人為的に作ろうと思ったんでしょうね。
 まあ、無理だったようですが」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あー、そんなのもあったね。ウチ管轄外だったし、入ったころにはもうお嬢のアテがついてたからその辺りは全然だ」

ダン・レイリー :「既に、さほど重要ではない。か」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ダン・レイリー :「考えてみれば当然だ。………」

ダン・レイリー :
「そのアテが付いた以上、わざわざコストを掛けることはない。
 後は無理矢理にでも、頷かせられるかどうかだった………」

ダン・レイリー :
「………十分だ。ありがとう、“雷霆精”。
 では、その無理矢理頷かせる方のプランを取りやめにしてくれた人間に続きを伺うか」

ブルー・ディキンソン :「オーケー、ではバトンパス」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「オーケイ。まずはプランAの続きね。
 姫さまは都市と契約し、兵器庫の鍵を開けられる。
 鍵を開けることであたし達は上からのコマンドで掛けられた塩の柱を癒すことが出来る。
 あたしらは病気が治ってハッピー、シャンバラの連中はビックリ箱の中身が手に入ってハッピー。そういう訳でwin-winだったわけ」

 その結果として世界の秩序がいくら壊れようとも、初めから秩序から拒絶され居ないモノとされてきた者達にとっては、何の痛痒も感じない。
 その程度のものだった。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「お嬢の身柄さえ掴めたら、あとは"預言者"に引き渡して繋いでもらうつもりだったんだよね。
 ……二週間前だっけ? あの時点でホントは王手掛かってたんだけど……」

 その筈だったんだけどなあ、と。
 はぁ、と大きなため息をついて語る。

ダン・レイリー :
 ちょっと車で外食でもしに行く感覚で宇宙へ向かう手段さえ、簡単に現実に落とし込める技術力が、現代に解き放たれた姿を想像する。

 そんなものが現代の軍隊とやり合えば、赤子の手を捻るどころか、赤子に銃を向けるような力量差になる。文字通り、あとは焼け野原だ。
 強いものが生き残り、弱いものは塵さえも遺らないだろう。

ダン・レイリー :「………コードトーカーの陽動の影で行われたことか。確かに、あの場に“雷霆精”が居合わせられたのは幸運だった」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「アレは予想外に効いたかもだ。実際、あの時トラブルが起きてなきゃ結果は変わったかも。
 余計なことしてくれるよ、ホント」
 一応コレは褒めてるんだよ、と付け足して

ブルー・ディキンソン :「いえ〜い」ピース

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「わー腹立つ。
 ……シャンバラの目的は実際のとこ二つあってね。
 組織の理念としての目的と、それを叶える手段としての目的。幹部の連中は各々、別々の欲望で違う目標を目指してるんだよ。
 言うまでも無くあたしは後者のタイプね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
       ・・・・・・・・
「つまり後者は十分条件ではあるけど
 ・・・・・・・・・・
 必要条件ではなかった。だから、順序が逆になった。

 遺産を完全に制圧するより先に前者の計画を進めて、その仕上げとして都市の鍵を開ける。そういう路線変更をした訳だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……全く都合の悪いことにね。
 こちとら時間がないってのにさ」

アトラ :「…… ……」

灰院鐘 :「後悔させないよう、がんばるよ」

灰院鐘 :
「……そうせざるを得なかっただけだとしても、僕は君たちがいてくれることがうれしい。うれしいことは、なるべく長続きしてほしいんだ」

灰院鐘 :
「ごめん、また折っちゃった」ぼきぼきだね、とのんびり微笑む。

ナタリー・ガルシア :「……」

アトラ :「まーまー」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「はは、そりゃどうも。
 実際こういう時の為にもう片方の路線で動く打算は、その時点で立てちゃいたんだ。
 まあ、それがこんなことになるとは……だけど」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「それがもう一つのルート。

   ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・
 ──ソドムを制御出来ないんなら、壊しちゃえばいい」

ナタリー・ガルシア :「……そ、れは」

何かを口に仕掛けて、黙りこくる

アトラ :「…… ……」

アトラ :「壊す」

ダン・レイリー :
「………思い切ったものだな。
 精密機械に砂をかけるようなものだ」 

ブルー・ディキンソン :「ひゅう、逆にスマートだ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そ、ぶっ壊す」

灰院鐘 :「わあ、シンプルでいいね!」

ダン・レイリー :「そうだな、シンプルだ。シンプルなんだが」

ダン・レイリー :………代償の話を真っ先に思い付く程度には遺産関係のエキスパートだよな、ショウは。対応としてはそれでいいんだろうか?

ダン・レイリー :「………念のため聞くが、プランとして成り立つ程度の勝算は?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「思い切ったことを考えるな。
 そう易々と実行できることではない筈だ。
 そもそも、それで成果が得られる保証はあるんだろうな」
 

灰院鐘 :棘がすごおい……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「勝算は最初に言った通りさ。
 ……一割から、二割。今のとこはね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「けど保証はある。
 『浄火の柱』はね、ソドムが現代で活性化を始めたことと連動して機能を再開させた」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「だから大元自体を消し飛ばせば、うちらに懸る浄火の柱の効力も消えるんだよ。
 直接、『浄火の柱』を消す手段がない以上、とれる手段はこれしかない」

アトラ :
「まー確かに滅茶苦茶思い切ってるけど……。
 うまくいくなら、嬉しいよね」

ダン・レイリー :
「活性化に連動して起動したのであれば。
 不活性化に連動して停止する可能性もある、か………」

ダン・レイリー :
 具体的なプロセスやメカニズムなど分かろうはずもなく、識るだけ徒労になり得る以上、これも選択肢の一つではある。あるだろうが。
 何方かと言えば“縋るような”プランだった。第一印象はそれだ。

 ………そして、この女はそれを選択に残していた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「理屈の上では「浄罪の都」という括りの「浄火の柱」という付属物の効力を消すために、
 大元を破棄する。という手段で当たるのは、決して望みが薄い話でもない。可能性としてはありうるところではあるが……」

 そこからは遺産の性質次第だろう、と勇魚は結論付ける。
 レネゲイドというものがある種、無理矢理なカテゴリ付けによって腑分けされているところもある。その研究を見てみない事には何とも言えないが

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「勝算ってのはそれ以上に実行できるかどうか、ってこと。
 ……規模はデカいけど、核となるものについてアテはある。物理的に実行できるか、という点で問題はないんだけど。

 コレ、要するにシャンバラとの全面戦争だからね。内側に居たらまず取れない」

ダン・レイリー :
「アテ?」

 ………実行の障害は当人の発言を思い起こせば間違いなくエヴァンジェリンだろうが、プランの中核となるアテとなると、どうか。

ブルー・ディキンソン :「分の悪い賭けだこと……と?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「うん。単純にあたしより強い奴等とカチ合うリスクもあるし。
 ついでに言うとそのアテも、硬いガードが敷かれてる」

灰院鐘 :「ガード?」首を傾げる

アトラ :
「レイラより強いってのも中々だけども……」

 同じくガード?と首を傾げておく。

ナタリー・ガルシア :「セキュリティの類でしょうか……?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 エヴァンジェリン
「”預 言 者”だよ。
 ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
 あいつは都市内部と外部で、戦闘能力が変動する」

ダン・レイリー :「都市内部と外部………ソドムとやらのか。どちらが厄介なのかは───」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「想像の通りだよ。
 あいつは都市の外で活動するには時間制限なり出力制限なりがかかるけど……
 ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・
 内部である限り、限定的に都市内の遺物を使用できる」

ブルー・ディキンソン :「……とんだベンケイ様だねえ」

アトラ :
「うぇ~……」

灰院鐘 :「わぁ~……」

ナタリー・ガルシア :「……あの方が」

ダン・レイリー :
「成程。邂逅した時に用いた得体の知れない能力などでさえ、児戯か」

 最悪から考えるのが筋とはいえ、見事に懸念は的中した。予想通りだ。
 ………そうでなければ、この女が───レネゲイドに闘争を促される類の人間が、敵対をなるべく避けたいなどと言うはずがない。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……世界を終わらせられる程の、無尽蔵な神話級のオーバーテクノロジーによるバックアップ。
 それが本当なら確かに、与しがたい相手だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……"預言者"は、都市の中核となる遺物。
 つまりはソドムの核となる遺産『アポクリファ・クリフォト』を守ってる。
 この核を破壊すれば都市も崩壊するって言う弱点が見えている代わりに、それが攻略不能なレベルでガードが固められてる。あたしが言ってるのはそういうこと」

灰院鐘 :「核以外にも遺産がわんさかあって危なくて、預言者は限定的に行使権限があって……うーん、近づいてズドンとはいかないわけだ」

アトラ :
「……そ、っかぁ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ま、それ以外にもシンプルにシャンバラの連中全員を潰して回らなきゃいけないのが厳しいとこではあるんだけどねー。問題が山積みだ」

灰院鐘 :
 が──と開きかけた口が、むぐ……と噤まれる。

 よほど黒星が堪えているのか、何かしら思うところがあったのか。いつもの調子はやはり少しだけなりを潜めている。

アトラ :「……まあレイラはどうにかなったから、って楽観的にゃいかないもんなあ……」

ブルー・ディキンソン :「ウルトラハードなボスラッシュだこと」

ダン・レイリー :「しかしその山積みの問題を片づけないことには、合衆国………いや、時代ごと仲良く墓場行きだ」

ダン・レイリー :
「そこはそれ、尽力するところだな。
 エヴァンジェリンへの対応策も考える必要はある、シンプルには行かんのは確かだが…」

ダン・レイリー :
「やってみなければ始まらんさ。
 それに…僕だって連中の一人には見るに堪えないほど負けた。昔の話だがね、そのままでは居られんよ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そういう事。ま……お姫様次第ってとこはやっぱりあるんだけどさあ」

ナタリー・ガルシア :「……」

ナタリー・ガルシア :「……ええ、頑張りますわ」

ダン・レイリー :「ナタリー」

ダン・レイリー :
「そうして貰わないとならないのは紛れもない事実だが………。
 一つだけこの場で言っておくぞ」

ダン・レイリー :
「きみは僕の事情に“私達の力を頼ってもらえると思っても構わないか”と釘を刺したな」

ダン・レイリー :
「同じことを言う。頑張るのはお互い様だ。
 きみがそうするなら、少なくとも僕を巻き込むこと、僕に押し付けることに躊躇いを持たなくていい」

ダン・レイリー :
 ………それだけで解決する事情ではないのだろうが。
 この事実を前にし、ショウの言葉に足を引いた様子を見ると、目を離すつもりにもなれない。

 とはいえ───。

ダン・レイリー :
「今度は僕が話の腰を折ったか。
 ………触れなかったところを見ると、ナタリー次第の部分についてはいま説明できることではないと見ていいのか?」

灰院鐘 :ぼきぼき!

ダン・レイリー :物理的に折ってないだろうなこの音 いやいい 続けてくれ 物理的にやられる不幸なミナセはそもそも此処にいない

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「いいや? 今からでも最初のプランに鞍替えすると言う手もあるってだけ。少なくともシャンバラに悪用する意図はあっても、"預言者"の望みは別っぽいからね。
 かなーーり希望的観測だけど、最終的に遺産をどう扱うかって選択肢はお姫様次第ってことになるんだよ」

 物理的に降り始めた鐘を涼しく流して

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「尤も……さっきも保護者の皆さんが総出でストップ掛けた通り、まーロクな目に合わない。
 代償がどうのって話も上がってたけど、ホラ。シャンバラがなくなっても、目と鼻の先に、そいつのおこぼれに与りたいおっきなハイエナがいるじゃない?」

ダン・レイリー :

ナタリー・ガルシア :「大丈夫ですわ、大尉。これまでもそうだったように、私は一人で全てを背負えるとは思っていません――差し出される手はきちんと掴みますわ」

ナタリー・ガルシア :「それに、レイラさんの言う事もなんとなく分かります――預言者(あの方)は、あの始まりの夜も私の意志を汲んでくださいましたから」

それならば、と。

「特別な力を持ったからには、責任が生まれます――私自身が、力を持ちながらにして全てを見ないふりすることを許せないのですわ」

ナタリー・ガルシア :それは、心の底からの本心の一つ。
待ち受ける代償と、救えるかもしれないもの。
最後の最後。
選択しなければならない時が来た時に、全てを捨てて己だけを守ることをナタリー・ガルシアは許さない――許せないという、強い自戒。

ナタリー・ガルシア :「それに、レイラさんの言うハイエナも、案外私を守ってくださるかもしれませんわよ?なにせ、自由を愛する世界の番犬を謳っていますし」

ダン・レイリー :「ハイエナの種類など特定できんが、少なくともそのハイエナは身内想いだよ」

ダン・レイリー :「………」

ブルー・ディキンソン :「(……どうだかな───)」

ダン・レイリー :
 ………たった今、差し出されたものを掴まなかったこの娘が、
 この台詞を口にしたとて、それは理屈で自分を守る行いだ。

 こう在らねばならない、を盾にする様。
 正しさの荊で自分を滅ぼすような有様に見えた。

ダン・レイリー :「………分かっているならいい。だが、弱さは消すものじゃないぞ」

ダン・レイリー :話を戻そう、と身振り。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ノブレス・オブリージュってやつ? あたしら今日のことで精一杯な貧民層には理解しがたい発想だ。その恩恵をこれから受けるわけだし、アレコレけちはつけないけどね。
 ……まあどっちのプランでも付き合う、というか付き合わざるを得ないから、今更無理強いしたりはしないよ」

ナタリー・ガルシア :「そうですわね、多くを頂いてきましたから――その分くらいは返すつもりですわ」

アトラ :
(まあ実際ウチらの立場から無理強いも何も出来ないし、最終的にダメならそのまま終わりだし……)

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ただ……アンクルサムって連中はキミの言うような高貴な責任って奴を果たしてくれるか、ちょっぴり怪しいけどね」
 ケラケラ

ナタリー・ガルシア :「もう!揚げ足ばかり取って!」

ダン・レイリー :「なに、怪しいだけで終わらせるさ。その為に此処に来ているんだ」

ダン・レイリー :
 アンクル・サム
「祖国代表のイメージ保守くらいはやるとも。
 ………それこそ、どっちを本題として動くにしてもな」

灰院鐘 :
「僕、ダンさんが好きだよ」
 ものすごくとうとつに、それだけ言って満足する。

ダン・レイリー :「ありがとう。だが褒めても何も出さんぞ」 

灰院鐘 :「僕が両腕を出すよ」

ナタリー・ガルシア :大尉の照れ顔も出ませんの?

ダン・レイリー :残念ながらな そういうのは思春期で卒業した

ナタリー・ガルシア :

ダン・レイリー :「分かった、ではそれは会議がひと段落してからな」 押し流しつつ

ナタリー・ガルシア :そんな……

アトラ :
「まーまー イイ感じに転ぶのを期待するのは損じゃないし」

 いやまあ照れ顔とかは想像もできませんが。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ま、大尉殿に対してはそれなりに信用してるよ。でなきゃ話を聞かせたりしない」

灰院鐘 :……!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「どうあれ……
 取り敢えずこれがあたしの『欲望』で。
 その経緯と手段というわけ」

ダン・レイリー :
「それでいいさ。
 事を終えるまでは、“それなり”が最大評価であった方がいい」

 僕へのそれが、間違っても信頼であってはいけない。
 なんていうのは、言うまでもないことだ。

ダン・レイリー :
「だいたいのことは分かった。
 ………最終的な遺産の対処方法にはナタリーに選択肢と情報が要ることだが、シャンバラとの交戦と摘発自体は変わらんな。表の目的も無視し難い」

ブルー・ディキンソン :「……ま、忘れちゃならないですね」

ブルー・ディキンソン :「ナチ公ですから、元は」

アトラ :「うす」 頷き頷き。

ナタリー・ガルシア :「そうですわね、野放しには出来ませんわ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そうだねぇ、こうなった以上あたしも運命共同体だ。
 あたしもまだ生きるの諦めた訳じゃないし、そこはきちんと付き合うよ」

灰院鐘 :「────」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……………………ちなみに」

灰院鐘 :「ちなみに?」

ナタリー・ガルシア :「ちなむと?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「多分だけどね。
 ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・
 あたしの寿命、このペースだと一か月ちょっとだ」

灰院鐘 :「それは……ちなみに、で済まさないでほしい……」

ナタリー・ガルシア :「まったく同意見ですわ……」

ダン・レイリー :………重大事項をさらりと言わないと気が済まないのか………?

アトラ :「…… ……まあ、ね~……」

ダン・レイリー :………いや。そうさせたんだろうな。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「今年中になんとかしないとヤバいんだよね。
 アトラも、多分そう長くない」
 あたしよりはマシだろうけどね、と付け足して

アトラ :
「やっぱさあ、今から抗生物質とかドーンとしてもそっちの分はちょっとは猶予できたりしない?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ちなみに、だよ。その程度の話さ。
 結局この任務も残り三週間ちょっとで巧く〆ないと大変なコトになるだろうし。
 アトラも、今チキって注射付けするのは却って拙い」

アトラ :「うぐ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「結局力を抑えるってことだからね、注射打つって。
 どうせコレが駄目ならその後のアテはないし、終わりでしょ。
 泣いても笑っても後この一か月でケリつける気でいた方がいい」

ブルー・ディキンソン :「一ヶ月か……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「大丈夫大丈夫、殺されでもしなきゃアトラはあたしより先に死なないし、あたしもリミットまでは死んでも死んでやる気はないし。
 この遺産の因子さえ外れれば、オーヴァードの自然治癒力ですぐに蝕まれた病状も戻るだろうから」

ダン・レイリー :
「………そうだな。タイムリミットはどちらにせよ変わらない。
 果たす意味が増えただけだ」

ナタリー・ガルシア :「それはそれとして、極力おしとやかにして欲しいですわね――特にレイラさんには」

アトラ :
「……まあ、うん。レイラだけがギリ間に合わないなんてこともないだろうからね。
 どっちにしたって変わんないってのはそうっすね」

ダン・レイリー :
「ああ。

 ………今更説明の要らん相手は省くとしても、エヴァンジェリンとの対面には二人ともそれなりに警戒しておくように。特に都市内だ。
 ヤツが一部使えるという遺産は、其方の遺産の親機のようなものと判断出来る。“予測外”があってもおかしくない」

灰院鐘 :「……それなんだけど」

灰院鐘 :
「アポクリファ・クリフォト……だっけ。都市の心臓。それ以外にどんな遺産があるとか聞いてない?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……ああ、それね。そこまで詳しくはないんだけど……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「一個だけヤバいのは知ってるよ。
 あれは入島した時に確かに感じ取ったものなんだけど」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……うん、勿体ぶらずに言っちゃうとね。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 あの島の中には入った瞬間からレネゲイドの行使が制限されるんだ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「それも単純な制限ってワケじゃない。
 ……身体的な機能、例えば常に自分に掛かっている体質的な要素を除いて、全部。
 ・・ ・・・・・・
 一切、遣えなくなる」

灰院鐘 :
「それは……困ったな。僕にできることの多くは、レネゲイド頼りだ。飛び出せば盾くらいにはなれるだろうけど」

灰院鐘 :
「……」

灰院鐘 :
「…………」

灰院鐘 :
「入島?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あれ、言ってなかったっけ?
 遺産『浄罪の都』は人工島のカタチをした遺物なんだよ。
 テ メ ン ニ グル
 バベルの塔とかと同じ、建物とかが丸ごと遺産になっちゃったって奴」

灰院鐘 :
「……驚いた、ほんとに都市なんだ。いや、そう聞かされてはいたけど……きみが行ったことがある、っていうのが」

 いちばんびっくりしました、と素直に表明。

灰院鐘 :
「大丈夫だった?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「なんせウチの拠点だからね。いや拠点って言うより、別荘かな? 一部のFHのお偉いさんと商談する時なんかに使ってたんだよね、一種のトライバルエリアってやつ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あ、先に言っておくと場所はわかんない。
 それが、入島時に律儀にディメンションゲートを開いてもらわなきゃ、そこから出入りできないんだよね」

灰院鐘 :
「う」

ダン・レイリー :「………座標が特定出来る者がいなければ、そもそも入ることも難しいか」

アトラ :
「人工島で別荘って字面並べると一気に金持ちみたいだね」

 言ってる場合でもないが。
 ……まあ、そりゃあ、対策くらいはするだろうなとも思う。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「羽振りはいいよー、リエゾンエージェント。アトラも一度なってみる?」

ナタリー・ガルシア :「なってみる?でなられても困りますわね……」

アトラ :
「イヤすぎない?」

ダン・レイリー :「実際、羽振りが良いから尽きないんだよ、連中は」

ブルー・ディキンソン :「特権階級〜」

アトラ :
「考えとこっかなあ」

いや無理だが。そもそもレイラほど強くないし。

ダン・レイリー :「その場合は目の届くところでやらかさないようにな」 やらかせる人間ではないだろうが…と一言付け加えておく。冗句には冗句だ。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「アトラ、商才はあるかもだけどくじ運良い方だから逆にきついかもねー。
 ……島の中にはあたしはそこそこ出入りしてた方なんだよね。そこで『アポクリファ』についても知った訳だし」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「けど……そういえば意外にコードトーカーの奴、島に入島したのは最初の一回きりで、それ以降は一度も来なかったな。
 あの遺産マニアにしちゃ珍しい」

ダン・レイリー :「内側では手が出せないと言ったのもソレか───………?」

ブルー・ディキンソン :「嫌われてるんじゃない?」

灰院鐘 :「その一度でだいたい理解した、とか? 頭いいんだろう、彼女」

ダン・レイリー :………コードトーカー。遺産への執着心は少なからずあったように見えたが。

アトラ :「ハイレベルの天才さんでももうちょい出入りしない?」

ナタリー・ガルシア :「そういえば、コードトーカーさんのことは資料でしか知りませんわね……あまり、善良な人ではなさそうというのは分かりますが」

ダン・レイリー :「………頭の良いヤツというのはな。たまに理解しなくてもいいことまで理解するんだ」

ブルー・ディキンソン :「天才ほど、ビビりって言うし」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「違いないや。ビビリだからエフェクトがいつでも使えないってだけで胃が痛いんでしょ」

アトラ :
「あ~ フィジカルないと力頼りの人だと怖そうだもんね。話聞いてる感じ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「能力の制限にも結構差があるしね。
 あたしなんかよくわかんないけど割と使えたよ、エフェクト」

灰院鐘 :「いいな~」

ダン・レイリー :「………エフェクトの使用制限の差か。詳しく聞きたいところだが、その条件が分かれば苦労もしない。其方も脅威とは言わないだろうな」

アトラ :「そうなんだあ……」

ダン・レイリー :「だがコードトーカーが、か………」

ダン・レイリー :「………」 考え込む素振り。僅かに視線が動く。

ダン・レイリー :「あとの遺産は全てアンノウンか。…出入りしていた連中については?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「悪いね、色々検めたけど遺産に特別詳しいって訳じゃないんだ。そういうのはコードトーカー捕まえて吐かせるべきだと思うね。
 ……で、出入りしてた連中の話?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「一番出入り激しかったのはブラックモアだね。
 あいつが一番精力的に動いてたし。後……」

ダン・レイリー :
「ヤツか。
 ………シャンバラの表的なリーダーとも聞く。当然と言えば当然だが」 続きを促しつつも、一人呟く。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……うちが占拠してた、O-tec社の社長さん。
 ギルドの人間なんだけど、随分得体のしれない場所なのに商談のためによく出入りしてたっけ。
 今じゃ一番のお得意様だ」

ブルー・ディキンソン :「うらやまし〜……」

ダン・レイリー :
「………………」

「デトロイトきっての大企業。羽振りのいい話の裏がこれとはな」

ナタリー・ガルシア :「……未知のテクノロジーが急成長の秘訣、ですか」

アトラ :
「……そんなところまでお呼ばれするくらいにしっかり関わってんだ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「国が死に物狂いで欲しがるほどの技術を先取りして研究できるんだ。レネゲイドの商品なんてレッドオーシャンのデッドレースを、一人ぶっちぎることが出来る。
 となると、こぞって手を出すモンなんだろうけどね。商魂逞しいねえ、ちょくちょく同席してた戦争狂がジャームだってことちゃんとわかってんのかねぇ?」

ブルー・ディキンソン :「……ま、狂人を乗りこなして、使いこなしてこその商人と言いますし?」

灰院鐘 :
「……困ったことに、既に流通してるしね。アラスカでシャンバラと闇取引のあったセルと交戦したよ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「"グリーンリヴァー"ですね。あそこでニューオリンズで観た機動兵器の試作機らしき相手と交戦しました。
 テンペストに共有した資料にも情報が残されていたと思いますが」

ダン・レイリー :「ああ………確認している。それにきみたちが当たったこともな。“炎神の士師”、そしてショウ」 

ダン・レイリー :
「O-tec社製の新型とも交戦はした。
 あの“キューブ”というやつの入手経路は、考えるまでもなくそこだったんだろう。

 ………軍事的には、これ一つでさえ簡単にバランスの崩れるようなものをな」

ナタリー・ガルシア :「あんなものが流通してしまえば、今まで以上に銃爪も軽くなってしまうというものですわ」

アトラ :
「あ~。二足歩行の戦車だの何だのと取り揃えてるっぽいっすもんね。
 普通に考えて、ホントはぶつかりたくはない武器だよなあ~」

ダン・レイリー :無言で同意する。なにしろ、直接手に血を付けてコレだ。

灰院鐘 :
「わあ、そうだったの? なんだか照れくさいね」
 情報共有の件についておっとりと微笑んでから、表情を引き締める。

ブルー・ディキンソン :「ああ、それ見たな、"キューブ"。"浄罪の都"と同じデータにあった。
 シャンバラが解析したデータで作ったそうねえ」

灰院鐘 :「……うん。複製品と言っても、あれだけの規格を持った兵器の動力源になりうるのは脅威だ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「アラスカ支部とて弱小ではありません。その支部が試作機一機を前に本部の出動要請に至るまで追い詰められている。
 ……我々で対処出来たところで、これが各地で解き放たれればとても守り切ることなど、出来ません」

灰院鐘 :「うん──がんばる理由がいっぱいだ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ソドムのロックの解除を後ろ回しにして計画を進めたのも、その辺の事情を加味してだろうね。
 セイギノミカタってのは大抵後手に回らざるを得ないワケだけど、悪党はいつでも先行で動ける」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「時が来たらそれなりの混乱は起きるだろうね。
 ま、その辺りバックグラウンドを鎮めるのはそっちの仕事だ」

灰院鐘 :
「任されました。きみは家族とゆっくり過ごすといい」

灰院鐘 :
「年の瀬にあくせくするのは僕たちの役目ってことで!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そりゃいいや、UGN様様だ。
 初日の出を待つにしろ死を待つにしろ、その時はゆっくりさせてもらいましょう」

灰院鐘 :「もちろん初日の出だよ。そのつもりでやるからね」

灰院鐘 :ね〜 とみんなに振り返ろう

ダン・レイリー :「どのみち其方の念願が叶わなければ、大方此方も任務失敗だ。年の瀬を過ごすどころではないしな」 

ナタリー・ガルシア :「私としては、生誕祭も楽しんでほしいですわね」

アトラ :
「……っす。
 まあ其処まで行くとウチら出来ることないだろうしね」

 そこまで行ければ良い。……行こう、という話だ。

ダン・レイリー :
「其方は其方で間に合えばな。
 初日の出が待てるならその裏で、後始末ついでに本土でカウントダウンもしていてやるさ」

ダン・レイリー :とはいえ、終わるまでは“安心していい”とは言わない。それを言う役目は僕ではない。

ブルー・ディキンソン :「良いていあ〜ん」

????? :
「──そうですね。時が来た暁には、場を収める役目は我々UGNが努めることとなるでしょう。
 人々を護り、日常を護り、その積み重ねの上で世界を護るもの。
 UGNとはそのために生まれ、そのために集まった組織なのですから」

 その時、密談する一同の間に一人の凛とした女の声が割って入る。
 整った歩調の足音が、続いて響く。淀みのない歩調も迷いのない口調も、この場のレイラ・イスマーイールを除いて誰もが知るものだった。 
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「!」

 やや驚いた様子で、声の響いた方角へ勇魚は顔を向ける。作戦中で彼女が直接顔を出したのは、これで二度目となる。
 

ナタリー・ガルシア :「……お姉さま」

灰院鐘 :「リリアさん!」

ダン・レイリー :視線を其方に動かす。

アトラ :
「わ」

 やば。いや、やばくはないのか、もう。

ブルー・ディキンソン :「ん───」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 悠然とやってきたのは、金砂のような髪を流した長髪の女性。纏った騎士装束は伊達や酔狂のものではない。
 常在戦場の在り様を示す矜持の現れだった。

「聊か遅れたようですね。
 ですが話は、陰ながら耳にさせていただきました」

 ガーディアンズの最初期メンバーにして遺物探索局創設者、
 ファースト・シーラー
 最初の封印者……リリア・カーティスであった。

ダン・レイリー :「コードウェル博士の代理の任を考えれば、早いくらいでしょう」

ダン・レイリー :「…レイラ・イスマーイールには其方の手での根回しもあったと伺いましたが」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……その節はこちらの無茶な要望にお答えいただき、ありがとうございます、教官。
 して──今回は何故こちらに?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「無論、そのレイラ・イスマーイールに関することです。
 ……封印者たちの組織の長として、彼女たちを直接目にしないわけには参りません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「言葉の駆け引きも、詭弁も不要です。
 自らの責務において、あなたを迎え入れたことが正しいことであったのか、過ちであったのか。
 この目で見定めるために此処に来ました」

 言いつつ、その視線をレイラと……もう一人の少女、アトラへ向ける。敵意とも警戒心とも異なる、澄み渡る翡翠の双眸が両者を射抜いた。

灰院鐘 :
「……そっか。じゃあ大丈夫そうだ」
 誰にとってもね、とおっとり微笑む。

ナタリー・ガルシア :「……そう、ですわね」

アトラ :
「…… ……」

 言葉を重ねること自体は不可能でもない、が。
 その目で射貫かれ、ぐ、と口を噤む。視線は困ったようにレイラに向いて、その後にみんなを一巡しリリアへ戻った。

ダン・レイリー :「(………イリーガルとして迎え入れたのは、逃がすことなく、自らの目で是非を見極めるためでもある、か)」

ブルー・ディキンソン :ういんく☆でお返事。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 レイラ・イスマーイールという女は並のエージェントではない。彼女が軽薄な態度を誰に対しても取り続け、掴みどころがないのはこれまでのやり取りを通じて良く見てきた。
 故に勇魚は、この人を相手にまた粗相な絡みをしてくるのではあるまいな。と、横のレイラを見遣った。
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「────────────────────────、
 ・ ・・・
 何、こいつ」
 
 ……瞠目した眼で相手を見つめ返すレイラの口をついて出た言葉は、あまりに率直な言葉だった。
 恐怖ではない。ただ戦慄と脅威を前に、レイラは冷や汗をかいていた。
 

ダン・レイリー :
「───………」

 ・
 誰、ではなく。
 ・
 何、だと? 

ダン・レイリー :
 ………なんだ、その。
 得体の知れない生物に───いや。
 会うことのないようなものに、出会ったような反応は?

灰院鐘 :「? 何っていうか、誰っていうか。リリアさんだよ」

ブルー・ディキンソン :「(……んん?)」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「…………ああ。あんたが、噂の?」

 鐘の補完を受けて、納得した様子で頷く。
 レイラは、明らかにやや気配に気圧された様子だった。

アトラ :
「……なになに。驚いちゃったの?」

 ……ちょっと変な反応だったかな、とは思うが。一先ずは見守る。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 そちら
「 F H でどのような噂が立っているのかは存じ上げませんが。
 少なくとも現在、UGN本部を博士に代わり、臨時で仕切っているのはこの私です」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……驚くに決まってる。何さ……
 こんな奴がいるならもっと早く言ってよ」

 こそこそ、とアトラに耳打ち。

アトラ :
「えっ?てっきりある程度は知ってて、そっちの組織でも細かくは調べてるもんかと……」

 それにしたって、どゆこと?と。首を傾げつつ小声で返す。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「調べはしたよ、そりゃあ敵組織なんだから。
 コードウェル博士、ベルナール・ブルム、ケイト・ジュリー、エドワード・ペイン、チャーリー・ウィンストン……こっちの最初のメンバーの話はね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「リリア・カーティスについても話ぐらいは。

 ──けど。単独でリエゾンロードを何人も潰していったって、あの与太もこれが相手なら少し信じられる。
 なんでこんなのがまだ拠点でのびのび隠居してんのよ」

アトラ :
「そ……そんなに?」

 ナタリーの“お姉様”、レイラがこんな反応を見せるくらいには凄いのか。
 実感が薄かった、と言わざるを得ない。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「聞こえていますよ」

 ぴしゃり、と遮り

アトラ :「ひょわ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ゲッ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「────────。
 どうか、怯えないでください。
 私も、この場にいる誰もが、あなた達の生存を望んでいる」
 

ナタリー・ガルシア :「……お姉さまは優しい方ですから、こんな冗談で怒ったりはしませんわ」

そうですわよね?と、首を傾げてリリアを見つめる。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 こくり、とナタリーに優しく頷いて、続ける。

「既に我らにとっての日常に、あなたも組み込まれている。
 故に……我々UGNは、あなたという患者を最後まで見捨てないと約束しましょう」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「UGNに、ようこそ」

アトラ :
 レイラの方へ視線を向けておこう。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 すべて見透かすような透き通った視線が断ち切れる。と同時に、ばつが悪そうな様子で椅子に座り直した。
 まるでそれは、はたから見れば蛇に睨まれたカエルのそれだった。
 間違いなく善意だと知っていながら、その巨大さ故に恐れずにいられないというような……

「……そいつは、どーも。
 品定めが済んだなら、会議に戻らせてもらうよ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……はい。話を遮って申し訳ありません。
 続けましょう。彼女を交えての会議の場を作るのは、あまり多くは出来ないでしょうから」

 此処にいないテンペストの人員のことを言っているのだろう。少なくとも今は、彼らに訊かせるかどうかは保留しなければならない。

灰院鐘 :
 頷いてから、少しだけ位置をずらしてナタリーと視線を合わせる。いいの? と傾ぐ小首。

ナタリー・ガルシア :こくん、と静かにうなずく。
ここは公の場で、今は大切なブリーフィングの時間だ。
私的な行動は表に出すべきではない。

ダン・レイリー :二人の様子を横目に一度だけ見て、視線をリリア・カーティスに戻す。

ダン・レイリー :
 隔絶した超人なことは、これまでを思えば分かる。
 それが“見定める”などと宣えば、警戒するのも分かる。

 ………それでも、あの女が“ああ”反応するのは、妙だ。
 これは善意だと分かっていても起こり得る本能。
 スケールの違う巨人の慈しみが、いつその手を翻すかに怯えるような仕草にも見えはしたが、此処にはもっと根本的なところに理由があるように思えた。

ダン・レイリー :
「(この反応をしたのは………レイラ・イスマーイールだけか。
  いま、エフェクトに意識を割くのはよろしくないな………)」

ダン・レイリー :
「連中には此方から伝えるべきを伝えます。
 祖国を詰る真似はなるべくしたくなくても、コレは事情が事情だ」

ダン・レイリー :続けましょう、と暗に一言。見定めがあの一瞬で済んだのかは測りかねるが。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「分かりました。何を伝え何を伏せるか、その判断についてはあなたに一任します。
 ただ、彼女の身を保証出来る采配を期待します」

 ダンに対して、釘を刺しつつも応えを返す。
 ……リリアもまた、特別ナタリーに接することはなかった。彼女を特別扱いすることはない、少なくともこの場では。
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「……ふう。
 とはいえ、身の上話に関しちゃネタ切れだ。あんまり深く掘り下げてもつまらないし、この作戦に関係する訳でもなさそう」

 何とか調子を戻したレイラが、場を見計らって流れを作る。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「だからそうだね、ここからはキミたちの疑問に答えられる範囲で答えるとしようか。
 あたしが重要視してないだけでキミらにとって有益な情報もあるかもだしね。実際、さっきのソドムの都市に関する話は言われて思い出したんだ」

ダン・レイリー :リリア・カーティスの言葉に頷く。そのつもりだ、という意思表示。

ダン・レイリー :それから、

ダン・レイリー :
「了解したよ。此処からは質疑応答か。
 ………」

ダン・レイリー :
「ならば個人的な疑問で悪いが。
 シャンバラの実質的な指導者は誰だ?」

ダン・レイリー :
         ドウシヨウモナイオトコ
 ブラックモアは優秀なテロリストだ。見た限りでは。
 ───そのヤツが計画を作ったなら、もう少し精度の高い、前のめりなものになるはずだった。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ああ……そりゃ当然、そこは聞くよね」

 納得したように一人頷く。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「実質的指導者って言うなら大体ブラックモアだよ。計画の設計は別の奴が携わってるだけ。
 あいつは兎に角兵力が多いし手も広い。単純な強さも、うちや元と引けを取らない」

ダン・レイリー :
「計画“だけ”は別か。
 適材適所など、FHが取ることもあるとはな」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あっはは、目的が狂ってるだけでウチらは基本そうだよ?
 研究セル担当のコードトーカー、武闘派セル担当のあたし。暗殺セル担当の元、みたいにね。
 いや、まあ元は特に指示系統持ってないんだけどさ」

ダン・レイリー :「ヤツの部下など、ヤツが一人で事を終えるのを眺めてからぼやくのが仕事になるんじゃないか」

ナタリー・ガルシア :……やりたいことをやるために集まった人々が、偶然にも噛み合って組織の体を為しているのでしょうか

アトラ :ある意味素直な集団だよねえ。ちゃんと聞いたら全然そんなかわいー感じじゃないんだけど……

ダン・レイリー :「まあ………そこはいい。複合セルだということだけは知っていた。立ち回りという意味では、最も成功したセルなのもだ」

ダン・レイリー :本題だな。

ダン・レイリー :「その計画の立案者というのは。浮かぶ名前は居ないでもないが、言えるか?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まあね。
       ・・・・・・・・・・・
 とはいえ……あたしも逢ったことないんだよね。実は」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :

「けど間違いなく、ブラックモアの上にもう一人リーダーがいる」


 実質的リーダーは、ブラックモアである。と、レイラはそう告げた。
 しかし、それは思想的な、より根本的な指導者ではないことを意味していた。
 飽く迄彼が取りまとめているだけで、それを指揮するものがいる、と。

ダン・レイリー :「………会ったことはない?」 

ダン・レイリー :
   トーデスエンゲル
「………”死の天使”というのは?」

ダン・レイリー :
 念のため聞いただけの言葉だと自覚がある発言だった。
 自分でもブリーフィングの前評判を思えばコレが“指導者”という男には見えない。決して小物ではないだろうが、荷が勝ちすぎる。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ああ、居たねそんなの。
 あいつは今研究職だよ、大した重要なポストじゃない。少なくとも今はね」

灰院鐘 :「そんなの」

ダン・レイリー :「と、来たか」 第三帝国の夢は第一歩で空中分解したらしい。“分かった”と返しつつ頷く。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まあ、殺されなかっただけよかったんじゃない?
 ・・・・・・・・・・・・
 後からやってきた今のボスに丸々席を取られちゃったんだ。巧くやってる方だよ、実際」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「基本負けた奴は総取りされて骨も残らない、ってのがFHの流儀だけど、研究成果のおかげと立ち回りの巧さが功を奏したんだろうね。
 おかげで後からやってきて組織を乗っ取ってきた奴から巧く生き延びたし、自由に研究できる身分にもなった」

ダン・レイリー :
「悪運はあった、か。此方にとってはない方が良かったのかも知れんが………。
 ならいい。ナチの亡霊に気になることはあるが、その第一印象で根掘り葉掘り聞いても逆に気の毒だろう」

ダン・レイリー :
「話を戻すならば、マークすべきはその現在の指導者周りだ。
 会ったことはないと言ったが………」

ダン・レイリー :
「では、エヴァンジェリンはどこのポジションにいる?
 あれをただのエージェントと言えるほど豪胆で、人の話を聞かないヤツは此処にいないだろう」

 ………もっと言えば、目標の達成のために使われる人材がエヴァンジェリンだ。
 計画の指導者と関係がないはずはないように思う。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あいつはどっちかというと外部顧問かな。厳密にFHというには結構微妙だ。イリーガルみたいなもんさ。
 あいつとFHは契約関係にあるだけ。利害の一致で協力してるだけなんだよ。まあ、それ言い出したらFHの全部がそう、ってことになるかもだけど」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「計画の鍵で、最重要ポストではあるけど
 指導者と特に関係がないといえばないんだよね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「というか、どっちかと言えば関係あったのはなんたらエンゲルって奴の方でしょ。
 あいつを最初に見出したのはあのナチ公だし」

ダン・レイリー :「…丸ごと掻っ攫ったとは、エヴァンジェリンも含めてだったか」 

ダン・レイリー :
 あるいは計画そのものや立ち回りを含めてまで、せっせと餅を捏ねて来た男こそがヨーゼフ・メンゲレで。
 それを食う段階に入るにあたって実を取ったのが、指導者なのかもしれないが………そこまで安易なことはないだろう。

ダン・レイリー :
「………。
 分かった。少々アテを外したが、最低限の理解はした」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そういうこと。
 要するにおいしいとこ持ってかれた訳だよ。尤もトーデスなんとかってのは、別に大した野望を持ってた訳でもない。今のポストでも結構満足してるっぽいけど」

ダン・レイリー :
「夢みたいな目標を持って、途方もなく過激なことをやろうとしているのは今の指導者の方だと?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そうだね。
 まあ向こうも色々考えてはいたんだろうけど、心折られちゃったんじゃない?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「なにせ、相手が相手だ」

ダン・レイリー :………

ダン・レイリー :
「心が負けを認めた、か。
 ………指導者というヤツに会ったことがないなら、そうだな。これも聞こう」

ダン・レイリー :
「代替わりしたのは何時からだった?
 其方がシャンバラに潜り込んだ頃には既にそうなっていたか?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まああたしが入ったのは大分最近だからね。
 とっくに代わってたよ。そもそも、連中が連中の目的を持った頃には既にそうなってた」
 

ナタリー・ガルシア :――もしくは、目的のために、組織を乗っ取ったのでしょうか

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「っていうか、そろそろ訊かれると思ったんだけどね。
 ・・・・・・・・・・
 じゃあそいつ誰なんだ、って」

灰院鐘 :「聞いていいの?」

ブルー・ディキンソン :「そうねえ」

ダン・レイリー :
「………会ったことはないのだろう?
 名前だけは聞いたというやつか?」

アトラ :「うん?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「名前だけはね。直接逢ったことがないってだけ。知らない訳じゃないよ。そこそこ有名だからね」
 

ナタリー・ガルシア :「能力や、来歴も知っているのですか?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「生憎そこまでは。来歴なら、そこの連中のが詳しいんじゃない?」

 言いつつ、勇魚や紅を見遣る

灰院鐘 :僕は僕は?

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :キミもかな。どうだろーなーめっちゃその辺の知識疎そうだなー

ナタリー・ガルシア :なるほど、確かに……と、勇魚と紅を見やる

灰院鐘 :そうかな? そうかも!

アトラ :「そういう方面での有名人ってこと~?」

ダン・レイリー :………ショウが覚えているかいないかで人命の関わり度合いは分かるかもしれんな

ダン・レイリー :「共通項はUGNか………」

ダン・レイリー :
 ロクでもないビッグネームか、
 表沙汰に出来ない名前か。予想は幾らでも出来る。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……随分回りくどく勿体ぶった言い方をする。
 いい加減、言え。それは一体誰のことだ」

 水を向けられ、反応を確かめるような素振りにムっとしたように、勇魚は問いを投げた。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「はいはい、そうカリカリしないでよ」

 腕組みして、息をつく。
 どこか内緒話でもするように徒に声を潜めて、女は告げる。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :

    ・・・・・・・・
「────マスターテリオン」


”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ッ!!」

 その言葉を前に、勇魚は目を瞠り。
 

紅 蘭芳 :
「……!!」

 同様に、紅も驚愕した。
 まるで、そんなはずがない、と言いたげに

灰院鐘 :
「……?」

ダン・レイリー :
「………マスターテリオン?」

ダン・レイリー :
 自らの口をついて出た鸚鵡返しは、UGN本部供えのエージェント等との認識の隔絶を雄弁に示していた。
 イヤ………

ナタリー・ガルシア :「……?」

アトラ :「?」

ダン・レイリー :
「(………ナタリーは当然にしても、ショウもか? だが、この分だと)」

 反応の可能性があるのは、後は………。
 リリア・カーティスか。 

ブルー・ディキンソン :「……歴史の授業でもしてたのかにゃ? これは」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「馬鹿なことを言うな、マスターテリオンは六年前に……」

ブルー・ディキンソン :「……今度はそっちが訳知りってことネ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「死んだ筈、ってやつ? くく、良い反応してくれるじゃん」

ダン・レイリー :
「………”マスター”はFHのエージェントでも何らかの分野に秀でたものに付く称号。
 直接対面はまだなかったが、この職場柄だ、聞いては来た」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「成程……こちらは、彼のやり残しということですね」

 それに対して、リリアのみが、どこか納得のいったような穏やかな様子のまま頷いていた。

ブルー・ディキンソン :「……ご大層な名前だとは思うけど……」

灰院鐘 :「よく分からないけど、すごい人だったのかな」

ダン・レイリー :
「しかし………」
       ・・・・
 その言葉には別の意味がある。
 少しでも聖書に───ヨハネの黙示録という言葉に縁と知識がある人間ならば知っている。

 確かに、御大層な名前だ。

紅 蘭芳 :
「すごいも、なにも……!」

アトラ :
「……」

 普段見ないような慌てようと反応だなあ。
 ……確かにしっかり凄そうだが。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「マスターテリオン……

 それは、かつてルイジアナ一帯を拠点として活動していたマスターエージェント……」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「かつてコードウェル博士含めたガーディアンズをただ一人で相手取り、漸く散滅させた……」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 テリオン
「最強生物の名を誇った……
 北米FHの古王の名です」

ダン・レイリー :
.   マスターテリオン
「………黙示録の獣………成程。
 その御大層な名前は伊達でないということか」

ブルー・ディキンソン :「……デジマ〜……?」

ダン・レイリー :
 ………その、群を抜いて現実味のない戦力的脅威を語る情報より先に、視界に入ったリリア・カーティスの反応が頭に残る。

 それが何かを量る暇はないが………。
 言葉は、既知の人間について話す色を含んでいるように思えた。宿命か、別たれる前の道を歩んだ人間か。あるいは。

アトラ :
「…… ……そんなん実在していいの?」

灰院鐘 :
「マスター……テリオン」

 最強を冠する最強。

 護り手たちの黎明──ある意味で、出自も年齢も異なる彼らを結びつける切欠になったとも言える戦いの、中心人物。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「彼は確かに、博士らが黎明期に展開した北米FH掃討戦にて、博士との死闘の末北米FH諸共討伐されたはず。
 滅ぼしきれなかった肉体を、ジャーム用の保存庫に格納もしています」

紅 蘭芳 :
「その肉体がなくなった、なんてことがあったら、すぐにUGN全体に行き渡ります。
 その筈なのに……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「さあ、実際に合ったことないからわかんないねその辺のコマいところは。
 でもまあ……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「いるよ。間違いなく、少なくともそれを騙れるレベルの奴は」

灰院鐘 :
 それらは、鐘にとって過去だった。彼の遠い記憶に照らし合わせれば、教科書に記された僅か数行のようなもの。
 話を聞き、感心と関心があったとして、それはとうに過ぎ去った話だ。

 だが、その過去がいま実像を帯びようとしていた。否。現に存在しているのだ。どのような形であれ。

灰院鐘 : 

灰院鐘 :
「…………」

 敵わないことも、届かないことも。この青年は気に留めてこなかった。できないことを嘆けるほど器用なら、彼はこうはならなかった。

 "天刑府君"に対する感情は、鐘自身にも理解の及ばない……なにか直感的な反発だ。敗北を悔しむ心情は本物だが、それ自体に固執しているわけではない。

灰院鐘 :
 だが、事態はもう「相手が上手だった」と受け入れられる範囲を超過していた。
 斃すべき相手のいずれもが乾坤一擲を賭さねばならない。しかし立ちはだかる幾重の壁の奥には、全貌も知れぬ絶壁が控えている。

 敵わなければ、届かなければ……それで終わりだ。

灰院鐘 :
「そっか。まあ、でも」

 初めから分かっていたことではあった。青年はあっさりと現状を受け入れて、

「また勝てばいいよ」

灰院鐘 :
「博士たちがそうしたように、僕らもがんばらないとね」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そのようです。
 であるならば……これは彼、コードウェル博士のやり残しであり、UGNの為すべき後始末なのでしょう」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「もしそれが事実なら、この計画も……或いはアルフレッド・J・コードウェルの不在を狙ったものであったのかもわかりません。
 その古き遺物は──我々の手で解決しなければならない」

ダン・レイリー :
「(考えてみるまでもない。
  他でもない彼女も含めて、あのコードウェル博士が戦った相手………)」

ダン・レイリー :
 UGNの前身たるガーディアンズ………そこに籍を置き、戦った人間の一人が彼女である以上、リリア・カーティスを含めた各々の反応の理由もむべなるかなというところだ。

 その反応、予想から、彼我の戦力差を述べることは難しくない。難題ではある。
 ………ないが、見えぬ敵に驕るなということは教わっても、怯えろということは教わっていない。

「それが合衆国で二度“やらかす”というのであれば、此方の対応も必然決まって来る。そういうつもりとだけは」

ナタリー・ガルシア :「…………」

アトラ :
「んな、フツーのことみたいに……」

 また勝てばいい、とは。あまり現実的ではないはずなのだが……皆、前向きだ。
 まあ、スケールがどう大きくなろうと最大目的の障害という点では変わりない……のか。一応は。

灰院鐘 :「ふつうのことだよ。とんでもなく難しくても、大変でも、そこは変わらない」

ブルー・ディキンソン :「(……この組織のこーいうところ、好きになれないなあ)」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「っていうか、うちらどっちにしたってそいつブッ殺さないと死ぬだけだし?
 まあ、あたし名前でしか知らないし、こっちがまだ見積もり甘いかもだけど」

アトラ :
「そうでもあるだろうけども……」

 鐘の言葉にもレイラの言葉にも頷く。

ナタリー・ガルシア :「そうですわね、元より退路はありませんもの――それならば、進むことに全霊を賭けたほうが健全というものですわ」

ブルー・ディキンソン :「……」

「で、それを現実的にするのなら情報が必要ですね。
 "前回"がアテにならないとは思いますが、以前はどのような討伐のされ方を?」

ダン・レイリー :
「尤もだ。
 戦う前から臆するのと、戦う前から楽観するのは違う」

ダン・レイリー :
 ………博士とガーディアンズ、その当時の被害などは、僕でさえ知っていることだが。
 ・・・・・・・・
 そうするしかないのは紛れもない事実である以上、若い奴らの勇み足に水を差す必要はないだろう。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「弱点……ですか」

 やや考えながら、勇魚は口ごもった。

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :いや。此処は急かすことなく待つ。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「結論から言って、不明です。
 というのもかのマスターテリオンは、その名の通り……
 ・・・・・・・・・
 生物としての完全性によってマスターの位階に達した男」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「その究極存在たる所以を何らかの手段によって解除した。とのことですが。
 その経緯について、正しい解析が出来ている訳ではない。というより、出来ませんでした」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ま、仕方ないんじゃない?
 考えてみなって、当時のガーディアンズって言ってみりゃ素人集団だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「人手もない、知識もない、金もない。まして、勢力なんてものもない。
 ──だから生き残ったコードウェル博士ってのはすごいんだろーけどさぁ?」

灰院鐘 :

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そいつの実力はともかく、その蓄積を貯める段階で何をしたか。
 そういうの、記録に残ってないんでしょ。そんな気はしてたんだ」

ブルー・ディキンソン :「全くのノーデータ、か……」

ダン・レイリー :「何をすればどうなるか、このシンドロームはどんな効力を持つか。その蓄積がある時とない時では、記録の精度も変わるというものだからな」

ダン・レイリー :「………しかし、」

ダン・レイリー :
「………そのマスターテリオンは。
         O v e r e d
 本当の意味で人間を越える者というわけだ」

ダン・レイリー :
 欠落のない生き物はない。
 鳥は泳がないし、魚は飛ばない。どうも生き物というのは、何かしら不備があるようにデザインされている。
 
 それがない生き物が“マスターテリオン”だ。

ダン・レイリー :………そもそも本当に“倒した”わけではないはずだ。

ブルー・ディキンソン :「……そう聞いていると、
 "討伐"という表現にいささか疑問がないでもないですが……」

ナタリー・ガルシア :「そもそも、まったく同一の存在なのでしょうか?」

ブルー・ディキンソン :「残った肉体の保存状況が分かるのなら、そこもわかりそうな気もするけど、実際どうなんです?
 さっき言ってましたもんねえ、消えた、っていうなら直ぐに通達されるって」

ダン・レイリー :騙りの可能性もあるか、とナタリーに頷く。実際、これが騙りだとて、“天刑府君”とブラックモアはそれほど意に介さないだろう。

アトラ :「……でも、嘘だとしても真実味があるから受け入れられてるんでしょ?」

ナタリー・ガルシア :「完全な生物という結果が同じでも、それを実現するための過程が違うのであれば、解法も変わってきます――攻略しなければならない以上、過去とはまったく違う異能であることも考慮すべきですわ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「我々UGNには討伐したジャームを格納し、治療のためコールドスリープさせる設備がそれぞれ設置されています。
 極めて生存力の高かった彼の肉体はそこに保管されており……先程確認する限り、確かに今も尚格納されているようです」

 ブラックドッグとしての能力を用いて、素早くカメラの映像を確認していたのだろう。彼女程のオーヴァードの精度なら、それが書き換えられたデータであったとしても即座に気が付く。

ブルー・ディキンソン :「容れ物は偽物、か……?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「マスターエージェントは飽く迄称号。
 FHにおいて分野を極めたもの。純粋に、単純に、「その領域において最強の座に至ったもの」のみが叙される位です。
 全くの同一存在でない場合、ありえるのはそちらでしょう」

ダン・レイリー :
「嘗てコードウェル博士が打倒した者と、今“マスターテリオン”の名を受けるに至った者は違う可能性がある。そうだな」

ダン・レイリー :
「ただジャームというやつは、時たま物理法則もあったようなものじゃないことをする。同一存在と決めつけて掛かるわけにはいかんが………」

ブルー・ディキンソン :「……逆も然りですねえ」

紅 蘭芳 :
「そ、そもそも騙りの可能性もありますし……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まあ確かに今の段階で何ともいえないのはそうなんだけど。
            ・・・・・・・・
 あたしがコレ聞いたの、ブラックモアからなんだ」

ブルー・ディキンソン :「人の体を機械に置換したものがレネゲイドで動くように……、
 ……何か別のものに、情報を刻んだレネゲイドさえあれば動くのかもしれない」

ブルー・ディキンソン :「む」

灰院鐘 :「ただの疑惑じゃ済まないわけか」

ダン・レイリー :「よりによってそこと来たか」

アトラ :「…… ……うぇー」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「だからまるっきり嘘っぱちって訳でもない。
 あいつがジャーム野郎だとしても、自分より弱い奴について動くと思う? あんな自由自由と喧しい奴が?」

ダン・レイリー :
「ヤツは幾分優秀なテロリストだというのが第一印象だ。
 都合がいいうちは名の立派な飾りをカモフラージュにして、祭り支度をするなんてこともないわけじゃない」

ダン・レイリー :「───が」

ダン・レイリー :「そんな賢しさがあるヤツなら、もう少し事は楽に運べた。そうだろうな」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「だね。少なくともあいつの口から語られる様子に、傀儡として扱ってるような雑さは感じられなかったな。
 マスターテリオン。北米FHの成り替わりは、北米FHの悪霊(レイス)だったってわけだ」

 笑えないでしょ。とケラケラ嗤いながら

ダン・レイリー :「笑いながら言うのでは説得力に欠けるな」

ダン・レイリー :
「まあそれはいい、見解の一致のようだな。真偽定かではない亡霊退治などするとは思っても見なかったが………。
 どちらでも情報が要るのは確かだ。その糸口も」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「私自身は、彼について然程詳しくはありません。
 ……そもそも私は、マスターテリオンと直接戦ったわけではありませんから」
 注釈するように続ける

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「北米FHは本来、一つの指導者を元に成り立っていたわけではありません。
 巨大な勢力を持つ大型のセルが、それぞれ合従連衡して覇を競っていたことで成り立っていたもの。
 私と博士が戦った区域は、基本的に異なっている」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……北米FHの撤退は、2004年と言われています。
 その一年ほど前にマスターテリオンは討伐された、と言われています。他ならぬ、コードウェル博士の手で。
 分断されていた中、少ない備蓄と戦力で博士が激闘を制した敵こそ、当時のマスターテリオンだったということです」

ダン・レイリー :
「ああ。シャンバラの本格的な台頭はその2004年、北米FHの壊滅直後だったことも含めて、多少は覚えがある」

灰院鐘 :
「話には聞いてたけど……本当にすごい戦いだったんだ」

「僕が教えてもらったのは、昔こっちで争いが拡がっていて、それを創始メンバーのひとたちが食い止めたってくらいなんだ。
 まさかそれが、身に迫るなんて思わなかったけど──」

紅 蘭芳 :
「当時はルイジアナを主要な拠点にしてた、って話は聞いていたし、その余波でまだUGNも手を入れられてないことも分かってたけど……

 ええっと、そうなると今相手にしないといけないのは……」

 指で勘定しながら

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「一人目。研究セル統括、コードトーカー。
 二人目。暗殺セル統括、天刑府君。
 三人目。戦闘セル統括、ブラックモア。
 四人目。外部協力者、エヴァンジェリン。
 五人目……複合セル統括、マスターテリオン。
 あたしと、ついでになんとかさんが除外されても、一人増えて合計五人だ」

灰院鐘 :「なんとかさん」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「以上、本来は合計七人で構成されていた、複合セル『シャンバラ』最高幹部陣営の内訳がこれだ。
 大変だねえ、こっちももう少し布石ぐらいうっとけばよかった」

ダン・レイリー :ヨーゼフ・メンゲレ、と注釈ひとつ。

ナタリー・ガルシア :「残り、五人ですか……」

灰院鐘 :「…………」

ダン・レイリー :
「改めて並べると大した陣容だ。
 目下手の届くだろうコードトーカーも、暢気に構えているわけではない。ロサンゼルスにはまだ“ヤツ”もいる…」

ダン・レイリー :
「とはいえその“マスターテリオン”やエヴァンジェリン等の対応も考慮すべきだが、当面は各州に陣取っている連中からだろうと考える」

ダン・レイリー :その二人がすぐに姿を出すとも考え難い。後手後手に回るようだが、状況の変化がなければ見えている大駒からだ。

灰院鐘 :「そうだね。当面、やるべきことに変わりはなさそうだ」

灰院鐘 :はりきっていこう!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……今は、敵の全容が改めて確認できたことをよしとしましょう。
 他の幹部を倒すことで得られる情報もある筈ですから」

アトラ :
「いきなり大ボス!って出来たとして、そんときはそんときで見えてる悪い人らが黙ってなさそうだし。
 まー結局そうだよなあ 掴みながら前に進まなきゃ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そうだねえ。まー向こうにいる間にもっと仕込みしときゃよかったんだけど、残念ながら結構警戒厳しい奴も多くてね。
 
 ……ま、それはそれとして。
 取り敢えずウチの面子に関して色々話したわけだけど。
 他に何かある?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「かつてのガーディアンズが関わるならば、或いは私からも話せることがあるやもしれません。
 疑問があれば、なんでも伺ってください」

灰院鐘 :「はい!」挙手

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「はいそこのデカい子!」

灰院鐘 :「でっ……!?」

灰院鐘 :もそもそ後ろに下がって遠近法によるサイズダウンを図る

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「気にしているんだ。
 その言い方だけはやめてもらおう、レイラ・イスマーイール」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あ、そーなの?
 えー、じゃあ……マッチョの子?」

灰院鐘 :うぐう……!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……今の言い方の、どのあたりに配慮を加えたんだ…」

灰院鐘 :「ええと……!」声を張り上げてごまかしつつ

灰院鐘 :「レイラくんの好きな食べ物が知りたい! ……です?」

ダン・レイリー :………

ナタリー・ガルシア :「それは私も知りたいですわ」
ウンウンとうなずく

ダン・レイリー :ショウとレイラ・イスマーイールを交互に見る。

アトラ :「…… ……」

紅 蘭芳 :
「し、質問って、そういう!?」

灰院鐘 :「だいじだよ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「今この空気で訊くことですか、それは──ッ!!」

 くわ。珍しく目を瞠って

灰院鐘 :
「そんな……!?」

 があん、とよろめく巨体。本人がどう言いつくろうがオーバーサイズの身体が、少女の一喝に仰け反っている。

灰院鐘 :
「だ、だいじだよ! 大手を振って歓迎会とはいかないけど、今日くらい一緒にごはん食べれたほうがアトラくんにとってもいいだろうし……!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「だとしても時と場合というものがあるでしょう……!」

ダン・レイリー :「(そもそも、その意図ならば勝手を知る“T³”に任せた方がいいというのは野暮か?)」

ダン・レイリー :「(…野暮だな やめとくか)」 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「えっとねえ~~
 最近はケバブかなー」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 普通に答えてしまった……

灰院鐘 :「……!」

灰院鐘 :
「じゃあ今夜のメニューはそれで決まりだ。みんなで一緒に食べよう!」

アトラ :
「へえ~ ケバブ……」

 っていうか成立しちゃうんだこの会話!みんなで囲む系の食べ物かなケバブって!

ナタリー・ガルシア :ケバブ、お手軽に作れる料理ではない気がしますわ

灰院鐘 :走って買ってくるよ!

灰院鐘 :どこに売ってるのか分からないけど!

ナタリー・ガルシア :そもそも、どんな料理か知っていますの?

灰院鐘 :ううん 初めて聞いた

ナタリー・ガルシア :…………

アトラ :マジ?

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
分かりました
あなたは、大人しくしといてください

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あたし、金もあるしエグザイルだからね。
 いくら食べても太らないんだ~~」

ブルー・ディキンソン :「オカネイイナー」

ナタリー・ガルシア :それはズルですわ

ダン・レイリー :「(欲するあまり片言になっている)」 そう言えば真偽が定かでないとはいえ自転車操業だったな、“雷霆精”は

アトラ :
「その体型維持はまあまあ反則寄りじゃない?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「役得に与らないとねえ。別に大食いって訳じゃないけどこのクソッタレ人生、旨いもんぐらい食べてかないと」

ナタリー・ガルシア :「……甘いものをいくら食べても、体重計が恐ろしくない人生ですか」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あれ、なになに? 羨ましいのお姫様?」

ナタリー・ガルシア :「…………いいえ、私は常に健康体です」

ナタリー・ガルシア :「……ええ、はい、まだそういったことを気にしなければならない年齢でもありませんし、育ち盛りなので」

ダン・レイリー :「(語るに落ちたな)」

アトラ :(割と気にはしてる感じ出てない?)

灰院鐘 :健康なのはいいことだね!

ダン・レイリー :何かの地雷を勢いよく踏んだ音がする…と思いながらも、少し考え込む

紅 蘭芳 :
「(欲に流れてはいけませんよ……欲に流れては……)」

灰院鐘 :でも蘭芳さんこの前……

ナタリー・ガルシア :甘いものは生活必需品ですわ!!!!

紅 蘭芳 :
何のことでしょう! 私は功夫を積んでるので常に健康体ですが!!

ナタリー・ガルシア :私も功夫を練り、高めなければ……

アトラ :功夫すげ~ ウチも健康体になった暁には学ぼうかな

ブルー・ディキンソン :「(生きてる体があるのは羨ましいねえ……)」

ナタリー・ガルシア :今から一緒に学びませんか?功夫の道は一日にして成らずですわ

アトラ :食前の運動ならアームレスリングで間に合ってない?

灰院鐘 :「リリアさんもどう? 今夜都合つくなら」せっかくだし、と笑いかける

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「"ラフメタル"、教官は忙しいんです。
 そんな悠長に構えてる暇は──」

ナタリー・ガルシア :(……鐘さん、ファインプレーですわ!)

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……いえ、構いませんよ。
 折角の機会です。私も御一緒させていただきましょう」

 ごく自然な様子で、リリアは頷いた。

灰院鐘 :「やったあ」

ナタリー・ガルシア : 

ナタリー・ガルシア : 

ナタリー・ガルシア :「お姉さまと食事をご一緒出来るのはこの上なく嬉しいのですが……本当に大丈夫ですか?お忙しいのでは」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「よ……宜しいのですか? 教官。
 私は本部の業務で身動きが取れないとばかり」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「確かに多忙を極めてはいるとはいえ……
 あなたたちと接する機会は然程ありませんでしたから。私があなた達の楔となれるならば、尽力しましょう」
 

ナタリー・ガルシア :「!!」

灰院鐘 :よかったね

灰院鐘 :僕もうれしい!

アトラ :
「良かったじゃんね、ナタリーちゃん。
 ウチも久々に“お姉さま”と一緒にご飯食べれそうだし 嬉しいことは多いに越したことないってことで!」

 合わせて茶化し気味にお姉さまとか口走る。言ったことないわ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「そ、そうですね……御多忙な中申し訳ありません、教官……」

 意外な答えにやや当惑したように口ごもり

灰院鐘 :
「進さんたちには悪いけど、今日はダンさんも僕らで独占させてもらおう」ねっ

ナタリー・ガルシア :「お姉さまに気を使わせてしまって申し訳ないような気もしますが――ですが、ええ、本当に!レイラさんも、お姉さまも、共に食卓を囲めるなんてとても嬉しいですわ」

ダン・レイリー :
「ン? 構わんなら同席するが」

 アリバイ込みなら多少の言い訳も付くだろう。

 ………しかし、この場合僕は報告の席で何を言うべきだろうか。高嶺の花は食事の席に誘えば意外と乗ってくれる、か?

灰院鐘 :「わあい」

ダン・レイリー :
「(………イヤ、玉砕が目に見えるな………)
 此方から目下、聞くべきと判断したことにも区切りがついた。現状纏められる情報は纏めたことだし、煮詰まる前に気分転換というのは悪くない」

灰院鐘 :
「それじゃあ、ささやかな歓迎とこれからに向けて!」

 今夜がたのしみだね、とおおらかな笑顔で。大体わらっているが、いつになく嬉しそう。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「既に彼女は、我々の一人。ならば、立場や身分など関係のないこと。
 食卓を共にして友好を紡ぐのは当然のことです。それに……

 実を言うと、私も羊肉はどちらかと言えば好きな部類です。楽しみにしていますよ」

 柔らかに冗談交じりに微笑んで

灰院鐘 :ケバブ……

灰院鐘 :羊なんだ……

ダン・レイリー :百聞は一見に如かず、だったか。一度見て食べてとすれば覚えるさ

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 イベントシーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ナタリー・ガルシア :はい!

GM :ホイ!

ナタリー・ガルシア :鐘さんへのロイスを変更いたします。
○P憧憬/N厭気

GM :くまさんがー!くまさんそのものがーーー!!!

GM :いいでしょう! キャラシに書き換えを忘れずに!

ナタリー・ガルシア :変更済みですわ~~!!

GM :オッケイ!!

GM :迅速きことハヌマーンの如し

ナタリー・ガルシア :最速のシンドロームは伊達ではありませんわ!

アトラ :あっハイハイハイ

GM :はいアトラチャン!

アトラ :ショーさんに〇P尽力/N悔悟で!いやなんか 個人っていうより皆さん含んでな感じあっちゃいますが……

GM :おおっ、オッケーー!

GM :ロイスッちうのは別に人に取ることだけでなく概念にも取得可能なわけじゃしね いいとおもいます

GM :忘れずキャラシートに記載おねがいしやーっす!

アトラ :うす!もす!

SYSTEM :【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :【人物:レイラ・イスマーイール/1】
シンドローム:モルフェウス/エグザイル
       ラクシャーサ
コードネーム:"千刃空夜叉"
ワークス/カヴァー:FHマーセナリー(リエゾンエージェント相当)/旅人
出自:貧乏 経験:喪失 邂逅/欲望:生存 覚醒:感染 衝動:闘争
Dロイス『器物使い』『対抗種』

 パンジシールの「雪の止まない村」の出身。
雪の止まない村から逃げ出したアトラの姉貴分(血縁関係にはない)。
 村そのものが水晶に包まれ、白い雪が降り続ける死の大地と化す中で生き残り、以降は二人で終わりない旅を始めることになる。

SYSTEM :【人物:レイラ・イスマーイール/2】

 脱走以降は情報面や人間関係をアトラが作り、衣食住や金銭面、何より外的からの防衛をレイラが行っていた。
 米政府の刺客からアトラを守って、辛うじて生き長らえてきた恩人で、戦闘狂として出会い頭にその力を奮ったという罪状の多くはこの時の不可抗力を米政府が誇張表現したものに過ぎない。
 二人分の悪行を一身に負った影響であり、二人分の罪を追った結果と言える。

 中立・悪。
 戦闘を好む破壊者としてのパーソナルは能力の無差別的性質から創作されたものに過ぎず、実際は理由のない暴力を振るう事をしないリアリスト。
 盾にする、人質にする、などの手段に出られた場合にはその限りではないが、経歴から基本的に不用意に周囲を巻き込むことを善しとしない。
 その経歴や性質から根明で社交性も高いが、常に人との間に壁を作り続けるタイプ。
 自らの衝動を受け入れ、戦いを好むよう振舞うのは、それ以外で確たる人ととの繋がる手段を構築できないからという側面もある。
 しかしアトラや彼女と旅することで得た人との繋がりの故に、「それ以外を知らない」訳ではないため、相手を選び不要な殺人を行わない倫理性が得られたのだろう。
 この故に彼女は侵蝕率が高くとも、ジャーム化するには至っていないようだ。

SYSTEM :

GM :さて……
合流のイベントシーン終わりですが、ここでインタールードシーンの展開に関して
防衛判定前に展開したいシーンはありますかな

ダン・レイリー :………

ダン・レイリー :“雷霆精”に要件がある。問題ないか?

ブルー・ディキンソン :い〜よ〜。

ダン・レイリー :了解した。色々と整理しておきたいこともあってな…。

GM :了解です!




【INTERLUDE ⑦】

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑦】

登場PC:Dan,Blue
登場侵蝕:なし

ダン・レイリー :
 ………後日のこと。
 
 今度はテンペストの連中を交えた合同ブリーフィングでの今後の方針決定の前。
 僕の知り得る限り最も防諜能力に優れた───“コードトーカー”のような例外は考慮しない───メリーランド州ベセスダのUGN本部、その一室において、僕は待ち人をひとり待っていた。

ダン・レイリー :
        エルヴスプライト
 待ち人の名前は“雷霆精”。
 UGNの外部協力者である。

 それなりに愉快な話題を交えることもあった相手だが、此度の要件が、愉快とは言い切れないことだけは確かだ。

ダン・レイリー :
 ………不透明な経歴と、それに反比例した行動の確実性。

 信用には足る、と。
 捨て置いて問題ない、と。
 そうしてきたものを翻す理由は語るまいが。

 僕はそのイリーガルを、端的な“連絡事項がある”に留めた文章で呼出を試みた。

ダン・レイリー :
 もう少し詳細を言うならこうだ。
 ・・・・・・・・・・
 先日の不足分について、とでも言うか。

ブルー・ディキンソン :
 待ち人は、思いの外よりも早く現れる。
 ドアを開け、一礼する。
 その一連の所作は、ここ数日間の言動には似合わぬ正しいものであり、品位の高さというものを"意図的"に表現している。 
 ある種の擬態だ。彼女がこの服に袖を通す真の理由に基づくもの。

 当の本人は、実に"普通"の気分だった。
 義体に食事は必要ない、だがレネゲイドが記憶している"生身の記憶"に引っ張られ、欲を満たすためだけの行為を強いられることがある。
 本来ならば栄養も、消化する必要もないものを口に入れることは無いことなのだが……、
 ……まあ、昨日は特別だろう。あそこで席を外すのも、人としてどうかと思う。

ブルー・ディキンソン :
「ハロウ、キャプテン。
 お呼びで?」
 わざとらしい発音で、わざとらしいお辞儀。

ダン・レイリー :
「お呼びだが、これからドレスコードの要る場所に行くわけじゃない」

 わざとらしい一連の所作。
 最初のブリーフィングで堂々と態度を変えたあの時を彷彿とさせる変わりようだ。

 ノイマン・シンドロームというやつは、外から見る限りでは幾分も器用なシンドロームである。

ダン・レイリー :
 何というべきか。
    ・・・・・
 連中、人間をやるのが上手いのだ。
 その態度の変遷と空気の入れ替えも、牽制か誠意か、どちらの比重が強いかは測りかねるが、そういうことだろう。

ダン・レイリー :
「先日はご苦労だった。
 それどころでない話も多々あったが」

ダン・レイリー :…そう短い話にもならないだろう。掛けるよう促すか。

ブルー・ディキンソン :「あたしのちょっとした苦労に比べたら、
 そっちの方がよっぽどでしょーに」

ブルー・ディキンソン :「じゃ、失礼失礼……」
 肌身離さず持っている刀を傍に置き、着席。

ダン・レイリー :
「どうかな。考えられているほどではない。
 もしその通りだとして、苦労自慢を若いヤツにするほど耄碌はしてないつもりだよ」

 考えることが多いことは事実だが、と。
 それを見届けながら続ける。

ダン・レイリー :
「………その考えることから外れたわけじゃないが、きみについてはなるべく思慮しないつもりでいたんだ」

ブルー・ディキンソン :「あら寂しい」

ブルー・ディキンソン :「……で、わざわざ呼び立てて、
 過去形で話すってことは、そういうことですよねえ」

ブルー・ディキンソン :「なんとなくの想像はつきますがネ。
 どうぞ、改めて用向きをお話してください」

ダン・レイリー :「分かった。エスコートの必要があるようだ」 

ダン・レイリー :
「自覚のある方だとは思うが………。
 きみの経緯は此方にとって幸運だった」

 ないはずがないだろう。
 その九死に一生を得る偶然の話だ。

 この娘の経緯は偶然で疑いの余地はない。
 出来過ぎるほどに偶然だったとしても、それはそれで良い。

ダン・レイリー :
「しかしきみ自身の行動はそれから予想できるものに反比例していた。

 ………それでだ。急ぐことではないとしていた」

 勿論、“していた”だ。
 こうやって話をしたからには、そうではない事情が出来たということになる。

ダン・レイリー :
「先日は蒸し返す状況ではなかったので置いていたが。
 “雷霆精”。何処の誰から、あの報告に至る一連の情報を拾い上げた?」

ブルー・ディキンソン :「ですよね」

 女の返答は淡白だった。
 無論、彼女としては情報源がどこであるかを口にするつもりは先日あったが。
 それ以上の情報が出てきた以上は、ノイズを排除し、然るべきタイミングで開くことが肝要だと判断した。
 それが今かどうかは、さておき。

「うん、別に隠すことの程でも無いです」

ブルー・ディキンソン :
「ちょっとお邪魔してきたんですよ。
 紅茶に一滴の毒を入れられたから、そのお礼参りに」

「彼女……"コードトーカー"でしたっけ? 
 随分とまあ、レイラちゃんの人物評通りの人でして」

ダン・レイリー :
「………ヤツか」

 一応、筋は通る。
 ヤツの居場所はロサンゼルスで、“雷霆精”の出向いた場所はそうだ。
 蜘蛛糸を張るように待ち構えていた可能性など、決してなくはない。

ダン・レイリー :
「そのお礼参りでくすねた情報が、シャンバラ………いいや。
 曰く都市タイプの遺産、ソドムに関する情報であり、継承者の云々に関わることだったということか」

ブルー・ディキンソン :「ええ、少なくともこれに関しては本当だと言える根拠もあります」

ブルー・ディキンソン :「通信端末はございますか?」

ダン・レイリー :無言で二つ見せる。ミナセが任務用に調達したものと、そうでないもの。前者は作戦用のものだ、外観は知っているだろう。

ブルー・ディキンソン :さて……GM。
先日入手したマップデータなどを、私を介してこの端末へ送信したいです。
タッピング&オンエアの宣言は必要になりますか?

GM :防諜を気にするならアリですが、基本的には不要です。
勿論、浸食率を上げたいとするならそれを使用しても問題ないかと

ブルー・ディキンソン :ふむ……わかりました、では使用せず、ということで。

ブルー・ディキンソン :
 頸に手を伸ばす。
 不自然なまでに白い肌は人工的に彩られているもの。
 小さなソケットに指を伸ばし、そこから細いケーブルを抜く。
 
「失礼」

 "作戦用"の端末にそれを伸ばす。
 そしてこの時、私は無防備な姿を彼へ見せることになる。
 これはもしも送りつけたものが害あるものだった場合、そこで処断されても構わないという意思表示。
 規格を確認し、それが問題ないならばこのまま直結。
 "コードトーカー"の根城のマップデータや、ソドムに関するレポートデータを送信する。
 

ダン・レイリー :
 外部協力者が、外部協力者なりの伝手を使用したところ、その伝手を通した毒手が伸びて、九死に一生を得る序でに火事場泥棒をした。

 そしてその結果、“コードトーカー”の情報と、ソドムに関する情報を得て帰って来た。
 こんなところだろう。筋は通る。この件については、疑わしい所は何もない。

 ソケットを端末に通し、送信される情報を確認するまでの間、此方から彼女に手を出すことはなかった。

ダン・レイリー :………端末に目を通す。

ダン・レイリー :………

ダン・レイリー :
「分かった。その一件については不可抗力のチキンレースで持って帰った成果と見ることにする。
 ………ところで」

ブルー・ディキンソン :「はい」

ダン・レイリー :「………その“コードトーカー”、元はと言えば悪名高き鉤十字の伝手を使った疑惑があるという話だったな」

ダン・レイリー :
「そしてきみだけが、ヨーゼフ・メンゲレの潜在的脅威を指摘した。
 杞憂で終わったことは幸いだったと思う」

ダン・レイリー :
 多少惚けて誤魔化しはしたが、思えば“雷霆精”が意識を向けさせる相手は、概ね其方だ。

 ………その疑惑がいい加減放置できなくなったが故の、これはちょっとした最終確認でもあった。

ブルー・ディキンソン :……

ブルー・ディキンソン :
「"シャンバラ"と言えばアガルタの都。
 第三帝国の求めたチベットの地底王国。
 ……それらのワード、少しオカルトへの造詣が深ければ微妙に繋がる線だと思いませんか?」

「私が指摘せずとも何は繋がっていた話です。
 ……ああ、えっと、何が言いたいって感じでしょうね」

ブルー・ディキンソン :「ごめんなさいね、言葉選びって苦手なんです。
、  、コードトーカー
 ……私、きつねちゃんの子飼いのように見えます?」

ダン・レイリー :「そうだな。迂遠な話は止めよう」

ダン・レイリー :
 そもそも“雷霆精”の行動は一貫している。
 これを疑うならば、その疑いに即した行動をとれる瞬間が複数回あった。

「きみがソレなら、そもそも九死に一生の偶然を装う必要がない。
 あの時点で“ダブルクロス”だといちゃもんを付ける気は失せていたよ」

ダン・レイリー :………ではここで、少々“ずる”をするか。

ダン・レイリー :
 七色の直感を使いたい。
 対象はブルー・ディキンソン。

 確認希望内容はただ一点。
 今の疑いをかけた時点で、この女、どういう感情を懐いた?

ブルー・ディキンソン :
 抵抗しません。
 で、そうですね……、
 「少々の焦り」と、「自分に対する不安」ですかね。
 怒ってないですよ♡

ダン・レイリー :………成程な。

ダン・レイリー :
 ノイマン・シンドロームの人間を対応で測るなど愚策だ。
 しかし実利上の計算が終わって尚も測り切れないとあらば、こうするより他にない。

 ………感情の振れ幅は想像と少し違った。もっというと隠し方もだ。

ダン・レイリー :「しかし」

ダン・レイリー :
「きみを単独の………義心だけでやって来た人間と見ることはついに出来なかった。最初から、今この時までだ」

ブルー・ディキンソン :「やっぱり〜?」

ダン・レイリー :「エスコートを促すのが好きだな、“雷霆精”」

ブルー・ディキンソン :「長いものに巻かれるときは、己からの行動は控えるのが長生きのコツですよ、キャプテン」

ダン・レイリー :「持論だが、生きる理由が『ただ長く生きる』だけの人間は少数派だろうさ」

ダン・レイリー :
「まあ、それはいい。
 ………」

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・・・・・
「きみのクライアントは誰だ」
 
 それを聞かずに確信が得られぬとあらば、また。そうするより他にない。

ブルー・ディキンソン :
「拒否します」

ブルー・ディキンソン :
「……なんていうのは味気ないし、
 お互いの僅かな信頼関係と信用関係に、埋められない溝を産んでしまいますものね?」

ダン・レイリー :
「任務遂行のアプローチが変わるだけだよ。
    マスターテリオン
 自称“黙示録の獣”なんてのが出て来て、それがほぼフカシではないと来ている。背中を気にしながら戦って、合衆国をタイタニック号にしたくないのさ」

ダン・レイリー :
 概ね本音だ。

 そして僕はUGNではないという事実は、ある意味で欠点でありある意味で武器だった。また、ある意味で断絶でもあった。

ブルー・ディキンソン :「まさか」

ブルー・ディキンソン :「あなたの立場と、あなた本人の自覚に反して、
 "彼ら"はあなたを一人の大人として、見習うべき背中を見ています。
 それを撃ったら、私もうお仕事もらえなくなっちゃいますから」

ダン・レイリー :「そこからして少々誤解がある」 

ダン・レイリー :
「僕は連中に人生の先輩面をしたまま終わることを期待しているし………。
 連中を決して、兵器のように扱わないと決めて来たわけだが」

ダン・レイリー :
「知っているはずだな。“雷霆精”。
        テアシ
 命令に従わない兵士は欠陥品だ。
 僕が、僕の任務を果たすための行動をとるのに、その事実は然程関係がない」

ブルー・ディキンソン :「冷たいですね。模範的な軍人だ」

ブルー・ディキンソン :「それほどまでに、この船の乗り心地は良いものですか?」
 つま先で二回、床を叩く。

ブルー・ディキンソン :「ああ、別に……これは先延ばしをしているわけではありませんよ。
 どこまで返答するかの"ライン"を、見据えるための質問です」

ダン・レイリー :「カードを切る選択は自らのものというわけか」

ダン・レイリー :
「良かったよ。なにせ生まれ育った船だ。
 たとえ煌びやかな豪華客船の船底が、ありふれた映画よろしくロクでもないものだったとしても、嫌いになりきれない」

ダン・レイリー :「もし………これまでの全てを否定することがあったとして、それは”否定”だ。“消失”じゃない」

ダン・レイリー :
 意味はいくつか変わる。どう受け取ってもいいが。
      ・・・
 それが俺のこの船への認識だということが分からん娘ではないだろう。

ブルー・ディキンソン :
、  、  、  、  パトリオット
「優しいですね。模倣的な愛国者だ」

ブルー・ディキンソン :
「あなたは忠を尽くす兵士であり、
 あなたは忘却をしない愛国者です」

「私はそうではありません」

ブルー・ディキンソン :
「忠を尽くせるのは己だけ、
 私にとっての愛とは消失するものであり、されるもの。
 私は己の身を置いた船から蹴落とされた哀れなフック船長。
 クロコダイルに追われ、十三の星の下にも、黄の五芒星の下でも生きられません」

ブルー・ディキンソン :
「クライアントを明確に答えることはできません。
 私と、それ以外の人物。全ては僅かな信頼関係で成り立っています。
 私のような──誰かもわからぬ妖精を頼る者が、己の素性を告げ口されたとあらば、末路はお分かりでしょう」

ブルー・ディキンソン :「ですが……」

ダン・レイリー :
.  ピーターパン
「向こう見ずの夢想家に痛い目でも見せられたか。
     時計ワニ
 それとも暴力装置にやられた瑕が堪えたか。………」

ダン・レイリー :「どちらでもいいが、絵本の世界のように“おしまい”で許して貰える世界ではないだろうな」

ダン・レイリー :そして“ですが”と繋げたならば、此方に踊り方をエスコートし返す用意はあるらしい。茶々入れはこの程度にしておく。

ブルー・ディキンソン :
「ええ、まあ。
 酔狂なことに、羽根をつまみあげても千切らず、離しただけの方もいましたもので」

ブルー・ディキンソン :
「素性をお話しすることはできませんが、
 どのような思想であるかのヒントは口にできます。
 ……"UGN"にとっても……"あなた"にとっても、悪い話じゃないですからネ」

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :沈黙は肯定であり催促だった。

ブルー・ディキンソン :
「第三帝国と、浅からぬ縁があります。
 それゆえの、純粋な動機を以て、私は駒として動いています」

ブルー・ディキンソン :
「まあ───最も」

ブルー・ディキンソン :
「第三帝国"だけ"とは限りません。
 キャプテン、ここからは私個人の推察と陰謀論のミックスジュースのご提供になりますが。
 お口に合われると思います?」

ダン・レイリー :
「口に合わなければ猶更連中には出せん。
 毒味役の立候補はしておくよ」

ブルー・ディキンソン :「そうこなくちゃ」

ブルー・ディキンソン :「"オデッサ・ファイル"という言葉、キャプテンはお聞きになったことありますか?
 眉唾物かもしれませんが、あなたが好む"船"と、美大落ちの船長が操る"船"には、無視できぬ繋がりがあります」

ダン・レイリー :
「フレデリックの謀略小説。
 ………その原型か。知っていると胸を張るかは別だな」

ブルー・ディキンソン :「ま……都市伝説のようなものですから。
 そしてもう一つ。
 1943年から35年間、この船は"北方の赤い船"を探るために、多くの船と交易をしました。
 ベノナ・プロジェクトと呼称されたそれは、アメリカがソ連に対するスパイ行為を実行するために、第三帝国のSSを招致した証拠でもあります」

ブルー・ディキンソン :
「迂遠な言い回しが好きなもので、ちょっとわかりづらいかも。あはは。
 即ち、アメリカとナチス・ドイツの繋がりは、思っているよりも深いということです」

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :
「成程とんでもない暴論だ。
.フィクション
 創作の種に困った人間にそのまま聞かせたら、大喜びするか困惑するか。二つに一つだろう」

ブルー・ディキンソン :「ええ、本来なら」

ブルー・ディキンソン :
「ですが我々は……、
 オーヴァード
 "御伽噺の存在"です」

ダン・レイリー :
「フィクションがリアルを侵食するような世界の人間が”有り得ない”を語ることほど、馬鹿らしいものはないと?」

ブルー・ディキンソン :「ええ、40年くらい前から思い描かれていた空想の世界は、一つのウィルスによって図らずとも実現しました」

ブルー・ディキンソン :
「あなたの存在がその証明の一つでしょう。
 レネゲイドの力と存在は、国家という土地を守る武器になる」

ブルー・ディキンソン :
「私のクライアントは一つの危惧をしています。
 この件において"シャンバラ"のみに意識を向ければ、落とし穴が待っている。

  Old Glory
 ……"星条旗"の元に行動する、この船そのものことです」

ダン・レイリー :
「そのクライアントは随分とオーヴァードに通じているようだ。
 おまけにナチにも心当たりがあると来た。大した有名人だな」

ブルー・ディキンソン :「ええ」

ブルー・ディキンソン :「大ヒントでしょう?」

ダン・レイリー :「ああ」

ダン・レイリー :「───そうだな。では」

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「きみをこのまま帰すわけには行かんな」

ブルー・ディキンソン :「あ〜らら」

ブルー・ディキンソン :「白い虎でもあったわけだ」

ダン・レイリー :敢えてその話には一切触れない。

ダン・レイリー :
「疑惑は漸く確信に変わった。
 ・・・
 爺さんか? 大層な真似をする」

ダン・レイリー :
「ああ、答えなくていい。答える気もないだろう。
 これでも安心しているんだ。俺の勘も鈍り切っていなかった」

ブルー・ディキンソン :「……そんなに悪意を滲ませちゃいないですよぉ?」

ダン・レイリー :「そうだろうよ。”雷霆精”」

ダン・レイリー :
「この話をしなかった理由は単純でな。
 そういう立場の人間かどうかを量りかねていたし、きみという人間を信頼しかねていた」

ダン・レイリー :
「………ああそう。本当かどうか知らんが、”貧乏”という言葉を隠れ蓑に使うのは止した方がいいぞ。
 本当にソレに陥ったやつは、他人に施す余裕がない」

ブルー・ディキンソン :「……」

ブルー・ディキンソン :
「ああ、それ。
 それに関しては、本当ですよ。
 じゃなきゃ、こんなとこ来て、こんな事件に首突っ込むわけないでしょ」

ブルー・ディキンソン :
「ただ……」

ブルー・ディキンソン :
「私は自分で思ってる以上に、自分が大事じゃないみたいですから」

ダン・レイリー :
「ようやくティーンらしい反応をしたな。
 何年か経てば、いやでも躊躇いが出るさ」

ダン・レイリー :
「きみのクライアントに心当たりが持てたこと、
 きみが“T³”の境遇にした反応が嘘とは思えなかったこと。

 ………」

ダン・レイリー :
 僕は何気ない事でも話すように。

 変わらない顔でこれを告げた。

ダン・レイリー :
「きみの言う暴論を夢物語にしたいこと。
 ………そのために、僕は大人の特権を使うことにする」

ダン・レイリー :
 それを語る口調は、
 今まで俺が任務の遂行について語る口調と大して変わらない。

ブルー・ディキンソン :「……ズルい人」

ダン・レイリー :
「そういう世界に突っ込んだのだろう。
 懲りたら、次は控えることだ」

ダン・レイリー :
「………『Project Ark』」

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・・・
「そういう計画だったな。
 それについての話がある。きみの言う“落とし穴”を塞ぐため…」

ダン・レイリー :
「この船を守るための話だ」

ブルー・ディキンソン :「なるほど、やっぱり……」

ブルー・ディキンソン :「模倣的な軍人で、愛国者ですね」

ダン・レイリー :
「本当にそうなのかは、この先の答え次第だな。
 ………まあ、いい」

ダン・レイリー :
「では、話の続きをしよう。
 あの場で言うわけには行かなかった話の続き………」

ダン・レイリー :


     ───俺の。

       ありふれた昔話をしよう。

ダン・レイリー :さて。

ブルー・ディキンソン :まさか。

ダン・レイリー :エスコートを要求したんだ、一曲は付き合って貰わないとな。

ダン・レイリー :RHOの開示を要求する。この話を、表ざたにする気は最初からなかったんだ。

GM :いいでしょう……

SYSTEM :
【Unlock!】

 RHO③のRHO開示宣言を確認しました。

SYSTEM :
 ──それは或いは、ある少女の熾火であり、ある兵士の篝火だった。

   兵士は火を熾し、暖によって兵士は戦士となった。

   これは、そうした二人の戦士の運命が転換した切っ掛けとなる昔話だ。

SYSTEM :
 Rハンドアウト/Call of Duty
 ロイス:勇魚=アルカンシエル 推奨感情:P庇護/N任意

 あなたは日本での功績をあげた作戦の際に、此度の作戦に関わる知ってはいけない事実を知っている。
 
 まだテンペストという部隊が成立して間もない頃のことだ。
 八重山諸島の地図に載っていない無人島にて、あなたは試験的運用としてレネゲイド関連のテロ組織の事件に投入された。
 出撃したテンペスト小隊は、敵対するFH組織と熾烈な死闘を演じ、辛うじてこれを退けることに成功し、その有用性を示した。
 記録の上ではそういうことになっている。
 
 しかしあなたは部隊から分断された折に、偶然にFHセル<シャンバラ>と、米国が共同でこの島の研究施設を使用していることを知ってしまう。
 『Project Ark』と呼ばれる詳細不明の実験のため、各地から集めた被験者を遣って、十数年に渡りテロ幇助の為の実験を続けていたのである。
 その中の唯一の生き残り……焼け落ちた資料に残った検体名簿にわずかに残った名前から『勇魚』と仮名をつけられる……の存在が、それを裏付けていた。
 シャンバラと米政府が強い癒着の元、活動を続けていたことの証左であり、そこには自分たちのデータさえもが記録されていた。
 

SYSTEM :
 あなたはこの事実を踏まえて、少女と言葉を交わし
 独自の判断で彼女を秘密裏にUGNに身柄を引き渡し、自らは『対テロ鎮圧作戦』を完了したとして帰投する。
 表に出さずとも、その心中に、今の自身を取り巻く環境に疑問を覚えた切っ掛けであった。
 
 あなたがかつての行いをどのように思っているかは定かではない。
 だが、自らの扱いもさることながら、祖国が自分が戦ってきた敵に加担する事実を知ったことと、自分がかつて行った判断について、義務を果たさねばならない。
 あなたは作戦を遂行する傍らで、然るべき時に指令を訴追しなければならない。それが、『任務』を遂行するためであるならば猶更である。

SYSTEM :

 あなたの使命は、誰からの命令でもない。
              Call of Duty
 戦士として自らが課した、全うすべき義務である。

SYSTEM :
※RHO開示後、特定のフラグを満たす場合
 NPC『DARPA元局長ヘルムート・ヘス』に対して情報を要求することが可能となる。

ダン・レイリー :………そして。

ダン・レイリー :このタイミングで悪いが、

ダン・レイリー :
 ロイス「ヘルムート・ヘス」の本当の内容を開示する。

 本当の内容はP好感/〇N任意(失望)。
 これはこの時この時点から、この感情に変更され、タイタスになったものだ。

GM :過去の時点でずっとタイタスとして持ってた、ってわけですねー

ダン・レイリー :ああ。意味は伏せるよ。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───




【HOシーン③:Call of Duty-戦士の義務-】

SYSTEM :
【HOシーン③:Call of Duty-戦士の義務-】

SYSTEM :
 ……そこは、嘗て潜り抜けた死線であった。
 昔に通り去った、嵐だった。
 
 いや、正しい意味でそれを克したという訳ではないのだろう。

 燃え滾るあの戦火は、今も尚燻り続けている。
 あの戦と呼べるかも妖しい激突。誰もが一様に死を覚悟し、誰もが闘争の狂奔に焼かれ、そして覚悟の意味すら問うでもなく総崩れした。

 ──それは戦いというよりは、片殺しだったのだ。

SYSTEM :
 日本南端部、八重島諸島。そこの地図のない無人島を攻略することが、当時の彼らの任務だった。
 本来、海兵隊が直々に出撃するなどという事態は日本の処理能力の限界に達した場合にのみ行われる。
 近年台頭したFHと呼ばれる武装テロ組織の鎮圧という名目の元、秘密裏に行われたものだ。
 本来攻める側がどちらであるかなど分かり切っていた。彼らに驕りはなく、あったとしても戦地に立った瞬間にそのすべては取り払われていた。

 その筈だったのだ。本来ならば。

SYSTEM :
 米軍試用特殊部隊、対R処理班一個小隊。
 一騎の正式採用された米兵オーヴァードがSeals一小隊に匹敵するという試算を鵜呑みにすれば、実に精鋭一個大隊に匹敵する戦力と言える。
 
 ……その部隊が、全滅している。
 現存する戦力、実に六割未満。瞬きの如く先遣隊を瞬殺し、次なる獲物を求めて暗がりの中で影を揺らしている。

 ……ましてやその惨憺たる在り様が、たった一人の男によって引き起こされていたとなると、それはまさに悪夢と呼ぶ以外の何物でもない。
 

SYSTEM :
 男たちは、戦った。
 最初に恐慌状態となった新兵を庇い老兵が死した。
 次に、覚悟を決めて陣形を組んで対処に当たり、最も勇敢だったものから死んでいった。
 そうした面子が死に絶えた後は、最早思考を殺してただこの男を殺すためだけに動ける狂奔した兵士たちが死んだ。

 蒼褪めた死は誰の戸をも蹴り叩く。
 最早そこに、強弱や判断力によって生死が分かれるなどという定石さえ存在しなかった。

 ────この場で生き残れる者がいるとするなら、それは。
    ・・・・・・・・
 真実、死神に嫌われた者以外、ありえなかった。

ダン・レイリー :
 ………海を隔てた向こう側の言葉に。
 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶというのがある。

ダン・レイリー :
 皆、いい奴から先に死んで行った。
     ・・
 あの時はそれで学んだんだから、思うに自分は賢者ではないのだろう。

ダン・レイリー :
 それで覚えない軍人はいないし、覚えないような───死人と生者を隔てることに後ろ髪を引かれた連中は、概ねその仲間入りを果たしていくからだ。

 これがどうにも、言葉にするより難しい。
 あの時も、ふと思った。

ダン・レイリー :
「(戦闘可能なのは1個分隊。
  救援の到着には最低でも2分………)」

ダン・レイリー :
 風が轟くたびに、幾人かの命が消えて行った。
 それはその新兵自身も例外ではない。
  
 たまたま打ち所が良く、間合いが良く。
.リザレクト
 再生が間に合っただけに過ぎなかった。

ダン・レイリー :
 兵士はいつか死ぬものだと教え込んで来た老兵は最初に死んで、殺しても死にそうにないやつが次に死んだ。

“いいやつ”から先に死んで、残ったのは独り。

 その最低2分を前に、尚もこの地獄を五体満足で生き残れるビジョンは。
 新兵の頭の中になかった。

ダン・レイリー :
「───………化物め」

ダン・レイリー :
 撃つ前に、遥か彼方から刃が届いた。
    ・・・・・
 それが自覚出来た最初の死である。

 他は自覚できなかったか、そんなことを分析している暇がなかったか。そのどちらかだ。

ダン・レイリー :
「………有り得ないだろう、それは───!」

 悪態と共に、真っ向から構えた───、テンペストが開発した対オーヴァード用の自動小銃。
 どんな人間も兵士に仕立て上げる兵器を片手に、その銃口からマズルフラッシュを伴う形で鋼が飛び出す。

 撃つ前に動き、撃つのに合わせて隣の人間が死ぬ。
 
 現実離れを実現したたった一人の手で、正に壊滅の危機に陥ったテンペスト小隊の屍で敷き詰められた戦場で。
 その新兵は、ただその一言を零して、抗戦を続けるより他になかった。

SYSTEM :
 二分。
 僅か120秒。
 だがそれは、戦場においては、あまりに長い一瞬だった。
 それが既に敵の間合いであり、
 まして……この、悪夢の如き相手に対してならば、猶更だ。

SYSTEM :
 加えて言うなら救援が来るという望みも、実を言えば妖しい所だった。
 敵はたった一人。
 だが、それは飽く迄目の前の敵というだけの話だ。
 たった一人によって小隊規模が抑えられているという以上、既に別動隊が分断されているということは容易に想像がつく。

 ……或いは、皮肉にもその絶望こそが、この場に揃った兵士たちの着火剤となっていたのかもしれない。
 

"天刑府君"元 天刑 :
 兵士たちは紛れもなく健闘していた。制圧射撃で動きを絞り、手榴弾や発煙筒、訓練の末に手に馴染まされた得物を今生最大の効率で運用していた。

 にも拘らず、返ってきたのは手ごたえよりも先に、一瞬の意識の断絶のみ。
 最早そこに死の実感はない。譬えるならば、それは回転式拳銃をこめかみに当てて、一発一発引き金を引いているようなものだ。

"天刑府君"元 天刑 :
 その一方で。
 嵐を制する者達の銃弾も爆撃も、まるで霞を相手にしているように何の手応えも寄越さなかった。

「────死にそびれたか。哀れだな小僧」
 
 狂奔のままブラックライフルから弾が飛ぶ。
 どんな人間も、それを掴めば兵士となる。
 殺意を込めて引き金を引けば子供であっても兵士を殺せる。
 

"天刑府君"元 天刑 :
 人を殺傷するのに、過度な暴力は不要だ。
 迅く、固く、鋭く、貫き穿てば確実に死に至る。ましてそれはオーヴァード用にチューンされ、それの実感を漸く得てきたはずのもの。

 兵士の誰もが当たってくれ、倒れてくれ、と、最早神にもすがる思いで引き金を引いて……

 その悉くが。剣先で軽く跳ねのけられた。

 音速を超える剣が、火花を咲き乱れさせて弾いていく。クレイモアの散弾を、蜃気楼のようにいともたやすく躱していく

"天刑府君"元 天刑 :
 それはまさしくフィクションモンスター。
 テレビショウでのみ許された暴虐。
 そして往々にして……兵士たちは、怪物の格好の餌食として、絶望によってそれを演出するものである。

"天刑府君"元 天刑 :
「すべて狂った碩学の計画のため、捧げられた生贄。俺はおまえに同情を禁じ得ない。
 兵士として生まれておいて、苦痛なき死では物足りまい。足掻く自由はくれてやる」

"天刑府君"元 天刑 :
「持てるすべてを出し切った後、その首を貰う。
 天命になぞり、その役割を全う出来るよう、相応しき死をくれてやる──」


 男の言葉は、何を言っているのか理解できたものがどれほどいたか。そもそも言葉を発していたことを自覚した兵士自体、そうはいなかったはずだ。
 そして次の瞬間には、男の剣が閃いて、ダンの隣の兵士が兜割りに叩き斬られる。

SYSTEM :
 真っ二つになった男は、何度死んだかも分からない。
 ただ、心を押し留めていた最後の要素が、先の一斬で壊れた。

 何か人と異なるモノになり果てようとした、その瞬間を……

"天刑府君"元 天刑 :
 朱き剣が狂喜に吼え猛り、太刀を振るう。
 次の瞬間には、それは微塵に切り伏せられていた。

 後には骨すら残らず、ただ苦痛と嘆きを振りまいて死に果てたのであった。

ダン・レイリー :

 この状況で確率をシミュレートしてくれる機械があったとするなら、こう結論するだろう。

 新兵の銃口は百発の弾丸を撃ち込んだところで、一発も有効打を送り込めない。
 そもそも藁に縋ろうにも縋る藁がないのだ、と。

ダン・レイリー :「───ほざけよッ…!」

ダン・レイリー :
 無論………そんなことを新兵は知らない。
 イヤ、知っていてもそんな冷静さで足を止めては、感情がぶり返す。

 覚悟していた死への想像を易々と飛び越える、久しく忘れていた感情が。

ダン・レイリー :
 射線が一つ減り、断末魔の声が響く。閃く朱色に、死神の鎌を否応にも幻視する。
 その光景の中に混じる言葉の抽象さを、当時の新兵が理解することは出来なかった。あるいは今でもそうかもしれないが。

 だから新兵の頭にあるのは、目の前の敵を倒すことだけ。
.Overed
 超人というものを知り得た先駆者なりの、力に対する責務だった。

ダン・レイリー :
「まだ…死んじゃあいない!
 むしろ光栄だ、そのまま死神に嫌われ尽くしてやる───!」

ダン・レイリー :
 そこに、死んでいった連中の無念を晴らしてやるという義憤がどの程度あったか。
 あるいは、せめて一矢報いるまでは死んでも死にきれないという自暴自棄がどの程度あったか。

 ただ当時の新兵は、蛮勇であった。
 勇敢ではない。
 また臆病ではないが、慎重でもなかった。

ダン・レイリー :
「貴様に決められる役割などは───。
 クソくらえ、だ………!」

ダン・レイリー :
 零と疑う確率にもう一度トライする。
 残弾はわずか。リロードと共に、再び鉄火を噴き上げる。

 ………その言葉の意味を紐解くことを無意識に恐れたのもあるが、この時は本当にそうだ。
 喰らいついてやる気だった。
 最期の戦場だとしても、戦うことが、力を持った兵士の役割なのだと。

"天刑府君"元 天刑 :
 咆哮しながら次弾を装填する。その新兵を前に、元が浮かべた感情は……或いは、歓喜と呼べるものだったのだろう。
 嘲笑でもあり、喝采でもあり、憫笑でもあったが、慈愛でもあった。

「は、は、は……そうだ、向かってこい。
 天命に従い、戦い続けろ!」

"天刑府君"元 天刑 :
「考えるな。ただ敵に向かい、これを殺すためにすべてを傾けろ。
 
 兵士は敵の名も、素性も知らぬまま、ただ出逢った何者かを殺すもの──そうである限り俺もおまえも何も変わりはしない」
 

"天刑府君"元 天刑 :
「何が相手であろうとも。
 誰を殺すことになろうとも。
 自らの死ですらも、そこに分別はない。
 すべてを天命に委ね、すべてを尽くして向かってこい!」

"天刑府君"元 天刑 :
「それが……
      TEMPEST
 それこそが  嵐  の本懐だろう!」

 嗤う。嗤う。嗤う。
 嵐そのものとなり、理不尽そのものとなった男が嗤う。
 人を棄て、意志を棄て、ただ殺す為だけの剣となった男が返報の剣を振るえば、それは次にダンの身体を引き裂いた。

ダン・レイリー :
「だったら───」

 上等だ、と上がったままの撃鉄に意が宿る。

ダン・レイリー :
 新兵が携えた自動小銃の弾丸は、
 何時からか如何にしてヤツの剣を越えるかに集約していた。

 弾速が足りないならば、疾く。
 微風のように弾かれるならば、重く。
 無意識の進歩だった。
 
 のちのちを思えば児戯に等しくとも、文字通りそれは振り絞るような全霊であり、またあまりに間に合いそうもない進歩だったと記憶している。

ダン・レイリー :
「………先ずは貴様を───!」

ダン・レイリー :
          ひとでなし
 俺達は貴様のような快楽殺人鬼とは違う。
 死の感覚に何も思わずに居られる異常者どもとは違う………。

ダン・レイリー :などと。

ダン・レイリー :
 長い言葉を口にする余裕などありはしなかった。
 ただ否定こそが。隔絶こそが。戦意こそがあった。

ダン・レイリー :
 ………ただそれの総量と質が全てを決する戦いだったならば。
 新兵に勝つ理由はない。
 織り重ねてきた経験、頑迷とも言うべき“魔人”の妄執は、あまりに高き山であり。

 新兵一人のそれなど容易く呑み込む、制しようのない嵐だったからだ。 

ダン・レイリー :
 そしてそもそも、戦場はそれが全てを決する戦いではない。
 どんな鮮やかで、尊ぶべき概念があったとて、一度の事故で屑のように散っていく。
 新兵に教え込まれて来た事実を、その剣士は何より雄弁に教えてきた。

ダン・レイリー :「ッ、が───」

ダン・レイリー :
 舞う血と弾け飛ぶ肉片。
 裂かれた装備が、急速に頭ごと、新兵の自惚れを引き戻す。

ダン・レイリー :
 沸騰するアドレナリンごと無に還った脳機能が、またクリーンな自分を再演算する。
 何度目かは覚えていない。たまたまリザレクトが適い、戦闘に即した状態を取り戻そうと動き出す。

ダン・レイリー :
「テロリストが………。
 兵士の責務を、語るんじゃない………!」

ダン・レイリー :
 甦生の苦痛何するものぞと、突き付けた銃口の精度は甦生ごとに落ちていく。
 喰らいつく戦意以外に残るものなどあろうはずもなく、ならば膝をつきかけた新兵と、酔い痴れるように剣を取る魔人が織りなすそれは………成程確かに戦闘ではなかった。

SYSTEM :
 ダン・レイリーは狂奔していた。
 幾度とない臨死体験と、かつてない生存本能の唸り。僅かな恐怖心すら置き去りにした、否定する心が吼え猛る。

SYSTEM :
 戦争の狂奔は麻薬に似て。今自分が置かれた状況の絶望感も途絶えていた。
 もう自分以外、誰も立っていないことすら、事実として気付いても意に介していたかわからない。

SYSTEM :
 限界状況が兵士の地金の才気を引き出し、死神に愛されぬ性質がかつてない速度でダンの能力を成長させていた。
 だが……

"天刑府君"元 天刑 :
 急速に重力を纏った弾丸を、今度は躱すことで応じながら、次に放たれるのは左腕から放たれる発勁。
 激震を纏った掌底が、ダンの腹部に叩き込まれる。

"天刑府君"元 天刑 :
「いいぞ。まだ立ち上がるか。
 死に切れぬか、死に切れぬよなあ! 
 そうだ、兵士に生来の因縁や前世の縁など不要だ、ただこの殺し合う関係だけが最大の因縁たりうる!」
 

SYSTEM :
 急激な成長の中にありながらも、しかしそれでも届かぬが道理。
 如何に甦生を繰り返せども、喝采する男の連撃はやむことなく降り注ぎ続ける。

 ……既にダン・レイリーの限界は目の前まで近づき。
 そして、遂にその最期の弾倉も、底をつく

????? :
「……あーあ、勿体ねえ。
 あの爺の生贄にしちゃ上等なのを寄越しやがって」

 ──その様子を。
 遠巻きに眺める男の姿に気付いたのは、まさにその時だった。
 鋭敏な感覚が、更なる絶望と共に、敵の援軍がいる事を伝えてきた。

????? :
 遥か遠方。極限まで鋭くとがった視覚が、遠方より同じオーヴァードがやってきたことを感じ取る。
 まるで品定めするように、嗤いながらそれを見遣る相手からは、既に諦めの意図がうかがえた。コイツはもう、何をしても死ぬな、と……そう告げるような視線だった。

 ここ
「戦場ぁ玉石を篩い分ける最高の場所だ。
 惜しいねえ。爺の手勢でなけりゃ、俺の隊に入れてやったものを」

ダン・レイリー :「っご───ァ」

ダン・レイリー :
 視界が明滅する。  .C Q C
 常人を足蹴にして来た近接戦闘技能の使い手が、
 超人を足蹴にする極みの武を前に蹴散らされていく。

ダン・レイリー :
 その新兵は、兵士の役割に恥じぬように鍛えてきた人間だ。
 ...      アマチュア
 新兵でも断じて素人ではない。
 だから分かる。絶望的な練度の違い。

ダン・レイリー :
 殺すことと殺されないことに特化してきた者の才能は。
 絶え間なく浴びせかけられる冷や水と言っても過言ではなかった。

 ついに来た限界を前に倒れ伏す躯。
 前のめりに、血とどぶのため池に音立てて沈んだ新兵の視線が、わずかに上を向く。

ダン・レイリー :
「貴様、らは………………」

 ───嗚呼。
 それは遠ざけてきた死神の、最後で最大の熱烈な呼びかけだったのだろう。

 何をどうしても勝てず、死ぬより他にない。
 その状況に、新兵ダン・レイリーが零した声は一つだった。

ダン・レイリー :
「まだ………だ………。
 返すものを、返していない」

ダン・レイリー :
「こんなところ、では………ごふ───」

ダン・レイリー :
 死ねない、と。血混じりに零す。

 兵士の責務を続けるに至った原因。
 オーヴァードとなった新兵を拾い上げたDAPPA局長の行動を探る気がなかったとは言わないが、新兵にとってその男には大きな恩があった。

ダン・レイリー :
 自分にとっては紛れもなく良いことだったから、それを返す───と。
 新兵ダン・レイリーの、力を持った兵士の責務と誇りのルーツが残っていた。

 譫言を貫いて響く“爺”の名を耳にしながらも、落とした銃を朧げに手が捜す。

ダン・レイリー :
「負けん、ぞ………。
 俺がくたばっても、兵士には次が───」

 譫言は、恨みより先に。
 屍を乗り越えるだろう者への信頼があった。
 自覚する死を前にした、目も霞んで見えない先にいる何某への、弾丸なき抵抗だった。

SYSTEM :

 それは、辛うじて残った最後の絆。
 この絶望の中で戦い続ける、或いは最後の縁だった。
 老人は決して物腰柔らかな人間ではなかった。峻険で頑迷だが、柔軟で何より人間を見ていた。恐らく理想的な人格者には遠いが……義を通すに足る人間であったのだろう。

 そうでなければ、恐らくはきっと、戦い続けることなど出来ようはずもなく。

SYSTEM :
 大儀の為に戦う。この、忘れられた地で。
 為すべきを為し、屑のように消え去る。
 名誉など要らない。それを為すための、使い捨てで構わない。
 名もなき一兵士として、男は最後の瞬間まで抵抗を続けていた。
 たとえ弾丸尽き、精魂尽き果てようとも、そのすべてが尽き果てようとも、希望を託すものがいる、と。

"天刑府君"元 天刑 :
「よくぞ言った。
 報いなき死ではあろうが……拳士の礼を以て応じてやる。
 おまえは何も知らぬまま、黄泉路を征くがいい」

 その答えに満足した様子で、男は剣を大きく振りかざした。
 幾人の兵士を奪ってきた、朱き魔剣。
 その凶刃が、断頭台の如く翳され……

SYSTEM :
 それは単なる偶然か、或いは死神に愛されなかったものの故か。
 それとも……もっと別の何かの作為か。

 恐らく最後の一撃に備え、最大限能力を発揮しようとしたことが影響したのだろう。
 概してオーヴァードとは、自身の意志に反して能力が発動するものでもある。
 

SYSTEM :
 激震と共に。視界が断絶した。
 辛うじて持ち上げた視線が、地面にたたきつけられ、血潮に溺れながら倒れ伏す。

SYSTEM :
 その瞬間を。ダン・レイリーは、何が起きたかを正確には把握していない。
 ただ記憶しているのは、地響きの音と、体が浮遊する感覚と、暗転する視界。
 それを当初は、死の感覚。肉体を魂が剥離する瞬間であると認識していた

SYSTEM :
 それが過ちであると気付かせたのは……この、未だ止むことのない体に刻まれた激痛と。
 目を開いた先に戦友がいない、この上なき現実の感覚があったからだった。

ダン・レイリー :
 霞む意識の中で聞こえた言葉は、あるいは新兵にとって福音だったのかも知れない。
 敗北しようとも、兵士としての矜持を貫き通した、報い無き人間に与えられる報酬だったのかも知れない。

ダン・レイリー :
 それを受け入れるかどうかは別で。
 その時の新兵が自ら起こした行動を記憶しているはずはなく。

 死とは存外に呆気なく、また客観的に見られるものなのだなと、場違いな思考をして───。

ダン・レイリー :
「(………………待てよ)」

ダン・レイリー :
 そんな益体もない思考が出来ている、という事実が。
 身体の痛みという目覚まし時計の存在を漸く伝えて、時の新兵に判断の誤りを伝えるまでに、時間はかからなかった。

 ………倒れ伏したまま、目を開いて。
 新兵は数秒の音無き世界に、自らの口から音を発した。

ダン・レイリー :
「───生き延びたのか。
 俺は………」

ダン・レイリー :
 冷え込む感覚は、物理的なものか、精神的なものか。
 ただ敗残の記憶だけがそこにあった。

ダン・レイリー :
「生き延びた、ならば………───」

 苦痛に僅かに顔をゆがめながらも、立ち上がる。
 生き延びたならば、その幸運を無駄にするべきではない。

 伝えなければならない。
 あの連中の死を無駄にしないためにも。

 望外の幸運を拾ったならば、拾ったなりの義務を果たすべきだと、新兵は本気でそう思っていた。

ダン・レイリー :
 ………そこで、そう。
 あるいは周囲を振り返り、独り生き残ったという、残酷な事実の再認識をする工程で。
 状況の変遷に気付いてしまった。

SYSTEM :
 その体は苦痛に打ちのめされ、失血と外気によって体は凍えんばかりに冷やされていたが、オーヴァードとは死を超えしもの。
 リザレクトの限界に達していたであろう体は、暫しの休息を経ることで辛うじて立ち上がり、歩くことが出来るまで回復していた。

 まさに望外の幸福。それは物理学でも因子による能力でもない純粋な運によるもの。
 統計のゆらぎが為しうるものだったろう。
 だが九死どころか万死に一生、命冥加を得たダン・レイリーの心中に激情が齎されることはない。生物の原始的な本能と言うべきなのか。抜けた血、疲弊した体は否応なしに冷静に周囲を観察していた。
 

SYSTEM :
 此処は、一体どこなのか?

 一命をとりとめたダン・レイリーであったが、何ひとつ安心できる要素はない。意識を失う寸前の状況を考えれば当然だ。

SYSTEM :
 先ず、独房の類ではなかった。
 手元に拘束具も無い。武器となるブラックライフルは既に残弾を使い果たしているが、携帯したSOCOMはまだ健在だ。コンバットナイフも懐に収められている。
 こんな武器を当たり前に手元に残したまま、捕虜を監禁するような人間はいない。まず、気を失った間に拘束され、生かされているという可能性はない。

SYSTEM :
 ……ブリーフィングの言葉を思い出す。

 この無人島はFHが秘密裏に設営した実験施設となっている。賢者の石と呼ばれる高エネルギー体の精製実験を行っているという。
 恐らくここは無人島のより奥に鎮座する研究棟なのだろう。

 任務とはこの施設に立てこもる国際テロ組織の鎮圧であった。既に兵力の殆どを失い、その目標が達せられるかは非常に怪しいところであるが…

 だからといって、ここで諦め死に絶えれば本当に、この情報何もかもを失う事となる。

SYSTEM :
 確認する限り、敵兵の気配は感じられない。
 不気味なまでの静寂を保っている。
 殆どの人間が出払っているのか、元々配置されている人員が少ないのか。どうあれ、偶さかに転がり込んだにしては都合の良い場所だった。

ダン・レイリー :
 日本南端部、八重島諸島。
 一命を取り留めた新兵が、恐らくはまだ此処にいることは明白であった。

 此処が攻略中の敵拠点内部であることは間違いない。見覚えはまるでないが、気を失っている間に途方もない距離を動いた様子もない。
 しかし増援の到着もなく、先遣隊の壊滅を見て尚も戦闘状態と判断する理由がない………。

ダン・レイリー :
 残弾ゼロの張子の虎に戦術的価値はもうないが、銃一挺で戦場に赴く間抜けはいない。
. サブアーム
 予備武装は健在。勝算を語ればネガティブな事実だけが浮かぶのでさておき、作戦行動が行えるだけの最低限は整っていた。

 ………此方が意識を失った後、諧謔めいた理由で生かされたということは“ない”だろう。
 それだけの装備を残したまま捕虜を監禁する人間はいない、という尤もな根拠は当然として………それ以上に確信めいたものだけはあった。

 憎らしいほどの敵手だったというのに、そこにあったものは“ヤツはそれをしない”という、根拠なき理解であった。

ダン・レイリー :
「(まだ神様がいると信じたくなるな………)」

 以て結論。

 新兵ダン・レイリーは信じがたい悪運の持ち主であり、
 部隊壊滅の憂き目に遭いながら、筆舌に尽くし難い“何か”が働いて、この無人島に建造された敵拠点の深部に潜り込んだということになる。

 冗談のような話である。
 これが第三者視点の言葉であれば、『ホラが上手になった』『次の就職先が決まったな』とジョークの一つも飛ばしながら囃し立てて聞いているところだが、新兵自身がこれを経験したのであれば、そんな気になることは不可能だった。

ダン・レイリー :
 兵力をほぼすべて失い、残るのは超人なれども新兵に過ぎない兵士がただ一人。
 健在となる戦力は不明であり、あの剣士がいる限り、その計算は全て無為に帰す。

 ───先ずは脱出からだ。

 敵兵の気配は感じられないが、それは“いない”という断定に繋がらない。行動は迅速に行うべきだという焦燥感があった。

 あるいは、完膚なきまでに打ちのめされた悪い夢が、無意識に響いていたのか。そこは定かでないし、考慮する意味はない………。

ダン・レイリー :
         ブラックライフル
 新兵は役立たずの無二の戦友に代わる得物を手に取り、神経を研ぎ澄まし、この得体の知れない研究棟を探るところから始めた。
 また、脱出の経路も合わせて捜索する。必要なのはその2点。此処から行われるのは攻略戦ではなく潜入工作の類であることを、新兵はどうにか理解していた。

 潜り込めた悪運を悪運のままにしてはおかない。持ち帰るべきを持ち帰らなくてはならない。この敗北から学ばなくてはいけない。

ダン・レイリー :「このままでは済まさん………」 

ダン・レイリー :
 敗北に対する若気の至りが、冷や水を浴びせられて萎えた狂奔に代わる、次の原動力であった。

SYSTEM :
 ダン・レイリーという兵士が此処で全うすべき行いなど知れていた。
 脱出√の確認、そしてその次に可能な限りの破壊工作だ。
 ……命令にはなかったが、最大限の戦果が挙げられない以上、敵が開発する機密情報の収集も含めるべきだろうか。
 CIAでもなく、まして新兵であるダンに、その判断は本来ならば『ない』だろう。そのような余分は命取りとなる。ほんの僅か前に掠めた死神の大鎌、その冷たい触感を覚えている限り、一刻も早く此処から出たいと考えるものだ。
 ……だが、蛮勇にも似た若気の至りが、その判断を否とした。
 

SYSTEM :
 楽天的に見れば今は絶好の好機。最悪この施設を破壊し、生還を果たせば戦略的には勝利となる。
 
 そして敵の留守のうちに偶然こんな場所まで飛んできた。出来過ぎているとすら思える僥倖。
 しかし、何某かの作為であろうとなかろうと、取れる選択肢は僅か。
 『漸く、運が回ってきた』と……無理矢理にでも、そう見做す他はない。
 

SYSTEM :
 ……或いは、真にそれだけであったのか。

 ……静かな闘志を燃やす傍ら、状況を整理するために冷たく抑えられた血が、ダンにほんの僅か、それを思い出させていただろう。

回想する。曰く…… :
『すべて狂った碩学の計画のため、捧げられた生贄。俺はおまえに同情を禁じ得ない』

SYSTEM :
 戯言であった。男の言葉は支離滅裂で取るに足らないものだということは、誰の耳からも疑うことはない。
                オーヴァード
 現在知りうる限り、最も普遍的な罹 患 者の典型的末期症状。

 そこから語られる言葉に、真を捜す行為自体、馬鹿げているという外はない。

SYSTEM :
 なればこそ……この場所を捜索する理由など、作戦遂行と、滾る反骨心による、猛りのみであったはずだ。

ダン・レイリー :「………………」 

ダン・レイリー :

 新兵は、兵士であった。
 それを志す動機は純粋ではなくありふれたものだったが、
Overed
 超人という括りに自らが置かれたその時から、そこに誇りを見出していたことは間違いない。
 それに幾分かの理想も。
 だがその不純物を差し引いても、そのダン・レイリーは兵士であり、そのように教育されて来た。

ダン・レイリー :
 だから。
 漸く冷えた頭が、無視してきた言葉を浮上させる。
.     メガロマニア
 出鱈目だ。誇大妄想狂の言葉に耳を傾け真似をすれば、自分まで其方に行く。
 戦場の血に酔い痴れる異常者は兵士ではない。そうなってはならない。

 だがそうすることこそが、紛れもなく、無視するべき戯言に疑念を募らせる。

ダン・レイリー :
「…ばかばかしい。
 だったらなんだというんだ」

ダン・レイリー :
 攻略が察知されていたのだとしたら。
  /そもそも察知の有無に関係なく敗北していた。言い訳だ。

 これそのものが出来レースだとしたら。
  /男の妄言を根拠とするようでは残りの寿命も知れている。 

ダン・レイリー :
 ………はじめは純粋な反骨心であり、今もそうだ。
 若気の至りが、ダン・レイリーが自ら課した『余分』の遂行を後押ししている。
         サボタージュ
 機密情報の確保に破壊工作。やるべきはいくらでもあり、何より優先するべき脱出ルートについても、時間は無限ではない以上、無駄な考察をしてはいられない。

ふと、脳裏を過る :

          ・・
          天命


ダン・レイリー :「…ばかばかしい。そんなことより、俺のするべきをしなくては」

ダン・レイリー :
 二度目の断絶めいた理論武装で、それを打ち切った。
 それでいいはずだ。

SYSTEM :
 疑念が膨らみ続ける傍らで、しかし体は自ずから動く。極限状態の余熱がそうさせるのか、この時のダン・レイリーの手際はオーヴァードであることを加味しても新兵と思えぬほどによいものだった。
 
 兵役に従事する以前からの個人的な趣味を兼ねた、工作任務のノウハウ……機械工学に関する知見が此処で生きてきた。
 場所を巧みに隠しているが、内部の警備システムは然程優れていない。まして、カードキーが雑然と放り投げられているとあらばお粗末という外はない。

 ……何らかのトラブルだろうか。トラブルというなら自分たちの突撃がそれであろうが、それにしては違和感があった。
 

SYSTEM :
 「穂村和希」という、恐らく日本人研究員のカードキーを遣ってあなたは認証を通過し、
 ダンは研究場のコントロールルームと思しき部屋にやってきた。

 此処ならば目当ての脱出経路の確認も、脱出工作も容易い。ことは順調に進んでいた。

SYSTEM :
 ……順調に進んでいた。
 それは、ほんの少し魔が差すには十分なまでに。

 やってきた部屋の目の前に置かれたコンソールは、ダンも見知った型のものだった。

ダン・レイリー : 
 のちの述懐に曰く。
 振り返ってみれば、あの時自分が何をしていたのかを思い出せるかは怪しいものだ。

 極限状態の余熱が、不思議なほど自分を冴えさせていた。それは恐らく、レネゲイドの侵蝕の恩恵というやつなんだろう………。 

ダン・レイリー :
 趣味が功を奏し、敵のお粗末な管理が後押しし。
 警備システムの杜撰さが、拍子抜けと言う言葉を使わせかけた。

 日本人の研究員───そいつのカードキーを使って辿り着いた場所で、見知った型のコンソールを見つけた時。
 新兵の行動を、丁度良いくらいに膨れ上がった疑念が後押しした。

ダン・レイリー :
「………」

 コンソールの型式に覚えがある。
 操作方法を知っていた自分の手つきは、趣味に打ち込む時のように滑らかだ。

 持ち帰る情報への期待と、“一泡吹かせてやる”という浅慮な敵愾心。そして、見覚えと不自然さによって増幅された仮定を確かめたいという心。

ダン・レイリー :後においても、新兵の機械工学の知識とエフェクトは結び付かなかったが………手掛かりを見つけてしまったならば、それを聊か乱暴なほどに使い倒そうとするのは自然な動きだった。

SYSTEM :
 端末のコンソールを操作する。そこに迷いは、恐らくはなかったろう。そこで逡巡する男ならば、こうして生きてはいなかった。
 
 それはまるで手招きするかのように、モニター上の画面がダンの入力に応じてヴェールを剥いでいく。

SYSTEM :
 ダンは確認したパスコードを入力し、データバンクへとアクセスを開始する。

SYSTEM :
 
 ────────ダンは。
 ────────その一瞬垣間見えた紋様を見間違えることはなかった。

ダン・レイリー :

 敢えて語るならば………この瞬間だ。
 この瞬間。

ダン・レイリー :

「──────。
 ──────。
 ────────────」

ダン・レイリー :
 新兵の、期待だとか敵愾心だとか。疑念だとか。
 そういうのが並び立っていた心のカオスが、
 たった一瞬だけ見えた、この場に有り得るはずのないものによって、綺麗に統一された。

ダン・レイリー :


   な ん だ 、 ソ レ は ?

SYSTEM :
 ……データバンク起動時に垣間見えたもの。
 ・・・・・・・・・
 プロヴィデンスの眼を基調としたそれが意味する組織を、ダン・レイリーは誰より知っていた。

SYSTEM :
 オーヴァード研究の最先端を担い、そしてアフガニスタンの対テロ戦争を皮切りにマンハッタン計画を超える莫大な出費を掛けて設営された研究機関。

回想する。曰く…… :
 
   D A R P A
 米国国防高等研究計画局。
           I A O
 第八秘密研究分野『情報認知局』。
 

SYSTEM :
 ここは、アフガニスタンの対テロ戦争という契機によって発足され、或いはその危機に乗じることで設立された部署。

 同時に、他ならぬDARPAにおいて、表沙汰に扱えぬオーヴァード関連技術研究に携わる秘密部署。
 ……ヘルムート・ヘスがダン・レイリーを引き入れ治療に当たった機関に他ならなかったのだ。

回想する、曰く… :すべて狂った碩学の計画のため、捧げられた生贄。俺はおまえに同情を禁じ得ない

回想する、曰く… :あの爺の生贄にしちゃ上等なのを寄越しやがって

ダン・レイリー :

 口をついて出た音は、憮然だったのか。
 それとも。自嘲だったのか。
 いや………。

ダン・レイリー :
 その新兵を襲った風景は、それが分からなくなるほどの威力があった。

ダン・レイリー :
 足場が、真ん中からぼろぼろと崩れ落ちていく音がする。
 懐いた誇りが、まるで塵のように風に煽られて飛んでいった。

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・
 此処まで揃って尚も愚直に信じるほど、
 新兵は純粋ではない。

 ないが、そのぼろりと落ちるものを拾い上げるかのように、コンソールを動かす手が、不自然に加速した。

ダン・レイリー :
 ───間違いだ
 ───悪い夢だ
   ウソ
 ───欺瞞だと言ってくれ

ダン・レイリー :
 何も裏表がないとは思っていない。
 そこまで馬鹿じゃない。

 だが───ああ、だが。
 この時の新兵に、それを理論的に整理することは出来なかった。なぜなら………。

ダン・レイリー :
 ヘルムート・ヘスという男が、
 ダン・レイリーを化物ではなく、アメリカの兵士のままにした。

 ならば、疑えるはずもない。
        ・・・・・
 ………そして───だからこそ、それを“良いこと”だと受け取ったが故の兵士の始まりは、この時無惨にも崩れ落ち始めたのだろう。

SYSTEM :
 血走った眼と、湧き出ずる汗と、荒げる息と。
 忘我の意識の中、それでも身体はまるで濁流に溺れもがき続けるように、ダンはコンソールを操作した。
 
 国は国である以上潔白ではいられない。よくあることだ。
 ……などと笑って切り捨てられることでは断じてなかった。
 

SYSTEM :
 それを認めるということは……
 それを認めてしまっては……

 最早反射の域で、夢中になってダンは資料を漁った。恐らくそれは考えてやったことではない。ないが直感的に、あるはずの資料を探っていた。

SYSTEM :
 ある筈がないと。
 そう焦燥と共に探る中、答えはあっという間に見つかった。

SYSTEM :
  ・・・・・・・
 ──"ホワイトスカイ"。

 そこには、テンペスト小隊全員がコードネームで記され、衝動や覚醒パターンに腑分けして事細かに記されていた。
 そのすべての情報が、あろうことか、テロリストの基地の研究端末に、すべて記録されていた。
 これまでの戦闘記録は勿論……作戦に従事していない、半ばでジャーム化の憂き目にあった戦友さえもが例外ではなかった。

ダン・レイリー :
 答え合わせは一瞬で終わった。

 蓄積されたデータ。治験のため、進歩のため。
 これから先に生まれる犠牲を少しでも減らすためのデータ。
 無数のモルモットへの実験結果めいて、さして重要でもない程度の“保管”をされたソレは、IAOの暗部、そして合衆国の最重要機密にあるはずのものと同じだった。

ダン・レイリー :
 冷え込んだ理性だけが答えを示していた。

 理解をすることも出来た。
 これは戦後の戦争なのだと。
 国が国であるための、車輪の下敷きが自分達だったんだろうと。

 理解することは出来た。
 理屈の上ではスムーズにまとまった。

ダン・レイリー :
 ………だがその当時、ダン・レイリーの中枢を占めるものは理性などではなかった。

─── :



  敵のエフェクトか?     なんだこれは?
                   悪い夢を見ているのか?
見なかったことにしよう 
         ───違う
                    連中の弔いをしないと
 何なら壊すか?   無駄死にじゃないか なんと伝えようか 
武器もある、残してはおけない   そうではない 何を考えている



─── :


  だが           コレを持ち帰ったら俺も口封じか?

                この蛆虫に集られたような、
    吐き気を催す感覚は何だ?
          なんであんたが“ソレ”をする? 

 これは正しいことなのか? 



─── :


        俺
     何  
  銃     は
     の
  を
     た
  取
     め
  っ 
     に
  て

  い
  
  た

  の
 
  だ

  ?



ダン・レイリー :ああ全く。

ダン・レイリー :「──────。は」

ダン・レイリー :笑うしかない、とはこのことだ。

SYSTEM :
 最早その事実だけで、何を意味するかなど明白だった。

 ──すべて、すべて。

 ──一年、僅か一年であったが、紛れもなく生死を賭した最も激動した一年。

 ──最低の覚醒から生きる場所を授かり、怪物でなく兵士としての使命を授かり。

SYSTEM :
 ──これが、その仕上げだった。

 ・・
 茶番。
 以後、どれだけ言葉を弄しようとも、短くまとめるなら、その二文字に尽きた。

SYSTEM :
 当惑する心理と、その中で冷静な部分が、今冷ややかに文面で踊る文字を追いかける。

 暗いモニターの上で蛍光色の文字が躍る。その中で自らを宿命づけた名前を見つけることも、また、同時に容易いものだった。
 

SYSTEM :
『Project Ark-因子管制プロトコル』

記録者 :
 この実験は因子管制統合システムの中でも多くの配備を必要とするセンチネルユニットの設計を目的とする、一連の演習過程である。
 その試作段階として今回は一個小隊規模のコロニーを作成する運びとなった。
 

記録者 :
 試作の検体となったのは都合四十人。以下に、その詳細なデータを記録する。


 彼らの紐帯となるのはオーヴァードの精神的依存性である。
 隔離されたコミュニティ、一般に排斥される者達にアイデンティティを付与し、軍集団としての結束を強めるごく一般的な手法。
 使い古された手法だが、戦場の極限下であること、各検体の不安材料も相まってか、彼らは順調に相互的なロイスを確立していった。

記録者 :
 ロイスの取得による精神的安定を確認した後、当初のメソッドに基づいた『演習』を行うこととする。
 演習期間は一年半。
 意図的なイレギュラーの発現、意図的な戦死者の発生、意図的なPTSDの発露、意図的な心理的成長。
 メソッド
 演習を通じてどこまで制御下に置くことが出来るかを検証する。

記録者 :
 これはR因子の励起、沈静化とそれらによる因子管制能力の上下を確認し
 同時に兵士たちが想定した手順を踏み
 想定した思想を獲得し、
 想定した情動を発揮することによる因子管制の安定化を目指すものであった。
 

記録者 :
 以下に、その内容を記す。

 ~ ~( 中略 ) ~ ~

記録者 :
 演習の結果、当初の想定との誤差は凡そ20%以内に抑えることに成功した。

      バトルプルーフ
 一年余りの戦闘経験を経てR因子適性を確認。
 因子完全管制の発現の兆しは遂に見られなかったが、実物のレネゲイドを使用したテスト結果としては十分な結果が得られたといえる。

記録者 :
 現時点でシャンバラの技術、R因子管制機構は到底実用に堪えない。
 だがこのメソッドを通して衝動管理・侵蝕管理・ロイス管理が可能となれば、量産は決して不可能ではないだろう。

 戦死した検体12名、生存し追加投入された検体約40名は無事に役割を果たしたといえる。
 演習は、成功だ。

記録者 :
 ──演習の最終段階として、検体四十名の自発的処分を行う。
 これはコロニーの謀反が起きた場合、或いは命令違反を起こした際の脅威を摘む為の処置である。或いはこれこそオーヴァード運用にあたり、最も重要なポイントと言える。

 作戦従事者四十名の死亡を以て、初めてこの演習は締めくくられるだろう。

記録者 :
 尚、この際人員運用のため検体郡をO検体の濃縮実験に当てることとする。
 蒐集した四十人の戦闘データ、教導データは傘下セルの一つへサンプルとして教材として転送する。
 投棄された死体は貴重な因子のサンプルとして研究セル04部隊に蒐集、クローン技術による複製のモデルケースとして保管することとする。

SYSTEM :
 ……記録された情報はそこで打ち止められた。
 或いは、それ以上を読む気が起きたかどうか。

 ただ、間違いのないことは……この一年半に及ぶ日々のすべて。そのすべてが、
      メソッド
 言葉通りの天命に則ったものに過ぎなかった、ということだ。

ダン・レイリー :

   知るつもりもない言葉の羅列      / 
   知るべきではなかった舞台裏     / ________
   知らずとも気付いた私利私欲    /
 知らずとも願った国家という建前   /   ________
   それらを纏めて二文字で括る  /

ダン・レイリー :

   知るつもりもない言葉の羅列      / 
   知るべきではなかった舞台裏     / 俺達は_____
   知らずとも気付いた私利私欲    /  
 _______________   /   ________
   _____________  /

ダン・レイリー :
   知るつもりもない言葉の羅列      / 
   知るべきではなかった舞台裏     / 俺達は生贄だった
   _____________    /  
 _______________   /   ________
   _____________  /

ダン・レイリー :
   _____________      / 
   _____________     / 俺達は生贄だった
   _____________    /  ・・・
 _______________   /   その後など無かった
   _____________  /

ダン・レイリー :
 残っていた理性が白紙になるのに、
 そこまで時間はかからなかった。

ダン・レイリー :
「………ハ、ハ。
 ハ、ハ、ハ」

ダン・レイリー :
「なんだ。なんだ、ソレは」

ダン・レイリー :
「耄碌したのか、ヘルムート・ヘス。
 らしくない。あんたらしくない───」

ダン・レイリー :
 そんな戦後の戦争に“クソくらえ”と吐き捨てるように、
 何もかもを嘲る言葉が一度だけ飛び出した。

 軽口に対して、帰って来るお決まりとは気難しい返答だったが、素っ気が無さ過ぎる対応ではなかった。

ダン・レイリー :
      ・・
 ………ああ、アレもかと気付いた時に。
 誤魔化しより先に、空しさがこみ上げた。

ダン・レイリー :
 自分の中の自分でないものがざわめく感覚に、その新兵が次に感じたのは悲嘆だった。

ダン・レイリー :
   ・・・・・
 ───こんなものを見て、
   どんな顔で、現実の中にも綺麗ごとを置く余地があるなど嘯ける?

ダン・レイリー :教えてくれ。

ダン・レイリー :
   ・・・・・
 ───こんなものを見て、
   どんな顔で、俺は兵士の責務などと、ふざけたものに縋れるのだ?

ダン・レイリー :「………何故だ………」

ダン・レイリー :
 声にならない慟哭が上がった。
 脱出のための命綱であり、
 また開けてはならなかったパンドラの箱に、血飛沫が掛かった。

ダン・レイリー :
 客観的に回想するに曰く。
 それは新兵自身の無駄な足掻きによるものだった。
 無意識かつ衝動的な、壁に頭をぶつけての自殺的行動である。

ダン・レイリー :
 意味はない。なんの価値もない、理性を置き去りにした、あるべきではない衝動的行動だ。
 
 よってそれ故に本能はリザレクトを択んだ。

ダン・レイリー :
 こんな傷でオーヴァードは死なない。
 ただ分かっていながら、付けた傍から癒えていく血をたまらなく掻き出したかった。

ダン・レイリー :「………何故だ!」

ダン・レイリー :
 何故だ。
 何故なんだ。

ダン・レイリー :


 ・・・・・・・・・・ ・・
「何故死に損なったんだ、俺は………」

ダン・レイリー :
 どうして、死なせてくれなかったんだ。
 一人だけ仲間外れにして。

 薄情だろうが、なんのための小隊だ?
 アンディ、ロベルト、ジョッシュ、ハヤト、グレバムの爺さん………。
 俺にだけ厄介事を押し付けるなんてどういう了見だ?
 友軍は粗末にしないんじゃなかったのか?

 それとも何だ? 俺だけこんな地獄に置いていかれるようなことをしたのか?

ダン・レイリー :
.               さだめ
 ひとり死ぬまで戦うのが、自分の天命なのか?

ダン・レイリー :「………………」

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 死に場所がないなら作るしかないな、と考える自分に、この時だけは無自覚だったが。

 新兵は、コンソールに再び触れた。
 本来の脱出と破壊工作という、表向きの作戦目的に縋る形での逃避が大半を占めていた行い。
 要するに反骨心、先程までと本質的には変わらない行いだった。あるいは………。

ダン・レイリー :その反骨心の矛先とは、当時、本気でそう考えた自分に対するものだったのかどうか………定かではない。どちらだろうと、大して意味のない話だ。

SYSTEM :
 嘆きと共に鮮血が散り、何故と問う声に応えるものはなく。
 飛び散った鮮血がディスプレイを染めた。
 叫びすら上げられぬまま、幾度となく頭を打ってまさしく衝動的に傷口を掻き毟る。

 殆ど衝動的な死の欣求は、しかし何の成果も及ぼさず……。
 自らの血にまみれ、酷く憔悴した白い肌をした男の相は、最早死人のそれに等しかった。
 スリーピーホロウ
 落ち武者に近しきものだった。

SYSTEM :
 男は端末に触れる。そこに大した意図はなかった。
 極限まで憔悴した人間が逃避先を求めて、辛うじて作業に耽ろうとしたのであろう。

 再び席に着くまで、おぼつかない足取りであったが、皮肉にも身に沁みついた技術は冴えるばかりであった。
 モニターの蛍光色を瞳に映しながら、男はキーを叩く。

SYSTEM :
『Project Ark』……
 それを調べる限りにおいて、特定の何かについて研究をしているとは読み取れない。
 言うなれば総合的研究なのだろう。何らかの教材を元に、それを効果的に運用する一連の計画であるということは伺い知れた。

 自らを生成した「演習」。その発端は、軽く十数年に及ぶ。彼らはレネゲイドが拡散する、その以前から……或いは、拡散することそのものさえも、事前に知っていたのかもしれない。

SYSTEM :
 少なく見積もって、テロ組織とペンタゴンの繋がりはその時点からあったということに他ならない。

 或いは……FHというテロ組織、そのものが国家と結びつく何某かであったのかもわからないが、そのようなことは今のダンには心底どうでもよいことだったのかもしれない。

 祖国から。恩師から。見捨てられた今のダンにとっては。

SYSTEM :
 今必要なのは、この孤島の研究所の情報である。雪の止まない村……と呼ばれることとなる、素朴なアルファベット単語で略された別の実験セクタのことなど、様々な情報を今は読み飛ばし、ダンはこの孤島での実験内容を引き出すことに成功していた。

SYSTEM :
 ──この孤島は、例えるならば蠱毒の壺だった。

 日本、台湾、朝鮮、ロシア、中華人民共和国、フィリピン、ベトナム……
 近隣諸国から適性を持った人間が、この孤島に集められていた。
 純粋なレネゲイドの覚醒者だけではない。「何らかの波長」の同期とも言うべき何某かの要素を持つ者だ。

SYSTEM :
 特定の因子を持った、世界に散らばった者達を検体として拉致監禁することは、時世的に難しいことではないのだろう。とくに因子覚醒者は多くの場合社会のはみ出モノとなる。
 彼らはこの島に集められ、「求めるもの」に引き寄せられる如くして覚醒していく。

SYSTEM :
 ……当時のダン・レイリーにそのような知識はないが、強力なEXレネゲイドの塊、賢者の石に代表されるそれは特定の波長をもつ者でない限り扱うことが出来ないものだ。

 この地に集められた者達は、皆その適性を持つか、或いは後天的に覚醒させられたものであった。

SYSTEM :
 彼らは、この場所で能力に目覚め。
 新たなる力の象徴たる『遺産』を継承し……

 この地で、絶え間なく殺し合いを強要された。

SYSTEM :
 自身の記録の中で、濃縮実験、という言葉で締めくくられていたことを思い出す。
 R因子の強化方法に、そうした手法があるという。ある素養を有した者達が極限状態で死闘を繰り広げ、或いは共闘することによって得られる作用だとも。

SYSTEM :
 その濃縮過程で、何らかのより強固な因子を持つものを作り上げるのがこの実験施設での試みであるという。
 ダンの知る用語に纏めるなら、これはトライアル。
 
 一点に集められた、規格外の力に死戦を強要させ、その中で最後の一体になるまで縮小させ続けるコロシアムなのだろう。

SYSTEM :
 ……この拠点の防衛に当たっていた剣士は、まさに怪物と呼ぶにふさわしいものだった。
 あのような男が配置されるのは、詰まる所脱走した者を斬り捨てるための武力の意味合いもあったのだろう。

SYSTEM :
 ……此処には、未だ、山のように怪物が眠っている。
 ……檻の中で、死闘を望む獣達が今も息をひそめている。

ダン・レイリー :
 コンソールを叩く音が響くにつれて、新兵を衝き動かす自らへの暴力的衝動は、秒単位で強まって行った。

 その頭へ重たい“何か”が圧し掛かるような感覚がついて離れず。
 それが研究と訓練で会得した希少な重力操作の能力の恩恵でないことは事実だ、と、益体もないことを頭の中で巡らせるほどの錯綜のもと、明後日に飛び立った理性は淡々と施設の実態を調べ上げていた。

ダン・レイリー :
 燃え上がるような責務などが新兵を動かしていたのではない。
                       マシーン
 それはもうただ目の前の事象に本能で動くだけの轍の歯車だ。

 ………なり切れないことも、時の新兵はすぐに理解していた。
 それならばどれだけ良かったことか。

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :

 それになる理由が残っていない。ひとつ残らず失った。
 いや、与えられてなどいなかった。

 重たい何かの正体は“転落”の実感を伴う絶望であったのだろう。
 
 ………そのくせに冴える頭は、裏表があると分かっていた祖国の、どうしようもない部分をこれでもかと焼き付けながら………一つの実験に辿り着いた。求めていた、この島の真実についてだ。

ダン・レイリー :
 自ら知っている言葉にまとめ直せば、これは試験。
 あるいは優劣を決定するべく、複数の候補を絞り出し、その真価を量るコンペだ。

 どちらも、不採用の烙印を押されたものに、表舞台に立つ資格はない。
 ただひっそりと消えていくのみである。

ダン・レイリー :あるいは………。

東洋の言葉に曰く… :

          ・・
          蟲毒


ダン・レイリー :
 同じ因果を持つもの同士が、小さな灰色の庭で殺し合う。
 多くの死を吸い、多くの命を奪い。
 そうして残ったものが、呪いを成すための何より強き触媒になるのだと………。

ダン・レイリー :「………こいつらも、同じか」

ダン・レイリー :
 寄る辺を失い、信じるものをはじめから持たない。
 生贄となったテンペスト小隊四十名と何ら変わらない。

 そして………。

ダン・レイリー :
 そのようにあれと
 只管に戦うために生まれて、

 そのあとはなしと
 礎となる事が全てとされた………。

ダン・レイリー :………

ダン・レイリー :
   ・・
「───よし。
 ・・・・・
 では行くか」

ダン・レイリー :
 新兵の言葉は平坦だった。

 ここに死ぬ手段があるのだと分かった時、もはやレネゲイドの衝動が新兵の意思となりつつあった。

 ………あるいは………。
 その研究成果が世に解き放たれること───それを以て巻き起こされる被害───を良しとしない部分が、まだ残ってくれていたのか。

ダン・レイリー :
「それがさだめと言うなら、それもいい」

ダン・レイリー :
    ゴール
 どうせ終着点ならば。  
 その結末に、せめてもの価値を付けよう───。

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・・・
 最期の任務を遂行する。

 それが、コンソールの情報を見届け、恩師へのよすがを事此処に至り自ら朽ちさせて。
 ただ一点のある感情だけは残した、取り返しのつかなくなる一歩前の新兵にある、その時点の行動原理であった。

SYSTEM :
 新兵は短くそう告げて、部屋を出た。
        セムテックス
 道中で取得した C 4 を、調査過程で得た見取り図を元に配置していく。
 退路についても既に確認が取れた。起爆させれば何時でもこの実験施設を潰すことが出来る。
 
 ──尤も、そんなものは只の慣習に過ぎなかった。意志を持たない死に兵の、生前の慣習のようなもの。
 帰り道など。恐らく今の新兵には最も価値のないものに見えていたに違いない。

SYSTEM :
 新兵は大型拳銃を片手に、薄暗がりの実験棟を下っていく。此処でも最初に取得したカードキーが役に立った。
 手にしたカードキーを翳せば、殆どのロックを素通りすることが出来た。どうやら、元の持ち主はそれなりに高い立場の人間のものだったようだ。

 歩を進めるにつれて、ただでさえ少なかった人の気配がより静まっていくようだった。
 

SYSTEM :
 伏魔殿の如き様相を想像させた、地下の検体保管施設。
 事実そこはダンの警戒した通り、無数の怪物が眠り、日夜死合う実験場という名の戦士の墓場だったのだろう。

                        ミュータント
 そこで新兵が目にしたものは、無数の眼と腕を持つ 異 形 や
                            シイング
 或いは培養液に浮かんだ脳髄と、そこから無数の力場を放つ何かや
 絶対的暴力を御しきれず暴れて回る何某かではなかった。

SYSTEM :
 それが何者であったのか。一瞬見た時には、ヒトガタのカタチをした小柄なサイボーグのそれに見えただろう。

 両腕を上げた状態で大型の拘束具で固定され。両足に足枷を嵌められ、椅子に結びつけられる。
 項垂れる頭部にはヘッドギアが装着され、視界も聴覚も封じられていた。
 
 そのように厳重に枷を嵌めて封じられていたのは、しかし間違いなく人間だった。
 それも……背丈からして。十歳にも満たない。二次性徴すら迎えていない。

????? :
「……、………」

 細やかな息遣いと声音から、分かる。
 それは少女の声だった。
 体の疵は癒え切ることなく、虐待……などと呼べる代物ではない程の負荷を受け続けて。
 ひどく衰弱し、今にも息絶えそうな、そんな声だった。

ダン・レイリー :

 レネゲイドというウイルスが、どういうものなのか………。
Overed
 超人とは何故、その名を冠する者とされていたのか………。

ダン・レイリー :
 それを徹底的に叩き込まれて来た新兵にとって。
 そのレネゲイドで蟲毒などやって退けようという行動がどう見えたかなど、凶行の一言で終わる。

ダン・レイリー :
 
 それに対し、健常な精神ならば、むしろ近寄るまい。

 誰よりも、簡単に嵐になり得る彼の脅威を知っていれば、単身で身を運ぶなど自惚れと言うより他にない。
 軍隊とは個人で成立するものではなく、兵士として活動するのであれば、この状況でそんな真似を試みる理由がない。それは客観的に見て愚行ですらあった。
 
 想像され得る魑魅魍魎に、先ず新兵は対抗し得ない。勝負にもなり得ない。そもそもその最大値とでも言うべき男を垣間見て尚、挑戦を試みることは勇猛を通り越し、蛮勇と呼ぶ事さえ生ぬるい。

ダン・レイリー :
 だが新兵はソレを択んだ。
                  ナットク
 最悪な一日の終わりに、せめて一縷の価値を見出したいが為に。
 手にしたカードキーは地獄への片道切符。
 ならば何の変哲もない大型拳銃は、何者でもない人間として死ぬためのドレスコードか。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 終わりの刻を無意識に待ち望んでいたからこそ、新兵は眼前に映る光景に敏感であった。

ダン・レイリー :
 相対の瞬間に目にしたものに。
 新兵ダン・レイリーは、十数分ぶりの感想を、灰色の庭にばら撒いていた。

ダン・レイリー :「───」

ダン・レイリー :「──────なんだ、ソレは、ないだろう」

ダン・レイリー :
 何もかもが信じられなくなったその身において尚。
 眼前の光景を、あの資料の記した先だと思うには。
 新兵は、理性という建前を、思考に張り付け切っていなかった。

ダン・レイリー :
 憮然と一言零す。
 あれこれとこじつけて、無理矢理油を注いで燃え上がらせた炎が。
 ふっと夢から醒めるように現実に返った時、急激に薄ら寒く見えてしまうような感覚だった。

 つい数分前までの終着点を気取る心が、あっさりと萎えていた。

ダン・レイリー :
 ………だってそうだろう。

ダン・レイリー :
 ・・・・・
 殺して貰うのか?
   ・・
 俺はコレに?

ダン・レイリー :………

ダン・レイリー :
 新兵の思考は事此処に至って、この現実か疑いたくなる光景───。

 蟲毒の成果と呼ぶにはあまりにもか弱く、痛々しく。有り得ない扱いを受けた………ただの十代になるかも怪しい子供を前にした時、数分前とはまた違った誤作動を起こしていた。

ダン・レイリー :
「………………こんなもの、」

ダン・レイリー :
 ───俺にどうしろというのだ? 

ダン・レイリー :
 いつもならば“命令”として道しるべの下る立ち位置にいたはずの新兵は、見えないはずの天を仰いでいた。

ダン・レイリー :
 そこに責任を被らない標はない。
 こうするべき、という、兵士にあるべき“任務”の安心感など、あろうはずもない。

 新兵は、周囲の気配を探ることも忘れて、無意識にその存在との距離を詰め始めていた。

SYSTEM :
 少女の形をしているそれが此処にいるということは……詰まる所、その生き残り。この蠱毒の中で、最後まで戦い続けたもの。
 或いは、まだその過程にあったものか。
 
 少女は……飛び抜けて強かったという訳ではない。
 子供の膂力。子供の知能。子供の精神。
 人を害する覚悟が決まっていない。分析出来る蓄積を持っていない。恐怖に耐える経験を積んでいない。
 他者より際立って強い能力を持っていたわけでもないし、埋め込まれた力もまだ飛び抜けて強大とは言えなかった。

 特異な力を持っていた、という訳でもなかった。言ってしまえば凡庸だった。希少価値も、何もない。
 

SYSTEM :
 だからこそ……少女にとって自分の存在価値を示すものは力だけだった。
 自分が存在することを証明するには、武力以外になかった。
 自らに価値を認めるには、ただ敵を倒す以外になかった。

 そもそも帰る場所も、気が付いた時にはわからなくなっていた。
 家族も友人も地元の風景も嗜好も、彼女からは失われていた。
 自分の名前も忘れ、何時しか研究員が呼ぶ記号として認識するようになっていた。
 

SYSTEM :
 引き出された先でジャームを、その素手で粉砕し続けた。
 その為なら何でもした。考えうる限り想像の及ぶ限りを振り絞り、しかしそれでも多くの場合は生き残るのが精一杯だった。

 バー ン ア ウ ト
 焼き切れる、その寸前まで。

????? :
 此処で蹲っていたモノは、そういうモノだった。
 或いは強さというより、死に損なったと、そう形容すべきものだった。
 ……加えて。

「──、ホムラ先生、ですか?」

 近付く新兵に少女は気付いたようだった。視覚を封じられたまま、少女は囁くようなか細い声で新兵に声をかける。

????? :
「先生……となりのへやの子は、だいじょうぶ、ですか?
 ……やくそく、でした、よね。あの子のぶんもがんばったら、あの子は帰してくれるって」

 ……少女は、厄介にも。
 自分の苦痛よりも人を慮れるような。この場所で生きる多くの人間が屑程の価値を見出さないものばかりを抱え持っていた。

????? :
「ともだち、なんです。
 すこし前から、ねつかんち? ができなくなったから。きっと、もうこんな場所から出ていったのかなって」
 
 彼女の周囲には、小さな同い年の子供たちがいた。誰もが覚悟を抱いていなかったがために、少女はそうした人間たちの分まで戦った。
 背負う必要もない余計な重荷。それでもこの極限を共に、必死に生きた彼女に、弱くて戦えないから見捨てるようなことも出来なかった。
 
 或いはそれが、力以外を持たない少女が、自らの存在を確かめるのに必要なことだったのかもしれない。
 

SYSTEM :
 見れば、既に近くの部屋に人影はない。もぬけの殻となっている。

 ……収容されていた検体がどうなったのか。サーバールームまで戻れば、検めることが出来るはずだろう。
 尤も……それを敢えて確認する気概と、検める必要性を感じるなら、の話であるが。

ある新兵の譫言 :
 ・・・・・・・
 何を考えている?

ダン・レイリー :
 兵士として従うべき理屈が、
 諦観としか言いようのないものが、耳に木霊する。
 
 いくつかの近付くべきではない理屈を用立てながらも、その脚はゆるりと。
 焚火に群がる蛾のように、独りの検体へ近付いていた。

ある新兵の譫言 :
 ・・・・・・・・・・・・
 これに手を出して何になる?

ダン・レイリー :
 それを救う術などがあるのか?
 合衆国から見捨てられた自分に施せるものなどない。
 ………そもそも人違いだ。他の検体など、この独りぼっちの生贄しか見つからなかった。不自然なほどに、ここはもぬけの殻だった。

 探す理由はない。
 任務に則れば有り得ない行いだ。

 その任務が欠片も遺っていない今、これは理由にはならず。
 新兵は別の保身のための理屈を用立てようとした。

ある新兵の譫言 :
 俺だって手一杯だ いい加減にしてくれ

ダン・レイリー :
 この、ただ野垂れ死ぬだけの、車輪の下敷きになる子供を………。
 その口約束を、人違いの人間が果たして何になる?

ダン・レイリー :
 ………だって、そんな約束が守られているはずがない。

 この子供は愚かだ。
 少し考える頭があるならば………。

ダン・レイリー :「その前に聞かせてくれ」

ダン・レイリー :「………なぜ。そんな約束をしたのだ?」

ダン・レイリー :
 そんな様にならず。
 もう少し長く。

 ………生きられただろう。
 ただ長く生きるだけのものでも。

ダン・レイリー :
 これは僕自身、並び立てた自己防衛の盾の一切を無視し………。
 しかも、あまりに情けなく大人気ない問いかけであった。だがそれでも、最初に気に掛けるものが、いるかも定かでない他人だったことを、問わずにはいられなかったのだ。

????? :
「……このあいだも、言ったとおもいます」

 痛みがあった。苦しみがあった。
 今すぐにでも逃げ出したいと願い続けたことだろう。
 或いは自分一人だけが戦えるという、その責任感が縛っていたという面も、決してないとはいえない。
 
 それでも──

????? :
 ・・・・・・・・・・・・
「ほうっておけなかったから」

 纏めてしまえば。
 非常にシンプルな理由だった。
 少女は、ノイマンのように頭が良い訳でもないし、際立って愚かでもない。きっと叶えてくれやしないと、子供の利巧さで察していたが。
 それ以外に術がない以上、諦めながらもすがるしかなかった。

ダン・レイリー :「たった、それだけの理由で?」

ダン・レイリー :
 ………もう既に瓦解した在り方だが。

 嘗て新兵は、何もかもを信じられなくなる形で、世界から切り離された。
 その世界に再び居場所を用意したのは、今までの恩師だった。

ダン・レイリー :
 時の新兵が懐いたものは感謝であった。
 事情の一切を無視し、ただ自らはそう受け取ったという過去だけがあった。
 
 そして、その力を振るう場所で、新兵は新兵に出来ることをしようとした。

ダン・レイリー :
 要は良い事をされたから、良い事を返してやろうとした。
 余裕を生んだから、余裕の分だけ施してやろうと………。
 精神的継承を以て、兵士の役割を容認したのであった。
 
 唯一にして最大の、しかも取り返しのつかない誤算は、それが返ってくるわけでもないということよりも。
 無視した事情を鑑みるに、世界から切り離した人間こそが恩師だという事実だったが───

ダン・レイリー :
 ………しかしどうだ。
 この娘にはそれがなかった。

 いいやあるいは、その放っておけなかった者達が心の支えだったのかも知れないと言う可能性にだけは至ることが出来たが、根掘り葉掘り探る意味はなかった。

 ………ただ。

ダン・レイリー :「それが、きみ自身の言葉から生まれたのなら………」

ダン・レイリー :叶いそうもない約束だったが、

ダン・レイリー :「理由には、なる」

ダン・レイリー :
 何もかも認めたくないものばかりだったこの島に置くには一番認めたくないものを、この娘は持っていた。

 ………その話を思い出した時の新兵の行動は、また単純で。学習能力のない話だったが。

ダン・レイリー :「………少し待っていろ」

ダン・レイリー :
 数分で済む行いであり、この時点では“無駄”の延長線だった。

 ただこの答えが、幾分か気を紛らわしたから。
 それに値する行いを返すべきだと思ったのだ。

ダン・レイリー :
 新兵は、改めて。そんな理由を零したものを繋ぎ止める楔を見る。

 肉体的な方ではなく、精神的な方だ。
 ただその、聞きようによっては冷徹にも響く声のみを残して、一度来た道へと踵を返した。

ダン・レイリー :

????? :
「…………?」

 バイザー越しに、去っていく新兵の気配を感じ取った少女は、疑問符を浮かべながらそちらの方向に意識を向けていた。

ダン・レイリー :
 ………
 ………

 ………………
 ………………………………

ダン・レイリー :
 程なくして数分。
 予想通りの簡潔で、興味さえ感じられない結果を記した一節。
 
 施設からの登録抹消を意味するもの───ただひとりを除いて───を確認すると、新兵は“そうだろうよ”という達観を示すような吐息を零した。

ダン・レイリー :
「(生贄だったのだ)」

 この実験の検体というのは、皆そうだ。
 縋るべきものを与えられず、
 そうするより他にないもの。

 ………価値を失えば、後はゴミ箱に行くしかない。

 ───そんなコト。考えるまでもない。
 縋るまでもなく分かることだ。

 愚かにも、そういうものに縋りにやって来たのが、この新兵だからだ。
 それが浅はかな夢物語だったと気付いてからは、道標のない現状に、ただ途方に暮れるより他にないのも。

ダン・レイリー :
 ………幾分か気を紛らわしてくれた礼。
 自己満足にすぎないが、これで十分だろう。血の通わない数行のコードを目にした新兵が、また数分の時間を掛けて、再びあの闇の中へと戻る。

ダン・レイリー :
 ………
 ………

 ………………
 ………………………………

ダン・レイリー :「きみ以外は、いなくなっていた」

ダン・レイリー :
 開口一番の一言は、それ以上のことが記されていなかったという、ただの事実の発露だった。

ダン・レイリー :「………それと。俺はその“先生”ではないんだ」

ダン・レイリー :
 ただ何もかもが間違って、たまたま此処に来てしまっただけなのだ。と。
 救われるための誤魔化しでもなく、沈殿した負の感情を払うための言葉でもなく。ありのままに伝えることが、恐らくは新兵にとっての礼であった。

????? :
「……、そう、ですか……良かった……」

 少女は、開口一番事実だけを知らせてくる相手に、か細い声でそう答えた。
 心底安堵したような、しかしどう受け取るべきかどこか当惑した様子だった。
 どのような事実であろうと、もう自分の傍に彼らがいないことを惜しむような様子だった。

????? :
「……、じゃあ、あなたは」

 少女が誰何を問う一方で、ダン・レイリーは知っていた。
 目の前の、少女のことを。
 モニタールームで彼らの名簿を検めた折。殆ど検体番号のみで記されていた中、部屋の一室でその名前を見かけた。焼却されかけた名簿に記されたそれは。
 漢字で二字。字体からして恐らく日本人のものだ。そして、これは偶然の産物だが、日本人の家系を持つが故にダンはその読みを何と呼ぶか知っていた。

ダン・レイリー :
  イサナ
 …勇魚。

 ただ独り、意味のある名前として。
 それが残されていた。

ダン・レイリー :
 もっとも、焼却されかけていた名簿に残っていただけのそれが、いかほどの価値があったのか。

ダン・レイリー :「………俺は………」

ダン・レイリー :
 兵士と名乗ることは出来ない。
 
 兵士ならば、あそこで死ねていたはずなのだ。

ダン・レイリー :
「意味のある呼び名は………ついさっき、失くしていた。だから、必要があるのなら………」

ダン・レイリー :
 必要があるなら、ダンだ。
 ただの、ダン。

ダン・レイリー :「そういうきみが。勇魚、と言うのだな」

ダン・レイリー :
………それを口にした新兵は、手にした大型拳銃を。
失くした意味の名残を、検めていた。

少女 :
 ただのダン。或いはそれは、両者にとっての夜明けを意味するものであったのかもしれない。
 いつの世も、如何なる時も、地平線から上がる光は等しく万物を輝かせるように。

「…………いさな……」

 少女はその名前が一瞬、自分を指し示すものであると気が付かなかった。
 一年にも満たない、しかし何より遠く長い戦の中で、何時か置き去りにした幼き戦士のドッグタグ。

少女 :
 そして、その気配と、これまでの話から、相手が何をしようとしているのか薄らと勘付いたのだろう。
 ほんの少し、動揺した様子で少女は続ける。

「……いいんでしょうか。
 だって、私、まだ」

 まだ。すべての敵を倒していない。
 体に烙印の如く焼き付けられた、子供を死兵にする教育の残滓が、解放を前に不安感を掻き立てていた。

ダン・レイリー :
 ・・・
「いないんだ」

 そのまま口を開けば続く言葉を遮るような、静かな言葉。
 新兵のその呟きは、あるいは自らに向けたものだったのか。

ダン・レイリー :
「敵も、先生も………。いない。
 答えを教えてくれる人間は、此処にはいないんだ」

ダン・レイリー :
 命令を下す人間はいない。
 道標になってくれる者はいない。

 新兵はその言葉がただの弱音であることを分かっていた。言い聞かせるように見えて、それは概ね自分にも言い聞かせる言葉だった。

ダン・レイリー :  
   ・・・・・・ ・・・・・・・
 ………居ないならば、どうするべきか。

ダン・レイリー :
 ………新兵は、無言で大型拳銃を構えた。
 兵士は最善のコンディションで戦うことを最初から想定しない。

 何時如何なる状態においても、戦闘行動が可能であるもの。
 そういうスペシャリストを目指した人間のはしくれとして、
 この状況においても、銃口は正確に狙いを定めていた。

ダン・レイリー :
 そう───。

 正確に、拘束具の基底を狙い。

ダン・レイリー :
 ただ、撃った。

 理由など分からない。
 ただ遺したいものがあっただけかも知れないし、昔発端になった見栄の形なのかも知れない。

ダン・レイリー :
 ただ、命令を奪われた新兵に残っているものが、そうさせた。

SYSTEM :
 ダンは、引き抜いた拳銃を撃った。
 両足、両腕の、電子ロックの基盤を正確に、一発ずつ撃ち、破壊していく。
 ……あるいは自分の鏡のようであった少女の楔を撃つそれは。
 自分の鏡を打ち割っていくようにも見えた。
 過去との決別とは言い難く、引き金を引くごとに痛みを覚えたに違いない。
 それでも撃ち放たれた弾丸は、過たずにそれを破壊した。

SYSTEM :
 ──戦うために残した弾倉12発と、弾倉に残した一発。そのすべてを、ここで出し切る。
 予備の弾倉こそまだ控えてはいたが、それは兵士の判断ではあり得ない、ただの男の判断だった。

少女 :
 砕け散った枷を、ゆっくりと引きちぎる。
 まだ困惑が解けないままの少女にとって、疲弊した体でもそれを為すのは然程に難しいことではなかった。

 両足の枷を、引きちぎる。恐らく、本来なら直後にやってくる電気ショックや警報などが鳴らないことを確認して、次に両腕に嵌められた機材を引きちぎった。

少女 :
 自由を得たその右手には、黒く、長い帯が硬く結ばれていた。それは、この施設の中で知り合い、共に修羅の道で生き抜いた相手との、微かなロイスの名残だった。

 最後に、おずおずとした様子でヘッドギアに手をかけ、これを外した。
 まるで魔法のように、器物は内側から白く解けて割れ砕けた。

 ──そこに収められた、乱雑に伸びた長い緑の長髪がなびく。

少女 :
「…………、」

 自由を確かめるように、当惑した様子で両手を見つめる。
 次にまるで朝日を拝むように、光に慣れない目が灯の光に照らされる青年を仰ぎ見た。
 

ダン・レイリー :

 兵士から命令を取り、
 果たすべき任務さえも失ったならば。

 後に残るものはひとつだけだった。
 
 故に、たった今晒された素顔が向ける視線のように、清々しい心持ちなどではなかった。

 むしろその逆だ。
 この時………新兵は紛れもなく、暗闇の中に放り出されていたからだ。

ダン・レイリー :
 放り出されていた。事実だ。
 だがその中に踏み込んだのが、紛れもない、このちっぽけな等身大の人間であることも、合点が行った。

 自分の気付きではなかった。
 その瞳がそうさせていた。

ダン・レイリー :
「………これでいいんだ」

ダン・レイリー :
 そのありふれた愚かさで、無意味でも安らぎを与えた誰か。
 その善行に一切の結果が返って来ないことへの反発心………。

 モニタールームから戻って来た男が懐いたものの発端はそれであり、概ね自己のためだったのだが。

ダン・レイリー :
「命令がないならば………。
 理由がないならば………」

ダン・レイリー :
「探さないと、いけない」

ダン・レイリー :
 その手に力がある限り。
 それを持って生きる理由を、決め直さなくてはいけないのだろう。
 あるいは………。

ダン・レイリー :
 当たり前の理由を、誰に強要されるでもなく口にしてた、そんな当たり前の“余分”が。
 兵士であることを捨てざるを得なかった、世界に居場所のない男の、第一歩であった。

少女 :
 少女は、眩しさを感じながらも、光のない目で懸命に青年の姿を見上げた。
 
 男はこれでいい、と語る。暗中に自らの身を投げた青年の仔細を知らずとも。
 ・・・・・・
 そういうものに敏感な少女は、決して単純な気まぐれなどではないことに気が付いていた。
 
「……あのっ」

 何を言うべきか。少なくとも最初に告げるべき言葉は何であるべきか、少女は忘れてはいなかった。

少女 :
「ありがとう……ございました」

 礼を告げ、頭を下げる。少女の表情は、未だ長い時間浸された絶望の色が染みついて離れない。現状を正確に理解などしてはいないだろう。
 けれどそれを見せないように。ただ、衷心からの感謝の念を、どうにかして伝えようとして頭を下げた。

SYSTEM :
 ともに寄る辺のなき者達。
 たった今、縛り付けられた責務を外れ、暗夜の中へ投げ出された者達。
 二人にとって、これが紛れもなく転機となり、戦士としての熾火だったのだ。

 そして火を継がれた者達は。誰の指示を待つでなく、自らの為すべきを捜して動き始める。

ダン・レイリー :
「──────」

 僅かな。
 ほんのわずかな、忘我の刻が流れた。

ダン・レイリー :
 場違いな言葉だ。何を果たしたのでもない。
 成り行きに過ぎず、現状の変化は見出せない。
 この会話において、男が過去に訣別を告げたわけでもなく。
 死に損なった理由をコレと結び付けようなど、愚かでしかなかった。

 だがもはや何を語ろうとも、ひとつの事実を前にしては、蛇足に過ぎない。

ダン・レイリー :
 あるいはダン・レイリーにとって。
 今日という日は開けてはならないパンドラの箱であり、一寸の光もない暗夜の始まりだ。

 ………だがもしも、この日の中で、希望だったと言えることがあるならば。
 この時、この瞬間に勝るものはなかった。

ダン・レイリー :「………どう………いたしまして」

ダン・レイリー :
 それはなんということのない小さな始まりだった。
 新兵ダン・レイリーはその時懐いた決定のために、自ら、漠然と受け入れていた一つのレールを外れることにしたからだ。

ダン・レイリー :
 なんでもない他人がくれた灯火のために。 
 なんでもない他人が、きっと………これから大切とするものを守るために。
       テアシ
 男は、祖国の兵士であることを捨てる。

ダン・レイリー :
 これから起きること、乗り越えるべきこと、それは決してたやすいことではないだろう。
 そして何を言おうと、この船に乗り続けていく以上、全てをぶち壊しになど出来ないだろう………。

 だがそれでいい。
 それでいいのだ。
 誰が認めずとも、何を言われようとも。

ダン・レイリー :
 それはどんな形でも、俺達が始めたことだった。
 ………それが半ばで反故にされたのであれば………。

ある男の黎明 :
 
 ───俺は俺自身に、その任務を命令する

ある男の黎明 :
   ・・・・・・・・
 ───成すべき事を成せ

SYSTEM :
 ……その後。
 
 迷彩能力を生かして基地を脱出したダンと勇魚は、追手の手を掻い潜り施設を脱出、実験場を爆破することで研究の成果を微塵に破壊した。
 表の目的に過ぎずとも、兵士としてのやり残しを遂げたダン。確認した退路から施設を脱出した二人を待ち構えていたのは、敵の追手、ではなかった。

SYSTEM :
 島を脱した後、個人としてのダン・レイリーが縋るアテはないでもない。
 
 別の無人島で何とかして通信機器を復旧させたダンは、当時から交流があった、イギリスのある老紳士と連絡を取る。
 それは当時勃興の兆しがあったイギリス・ガーディアンズ。オーヴァードとなってからは、その側面からも恩の在った老紳士をつてに、彼らを頼ることとしたのだ。

SYSTEM :
 やってきたヘリに乗せられて二人は島を脱した。
 英国で活動する彼らの組織に、ダンは勇魚の事情を説明し孤児として彼女を引き渡すこととなった。
 
 少なくとも、今のダンにすべてを正面から信じることは難しいことであったが。それでも今のダンには、この小さな命を託すのに唯一頼れる相手だったことは間違いない。
 

SYSTEM :
 その後、ダン本人は『任務を達成した』として帰投する。
 帰投したダンを、しかし政府は処罰しなかった。統合参謀本部の面々は、裏の目的のことなどおくびにも出さずその功績をたたえられ、後に彼が功績を為した沖縄にて設営される『嵐』を冠する部隊を任されることとなる。

SYSTEM :
 彼らの思惑が如何なるものであったのか。少なからず警戒もされていただろうが、こうして口止めされず生かされている以上何かの役割を期待されているのかもしれない。
 しかし……そこに帰投したのは最早兵士ではなかった。

 あの時垣間見たもの。そのすべてに、いずれケリをつけなければならない。

SYSTEM :
 『Project Ark』。元 天刑。シャンバラ。ヘルムート・ヘスと、あそこで自らが為したこと。
 その責務を。
         Call of Duty
 自らの意志で、為すべきと呼ぶもののために。

 一人の戦士として、男は戦い続ける。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :
【人物:勇魚=アルカンシエル/2】
エンブレム:濃縮体
出自:天涯孤独 経験:実験体 邂逅:保護者(リリア) 覚醒:忘却 衝動:破壊

 元はFHに拉致された孤児の一人で、ProjectArkの被検体の一人。
 日本の沖縄に拠点を置くシャンバラの研究セル内で、彼らが保有したナチスの遺産を継承させられた一人。
 そこで戦闘に関する訓練と遺産適合手術を受け、ProjectArkの濃縮実験に駆り出された。
 単なる発熱能力しか持たなかった彼女はその腕一本で生き延びるための殺し合いに参加させられたという。
 元より性能差が大きく、また彼女自身の気質から、同じ友人を見捨てることも出来ず、結果として彼女は最後の名前を除いて、戦う中で彼女は元あった日常を忘れてしまった。

 最終的にはトライアルで最後まで生き残った一人となったが、最後の仕上げを前にしてダン・レイリーに身柄を救出され、彼のツテを頼りに英国ガーディアンズに身を寄せることとなる。

SYSTEM :
【概念:Project Ark/1】

 FH大型セル『シャンバラ』、米政府が共同で執り行ったレネゲイドの大規模実験計画。
 方舟を意味する複合的目的で展開され、アダムカドモン計画に先んじて大国アメリカとFHの癒着から始まった正体不明のプロジェクト。

 沖縄をはじめとする世界各地に拠点を作り、様々な目的でR因子に関する非人道的な研究を行っていた。
 元DARPA局長ヘルムート・ヘスが背後で顧問として実験に携わっていることが確認されており、9.11テロ以降の大規模投資の消えた予算(ブラック・バシェット)を元手として開発されていたのだろう。

 ダン・レイリーの件で言うならば、彼の保有するR運用『R因子管制システム』も、その研究の一環、成果物の一つであるようだが……

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

ダン・レイリー :
 昔話を語るに必要とした時間は、然程となかった。

 決して思い出そうとする手間は必要でなく。
 そんなことは珍しくあって欲しいものだが、きっと珍しすぎることはない話題だった。

ダン・レイリー :
 ………だが。

 当事者にとっては、それで片付けられない理由だ。
 その言葉は、自らだって例外ではない。

 客観的に見て“そうだ”と分かっていることだから、自らは今更ここを振り返っても、振り返り過ぎる理由はなかった。

ダン・レイリー :
「そういうことだ。
 当たってほしくない危惧というのは当たるものだよ」

.推定フィンのじいさん
 きみのクライアントがする危惧なら猶更だ。
 なんたって、根拠がない危機感など有り得ない。

ダン・レイリー :
「………そしてこれを聞かせた今から、きみに目を瞑っているわけにもいかないというわけだ」

ブルー・ディキンソン :
 ブルーは肯定も否定もしなかった。
 いや──少なくとも、肯定はしなかった。
 

ブルー・ディキンソン :
「それで?」

ブルー・ディキンソン :
「聴かせた『その先』がまだですよ。
 泥舟に引き摺り込んだ以上、協力を強制させるとか、そういうことがセットで初めて脅しは成立します」

ブルー・ディキンソン :
 ブルーは答えない。
 ただブルーは、『その先』を問うた。

ダン・レイリー :
「まあな。
 きみがフリーの人間なら、此処で報酬交渉など始めるのが筋だ」
      オーダー
 それも既に仕事を受けた人間だ。
 義理にどのくらい重きを置いたにせよ、この文句は通じない。

ダン・レイリー :
「だからな。これは脅しではないんだ。
 事実の話をしている。“雷霆精”」

ダン・レイリー :
 そう聞かせた時点で、どうあれ意図せざるを得なくなるとか、そういう賢しい大人の武器を使う以上に………。

ダン・レイリー :
「“そこを見落とすと揃って沈没する、困るから手を貸してくれないか”………そういう頼み事なんだよ」

ブルー・ディキンソン :「……」

ブルー・ディキンソン :
「……ふふふ!
 待ってました、え〜え待ってましたとも」

ブルー・ディキンソン :
「では、そういうことなら"商談"に話はシフトしますね。
 私、別に一人受けたら終わるまで他のは受けない!ってものでもないので」

ブルー・ディキンソン :
「ちなみに今は特別セール中です。
 いかがでしょう?」

ダン・レイリー :
「それは良いことを聞いた。
 つくづく土壇場の巡り合わせはいいようだ」 

ダン・レイリー :
 理解していた上での言葉だったが、敢えて言う意味はない。

 そういう人間でないのなら、フリでも“T³”にあの対応はしない。
 そしてフィンの爺さんか…そうでなくとも、それを知っていて『憂う』ことの出来る人間から仕事を受けた者が“雷霆精”だと分かった時点で、次に言う言葉は決まっていた。

ダン・レイリー :
「局長に一手を打つ。
 あの人にシャンバラと繋がりがある以上、その事実をきみときみのクライアントに託す」

 自らの戦争にケリをつけるためにも。
 背中を気にしながら戦わせないためにも。

ダン・レイリー :
「………そして、シャンバラを潰す。
 連中と戦争を始めたのは俺達なんだ。終わらせるところまでやらなくちゃ行かん」

 たとえそれが出来レースのような、
 失笑を買う戦後の戦争だとしても。

ダン・レイリー :
「きみはそこに、
 きみの理由で巻き込まれてくれるか?」

ブルー・ディキンソン :
 サングラスを取る。
 女商人は仕事を受けた、駄賃を貰わぬものだったが、打算と気持ちで補填した。
、  、  、  、  、リバティ
「……あなたは合衆国という"内側の自由"から解き放たれようとしている」

ブルー・ディキンソン :
「始まりがあれば終わりもある。
 引き金を引いた以上は、薬莢を拾い上げるまでが戦争です。
 そして……あなたがあなた個人の意思で、己自身に忠を尽くすのを、私は今聞き届けました」

ブルー・ディキンソン :
「私は"ゴミ箱"の中で"外側の自由"に触れました。
 歪なプロセスを辿り、生物的な肉体すら失いましたが──」

「私は、その自由が大好きですから。
 今更、もう一度戻るつもりもありません。暴力で事を決めるにしても、そこに確たる差が"ありすぎても"面白くないでしょう?」

ブルー・ディキンソン :
「どうせなら、石の投げ合いの方がずっと良い」

ブルー・ディキンソン :
 サングラスをかける。
 嘘と冗談で塗り固められた妖精の、数少ない素面の表情を終えて。

「ま、実を言いますとね? 少しだけ不安でしたよ。
 この船そのものを信用できないゆえに、キャプテンにも少しばかり疑念が向いていたものですから」

ダン・レイリー :
「その答えを出すために、いつか来る此処まで続けて来たんだ。
 確かに現在形だよ」

ダン・レイリー :
 俺が今度こそ信じたものは、返って来るのかどうか。

 その答えはとっくの昔に決まっていて………仮令返って来ようが来るまいが、恐らく同じ結論に至るものだったが。

ダン・レイリー :
「そして、その自由を行使したいヤツもいれば、出来てもしないヤツもいる。
 だからきみのそれだって否定しない。向けるものを知っているその眼が変わらないうちはね」
            戦って来た
 自らの理由で自らのために行動することをそう呼ぶのなら、俺だってそうだからな、と。

 恐らくは敢えて問い質すことはないだろう、機械仕掛けのティーンエイジャーが零した無頼に応じながらも、言葉を続ける。
 人がいいのか乱暴なのか。後天的に両方なのだろう。

「もしもぶつかり合ったら、その時はその時としておくとしても───」

ダン・レイリー :
「その本音が商談に入る前後で聞けて良かった。イーブンだ、ここで清算しておこう」 

ブルー・ディキンソン :
「その"もしも"、無い事を願ってます。
 私、引き撃ちされると死んじゃうので」

ダン・レイリー :
「そいつもお互い様だな。
 西部劇よろしく早撃ちになったらコトだ」

 撃つ前に刃を振るい終える人間が二人以上いないとも限らん。

ブルー・ディキンソン :
「いやあ」

ブルー・ディキンソン :
「案外、遅いものなんですよ。
 私、人型の義体だと大したパワーが出ないんです」

ダン・レイリー :
「程々に受け取っておくよ」

 こと兵器の論で強さを突き詰めていくと、どうしても人型は非効率という結論に至るものだが。今のは何処まで“やる気”なのやら。

ブルー・ディキンソン :
「それくらいが丁度良いです」

「……さて、そういう形で商談は成立という事で。
 しかしながら、私は聞くばかり……一つだけ、教えておこうかと思います」

 ……取引相手のことを口走る。
 それは絶対にやらない事。
 この場において"依頼人"の名前を出すことはない。
 だが、一つだけ事実をハッキリさせておこう。

ブルー・ディキンソン :
「私の依頼人は、あの"お爺ちゃん"ではありません。
 それだけ分かってもらえれば、私からの後の注文はありませんわ」

ダン・レイリー :「………成程な。一本取られたか」

ダン・レイリー :
 あのサービスで“それ”とは。
 ………実を言うとアテを外したことに多少驚きはしたが、それはそれだ。表に出して言及はしない。
 話すに足ると見込んだものをそれで今更反故にするような賢しさは、餓鬼の時分に卒業したことだ。

ダン・レイリー :
「分かったよ“雷霆精”。
 二つは聞かない。聞くべき時が巡ってしまうまでね」

ブルー・ディキンソン :「ごめんなさい。
 私も──依頼人に"忠を尽くす"主義ですので」

ダン・レイリー :「致し方ないな、大ヒントで満足しておく」

ダン・レイリー :
「………これで気にする背中は一つ減ったことだしな。
 何もかも、これからだ」

ブルー・ディキンソン :
「ええ……でも」

ブルー・ディキンソン :
「"種明かし"の時は、いつか必ず訪れます。
 それが私の──あなたの戦争にお邪魔する理由です」

ダン・レイリー :
「その時貸してやれるのは命だけだが、それで良ければ遠慮なく種明かしをしてもらおう。
 貸したまま逃がしはしないが」

 ………こうなって来ると益々“誰”がクライアントなのかという思いはないでもないが、この答えで是としておくべきだろう。

 何もかも終わっていない。これからだ。
 今のは成すべき事実を確認した以上に過ぎず、話の仔細は当事者以外にとって然程大きな意味を持たない。

ダン・レイリー :
「………密談もそろそろお開きにするか?
 実を言うと、リリア・カーティスの話でヤツから突き上げを喰らった後なんだ。新しい火種が生まれるかもしれん」

ブルー・ディキンソン :
「お〜……怖」

ブルー・ディキンソン :
「ま、ご安心ください。
 私は"貸し借り"にはうるさいんです。
 必ず返してあげますよ──すっごいサプライズと共にね」

 ……ブルーはこの話の中で、一度しかヒントを出さなかった。
 それが意味するのは、トップシークレットである、という事実だろう。
 ナチ絡みとなれば名前も上がる老人でない以上……、答えは、果たしてどこにあるだろうか?

ブルー・ディキンソン :
「ああ……そうそう!
 今後もこういうお話する機会があるのなら、
 その時はぜひスモーキングルームでお願いしますね?」

「私、義体なので!」

ダン・レイリー :
「期待させていいのか? ハードルはその分上がるぞ」

 冗談めかしたトークには冗談めかしたトークで応じる。

 ………フィンの爺さんでなく、
 ナチに覚えのあるトップシークレットで、しかもレネゲイドに通じる有名人。
 始めは国家絡みのエージェントを危惧していたものだが、案外其方かも知れない。

ダン・レイリー :………それと………

ダン・レイリー :「………それは義体以前に10代という基本的“突っ込み”待ちか?」

ダン・レイリー :
 まさかと思うが………。
 本人の言葉通り貧乏だとして………。
     
 原因は重度のヘビースモーカーじゃあないだろうな?

ブルー・ディキンソン :「……よく言われますう。
 まあ、確かに生身の頃に吸ってなかったわけじゃないですけどぉー」

ブルー・ディキンソン :
「そこまでじゃないですぅー。
 ちゃんと自重できてますしぃー。
 ナッちゃんとかトラちゃんとかシエルちゃんとかカイくんいるしい」

ダン・レイリー :
「自ら語るに落ちた発言をありがとう」

 ノイマンシンドロームは人間をやるのが上手いと言ったが、一部撤回しておこう。

ダン・レイリー :
「まあ、いい。           スモーカー
 二度目があるならそうするよ。UGNが喫煙者に優しいことを願おう」

ダン・レイリー :
「テンペストの連中なら寛容だが、生憎とうちの基地は“コードトーカー”にオシャカにされたしな」

ブルー・ディキンソン :
「いつ聞いても、それ災難でしたね。
 いやあ、ヤバいですよ──あの女」

ダン・レイリー :
「脅威のベクトルが違うからな。
 現在進行形で、ヤツのやらかしはオンリーワンだ」

ダン・レイリー :
 奴に限らずシャンバラの連中はそうだ。
 後世で振り返ったら、全く嬉しくないドリームチームと語られるかもしれん───。

 が、それはともかく。

ダン・レイリー :
 ・・・・・
「御邪魔したのだったな。
 感想は実体験というわけか」

ブルー・ディキンソン :「ええ、拷問間近でした」

ブルー・ディキンソン :
「……彼女の根城については、私が体張ってなんとかしたので。
 おそらく特定自体は容易のようにもおもえますが……」

ブルー・ディキンソン :
「これからが大変ですよ。
 "ラクシャーサ"の脱落によって、セキュリティは強化されているでしょう」

ダン・レイリー :
「そこは次のブリーフィングでも採り上げる。
 “コードトーカー”は戦争屋じゃない。それを踏まえていかなければ、ミイラ取りがミイラだよ」

ダン・レイリー :
「………ヤツの手で見つけたものが“ソレ”なら、正味生かしておく理由は輪を掛けてないが。
 その時のことはその時のことだ。返すつもりなら、借りはきちんと返してやれ」

ブルー・ディキンソン :
「借りを返す、か──」

 ……返すものは色々ある。
 借りもそうだし。
 ギターのアレとか、ライちゃんを持っていかれた事とか……。
 ……。

 …………。

ブルー・ディキンソン :
「そうします。その時は、キャプテンも巻き込ませていただきます♡」

ダン・レイリー :
「心配するな。その手の苦労を断る人間には、見えないようにしてきたつもりだよ」

ダン・レイリー :
 今はそれが理由だからな、と。
 一度だけ過去の轍に目をやる。

 別に過ぎたことだ。
 ただそれは、なくなるわけじゃなく。
 忘れ去ってしまうようなことでもなかった。

ダン・レイリー :
 そのために、俺は今もここにいた。
 承知の上の苦であるし、立ち向かう嵐で、これから巻き込もうというのだ。巻き込まれたって、“上等”と受けてやるさ。

ブルー・ディキンソン : 

ブルー・ディキンソン :
 ・・・・
 羨ましい。
 過去を過去にして、しかしそれを忘れず。
 糧として背負い、己の前足一歩を踏み出す動力源にする。
 これが羨ましい以外のなんだというのだろう。

 私には、そんな過去がない。

ブルー・ディキンソン :
 電脳に浮かび上がった意識が、つぶさに彼を観察し、弾き出した感想が"それ"だ。
 このシリコンと機械でできた肉体に残った魂は、目の前の"人間"を羨んだ。
 
 機械は夢を見る。
 それが、人間の成れの果てならば尚のこと。

ブルー・ディキンソン :
「じゃ、その時が来たら是非。
 ……そろそろ戻りましょうか?」

ダン・レイリー :
 そうだな、と頷く。
 あるいはその、サングラスを一度外した時、乾きと自由を語った女の酔狂を見届ける。

 思えばそれが数少ない本音で、ひねくれたティーンの仮面さえも突き破った、渇いた望みなのかもしれなかった。覚えておくに越したことはないんだろう。

ダン・レイリー :
 ………まだ戦いは続く。
 出来ることならば、件の事実は明るみにせずおきたいものだった。 

  :
“……それでも、自分の嗣業を信じて、捜し続けるしかない。
 そうかもしれません”

ダン・レイリー :
 そう語り、今も己の内へと問い続ける者の傍らには友が居た。
 言葉で語られる方も、隣でよく諫められている方も。

 それは、きっと良い事だ。
 今更、子供に接するようにレールを敷いてやることはない。

ダン・レイリー :
 ………そのレールに乗せられていることもない。憂うことは、今はなかった。だから。

ダン・レイリー :
 かつて見た焔に、今思う。
 戦士として、生きる道しかないのだとしても。

 願わくば。
 その道を進むに足る、信ずるべきものが傍らにあることを───。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ダン・レイリー :………。

ダン・レイリー :
『勇魚=アルカンシエル』をSロイスに。
 もとよりそのつもりだった。

 事実は墓まで持って行くさ。

GM :ウオオオオオオ!!

GM :ほひょーー オッケーです!
うまあじがすぎる

GM :キャラシに記載お願いしまあす

ブルー・ディキンソン :ん〜。

ブルー・ディキンソン :キャプテン……ダン氏にとっておこうか。
P○尽力/N劣等感、で

GM :おお、こちらも
オウケイ!

GM :羨ましさの故の劣等感か!
ではキャラシートに記載をおねがいします

ブルー・ディキンソン :ん、オッケー。書いたよ!




【EXScene⑤/廃都の夢-3】

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【EXScene⑤/廃都の夢-3】

登場PC: Natalie
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 沈む。沈む。沈む。

 あなたは、最早見慣れた景色の中で、遠い水面を見上げて沈む。

SYSTEM :
 深い深い海の底へと沈みながら、ゆりかごのように波に揺られて。
 あなたは幾度目か分からない、安らぎの中に沈んでいく。

 これは、夢だ。
 あなたが何度となく見てきた夢。
 泳ぐこともできないまま、ただ安らぎの中に沈んでいくだけの。

SYSTEM :
 或いはそれこそが、今のあなたには必要だったのか。
 再び眠りの中、深みへと目指して落下する。

"アダム" :
 ──よう。漸く一歩前進したと思ったら、随分と浮かないように見えるが……
 

"アダム" :
 そんなに悩むことかね?
 それとも楽に流れるのがシンプルに苦手なのかな。
 どのみちそのぐらいのものとぶつかるってことは、想像できていたと思うがね。

SYSTEM :
 あなたの裡に住まう者。
 アダムは夢の深層部に落ちていくあなたに、囁くようにそう告げる。
 恐らくは、合流した後での一件のことだろう。

ナタリー・ガルシア :「…………」

深く、深く。
揺蕩うような、揺りかごのような、静かな己の内海を沈んでいく。

暖かく、心地よく、けれども囁く声がそれを邪魔する。

ナタリー・ガルシア :「……私は」

声に出したのか、心の内で想ったのか、判然としない呟き。
投げかけられた言葉に、力の抜けた声で応える。

ナタリー・ガルシア :「……私は、満ち足りた環境にいました」

悲しいのでも、悔しいのでもない、ただの事実を確認するような呟きが泡沫となって海の中に溶けていく。

「これまでの努力と、私が積み重ねてきたもの――特別な人になれずとも、少しは近づけたと想っていました」

ナタリー・ガルシア :
「……思って、いました」

ナタリー・ガルシア :「……良いでしょう、少しばかり落ち込んでしまっても。私が支払わなければならないものについて考えた時に、少し動揺してしまいましたから――そうはならないように、努力してきたはずなのに」

ナタリー・ガルシア :背負ったものを、煩わしいと感じた。
友人を、その友人の大切な人の命を、この体一つで背負うには重すぎる。

支払わなければならないものを想って、恐ろしくなった。
漠然と来ると思っていた明日が担保されなくなって、初めて喪失の恐怖を身近に感じた。

――そして、責任と恐怖から逃げ出したいと想う自分に失望した。
責任を他者に背負わせてでも助かりたいと思った、思ってしまった。

ナタリー・ガルシア :全てを誰かに押し付けて、我が身可愛さに閉じこもりたいと思ってしまった――あの夜の少女と何も変わらない、その『ただの人間』そのものな意志の弱さ。
      ・・・・・・
――だって、私は悪くないのに

ナタリー・ガルシア :「……まったく、何度も言っていますが、落ち込んだ淑女がいたら優しい言葉を投げかけるのが紳士の嗜みですわよ――もっとも、貴方は紳士ではありませんから、それを望むのは少し酷かもしれませんが」

"アダム" :
 ──生憎オレは人間初心者でね。ジェントリのテーブルマナーなぞ弁えちゃいない。

"アダム" :
 それに甘やかすのは周りの保護者の方々が何とかしてくれるだろ。
 オレはキミ便りだから、最大限キミの尻に火をつけなくちゃならないわけだ。

"アダム" :
 というか、キミ自身もそれを望んでいなかったし、承知の上と思っていたがね。まあいい。
 どうあれ、自分が結局凡庸な生き物に過ぎないと改めて見せつけられて落ち込んでる訳だ。

"アダム" :
        ・・・・・・・・・
 いや正確には、凡庸なりに努力したってのが思ってたより効果が無くてショックだったか?
 その悩みすら凡庸で欠伸が出そうだが

ナタリー・ガルシア :「……理解していることと、実感することは違いますから」

ナタリー・ガルシア :「私が『特別な力』を持っていようとも、『特別な人間』ではないことなんて初めから承知ですわ――ええ、この程度で落ち込んでしまうことも、織り込み済みです」

ナタリー・ガルシア :「――大丈夫ですわ、私は、この程度では折れません」

"アダム" :
 はは。予防線を張っておいてもダメな時はダメか。

ナタリー・ガルシア :「明日の朝には元通りです、少しくらい大目に見て欲しいですわ」

"アダム" :
 ほんとにそうならいいんだがねえ……

"アダム" :
 ま、そうでないからといって処方箋を渡してやれる訳じゃないんだがね。オレはキミのカウンセラーじゃないのだし……

"アダム" :
 ホラ。
 キミだってオレが気を遣い出すと逆に精神参っちまいそうって面してるぜ

ナタリー・ガルシア :「こんなカウンセラー、こっちから願い下げですわ!愚痴くらい黙って聞いて――」

ナタリー・ガルシア :「――――そんなこと、ありませんわ」

"アダム" :
 あら、そう?
 意外とウケが良かったみたいだね

ナタリー・ガルシア :「貴方に殊勝な態度を取られると気持ち悪くて鳥肌が立つ、という話ですわ」

"アダム" :
 成程。

"アダム" :
 良かった。危うく逆にオレの方が夜も眠れなくなりそうなところだ。

ナタリー・ガルシア :「…………ああいえばこう言う」

"アダム" :
 ま、彼女になんて言われたのか知らないが……

 こいつらは上澄みだ。それも運に恵まれてる。
 都合の悪い時に、都合のいい手が伸びて、都合よくここまで生き延びてる。
 そういう連中だ。

"アダム" :
 奴らの意志だの強さだとか、そんなのは関係ない。キミが頭に思い浮かべてる娘は、別に強くもなかったのに縁に恵まれ此処にいる。
 キミが頭に思い浮かべてる奴は、縁がなくともやって行けそうに見えて将来的に破綻するかもしれない。

"アダム" :
    ・・・・・・・・・・
 だからキミは同じ土台にいる。
 まだその旅の途上だ。自分に充てられたものを無用に重く捉えて、自分は相応しくないと枷を掛けるぐらいなら、もっと素直にぶつかっていくことだよ。

ナタリー・ガルシア :「……熱でもあるのでは?」

ナタリー・ガルシア :「いえ、すみません。少し誤魔化しました……分かりましたわ」

"アダム" :
 ああ、その意気だ素直で結構。
 実際問題、選択肢は随分簡単になったし。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 実際には選択肢なんてものは用意されてないし。

ナタリー・ガルシア :「……やっぱり、そうですか」

"アダム" :
 キミも。彼も。彼女も。
          ソイツ
 此処にいる誰もが、運命に縛られている。
 ・・・・・・・・・・・・
 選択肢があるような一本道。

"アダム" :
 件の都市で生きた奴らもまた、皆そいつに囚われていた。
 その都市を巡る奴らも、既にそいつはほぼ決められている。

"アダム" :
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ──初めから人間に自由意志なんてものはないんだよ。

 足掻こうと叫ぼうと、自分以外のモノに従ってなるようになる以外にない。
 そして当然、このオレにも……

ナタリー・ガルシア :「……たとえ、そうだとしても」

ナタリー・ガルシア :「運命に流されるのと、運命を歩んで行くのとでは違いますわ」

ナタリー・ガルシア :「たとえ、結果が同じであろうとも――自らの意志で道を往くことが大切なのです」

ナタリー・ガルシア :「だから、私は強くなりたいのです。たとえ運命だとしても、自分自身でその運命を選べるように」

今のままではなく、もっと、もっと強くなりたい、と。

"アダム" :
 ふうん。ソレ、経験則?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 理解していることと実感することは違うんじゃなかったっけ?

ナタリー・ガルシア :「……ですが、心構えくらいは必要でしょう?」

"アダム" :
 確かにね。
 貫通されてちゃ世話ないが

ナタリー・ガルシア :「……次はもっと上手くやりますわ」

"アダム" :
 はは。冗談が巧くなったようで。

"アダム" :
 ──キミもそうだが。
 どいつもこいつも人間に期待し過ぎなんだ。

"アダム" :
 やれ人間の可能性だ、人類の希望だの、無限の可能性だの、あーだのこーだの。
 

ナタリー・ガルシア :「……なんというか、随分と実感がこもっていますわね」

"アダム" :
 当然だろう?
       アダム
 なんせオレは人間だぜ?

ナタリー・ガルシア :「一番最初に、罪を負った人間は言うことが違いますわね」

"アダム" :
 ああ。
 日々の営みを過ごすだけで疲弊して、明日の事なぞ考えなくなるような。
 酒と飯をかっくらって、面倒なことを全部他の誰かに押し付けるような。
 
 そういう生き物であった筈だ。そいつは、今でさえ変わっちゃいない。

"アダム" :
 キミらにとっての人類の可能性って言葉は本質的には酒(そいつ)と変わらん。
 キミらお得意の、自己肯定の文法だ。大事なものだが、ソイツに酔っちまったらおしまいだ

ナタリー・ガルシア :「……否定はしませんわ」

ナタリー・ガルシア :「けれど、人は『存在しないもの』を真剣に信じ込める唯一の動物ですわ――信仰も、通貨も、創作物も、夢や希望だってそうです」

ナタリー・ガルシア :「それを真剣に信じた人々がいたから、私達はここまで進んでこれたというのも事実ですわ」

"アダム" :
 かもね。
 けど、そいつに付き合わされる連中は平気で犠牲にするよな。
 

"アダム" :
 オレはそういうの飽きたんだよね。
 見るのもやるのもいい加減

"アダム" :
 ……と。いかんいかん、オレが愚痴った所で仕方ない。それに、時間も時間だ

ナタリー・ガルシア :「……貴方、何を見てきましたの?」

"アダム" :
 覚えてるかい? オレがソドムに落下した初日に、キミにあの都のルールを告げたはずだ。
 今日が、その七日目にあたる。
 そいつを境に、少しだけ時間が進むコトになる。

"アダム" :
 オレが何を見て来たかは……CMの後だよ。
 此処でネタバレしてもつまらない。

"アダム" :
 少し、時間はある。
 彼女のこと、まだ気になるんじゃないか?

"アダム" :
 別れぐらい告げてきなよ。
 尤も、大筋に変化はないんだがね。
 筋道は既に決められている。

ナタリー・ガルシア :「……」

ナタリー・ガルシア :「…………ええ、確かめますわ。何があったのか、何をしたのかを」

ナタリー・ガルシア :「お別れになるとするならば、きちんと挨拶もしたいですし――」

ナタリーは、それがどんな形の別れになるかは、意図的に考えないでおいた。

"アダム" :
 よろしい。
 ……では、時間だ。

"アダム" :
 ──────では、話をしよう。
 

"アダム" :
 これは運命の熾り、縁の起こり。
 
 キミに纏わる、キミへと繋がる、キミと関わりのない物語。
 

"アダム" :
 
 ──忘らるる都に繋がる、夢廻の旅路だ
 
 今は、理解できずとも、ね

"アダム" :
 さて。
 今はキミが知りたいことを見せてあげよう。

 ここなら、それが出来る。
 

SYSTEM :
 …………………………………………
 ……………………
 …………

SYSTEM :
 ……ふと、目覚める。

 あなたはこの一週間のうちに何度か夢にしたように。変わらない様子で瞼を開いた。

 重い瞼を開けた先に広がる、異なる世界を進んだ鋼の都。あなたは気が付けば、アダムと会話した公園のベンチの上で、ゆっくりと目を覚ましていた。

SYSTEM :
 それは、まるで胡蝶の夢のよう。
 どちらが夢で、どちらが現実であったのか、見分けのつかない海底都市の夢だ。
 けれど見る限り。その都に変化があるようには見えなかった。
 少なくとも、今は。

ナタリー・ガルシア :「……ここ、は」

もはや、見覚えのある景色になりつつあるこの場所で、意識が明瞭になっていく。
これが夢だと、頭で理解しているつもりだが――この現実感の前では、その境界が曖昧になる。

ナタリー・ガルシア :辺りを見渡すこともなく、周囲の音に耳を傾ける。

先程告げられた言葉が真実であれば、これから何かが起きるのだろう。

「――探さなくてはいけませんわね、ハーヴァを」

ハーヴァ :
「呼んだ?」

 ひょこ。と。
 聞き覚えのある声が聞こえたのは、あなたが神妙な面持ちでベンチの上で独りごとを口にしたその直後だった。
 少女は……あなたの真後ろからひょいと顔を出す。

「というより、もしや私が邪魔してしまったかな。
 あはは、気持ちよく寝ていただろうに、申し訳ない」

ナタリー・ガルシア :「……もしかして、私が眠っているところを見ていました?」

気まずさと恥じらいから視線を逸らす。

「それなら、起こして欲しかったですわ……」

ハーヴァ :
「悪かったよ。起こすのも悪いと思ったんだ。
 折角気分よく寝ているのだし、ここには時間は幾らでもあるからね」

ナタリー・ガルシア :「…………そうですわね」

ほんの少し、返答までに間が空いたことをごまかすべく、なるべくわざとらしく拗ねたように唇を尖らせる。

「それにしても、乙女の寝顔を鑑賞したのですから、責任は取って欲しいですわね」

ハーヴァ :
「えっ」

ナタリー・ガルシア :
「……今日も一日、私に付き合ってもらう、というのはどうでしょう?」

その驚愕を引き出せただけで満足、とでも言うように微笑んで、言う。

「まだまだ案内して欲しいところや、おしゃべりしたいことはたくさんありますもの」

ハーヴァ :
「……!
 ああ、ああ! お安い御用さ! 
 元々今日はタスクもないし暇を持て余していたからね」

ハーヴァ :
「じゃあ、何処に行こうか?
 友達だからね、君が望むなら何処にだって連れて行こう。
 此処は毎日、新しいものと出逢える街だ。昨日見た場所も、今日見ると違った景色が見えるかもだよ」

ナタリー・ガルシア :「そうですわね……今日はどうしましょうか」

思案して、頭をひねる。

「この都市の技術について研究をしている場所があるのであれば、興味がありますわね」

ハーヴァ :
「ああ!
 そういえば君にはまだ見せたことがなかったっけ。あまりこの国の教えについて、深く訊かれたことがなかったものね」
 

ハーヴァ :
 ぽむ、と相槌を打って、ハーヴァは続ける。
 ・・・・
「ナハシュの教えだよ。私たちは、その教えに従って生きていると、前にも言ったよね。
 私たちに力と共にその義務を授けてくださるモノ。教えの力を戴くことの出来る御神体が、ここにはあるんだ」

ハーヴァ :
「君が登録する折に見せてあげようと思っていたんだけれど、折角なら見学しに行こうか。
 場所は、この間の燔祭をやってた場所のすぐ近くだよ」

 さ、行こう。そう告げて、少女は手を伸べる。
 これまでと同じように。心底楽しいと言わんばかりの微笑みを湛えて。

ナタリー・ガルシア :「……ナハシュ」

その言葉が指し示すもの。楽園追放の、その一端であり元凶。

ナタリー・ガルシア :「……ええ、行きましょう。私も楽しみですわ」

その教えと、御神体――確かめなければならない。この先に待ち受けているものと、その原因になるかもしれないものを。

SYSTEM :
 ………その後。
 ハーヴァに案内される形で、その手を引かれてあなたは祭壇(ミズベーアハ)と呼ばれる施設にやってきた。
 
 平日で人の手も疎らな近未来都市を進み、燔祭を行った広間を超えて、二人は今無人のまま放置されている都の中枢に辿り着く。

ハーヴァ :
 ハーヴァは嘗て、語った。
 この都市の教えとは、智を以て人々を導くことであると。
 であるが故か、これを祭る伽藍に現在知るようなユダヤ教の祭壇に見られる特徴は殆ど残っていない。辛うじて、燔祭の名残か、メノラーに少し似た機械仕掛けの蝋燭が立っているだけだ。
 例えるなら、そこは最新鋭の技術によって彩られた、この都市を象徴するが如き鋼の祭壇。
 
「ここだよ。今日は私たちの貸し切りらしい」

ハーヴァ :
 そこへ祀られていたもの。それは、二頭を持つ蛇の剥製……いや、抜け殻だった。
 交差し、壁に縫い付けられたそれは、逆さとなった大樹の意匠に合わせて祀られていた。
   ナハシュ
 そう、 蛇 。
 
 それは古来より、誑かしの象徴として語られるが。

 ──それ以前。今の偶像を排し、聖四文字を祀る以前。偶像を崇拝していた頃の彼らの間では
 ・・・・・・
 智慧を齎す者として崇拝されていた。

ハーヴァ :
「これが、私たちが崇め、力を賜ったもの。
 智を以て善くあることを教えた、ナハシュ様の御神体だ。
 私もね、このナハシュ様から力を授かって、今みたいに少し頭が良くなる加護を賜ったんだ」

ナタリー・ガルシア :「これが、御神体……旧きレネゲイドの根源(オリジン)」

そう説明するハーヴァの顔を視ることもせず、ナタリーの視線は壁面に縫い留められたソレに吸い寄せられていた。

ナタリー・ガルシア :これは、決して悪いものではない、ないはずだ。
だが、これから辿ることを仄めかされているナタリーの胸中は、穏やかさとはかけ離れていた。

「……登録、と言っていましたが、具体的にはここで何を?」

ハーヴァ :
 ハーヴァは相変わらず、何処か誇らしげな様子だ。その故か、ナタリーが向ける視線によぎる不安感に気付かなかったのだろう。

「ここで住民登録……つまり塗油式を行うんだ。この像の前でね。
 塗油を行って、洗礼されることによって、ナハシュ様の力と、その責任を授かるんだ」
 

ハーヴァ :
「元々そうした加護を得た人が流れ着くこともあるけど、その場合でも同じ。
 力を与えられると言っても、どんな力が芽生えて、どんな才能があるのか、知ることになるのは実際に洗礼を受けてから、なんだけど。

 此処の教えは少し厳しいんだ。
 君が渋っていた『この都市から離れてはならない』という一文もあるし、根付く人とそうでない人、だいたい半々ってところかな」

ナタリー・ガルシア :「……住民登録することで、この『都市』の一員になるということですわね」

同一のレネゲイドを起源とするコミュニティ。
住民になることで、文字通りこの『都市』へと組み込まれるシステム。

生物が子を産み、数を増やすように――このレネゲイドもまた、この都市に住まう人々に宿り、増え続けている。

ナタリー・ガルシア :「……その、登録の際に何か不備は起きませんの?授けられた力を扱いきれずに、その、大変なことになったり」

ハーヴァ :
「うん。そしてこの力と責任は一生ついて回る。契約を破棄することは、出来ない。
 勿論此処も、ちゃんと説明した上で登録してもらう。私が洗礼を受ける時、必ず確認してるから間違いない」

ハーヴァ :
「そして……力が力である以上、当然誤作が生じることもある。扱いきれず暴走して、神の罰を受けて怪物になることも。
 ……けどね、そうならないためのシステムも、作られているんだ」

ハーヴァ :
 言いつつ、ハーヴァは歩を進めながら話す。

「この都市の住民はね、すべてこの御神体によって管理されている。私はそこに幾つか機能を増やしたんだ。
 それが……驕り高ぶり、力を遣い過ぎ、危険な水準に届きそうな場合
 ・・・・・・・・・・・・・
 強制的にその力を封じる機能」

ナタリー・ガルシア :「力を、封じる……?一体、どうやって……」

ハーヴァ :
「この都市の全体に、そうした力場を働かせたんだ。そういう装置を、私が作った。
 前に『都市を管理する』って計画の話をしたよね? 何処まで進めるかはまだ検討段階何だけど、少なくとも都市の安全保障にかかわる部分だけは先んじて施工していたんだ」

ハーヴァ :
「この装置によって、登録されていない加護持ちの人間が必要以上に力を遣った場合、自動で発動して力を抑え込ませる。
 登録済みの人達の中でも、頑張りすぎで危険な域に達したのを検知したら、安全装置としてその能力を停止させる。

 この機能が作動したら、本当に生得的な能力以外のすべてがストップする。どんなに頑張っても、水準以下に落ちるまでは加護を使えなくなる」

ナタリー・ガルシア :「……ええ、それは素晴らしいですわ。過剰に加護を用いて、自身を破滅に追い込んでしまうのは悲しいことですもの」

ナタリー・ガルシア :「その装置は、一体どこに?これだけの都市の全域を――それも、常時カバーし続けるのであれば相応に巨大になりそうなものですが」

この後時間があれば、それも見てみたいですわ、と付け加える。

ハーヴァ :
「うん。……この機能がきちんと動いてくれたなら、きっと今までみたいな犠牲も減る筈だよ。
 これまでにも仕事を頑張りすぎて大変な目に合った人がいた。……みんな、都市のことを思って、一生懸命頑張っているんだ」

ハーヴァ :
「だからきっと、これでよくなる。まだ設計の不備が見つかるかもしれないけど、その都度みんなで治していけばいいんだ」

ハーヴァ :
「それから……装置が何処にあるかって
 ・・
 此処だよ」

 言って目で指し示した先には、蛇の紋様が刻まれている。

「知を以て善くあること。それを目指した以上、この御神体がどういうものなのかを知っておく必要もある。父様と一緒に、それを検めてわかったんだ」

ハーヴァ :
「これはね。知識の倉なんだ。
 私たちが見出した知識を集めて保管して、また保管したものを引き出すことで新しい技術や力を見出していく。

 私はこの機能に手を加えて、この都市の各所にそういう力が作用するように、都市中に力の源を散布させたんだ」

 ……詰まる所。現代のナタリーがこれを解釈すると。
 言ってみれば、これはコンピュータなのだろう。情報を収集し、集積し、そのデータベースをもとに情報を引き出し必要な機能をアウトプットする。

ハーヴァ :
 ハーヴァの語るのは、この制御機構に機能を追加することで『都市全域にレネゲイドを管制する因子』を散布させるようにした。ということに他ならない。

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :「それでは、あの『御神体』を制御することが出来れば、この都市のすべての力を……」

この都市に満ちる力。
この土地に暮らす者たちの力。
その全てを集積、管理しているのであれば――この場所にある全てのシンドローム、すべての力を、個人がコントロール出来るのではないか?

ナタリー・ガルシア :「……人々が豊かになるのは、良いことですわね」

技術の飛躍。
人の手に余るような、巨大な力がこの都市のそこかしこで育まれていく。
満ち足りた環境で、不自由なく暮らす悪意とは縁遠い人々――それぞれが自由に求める力を引き出し、技術は進歩していく。

「ですが、私、少し恐ろしい想像をしてしまいましたわ――悪意ある人間、いえ、悪意がなくとも一人が過ちを犯すだけで、大変なことになるのではないか、と」

ハーヴァ :
 ・・・・
「そうだよ。理屈の上ではね。
 ……それだけの情報を扱える人間がいれば、の話ではある。それは本来イレギュラーな存在で、想定するべきではない障害ではあるけれど。
 絶対にないとは言い切れない」

ハーヴァ :
「今は誰もが、この都市を守ろうとしている。今の生活を享受しようとしている。
 神の祝福を。その恩寵に与り、自分の為すべきを為して穏やかな時間を過ごしている。

 そうだとしても不具合は起きるものだ。元々、ここは移民で出来た場所で、その受け入れも積極的にしてきた。
 そして、些細な不具合が原因で、すべてが綻びる」

ナタリー・ガルシア :「……はい、どれだけ完璧に見えても、小さな綻びから全てが崩れ落ちることもありますわ」

ハーヴァ :
 ・・・・・・・・・・・・・・・
「だからこそシステムが必要なんだ」

 と、ハーヴァは昔日口にしたことを繰り返し告げる。

ハーヴァ :
「私は皆が呼ぶほど善い人間じゃない。でも、善く在ることがとても難しいことを、その身で知っているつもりだ。
 この力は便利だけど、誰もが井戸のように遣えば魔が差すこともあるだろう」

ハーヴァ :
「……今は、その機能の複雑さから、私や一部の人間を除いて誰も手をつけてはいない。
 そしてその今のうちに、セキュリティを強化しないといけない。いけないんだけど……」

ナタリー・ガルシア :「追いついていませんの……?」

ハーヴァ :
「軽率に強い縛りをかけることが出来ないのは、君がかつて言った通りさ」

 困ったように肩を竦め

ナタリー・ガルシア :「それは、そうですわね……少し間違えれば、弾圧に繋がりますし」

ハーヴァ :
「システムの複雑さと、管理しているデータベースを照らしてみれば、すぐにでもナハシュ様を掌握できるような人間はいない。
 私が直に見る限りでもそうした人間は今のところはいない。
 でも、私の眼が黒いうちには、仮決めのシステムを増築しなきゃいけないだろうね」

ハーヴァ :
「……この都は完璧に見えて、問題は山積みさ。
 神は私たちを不完全に作り、不完全な力でこの都市を築かせた。不備が残るのは仕方ない。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 けど、不完全なものが完全なものを作れないなんて道理はない」

ナタリー・ガルシア :「………」

ハーヴァ :
「知を以て、善くあること。
    ・・・・・・・・・・
 それは後天的に善くあることを目指した教えでもある。
 それを、きっとナハシュ様は期待しているんだ」

ハーヴァ :
「ここは外れの小さな島だ。稀人もごくわずか。
 これでも戦争も病気とも無縁だから、一人当たりの寿命は格段に延びもした」

ハーヴァ :
「ゆっくり時間をかけて、素晴らしい場所にしていけばいい。
 それまでは、私がこの場所を守ろう」

ナタリー・ガルシア :「……それは」

ナタリー・ガルシア :「……それが、どれだけ長く、険しい道か、分かっているんですわよね」

それは、問いかけというよりも、独白に近い言葉だった。
その在り方、少し前までは心の底から応援していたはずの、その生き方。

ナタリー・ガルシア :
「……あまり、無理をしてはいけませんわよ?」

それは、懇願じみて――ハーヴァに、誰を重ねてしまっているのか、ナタリーは理解してしまった。

ハーヴァ :
「……承知の上だよ。それが私に課せられたものでもあるし、私のやりたい事でもある。
 託された場所。私たちの日常を、護ること」

 ああ、けれど。
 こんな繋げ方をするのは少し意地が悪いかもしれないけれど。
 少女は、少し間をおいて告げる。

ハーヴァ :
 ・・・・・・・・・・
「君さえ残ってくれれば、もっと心強いんだけどな。
 住民にならなくてもいい。たまに来てくれるだけでも、とても支えになる」

ナタリー・ガルシア :
「…………それ、は」

その言葉に、思わず目を伏せる。
頷いてしまいたい気持ちは――ある。

少なくとも、ここは心地が良い。
苦しみも、差し迫った責務も、この先で直面するであろう苦難も、ナタリーだけが背負わなければならない代償も、ない。

ナタリー・ガルシア :
「……すみません」

だが、ナタリーは絞り出すように言葉を吐き出した。代わりに、おずおずとハーヴァの手を、握る。

「本当に、すみません……私も、そうしたいと思っています。思っていますが、私にも果たさなければならないものがありますの」

ナタリー・ガルシア :ハーヴァと共に、善き人々のための都市を創り上げていく未来を想像する。
数多の苦難と、数多の喜び。
そして、それは、二人でなら乗り越えることが出来るという根拠のない自信。
幼さゆえの全能感と切って捨てるには、あまりにも確信めいたその想いを、けれど、振り切る。

ナタリー・ガルシア :
「私は、私の責務を投げ出すことは出来ません……してはいけないのです」

ナタリー自身が、逃げ出すことを許さない。他者を傷つけて、命を奪って、それでも己の意志を通して――その上で、踏みにじったものに背を向けることなど出来はしない。

あるいは、己の手で誰かを傷つける前であったのならば――

ナタリー・ガルシア :
「私がなすべきことから、逃げ出してしまっては――私は、もう私として生きていけない気がするのです」

そんな『もしも』を振り払う。
奪ったもの、奪わせてはいけないもの、二つの重しがナタリーの楔として、責務に向き合う理由となる。

ナタリー・ガルシア :
「ですから、そうですわね……たまになら、来れるとは思うのですが……」

だがそれは、ハーヴァが求める声に応じられるという意味では、ない。
そして、再訪の時期の確約も、出来はしない。

ハーヴァ :
「────そうか。
 なら、無理強いは出来ないな」
 
 ほんの僅か、間をおいてハーヴァは微笑んだ。
 少し寂し気な笑み。そこには確かに、何かを惜しむ色があった。

ハーヴァ :
「家の責務、部族の責務。居場所の責務を果たすことは大切だ。
 それはもう、自分の一部なのだから。誰が何と言っても、切って離せるものじゃない」

ハーヴァ :
「けど、そう言ってくれるなら嬉しいな」

 ハーヴァは優れた頭脳と観察眼を持っていた。この時、動揺するナタリーが具体的に何を考えていたかまではわからずとも、彼女の言葉が気休め程度のものであることなど承知していた。
 それを、ハーヴァは決して責めはしなかった。

ハーヴァ :
「……でも一つだけ、聞かせてくれないか?
 長い間、私たちの居場所に居てくれた君から、一つだけ訊きたいことがあるんだ」

ナタリー・ガルシア :
「……はい、私に答えられることなら、なんでも聞いて欲しいですわ」

言葉の裏側に隠れたものも、きっと伝わってしまっているのだろうと、ナタリーは理解していた。

だから、せめて、と。
ナタリーは顔をあげて、ハーヴァと視線を合わせた。少女が持つ精一杯の誠意で、その問いに応えることを誓う。

ハーヴァ :
「うん。でも、大したことじゃないんだ」

 少し照れ臭そうに視線をそらして、続ける。

ハーヴァ :
         セカイ
「──────私たちの 日 常 は、君にとって綺麗なものと感じただろうか?」

ハーヴァ :
「祭りの時間は、楽しかっただろうか?
 日々の営みは、充実しただろうか?
 公園で休んだ時間も。御馳走に舌鼓を打った時間も。
 仕事で汗水を流した時間も。一休みして、語り合った時間も」

ハーヴァ :
「君が、君の責務を果たす中で。
 支えのひとつとなってくれる、いつまでも想い出に残る、鮮烈な体験だっただろうか?」

ナタリー・ガルシア :
「……ええ、ええ!」

ナタリーは、一瞬ぽかんとして、すぐに頷いた。

ナタリー・ガルシア :
「勿論ですわ、ここでのことを私はきっと、ずっとずっと忘れません。それこそ、忘れてほしいと言われてもしつこく思い出すでしょう――それに、ハーヴァ」

握った手に、僅かに力がこもる。

ナタリー・ガルシア :「貴方のことも、絶対に忘れません。たとえ、道が分かたれたとしても、貴方がここで、この場所で、頑張っていることを、私はもう知っています」

ナタリー・ガルシア :
「ですから、私も頑張ります。貴方に負けないように――貴方に、私が友人であることを誇ってもらえるように、私の責務を全うしますわ」

ハーヴァ :
「そうか……そうか。
 ────良かったぁ」

 心底、安心した様子でハーヴァは頷いた。
 それは。どこかで張り詰めた様子があったハーヴァにとって、本当に安堵していたことが、触れる手から伝わってきた。

ハーヴァ :
「もし、かけがえのない友である、君にとってそうならば──
 きっと、それで十分なんだ」

 薄く微笑む。一抹の寂しさと、安らぎに満ちた顔で。

ハーヴァ :
「私も、君のことを忘れることはないだろう。
 たとえ道が分かたれても、何処に行ってしまっても。
 君の責務を果たす時を、私はずっと応援している」

ハーヴァ :
「──そして、いつかまた。
 責務に疲れ、苦しくなった時は。また此処を訊ねてほしい。
 私たちは……いつでも。どんなに時を経ようと、どんなに遠く離れようと、君の味方だ」

ナタリー・ガルシア :
「はい、私も……私も、どんなことがあっても貴方の友人ですわ、絶対に、どんなことがあっても……」

ナタリー・ガルシア :「ハーヴァ、ハーヴァもどうか……どうか、お元気で。私も、私もずっと、ハーヴァのことを応援していますわ……だから、また、また会いましょう、必ず」

ナタリー・ガルシア :「辛くなったとき、苦しくなったとき、無理はしないでくださいまし……ハーヴァは、ハーヴァにも、幸せになって欲しいのです。貴方が望む以上の幸いが、貴方にありますように祈っています……」

ナタリーは心底から、それを祈る。
彼女の行く末と未来に向けて、ただ幸いであって欲しい、と。
祈りは神への陳情ではなく、己が道を往くための杖であるということは、ナタリーも知っている。
だが、このときばかりは、なにかに祈らずにはいられなかった。

SYSTEM :
 熱い視線が交わる。
 硬く繋がれる、双方の手。
 幸せになって欲しいと。祈る言葉は……少なくとも、ハーヴァ本人には届いただろう。
 
 だが。

SYSTEM :
 少なくとも彼らの信じる神は…試練の神でもあった。

 なればこそ、この結末は必然だったのだろう。

SYSTEM :
 刻限が、来た。

SYSTEM :▂▇▂▛▟█▂▅█▂▇▇██▙█▄▛▟█▂▇▟▟▇

SYSTEM :
 場面が切り替わるように。
 瞬きの瞬間、気が付けばあなたは別の場所にいた。

SYSTEM :
 全く知らない場所だったが。間違いなく、先ほどまで立っていた筈の祭壇だとすぐに判断できた。
 それは──どれだけ時間が変容しようと、伽藍のカタチが変化しようとも。
 決して変わることのない『御神体』の存在が、雄弁に示していた。
 

SYSTEM :
 此処は──そう。
 先ほどまで居た時間軸から、数十年単位で時間が経過している。
 そして時間の経過は技術の発展を意味する。ことこの都市において、わずか十年で百年を超える技術発展が得られる場所だ。
 

SYSTEM :
 ……一瞬のことだった。
 一瞬で理解が追い付かないだろう状況の変化だが。
 あなたが硬く繋いだ、手の感触はまだ消えることがなかった。
 

SYSTEM :
 比喩でも錯覚でもない。
 目の前から消失したハーヴァの代わりに、あなたの手には別のものが握られていた。
 ハーヴァの温かい手とは比べようもない冷たい感触。けれど、その触れた触感だけはまるで人肌を思わせた。
 

ナタリー・ガルシア :「……ぇ、あ」

固く、ずっと続くかのように交わしていたものが、するりと零れ落ちていく。
その代わりに与えられたのは、眼を見張るほどの変化と無機質すら思わせる冷たい感触。

映画のフィルムが欠落してしまったかのような唐突さに、思わず辺りを見渡して――その手の主へと視線を向ける。

SYSTEM :
 あなたは、ゆっくりと視線を落とす。
 その手を握った相手が誰なのか。
 この場所が何処であるのかを考慮すれば……自ずから、理解は出来たかもしれない。
 思考するに至る前に、視線を落とすことが出来たのは或いは僥倖だったかもしれない。

ハーヴァ :
「……、……、や、やあ……
 また、来てくれるとは思わなかったな、セラ」

 そこには。血の泥濘に体を横たえて、懸命にナタリーに手を伸ばし、その手を握る少女、ハーヴァの姿があった。

ハーヴァ :
「いつでも君の味方になる、と。
 そう言ったはずなんだけどな」

「外を見てきたろ……今、取込み中なんだ」

SYSTEM :
 それと同時に、急激に周囲の音が聞こえ始める。恐らく、その瞬間まで緊張状態にあった分、気付かなかったのだろう。

 ……聞こえるのは、怒号だった。
 この伽藍を取り囲む、何者かの、怒号だ。

ナタリー・ガルシア :「……ぁ、…………っ」

世界が色を取り戻し、喧騒が戻ってくる。
投げかけられた言葉に答えなければならない、そう思っていてもナタリーの喉は本来の用途を忘れてしまったかのように凍てついて動かない。

ようやく、その掌の中の冷たさが、『何』を意味するのか――理解が追いついて、喉はようやく本来の役目を思い出した。

ナタリー・ガルシア :「ハーヴァ!!」

それは、もはや言葉と呼ぶよりも悲鳴に近い声だった。
混乱する思考の中で、赤い色だけが鮮やかに視界に映り込む。
何が起きているのか理解しなければならないという理性と、何が起きているのか理解したくないという感情――二律背反の間で、ナタリーは行動を起こすことも出来ずに停止してしまっていた。

ハーヴァ :
「……本当に、迂闊だったよ。ああ、本当に。
 その危険性は、君が示してくれていた筈だ」

ハーヴァ :
「今では、御覧の有様だよ。
 悪魔の娘。背徳者。神に成り代わろうとした魔女……」

ナタリー・ガルシア :「ハーヴァ!!ハーヴァ、血が、血が……!!」

ナタリー・ガルシア :「ああっ、どうして……ハーヴァ、そんな、こんなの……」

ハーヴァ :
「けほ、けほっ……私が管理していれば安全としていた、んだけど……それ自体が、納得できてなかったんだ」
 

ハーヴァ :
 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
「うまくいかないことは、私が管理しているのが悪い」

ナタリー・ガルシア :「もう喋らないでください!!これ以上は、傷が……」

ナタリー・ガルシア :「そんな、そんなことあるわけが……ハーヴァが、ハーヴァが悪いわけありませんわ!そんな、そんなはず……」

ハーヴァ :
 はあ、はあ、と息をつく。汗はとめどなく零れ、血は塞いだ上からこぼれていく。リザレクトが間に合わないか、或いは既に侵蝕率が100%を超えている。

「済まない……君を不安にさせてしまった。
 でも、この疵じゃ多分助からないよ。
 ッ、私が作った武器で……、私が撃たれたんだ。自分が先が短いことぐらいッ……」

 再び喀血する。紛れもなく致命傷だった。

ナタリー・ガルシア :「そんなこと聞きたくありませんわ!!そんな、そんなはず……何か、何かあるはずです……ここになら、傷を治す方法くらい、いくらでも、ああっ、ハーヴァ……ハーヴァ」

視界が滲む。
熱いものが溢れて、頬を伝って眼下の少女へ零れていく。
拭う暇すら惜しんで、ハーヴァを抱えるように抱き起こす。

ハーヴァ :
「君が言った、通りだったんだ……
 悪意ある人間が、過ちを犯すだけで大変なことになる。
 だから私がどうにかして管理しようとした。
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 けどね……そんなことぐらい私で無くても思いつく。
 ──どうやら皆、私を信じてはくれなかったらしい」

 息も絶え絶えという様子で、しかし安心させようと何とか手を握り返す。
 抱きかかえられながら、ハーヴァは口を閉ざすことなく続ける

ハーヴァ :
「はは、本当に、困った。
 魔女などいないと、悪魔などいないと。そう結論したくせに、私をそう呼ぶんだよ、彼らは。
 これが笑い話でなくて何だというのか」

ナタリー・ガルシア :「あ、ああっ……どうして、どうして……そんな……ハーヴァ……」

この顛末を聞き終えてしまったとき、ハーヴァの役目も終わってしまうという予感があった。

だからこそ、聞きたくない、と駄々をこねるように首を振る。けれど、聞き逃してはならないとも同時に思う。

ナタリー・ガルシア :だからこそ、少女はその自嘲めいた――諦めの滲んだ言葉をしっかりと聞いて、呑み込んだ。

   ・・・・・・・
「――誰がそんなことを?」

少女の声音から、温度が抜け落ちる。
視線を上げて、喧騒の方を――そこにいるはずの『彼ら』の方を見やる。

ナタリー・ガルシア :
「許しません」

落ちた呟きは、盃から溢れた感情そのものの冷たさと苛烈さを同居させていた。

彼らも、己も、同じなのだろう――同じ、ただの人間だ。
ならば。

・・・
こちらだけが、気高く生きる必要はないのではないか?

ハーヴァ :
 冷たく、鋭い赫怒。それに対して、しかしハーヴァは……
 既に途切れかけた生命力を懸命に振るって、
 ・・・・・
「やめてくれ」

ハーヴァ :
 縋るような手を、抱き抱えるナタリーに懸命に伸ばして、告げる。

「彼らの不安は……当然のことだった。誰もが思いつく程度には、ね。
 それに……」

ハーヴァ :
「見たくないんだ……君の、そんな顔。
 それに一度勢いでそれをしてしまうと、君はきっとすごく嫌な気分になる」

ナタリー・ガルシア :「………わたくしは」

ハーヴァが振り絞った言葉を踏みにじってまで、己の怒りを振るえるほど、ナタリーは強くも、弱くもなかった。

だから、ただ、路頭に一人迷う子供のように――縋り付く掌を失ってしまった幼子のように、失われていくぬくもりを探そうと強く、強く強くハーヴァの手を握りしめる。

ナタリー・ガルシア :「すみません、すみません……ハーヴァ、大丈夫です。わたくしは大丈夫ですから……ハーヴァ、私は、ここできちんと聞いていますから」

ハーヴァ :
「……、ごめん。
 君には、いつも気を遣わせてばかりだった」

 行き場を失くした怒りと、どうすることも出来ない困惑にただ強く感情を揺さぶられるナタリーの手を握り返す。

ハーヴァ :
「……でも、君が来てくれて、よかった。
 懺悔の相手、が、実は欲しくてね」

ハーヴァ :
 本当に愛おしげな眼差しで見つめ返しながら、ナタリーの手を握り返して、彼女は続ける。

「彼らの主張を……身勝手と、詰らないで欲しい。
 その原因の一端は、私にあるのかもしれないんだ」

ナタリー・ガルシア :「……っ、気を遣ってなんて、いませんわ。私で良ければ、聞かせてください……ハーヴァの、友人のお話に付き合わない程、私は狭量ではありませんわ」

無理矢理に笑みの形を作って、震える声音で無理やり軽口を叩く。
滲みそうになる視界を、瞬き一つで晴らして――ハーヴァの言葉を、ハーヴァの表情を、決して逃さないように。

ハーヴァ :
「……君が去ってから、私はずっと考えていたんだ。
 この山積みの問題を少しずつ解決するとしても、どのように動かしていくべきか。
 私には、結局何もできなかった。けれど……結論は出た」

ハーヴァ :
 ・・・・・・・・
「私の頭では無理だ。
 ・・・・・・・・・
 人間の頭では無理だ」

ハーヴァ :
「私の知性では無理だ。
 他の人の知性でも、きっと無理だ。
 時間を掛けても、答えなんて人それぞれ。対応できる筈がない」

ハーヴァ :
「けど私より遥かに高い知性なら、可能だ」

「私より高い知性を持ち、私より長い寿命を持ち、私より確実に『遺産』を遣える誰か」

ハーヴァ :
 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・
「それを作ることなら、今の私にも可能なはずだ」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ハーヴァ :

ハーヴァ :

「都市の進化速度に対応し、都市の進化速度を加速させ、
                      オラクル
都市と共に都市の時間の中の最適を出し続ける『神意』。
 ──私は、それを作ることにした」

ハーヴァ :
「私はね、実の所、死ぬこと自体はそんなに怖くはない。痛くて、しんどいけれど……最後に、これを残すことが出来た」

ハーヴァ :
「この土壇場で、完成させることが出来たんだから。
 御神体に搭載した、新しい知性。
 その重い責務を負うのは、私で最後になる。

 ・・・・・・・・・・・・・・
 自立型大規模都市管理人工知能。


     オラクルマシン   エヴァンジェリン
     神託装置──"預 言 者 "」
 

ナタリー・ガルシア :「………………『預言者』」

ハーヴァ :
「……私が、死んでもっ……
 他の誰が……指導者として君臨しても……
 今、神意は示された。

 もうナハシュ様の意志は誰のものでもない……私がそれを管理し、支配しているなんてことを言い訳に出来る人もいない。言い訳のはけ口として、こんな目に合う人間も……」

ハーヴァ :
「きっと、きっとだ。
 都市は、これからよくなる。
 いつか来る、そんな綻びさえも、越えていける……いつまでも残り続ける立派な都になる」

ナタリー・ガルシア :
「……ええ、そうなるはずですわ。そう、ならなければなりません」

頷き、ぎこちない笑顔で答える。
その本心はどうしても覆い隠せるものではない――だが、この都市の行く先を願う気持ちは同じだった。

ナタリー・ガルシア :「大丈夫ですわ、ハーヴァ。安心してください、貴女の創り上げたものはきっと、きっと、この都市を善き方向に導くでしょう……今度は、誰一人として犠牲にすることなく、きっと、皆が満ち足りた都市を創り上げることが出来るはずですわ」

額が触れ合いそうなほどに顔を寄せて、腕の中の少女に安心させようと囁くように告げる。
果たして、少女にはまだ聞こえているだろうか――その最期だけは、最期くらいは、安らぎの中にあって欲しいとナタリー祈る。

ハーヴァ :
 敏い彼女は、ナタリーの機微を察していたが、この時ばかりは純粋な苦痛にさいなまれる自分への言葉として受け取った。
 
「そうだといいな……私は、とんでもない思い違いをしていたから」

 顔を寄せ、お互いの息がかかる近さで見つめ合う。
 焦点が少しずつ合わなくなっていくハーヴァは、それでも最期の瞬間まで言葉を紡ぎ続ける。
 

ハーヴァ :
「私は、この場所を愛していた。
 父様たちが作り、父様たちから託された、安らぎと発見に満ちた新天地。
 少し狭く感じるけれど、毎日のように発見が見える活気に満ちた鉄の都……」

ハーヴァ :
「その為に……、より多くの人が、犠牲を生むこともなく、求められたものに、答えられる……
 長く、何時までも長く、続く都になる、ことを……祈って、様々な発明をした」
 

ハーヴァ :
 その為に技術を生み、その為にインフラストラクチャーを広げ、その為に制度を作った。
 法律を作り、管理する機能を作り、設備を作り、体系化していった。
 

ハーヴァ :
「そうだ……私は、この場所を愛していた。
 この場所が、長く続いて、人の居場所であることを願ったんだ」

ハーヴァ :
   ・・・・・・・ ・・・ ・・・・・・
「……私が好きなのは、人じゃ、なかったんだ」

ハーヴァ :
 少女は……泣いていた。
 何十年に渡り、都市の為に心血を注ぎ続けた国母たる娘は、その今わの際に初めて思い知った。

ハーヴァ :

「私は根拠なく人を信じるばかりで──人を見ていなかったんだ」

 それが、自分が齎した結果であると。今の惨状をハーヴァは語る。
 本来なら誰もが善良であった場所を、自らの手で穢したこと。その慙愧で、娘の顔は塗れていた。

ナタリー・ガルシア : ・・・・
「違います、違いますわハーヴァ」

そればかりは譲れないと、懺悔に対して相槌を打つだけだったナタリー強い口調で否定した。

「貴女は成し遂げたのです、貴女が自身に課した途方もなく大きな責務を――住まう人全てが満ち足りた、善き人々の住まう都市を確かに創り上げたのです」

ナタリー・ガルシア :「ハーヴァ、貴女は『楽園』を創り上げたのです。後はこれからここに住まう人々の問題です――そして、それを乗り越え、解決する術も貴女はもう用意している」

だから、どうか。
どうか、泣かないで欲しい。
自分を責めないで欲しい。

ナタリー・ガルシア :
「どうか、どうか、ハーヴァ――貴女を赦して欲しいのです。貴女の願いは、貴女の始まりは、確かに『誰か』の為ではなかったかもしれません。けれど、それは間違ったことではありません、あっていいわけがないのです」

その願いがどんなものであれ、多くの幸いに繋がるものであったのならば――それが偽善と蔑まれるものであったとしても、間違いであるはずが、ない。

ナタリー・ガルシア :
「貴女の願いは、確かに今ここへと通じていました。貴女は人々が罪を背負わず生きることの出来る『楽園』を創り上げたのです――それは、たとえ貴女の道に誤りがあったとしても、今ここに創り上げたものが間違いであるはずがありません」

人の善良さを、ただ信じることが悪いことなのだろうか。
そんなはずはない。そんなことがあっていいわけがないのだ。

だが、もしも、それで少女が責められるとするのならば――

ナタリー・ガルシア :「ハーヴァ、私もズルいことを言いますわ――

――私がハーヴァを赦します。
――私は、ハーヴァを誇りに思います。
――私は、ハーヴァと出会えて、ハーヴァが創り上げたこの都市に来ることが出来て良かったと、心の底から言えますわ。

友人の私の言葉を、信じてくださいませんか?」

ハーヴァ :
「──────────────、」

ハーヴァ :

 涙が浮かんだ焦点が定まらない瞳に、少しだけ光が戻る。
 体は冷たくなる一方で、嘘偽りのない言葉に少女は胸の内が熱くなるばかりだった。

「セラ……それは……、そんなのは、ずるいだろう……」

ハーヴァ :
 言葉に反して、ハーヴァの顔は安らいでいた。
 責務を成し遂げ、そのすべて、為すべきを成し遂げたという。
 誰にも認められずに朽ち果てるのみで、己からさえも認められずに終わる最後の贐として、その言葉ほど心の深い所に染み渡るものはなかった。

ハーヴァ :
「……、間違いでは、なかったなら。
 この楽園を、作ったことが過ちでないのなら……
 もしそうなら……一生懸命になって、善かった、な……」

ハーヴァ :
 安堵した故か、話すべきことを話した故か、ハーヴァの目の焦点が定まらず、その眼に宿した光が少しずつ薄れていく。
 その最中……彼女は、最後の力を振り絞って、口にする。

「──最後に一つ、頼んでいいかな」

ナタリー・ガルシア :
「……はい、何でも言ってください。私、約束は守ることに定評がありますのよ?」

溢れる涙を抑えきれずに、今自分が泣き笑いのようなひどい顔をしているのだろうと他人事のようにナタリーは思った。

ハーヴァ :
   エヴァ
「──彼女を、お願い。
 これからは、あの子が永遠の族長となる。この街そのものが、この街の長となり、護る盾となる。
 エデン   ラハトヘレヴ ガルガリン     ケ ル ブ
 楽園を護る炎の剣。 車 輪 を率いる智の御使いになる」

ハーヴァ :
「私が半生を掛けて、築いてきた。
 私たちの救いの御遣い。

 都市そのもの。私が、本当に愛した者」

ハーヴァ :
「それを──どうか。
 守って欲しいんだ。私に代わって」

SYSTEM :
 ──それは。
 或いは、彼女からしてみればこの都市に残り、その世界の後見人として、戦って欲しい。
 そうした意味合いであったのだろう。
 先の世界を識るナタリーにとっては、全くの別の意味に聴こえたかもしれないが。

SYSTEM :
 ──それは。
 恐らくは。どちらの意味でも、認めるわけにはいかない言葉だった。約束など出来ようはずもない言葉だった。

ナタリー・ガルシア :
「……そ、れは」

それが、運命なのだろうか。
眼の前の少女は、救われるべきではないと?

決して肯定できない問いかけ。

嘘を吐くという不誠実も、その願いを否定する非道も、ナタリーには選ぶことは出来ない。

ナタリー・ガルシア :「あ、あぁ…………」

ナタリーには。
ナタリー・ガルシアには、友人の最期を救うための言葉の持ち合わせすらなかった。

ナタリー・ガルシア :『選ばなければならない時が必ず来ます――どちらかを天秤にかけて、より良い方を選ばなければならない時が』

そう言ったのは、己のはずだった。
そして、その時になれば選べると思っていた。
痛みと悲しみ、傷を遺しながらでも。

ナタリー・ガルシア :
「わたくし、わたくしは……ハーヴァ、あぁ……そんな、どうして。違います、そんな、違う……わたくしは、ハーヴァに……」

ナタリー・ガルシア :
「あぁ……ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……」

"アダム" :
 ・・・・・
「落ち着けよ」

"アダム" :
 その時。謝罪を続けるナタリーの肩に手を触れ強引に引き戻したのは。
 今の今まで姿を見せなかった、アダムだった。

"アダム" :
「初めから出来もしない約束なんだ。
 この場では沈黙が正解だ。キミが背負うことじゃない」

"アダム" :
 ・・・・・・・・・・・・・・
「そういう役回りは別に居るんだ。
 キミは、そいつを体験したに過ぎない」

"アダム" :
「けど、まあ、なんだ。
 あいつの想いに寄り添ってくれるとは期待してたが……」

"アダム" :
「おまえら、似すぎだろう。
 似たような面で似たようなやりとりを返しやがって」

 男は心底、呆れたのか安心したのかよく分からない様子で息をつき、悲嘆に暮れるナタリーに応じていた。

ナタリー・ガルシア :「ぁ……」

呆然と座り込み、投げかけられる言葉にさえ返事を返すことも出来ない。

ただ、突然消えた腕の中の重みと、追体験した喪失の痛みに視界が眩む。

SYSTEM :
 そう。アダムが、無理矢理に肩を掴み、引き剥がすように引っ張ったその時。

 
 そこで──致命的にズレが生まれた。

SYSTEM :
 少女の手がすり抜けて。
 これまで腕の中に抱えていた、ハーヴァの冷たい触感が消える。
 それはまるで、今まで世界の一部として立っていた自分が、引き剥がされ、外側に戻ってきたような。

SYSTEM : 
 何かが立ち切れる音と共に。
 あなたと。
 ・・・・・・・・・・・
 あなたが演じていた誰かが、引き剥がされる。

"アダム" :
「……立てるかい?
 最初に言っただろ?」
 

"アダム" :
「キミは夢として追体験しているに過ぎない。
 つまり、キミが今まで立ってきた場所には本来別の人間が立っていたんだ。尤も……彼女がキミに向けていたものが都市の意志だとしたならば。
 これまでの全部が、偽りという訳でもないんだろうけどね」

ナタリー・ガルシア :「…………わたくし、は、私は」

理性がようやく、己の仕事を思い出したかのように働き始める。
涙を拭う。
声は、少し震えたまま、けれど顔を上げて視線にわずかばかり光が戻る。

ナタリー・ガルシア :「これが、かつて、あったこと……」

"アダム" :
「……少しは落ち着いたか。エー何だったか。
 『落ち込んだ淑女がいたら優しい言葉を投げかけるのが紳士の嗜み』……で合ってるかな?
 実践してみた訳だが、どうやら効果はなくはないらしい。試してみるもんだね」

"アダム" :
「ま、いいさ。
 此処から暫くはオレもキミも、存在しないエキストラだ」

"アダム" :
「それじゃあ……実際の位置に誰がいて。
 その彼女はなんて答えたのか──これから、そいつを見ていこうか」

ナタリー・ガルシア :「…………」

SYSTEM :
 涙をぬぐい、辛うじて顔をあげたナタリー。
 その視線の前には、かつて自分がいた位置で、ハーヴァの身体を抱き据える者。

SYSTEM :
 そこには……

 見事な金砂の長髪を流した……小柄な少女の後ろ姿があった。
 

"セラ" :
「──分かりました。
 それが、あなたの望みならば」

"セラ" :
        ソドム
「あなたの愛した 都 を。
 あなたの生きた証そのものを。
 私は、護り続けると約束します」

"セラ" :
「だから──ハーヴァ。
 安心して。
 私はこの場所を、外側から守り続けます。
 たとえ百年、千年の月日が流れようとも」

"アダム" :
「ホラ。
 ……なんか見覚えのある後姿だろ?」

 茶々を入れるように、アダムは言葉を添える。

ナタリー・ガルシア :「……そんな、そんな、はずは」

"アダム" :
 ・・・・・・
「そんなはずは、ね。
 ま、無理もない」

"アダム" :
「一応言っておくが、最初の時系列が約四千年前。
 そして、以前の年代から今は数十年経ったに過ぎない。……体が少女のカタチをしてるのは、多分再現映像だからだろう。キミの精神性に引っ張られていただけで、実際は立派な大人の姿をしてたはずだ」

"アダム" :
「つまりこれは、短くても三千九百年前には実際におきていたコトということになる。
 だからまあ、居る訳がないよな?」

ナタリー・ガルシア :「…………そう、ですわね」

その言葉を、己の肯定を、ナタリー自身が信じきれていないのはその揺れる視線から明らかだった。

SYSTEM :
 語る間にも、ナタリーの目の前で、物語は紡がれていく。
 恐らくはその少女にとって、転換期の一つとなった出来事。

"アダム" :
「……ところでキミ、最初の会議でオレがエヴァンジェリンに反応した時。
 何か探りをかけてたよね」

"アダム" :
「丁度いいから今謝っておくよ、からかって悪かった。
 アレは違う」

"アダム" :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エヴァンジェリンのことを語るアイツに反応したんだ。キミが妙な勘違いを起こしたので面白いから適当に誤魔化した。
 ハーヴァは兎も角してエヴァンジェリンに対してはまあ、そこまで思い入れがある訳でもない」

ナタリー・ガルシア :「………………そ、れは」

それは、その口ぶりはまるで。

"アダム" :
「役者を、解説しておこう」

"アダム" :
「彼女の名は……セラフィータ。
 今はセラと呼ばれているけどね」

"アダム" :
「ハーヴァがこの人工島を築いた人間であるなら。
 彼女は黎明のソドムを守り続けた、防人だった」

ナタリー・ガルシア :「セラ、フィータ……」

"アダム" :
「そして──将来の話をするなら」

"アダム" :
「彼女こそがその終末に立ち会う者。
 リリエル。
      ・・・・・
 またの名をガブリエル」

"アダム" :
「──かつて。
 ・・・・・
 オレと共にソドムとゴモラを、天の火と硫黄で焼いた裁きの天使の名だ」

ナタリー・ガルシア :「……あの都市を、貴方が?あの方と?」

"アダム" :
「ああ。
 ……だから、正直驚いている」

"アダム" :
「キミはあいつによく似ているってね。
 一々腹が立つ程度にはね」

ナタリー・ガルシア :
「では、その方は……その方は、今、どこに?」

"アダム" :
「…………一番心当たりがある奴が、今キミの頭の中に浮かんでる筈だね?」

"アダム" :
「そいつに聞いてみろよ。
 きっとそいつは答えてくれるぜ、素直に」

ナタリー・ガルシア :「………………そんな、はず」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ナタリー・ガルシア :確かめるのが、恐ろしい。
ハーヴァが守りたいと願ったものを。
ハーヴァの願いを継いだ方の意志を。

踏み躙らなければ、少なくとも友人と、その大切な人は死ぬ。

ナタリー・ガルシア :そして、もっともっと多くの人々が――その中には、お父様とお母様も、含まれてしまうかもしれない。

ナタリー・ガルシア :「……確かめ、なければ。確かめますわ、直接」

"アダム" :
「その意気だ。が、まあ一応フォローしておこう」

"アダム" :
 ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・
「オレもセラも、あの都市を滅ぼすのは合意の上だ。
 そして、そいつは今でも変わっちゃいないだろうよ」

"アダム" :
「と、言ってもキミはそれでも躊躇うんだろうがね。
 難儀なもんだ」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ナタリー・ガルシア :瞑目して、己の中に渦巻く感情を、なんとか落ち着かせる――落ち着かせるために、努力する。

深呼吸、焼け石に水ではあるものの、それでも今あるものを必死にかき集める。

ナタリー・ガルシア :「……私は、躊躇い、迷いながらでも前に進みます。進まなければ、なりません――貴方とも、そう契約しましたもの」

ナタリー・ガルシア :「――違えることはありませんわ」

"アダム" :
「その意気だ。
 それでこそ、彼女のミームを継いだだけはある」

"セラ" :
 そう告げる中。都の記憶は紡がれていく。
 倒れ伏したハーヴァの身体をそっと抱き上げながら、セラはまるで舞台を降りるように空を見上げる。
 ハーヴァを抱えたまま、彼女の背からまるで天使の翼を思わせるオーロラ状の力場が生まれる。目に見えるほどの磁力によって跳躍したセラは、恐らく本来の筋書きでは侵入経路となっただろう割れた窓硝子から飛び立っていく。

"アダム" :
「……ま、これ以上情報の波をワっと浴びせかけるのは酷だろう。今晩はオレが現実に送ってやるよ。
 けど……こっから先は基本的、ロクなことが起きない」

"アダム" :
「考えてみろよ。
 ハーヴァはこの都の意志。それに望みを託して亡くなった。
 その奮闘も努力も自らの我欲の産物として、暴徒となった民衆に消された」

"アダム" :
「……その光景を。

 ──ずっと、そいつは見ていた」

"アダム" :
 ・・・・・・・・・・・・・・
「キミが一瞬思った程度のコトを。
 ・・・・・・・  ・・・・・・・・・・・・・・・
 生まれたばかりの、それもそいつの娘に等しい存在が」

"アダム" :
「果たして……感じないと思うのかね」

ナタリー・ガルシア :「…………その結果が」

その結果が、誰もが知る滅びの運命なのだろうか。

"アダム" :
「さてね。
 答えは来週をお楽しみに、だ」

ナタリー・ガルシア :「…………ええ、見届けましょう。彼女が愛した都市の、その果てを」

"アダム" :
 その答えに満足したのか。アダムは相変わらず皮肉めいた笑みで返すのみだった。
 
「役者はハケた。ではオレらも退場しよう。
 次の開演はキミ次第。この先を見る勇気が起きたら、いつでも声をかけると良い。尤も──」

"アダム" :
「猶予は一週間。そこを過ぎたらどんだけ目を閉じてもうっちゃっても強制スクロールだ。
 ま、よく考えて行動することだ」

SYSTEM :
 アダムがナタリーの手に触れると同時に、風景が解れていく。
 解れ、ちぎれ、すべてが泡となり、今一度海の景色が戻ってくる。

 絶え間なく響く都市の流水の音と共に、ナタリーの意識は此方から消え、現実に浮上していった──

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 イベントシーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ナタリー・ガルシア :……ハーヴァに取得しましょう

ナタリー・ガルシア :
P遺志/○N悔悟

GM :お、お、お嬢……

GM :おおん
いいでしょう!(豹変

GM :キャラシートに記載をお願いします!

ナタリー・ガルシア :記載しましたわ……

ハーヴァ :ゲンキダシテ ゲンキ……

ナタリー・ガルシア :ショモショモショモ……




【INTERLUDE ⑧】

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑧】

登場PC: Syou Kain
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 ……その日の会議を終えて、新メンバーを加えた『PARADISE LOST』作戦の実働チーム一行は、彼女を歓迎する意味も込めて晩餐会となった。

 ベセスダから少し離れロックビルのレストランに集った一同は、一様に歓談しながら当人の希望で中東料理に舌鼓を打った。
 思えば、メンバーが一同に会して夕餉を取るのはこれが初めてとなるか。

灰院鐘 :
 ──穏やかな時間は更けていく。嵐の前に羽を休めるような、ささやかなひととき。

 任務も作戦もなく、というのは難しいし。何が解決するわけでもないけれど。
 今だけでも気負った顔や沈んだ表情がないのはいいことだ、と青年は微笑んだ。

 ブルーの食事が進まなかったのは気掛かりだが、もしかすると羊肉はお気に召さないのかもしれない。

灰院鐘 :
「……おや」

 ふと。
 遠巻きに眺めていた"みんな"の中に主役がいないことに気が付く。

 周囲を見渡す。雑多な人の賑わいの向こうに、銀色の髪を見た気がした。

灰院鐘 :
 確証はないくせに、確信だけはある。青年は立ち上がって、あの薄やかな色彩を追いかけることにした。

SYSTEM :
 鐘は席を立ち、テラスにまで歩を進める。
 果たして予感は的中し、彼が向かった先には彼が捜した女性の姿があった。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 そこで夜景を見ながら"千刃空夜叉"。いや、レイラ・イスマーイールは一人一献傾けていた。
 宴もたけなわ、という様子の場をこっそり抜け出してきたのだろう。夜風に涼みながら、彼女は手摺の上に座って月を眺めている。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 鐘が声をかけるまでも無く、レイラは相手に気付いた様子だ。

「ありゃま、見つかっちゃった。
 人が多いのあんま好きじゃないっつうか、慣れてないから抜けて来たってのに」

灰院鐘 :
 夜風に流れる銀髪は、さほど気にした風もなく語る。その理由に納得するのはかんたんだ。
 あまりにも一方的な認知だが、青年はレイラ・イスマーイールという女性のことを知っていた。そして、知っているのと同じくらい、何も知らなかった。

灰院鐘 :
「そっか。じゃあ、これから好きになるかもだ」

灰院鐘 :
「隣、いいかな」

 レイラの座る手摺に肘を置いて、横顔を見上げる。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「いいよ。観念して捕まってあげましょう。
 そいえばキミとはあんま話すこともなかったしね」

 レイラは特に気分を害した様子もなく、何処か幼さあどけなさを残した顔で妖しく笑った。

灰院鐘 :「やったあ」

灰院鐘 :
「たぶん僕は君の損得勘定にとって一番どうでもいい存在だから。気楽に話せるといいなって思ってたんだ」

 自分ではなく、相手がそうできるように。

灰院鐘 :
「取引があったほうがらくなら、そうするけど」

 どうかな、と首を傾げる。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「アッハハ、面白いねキミ。
 でもちょっと外れかな、全くどうでもいいって訳でもないよ。キミは自分の戦略的価値を自分の思うより低く見積もってるみたいだ。
 いざ敵に回すとこういうタイプはやってる側としちゃ面倒臭いんだよね」
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「けどまあ実際そこまでキミに対して意識する点も、要求するものもない。そこはキミの見立て通りだけど……
 普通、自分に相手する価値がないって言って話を切り出す奴はいないよ?」

灰院鐘 :
「たしかに!」

 あははと勝手にウケて、うーんと考え込む。

「じゃあ、ええと。……」

灰院鐘 :
「ええと……どうしよう?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「アッハハハハハハハハハハ!」

 ケラケラ

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「よしよし、オーケー!
 キミ面白いし、今酔って気分が良いから、特別にお姉さんが何でも話を聞いてあげましょう!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「キミもキミなりに話したいことがあるんでしょう?」

灰院鐘 :わあ~いい笑顔

灰院鐘 :
「……参ったな。君にはなんだか、ずっと見透かされてる気がする」

灰院鐘 :
「ああ、いや。……困りはしない、けど。なんというか、慣れてないみたいだ。僕」

灰院鐘 :
「……」

灰院鐘 :
「……"天刑府君"に言われたんだ。おまえは長生きしたらろくなことにならないぞって」

 自分が苦しむことは、それほど問題ではない。ただ一点、どうしても看過できないものがあると青年は言う。

灰院鐘 :
「呪いを振りまくだけだって。……そういうのは困るんだ。だから、もしそうなったときは君が始末にきてくれたらうれしい」

灰院鐘 :
 言葉のわりに、青年が重く受けとめている様子はない。口約束を求める気軽さで、レイラに笑いかけている。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「わー、なーにその面倒臭いお願い」

 介錯を恃んでいるとも取れるような、口調の割に重い言葉を、同様に気軽に返す。

灰院鐘 :
「でしょ~」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
                           バトルジャンキー
「もしかしてだけどキミもアレかな、あたしのこと見境ない戦 闘 狂 いとか思ってない?
 キミ結構失礼だな、だからって廃品処理みたいに身投げされても困る。あたし、相手は結構選ぶ方だよ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「解放衝動を無差別に振り回して暴れる夜叉羅刹、だったっけ。
 あたしが言っても説得力ないし、実際どう見られても良いと思ってるけど、結構誇張だよアレ。
 ヴィラン キャラクター
 悪党の 人 格 として都合が良いからそうみられてたみたいだけど」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「それに、キミの宗教上の理由は知らないけど随分簡単な理由で自分を放り捨てるんだね。
 さっきの過小評価といい、こないだ死に損なった割には自分の価値低めって感じだ」

灰院鐘 :
「うん? ……ううん、そのあたりは深く考えてたわけじゃないんだ。気を悪くさせたなら謝るよ」

灰院鐘 :
「それに僕から見た君の感想は、たぶんナタリーくんが近いんじゃないかな。アトラくんのお姉さんで、頑張り屋さんってかんじだ」

灰院鐘 :
「正直に言うとね、君と未来の約束をしたかったんだ。でもほら、解決したら一緒に何々をしよう、とかは僕の領分じゃないし」

灰院鐘 :
「君も、そういうのは実感できないだろ」

 ……仮に、一連の事件が解決したとして。彼女たち──レイラとアトラの境遇が劇的に変わるとも限らない。

 旅を続けるにせよ、一所に落ち着くにせよ。遺産と結ばれた因果は、この先もついて回る。

灰院鐘 :
「だから、お願いしてみました」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「頑張り屋さんねえ。誉め言葉として受け取っておこうかな」
 言いつつグラスの中のワインを傾ける

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「否定はしないよ。その先のこととか考える余裕もないし、そういうのはだいたい終わった後に考える方だからね。
 実感なんて、そのさらに先の話だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「で? 何も思いつかないからって、捻り出した約束がソレってワケね。
 なんだ、やっぱり戦闘狂って思ってるじゃん!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ま、将来的にぶつかったり必要に駆られたら胸ぐらいは貸してあげましょう。キミ個人というより、この組織には借りがないでもないし。
 ……折角だ。そいつを聞いてあげる代わり、こっちも条件を加えて貰おうかな」

灰院鐘 :
「そんなことないよ」

 青年には、目の前で酒を煽る少女のことは何も分からない。彼が知っているのは、生きるために戦い続けてきた女性の半生と──他者が被せ、彼女が便乗した"千刃空夜叉"の姿だけだ。

 灰色のまなざしは、ただ穏やかに。声だけが、はっきりと断定を示していた。

灰院鐘 :
「もともと、あまり長生きできるとは思ってないんだ。

 だから"ブラックモア"や"天刑府君"に言われたことは、そんなに気にならないし。結果的に、君に迷惑をかけることはないと思ってる」

灰院鐘 :
「……これを言ったら約束にならないだろう?」

 願い事、約束事、とは言うが。青年には初めから、レイラに叶えてほしい望みがあったわけではなかった。

灰院鐘 :
「条件? ……うん、なんでもどうぞ」

 終ぞ青年には『レイラにしてあげられること』は浮かばなかった。彼女から何かを求めてくれるなら、それに越したことはないと頷く。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「はいはい分かってる分かってる、キミがそうホントに思ってるんだろうなってコトぐらい。
 冗句ぐらい流しなさいな」
 
 はっきりと断じる声をけらけらと嗤って煙に巻く

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「実際キミ、早死にしそうだしねえ。
 いたよ、旅先でそういう人。アトラのくじ運の話したけど、あの子が見つけてくるの大概ジャンル違いとはいえキミみたいな類型だった」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「というかそういう人じゃないと、あたしみたいなのに打算なしで絡むような奴いないからね。死にたがり、とはちょっと違うけど、少なくとも今の自分より別のものに価値置いてるタイプね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「それで取り敢えず漠然と先に作っておきたいって気持ちは分かったけど、ロハでそいつを叶えるのはつまらない。
 キミの予想はそうでも、あの二人が長生きするっつったなら将来有望だし、ここで一つ投資しとこう」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
      や
「仮にも女と踊ろうってお誘いかけてんだよ?
 ・ ・・・・
 男、磨きなよ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「今のキミじゃ悲しいことにあたしの相手にならないし、そんなザマじゃ将来どころか今あるものだって守れやしない。
 手前の命一つしがみつけない癖して、盾になろうなんてムシがいい話だよね。
 キッチリ強くなって、生き延びて見せなよ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そして死に損なったなら相手んなったげる。
 それまで頑張んなよ、記憶の片隅ぐらいには覚えといてあげるから」

灰院鐘 :
ジョークかあ~

灰院鐘 :
「……うん? 投資って」

 そういう見方もあるらしい、という納得も束の間。予想もしなかった言葉を反芻する。

灰院鐘 :
「────」

 ぽかん、とまるく開いた口。我に返るなり、しどろもどろに行き場のない手を右往左往させる。

灰院鐘 :
「それは……ええと……? あ──あれっ?」

 少しでも先のことを考えるきっかけになればいいという発端。なにかしてあげたいという動機。

 見返りなんて考えもしなかった言葉が、名実ともに未来のお願いになってしまったことへ、青年はただただ当惑するばかりだ。

灰院鐘 :
「……むぐう」

 なにせ言い返しようがない。己が命にしがみついて、ただひとりの家族を守り続け、ここまでやってきたレイラの言葉だ。

 虫食いだらけの蓄積と感性だけで動いている身軽な鐘には、異論を挟む余地もない。

灰院鐘 :
「君が……それでいい、なら。がんばる、けど」

灰院鐘 :
「……いや」

 男を磨けと言われているのにこの返事はないだろうと自覚して、青年はかぶりを振った。

灰院鐘 :
「うん、強くなる」

 より多くの人を守れるほうが喜ばしいのは確かで、強くなれば結果的に生き延びもするだろう。

灰院鐘 :
「反故にはしない、ってやつだ。がんばるよ」

 そして。
 今のところ鐘にとって、かっこいい男というのは"彼"であるらしい。言葉を借りて、ぐっと拳を握り込んでみせる。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「よーし、その意気だ頑張りたまえよ。
 こちとら腐っても元FHの空夜叉、戦で負けなしのさいっきょーエージェント様よ。まだまだ、小僧に気ィ遣われる程落ちぶれちゃいないっての!」
 
 硬く拳を握り、決意を見せる鐘に対して、レイラはひょい、と手摺から降りて、その肩を叩く。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そういうわけであたしの空白の未来の保証も、一部キミに預けようか。
 キミが頑張らなきゃあたしの繋がりも消えてしまうわけ。オーケー?
 責任重大だね」
 

灰院鐘 :
「それは……うん、ほんとうに重大だ。…………」

灰院鐘 :
「……どうしよう。その、びっくりして、ことばが」

 うまく思いつかない、と苦笑する。そもそも普段からしてろくに考えて発言している彼ではないが。

灰院鐘 :
「ええと……よろしく?」

 なんとはなしに、手を差し出す。ハグはむりでも握手ならどうか、という短絡思考。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まあその分こちらもなるべくがんばるけどね。
 ……それもこれもあたしが生き残ったらの話で
 ぶっちゃけあたしが生き残る想定は結構薄味で見てたんだけどさ」

 差し出される手を見つめて、レイラは思い出したように語り始める

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「コレあの子には黙っといてね。向こうが気付いてたとしてもだよ?
 あたし、結構派手に能力使いまくってた分アトラより進行速くてね。こんだけ強くなるのは命と引き換えだったわけ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あの子の元を離れたのは、あの連中が確かに手掛かり握ってることが分かったから、という打算があったからなんだけど。
    ・・・・・・
 幾らかそういう意図もあったんだよね」

灰院鐘 :
「…………」

 ……力の代償。何かを得れば、何かを失うという不文律。それは容易に覆るものではない。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 へらりと笑って、レイラはひそひそと鐘に心胆を語る。
 ……どのような形で、何をすれば、この呪いが解けるのか。そもそも時間が足りるのか。あまりに不確定が多い。
 最悪アトラ一人だけでも生かせる手段があるのなら、その時は躊躇いなくそちらを選ぶつもりだったのだろう。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「それにまあ薄情かもだけど、先に目の前でくたばるより『どこかで生きているかもしれない』って思わせた方が希望が持てると思わない?
 どうひっくり返ろうと、何も出来ないままなら先に逝くのはあたしなんだから」

灰院鐘 :
「どう……なんだろうね」

灰院鐘 :
「事実は冷酷だ。なにせ、ごまかしようがない。良いことも悪いことも、質量を持てば影を落とす」

 誰かの人生へ、世界のいずこかへ。

灰院鐘 :
「希望が残ればこそ、それにずっと囚われてしまうかもしれない」

灰院鐘 :
「諦めないための原動力は……たぶん呪いとほとんど変わらないんだ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そーねえ」

 曖昧に頷き

灰院鐘 :
「……だから、なんて言うのかな。君がいなくなってしまうことに、どっちがマシなんてないよ」

灰院鐘 :
「現にこうやって、君を追いかけてきちゃったわけだし」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まさかこんな早く見つかるとは思ってなかったケドね。いやはや、わからんもので」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「でもさ、呪いでも何でも、それが楔になるのなら、それでいいかなと思うのよね。
 元より、あたしが言い出したコトで。
 あたしが最初に呪いを掛けたんだ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「一生それに引きずられると、決まった訳でもないし。もしかしたら別の出会いが、そういう湿っぽいモノを吹き飛ばしてくれるかもしれないし。
 それがいい方向に転ぶにも悪い方向に転ぶにも……生きてるってことが一番大事なんだと思うんだよ。

 これも、まあ言ってみればあたしの我儘、あたしの勝手な願いみたいなもんではあるんだけど……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「生憎、うちらお利口さんに生まれてないんだよねぇ。あたしは千刃の空夜叉、身勝手は得意分野よ」

 すん、とどこか得意げに目を伏せて

灰院鐘 :「──うん」

灰院鐘 :「だから君も、生きないと」

灰院鐘 :
「君にだって、くそったれな人生ってやつを吹き飛ばしてくれる出会いがあるかもしれないし。
 新しい旅路にせよ、第二の故郷にせよ……これから得るものは、今までとは違って見えるかもだ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そだねぇ、それもこれも全部過去形だよ。
 『だった』ってだけの話で、今は状況も変わってる。こう転ぶとは、思ってなかったけど」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「けどまあなんて言うのかな。
 別の方向で腹括らなきゃいけなくなった分、昔のコトとか適当に誰かに吐き出しておきたくてね。
 キミは実際適任だったよ」

 特に気負うことも取り繕うこともなく、取り敢えず話すこと話す相手としては丁度良かった、と告げる。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ではそういう訳でよろしくぅ!
 そういう方向に転んだ以上、あたしも結構真面目に生き残るつもりでやるからね。キミも精々頑張んなよ!」

 ずっと保留してきた握手に、ひとしきり言うことを言った後でガッと握り返して応じる。

灰院鐘 :
「!」
 力強い感触! ぱーっと笑顔になる

灰院鐘 :「もちろんだとも! 改めてよろしく、レイラくん」

灰院鐘 :
「さ、みんなのもとに戻ろう。アトラくんも待ってるよ」

 握った手をぶんぶんと振って、ひとしきり満足したあと、そのまま離すのを忘れて連れていこうとする。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「はいは~い……っとと、ちょっとちょっと引き摺ってる引き摺ってる!」

 言いつつもレイラに引き剥がす気はなく、鐘の手に引かれるままにテラスを後にする。
 その表情はしかし、言葉に反して満更でもないという様子でもあった。

SYSTEM :
 その言葉の重みに反して、実に気安い様子で二人は契りを結び、不確かな未来に導を建てる。
 目の前に立ちふさがる大きな壁、それを超えた先に道が続いているという保証もないままに、ただ導を寄る辺に進むのだろう。
 それが何処に続き如何なる因果を生むかは、今は誰にもわからなかった。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

灰院鐘 :今回はないよ。ありがとう

GM :オウケイ!そして今回は豪華二本立てだ

灰院鐘 :わあ~ お世話になります

灰院鐘 :ギュッ(PODを抱きしめる)

GM :Door!やめろ鐘リー!それ以上気を高めるな!!




【INTERLUDE ⑨】

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑨】

登場PC: Syou Kain
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 先の一週間は、激戦が相次いだ。
 千刃空夜叉との戦闘、及びに天刑府君との遭遇戦。分散された戦力でそれらに応じた疲労は着実に彼らに蓄積されている。
 三度、攻略拠点に派遣される折、普段より間隔を置いたのはその侵蝕率増加を抑える目論見もあったのだろう。

SYSTEM :
 その間、戦闘を行った面々は、それぞれ本部のRラボにて検査に当たっていた。
 ……ここにいる鐘もその一人だ。そして恐らく、望むならば、その中に自身の相棒となる少女の姿を捜すこともできるだろう。

灰院鐘 :
 検査後「あなたはげんきです」の太鼓判を押されて早々に解放された鐘は、Rラボをうろうろとさまよっていた。

灰院鐘 :
 レイラが複製したPWEの影響と、防御の余地もない"天刑府君"の猛攻。両者に完敗はしたかたちにはなるが、それが功を奏して──とはいかないまでも、侵蝕率の上昇が抑えられている結果になったようだ。

灰院鐘 :
 加えて、肉体の修復も済んでいる。なまじ頑丈なだけに軽微な損傷なら無視してしまう彼だが、ブルーに手配してもらった応急キットのおかげで先日の傷は完治していた。

灰院鐘 :
「これから、これから」

 うんうん、と自分に言い聞かせる。今はりきったところで、何ができるわけでもなし。

灰院鐘 :
 それよりも、と周囲を見回す。彼女も検査に来ているはずだが……

灰院鐘 :💡

灰院鐘 :
「勇魚くーん!」

 どこですかー、とおっきな声を出す

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……迷子の呼び出しじゃあるまいに、あまり大声で叫ばないでください。
 周りの患者に迷惑でしょう」

 はあ、と大きなため息をついて、少女は呼び掛けを受けて少し遠巻きからやってくる。
 どうやらこちらも検査を終えていたらしい。

灰院鐘 :たしかに!じゃあ静かに手を振ろう ぶんぶん!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「それもやめてください。
 ……どうあれ、無事そうで良かった。心身特に疲弊が感じられないようだ。
 任務にも支障はなさそうですね」
 

灰院鐘 :「うん、げんきだよ。いつでもばんぜんだ」

灰院鐘 :
「勇魚くんはどう?」

 なんとはなしに並んで歩きながら、結果を問う。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私は問題ありません。元より、長期戦は苦手ではありませんから。
 ……それで、どうでしょう」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「この二週間で、時間内の連絡が途切れたことはありませんでしたか?
 ……よしんばそれが起きていたとしても、私には気付けない」

 ……鐘は、この二週間のうち、彼女からの連絡が途絶えたことはなかったことを知っている。見えている範囲では、それは起きていないのだろう。

灰院鐘 :
「……うん」

 朝と晩に二度。
 文字で挨拶を交わすだけの、ささやかな習慣。

灰院鐘 :
「大丈夫だよ。お互い、いつも通りだ。僕はいまのところ一度も端末を壊していないし、君は『急にどうしたんですか』なんて訝しむこともなかった」

 前者に関しては彼がどうこうではなく、技師の成果だが──ともかく。
 いつも真剣にずれている青年にしてはめずらしく、それは冗談めかした物言いだった。

灰院鐘 :「……君は」

灰院鐘 :「その」

灰院鐘 :「……」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……?」

灰院鐘 :「いや、ごめん。なんでも……なくはないんだけど」

灰院鐘 :
「僕は言葉がうまくないから。すこし悩んでしまって」

 ……あまりふかく考えない、と彼はよく言うが。大抵それは鐘自身に関することだ。
 どうやら先日会議の場でナタリーを追いつめてしまったことを気にして、話し出せないでいるらしかった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……そうですか」

 少し安堵した様子で息をついた。
 その安堵は、きっと戦いや今後の連携に支障が出る……というだけの理由ではなかったのかもしれないが。少なくとも、鐘からは類推することしかできない。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 そうして息をついたところに、どこか言いにくそうな様子で言葉に迷っていた鐘に気が付いたようだ。

「……以前の会議のことですね」

灰院鐘 :「うぐ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「善く在ろうとする努力は美徳です。しかし……そうした人間にとって、或いはあなたの善性が眩しく見えることもあるのかもしれません。
 少なくともあの場であなたはあなたの言うべきを言ったと思います。が……」

 誰が良い、誰が悪いなどと、そういう話を今している訳ではない。それぐらいは勇魚にも理解が出来ている。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「次からは、きっと避けられるでしょう。
 もし謝りでもしたら、それこそ余計に彼女の尊厳を傷つけてしまうかもしれない。だから……深く考えないなりに、考え込んでいるんですね」

灰院鐘 :
「そういう……ものなんだろうか。善性なんて、そんな立派なものではないんだけどな……」

灰院鐘 :
「僕はただ君たちが好きで……その傍で、やりたいことをやっているだけなのに」

灰院鐘 :
 ……重く頷く。勇魚ほど考えが及ばないにしても、誤れば余計傷つけるだけということは彼も薄々感じていたらしい。

灰院鐘 :
「気になることを聞いて、言いたいことを口にするだけでは……よくないんだ。……」

 自分に言い聞かせるような呟きは、訥々と。
 今まで鐘がずっとそうしてこられたのは、彼を取り巻く人々の多くが彼よりも年長だったからだろう。

 受け入れてもらうばかりの立ち位置。だからそんなことにも気づけなかったと、彼は俯く。

灰院鐘 :
「でも僕は……」

 ふと足が止まる。長い廊下。行き先も決めずに進めた歩みは、しぜんと会議室へ向かうルートを辿っていた。

 ……誰もいない。寒々とした静寂は、この躓いた青年をかえって後押しした。

灰院鐘 :「……勇魚くん」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「少なくとも……彼女にとって、あなたのそういう部分に感じ入るものがあったのでしょう。
 ……それに」

 そこから先の言葉を、勇魚は敢えて沈黙した。鐘が自分なりの結論に達し、機会を逸したというべきか。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……何でしょう?」

 鐘に続く形で勇魚は会議室への道を進む。静寂の中で、相手が切り出す言葉へと、静かに耳を傾ける。

灰院鐘 :
「……僕が今から言うのは、ひどい言葉だと思う。たぶん、いろんな人にとって」

 そう感じた上で──先の結論があって、なお口にすると。

灰院鐘 :
「レイラくんとアトラくんに影響を及ぼしている、浄化の柱。結晶化現象と……親機と子機の話を聞いて、思ったんだ」

灰院鐘 :
「君の遺産と接触すれば、代償を肩代わりできないかって。まるごと全部といかなくても、少しくらいは……」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 ・・・・・
「無理ですね」

 即答して断言する。否定の意味と、拒絶の意味が含んだ一言だった。

灰院鐘 :「……」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「あの遺産がそうした体系で生まれそうした構造と性質を持っていただけです。そもそも、彼女らの契約関係は正常に結ばれてさえいなかった」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「たとえ一欠片でも、肩代わりすることは出来ませんし。何より、出来たところでさせません」

灰院鐘 :「……理由を聞いてもいいかな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……」

 静かに目を伏せ、間を開ける。彼女にとっても、あまり口にしたくない部分であるように。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私の記憶の残る限りにおいて、最初の時点から……

 コレ   ・・・・・・・・・・・
 力は……私を証明する唯一のものだったからです」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 それは、或いは。二人の与り知らぬ過去から続く軛であり呪いでもあった。
 ただ力だけが、自らの価値を証明した蠱毒の壺。
 既に忘れ去られた残影は、しかし影だけが勇魚の傍に付き従っていた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私は……善いものではありません。
 教官からそれを正しく受け継ぐことが、恐らくは出来なかった」

 恐らくは。共に研鑽を積んだ、親友にこそ。それは正しく引き継がれたのだろうと、彼女は続ける。

灰院鐘 :「そんなこと──」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「善き人でない以上、せめて善き人に使われる力になりたい。
 だから、この手にある力も、その対価も。私一人のものでいい」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ですから……私はきっとこれを最後まで手放すことはないでしょう。
 私にとってこの腕は、文字通り『体の一部』に等しいんです」

灰院鐘 :
「……記憶だって君の一部だろう」

灰院鐘 :
「ほんとうは、最初にこう聞きたかったんだ」

灰院鐘 :
「一週間でいい思い出はできたかって。ダンさんやナタリーくん、アトラくんたちと話せたかって──」

灰院鐘 :
「……でも、そんな心配いらなかったんだ。君は彼女たちに寄り添ってあげられる、善い人だったから」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……」

灰院鐘 :
「誰よりも人を見て、想いやってあげられる優しさが、僕にとっての君だ。君を証明する、何よりのものだ」

灰院鐘 :
「いつか……君にだって、レイラくんにとってのアトラくんのような存在ができるかもしれない。それでも対価を払い続けるっていうのか、君は」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 勇魚はほんの少し穏やかに微笑んで、しかし目を伏せてゆっくりと首を振った。
 鐘の誠意を、あくまで誠意だけ受け取る、と告げるように。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 ・・・・・
「だとしても……です。

 ……すみません、けれど私も此処は譲れない」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「これは、恩を返すためのものでもあります。
 教官は、孤児の私を、他の生徒たちと共に育ててくれました。私には、力や強さしかないのに。
 家族のいない私が言うのは、少し矛盾がありますが、まるで親のように接してくれました。

 この人に、私が返せるものがあるとしたら、きっとこれしかない」

SYSTEM :
 遺産や力の特性などとは別に、起源に植え付けられたもの。
 キラーインスティンクト
 殺 人 本 能、FHの強化兵の多くが、それを抱えるという心的外傷。
 それが勇魚の行動の方向性に、絶え間なく影響していた。

SYSTEM :
 何もかもを忘れようとも、誰を救おうとも、その手には望まずに手を掛けた者たちの血が今も尚染みついている。
 それは今も尚、彼女の心に根深く刻まれていた。

灰院鐘 :
 そんなことをリリアは望まないだろう、だとか。
 善い人の力になりたいのは自分も同じだ、だとか。

 いくつもの反駁が青年の胸中に浮かんでは消えた。

灰院鐘 :
 この会話は『それは不可能だ』と勇魚が回答した時点で、とうに破綻していた。鐘にはもう『だとしても』も『それでも』も、ありはしなかった。

灰院鐘 :
 いずれ彼女の……遺産の力なしでは立ち行かなくなる局面は、必ず訪れる。
               ジブン
 たった一人の少女が、少しだけ記憶を失くす。それだけのことで、多くのものが救われる。

灰院鐘 :
     ・・・・・・
 それは、正しいことだ。

 だから勇魚も迷わない。そして、その正しさは否定されることはあっても、阻まれるものではない。

灰院鐘 :
「…………」

 何故を問うことはない。答えはとっくに持っていた。だから、鐘はここにいる。

灰院鐘 :
 ……片膝を折って、勇魚のちいさな右手を取る。多くのものを掬いあげる代わりに、自分だけを溢していく手を。

灰院鐘 :
 鐘は──
 失くした分を埋めればいいと、いつもの能天気を見せることもなかった。それは賽の河原で石を積むのと何も違わないと、吐き捨てさえするだろう。

灰院鐘 :
「対価は自分ひとりのものでいいと言ったね」

灰院鐘 :
「でも、僕にとっての起源はそれなんだ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「"ラフメタル"、何を……?」

 跪くような姿勢で右手を手にする鐘に、勇魚はただ当惑する。意図を語り出そうとする鐘を遮ることなく、勇魚はなされるがまま鐘の手をとった

灰院鐘 :
「大きな災害があった。"ラフメタル"の名を貰った男は……僕の記憶する限りにおいて、そこで生まれた」

灰院鐘 :
「もう半年以上も前の話だ。公的な記録の上でどう扱われているのか、何を以て終結としたのか。当時の記憶をほとんど失くしていた僕に、それらが明かされることはなかった」

灰院鐘 :
「確かなのは、自分だけが生き残ったという事実だ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……自分だけが……」

灰院鐘 :
 多くの血が流れ、あまたの苦悶を聞いた。
 無力感と絶望のなか、胸に渦巻くのは怒りよりも疑問だった。

灰院鐘 :
 なぜ、このような悲劇が起きるのか。
 なぜ、皆を救うことはできないのか。

 ……そもそも、どうして世界は地獄を許容するのか。

灰院鐘 :
 それはいつかの通過点。
 過程は忘却のはざまへ。
 辿り着いた答えだけが、今も胸にある。

灰院鐘 :
 幸福とは、対価を求める悪魔の名だ。犠牲を貪らずには存在しえない、貪欲なけだものに過ぎないのだと──

灰院鐘 :
 青年は、
 "ラフメタル"は。

 そんな過去を不馴れそうに口にした。声色に暗いものはない。
 彼はただ、どうにもならなかったことを、どうでもよさそうに語るだけだ。

灰院鐘 :
「……不文律は覆らない。だからせめて、僕が代わりを果たしたかったんだ」

灰院鐘 :
 世界が優しくあればいいと祈りながら、
 世界の優しさを微塵も信じていない。

 それが彼という男の在り方だった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 願い、祈り、それは常に現実と理想のギャップによって生まれる。
 満たされているものからは、そんなものは生じない。
 だから。それを口にし続けた青年が、実態としてそれを信用していないのは、当然のコトだった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「幸福の総量は決まっている。
 コンペティション
 蠱 毒 の 壺で生き残れるのは、常に定数だけ」

 その間口を広げることは出来ても、その不文律は覆らない。

SYSTEM :

SYSTEM :

灰院鐘 :「うん。……でも」

灰院鐘 :
「諦めきれなかっただろう、僕たち」

 他人の幸福と──

 そのために戦い続ける誰かの幸いを。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 静かに頷く。
 絶対数が決まった幸福。犠牲と対価に得られる安寧と進歩。
 必ず誰かが穴に落ちると知っていても、だから見捨てられるという道理はない。

 何より、かつて、そうした者が確かにいた。
 それが何者で、如何なる心境の故であったか。最早思い出すことも出来ないが。

灰院鐘 :

灰院鐘 :
「幸福の総量は決まっている。……それ、僕には続きがあるんだ」

灰院鐘 :
「希望にだけは限りがない。思うこと、目指すことは自由だし……自分がやめなければ続けられる」

灰院鐘 :
 額に押し戴いた手をおのが手のひらに収めて、青年は立ち上がった。
 ……ふたりの視座の差異は、おそらく埋まることはないだろう。
 しかし共に戦うのならば、彼は地に据えた足を恥じるべきではないと判断した。

灰院鐘 :
「……だから、さっきの結論だ。君の分を背負うことはできない。分かち合うのが難しいのも分かってる……」

灰院鐘 :
「平行線だ」

 ふたりの起源。
 力しか持たないがゆえに、
 善ではないがために、
 善き人に尽くすという意志。

 そこへお互いを含めるかぎり、両者は決して交わらない。

灰院鐘 :
「"炎神の土師"──勇魚=アルカンシエル」

「君は、善い人だ」

灰院鐘 :
「だから僕は君のために戦う。君がそうであるように、僕も善い人の力になりたいからだ」

「だから君が、僕を善い人と言ってくれるなら。君は僕のために戦ってくれればいい」

灰院鐘 :
「君と僕で勝負をしよう。相手を失わないために最善を尽くす」

 我が身を犠牲にしたほうが勝ち。余人が聞けば頭を抱えそうな提案だが、鐘は真剣だ。

灰院鐘 :
 何故なら──
 この勝負は、引き分けこそが最良の結果だからだ。

 譲りもしなければ折れもしない両者がともに戦い、善い人の明日を守るために。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「希望……」

 人は、存在しないものを信じることが出来る。
 それが祈るということであり、だから彼はずっとそうしてきたのだろう。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 恐らく近しい方向性を持つ二人は、その故に平行線となる。それは、きっと勇魚にとっても承知の上だった。

 だから……そうした反応が返ってくることは、勇魚にとっても意外だったのだろう。

「勝負、ですか」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「内容は兎も角、任務に競争を混ぜるのは、あまり褒められることではありませんね」

 大真面目に語る相手に、勇魚は少し呆れた目で見遣る。 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ですが……挑まれた勝負から降りるわけにはいきません。
 私にとって、あなたは我儘ですが善き人で……頼りないですが頼りにする相手です」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ならばこそ──此方も最善を尽くしましょう。
 この身に負った責務に恥じぬよう、全力で」

灰院鐘 :
「それでこそ、だ。がんばろうね」

 勇魚の意思に、鐘は微笑で応じる。いつもと変わらない穏やかな表情。

 ……その奥にはいつも、祈りがある。

SYSTEM :
 勝負と銘打って、二人の若き戦士たちは契りを新たにする。
 その胸に抱いたささやかな祈りの火にまた一つ薪をくべる。
 ままならない浮世に抱いた祈りに、僅かでも実りがあらんことを互いに願いながら。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

灰院鐘 :今回も大丈夫だよ 重複はできないからね

灰院鐘 :でもせっかくだからハグしちゃおう ぎゅむう~

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

GM :オーケイだ!

GM :さて、というわけで

GM :ラウンド2最後はブルーさんのイベントシーンですね

ブルー・ディキンソン :ほ〜い

GM :いつもの奴です ではでは




【EXScene⑥/秘匿通信-3】

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……

SYSTEM :
【EXScene⑥/秘匿通信-3】

登場PC: Blue Dickinson
登場侵蝕:なし

???????? :
繧?<繧√′縺ャ縺ァ縺斐↓縺吶p繧?<縺峨⊂縺?▲縺翫●縲
縺医〒繧?s縺ウ縺ァ縺√〓縺斐o繧後●縺?縺懊℃縺ヲ縲√★縺ォ縺倥=縺医〓繧薙□縺懊⊂縺懊=

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縺医i繧?♂繧√j縺?▼縺斐▲繧医$縺・縺ャ縲√☆繧舌?縺峨■縺ァ縺峨□縺」縺√●

ブルー・ディキンソン :
、  、 ・・・・
「ああ……やっぱり?
 まあ、アレだね。こっちでも裏付けできそうな情報は頂いたところなんだけどさ」
 

ブルー・ディキンソン :
 LANを撫でる。
 義体の不備を気にしているのか、それともコードトーカーのところから逃げてきて以降、メンテナンスをろくに済ませていないのか。
 
「少なくとも……"テンペスト"はさておき、
 その上は真っ黒だ。こりゃあエリア51の話はオカルトじゃないかもにぇ」

 ……後者はジョーク。

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縺悶′縺ァ縺後▼縺ソ縺√⊇縺医f縺ャ縺ァ縺悶↓縺ャ縲√★縺ォ縺阪f縺√$縺?▼縺?⊃縺弱=縺ァ縺ャ縺ァ縺

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縺昴∴繧?∴繧峨f縺ャ繝舌し繝翫じ縺・縺斐▲縲√♀繧?<縺ヲ縺?▽縺弱p縺翫b縺?o縺?$縺ァ縺?縺」縺翫●繧舌◎縲ゅ@縺?縺・縺ェ

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縺壹#縺」繝励Σ繧シ繧ア繝ー縺・縺翫d縺?※縺?▽縺?$縺ァ繧後i縺」縺懊℃縺√∴縺後♂窶ヲ窶ヲ繝斐Μ繧オ繧、繧ャ繝??繝ウ繝シ繧ャ

ブルー・ディキンソン :
「……ほ〜ん、その名前。
 聞いたな、最近。なるほど、確かに荒唐無稽だけど……これまでの事を繋げると、合点が行くものでもある」

ブルー・ディキンソン :
「しかしお懐かしい名前も出るもので。
 調和と誠実と勤勉だっけか……? まあ、コレに関しては余計な話題か」

ブルー・ディキンソン :
「……ふむ、ふむ、ふ〜む。
 でも──それ、ただでは転ばぬがファイブスター。
 私の推察では"独占"を狙ってると思うんだけど……どお?」

???????? :縺昴∴繧?$縺壹?√∞縺医p縺ス繧?〒繧舌◎縲ゅf繧舌∋縺?〒縺√=縺医●繧上*繧医▼窶ヲ
繝偵Υ繝ィ繧カ繝後?繝√→縺昴#縺ゥ縺医i縺懊∴繧??√=縺サ縺ォ縺偵′縺倥p縺峨▲繧舌∴縺√£繧峨▲繧医□縺」縺舌▼縺昴∴繧

???????? :縺偵□縺翫?√お繧カ繧シ繝帙?縺・繝槭?繧ィ繝シ縺ォ縺医p縺弱=縺昴□縺」縺√□縺懊℃縺ヲ縲√Φ繝槭Ι繧ィ縺・繝?だ繧カ窶ヲ窶ヲ縺√⊇縺ャ繝偵Υ繝ィ繧カ繝後?繝√◎縺弱※縲
縺?●縺峨=縺翫d縺?g繧?′縺ャ縺斐▲縺ソ縲√★繧峨▽縺?f繧峨h縺倥=縺医o縺ヲ縺?■縺医<縺医〓縺カ縺。縺カ縺。縺昴□縺懊?ゅ★縺斐▲窶ヲ窶ヲ

???????? :繝励Σ繧シ繧ア繝ー縺ャ繧オ繝?繝シ繝昴↓縺医p縺峨≦縺サ縺、縺ャ繧?∪縺ァ縺医□縺懊?
繧√■繧?〓窶ヲ窶ヲ縺√£繧舌↓縺医=縺輔d縺ク縺?∈縺?♂繧後∴縺?縺懊$繧翫→縲√★繧峨o縺イ縺?£縺斐▲縺輔?繧舌◎縺弱↓縺ソ縺ォ縺ィ縺斐●縲
窶ヲ窶ヲ縺代∪繧舌◎縺弱※縲√s縺ァ縺懊♂縺偵p縺医#縺」繧医£縺後§繧舌↓繝ウ繝槭Ι繧ィ縺ォ縺斐p縺ォ縺?∩繧後′縺ャ

???????? :繧?<縺悶h縺ィ縲√′縺偵=縺ソ縺ォ縺ィ縺イ縺懊o縺斐e縺?▼縺斐▲繧医↓縲
RDK縺ォ縺医=縺ィ繧ゅ<繧上⊂縺・縺セ繧医$縺・縺・縺ッ縺翫∴縺?→

ブルー・ディキンソン :「ふーん……」

ブルー・ディキンソン :
「……ま、舐められたら秘密裏にやり返す。
 まるでアジア系マフィアのような精神性をしてる国だもんねえ、此処ってさ」

「だからこそ──……そこに国家としての合理性というスパイスがあるからこそ……。
 そういう結果になってしまったんだろうねー、アホらし」

ブルー・ディキンソン :
「やん、また心配してくれてるの?
 まま、キナ臭い話なのは前からわかってた事だって。
 今はどこもかしこも"そういうお話"ばっかでしょ?
 手軽にウラン鉱を掘り起こさなくてもいい時代なんだから余計にさ」

「……と、なると。
 あの場はかなりセーフだったな……危ない危ない……」

ブルー・ディキンソン :
「……ま、そこまで不安じゃないけどねー、あたしは。
 飼い主の愚かさを理解して、その手に噛み付くのを今か今かと狙ってる番犬が居るのを確認した。
 意志と信念の強さはまるで君みたいだぜ、……ああこれ主観だから。違っても怒んないでね☆」

???????? :縺励=縺ウ繧舌〒縺√l繧峨e縺??ゅ℃縺ヲ縲√★縺?=縺?$縺・縺ェ縲ゅャ繝ー繝励じ繝?〓繧エ繝ェ縺医?
窶ヲ窶ヲ繧

???????? :縺舌↓繧薙=縺昴?√ぅ繧セ縺ォ縺セ縺ォ縺サ縺?⊇縺、縺翫●縺、縺斐d縲
縺?f縺、縺悶$縺斐ヰ繝?繧ャ繝ァ縺斐▲縺懊p縺昴∴繧??
繧薙↓繧薙●繧?↓縺斐g繧?<縺ャ縲√∩縺?ェュ繧舌▽縺後i縺懊↓繧?↑

ブルー・ディキンソン :
「ああ、少なくとも一人は確定。
 稀に見る──兵士以上の存在ってやつ。
 "何に忠を尽くすか?"という問いに対して、答えが早そうな人」

ブルー・ディキンソン :
「で」

ブルー・ディキンソン :
「ああうん、散歩がてらついでに。
 わり〜と面白いものはあったね、一応網膜に焼き込んではおいたけど。
 でも、どのみち後で共有するから意味ないかもなーなんて思ったり思わなかったり……」

ブルー・ディキンソン :
「つーかビックリするんだ。
 やっぱ心配だった〜?」

???????? :縺輔d縺?♀繧?<縺ィ繧?h縺、縺斐d縲√&繧?<縺ク縺?〓縺ァ縺サ縺ソ縺ォ縺ァ繧舌◎縺医f縲
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SYSTEM :砂嵐が一層厳しくなる。どうやら、通信を妨害する何某かが働き始めているようだ。

ブルー・ディキンソン :
「あっはっは。
 悪い悪い、意外とタイミングを見計らうのって難しいんだねえ───」

 ……。
 通信電波にノイズが混じっている。
 一層強くなるそれは妨害電波の兆しを意味していた。
 義体に搭載したものの精度を考えると……予想できる引っかかり先は幾つかあるが。

ブルー・ディキンソン :
「……そうみたいだね。
 防壁を張っているのに侵入されたような感覚がある。
 これ以上繋ぎ続けるのとちょっとまずいかもね、どっちかが焼き切れちゃうかも……」

 言葉を選ぶ。
 おそらくそう長くは続かない。

ブルー・ディキンソン :
「その不安を和らげられるかは分からないけど……"姫"。
 次の段階でシフトできるように手配する。
 幸い、その流れの源は作った。
 彼らは女狐を許さないだろうから。

 そこは私が保証する」

「ただ……妨害が完全に回り切る前に教えて欲しい。
 簡単な情報でいい、その《■■■■■■■■》って──」

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縺舌↓陦励→蠎?⊇縲?縲?繝ャ繝シ繝昴$縺壹♂

SYSTEM :そこで通信は途絶えた。

ブルー・ディキンソン :「……」

ブルー・ディキンソン :
 ケーブルを引っこ抜く。
 最後のぶつ切りの内容を、敢えてアナクロな方法で保存しつつ。
 顎に手を当ててしばし思案に耽り──……大きく溜息をつく。

「……………………ヤバいな」

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :

SYSTEM :
2ラウンド目の行動が終了しました。
リザルトを確認します。

SYSTEM :
 ─RESULT─

SYSTEM :
 ─ROUND 2/5 ─

 STAGE『United States』
 MAP Progress:
 LOS ANGELES :3/4 (Safety)
 DETROIT :4/4 (CLEAR!)
 NEW ORLEANS:1/4 (Danger)
 
 ALLY UNIT ;5/5
 ENEMY UNIT:6/7
 
 CAPTURED AREA:2/4

SYSTEM :
 デバフ状態:
 ・Auto Action Limmiter :OFF
 ・Prize Point Canceler :ON
 ・Energy Absorber :ON

SYSTEM :
STAGE『Sodomy City』
STAGE:1⇒2

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───




STAGE『United States』 Round3

SYSTEM :
-ROUND 3-

"天刑府君"元 天刑 :シークレットダイス ???

"天刑府君"元 天刑 :シークレットダイス ???

SYSTEM :各PCは行動内容を選択し、判定を行ってください

ダン・レイリー :ルイジアナの戦力状況については、これ以上は現地で調査するより他にない。

ダン・レイリー :…となればするべきは”ヤツ”の居所だな。そう簡単に目測を立てさせてくれるとは思えんが。

GM :目標値12だ 凶手だぜ

ダン・レイリー :ああ。先ずは僕からだ。《情報:テンペスト》を以て、ロサンゼルスの情報精査を行いたい。

GM :了解!

ダン・レイリー :では行くぞ

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :2dx+1 情報:テンペスト (2DX10+1) > 10[9,10]+4[4]+1 > 15

ダン・レイリー :やってしまえば出来るものだな…

SYSTEM :
【判定:情報判定 ロサンゼルス-第三段階 に成功しました】

GM :……

GM :不在!です!!

ダン・レイリー :で、あれば…ルイジアナか? いや、別の可能性もないではないが

ダン・レイリー :了解した。ロサンゼルスにおいて二度の脅威がないこと、それが分かっただけでも収穫だな。

GM :ずっと元がとおせんぼしてるなんて状況は洒落になりませんからなあ

ダン・レイリー :ああ。最悪のケースは避けたが…そもそもヤツも物見遊山をしているわけじゃない。脅威は消えたのではなく移ったということだ

GM :果たして何処に行ってしまったのか 次の方どうぞ!

灰院鐘 :じゃあ僕はルイジアナ方面を調査してみよう。〈情報:UGN〉で挑戦だ

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

灰院鐘 :3dx+1 (3DX10+1) > 10[3,8,10]+8[8]+1 > 19

GM :回りすぎる

GM :一度殺されたセンサーがビンビンだ

灰院鐘 :見つけるぞお!

SYSTEM :
【判定:情報判定 ルイジアナ-第三段階 に成功しました】

GM :……なんと

GM :ここにも

GM :いない!!!

灰院鐘 :元いなかったよ~

ダン・レイリー :お疲れ様。上出来の成果だよ、ショウ。

灰院鐘 :!!

灰院鐘 :ありがとう!それと……

GM :未攻略ポイントを二つ調べていなかった

ダン・レイリー :(無言で構えを取る)

GM :つまりそういうことです。

灰院鐘 :おはよう!!!! ぎゅう~っ

ダン・レイリー :おはよう。(人知れぬ激闘)

ダン・レイリー :そして…まさかな ヤツとあろうものが

ダン・レイリー :直接乗り込んで来たか…? これでデトロイトに居たなら、いったい何のために…邪推は止すか 目下の作戦行動に支障はないと分かればいいはずだ

ナタリー・ガルシア :……では、私のお嬢様イヤーが元の居場所を突き止めますわ!

GM :お嬢イヤーは地獄耳!

GM :ではいいでしょう もうほぼ割れてるようなものだが!

ナタリー・ガルシア :それでは、情報:噂話で良いでしょうか?

GM :デトロイトに向けて、だな、それでよい!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ナタリー・ガルシア :では、耳をそばだてて……

ナタリー・ガルシア :3DX+1 (3DX10+1) > 9[1,2,9]+1 > 10

ナタリー・ガルシア :……いませんわ!

SYSTEM :
【判定:情報判定 デトロイト-第三段階 に失敗しました】

ナタリー・ガルシア :元いませんわ~

ダン・レイリー :お疲れ様。鉢合わせにならなかっただけいいさ、気を落とすな 

ナタリー・ガルシア :シュッシュッシュッ

GM :やる気満々ではないか…

GM :では……折角だから他に振る人は!

GM :敢えて元の失態を晒そうとするものはいないか!!

アトラ :言い方!

灰院鐘 :応援にきました!

灰院鐘 :がんばれ~

GM :どうかねアトラチャン!

アトラ :まーまー それなら覗いとこうかな!

アトラ :情報:裏社会でデトロイトに!身内の支配地だったならもう庭みたいなもんでしょってことで……

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

アトラ :5dx+5 (5DX10+5) > 8[1,2,4,4,8]+5 > 13

ナタリー・ガルシア :さすがですわ!

アトラ :わっはっは!

ダン・レイリー :お見事だ。

SYSTEM :
【判定:情報判定 デトロイト-第三段階 に成功しました】

SYSTEM :
【CAUTION!】
 エージェント"天刑府君"の所在が判明しました。

"天刑府君"元 天刑 :
敵性ユニット:"天刑府君"
エリア:デトロイト
セクタ:B

アトラ :元いたよ~!

ナタリー・ガルシア :いましたわ~~!?

ダン・レイリー :………なぜデトロイトに………

"天刑府君"元 天刑 :……星の巡り合わせが悪いようだな……

灰院鐘 :チェリーパイおいしかった?

アトラ :(食べてるの!?)

GM :というわけで元は今攻略済みエリアに出て来たようですねエ 今回は安全そうです

GM :さて……まだブルーさんがいるにはいるが!

GM :既にやれることをやりつくしてしまった

GM :それ故セットアップはこれにて尾張です、が

GM :お嬢がセットアップ時にシーンを展開したいという要望を受けていたと思う
どうだろうか

GM :火水木がSSやる関係で難しいため、配置はその間に決めつつシーンを展開したい場合はその間にやっておきたい

ナタリー・ガルシア :それでは、お言葉に甘えますわ

GM :オーケイだ、では次回から展開していこう!

GM :相手はリリアさんとのシーンでよいのだな

ナタリー・ガルシア :そうですわね、ちょうど今こっちに来ていますし

GM :了解!




【INTERLUDE ⑩】

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑩】

登場PC:Natalie
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 ……件の食事会を終え、一夜明けた。
 晴れやかな朝であったが、ナタリー・ガルシアの心境も必ずしもそうとは言えないだろう。
 或いは、布団から出ることすら億劫であったかもしれない最悪の夢見、しかし目が醒めれば現実の時の刻みが待っている。

SYSTEM :
 ナタリーが如何なる心境であったかは彼女のみぞ知る所だ。少なくとも、決心や思惑を鈍らせるような出来事も、そうした人物と出逢うこともない。そして、無いうちに事を済ませるべきであったことだろう。

SYSTEM :
 そう、現実の刻は待ってはくれない。
 この機を逃せば再び一週間近く遠い地での任務に当たることだろう。既にシャンバラとの戦闘、そしてラクシャーサとの決戦で実戦の恐ろしさを知っていたであろうナタリーは、その余分が齎す隙の大きさについて気付かないでもない。
 ……やるなら、今やるしかないのだ。

ナタリー・ガルシア :その足取り。
目的の部屋の扉をノックする前の深呼吸。
揺れる光を湛えた瞳。

そのどれもが迷いと躊躇いを表していたが、ナタリー・ガルシアは逃げることはなかった。
現実的な問題と、感情的な問題、そのどちらの面もこの機会を逃す訳にはいかないと告げている。

どんな答えが欲しいのか、どんな言葉を聞きたいのか、ナタリー自身も分からないまま――ただ、大きな何かに背中を押されるように、ナタリーはここまでやってきた。

ナタリー・ガルシア :控えめなノックの音が二回。

小さく、けれど確かに、ナタリー自身の名を告げる声を扉越しに投げかける。

SYSTEM :
 ノック音に対して、静かな声で応えが返ってくる。

 どうぞ、と。その肉声は紛れもなくリリア・カーティスのものだった。落ち着いた、凛とした声だった。

SYSTEM :
 相変わらず……ナタリーの内なる声は言葉を発さないままだ。
 茶々の一つでも入れれば、或いはナタリーの気も紛れたかもしれないが。そこから先はキミの決めたことであって、背など押してやらないぞと、せせら笑っているのかもしれない。

ナタリー・ガルシア :普段のナタリーを知る人であれば、目を瞠るほどに、静かな返事。
冷静さや、落ち着きではなく、不安を抑え込むための感情の起伏が乏しい声。

失礼します、という事務的な言葉から、一泊置いて扉を開いたナタリーの目の前に――常のように、ナタリーが敬愛するリリアの姿が現れた。

ナタリー・ガルシア :扉が閉まり、二人きりの空間が出来上がる。

「……お姉様」

しばしの沈黙を破ったのは、決心なのか、耐えきれなかったのか――ナタリーが口を開く。

「お姉さま、今日は……少し昔話をして欲しくて、伺わせていただきました」

SYSTEM :
 自らの気持ちを整理できない。その当惑は、確かに声に顕れていた。
 事務的な言葉と共に、ナタリーは戸を開け開く。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 開け開いた先に、彼女はいた。
 朝日の日差しに金砂の長髪を輝かせ、書斎の椅子に座して待っていた。

「……そろそろ、あなたから直接伺いに来る頃だと思っていました」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 沈黙を破り、言葉を告げるナタリーに対して、リリアはただ静かに、急かすこともせずそっと先を促す。
 その眼差しもその口振りも、まるでナタリーがそうすることを見透かすように見えた。

ナタリー・ガルシア :常であればその眼差しを受け止め、瞳を輝かせるはずの少女は、自ら視線を逸した。

「私、色々と経験してきました。お姉様、お姉さまは――」

言いよどみ、しかし、迷いながら視線を合わせる。縋るように、祈るように。

「――ソドムを、ハーヴァを知っていますか?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 ・・
「はい」

 静かに、しかし淀むことなく、リリアは断じた。まるで隠すことでもないかのように。
 それが、ナタリーにとって求めた答えであったのか、祈った答えであったのか。リリアはそれを敢えて事実のみで答えた。

ナタリー・ガルシア :「……そ、それでは、おねえさまは」

簡潔な答え。
解釈の余地を残すことのない、間違えようのない肯定。

「おねえさまは、ハーヴァの最期を……?」

ナタリー・ガルシア :そして、彼の言葉が真実であるとするならば――

「おねえさまが、ソドムの街に裁きを下したと……聞きました。それは、それは、どうしてですの?」

ハーヴァが愛していた場所だということを、知っているはずなのに、と。
言葉にしないまでもナタリーの表情が雄弁にそれを語っていた。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……そこまで知っているのですね」

 最早隠すことも出来ない表情と、その言葉を静かにリリアは受け止める。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「確かに私は、彼女の最期を看取りました。
 彼女は……とても安らいだ顔で眠りに就いた。その顔を。今でも、私は忘れることはありません」

 それははっきりと。あの時、ナタリーがその背を見つめた存在がリリア当人だということを証明する言葉だった。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そして私が手を下したのは……その街が、彼女の目指したものと遠くかけ離れていったから、です」

 静かに目を伏せ、彼女はナタリーに座るよう促した。話は長くなる、ということなのだろうか。彼女は席を立ち、手ずから紅茶を入れてナタリーの席に置く。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……順を追って、話しましょう。尤も今、すべてを口にすることは出来ません。
 何より、それはあなたが目にするべきこと。
 耳で聞き、鼻で嗅ぎ、肌で感じるべきこと。
 私がこれから紐解くのは、飽く迄その補完です」

ナタリー・ガルシア :「…………は、い」

促されるままに席に腰掛ける。
ぎこちない笑みを浮かべ、注がれた紅茶を見つめる。

「そう、ですわね……私が、私自身の耳目で、見て、聞いて、知るべきですわ……」

ナタリー・ガルシア :「私自身が、経験して、私自身の判断する……私には、そうしなければならない責務があります」

それが、望むと望まざると拘わらず、生まれ持った――生まれ持ってしまった責任が、ある。

ナタリー・ガルシア :
「お願いします、お姉様……私に、お姉様のお話を聞かせてください」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 途切れ途切れに、傷付き疲弊した心を振り絞るようなナタリーの言葉。それをリリアは、透き通る瞳で静かに見つめる。
 その苦しみもその痛みも、見通すような瞳。
 きっとこうして問いを投げるナタリーが、覚悟を決めた上でここに来たわけではないことも彼女には伝わっているのだろう。
 時間に急き立てられ選択の余地なく、何を問うべきかさえも判然としないままにやってきたのだと。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 それでも彼女は、或いは彼女だからこそ。
 逃れられず進むほかはないことを知っていた。

「……わかりました」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「レネゲイドウイルスには、2001年に拡散した新型と、現在では殆ど残っていない旧世代の型が存在しています。
 私や、私たち遺物探索局が『遺産』と呼ぶものモ、それの一つ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「その性質は一言で区別することは出来ません、個体差の激しいものです。そしてその故に現代まで何らかの形で残るものは少なかった。
 ……その中でも。
 一際に生命力が優れた種。正確に言えばひとつの宿主に宿りを決め、それを活かし続ける存在」
 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
           ・・・
「それを……我々UGNは古代種と呼んでいます」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「結論から告げると。
   ・・・・・・
 私は古代種に感染し、数千年を生き続けたもの。
      ・・・・・・
 言うなれば私自身が遺産のような存在なのです」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 封印者の長。遺物探索局の創設者。
 ……その実態とは、彼女自身がそうした存在。
 遥か古の時代より生き続けた……
        フ ァ ー ス ト シ ー ラ ー
 文字通りの、人類最初の封印者だった。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「私の出生がいつだったか、そこまでは覚えていません。ですが、確かに覚えがあるのは……
 あのソドムの都、鋼鉄の人工島へ流れ着き、彼らと共に生活を始めた頃からでしょう」

ナタリー・ガルシア :「……お姉様も、あの島に流れ着いて」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「その時点ではすでに、私は力に覚醒していました。彼女たちの都市は、レネゲイドウイルスへの感染者が引き入れやすく作られていたようですから。
 そして、きっとあなたが観た通り。私は、彼女と出逢った」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「私は族長の娘、ハーヴァの元で、あの街で一時の時間を過ごしました。
      エデン
 彼女の語る楽園の都、智によって導かれ善人が悪に落ちることのない街。
 あらゆる恐怖から保護するために生み出された隔離街。
 ……事実そこには、苦がなかったわけではありませんが、希望に満ちていました」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「閉塞した環境でも、問題に向き合う意志があった。
 誰もが、一人一人が、自らの手で自らの街をはぐくんでいこうとした。
 部族というコミュニティから外された者達は、そこで新たなつながりを作り、日々を過ごしていた」

ナタリー・ガルシア :「…………」

その通り、あの街で見た人々は表情に暗い影を落としているものは居なかった。
それが、何故あんなふうになってしまったのか。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……そこは、私にとっても、とても貴重な時間でした。
 きっと、そこが、私にとって初めて『日常』と呼べるものと強く触れ合った瞬間ですから」

 胸に手を当て、当時を思い出すように口にし

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……ですが。
 私は、最後まであの街の一部となること。
 あの街の登録者となることはありませんでした」

 そこも、ナタリーの体験した夢と同じ。
 飽く迄彼女は最後まで、街の一部でなく街を見守り、育てるものとして過ごしていた。
 ナタリーと違うのは、夢として断片的に体験したのでなく、十数年単位に渡り実際に席を置き、生活していたということ。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……何故だったのかは、わかりません。未知に対する恐怖ゆえか、或いは虫の知らせのようなものだったのかもしれません。
 何時までも決断が進まない私など置いたまま、時間は過ぎていきました。あの街の進展は、とにかく早いものでしたから」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そして、その果てに。事件は起きた」

 語るまでも無い。ナタリーも体験した、暴徒と化した民と、その中で血にまみれて倒れ伏すハーヴァの姿。

ナタリー・ガルシア :「…………」

この手に残る冷たさ。
瞳に焼き付いた紅。
彼女の言葉と涙。

現実と変わらない感覚と、喪失の痛みが、ナタリーの内で残り続けている。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──ハーヴァは。
 彼女は街をこそ愛し、そこに住まうものを愛しはしなかった。そう語りました。
 
 それはきっと誤りです。しかし、彼女は何の根拠もなく自虐するような人間ではありませんでした」

 飽く迄淡々と語る。彼女にも、何ら非がないわけではないと。

ナタリー・ガルシア :「……そ、それは、そうなのでしょうけど」

思わず口をついた言葉を、意識して飲み込む。
カップに注がれた紅茶を口元へ。
ナタリーは紅茶を感情ごと、静かに咀嚼して呑み込んだ。

「いえ、すみません……続けてください」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 一拍置く。淡々と事実を並べるリリアだったが、ナタリーの様子を注意深く見て間を取っていたように見えた。

「……端的に言えば。ハーヴァは、あまりに先を見据え過ぎていた。
      スケール
 彼女の語る規格に、彼女以外の人間が付いていけなかった」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「ハーヴァが見つめる先は、常に百年千年先の都市について向けられていたのです。
 彼女の政策に、『現在』はなかった」

ナタリー・ガルシア :「……それは」

彼女の視点、構想は人類がその何百、千年かけて積み上げてようやく届いたものに他ならない。

それを可能とするツールがあったとしても、それを使い、利用するのはあくまでも人――誰もが彼女のように遠くを見つめられる瞳はを持っていなかった。

それは当たり前のことで、けれど、それ故に起きた悲劇を、ナタリーは当たり前と切って捨てることはできそうになかった。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「彼女は……今の市民たちを信用していたんです。
 だからこそ彼女は、未来に向けての投資に尽力した。
 私の存在も、あったのでしょう。あの街は福祉の行き届いた社会ですが、オーヴァードである以上ジャーム化する存在もいた。その都度、都市を守っていたのは、私と彼女の作った設備でした」

ナタリー・ガルシア :「ハーヴァが言っていた、あの抑制装置のことですの……?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「はい。仔細の説明は不要ですね?
 装置を作る際、私は対象から外すよう設定した上で運用していました。その保守についても、ハーヴァが一人で担当していた。
 彼女はより正確に綿密に管理を行うために、本来補佐としてついていた神官たちを還俗させ、ポストを用意し、設営を次々と自動化していきました」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「彼女一人の一存で、市政が形作られていく。その危険性は彼女も承知の上だったでしょう。
 ですがそれを押してでも、彼女は設計を続けた。未来への投資のために。
 ……その熱量。市民との温度差を、私は直に目にしてきた」

ナタリー・ガルシア :
「…………」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「彼らの不満は少しずつ、澱のようにたまっていきました。
 そして……ある時点で──それは爆発した」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「最初は、根も葉もない些細な噂でした」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そしてそれは、耳触りよく響き、人々に膾炙していった」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「やがて噂が噂を呼び、形のない不安はクーデターにまで発展した」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「────そして。
    それが噂ではなかったこと。
    何より彼女を追い詰めてきたことだと悟ったのは。
    そこから、ずっと後のことだったのです」

ナタリー・ガルシア :「……噂?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 リリアは、重々しく口を閉ざして一言、告げた。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :

「────、
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 この都市は既にジャーム化している」

ナタリー・ガルシア :「……そ、それは、あの『御神体』が?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……あの街は、一つの遺物を中心にして育った島でした。
 その最初の胤となったのが、かの遺物。故にそこから作られた土地も作物も、煎じ詰めれば大なり小なりレネゲイドの影響を受け、感染している」
 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「それが。大元から歪んでいること。
 それを守ろうとしていること。
 ……不安をあおるのに、これ以上の材料はなく。けれどそれは結論から言えば。事実だったのです」

ナタリー・ガルシア :「……それは、でも、ハーヴァの責任では」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「少なくともハーヴァは、その事に気付いていた。
 誰より近くにいながら、あの聡明なハーヴァが気付かない筈がありません。
 けれど、父から託されたこの街を。そのために尽力した時間を。
 ──彼女は捨てきれなかった」

ナタリー・ガルシア :「…………」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「何より当時は、ジャーム化の症状の解析が進んでいませんでした。
 思えばハーヴァは、この都市を、居場所を壊さないために、先々に予め手を打つべく奔走していたところもあるのでしょう。
 市民たちも。私も。──結局、それに気付くことは出来ませんでしたが」

ナタリー・ガルシア :「…………それは、お姉様も、ハーヴァも、誰も、悪いわけではないではありませんか」

あるいは、皆が少しずつボタンをかけちがってしまった。それだけなのだろう。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「…………そうかもしれません」

 善き人々が、善き街を望んで築き上げた鋼鉄の島。
 しかし、地獄への道とは往々にして善意で舗装されるという。
 これはその典型のようにも見えた。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……今にして思えば、私が流れ着いたのも。そうした因果の故だったのでしょう。
 そして、ハーヴァが亡くなった後、それは確実に歪み始めることとなる」

ナタリー・ガルシア :「………………」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……あの時は意図的に伏せていました。そしてレイリー大尉の方針を知った以上、いずれは語ることとなると思いますが。
 私は彼女、エヴァンジェリンについて知っていた」

 厳密には今の彼女ではありませんが、と付け加え

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──レネゲイドウイルスは、それ自体が形を作り、意志を持ち、自律行動し始めるパターンが存在する。
 エヴァンジェリンは恐らくその類型」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「遥かな古の時代に築かれた人工知能。
 サイバー
  電 脳 を起源とし……ハーヴァの姿、形を模倣した人間態を持った、レネゲイドより生まれしもの」

ナタリー・ガルシア :  レネゲイドビーイング
「レネゲイドより生まれしもの……」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「彼女は、ハーヴァの最期から学習し、島を治めるオラクルマシンとなった。
 より理想的な管理を敷き、長き時間に渡ってこの街をよく運営するために。
 そして私はハーヴァの遺志を継ぎ、この街を守る防人となった……」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……きっと、あなたが夢の中で観たのは、此処までの筈です」

ナタリー・ガルシア :
「……はい、私が見たのは、そこまでです」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「であれば。その先については直接見た方が早いでしょう。
 ……いえ、見なければなりません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そしてそれが、きっと都市の。
 エヴァンジェリンの意志ならば、猶の事」

ナタリー・ガルシア :「…………それを彼女も、『預言者』が望むこと、なのでしょうか」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「…………彼女は、都市を、そこに住まう者達を管理し、護るために。
 その為に生まれ、その為にここにいます」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「────彼女が、ナタリー。
 あなたを求めるのは、恐らく──」

 そこでリリアは言葉を切った。すべてを語るべきではないと、目を伏せて

ナタリー・ガルシア :「彼女が、私を求める理由……」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……。
 私の昔話は、この辺りにしておきましょう。
 少しばかり話し過ぎたかもしれません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……一つ、訊いても構いませんか?ナタリー」

ナタリー・ガルシア :「……はい、私に、ですか?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……私たちの過ごした町は、決して良い結末を迎えることはありませんでした。
 しかもそれは、或いは生まれた瞬間から運命づけられていた。
 後世に悪名しか残さなかった。
            ・・・・・・・・
 いえ、それ以外に、私は残してあげることができなかった」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「背徳の都。天使に祝福されながらも、それをも犯し壊した糜爛の街。
 退廃と混沌の果てに沈む欲望の代名詞」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そこで、あの時間を借にでも過ごしたあなたに、どうしても一つ訊きたいことがあるのです」

ナタリー・ガルシア :「………はい、私が応えられることなら」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
         セカイ
「──────私たちの 日 常 は、君にとってどう映りましたか?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「祭りの時間も。
 日々の営みも。
 公園で休んだ時間も。御馳走に舌鼓を打った時間も。
 仕事で汗水を流した時間も。一休みして、語り合った時間も。
 どれも。私の過ごした大切な思い出です」

 たとえ結末がどうあろうと。
 その時間が色あせる事はない。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「同じものを見たあなたの口から。
 どうしても、それを訊きたかった」

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :「……私には、とても、とても素晴らしい宝物に見えました」

その欠片を覗き見しただけのナタリーですら、そう思うのだ。

「私の過ごす『日常』と比べても――いいえ、比べられないほど、輝いた毎日でした」

ナタリー・ガルシア :「ええ、羨ましくなってしまうくらいに……私も、共に過ごしたかったと思うくらい、とても素晴らしい毎日でした」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そうですか。
 ────良かった」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「きっとハーヴァも、エヴァンジェリンも。それだけで、満足してくれることでしょう。

 あなたには、辛い思いばかりをさせてしまいました。
 けど……あなたの記憶の片隅にそれが残ってくれたなら、どうか忘れないで」
 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「あなたにとっての宝物を、決して見失わないように。
 責務に疲れ、苦しくなった時に、あなたの居場所は待ってくれています」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 リリアの表情は、少しだけ柔らかかった。
 既に失われたもの。遠い時間の彼方に置き去りにされた、ただのセラだったころの代え難い思い出を。
 今自分を繋ぎ止めるものの一つを。
 そして……これから、再びこの手に掛けるものへの想いを、募らせるようだった。

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :「私にとっての、宝物……」

思案するまでもなく、失いたくないもの、帰るべき場所は脳裏に浮かぶ。

「それに、私、辛い思いもしましたが――それ以上に知らなかったことを、ワクワクするものを、たくさん知ることが出来ました」

ナタリー・ガルシア :「お友達も出来ました。大切なものが、もっと大切に思えるようになりました――お姉様も、その一つですわ」

カップを置いて、両手を握る。

「私が帰る場所には、お姉様も居ないと嫌ですわ――お姉様は、『リリア』お姉様は、私の帰る場所に居てくれますか?」

ナタリー・ガルシア :それは、戒めや重しとも言えるような、半ば懇願にも似た問いかけだった。

ナタリーの目の前にいる、遠いところに居る彼女。その彼女が抱えるものをナタリーはほんの欠片しか理解出来ていない。
けれど、あの『都市』に纏る運命が終わりを迎えた時――彼女がもっと遠くにいってしまわないように。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──勿論です。
 私は、リリア・カーティスは必ず。あなたの居場所と共に在ります」

 リリアの答えに迷いも逡巡もなかった。そして、力強い肯定だった。
 彼女はあまりに長く、そしてあまりに多くの運命に携わり続けてきたものだ。
 多くの古き遺物との宿命に、多くの出会いと別れを繰り返し続けてきた。

 この運命に導かれた道筋が終わってしまえば、或いは遠くに去っていくかも分からない。
 それを、リリアはきっぱりと否定した。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……あなたもどうか、無事でいてください。
 私には故があり、立場があり、それに伴う責任があり。きっと直接支えられる時間はとても短いかもしれませんが。
 それでも、あなたの帰る場所を、護り続けましょう」

ナタリー・ガルシア :「――はい、お姉様も、どうかご無事で」

貴女には自分が守る場所に居てくれるだけで良い――などという不相応な願いまでは、まだ口には出来ないけれど。

「私も、共に護ります――護りたいのです、私の帰る場所を。お姉様の護る場所を」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 その答えに満足した様子で、彼女は柔らかに微笑んだ。

「であるならば……
 今はそのために、為すべきを為しましょうか」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「今はまだ、話せること、そうでないことがあります。
 ……今話せる範囲であれば、あなたの疑問に答えましょう」

ナタリー・ガルシア :「……それでは、私からも一つだけ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「はい、なんでしょう」

ナタリー・ガルシア :「お姉様は、かつてから今までに、幸いだったでしょうか……辛いことや、苦しいことは、沢山あったと思います」

祈るように、そうあって欲しいと。
かつてからこれまでの道程に、そしてこれから歩むであろう道行に――出来る限りの幸いがあって欲しいという切なる願いだ。

「お姉様が報われるようなことはありましたか?お姉様はこれまで、ここまで、長い長い旅を続けてきて――幸いを得ることは出来ましたか?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……今ある、このたくさんの思い出が、そうです。この手に収まり切らない、多くの思い出。
  
 譬え過程の多くが戦であったとしても。
 多くの迫害に逢ったとしても。孤立を深めたとしても。
 ・・・・
 残るものがある」

ナタリー・ガルシア :「――お姉様には確かに得たものが、あるんですわね」

その答えに、良かった、と、ナタリーは安堵の笑みを浮かべた。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──はい。そして、あなたもその一つ」

 ナタリーのちいさな手を、そっと握り返す。細くしなやかな指、けれどそこからは、何処か力強さを感じさせた

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「私はいずれ、あなたを置き去りにしてしまうかもしれません。
 私は既にこの時代の人間ではなく。この時代に関わること自体、過ちを犯しているのかもしれません。
 ですが……それでも私を受け入れてくれた人たちがいて。
 私の手で救えた人生がある」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「それが私の誇りで、宝物です。
 この手に残る確かに得た、かけがえのないものです」

ナタリー・ガルシア :「はい、お姉様に救われた一人が目の前にいますわ――お姉様であっても、過ちかもしれない、などと言わないでください」

強くリリアの手を握り返す。
それは違えようのない事実であり、ナタリーの感謝と敬愛を伝えるための精一杯だった。

「それに、大丈夫です。私、こう見えても足は速いのです――必ず、間に合って、追いつきますわ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……ふふ、では、期待して待つとしましょう。
 ナタリー・ガルシア。可愛いあなた」

 柔らかな笑みで、髪を撫ぜる。いつかのような仕草で。
「その刻が来るまで、どうかあなたの道行きに幸があらんことを」

ナタリー・ガルシア :「――はい、お姉様の道行にも幸があらんことを」

いつかとは違い、気恥ずかしさと照れくささから、ほんのりと頬を染めて視線を逸らす。
けれど、つぶやいた言葉は、心からの言葉だった。

"アダム" :
 ────一先ずはこれで持ち直したか。まったく、お姫様のご機嫌取りは大変だ。
 まあ、ここで参られると困る。オレが尻を蹴り上げるだけじゃあ限界があるからな。

"アダム" :
 とはいえ、順調に進んじゃあいる。
 全く、二度もこんなのの相手させられるコトになるとはね。
 まあ、いいさ──だが頼むぜ

"アダム" :
 ・・・・
 今度こそしくじるなよ。

 キミには期待してるんだ。お姫様。

SYSTEM :
 その言葉は、決して届くことはなく。
 海底都市の深みの内で消えていく。

SYSTEM :
 今は只、窓辺から差し込む光と共に、二人は二人の日常を紐解くだけだ。
 そして、少女と御使いは目指すべき場所の為。
 為すべきを為す為に、再び歩み始める。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ナタリー・ガルシア :……迷いましたが、なし、ですわね

GM :オッケイ!!

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :
【人物:リリア・カーティス/1】
Dロイス;古代種

 彼女は少なく見積もっても四千年以上昔に生まれ、遺産と契約することで現代まで生きながらえてきた古代種である。
 遺物との契約により、彼女は自ら自身が永遠の時間を征く、不死の生命……本人曰く『自ら自身が遺産に等しい存在』と成ったという。

 旧約聖書においては神罰の熾天使ガブリエルと同一視される『ソドムを滅ぼした天使』の正体。古代においてはセラフィータと呼ばれていた人物。
 人類がレネゲイドの存在を知る遥か古から様々な時代の組織に関わり、名前を変え立場を変えて『遺産』の起こす災厄を未然に防いできた、文字通りの『最初の封印者』。

SYSTEM :
 彼女は遥か古に当時黎明にあったソドムの都に流れ着き、そこで族長ハーヴァと出逢い、友誼を結びかけがえのない時間を過ごすこととなる。
 感情を持たなかった彼女にとって、その生活は人の人らしい日常を識るきっかけとなったのだ。縛られることを嫌った彼女は最後まで都市の契約を結ばなかったが、ハーヴァと共に過ごすうち、市民でなくとも自らの居場所を、日常を、街を守るために戦う戦士としての在り方を選んだという。
 
 その果てに彼女が何を目にしたのか、今はまだ口を閉ざしている。

GM :さて

GM :本来ならこのまま3ラウンド目の手番を決めるところであるがあ

GM :間にシーンの希望があったので展開していきまっす

灰院鐘 :やったあ よろしくね

ダン・レイリー :よろしく頼む

アトラ :うぇいうぇい!

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……




【INTERLUDE ⑪】

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑪】

登場PC:Syou,Dan,ATORA
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 数時間もすれば日付も変わろうという頃。パラダイスロスト作戦も折り返し……いや、それに差し掛かろうという手前の段階にある。
 せわしなくアメリカ中を駆け回る実働部隊も、三度目の配置換えが行われようという所だ。
 だが実働部隊が各地で十全に立ち回ることが出来る背後には、往々にして彼らのような人間のバックアップがあればこそだった。

SYSTEM :
 現在アメリカ中を襲うワームウイルスの隔離及びに各州のシステムの復旧と、各地のメンバーへの支援は勿論のこと、占領した土地のシステムを再度コントロール下に置くこと、収集した情報の裏取り調査や他支部との連携等等。
 やることは山のように存在している。

水無瀬 進 :
 そこは新設された本部直属の特務班が使用する通信本部のサーバルームにあたる。
 水無瀬進はイリーガル用の部屋の座席にもたれかかり、大きなため息をついていた。

「げ……もうこんな時間か。流石に応えるな、三週間ずっとこんな調子だと……」

 項のソケットを閉じて、首を大きく回す。進は適当に卓上に手を伸ばし、栄養補給用のサプリメントを掴んで水と共に口に放り込む。

灰院鐘 :
 ──深夜帯。人など来ようはずもないサーバルームの入り口が、自動制御のもと来訪者を迎え入れる。

「こんばんは!」

 寝静まる気のない元気な声。鐘は室内を覗き、壁にもたれかかった水無瀬を発見すると、ぱっと顔を輝かせた。

水無瀬 進 :
「うおっ!?」

 大きく凭れ掛かり、矢庭に視界に割り込んでくる巨躯!

灰院鐘 :
「進さん!」

 発見、直進。遠慮なく一歩を踏み出した彼には、いつもと違う違う点があった。ひとつは小さな手荷物。もうひとつは、

灰院鐘 :
 彼の両肩に細い両足が乗っていること。この暢気な訪問者は、どういうわけか誰かを肩車して来たらしい。

 が──
 入り口すれすれの高身長。彼がそのまま直進すればどうなるかは、想像に難くない。

アトラ :
「ちわーす!頑張るオトナにエールのお届け物、ショーさんデリバリーです!」

 その上に立つ細身の少女はと言えば、寝付けぬからとノリに身を任せた者だった。
 遠慮なく、輝くような笑顔と発声に何となく同調し、足を任せている故の無抵抗でそのまま真っ直ぐ直進し。

アトラ :
「───あっ、ちょっショーさんストッ」

 がっ、と。言い終える前に来訪客の一人は両足を男の肩に預けたまま撃沈した。
 多分痛い。今宵の乗騎の速度にもよる。

灰院鐘 :「?」ガツーンと物理的に止まる直進、頭上からの悲鳴。

灰院鐘 :「あっ」

水無瀬 進 :
「おいおいこらこら大丈夫か君たち!」

アトラ :「どぁ……」

灰院鐘 :「わーーーーー! ご、ごめん! ついうっかり……だ、だいじょうぶ!?」

アトラ :「ず……頭上注意 ヒヤリハット……」

灰院鐘 :「アトラくーーーーん!」謎のエコー

水無瀬 進 :
「まったくしょうがないな君たちは!
 えーっと応急キットあったかなこの部屋に!」

水無瀬 進 :
「あっ待った先に釘刺しとく、君は探さなくていい鐘君 というか触らないで欲しい!
 自分の仕事場を荒らされるのが一番嫌なんだ!」
まして相手が君ならば!

灰院鐘 :「で、でも僕にはアトラくんの命に報いる責任が……」

アトラ :(ぶら下がっている……両足で肩に……)

ダン・レイリー :
 ………時刻はもう深夜。
 既に灯など消えていて久しい頃だが、UGN本部というのはウチに負けず劣らずだ。

 自らもそうだが、特にこの辺りは仕事がないわけではない。

ダン・レイリー :
 この先は確かUGNの特務班が使用している通信本部のサーバルームで、うちの隊員用にも部屋が用意されている箇所だ。

 ………詰めているのはミナセのはず。ここのところは特に激務続きだ。
 そろそろ休ませてやるべきか、と曲がり角を曲がった次の瞬間。

よく通る声 :アトラくーーーーん!

ダン・レイリー :
 ………あらゆる意味で何事だ、と。
 僕は只ならぬものを感じて扉を開ける。

ダン・レイリー :
 そうして視界に広がったものに対し、なんと説明すればいいのか、その答えを僕は見つけられていないが………。
 第一声はスムーズに出た。

ダン・レイリー :「………レクリエーションでもしていたのか?」

灰院鐘 :「ダンさん……」

灰院鐘 :「僕の……僕のせいでアトラくんが……」背中に垂れ下がる要救助者

ダン・レイリー :「先ず落ち着いて深呼吸しなさい」 

水無瀬 進 :
「人身事故だよ人身事故、労災案件だ」

アトラ :「どもっす」 ゆら……

ダン・レイリー :………肩の上に載っているうら若き十代の、聊か哀れな姿を見るに、どうやらニホンでウチの隊員がボヤいた“アレ”の逆バージョンがあったらしい。

灰院鐘 :スウウウーーー

灰院鐘 :(キュマイラ肺活量の風圧)

ダン・レイリー :よし 落ち着いたところで説明…

ダン・レイリー :抜かった、ショウはキュマイラだ 通常の3倍の風圧が押し寄せてくる

アトラ :室内でそれは……ヤバいのでは!

水無瀬 進 :
「あったあった……とりあえず君は降りようか。
 女の子さんが顔を怪我したままというのはよろしくない」

水無瀬 進 :
「まあオーヴァードならすぐ直るだろうけどね、医療キット持ってきたよ」

アトラ :
「おお、不慮の事故にも対応。ちゃんと完備してるんすね」

 ぐいん、と鐘さんの体幹を信じて勢いをつけて身体を起こし最初の位置に戻る。

灰院鐘 :(反省の顔でしゃがみ、治療を受けやすい高さに調整する)

水無瀬 進 :
「こういう現場でも怪我はするんだよ。
 人体と繋ぐ都合スパークとかして火傷負ったりとかね」

 ごそごそとキットの中身を弄りながら

ダン・レイリー :
「ブラックドッグ・シンドロームならではの悩み事だな。
 そこに加えて此処はUGNの総本山だ。不慮の事故への備えも経験として蓄積してきたんだろう」

ダン・レイリー :「そこのところを自慢するべきは多分、いましょげているショウなんだろうが…」

アトラ :
「まーまーよくあるよくある!ショーさんの顔面までぶつかんなくて良かったじゃんね」

 肩車で現れておいてどの立場で発言をしているんだろうか。

灰院鐘 :「うう……ありがとう……」

水無瀬 進 :
「というかねえ、君たち揃いも揃って何しに来たんだい? すぐまた出動なんだろ、キャプテンレイリー殿も、今日ぐらいはゆっくり自室で休めばいいのに」

ダン・レイリー :
 治療を見ながらしょげているショウに視線をやりつつ

「お互い様だ。
 元々はそのつもりだったんだが、只事でない内容をよく響く声が伝えてくれてな」

灰院鐘 :「あっ そうだった、これ」はい、と水無瀬に手提げ袋を渡す

灰院鐘 :
「進さんががんばってるって聞いて、夜食を持ってきたんだ。勇魚くんに教わりながらつくったから、おいしい……」

灰院鐘 :
「……と、いいな!」

灰院鐘 :ちなみに勇魚くんのお手本は僕とアトラくんで食べたからありません

アトラ :「ちなみにウチは賑やかしです!」 あんま眠れなかったおかげで美味しい目にもあえました!みたいな顔

ダン・レイリー :「成程、デリバリーサービス中の事故だったのか」

ダン・レイリー :「で、当の本人としてはどうだ」

ダン・レイリー :若者からの心遣いだぞ

水無瀬 進 :
「あー……成程差し入れか」
 なるほどね、と頬を掻く。素直な所を言えば食が細い方である、拙い旨いは兎も角……勿論、絶対的に旨い方がよいに決まっているが……あまり食事はしない方だ。

水無瀬 進 :
 が。

「そりゃいい、頂くよ! わざわざ悪いね」

 そのぐらいの気遣い、促されるまでも無く出来るものだ。
 尤も、その辺りの気遣いが差し入れの中身を見て吹き飛ばない保証は、どこにもないのだが……

灰院鐘 :3dx まわればおいしい (3DX10) > 10[3,9,10]+5[5] > 1

灰院鐘 :

水無瀬 進 :
「お、お、おおー……?」

 ふたりが持ってきたバケットを手に取り、中身を恐る恐る開ける。

灰院鐘 :
 果たして、広げられた包みの中身はまだ温かさを残したホットサンドだった。鐘が作ったにしては繊細な仕上がりは、というか、多分主な工程は彼の手によるものではないと分かる。

 要するに、きわめて安全かつ美味な夜食だった。

水無瀬 進 :
「お、おお! ホットサンドか!
 しかもまだまだ温かい、ちゃんと旨そうだ!」

ダン・レイリー :
「やるじゃないか。
 ミナセも多忙だ、きみ達がいなければ今宵は最悪ケミカルとカフェインのタッグと付き合うことになっていただろう」

ダン・レイリー :………もしも洒落にならないものだったら夜勤への壮絶な追い打ちになりかねないし、半分は此方で引き受けてやろうかと思ったが。あの分なら大丈夫だろう。

アトラ :「身体に悪いっすよ~ そういうの」

灰院鐘 :
「食事はきちんと摂ろう! 健康がいちばんだ」

 十代が大人の食生活を諭す不思議な光景

水無瀬 進 :
「ま、まあ善処はするよ……」

水無瀬 進 :
「うん、それじゃ早速いただいていくとしようか。ホットサンドなんてのは何年ぶりかなあ、人の手作りは初めてじゃないか?」
 

灰院鐘 :
「進さんには端末の件もそうだけど、ときどき話してもらったりお世話になってるから……うん、おいしいといいな」どうぞ、と応じる。

水無瀬 進 :
「ああ何、大したことじゃないさ。
 それに中々の出来だ、このぐらいの役得にしては十分すぎる……
 いや本当、すごく意外っていうか……いや! 深い意味はないんだ」

水無瀬 進 :
「でもほら、野郎の料理っていえばどっちかというとアレだろ。
 そう、ディアスの好きなアメリカンソウルフード」

灰院鐘 :やったあ~とすなおに喜ぶが野菜を千切ってホットサンドメーカーに電源を入れてタイマーが鳴るのを待っただけの17歳

灰院鐘 :「あめりかんそうるふーど?」

ダン・レイリー :
「まあな。出来はずいぶん繊細で丁寧だ」

 T³か?

アトラ :(手作りはじめてなの、地味に驚きポイントだなあ……)

水無瀬 進 :
「ハンバーガーだよハンバーガー。雑に切った肉と野菜をバンズで挟めば完成だ。
 まあそういう言い方するとあいつは怒るけどね」

灰院鐘 :「そう言うとなんだか区別つかないね」大雑把に納得して頷く

ダン・レイリー :「ヤツなら大変な熱意を以て違いを教えてくれるだろう」

アトラ :
「あぁ~。でもサンドイッチよりは見た目ゴチャついても許されそうな感じありますね。
 そうでもない…… ……ぽいっすね、この感じ」

ダン・レイリー :ミナセを見る。テンペストの人間でヤツと交友がある人間の幾人かは“試作”に付き合わされた間柄だ。

水無瀬 進 :
「……ちなみにこれ作ったのって」
流石にハンバーガーとホットサンドの区別をそうざっくり分ける手合いにこの繊細なつくりは出来ないだろう、と気づいたのだろう。

灰院鐘 :
「勇魚く……」

 おおきな声でいっぱい伝えるのを見越してか、名前は出さなくていいと釘を刺されていたのを思い出す。もうわりと手遅れではあるが、むぐ、と口ごもる。

灰院鐘 :
「……えっと……いつも助けてくれる、親切な……通りすがりの……」

灰院鐘 :
「いさ あっ」

灰院鐘 :
「ホットサンドメーカーのスイッチを押したのは僕です」なんか敬語

ダン・レイリー :「………」

アトラ :
(言ったなあほぼ全部……)

水無瀬 進 :
「あーーーー……
 いや……いや。いい、十分だよ、うん、その事は聞かななかったことにする。要らぬ藪を突いたようだ」

 深い納得の声の後、すかさず制止して

ダン・レイリー :「なかなかの気遣い屋さんが友達に居てくれるようだ」 

ダン・レイリー :「それに発案はきみなんだろう。そう悪いことじゃないよ」

アトラ :
「まーまーまーUGNサンドっすよUGNサンド!
 いっそ作戦本部の売店とかに卸してみて良いんじゃないすか?」

灰院鐘 :匿名性のむずかしさを嚙みしめるかお

灰院鐘 :「うん──ありがとう」

灰院鐘 :「あ、いいねそれ。かっこいい。リリアさんに言ったら考えてくれるかな?」

水無瀬 進 :
「君は恐れってのを知らないんだな……あの近寄りがたい御仁に」

水無瀬 進 :
「でもそれ自体はいいんじゃないか? ウチでも似たようなことをディアスの奴がしてるし……」

 一口。ホットサンドを頬張る。

アトラ :(テンペストバーガー…………?)

水無瀬 進 :
「うん、旨い、いいね! 中々イケるよ!」

ダン・レイリー :「人は見かけによらんとも言う、案外本心で頼めば………」

ダン・レイリー :「おっと。良かったな、二人とも。甲斐はあったそうだぞ」

ダン・レイリー :その気遣い屋さんにも伝えておいてやってくれ、というのは言わずとも実行するだろう。ショウは概ねそういう少年だ。

灰院鐘 :「やったあ。勇魚くんにも伝えておくね!」

灰院鐘 :アッ

ダン・レイリー :「助力してくれた親切な通りすがりさんにも伝えておいてやってくれ」 力技で押し流す

水無瀬 進 :
「聞こえない!僕のログには何もなかった!」

アトラ :
「顔面ぶつけてまで来た甲斐あるっすね~!」

 あーあ―だれにも聞こえてないだれにも聞こえてない。

灰院鐘 :ありがとう……ありがとう……

ダン・レイリー :
「僕からも礼を言っておくよ。
 ただでさえ、この手のオペレーションのタスクをミナセには任せがちだからな」

ダン・レイリー :
「なにしろテンペスト…というか軍人というのは、基本ホワイトカラー以上にブルーカラーな連中の方が多くてな」

 こっちの専門家…特に俺の一声で編入できるようなのは、数えるほどしかいないのが内情だ。

水無瀬 進 :
「ああ、礼を伝え忘れてた。ありがとう、中々悪くなかったよ。
 どうしても飲食を忘れて作業に没頭しがちだからね。しかしあれだな……」

水無瀬 進 :
「飲み物がモンエナしかないや。こんなことならせめて水ぐらいは置いときゃあ良かった。
 流石にこんなうまいものをモンエナで流し込むのは食の細い僕でも躊躇われる」

ダン・レイリー :「む」

ダン・レイリー :「そう言えば飲み物とセットではなかったのだな………それ自体は仕方のないこととして、確かにそれでは本末転倒だ」

ダン・レイリー :此方が行ってくるか? ここでカフェインを取らせて再び根を詰めさせるわけにはいかんし…

アトラ :「あ~ そういえば……」 そこまで考えてなかったな、の顔

灰院鐘 :「……! たしかに!」

灰院鐘 :
「待ってて、上の自販機で買ってくるよ」

 善は急げとばかりに踵を返す巨体。大きな歩幅、迫る出口。しかし彼の両肩にはまだアトラが乗っかっている────!

アトラ :
「ほあっ」

水無瀬 進 :
「お、おいおい待て待て!」

ダン・レイリー :「ン、待て、それ以上進むと───」

アトラ :……!

アトラ :運転で判定……!

ダン・レイリー :ショウならば8dx───違う、そうではない!

アトラ :<運転:ショーさん>……!!!

水無瀬 進 :中々目標値は高そうだ!ツッコミ処はそこじゃないんだけどね!

アトラ :2dx 運転 (2DX10) > 7[3,7] >

ダン・レイリー :止まったか…!?

水無瀬 進 :この場合は彼の肉体と対抗することになる……

水無瀬 進 :のか?

アトラ :そうなの!?

ダン・レイリー :あの細腕でショウの肉体を制止出来るか否かの勝負というわけか…

水無瀬 進 :(既に十字を切り始めている

灰院鐘 :8dx (8DX10) > 9[1,1,1,4,6,7,9,9] >

ダン・レイリー :
      ダイス
馬鹿な、その能力差で…いい勝負を!?

水無瀬 進 :結構いい勝負してるね君!

アトラ :がッ……ダメ……!

ダン・レイリー :追い詰められたアトラのオーヴァードとしての力が底知れない爆発を生んだ───

ダン・レイリー :ように見えたがそのようなことはなかっ、………違う 解説している場合ではないぞ!

灰院鐘 :
「大丈夫、すぐ戻るよ!」

 対抗判定に勝利した鐘は気付かず直進! 水無瀬のために急ぐ足取りは、先よりも勢いがついている!

アトラ :
 ……二度同じ轍を踏む“T³”じゃない!
 っていうかそもそも気付くべきじゃない!?もしかしてウチめちゃ軽いのかなあ!いや確かに飛ばされがち でもないけど!
 そんな人知れず行われた努力と抵抗虚しく…… ……。

アトラ :
「う゛ぁっ」

 ガツン!!!ダメだった 今度はさっきより滅茶苦茶痛かった。

灰院鐘 :あれっ

灰院鐘 :あっ

水無瀬 進 :
「ああっ」

 言わんこっちゃないと顔を覆う

ダン・レイリー :「………………………」

ダン・レイリー :
「人は同じ過ちを繰り返すのか………」

 阻止できなかったとは………。
 ベセスダの本部の天井を、僕は静かに仰いだ。

 それはそれとして、応急キットの備蓄と計算が合わないと指摘された時のことを今から考えておこう。

アトラ :
「う゛ぁ…………」

 揺れる死体・PART2になった。

灰院鐘 :
「ア……アトラくーーーーーーーーーーん!」

 翌朝に曰く。この痛切な叫びは、上階にも届いたという……

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
セットアッププロセス内の全ユニットの判定が終了しました。
各ユニットは配置に就いてください

ダン・レイリー :残存セクトはロサンゼルスのD、ルイジアナのA、B、D………

ダン・レイリー :ひとつ後顧の憂いを断つとしよう。取り決め通りロサンゼルスに戦力を投じ、”コードトーカー”を撃破する。僕も行く。
ルイジアナが手薄になるが、差し支えなければ紅さんにお願いしたい。

ナタリー・ガルシア :私も師匠のサポートをしたいところですが……ここは迅速制圧といきましょう

アトラ :問題なしなし!削れるとこ削っとかなきゃね

ブルー・ディキンソン :賛成☆

紅 蘭芳 :了解です!ここは一人の武辺者として、気合入れていきます!

ナタリー・ガルシア :お願いしますわ!私達も、きっちりと任務を果たしますので師匠にもご武運がありますよう祈っております

紅 蘭芳 :うん!無理はしないでね!

SYSTEM :
ユニットの配置を確認しました。

SYSTEM :
Los Angeles:
A:CLEAR
B:CLEAR
C:CLEAR
D:ナタリー、鐘、ダン、アトラ、ブルー、勇魚、ディアス
DETROIT: MISSION COMPLETED!
New Orleans:
A:紅
B:
C:CLEAR
D:

"コードトーカー" :……私への殺意高すぎるんじゃない?

ダン・レイリー :高く買っている 自慢していいぞ

灰院鐘 :あっはっは

ナタリー・ガルシア :人気者ですわね!!

ブルー・ディキンソン :いやいや殺意だなんてそんな

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :がんばれー ヒュー

ブルー・ディキンソン :ちょいとギターを返品するだけですよオホホホホ

アトラ :ちょいと顔見とかないとね〜

灰院鐘 :勇魚くんも何か一言!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :慈悲はありません

灰院鐘 :だそうです!

"コードトーカー" :やだ怖い

"コードトーカー" :ならしかるべき準備をしておかないと
私は強い子嫌いだもの

SYSTEM :
-MAIN PROCESS-

SYSTEM :
各セクタに配置されたユニットの判定を行います。

GM :というわけで

灰院鐘 :で!

GM :誰からやりますか もう全員で襲い掛かるわけですが

ダン・レイリー :先ずは第一関門からだな

GM :判定は交渉!

GM :目標値は12!

灰院鐘 :みんなで一斉にやってもいいの?

ナタリー・ガルシア :いいですわね

GM :まあ多分問題はないですな

ナタリー・ガルシア :これで全員失敗!なんてことにならなければ……

アトラ :言霊言霊

ダン・レイリー :言葉には魂が宿る 不用意なことは言わない方がいいな

GM :この局面、流石に遣いたくはないでしょうNPCカードは

灰院鐘 :ようし、がんばるぞ

ダン・レイリー :そうだな 万全を期したいところだが それはここじゃない

ブルー・ディキンソン :エイオー。

ナタリー・ガルシア :こ、ここは念のため順番に……

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :万が一駄目でも9が出れば支援できます

灰院鐘 :進さんで鍛えたこの……適切な力加減のハグで……!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :が、無いに越したことはありません。気楽に振ってください

アトラ :まーまー、なんとかなるでしょう!苦手でもないしそういうの!

ダン・レイリー :(…ン? 交渉で…ハグ…?)

水無瀬 進 :僕はダンベルか何かか?

ダン・レイリー :(…失敗した場合は犠牲者が出るのか?)

ダン・レイリー :(ミナセで大丈夫なら…大丈夫か…ヨシ)

灰院鐘 :うーん お豆腐かなあ

アトラ :っていうか鍛えるもんなんすか、ハグ力(ちから)って……

ダン・レイリー :確かに力を加え過ぎてはならんなそれは

ナタリー・ガルシア :実際に、試してみました(そっとアトラをぐいぐい)

アトラ :ちょいちょいちょい……

灰院鐘 :キャッチ!

灰院鐘 :ぎゅっぎゅ

ナタリー・ガルシア :ああっ、アトラさん……そんな、偶然にもハグに捕まってしまうなんて……

ナタリー・ガルシア :それで、具合はいかがです?

アトラ :偶然だったかなあ!

ブルー・ディキンソン :策士だなァ……

灰院鐘 :3dx (3DX10) > 10[3,8,10]+7[7] > 1

ダン・レイリー :あ。

ダン・レイリー :なるほどこのためのハグだったか

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル : 

アトラ :うーん まったりとして それでいて力強

灰院鐘 :適切な……力加減!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :もう、行きますよ

ナタリー・ガルシア :そうですわ、いつまで遊んでいるんですか!

灰院鐘 :は~い(抱えていく)

ダン・レイリー :

ナタリー・ガルシア :まったく、これから任務だというのに……

アトラ :あれぇ〜〜〜〜〜〜?!

ダン・レイリー :よし では(既に決着がついた気はするが)始めようか

ナタリー・ガルシア : 

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :(無言でナタリーにデコピンを仕掛ける)

ダン・レイリー :2dx 交渉 (2DX10) > 10[3,10]+4[4] > 1

ナタリー・ガルシア :消力(シャオリー)ですわ!(石頭で受ける)

ダン・レイリー :! 出来る…!

アトラ :いや何揃って遊んでんすか……!

ダン・レイリー :いや、ついな。まさかハヌマーンにああいう凌ぎ方をされるとは

紅 蘭芳 :まさか切り払いを習得しているとは!

紅 蘭芳 :(後方師匠面

ブルー・ディキンソン :いいのかこれ いいのかな……

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :どうあれ判定は成功したようですが

ブルー・ディキンソン :運試ししよっかな〜

アトラ :どうしよう ウチらもおみくじ用に交渉してみようか

ナタリー・ガルシア :私のトーク力、見せつけて差し上げましょう

ブルー・ディキンソン :やっちゃいますか〜

ナタリー・ガルシア :3DX 交渉 (3DX10) > 8[1,7,8] >

ナタリー・ガルシア : 

アトラ :5dx しちゃお〜 (5DX10) > 10[1,3,5,9,10]+7[7] > 1

ブルー・ディキンソン :(1+1)dx <社会:交渉> (2DX10) > 8[4,8] >

ブルー・ディキンソン :運悪ぃ〜 けらけら

アトラ :この手でいままで食ってきたんで、ウチ!

ナタリー・ガルシア :さすがですわ!

ダン・レイリー :流石の腕だな(ハンカチを渡しながら)

SYSTEM :
判定に成功しました。
LOS ANGELES:sectorDを制圧しました。

SYSTEM :
【WARNING!】

 1エリアのセクタをすべて攻略したことにより、ボスイベントフラグを経過しました。
 イベントシーンの情報が一部開示されます

SYSTEM :
【Information】

 イベント条件が開示されました。

SYSTEM :
イベント:NIGHT CHASER
発生条件:エリア『LOS ANGELS』のすべてのセクタを攻略する。
内容:  何らかの条件の下で『コードトーカー』と戦闘を行う。
終了条件:敵対ユニットを戦闘不能、或いは戦闘から離脱する。

SYSTEM :
推奨条件……
 ・ユニット二体以上・アタッカー一体以上
 ・<運転>技能を持つユニット
 ・範囲:至近での攻撃手段を持つユニット

GM :さて そんなわけでコードトーカー戦が解禁されたわけですが

GM :察しの良い方は何となくわかってもらえてそうだ ハリウッドでおなじみのアレですね

灰院鐘 :つまり……!

灰院鐘 :(なに?という顔で振り返る)

ナタリー・ガルシア :アレですわ!!

アトラ :アレかあ

ナタリー・ガルシア :(どれ?という目線を向ける)

ダン・レイリー :そうだな アレだ

アトラ :(わからん……)

ナタリー・ガルシア :(私もハリウッド映画は刺激が強いのであまり見てこなかったというか……真似をするので止められていたというか)

アトラ :(流石に大手を振って見れんし……映画とか……)

GM :そういうことだ……

灰院鐘 :なるほどなあ

灰院鐘 :ダンさん! そういうことだって!

ダン・レイリー :ああ、分かっているならいい。詳しくは現場でのお楽しみだ。

GM :では始める前に二つ訊いておこう!

ダン・レイリー :(ということにしておいた方が面目も立つだろう、あの二人)

ナタリー・ガルシア :2つと言わず、3つでも4つでもどんとこいですわ

GM :一つはシーン展開前にインタールードを挟めなくもないことだ 此処で挟みたい人がいるならということ

GM :二つ目は、実際にシーンに突撃する面子についてだ

GM :勿論全員シーンに入ることは可能だ
しかし実際に判定を行う面子は戦闘に巻き込まれるため選定する必要もある

GM :如何にするかな!

GM :と思ったが……判定内容を見せてからでも間に合うな 全員シーン入りしてんだから

GM :なのでそうね 取り合えず全員シーンに入ること前提で話を進めよう

ダン・レイリー :実際に判定を見た後に「判定を行う者」を択ぶのでも間に合うのだな?

ダン・レイリー :ではそうしたい オーヴァードというのは無理が利くが利きすぎるわけでもなし、徒に損耗を増やすわけにもいかないからな

GM :イエス その通りです
判定に参加せずともシーンに入って色々RPは出来ると思うのでそこはご心配なく
シーンに出てる訳ですからな

ダン・レイリー :その口ぶり、予想は出来るが断定は難しいな… 

ダン・レイリー :分かった 此方からはそれがいい

GM :では一つ目の確認に戻ろう インタールードを挟みたい人がいるならばという話だ

GM :勿論クリア後でも全然問題ない

GM :ない……なさそう?なさそうね

ダン・レイリー :すまない、反応が遅れたな

ダン・レイリー :此方からはない。前夜祭と洒落込んで取り逃がしてはコトだ。

灰院鐘 :大丈……

灰院鐘 :ぶ!(ついでにハグしていく)

ダン・レイリー :ヤツが片付いた後もその調子でな。

アトラ :ウチも同じく〜 はしゃぐ分は前日までにはしゃいどいたし

GM :ふむふむ ブルーさんは?

ブルー・ディキンソン :だいじょー

ブルー・ディキンソン :ぶい

GM :

ナタリー・ガルシア :私としても、祝勝会でインタルードといきたいですわ

GM :了解だ!では

GM :シーンの方を展開していきます!いざロスへ!

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……

SYSTEM :




【MIDDLE ⑨ - NIGHT CHASER】

SYSTEM :
【MIDDLE ⑨ - NIGHT CHASER】

登場PC: Natalie , Syou , Dan , ATORA , Blue
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 12月も半ばの頃。当初行方の知れなかったコードトーカーの拠点となるラボの所在を掴むことに成功し
 そのための手段となる、地元のUGN、警察機関との連携も完了した。
 対コードトーカーの戦線もこれで最後になる。

SYSTEM :
 現在時刻は20時を指すところだ。寒空のロスの摩天楼を星の光が照らす中、作戦は密やかに展開されていた。
 アメリカ合衆国全土を人質に取り、サイバーテロによって被害を齎したコードトーカー。その撒いたワームウイルスは彼女の因子が組み込まれているため、彼女自身にこれを解除させる以外に手はない。
 目指すのは、テロリスト"コードトーカー"の確実な検挙であった。

SYSTEM :
 しかし……ラボの施設内部に突入することになったのは、『パラダイスロスト』チームではない。
 交渉の結果、ロス市警、ロス支部の特殊部隊が先んじてビルの中に突入、先鋒を司るする運びとなった。

 実力や権力争いなどの背景がないわけではないが、一番重要なポイントとして隠密作戦のノウハウに関して言えば彼らの方が上だからだ。

SYSTEM :
 勇魚やダンは例外であろうが、その他イリーガルは経験もなく、ブルーに関して言えば顔が割れている点も不適だった。
 幸い……内部構造はブルーの調査の賜物で既に確認が取れている。此処まで情報が分かっているなら、現地の面々での攻略も不可能ではない筈だ。
 あくまでチームの役目は、万が一が起きた場合の……よく言えば切り札、悪く言えば補欠といったところか。

水無瀬 進 :
『……まあ、そんな塩梅で巧く行けばいいんだけどね。
 コードトーカーってのは前のラクシャーサみたいに能力が割れてない訳じゃないし、フィジカルが無茶苦茶強いって訳でもないんだろうし』

 内心思ってもいないことをドローンのスピーカーから流しながら

ダン・レイリー :
 交渉の結果を掻い摘んで纏めるならば、餅は餅屋───適材適所という方針だった。

ダン・レイリー :
 オーヴァードの相手はオーヴァード………が通るのは、正面作戦のケースの方が多い。
 ワーディングは非オーヴァードには絶対的ジョーカーとして振るわれるものの、これの対処が出来、幾つかの有利条件があるならば、その法則は絶対ではない。

 勿論………それ以外の理由が“ない”とは言えないにしろ。
 そもそもコードトーカーはノイマン・シンドロームだ。
 不利な土俵に上がる理由は最初からなく、ここは既にヤツの土俵でもあるし、仮に有利が崩れているとしてなおも留まる土地ではない。

 故に国にも此方にも確実な確保が要求された。
 であるが故の部隊編成だろうが───ぼやきの理由も分からないではない。ノイマン相手だ、先手を打てない対局には不安が残る。

ダン・レイリー :
「フィジカルの強弱で全てが決まるなら、シャンバラはキュマイラ・シンドロームだらけだな」

ダン・レイリー :
 ぼやきには軽く相槌で返す。それが絶対の数値なら、今頃オーヴァードはみな恐竜的進化を遂げるように意識していただろう。

「続報待ちということだ。
 彼らだって、噛みつきに行ったわけじゃない」

 今更分かり切っている要警戒の言葉も、手並み拝見と悠長に構える悠長な言葉も、今は出さない。どちらも、言うまでもないことだからだ。

灰院鐘 :「大丈夫かな……。ああいや、彼らの実力を疑ってるわけじゃないんだ。役割分担のわけもちゃんと教えてもらったし、その判断はただしい……んだと思う」

灰院鐘 :う~~~~んと一頻りうなって、ドローンを抱っこする。

灰院鐘 :「むずかしいね」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ナタリー・ガルシア :「……そう、ですわね」

少し、ぎくしゃくとした表情なのは、きっと昨夜のことを引きずっているからなのだろう。

ナタリー・ガルシア :「ですが。彼らも彼らの使命と、意志と、決意で以て望んでいるのでしょうから……心配するのは、失礼かもしれませんわ」

それは、どちらかと言えばナタリーが自分に向けた言葉であったかもしれなかったのは、少女のその案じる表情を見れば明らかだった。

灰院鐘 :
「……そうだね」

 ナタリーの言葉を強いて否定することもなく、青年は頷いた。二の句に迷う素振りのあと、

灰院鐘 :
「えっと……その」

 彼なりに気まずさは感じているのだろう。ナタリーと視線を合わせられずに俯いて、ドローンを抱く腕にぎゅっと力を込める。

灰院鐘 :
「昨日はよく眠れた?」

水無瀬 進 : ザリザリスピーカーから異音が混じり始める!
「こらこらこらこら」

ナタリー・ガルシア :「……………」

ダン・レイリー :「ショウ、ミナセの二代目が悲鳴をあげている」 ほどほどにしてやれ

ナタリー・ガルシア :「……そうですわ、この前壊れてしまったばかりですから、もう少し優しくしてあげてください」

そっと視線を逸して、一拍。ほんのりと笑みを浮かべて話題をそらす。

アトラ :「実際どんと構える以外ないもんなあ」 1代目ドローン、勇退だったし……

灰院鐘 :「ああっ、ごめんなさい」あわてて腕を弛める

ブルー・ディキンソン :「(哀れドローン……)」

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :「………とはいえ、だ」

灰院鐘 :進さんはお豆腐だけど、進さんドローンは高野豆腐なんだね……

灰院鐘 :「?」

ダン・レイリー :
「首尾よく最善で片付かない可能性は見ておこう。
 そのあたり、難しい判断を任せて貰ったと思う事にしておきなさい」

ダン・レイリー :
「(………そも第一印象の延長になるが、ヤツはそれだけで済むタイプじゃないしな)」

ダン・レイリー :
 コードトーカーに関する仔細は、その頭脳と技術に依るものが殆ど。

 決して戦闘的な強さではなかった。
 ………であるに絶対的な強い手札がないものは、如何に多くの手札を有効に使えるかを模索する。
 人間が何倍も大きなマンモスを狩ることが出来た理由だ。

ダン・レイリー :
 結論───。
 ・・・・・・・・・・・・・・
 強者は信じるが、弱者は考える。

 そしてノイマンは、是非はともかく、その“考える”のプロフェッショナルだ。

ダン・レイリー :
 ………早期に叩くことを優先出来なかったのは、 
 ただシンプルに“ラクシャーサ”の脅威が強かったからだが。
 ・・・・
 その結果がどういうマイナスを生むのかを、軽く考えつつも………。

ダン・レイリー :「………ナタリー」

ナタリー・ガルシア :「……はい?」

ダン・レイリー :
「すこし力が入っているな。
  紅さん
 きみの教官は、そういう時になんと教えてくれた?」

ナタリー・ガルシア :「……ありがとうございます。師匠の教えは実践しているつもりですわ」

静かに、深く、呼吸を一回。己の体の余分な緊張を自覚して、意識してその部分から力を抜いていく。

己を知り、意識してコントロールすること。心も、体も、己が望むとおりに――

ダン・レイリー :「これからもそのつもりがあるなら、馴らしていくしかないが」 

ダン・レイリー :「なに。此方の出来ることはしたし、これからする。大丈夫だ」

ダン・レイリー :
 悩みの根幹はそういうところにあるものじゃないのかも知れないが………。
 そこを推し量れるわけでもない。やっておくのは、此度の作戦で余計な禍根を背負わせないようにするくらいか。

アトラ :
「気楽に〜は言い過ぎだけど、まーまー皆も居るんだし。
 本気度って意味じゃある意味初陣みたいなウチらもいるし?」

 何が出てくるか分かったもんじゃない、というのも正しいから戦略面でウチに言及出来るものはほぼないし。キャプテンに同調するみたいに頷いておく。

灰院鐘 :
「そういえばそうだ。今までは分散してたから、こうして任務で集まるのは初めてになるのかな」

灰院鐘 :「がんばろうね」

灰院鐘 :「あ……でも僕たちががんばる事態にはならないほうがいいのか」うう~ん みしみし

ナタリー・ガルシア :「ああっ、ドローンが!」

水無瀬 進 :
『ウオオオオオオ』
ざりざりざりざり

アトラ :「確かに!」 あとに続いた言葉にも確かに、だ。

ブルー・ディキンソン :「一番良いのはそうなることですねェ〜。あっ」

ダン・レイリー :
「それならそれでいいさ。
 何事もないに越したわけじゃない」

アトラ :「ってああっ 危ない危ない」

灰院鐘 :アアーッ

ブルー・ディキンソン :ドローンに合掌。

ダン・レイリー :
「だがショウ ミナセの二代目が何事かありそうだ 一旦離してあげなさい」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「何をやってるんですか、もう……」

灰院鐘 :「うん……そうします」

ダン・レイリー :ヤツがまた徹夜になる前にな…

灰院鐘 :うろうろする手

水無瀬 進 :
『ふう……また肝心な時に故障するところだった……』

ナタリー・ガルシア :(タイヤでも渡しておくべきでしょうか?)

灰院鐘 :choice[ダンさん,勇魚くん,ナタリーくん,アトラくん,ブルーさん] (choice[ダンさん,勇魚くん,ナタリーくん,アトラくん,ブルーさん]) > アトラく

灰院鐘 :そっと託す

アトラ :ウチ!?

ダン・レイリー :よくよく“T³”と縁があるな、ミナセ…

ナタリー・ガルシア :パートナーですからね

アトラ :「まーこないだは実質相棒だったし……」 受け取る。

水無瀬 進 :
『託されても困るんだが……
 重くない? 別に降ろしてもらって構わないよ、自立歩行できるからね』

灰院鐘 :「そうなの? じゃあ」

灰院鐘 :「かわりばんこにしよっか」

ダン・レイリー :
ショウの
「若者ウケがいいな、ミナセのドローン…」

ナタリー・ガルシア :「……その、私はアトラさんの次でいいでしょうか?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 はあ、と大きなため息

ブルー・ディキンソン :「大変そ〜ねえ……」
 方々を見ながら。

水無瀬 進 :
『今度はもっとイカついデザインにしようかな……』

ダン・レイリー :「それは時と次第によって逆効果だな」

アトラ :
「まーまー、ミナセさんも遠慮せず。
 ショーさんもナタリーちゃんもじゃんじゃかパス回してくから!」

 こうしてると扱いがペットじゃない?いいのかな軍人にこの扱い。
 まあ良いかあ……怒らせなきゃ……。

灰院鐘 :やったあ~

ナタリー・ガルシア :がんばりますわ!

ダン・レイリー :ほどほどにな 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ゆるみ過ぎないようにお願いしますよ、幾ら後詰めとはいえ」

灰院鐘 :「……!」

灰院鐘 :大丈夫 勇魚くんにも回すからね……!

ナタリー・ガルシア :「私の次でよろしいでしょうか……?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :結構です。

ナタリー・ガルシア : 

灰院鐘 : 

アトラ :「うす!」 あれっ叱られてるワケじゃないの?二人の反応であってる?

ダン・レイリー :
 ………偏差把握を使う必要性も、この距離ではないだろう。
 何かしらの違和感に張れる/張るべきアンテナも多くはない。電子機器のプロフェッショナルはミナセの領分。

 あとはブルーの様子だが………此方も、特にいまは目立った反応を示さない。待機状態だ。

ダン・レイリー :
 ………さて。突入から丁度何分だ?
 それとなく合わせた時刻を確認したい。

SYSTEM :
 部隊の突入から、そろそろ15分経つ。
 連絡は未だに途絶えてはいない様子だ。

ナタリー・ガルシア :  ・・・・・
……これくらいでいいだろう、と、ナタリーも心のなかで小さく嘆息する。

ブルー・ディキンソン : 
 ……定時連絡に妨害電波が入ったのがいまだに引っかかっている。
 アタリがあるとすれば─────なのだが……、それを確かめる手段はない。
 現状は、今目の前の出来事に注目することしか選択肢がない。

 あいにく今は……子供の気分ではいられない。

SYSTEM :
 少なくとも現状、侵入自体は巧く行っているように見えた。その筈だった。
 
 どこか気が抜けたようなやりとりが続く中。
 事態は次の瞬間に大きく変化していた。

SYSTEM :
 突如としてワーディングエフェクトが発生。発生源はビルの内部。
 本来ワーディングは敵に対しても居場所を知らせる行為であり、そしてFHである限り、それを敢えて行使する理由はあまりない。
 そして何よりこの波長は、敵意によるものではない。ならば誰が発したものかなど、すぐに察しがいく。

SYSTEM :
 それに対してあなた達が反応を示し、行動に移るよりはるかに速く。


 次の瞬間には高層ビルの一角が……
 激しい爆轟と共に弾け飛んでいた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……! 皆さん、退避を!」

 ワーディングの意図をすかさず読みとった勇魚は咄嗟に周囲に呼び掛ける。
 あれは避難勧告だ。先の爆発が咄嗟に仕掛けたものではないことは、爆発の仕方から明らかだった。
 的確にビルが崩壊する最適な数のC4が狙い済ましたように連鎖して爆発している。初めからこのラボごと圧殺する気であることは誰から見ても明白だった。

灰院鐘 :
       ・・
「ダンさん──またよろしく!」

 連なる轟音。仰ぐ天には黒煙と爆炎が垂れ、瓦礫が降りかかってくる。

 状況に対して、青年の判断は直感的だった。

 ぐぐっと空を掻くように腕を引き、腰を落としたかと思えば、何か引力が働いたかのように瓦礫が他方へ衝突──人のいない方向へ吹き飛んでいく。

ダン・レイリー :
「………そのようだな!」

 ───先手を打たれた!

 その判断をいちはやくしたエージェント“炎神の士師”が下した退避の声と共に、恐らくは真逆の方向へ向かっていく“ラフメタル”を、しかし自分が止めることはない。

 真逆だが最善だ。

ナタリー・ガルシア :
「――細かな破片や、衝撃は私が!」

言葉よりも早く、ビルの周囲の待機が撓む。
散弾めいて撒き散らされるガラス片、降り注ぐ瓦礫、飛散する建材――それら全てを、外側から包み込む衝撃波が押し返す。

ダン・レイリー :
「やるぞショウ! 
 ナタリーも其方を頼む───!」

「“もしも”が来た、動ける者はヤツを探せ!
 ………この手口、もう此処にいるかも怪しいが!」

 そして瓦礫とて遠方ではあまりに不自然に映る。
 いま此処に野次馬の類が集まられたり、その被害で足を止めるわけにはいかない。その点、此方のエフェクトは多数の迎撃に向かずとも、その迎撃に向くものの行動を覆い隠すには持ってこいだ。

ダン・レイリー :
 そしてエフェクト展開と共に、巨大な瓦礫が二人のエフェクト範囲に逃れぬよう、また破壊と誘導のための行使を助力するべく、即刻展開したビットを通じて重力を偏向させる。
 それならば迎撃と後始末自体は問題ではないだろう。

 ………だが手間を取られようものなら、ヤツに悠々と雲隠れを赦してしまうということ───それだけは避けねば。

アトラ :
「ちょいちょいちょい……!」

 ワーディング、爆発。そこからの対処は彼ら『専門家』の方が早い。
 ……なら、と。水無瀬のドローンを解放しつつ、出来ることを探る。
 何せウチの能力の規模はこういう時に有効な程大きくない。一先ずは己の目とみんなの動きを信じることになる。

ブルー・ディキンソン :
 始まった。
 私は広範囲を攻撃することには不得手だ。
 自分の得物の"有効射程"を考えれば、こういう時は"見"の一手。
 最低限の動きができるように、そろそろ取っ払いたかったコスを脱ぎ捨てて外装を露出させる。

「探すか追うか、どっちにしろ手間になりそうすな……」

 口元を覆うマスクを装着し、マフラーを巻き直し……と少々手間だが。
 私の戦に向けての衣はこうでなくてはならない。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「いえ……それはない筈です。
 居所が掴めた段階で秘密裏に施設内の出入りに対する強化を強めていました。バロールによる転移を警戒して、重力偏移の形跡の確認についても……
 前もってこちらの奇襲が割れていたならば、命の次に大事な研究資料は可能な限り退避させていた筈」

 炎陣を敷いて飛来する夥しい量の瓦礫を蒸発させながら、勇魚は険しい表情でビルの方角へ意識を集中させる。

ナタリー・ガルシア :「つまり、これはあちらにとっても苦肉の策……ということでしょうか?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 こくり、と頷いて勇魚は粉塵の中、熱感知で敵の姿を探る。
 今回の奇襲は間違いなく相手の不意を打つものであったはずだ。
 であるならば……

「!!」

 その気配は、爆轟の中でさえ感じ取るのは容易かった。

SYSTEM :
 それは崩れ征くビルの騒音と粉塵に紛れて。
 鉄機の熱を帯びながら現れる。
 

ダン・レイリー :「………成程、確かに───」 アレのための布石か!

灰院鐘 :「わ──」

SYSTEM :
 マフラーから吐き出される排気量1700ccもの重厚な鉄の息吹と共に。
 くろがねの鉄機が爆轟の追い風を受けて、空を舞う。

アトラ :「…… ……えぇ……!?」

ブルー・ディキンソン :「…………うわッ」

SYSTEM :
 ズシン、と重々しい重量が、都合八台地表に降り立つ。
 上空30mもの高みから大地を蹂躙して着地するは、総重量300kgを優に上回るモンスター・マシン。

SYSTEM :
             ラム
 カウルに巨大な白兵戦用の衝角を備えたそれは、人間が掠めただけでも肉塊へと変じる肉切包丁のそれだ。
 時速にして400kmに迫る、FHの技術力の粋を込めたブレードバイクであった。

SYSTEM :
 粉塵の奥でヘッドライトの瞬きが、その影を映し出す。
 騎乗する黒いライダースーツとヘルメットの影。姿形からは判別しにくいが──そのうちの誰かがコードトーカーに相違ない。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「クソ、そう来たか……!」

 恐らくこの八台の内一つがコードトーカーなのだろう。或いはこの八台すべてがブラフなのか。
 これらを一斉に放つことで攪乱し、逃走を図るつもりか。

水無瀬 進 :
『してやられた、といいたいところだけど!
 どうあれこんなリスキーな手で逃げる以上、向こうも後がないんだろう! 元々敵地のど真ん中に拠点を構えてたんだ。備えがあったとはいえ、万全な準備が出来た訳じゃない筈だ!』

ダン・レイリー :
「ならばこれ以上、リスクを踏み倒させるわけにはいかんな」

 ブラフだとしても可能性がある以上、捨て置くわけにはいかない。
 ライフルを構え、逃走を図る直前のソレに銃口を向ける。思案の必要はあるが、思案できる時間はわずかだ。

ダン・レイリー :
「問題は………脚か。
 サーカス一つの為に派手なモノを用意してくれた。追うのは骨だぞ」

ナタリー・ガルシア :「……さ、流石に走ってだと、難しいですわよね?」

全力で走れば……いやいやいや、と悩ましげに考え込む。

灰院鐘 :「こ……ここからズドンと撃つ! とか……?」

アトラ :
「や、確かに撹乱にしちゃけっこーゴリ押しか!
 …… ……いや無茶無茶!全部ぶっ飛ばせるなら撃ちまくるのもアリかもだけど、ダッシュは───……」

ブルー・ディキンソン :「……ちょうど良さそうな鉄塊なら、"目の前"にあるんじゃない?
 ま、出来たらの話だけどサー」

SYSTEM :
 その時、鐘の備えた電子機器から通信が飛ぶ。
 相手は……SWATと共に突入した、以前行動を共にした刑事だった。

灰院鐘 :「! よかっ……あっ、わっ」慌てて取り落としそうになりながら応答する!

やり手の刑事 :
        くそったれ
『げほっげほっ……Bullshit!
 おい聞こえるか本部の!』

灰院鐘 :「う、うん! 刑事さん、そっちの状況は──」

やり手の刑事 :
『こっちは無事だ、何とかな! だがコードトーカーの女狐め、ヨーゼフの奴を囮に肝心の奴だけ巧く逃げやがった!』

やり手の刑事 :
『こっちは自力で何とかする!
 おまえらはコードトーカーの追跡に当たってくれ!』

灰院鐘 :「……! わかった、がんばる!」

灰院鐘 :「……がん……」

灰院鐘 :「……ばるけど、今さっきバイクで逃げられてしまって その 足もなく……」

灰院鐘 :「どうしよう」

やり手の刑事 :
『アシならLADPのモノを使え!
 瓦礫でぶっ飛んで今何が残ってるかわからんが、それなりのモノが残ってる筈だ!
 どのみち相手はFHだ、適当にぶつけちまっても構わねえ、おまえのイカれたドラテク見せてやれ!』

灰院鐘 :「いかれ!?!?!?!?」でっかい声

ダン・レイリー :「(…何事だ今の反応は???)」

アトラ :(今めちゃくちゃ不穏なワード聞こえてこなかった?)

やり手の刑事 :
          Go Ahead
『以上、オーバー! さあ行け!』

 言うべきことを告げると、すかさずぶつん、と通信が切れる。

灰院鐘 :「のぁ……!」

灰院鐘 :
 ……無事は確認した。不安がないとは言わないが、託す局面だ。端末をしまいながら、鐘は全員に振り返った。

灰院鐘 :
「ともだちの刑事さんから! 突入メンバーは無事だそうだ。このまま囮にされたヨーゼフの確保に向かうから、僕たちには"コードトーカー"を追えって」

灰院鐘 :
「アシの問題も解決だ。ロス市警の車両を使わせてもらおう! 壊してもいいそうだ!」

 やりやすくていいね!

ダン・レイリー :
「了解した。この分ならばアレらの何れかが本当に“ヤツ”のようだ。
 お言葉に甘えて使い倒させて貰おう。首尾よく行った後、よろしく言っておいてくれるかい?」

 あのタイプ相手に無傷で済むとは思わん。
 費用が何処持ちになるかは分からんが………そちらの覚悟はしておかねばな。

灰院鐘 :「まかせて!」

アトラ :
 その話の流れで“いかれ”なんてワード出ることあるんだ。
 とか、思ったけど口に出さない方がいい気がする。

ブルー・ディキンソン :
「オーケー。
 多少は私も動かせるから、それで追い詰めていこう。
 その方がフレキシブルに行動を選択できる」

SYSTEM :
【 CAUTION! 】

 判定が発生しました。
 調達判定を行い、任意のヴィークルを獲得してください。

SYSTEM :【使用できるヴィークル】
 自転車:無理
 常用馬:あるわけねえだろ
 パーソナルモビリティ:10
 バイク:12
 大型バイク:25
 乗用車:22
 貨物自動車:30
 高級車:35
 スポーツカー:30
 SVD:38
 軍用4WD:38
 ヘリ:35
 軽飛行機:40

GM :やや不親切な仕様で申し訳ないが……

GM :パーソナルモビリティは同乗不可
二輪系は1人まで同乗可能
その他は2人まで同乗可能
そして飛行状態になるヴィークルを使用した場合はボーナスが得られることもある

GM :それらが結構要素として重要なため
やりたいRPを兼ねて選んでほしい

GM :また……これも明記しておく

GM :それぞれ1度ずつ判定が行えるが
1度ずつ行ってヴィークルに乗って判定に移行できなかった場合はペナルティが発生する

GM :まあ今は五人いるから早々そんなことはありえないだろうが……

ダン・レイリー :自身が調達できずヴィークルに搭乗できなかった場合、他の者が調達したヴィークルに同乗することは可能か?

GM :勿論問題ありません というより

GM :同乗した方が有利です

ダン・レイリー :では『調達に成功した』が、他の者に同乗することも?

GM :勿論構いません 買うだけ買って使わなくてもいいのです

GM :その辺りは『自力で手に入れたものに乗らなければならない』と指定されるわけではありません

ダン・レイリー :
Aye,sir
.了解。僕には不安の残る判定だからな。もしもを考慮しておかねば。

GM :さて では誰から振っていきますかな
基本的に頭数を揃えなくちゃいけないということはありませんので気楽に振って問題ないとは思います

GM :鐘さんもおるし

灰院鐘 :がんばるよ!

ダン・レイリー :では此方から振る。首尾よく見つかるといいが

ダン・レイリー :調達対象はバイクだ。判定12だな?

GM :うむり

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :よし…やらせてもらおう

ダン・レイリー :2dx+2 調達 (2DX10+2) > 9[4,9]+2 > 1

灰院鐘 :バイク探すよ~

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

灰院鐘 :3dx+7 (3DX10+7) > 8[4,5,8]+7 > 1

灰院鐘 :バイクあったよ~(担いで持ってくる)

SYSTEM :【判定に成功しました】

ナタリー・ガルシア :それでは、私もバイクを探しますわ……こうみえて、マリカはバイク派ですの

ダン・レイリー :此方はアテを外したところだ。恃むぞ

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :3DX (3DX10) > 10[5,5,10]+7[7] > 1

ナタリー・ガルシア :フッ……

SYSTEM :【判定に成功しました】

灰院鐘 :おめでとう! 荷物持ちは任せて

灰院鐘 :よいしょ

ナタリー・ガルシア :肩にでっかいバイクが乗ってますわ~~~~!!!!!!!!

ダン・レイリー :そこまで鍛えたからには眠れない夜もあっただろう

ダン・レイリー :…ではないが これで足は最低限揃ったか?

GM :後は二人! これで四人まで投入可能になった訳ですが

GM :残る二人は何を狙いますかな ある程度動けるようになったし自動車もアリですわよ

アトラ :ま~~~~普通にバイクが安牌な気もするけども~~~

ブルー・ディキンソン :だねえ。

ブルー・ディキンソン :まあ、あたしはそこまで高くないし……バイクかな……

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(1+1)dx+1 <社会:調達> (2DX10+1) > 9[6,9]+1 > 1

アトラ :ほんじゃウチもバイクで!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

アトラ :5dx+2 調達で判定! (5DX10+2) > 9[4,6,7,9,9]+2 > 1

アトラ :あれぇ???????

ダン・レイリー :先手を打たれて手酷くやられていたらしいな

GM :妖怪……1足りない!

アトラ :だ……ダイス五個もあんのに!?

ダン・レイリー :気を落とすな 其方のミスじゃない

ナタリー・ガルシア :そういうこともありますわ……

ダン・レイリー :
イチタリナイ
時の運だ

GM :C値の壁は大きい…

アトラ :そんな……

ナタリー・ガルシア :どういたしましょうか……一人、ここで管制指揮を取っていただくことになりそうですわね

ナタリー・ガルシア :もしくは遅れて出発でしょうか

GM :遅れて出発も可能ではある

GM :が、その場合まずはどういう判定なのかを見てからにしても遅くはないでしょうな

ダン・レイリー :ああ。手持ちの機は二台。仔細を判断のち、編成を決定しよう

GM :という訳で一巡結果、バイクに大を調達に成功だ!

SYSTEM :
 一同がすかさず倒壊する街を瞬時に確認すると、都合二台の二輪を見つけることに成功した。
 幸いにもエンジンもまだ生きている。

SYSTEM :
 考えている猶予はない。こうしている間にも敵はすさまじい速度でこの場から退いている。

SYSTEM :
 一同はバイクに乗り込み、夜のロサンゼルスの摩天楼を舞台に追跡戦を開始する──

SYSTEM :
【ボス戦『NIGHT CHASER』を開始します。
 コードトーカー戦はFS判定と戦闘によって行われます】

SYSTEM :
【FS判定シート】
内容:逃走するコードトーカーを追跡せよ
終了条件:コードトーカーが進行値20に辿り着く or コードトーカーが戦闘不能となる
完了値:20
難易度:8
判定:<運転:>、<知識:機械工学>
支援判定:【社会】
最大達成値:30
経験点:2

SYSTEM :
内容:
 コードトーカーは突然の強襲に際して、どこかに撤退しようとしているようだ。此処で取り逃がすとウイルスの駆除は絶望的になる。
 夜のロサンゼルス市街を乗り物で駆け、追い詰めろ!

SYSTEM :
 ハウスルール:今回のFS判定は、完了値に到達することが目的ではない。
 進行値を車間距離として、完了値に向けて進むエネミーが到達するより先に敵を討伐することが目的である。
 各ユニットはヴィークルに騎乗、同乗状態となり、それ以降は一車両を1ユニットとして判定を行えるようになります
 

SYSTEM :
 戦闘処理において、エンゲージは以下のように扱う。
 ・マス1つにつき50mの距離があると見做す
 ・マイナーアクションによる戦闘移動を行う場合、ヴィークルに乗っている場合1マス前後に移動できる。
 ・コードトーカーとのマスが1つ空くにつれて、コードトーカーへの攻撃を行う際マス目1つにつき「ダイス-5」「C値+1」のデバフが発生する
  例)進行値の差が0の場合:無修正で攻撃可能
    進行値の差が1の場合:ダイス-5,C値+1
    進行値の差が2の場合:ダイス-10,C値+2

SYSTEM :
【ユニット編成を決めてください】

GM :さて、そういうわけで編成を宣言してほしい!

ダン・レイリー :
Aye,sir
了解。では纏まった通りに行こう。

灰院鐘 :こぴー!

ダン・レイリー :よろしい。一台は僕が操縦させてもらいたい。タクシーと呼ぶには荒っぽくなるが、これくらい出来ねば軍人は務まらんさ。

ナタリー・ガルシア :では、タンデムと行きましょう!準備はよろしくて?

灰院鐘 :じゃあもう一台は僕が任されよう! 刑事さんとも約束したしね!

ダン・レイリー :ああ。それで…ナタリーのことを頼む、ショウ。その友人の期待に応えてやれるか?

灰院鐘 :がんばるよ! ナタリーくん、後ろにどうぞ!

アトラ :レッツゴーゴー!応援担当は任せて!

ブルー・ディキンソン :よろしくキャプテン。ちったあ報酬金分働かないとネ。

ナタリー・ガルシア :お父様より大きな背中ですわ

ダン・レイリー :(スクールの大会か、“T³”…?)

ダン・レイリー :ああ。送迎は任されたよ。“雷霆精”。代わりに一発かまして貰おう

GM :
UNIT A:ダンさん ブルーさん
UNIT B:鐘さん お嬢
待機:アトラちゃん
と……つまりそういうことか!

ダン・レイリー :ン、そうなるはずだな。纏めて貰って助かるよ。

灰院鐘 :UGNの……びー!

GM :オーケイだ!では……

GM :乗り込んで追跡を開始するRPからどうぞ、だ!

ダン・レイリー :
「有ったのは二台か。
 欲を言えばあと一台だが、これだけあれば十分だろう………」

 四の五のどうこうは言っていられない。
 作戦は一刻を争う段階だ。

 このタイプなら操縦経験もある。LA市警の備品を拝借する経験は流石にないが、癖の強い機種でもないのが幸いだった。
 ………ディアスと合流し先行することも考えたが、追跡と抵抗を考えるなら………。
          ドライバー ガンナー
「少し行儀は悪いが、操縦士と射手で1チームと行く。
 ───“雷霆精”、やれるか?」

ブルー・ディキンソン :
「やれますよ、"ホワイト・スカイ"」

 この場において、実際の荒事に対応する彼女を見るのは初めての者が多いだろう。
 ダン・レイリーの要請に応えたスプライトの眼は非常に冷え切っていた。
 戦うべき敵を見定め、自分の持つ手とリンクさせた得物に意識を集中させている。
 
 これまでの彼女とも、あの場で二人で話した時とも違う、本当の意味で剥き出しの兵士としての彼女の顔が、姿を見せる。

灰院鐘 :
「うーん」

 シートに跨り、操縦桿に手をかける。いま握っているものがクラッチレバーという名前ということさえ知らないまま、青年は一通り感触を確かめて、

灰院鐘 :
「よし!」

 なんとなく分かった、と頷いた。

 理解する必要はない。そも水無瀬謹製の端末からして、仕組みを知らないまま使っている。そして、使えさえするのなら目的は果たせる。

ダン・レイリー :

 戦うという行動のために、儀式的なルーチンワークを挟むものは少なくない。
 日常からかけ離れた“それ”を受け入れるための、それと平時の自分を切り離すための───『人が変わってしまった』を肯定するための装い、口調。総じてスイッチのオンオフだ。

「(とどのつまり、ソレは“雷霆精”なりのスイッチなのだろうな)」

 ………おどけた口調というフィルターで守り、戦火と無縁の地に自分を溶け込ませるに当たって不要なのだろう、反骨心と暴力性の発露。
 そこをさして隠す気のない佇まいには、剥き出しの刃を思わせるものがあった。

ダン・レイリー :
「了解した。では送迎は一時とはいえ僕が責を負う。
 借りの踏み倒しで良い気になったヤツに痛い目を見せてやろう、“雷霆精”」

灰院鐘 :
「勇魚くん──いや、こういうときは"炎神の土師"かな」

「運転だけなら何とかなりそうだ。きみは?」

ブルー・ディキンソン :

「ドラテク期待してますよ。
 私、バイクには少し煩いので」

 空気を読まぬ冗談は彼女なりの激励だ。
 スイッチを切り替えたところで、隠せぬ本性というものはある。

ダン・レイリー :「善処するよ。後でド素人と罵られないためにな」 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私はパーソナルモビリティを遣います。回廊を遣えば、手を開けることが出来ますから」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……では、行きましょう。
 先日の話は、忘れていませんね」

灰院鐘 :
「もちろん! 全力できみに挑もう。お互いがんばろうね」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──はい。
 では、ご武運を」

言いつつ、勇魚は駆け出して、発見した小型の自動二輪に跨る。
外付けのターボエンジンとして紅蓮の業火を纏い、激発の瞬間を待ち続ける

ダン・レイリー :
「それから………“T³”は後方からのオペレートを恃む。
 ミナセをこき使ってやってくれ」

ダン・レイリー :
 勝手の違う土地だろうが、その勝手の違う土地に馴れて来たのが“T³”だ。そこを疑う余地はない。
 
 ………いざという時“ヤツ”と呼吸を合わせられるのも彼女だ。
 この盤面で表沙汰にさせるのはお互い利益がないが、最悪ではないだろう。

水無瀬 進 :
 Aye, sir
「 了 解 だ! 状況把握なら心配ご無用、こっちでモニターして映して見せよう!」

アトラ :
「……うす!
 もっかいタッグっすねミナセさん!今度はドローン無くさないようにお願いします!」

 ……まあ前回はそれで助かった面もあるから、寧ろ感謝すべきか。
 ともあれ、モニターまであるなら何とかなる。サムズアップをしておこる。

ダン・レイリー :
「張り切ってくれて何よりだ。
 追跡では命綱になる、信頼しているぞ」 

アトラ :「うす……!」 ……どっかで見てる人もいるだろうし。応えられれば良い。

水無瀬 進 :
『任せてくれ、このために夜なべして改良したんだから!』

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《──ああ、そうそう!》

 その時、声が語りかける。
 レイラ・イスマーイール……その本体が何処にいるかは不明だが、恐らく融合能力と絲化能力を駆使して既に誰かの傍に伴っているのだろう。
 絲を通じて震動が伝わり、その声はアトラへと通じる。無論、外の水無瀬には通じていない 

アトラ :

アトラ :「  」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《あっはははは、びっくりした? 
 あたしはどっからでも出てこれるからね。支援が欲しかったら何時でも言ってくれる?
 指示はアトラに任せるよ、現状把握してるんでしょ》

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《あのクソ女狐も年貢の納め時ってね。どんな登場してビビらせたげよっかなー
 その辺良い感じの采配頼んだ!》

アトラ :
「うわ~、性格悪~」

 ……けど、まあ、うん。
 そりゃウチも見てみたい!いやコードトーカーのことそこまで詳しくないけども!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《よし、じゃーこっちも初陣だ。
 張り切っていくよ! ……こそこそとしてないとロクに動けないのは結構しんどいけど!》

アトラ :「ん!」 頷く。

ナタリー・ガルシア :
この間から、鐘との関係がどこかギクシャクしていることをナタリーは自覚していた。
互いに、というのには少し語弊がある――ただ、ナタリーが一方的に苦手意識を抱いている。
一言に押し込めることが出来ないような、嫉妬や羨望、ナタリー自身が理解しきれていない己の感情の諸々。それを消化しきれず、かといって向き合うことも出来ず――相手に悪意がないだけに、今の今までその問題の解決を先延ばしにしてきた。

向き合わなければならないと、そう思いながら、ついには今だ。

ナタリー・ガルシア :
「…………」

ナタリーは己が未熟なことを理解している。
その上で、その上で、確信にも似た直感から、思わずつぶやく。

ナタリー・ガルシア :
「本当に「よし」ですの……?」

ナタリー・ガルシア :
どう見てもよく分かっていないのに、なぜか自信満々の灰院鐘の姿。
なんとなく、拍子抜けしたような――自分が、考え過ぎてドツボにはまっていたような。
頭で考えるよりは、もっと年相応に、感情的に――

ナタリー・ガルシア :
「そこはクラッチですわ!本当に大丈夫ですの!?」

心配が二つ、注意が六つ、残り二つは照れ隠しの八つ当たり。
クラッチ、アクセル、リヤブレーキとブレーキ、その他運転に必要なものをまくし立てるように説明する。

ナタリー・ガルシア :「わかりましたか!?」

灰院鐘 :「くらっち……あくせる……」真剣な顔で部位を復唱する、が……

灰院鐘 :「……あんまり!」

灰院鐘 :
「たぶん動かせはするけど、それ以外のことは難しそうだ。……ナタリーくんが助けてくれるとうれしい」

ナタリー・ガルシア :「~~~~~~ッ!」

ナタリー・ガルシア :「……はぁ、もう!本当に仕方がありませんわね!」

ナタリー・ガルシア :「淑女のエスコートです、安全運転で……それでいて、迅速なドライブで頼みますわ」

灰院鐘 :「やったあ」

灰院鐘 :
「安全には自信があるよ。迅速もなんとかしてみよう」

灰院鐘 :
「でも、エスコートはこれが初めてだ。うまくいったらお祝いにハグをしよう!」

ナタリー・ガルシア :「だろう運転は危険ですわよ!?かもしれない運転でお願いしますわ!」

文句のような注意を投げつけながら、さっさと座席の後ろに飛び乗るように跨る。

「ですが――そうですわね、及第点であればお祝いくらいは良いでしょう」

ダン・レイリー :
「………」

 一瞬だけ隣で聞こえて来たぼやき(9割ほどはクラッチとアクセルに覚えのないショウの反応)に、考え直せ今なら間に合うと囁く理性。
 しかしこれを検討する時間はない。この局面でかけられる保険などあってないようなものだからだ。

水無瀬 進 :
『いやいやいや、大丈夫なのか向こう……』

ブルー・ディキンソン :
 一抹の不安がないわけでもないが……、
 人材というのは貴重なものだ、やれるのならば、やらせた方がいい。
 型に嵌めるのは此方がやれれば良いことかもしれないのだから。

アトラ :
「まーまー、イケるイケる」

 いや本当かなあ。

ダン・レイリー :「“ラフメタル”はやる男だ。(不安要素の為に)リハーサルする時間もないしな」

ブルー・ディキンソン :「……ま、ぶっつけ本番なんてどこの世界にもありましょーや……ナントカナルッテ」
 うん!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「いざとなったらこちらが"回廊"でアシストします」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「それに、任せたとしても流石に逆走したりビルに突っ込むようなことはないでしょう」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ないでしょう」

ダン・レイリー :
「恃む。僕の方でも目を光らせるが………。
 自信の分は応えて貰うぞ、“ラフメタル”」

灰院鐘 :
「どうせなら"コードトーカー"に追いつこう運転でいこう! 及第点目指してがんばるぞお!」

 一方、よく分かってない笑顔で頷いて、元気よく拳を掲げる。

ナタリー・ガルシア :私がしっかりせねば、と決意を固める

灰院鐘 :えいえいお~ 片手でハンドルを握りこんで発進! 勢いよく持ち上がる前輪!

ダン・レイリー :やったかもしれん。

アトラ :大丈夫かなあ

ナタリー・ガルシア :「きゃああっ、出発するときは!!もっとゆっくりクラッチを!!!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
…………………………不安です

ダン・レイリー :
 とはいえ実績は耳にしている限り、ショウが検挙にそのドライビングで貢献したという情報は聞き及んでいるところ。それが真っ赤な虚偽でもないはずだ。
 言うべきは………。

ダン・レイリー :
「ナタリーをよろしく。“ラフメタル”。
 そしてナタリーは“ラフメタル”をよろしく、だ。お互いを振り落としてやるなよ」

灰院鐘 :「!」

灰院鐘 :

灰院鐘 :「は~~~~~い!」振り返ってぶんぶん手を振る!

ナタリー・ガルシア :「前!前を向いてくださいまし!!!」

ナタリー・ガルシア :「こ、こっちは任せてください!!事故にだけは気をつけますわ――大尉も、どうかご武運を!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「お願いします! 私からもアシストしますから!」

ブルー・ディキンソン :
 目を逸らした。

ダン・レイリー :
「ああ、其方も武運を」

 祈るべきは他にもあるだろうが、笑えない事態を起こすことだけはショウもしないヤツだ。
 殊更、人の命がかかる時は。

「………そろそろ“コードトーカー”にしてやられる時間もしまいだな」 

ダン・レイリー :
   ..で
「───出撃るぞ。土壇場の閃きもノイマン・シンドロームの領分だ。 
    フォックスハント
 ただの“狐狩り”と驕るなよ!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 コピー
「了解!」

 此方も遅れまいと発進する。
 車輪の轍に炎のレールを敷きながら、燃える追跡者となって二輪が疾走を始める。

ブルー・ディキンソン :
yes sir 、、 ロック・オフ
「了解───"認証解除"。
 デュエルブレード"R"、オプティマイゼーション」

 接続スタート、電子錠を解除すると共に妖精が一振りの雷光を手にする。
 雷鳴を呼び寄せるが如く、蒼光に満ちた剣が獲物を喰らうべく雄叫びをあげる。
 タンデムシートに脚部を引っ掛け半固定化し──移動砲台めいてブルーは臨戦態勢に入った。

 唸るはカテゴリー"決闘者の剣"。
 屋号は"雷切"。
 二度その剣が、疾風の中で封を解かれる。

SYSTEM :
《ROUND 1》

SYSTEM :
-SETUP PROCESS-

SYSTEM :

SYSTEM :1d100 ハプニングチャート (1D100) > 8

SYSTEM :
【道が開けた!
 このラウンド中の判定にダイス+3,達成値+1D10】

SYSTEM :1D10 ボーナス達成値 (1D10) >

ダン・レイリー :幸先がいいな…! 後はヤツの間合いに逃げ込まれる前にどれだけ詰め切れるか…

ダン・レイリー :
[Set up]
◇R因子戦闘管制
・《赤方偏移世界Lv5》

ダン・レイリー :機は逃がさん。コイツを使い、機体の加速をかけようと思う。行動値以外の恩恵は貰えそうか?

GM :そうですね FS判定時の達成値に+2してもいいとしましょう

GM :なお、この達成値加算は1ユニット単位(乗ってる人全体)に掛かり、それ以外の行動値上昇効果は従来通り対象キャラ一人のみとします

ダン・レイリー :ありがたい。大盤振る舞いだな。

ダン・レイリー :…よし。行動値上昇は自分に使う。運転とコレの併せ技に馴れているのは僕だ、チームとしてはまず此方に使うのが安全だろうな。

ダン・レイリー :状況によってはショウとナタリーに使うつもりでいるが…とりあえずはソレで進めたい。

SYSTEM :
【宣言を確認しました。
 特殊処理により、判定に固定値+2加算します】

system :[ “ホワイト・スカイ” ] 侵蝕率 : 75 → 77

"コードトーカー" :
セットアッププロセス:
行動なし

灰院鐘 :こちらもなしだ! がんばって追いつくぞ!

アトラ :特に無し!頑張れ頑張れ~

ブルー・ディキンソン :無いよ。

ナタリー・ガルシア :ちなみに、私もありませんわ

SYSTEM :-SETUP PROCESS-
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Dan

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Dan

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ダン・レイリー :よし…やらせてもらうか。

ダン・レイリー :
[Main]
進行判定
〈知識〉:機械工学(7dx+6)

ダン・レイリー :折角の恩恵だ、活用させて貰う…! 進行だ、ヤツとの間合いを詰めるぞ! 

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :7dx+6 進行判定 (7DX10+6) > 10[1,6,7,8,9,9,10]+7[7]+6 > 2

SYSTEM :【判定成功!
 進行度を+3進めます】

判定値:0⇒3

ダン・レイリー :あのモンスターマシンが間合いにいるうちに、フルスロットルで肉薄する───舌を噛んでくれるなよ“雷霆精”…!

ブルー・ディキンソン :噛む舌がそもそもないかも。頑張るよ。

ダン・レイリー :笑うに笑えんジョークをどうも!

"コードトーカー" :あらせっかちな子。けど、御生憎様ね。
今あなた達に用はないの。このまま逃げさせてもらうわ

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=コードトーカー

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=コードトーカー

"コードトーカー" :メジャーアクション:
  アクセラレイター
【 緊急加速 】
《コンセントレイト:ノイマン LV2》+《スキルフォーカス:知識:機械工学》LV4》


DICE:10dx8+10

"コードトーカー" :10dx8+10 緊急加速《アクセラレイター》 (10DX8+10) > 10[1,3,4,4,6,8,10,10,10,10]+10[1,5,6,6,10]+4[4]+10 > 3

SYSTEM :
【判定成功!
 進行度を+4進めます】

判定値:2⇒6

"コードトーカー" :これで、振り出しね。さて、もう終わりなのかしら?

ダン・レイリー :加速機構か…! 大概な魔改造をしてくれる!

"コードトーカー" :マシンスペックの違いを知りなさい!

ダン・レイリー :マシンがよくても! その台詞、すぐに返させて貰うことになる!

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=コードトーカー
  Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Atora

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Atora

SYSTEM :【行動を宣言してください】

アトラ :支援……のタイミングを逃したので、一旦待機で……

GM :

SYSTEM :【宣言を確認しました】

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Atora
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Blue

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Blue

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ブルー・ディキンソン :さて、まだまだ遠いね……じゃ、運転運転。
あ……判定はキャプテンと同じ<知識:機械工学>ね。

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(4+1+3)dx+5 <精神/知識:機械工学> (8DX10+5) > 10[2,4,4,4,6,7,8,10]+4[4]+5 > 1

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :ボーナスまでの固定値は後1つ。私の支援は必要ですか、ブルー

ブルー・ディキンソン :そうだな……いや、大丈夫。もう見える範囲だ。

ブルー・ディキンソン :見えれば斬れる。手並みはもっと必要なポイントで見せてもらうことにするよ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :了解です。

SYSTEM :
【判定成功!
 進行度を+2進めます】

判定値:3⇒5

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Blue
  Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Natalie

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Natalie

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ナタリー・ガルシア :それでは、私は運転で判定させていただきます。
その際に、《援護の風LV7》+《ウインドブレスLV5》を使いたいですわ

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ナタリー・ガルシア :14DX+15 (14DX10+15) > 9[1,2,2,3,3,4,5,5,6,7,8,8,8,9]+15 > 2

ナタリー・ガルシア :届きませんでした……

SYSTEM :
【判定成功!
 進行度を+3進めます】

判定値:0⇒3

system :[ ナタリー・ガルシア ] 侵蝕率 : 77 → 81

SYSTEM :
-MAIN PROCESS-
PLAYER=Natalie
 Complete!

SYSTEM :
-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Syou

アトラ :此処だーッ!ショーさんに支援を飛ばしたい!

灰院鐘 :

ナタリー・ガルシア :

GM :!

灰院鐘 :アトラくーーーーーーん!(遥か彼方から手を振る)

アトラ :ウワーーーーー声でっか!

水無瀬 進 :オーケイだ!裏方は裏方の仕事と洒落込もうか!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

アトラ :5dx 支援:社会 (5DX10) > 10[1,1,5,7,10]+10[10]+9[9] > 2

アトラ :えぇーーーーーーーー!!?

SYSTEM :【判定に成功しました
 判定に固定値を+3加算します】

水無瀬 進 :張り切りすぎ!けど大成功だ!でかした!

アトラ :おっ うっ うす!!!

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Syou

SYSTEM :【行動を宣言してください】

灰院鐘 :運転で判定だ! いくよ~

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

灰院鐘 :11dx+6 (11DX10+6) > 9[2,4,5,6,6,6,7,8,8,8,9]+6 > 1

灰院鐘 :う~ん!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :いえ、どうあれ射程付近には近づけました。問題は相手の出方ですね

灰院鐘 :うん、気をつける!

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Syou
 Complete!

SYSTEM :-CLEANUP PROCESS-

"コードトーカー" :
クリンナッププロセス:
行動なし

ダン・レイリー :
[Clean up]
◇宣言なし

灰院鐘 :こちらもなし、だ!

ブルー・ディキンソン :無いよ。

アトラ :同じく同じく~

ナタリー・ガルシア :同じくありませんわ~

SYSTEM :
-CLEANUP PROCESS-
 Complete!

ダン・レイリー :
 最高速度で夜の街を駆けるモンスターマシンを追う。
 スロットルを握る右手と、ギアペダルを踏み鳴らす左脚。今ばかりは法定速度に目を背け、スリップの危険と付き合いながら風を切る。 

ダン・レイリー :
 ………ノイマン・シンドロームの真髄は何も頭脳だけではない。
 スパコンめいた自己の最適化。
 .        ドライビング・テクニック
 それはこうした細部の操縦技術に至るまでをアップデートしてみせる。

 そしてそいつが操るのは、そいつでなければ手繰れない最高速度を誇るモンスターマシンだ。控えめに言って、用意された脚が違う。
 他のダミー連中も負けず劣らずの乗りこなしであることを思えば、その辺りの操縦性もカバーした品かもしれないが。

ダン・レイリー :
 ロス市警の機体がオンボロだとは口が裂けても言うまいが、少々力不足は明白。

 ………で、あればだ。

ダン・レイリー :
「先程はああ言ったが………。
 レース
 競争ではないんだ。一つ小細工させてもらうぞ」

ダン・レイリー :
 であれば、それを補う必要がある。
.              タクシー
 タンデムシートに乗る本命の送迎役としては少々手荒くなること請け合いだが、
     マシンスペック
 こいつは速度性能の競争などではない………。 

ダン・レイリー :
.Overed
「超人には超人の───ライディングというのがある………!」

ダン・レイリー :
 マシンの制御に小技を使う。
 ガンビットによるレネゲイドの低出力放射によって形成された重力フィールドは、
 以前ナタリーと共に交戦した戦闘でも用いた時空間制御───その規模拡大版。

 シンプルな心身の行動スピードの加速と、この行動が齎す結果の再配置が個人に対するものだが、
    ユニット 
 これを部隊単位に拡張するため、自らで管制塔と操縦士を兼任する。

ダン・レイリー :
 戦闘中のピーキーかつ細やかなレネゲイドの動きに対応するものではないが、
 これがただのスピードを求めるだけのものなら話は別だ。

 ギアチェンジと共に加速。
 機体を先に送り、そして先に送り込んだ機体の曲がりや走破に伴うズレに身体を前以て合わせる。
          ロデオ
 バロールならではの暴れ馬めいた高速機動───ありていに言ってしまえば、機体のスペック以外のところで速度に帳尻を合わせるイカサマである。

ダン・レイリー :
 そしてその加速に合わせる身体は、
 少なからずこの手のヴィークルに心得のある自分の技術であり、加速の感覚はブルーにも伝わる。
 シンプルだが、ヤツらとあのモンスターマシンに追い込みをかけるには十分。

ダン・レイリー :
「───“コードトーカー”!
 土足で庭に上がり込んだツケを払ってもらう…!」

SYSTEM :
 魔改造されたモンスターマシンと白バイクでは、基礎的なマシンスペックで到底及ぶべくもない。これは争いですらない無駄な足掻きと、失笑するのは彼らの住む世界を知らぬものだけだ。
 乗り手の能力次第では、マシンスペック以上のヴェロシティで疾走することさえある。ことに、既存物の扱いに長けたダン・レイリーであるならば猶の事。

SYSTEM :
 ことに今は直線√。小手先の運転技術など幾らでもごまかしがきいた。
 ガンビットからもたらされる重力フィールドが時空を歪め、心身の行動スピードを加速。
 距離と時間に関わり速度を増した白い機影が、赤い軌跡だけを残して敵機へと追いすがる。
 

"コードトーカー" :
「ちっ……もう追いかけてきたとは。
 因子管制機構、試作品とはいえデータ通りの精度のようね」

 超高速の世界の中、黒いヘルメットの中から女の声がする。鈴を鳴らすような声は、しかし平素の余裕を欠いていた。
 最早コードトーカーは居所を隠しはしなかった。

"コードトーカー" :
「全く……腹立たしい。さっきから何度も何度も、こちらの手を見え透いたように先回りして。
 おかげでこちらの計画も台無しよ」

ダン・レイリー :「(…”さっきから”何度も? イヤ──)」

ダン・レイリー :「そのおかげで追い詰められてくれたと見えるな…! 自らガイドしてくれるとは、手間が省ける!」

"コードトーカー" :
「は! お生憎様!
 確かにあなた達は強い。或いは世界を変えうるような力を持っているのでしょう。けどね……」

"コードトーカー" :
「忘れているようね──私が天才であるということを!」

 言いつつ、モンスターマシンに備え付けられたニトロブーストを起動。時速にして400kmに達しながら、瞬間速度はさらに加速する。
 直線コースの恩恵を受けられるのは何も自分たちだけでないと見せつけるように、追い抜き返し、詰められた分の距離を一気に離す。

"コードトーカー" :
 条理を捻じ曲げることを常とするオーヴァードであるが、ノイマンという才能のみを武器とする彼女は物理現象を最大限まで利用するに長けている。
 そう。自らが最強である必要などない。
 その分野で最強である何かを作り出し、その恩恵に与ればよい。

"コードトーカー" :
「必死になって追いかけてきてくれるようだけれど、残念ね……!
 まだまだ計画の立て直しには十分余裕がある、あなた達を撒いて、元の研究に没頭させてもらうわ!」

ダン・レイリー :
「───チィ、加速機能か…!
.デザイン
 設計の暴力を見せつけてくれる!」

ダン・レイリー :
 そしてその肉薄の要素を埋めるものを相手が持っているならば、結果は自ずとこうなってしまう。
 稼働しているメインエンジンとは異なるニトロブースターは、コーナリングのような精密動作を必要としない直線コースならではの加速機能。
      チェイス
 超人同士の追走を最初から想定していたかのような、まさに殺人的な加速であった。

ダン・レイリー :
 当然そんなものを積載したバイクが無事で済むはずがない。
 フレーム
 基礎設計に問題があれば、加速と共にマシンは解体にあったかのような憂き目に遭うはずだ。
 
 が………何の変哲もなく加速して見せた辺り、そこも織り込み済みだろう。
 さすがと言いたいところだが───。

「どうかな…! 
 自慢の頭脳が導き出した計画とやらが、取らぬ狸の皮算用とならないよう、貴様自身に祈るといい…!」

ブルー・ディキンソン :

 ならば、と。
 車体に自分の義足を無理矢理引っ掛けて、自分を砲台のようにブルーは固定していた。

 …本来はこういう用途ではないが、一瞬の車間距離を詰めるだけなら問題ない。

 事前の通告無しのアドリブだが応えてくれるだろう……否、応えてくれなければ困る。

ブルー・ディキンソン :
 ブルーはダンの両肩に手を置き、ほんのちょっぴりの力を入れる。

 自身の義体に一種の電気信号を流し、
 義手・義足に増設・内蔵した戦闘機動用瞬間加速機を起動。

ブルー・ディキンソン :「──”ホワイト・スカイ”! 舌ァ噛まないでくださいよ!」

 雷光を思わす蒼い輝きと、アラートめいて光るオレンジライトが合図を示す。
 加速領域内においての意思疎通は簡素であればあるほど良いが、今回ばかりは明確に伝えておく必要があるだろう。
 なにせ私が直接的行動に出るのはこれが初めてなのだから。

「バトルマニューバ、オン───!」

ブルー・ディキンソン :
 わたし
「”雷霆精”そのものを加速装置としてブーストをかけます! 

 しっかりハンドル握ってください───よッ!」



 人工歯にインプラントしたスイッチを”噛む”ことで両手両足のマニューバ・スラスターを展開。
 ダンの両肩に手を置いたのは自分の体を車体に沿わせて固定化し、ブレを無くすため。
 そのための姿勢制御と平衡感覚の”掴み”は自身のこれまでの経験で補う。
 

ブルー・ディキンソン : 
 展開と同時に勢いよくスラスターが噴く。
 今まさにブルーはこのスピード・マシンの生ける増設加速機そのものとなるのだ。

 勿論このような使い方こそ想定外だが──天才を噛み殺すのは一個の”ひらめき”だ、申し分なかろう。

ダン・レイリー :
 そう。
 
 一対一の仕込み同士ならば、
 元々のマシンスペック、技術の習熟………。
 遺憾ながらコードトーカーに軍配が上がってしまう。
 
 ………だが今は一対一ではない。
 彼方が二段加速をするならば、此方にも掟破りの手段がある。

ダン・レイリー :
 そう、目に目、歯には歯。

ダン・レイリー :
「スリリングだな───やってみるさ…!」

.テクノロジー  テクノロジー
 技術には、技術。
 ノイマン   ノイマン
 技巧には、技巧だ。

ダン・レイリー :
 加速した機体に後付けで増設された、
りょうてあし
 都合四基の加速スラスター。
 元より戦闘用のソレに考慮されたバランスなどはなく、戦闘においてブルーの技術を見たのは今回が初めてだ。

 しかし第一声と同時に自己にかけるR因子パターンを安定させることに集中したのが功を奏した。
 出鱈目な加速で崩れるバランスと車体を、不可視の波濤でエスコートする。
 そうして、直線で抜き去ったヤツの起こしたスリップストリームをも利用すれば…先程の分は、元通りだ。

ナタリー・ガルシア :「……そう、その調子です。あとはゆっくりアクセルを捻って……回転数をあげていってくださいまし」

安定した調子で走り出したダンとブルーとは違い、スクールの様相を呈しつつもこちらはなんとかバイクが走り始めたところ。

「カーブの要領は自転車と概ね同じですので、あとは……なにかあれば私もフォローします」

灰院鐘 :「自転車……自転車かあ。乗ったことあるのかな」

灰院鐘 :「あっ、ベル! ベルがないや! ぶつかりそうなときは大声で知らせればいいのかな」こう、おーいって

ナタリー・ガルシア :「……一応、ホーンが付いていますから、そちらで十分ですわ」

灰院鐘 :「ほーん?」

ナタリー・ガルシア :「クラクションですわ!」

灰院鐘 :「あ~」

灰院鐘 :「すごいね、ナタリーくん。物知りさんだ」

ナタリー・ガルシア :「……それでは、このまま真っ直ぐお願いします!!」

状況にそぐわない呑気な言葉を無視して、大きな背中越しに半ば怒鳴り声のような大声を上げる。
目標のバイクの『音』を探して、風を手繰り――捉える。

距離は随分と離されしまったが、それ故に直線距離を取れる――あちらは先読みと迂回、読み合いをしながらのカーチェイスを繰り広げているようだが、とりあえずは近づかなければ始まらない。

灰院鐘 :
「うん、わかった」

 まっすぐ……まっすぐかあ、と背後からのオーダーを転がす。青年の考えはこうだ。まっすぐ進むだけなら、ゆっくり捻る必要はないのではないか?

灰院鐘 :
「よし──追いつこう」

 えいや、と思いっきり握りこむ。アクセル全開、ぐんっと全身に圧力がかかるのを「今日は風がすごいなあ」と思考で流して前進!

ナタリー・ガルシア :「きゃああっ!?」

突然の加速に、なびく髪が地面とほとんど平行になる。

――そういえば、ヘルメットを付けますれていましたわ

などという、現実逃避気味の思考を片隅へと追いやって、必死に大きな背中へしがみつく。

ナタリー・ガルシア :「せめて!!もう少し!!!ゆっくり速度を上げてくださいませんか!!!」

恨めしい気持ちを込めて訴えかけるが、それがどれほど伝わっているか。
こうなれば、と、ナタリーも開き直る。
なにも交通規則を守り、マニュアル通りの運転をする必要なんてないのだ。

「――このまま、できる限り加速をお願いします。周囲の状況は私が拾いますわ!!」

力を行使する。
風を操れるということは、大気を自在に操れるも同じ。ならば、あらゆる大気との摩擦、ハンドルを取る風をリアルタイムで打ち消せば初心者であっても快適なドライブになるだろう。

灰院鐘 :
「? 最終的に速度を上げるなら早いほうがいいんじゃ……」

 首を傾げつつ、暴れる車体を力で強引に制御して、開けた道路を駆けていく。

 鐘が車両の限界を力ずくで引き出しているのなら、車両の性能を存分に発揮させているのはナタリーだ。若葉マーク以下の無免許二人が、どうにかレースの最後尾につけているのは、これらオーヴァードの超人性あってのものだろう。

灰院鐘 :
「助かるよ。……でも流石に遠いな。これじゃあ追いつけるかどうか──」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《……今の見た?》

 くつくつと、忍び笑いの声がアトラの耳にのみ響く。

アトラ :
 ……いやいやいや、凄いのは凄いけどそんな笑顔で見れんからアレ!

アトラ :
『あーあー此方臨時オペレーターアトラ!
 マジ吹っ飛ばんように気をつけてね!遠くで見てるウチらの心臓の方が止まりそうだからねソレ!』

 迅速に、『専門家』たちにコードトーカーとぶつかってもらう───……つもりだったが。
 思わず視線はわちゃわちゃとした音声と加速が伝わってくる二人組へと向いてしまった。ので、注意喚起ついでにミナセさんに音声を届けてもらいつつ。

灰院鐘 :「! アトラくん!」半ば反射的に振り返る! とうぜん遥か彼方!

アトラ :
(速度は十分、ルートも最短最速)
『いや前!前は見て!…… ……、え~っと……ミナセさん!』

 何か良い案ない?と、何か補助になりそうなもの見えない?の二つの意味を込めて名を呼んでおく。

水無瀬 進 :
『こらこらこらこら前を見なさい前を!!!!』

 すかさずスピーカーから大音量!!

灰院鐘 :「まっすぐだから大丈夫!」

アトラ :
『いやいやいやいや……』

ナタリー・ガルシア :「大丈夫ではありませんわ!!!!!」

水無瀬 進 :
『こうなったら突き進んでもらうしかないな!
 幸いルート的に直線コースが続くし、二人とも暴れ馬を何とか持ち前の能力で御してるようだ!』

水無瀬 進 :
『勢いがすごいぶん、前の二人にあっという間に追い付くな!
 ぶつかり合わないように向こうにうまくバランスとってもらおうか!』

灰院鐘 :「たすかるなあ!」

灰院鐘 :「近くなったらほーん? を使えばいいんだっけ」どれだろう、とごそごそしだす

ナタリー・ガルシア :「前!前に集中してくださいまし!!!」

アトラ :
『……だって!聞こえて……るっぽい!
 真っ直ぐ前へ!だって……いや事故には気を付けてねホント!』

 今こっちの耳元で面白がってるヤツも居るんだから……。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :(腹を抱えて笑う声ばかりが響く)

アトラ :
 ひ、他人事だと思って~~~!

ダン・レイリー :
『───此方レイリー大尉!
 状況どうか、二人とも!』

 その最中で、走行中の前方車から端末越しに通信が届く。

灰院鐘 :「噂をすれば、だ!」

灰院鐘 :「うしろだよ! ダンさ~~~~ん! ブルーさ~~~~ん!」通信を受けとったのに肉声で応じて手を振っている。ぶんぶん!

ナタリー・ガルシア :「この通りです、安全バーなしのジェットコースターのようなものですわ!」

ダン・レイリー :………この距離まで端末を無視した肉声が響いている! 本当に後ろか…!

ブルー・ディキンソン :「──うおっ、どんな声量だアレ!」
 スラスターの残光をちょいと巧みに弄って、エフェクトで返事・合図。

水無瀬 進 :
『すまないね、こんな様子だからそっちのフォローに回ってる余裕がなかった!』

アトラ :『せめてハンドルは握っとかない!?』

ダン・レイリー :
『二つとも聞こえている!
 問題はない、と言いたいが…此方も有効射程まで依然変わらずだ!』

ダン・レイリー :
『ちなみに“ラフメタル”…
 良く聞こえている、いい声量だが…』

『声を張り上げるのに疲れたら端末を使うように! 落とすなよ!』

灰院鐘 :「うん! ありがとう!」とても元気!

ダン・レイリー :そうか…元気か…!

ダン・レイリー :
 ミナセから送信されたルート情報と移動速度を見るに、
 掛かる圧は元気じゃなくなる勢いのはずなんだが………。

「(それでこれとはある意味才能だ………ナタリーを振り落としているわけでもない。
  だからこそ、何方かは直線コースのうちにし掛けて、ヤツに危機感を抱かせたかったが………)」

灰院鐘 :
「それと……"コードトーカー"! がんばってそっちに行くよ、待ってて!」

ナタリー・ガルシア :「そうですわ!!!貴女が逃げたせいで今こんな目に遭っているのです!!!覚悟してくださいまし!!!」

"コードトーカー" :
「………………………っ」

 呆気に取られているのか、或いはこんな連中に一杯食わされている現状に苛立っているのか、シンプルに声量が足りていないだけなのか。
 コードトーカーは何も返さなかった。返礼として推進装置の熱をぶつけてやるだけだ。

SYSTEM :
《ROUND 2》

SYSTEM :1d100 (1D100) > 1

SYSTEM :
【コードトーカーの妨害を受けた!
 取り巻きの黒いバイクの影が横合いからそれぞれに衝突する!
1ユニットごとに〈白兵〉〈射撃〉〈RC〉で難易度20の判定を行う。
 失敗した場合このラウンドでの行動が出来ない】

GM :わかりにくくてあれだが1ユニットとはバイク1台のこと

GM :つまり相乗りする片方が成功すればオッケーということでもある

ダン・レイリー :暢気に追走などさせんというわけか! どちらかが成功すれば問題ないようだが…

GM :達成値合計でなく、一人が判定で成功すればオッケーです!

ダン・レイリー :了解! であれば…頼めるか“雷霆精”?

ブルー・ディキンソン :楽勝ジャン? オッケーオッケー。

GM :つよい

GM :ではブルーさんから判定ですな 使用技能は何じゃろう

ブルー・ディキンソン :もちろん<白兵>ですよね〜ッ!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(3+1)dx+27 <肉体:白兵> (4DX10+27) > 8[3,5,6,8]+27 > 3

SYSTEM :
【判定に成功しました】

ダン・レイリー :流石だ“雷霆精”、これでこちらは問題ないが…もう1チーム、ショウたちの方はどうか!

灰院鐘 :僕たちも負けてられないね

GM :問題なのはBユニットですな

灰院鐘 :やるだけやってみよう。いいかな

GM :いいでしょう!

ナタリー・ガルシア :頼みますわ……!!

灰院鐘 :8dx+1 (8DX10+1) > 9[1,2,3,3,4,6,7,9]+1 > 1

灰院鐘 :ション

GM :判定失敗だ…!已む無し!

ナタリー・ガルシア :ここは私の出番ですわね!

GM :此処はピンチヒッターお嬢の手番だ!

GM :後がないぞ、宣言はどうする?

ナタリー・ガルシア :《サイレンの魔女LV10》ですわ!

GM :うむり!固定値は10、つまり一個でもクリティカルが出れば成功というところだが

ナタリー・ガルシア :それでは……

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ナタリー・ガルシア :4DX+10 (4DX10+10) > 10[2,4,6,10]+1[1]+10 > 2

ナタリー・ガルシア :ふっ

SYSTEM :
【判定に成功しました】

灰院鐘 :さすが!

system :[ ナタリー・ガルシア ] 侵蝕率 : 81 → 86

GM :お見事!風も温存しつつ巧く捌き切ったか!

ナタリー・ガルシア :フォローは任せてください、と言いましたから

ダン・レイリー :見事だ、どうにかお互い足を止めずに行けそうだな

ブルー・ディキンソン :やるぅ。

GM :という訳で全員無事通貨!

"コードトーカー" :チッ、しつこい……!

ダン・レイリー :残念だ、そうでなかったら、其方も最初からそんな思いはしていなかろうにな…!

SYSTEM :
-SETUP PROCESS-

ダン・レイリー :
[Set up]
◇R因子戦闘管制
・《赤方偏移世界Lv5》

ダン・レイリー :この状況、先程のようにスムーズには行くまいが…

ダン・レイリー :

ダン・レイリー :…使用チームは変えず。使用対象は“雷霆精”だ!

ダン・レイリー :ひとつ勝負に出るぞ!

SYSTEM :【宣言を確認しました
 特殊処理により、判定に固定値+2加算します】

system :[ “ホワイト・スカイ” ] 侵蝕率 : 77 → 79

ダン・レイリー :これで“雷霆精”…ブルーの行動値は10上がる! カードは場に出揃った…!

ブルー・ディキンソン :ベット!

"コードトーカー" :ああもう!

ダン・レイリー :ツキは此方に向いたな…! では掛け金を払ってもらう…!

"コードトーカー" :
セットアッププロセス:
行動なし

ブルー・ディキンソン :セットアップなーし!

アトラ :なしなし~

灰院鐘 :ないよ〜

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Blue

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Blue

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ブルー・ディキンソン :
はいはーい。じゃ、まずは……。
<マイナーアクション:戦闘移動>かな。
あたし達の今の差は1マス!
ってなわけで……1マス前に行きたいな。

GM :了解だ!これでダン・ブルー車のユニットAは敵機にエンゲージ!

ダン・レイリー :間合いに入れたな、これならば… 

ブルー・ディキンソン :追いついた!

"コードトーカー" :随分早い御帰りだこと!けど今はお呼びじゃないわ!

ブルー・ディキンソン :勝手に来たからネ! お覚悟!

ブルー・ディキンソン :
<メジャーアクション:攻撃宣言>
<判定:白兵>
<武器:決闘者の剣→対象:単体の際、攻撃力さらに+4>

<コンボ:ジェット・ストライク>
<エフェクト:コンバットシステム【白兵】>

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :…仕掛け時だな。ミナセ、此方の接触に合わせて“雷霆精”にアシストできるか?

水無瀬 進 :了解だ!いつものアレだね!

ダン・レイリー :ああ。仕掛けられるチャンスもそう多くはない…《強化の雷光》はここで切りたい

アトラ :おお~!GoGo!

水無瀬 進 :
メジャーアクション:《強化の雷光 LV5》
対象:ブルー

効果:次のミドル判定ダイス+5dx

水無瀬 進 :同じブラックドッグだとやりやすいよ!
新鮮な電力をお届けだ!

ブルー・ディキンソン :ひゃっほう! 擬似本気モードって感じだ!

GM :これでダイスは+5で殺傷力もアップ!さあ判定ダイスをどうぞ!

ブルー・ディキンソン :(3+4+5+1)dx+29 <肉体:白兵> (13DX10+29) > 10[1,1,2,4,5,6,6,7,7,8,9,10,10]+9[7,9]+29 > 4

"コードトーカー" :やるわね……けど御生憎様。

"コードトーカー" :
リアクション:
 リグレッション
【緊急回避】
《リフレックス LV1》《アナライズ LV5》

Option:回避時ダイスを+5加算する

ブルー・ディキンソン :んなー!?

"コードトーカー" :どんなに切れる太刀筋でも先が読めていれば躱せる。必要以上の暴力何て元々不要なのよ。

"コードトーカー" :ではこれで、私はリアクションを行うわ。

"コードトーカー" :8dx9+8 緊急回避《リグレッション》 (8DX9+8) > 10[1,2,2,3,7,8,8,10]+3[3]+8 > 2

"コードトーカー" :チッ……!

ブルー・ディキンソン :ふっ……。

SYSTEM :
【ユニット:コードトーカーが回避に失敗しました。
 ダメージ判定を行ってください】

"コードトーカー" :ちい、来るなら来なさいよ!

ブルー・ディキンソン :ふふん☆
ちなみに、アンタがあたしをひっ捕らえたときに調べようとしてたこの武器……、
"一人"を狙うと爆発的に威力が伸びるんだよね。
ご覧入れちゃいましょうか。

ブルー・ディキンソン :(4+1)d10+11 (5D10+11) > 28[5,2,4,10,7]+11 > 3

system :[ "雷霆精"ブルー ] 侵蝕率 : 61 → 64

"コードトーカー" :く、なかなかの出目……だけど

"コードトーカー" :
「けど。私が天才であることを忘れているようね──」

 迫る剣戟を前に、冷ややかな怒りと共に肉薄した敵影に告げる。
 ノイマンに派手な力はない。膂力も弱く、離れた距離に対しても武器を遣わねば攻撃できない。結局道具便りとは、あらかじめ予見出来ていないことに対してひたすら脆いことを意味するものだ。

"コードトーカー" :
       ジーニアス
 しかし──女は 天才 であった。

 遍く才能を持つが故に。いざという時の自らのスペックの差を、自力の計算力だけで補える。
 
 彼女は戦場の経験を薄いままに、歴戦の兵の回路を即座にインストール。回避が出来ずとも、最低限に抑えるよう制御を始めた!

"コードトーカー" :
オートアクション:
 ロールバック
【即応防御】
《ひらめきの盾 LV2》

Option:ダメージ計算直前、対象へのダメージを-10する

ブルー・ディキンソン :
小癪
天才だな〜! 憧れちゃうな〜! (スラング)!

"コードトーカー" :何とでも言いなさい!これでダメージを10点軽減よ!

ブルー・ディキンソン :29ダメージか〜……されど29ダメージ!

"コードトーカー" :ああ、血が出てるじゃない……!この私に傷を!!

ブルー・ディキンソン :
 ・・・
(出来るよね───そういうこと)

 僅かな動きの"差"で相手の身に何が起きたのかを悟る。
 ちゃらんぽらんなこの"雷霆精"は、似合わぬ武道への理解と経験がある。
 義体に受け継がれたその経験によって、"コードトーカー"の策を構造で解析した。

 一瞬一瞬だけ己の体に"刷り込み"が出来る。
 それは何も人格だけではない──天才が再現できないものなどこの世には存在しない。
 既にあるものならば、なんだろうと。

ブルー・ディキンソン :
「あは。
 この前の身体検査の時、よく調べなかった?
 勉強不足だねえ、狐ちゃん☆」

        tiāncái
 しかし──女も天才であった。

 人間の領域を超えたこの"機械仕掛けの躯体"を動かすために。
 彼女は培った全ての才能を脳に叩き込んだ。

 奴がスペックの差を"計算力"という才能で埋めるのならば、
 妖精は発想と知能の差を"武芸"の才能で埋める。
 その差は僅か。
 僅かゆえに、最大ではなくとも、八割まで届かせる。

ブルー・ディキンソン :
「"一刀雷切"───」

 ワンインチの距離。
 加速領域の中でほんの一瞬並んだ黒鉄の神馬達。
 その僅かな隙間に差し込まれる雷の太刀。
 経験と計算が生み出した一瞬のポイントを狙った一閃霆剣!
 更にそこへ、水無瀬から受け取った"雷光"を叩き込む!

 、   ジェット・ストライク
「────"雷鳴一斬"ッ!」

 振るうが刹那、激しい蒼光と共に閃光が弾け散る……!

"コードトーカー" :
 時速300キロを優に超える超速度、既に体にたたきつけられる風は壁にも等しく
 その荒れ狂う中にあって立ち合いは、宛ら予め段取りを決めて立ち回る演武のよう。
 しかし、その計算式の乱数を大きく狂わせたのは、彼女の身を伝った仲間からの支援の手であったのだろうか。

"コードトーカー" :
 ──これは無理だ。

 剣戟も銃撃も、範囲で示されるが極限まで突き詰めれば点か線だ。ならば剣戟を躱すように速度を落とし、太刀筋をずらせばよい……などという発想は、振るわれる剣の蒼光がいや増した瞬間に放り捨てた。

 回避は出来ない。心底業腹だが、命あってもの物種。巧く行かぬことに対して癇癪を起こしがちなコードトーカーだが、そこで分水嶺を見誤る程の愚物ではない。

"コードトーカー" :
 成程コードトーカーは万事につけて天才であろうが、一芸を極めたものに勝る道理はない。
       スペック
 ましてや、『性能差』という絶対的要素はどうあがこうとカバーしきれないことは、皮肉にも彼女自身が今証明していた。

 雷鳴と共に、雷を裂く霆剣が閃く。その蒼光は、浅く致命傷には至らずとも──コードトーカーの身体を袈裟に切り裂いていた。

"コードトーカー" :
「ギ…………ッッ!」

 ハンドルを落とすような下手を打ちはしなかったものの、そのライダースーツにはしっかりと雷霆の剣が切り裂いた赤き筋が刻まれていた。
 唸り声をあげ、しかし痛みに傷を抑えるような真似はせず、しっかりハンドルを握り直し、双方の距離を再び開け直す。
    ジ ャ ン ク
「この、廃材の寄せ集めの分際で!
 よくも、この私に傷を──!!」

 刹那の攻防を終え、激昂したように咆哮する。

ブルー・ディキンソン :
「は! は! は!
 諺は詳しくない? "塵も積もればナントカ"ってさ!
 スクラップでも組み上げれば超キュートな天才剣士ってねぇ!」

ブルー・ディキンソン :
 義体を満たす人工血液が震えているのが分かる。
 脳核から全身に伝わる微弱な神経が、仮初の躯体を動かすレネゲイドを刺激している。
 例え紛い物になったとしても変わらぬ人間の持ち得る感情と───その行く先!
 "ラクシャーサ"撃破の報を聞いた時、ああ本当は残念だった惜しかった!
 今よりもっと凄い"体験"がそこにあったかもしれないから───……。

 ま、お預けされるのもオツだよね。


「ホントはもっとお楽しみといきたいところなんだケド……。
 お生憎様、あたしは今回は悪戯大好きな"雷霆精"。
 ちょっぴり揶揄ってやったわ、あー楽しい!」

ブルー・ディキンソン :
「……ってなワケで」

ブルー・ディキンソン :
「そっちのレイズの権利がまだ残ってる。
 するならしなよ、こっちも権利は残ってるからね」

 ブルーの視線が動く、つられて蒼雷が残光を画く。
 一人は白い星。一人は鋼の星。
 一人は風の星。一人は紅の星。

 これからどうなるにせよ、私はその名の如く電光石火で一歩踏み出しただけなのだから。

"コードトーカー" :
「ああ、ああ忌々しい──!
                 コード
 こうして逃げる立場に回ることも、言葉も通じない猿共から追いかけ回されることも!
 天才の科学への貢献を塵芥にするしか能のない下衆どもめ!」

"コードトーカー" :
「なら望み通り、今度こそ地べたに這いつくばらせてやるわ!
 時速300キロでアスファルトに叩きつけて、すり身にしながら赦しを請わせてあげる!」

ブルー・ディキンソン :「や〜だ、ぺっ♡
 アスファルトさんとキスする趣味はなくってネ!」

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Blue
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=コードトーカー

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=コードトーカー

"コードトーカー" :
メジャーアクション:
  アクセラレイター
【 緊急加速 】
《コンセントレイト:ノイマン LV2》+《スキルフォーカス:知識:機械工学》LV4》

DICE:10dx8+10

"コードトーカー" :10dx8+10 緊急加速《アクセラレイター》 (10DX8+10) > 10[1,1,3,3,4,4,8,8,8,9]+10[3,7,8,10]+6[1,6]+10 > 3

SYSTEM :
【判定成功!
 進行度を+4進めます】

判定値:6⇒10

ダン・レイリー :分の悪くなった賭けに何時までも付き合ってくれはしないか…

ダン・レイリー :ならば、虎の尾を遠慮なく踏み返させて貰う…! 

ブルー・ディキンソン :後ろ足もいっちゃえーい!

"コードトーカー" :できるものならね……私を怒らせたツケ、払って貰うわよ

SYSTEM :
【コードトーカーがイベント発生進行値:8に到達しました】

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=コードトーカー
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-

"コードトーカー" :
イニシアチブプロセス:

《加速する刻 LV2》

Option:このイニシアチブプロセスにてメインプロセスを行う

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=コードトーカー

"コードトーカー" :
「さて……少し遅れたようだけれど……
 やっと来たわね」

 舌なめずりをしながら、二輪に備え付けたコンソールを素早く操作する。
 彼女は戦士ではなく学者である。自らが戦うことは出来ても得意とはせず、それは先の差し合いで既に明らかとなった。
 ならばこそ道具を遣うのだが、その道具がこの時には手元になかった。
 しかし──

"コードトーカー" :
「生憎こういうのは趣味じゃないけれど…
 遣わせてもらおうかしら」

"コードトーカー" :
メジャーアクション:
【支援要請:METAL GENOCIDER】
アイテム:《マッドサイエンティスト》

Option:未行動の状態で『ジャーム』エネミー一体を追加する

SYSTEM :
 それはコードトーカーを追う一同の背後より。
 その巨体にそぐわないまでのあまりの身軽な跳躍と共に、大地へと降り立った。

SYSTEM :
 ロサンゼルスの街の地下深くに秘蔵された機械化兵の亜種。本来彼女の分野の外にあったそれは、計画の後期段階に街へ解き放たれる筈の代物である。
 ジャームを制御する茨の冠を解き、稼働状態に移行したそれは、射出されるように飛翔し、雷を撒きながら前を征く彼らに追いすがる速度で疾走する。

"Genocider" :
 魔眼のバラストで巨躯を安定させ、イオノクラフトによる補助により地上を飛行し、頤に装着したプラズマ砲にて薙ぎ払う強襲兵器。
 その要訣は長期戦に非ず、機動力と範囲火力を武器に電撃作戦を執り行うアサルトギア。
 それがこの機甲猟兵、OTH-21ST "Genocider"であった。

"コードトーカー" :
「そっちは五対一だもの、このぐらいのハンデは貰わないと。
 元はヨーゼフの持ち物だったけど、あのおいぼれには勿体ない。さあ、轢き潰してやりなさい!」

ブルー・ディキンソン :
「……あ〜らら、これ、"ヤモリ"にしてはデカすぎるんじゃない?」

ナタリー・ガルシア :「大きさだけなら、こちらの鐘さんだって負けていませんわ!!」

チラッ

ナタリー・ガルシア :流石に負けているかもしれませんわ

灰院鐘 :
「おっ……!? そっ……!!」
 動揺のあまり横倒しすれすれのドリフトが発生!

ナタリー・ガルシア :「キャアアアアアアア!?!?!?」

ダン・レイリー :…“炎神の士師”!(距離が遠いのでフォローを頼みたい時の声)

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ふざけてる場合ですか──!!!」

 氷の回廊!!

アトラ :
『……いやいやいや、流石に邪魔だ!みんな大丈夫そ…… ……うじゃないんだけど!?』

 ドローン越しに焦る。良かった、御守りのヒトいて。

ブルー・ディキンソン :「後続が絶賛爆加速中」

灰院鐘 :(しょんぼりとしながら体幹だけで姿勢を戻して回廊のルートに沿う)

ダン・レイリー :「良くも悪くもな…! それにしても、」

ダン・レイリー :
『O-Tecの機械化兵───強襲タイプだな!
 まったく冗談にも言霊は宿るらしい、本当にテレビショウのモンスターが出たとは!』

"Genocider" :
 地響きと共に迫る鋭角的なフォルムと、図体に見合わない超高速軌道。
 この機動力とパワーなら恐らくは、裏路地に逃げ込んだところで問題なく追ってくるだろう。そして何より……

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「まんまと挟撃の形に持っていかれたようです。
 他の雑魚ならともかく、このレベルが相手だと損傷は必至……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《──あらら、あんなものまで。
 まあでも気にすることないんじゃない?
 っていうか、一個増えはしたけど勝利条件は変わんないっしょ》
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《邪魔してくるかもしれないけど、取り敢えず敵の手数が増えたことだけ意識して、コードトーカーをしばき倒すのに集中した方がいいと思うな。
 あいつのことだ、多分あのマシンにも万が一の時に備えてレネゲイズワームをブチ込んでる》

ブルー・ディキンソン :「いやらしい二段構え〜!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《あいつがその気になったらいつでも回路を焼き切って機能停止させられるようになってるんだよ。早い話。
 つまり基本的にコードトーカーが死んだ後の想定とかされてないの》
 

灰院鐘 :「ポジティブでいいね!」

ダン・レイリー :
.           ブルーカラー
「そいつは随分と優秀な労働担当をお抱えらしいな、“コードトーカー”は」

アトラ :
「コードトーカーの方さえどーにかすりゃ良いのは変わらんってハナシ?
 そりゃそうだろうけど、ショーさんたちが今んとこ危ないんじゃ……」

ナタリー・ガルシア :「……こちらの心配は無用です!!!ようやく運転にも慣れてきたところです!!」

ナタリー・ガルシア :ですわよね?という顔で鐘さんの背中をちょんちょん

灰院鐘 :「?」

灰院鐘 :「……」

ナタリー・ガルシア :「ダメそうですわ!」

灰院鐘 :「うん!」

ダン・レイリー :
「…、了解した!
 いずれにせよ、アレにじゃれつかれても本気にするわけには行かんぞ!」

 出来ると言ったあの自信を信じてやるしかあるまいな、とひとり合点。
 

アトラ :元気のいい肯定だなあ~

ブルー・ディキンソン :「全くだね。
 ああいうのは横にいるのが"兵士"だから機能するんだ。
 "ただの"天才だけじゃ、物足りんだろうさ!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《そゆこと。放置したら勝手に街を壊して回る、なんてこともないでしょ。
 街を壊して気を逸らさせるなんてこともない。此処には優秀なロス支部が居を構えてる、このぐらいならちっぽけなあいつらでも足止めは出来ちゃうからねえ。
 純粋に戦力を上げる以外の使い道はしてこないよ》

アトラ :
「へえ~……ほんじゃまあ、確かに最悪置いといても本命さえどうにか出来るなら良いんだ」

 チクチク言葉だなあ、とは思うが特に異論も挟まない。頷く。

ナタリー・ガルシア :        ストレイトフォワード
「どちらにせよ、真っ直ぐ前へは変わらない、というわけですわね!」

灰院鐘 :「シンプルでいいね。がんばるよ」

ダン・レイリー :
「そういうことだ!
 ………では、天才の数式に間違いを教えてやりに行くぞ!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「了解です。
 敵がこちらに向かってくる以上、恐るるに足りません──このまま押し切るまでです」

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=コードトーカー
 Complete!

SYSTEM :
-INITIATIVE PROCESS-

"コードトーカー" :
イニシアチブプロセス:

《加速する刻Ⅱ LV1》

Option:このイニシアチブプロセスにてメインプロセスを行う

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=コードトーカー

"コードトーカー" :
メジャーアクション:
   オプティマイズ
【 最適化処理 】
《異能の継承 LV3》

対象:"Genocider"
Option:対象に<分割思考 LV1><カリキュレーションLV2><スキルフォーカス:知識:機械操作 LV4>を付与する

SYSTEM :
-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER="Genocider"

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER="Genocider"

"Genocider" :
メジャーアクション:
  アクセラレイター
【 緊急加速 】
《コンセントレイト:ノイマン LV2》+《スキルフォーカス:知識:機械工学》LV4》

DICE:12dx8+8

"Genocider" :12dx8+8 緊急加速《アクセラレイター》 (12DX8+8) > 10[1,1,2,2,3,4,4,5,7,8,9,10]+6[1,3,6]+8 > 2

SYSTEM :
【判定成功!
 進行度を+3進めます】

判定値:0⇒3

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER="Genocider"
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Dan

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Dan

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ダン・レイリー :了解。では行動を開始する………

ダン・レイリー :その前に“T³” 手は空いているか?

アトラ :ミナセさん’s ドローン感度良好!今度はそっちイケますよ~!

ダン・レイリー :よろしい。アテにしているぞ二人とも 

ダン・レイリー :…というわけでGM 事後になってすまないが、先に“T³”に支援を貰っても構わないか?

GM :問題なし、もう少し間を置いとけばよかったわね

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

アトラ :よーし……

アトラ :5dx 支援:<社会>! (5DX10) > 8[1,2,5,7,8] >

アトラ :あれえ

ダン・レイリー :イヤ…問題はない 成功は成功のはずだ

SYSTEM :
【判定に成功しました。
判定に固定値を+3加算します】

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :勝ちは勝ち!勝てばいいのよ判定なんざ

アトラ :ま~確かに!がんばがんば!

SYSTEM :
-MAIN PROCESS-
PLAYER=Dan

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ダン・レイリー :努力はさせてもらおう

ダン・レイリー :
[Main]
進行判定
〈知識〉:機械工学(4dx+6)

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :では行くぞ

ダン・レイリー :4dx+6 〈知識:機械工学〉 (4DX10+6) > 10[2,4,6,10]+4[4]+6 > 2

SYSTEM :
【判定成功!
 進行度を+3進めます】

判定値:6⇒9

ダン・レイリー :よし…そう簡単に高みの見物とはさせてやれんからな

"コードトーカー" :しつこい男!

ブルー・ディキンソン :あたしも居ンだけどな!?

ダン・レイリー :
.       ジェントル
 生憎だが僕は英国紳士でないんでね
        クライマー
 貴婦人とはいえ犯罪者の後ろを追いかけ回すことに気後れもしないぞ 

ダン・レイリー :…そしてその辺り、痛みごと記憶の彼方に飛ばしてくれたらしいな。次は忘れられんように突き付けてやれ

ブルー・ディキンソン :便利な頭脳をお持ちですな〜全くな〜。そうしますワ!

"コードトーカー" :
……そう。
なら、二度と追って来られないように、二人纏めて確実に殺しておかないねえ……!

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Dan
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Natalie

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Natalie

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ナタリー・ガルシア :それでは、一旦は行動放棄ですわね

SYSTEM :【宣言を確認しました】

SYSTEM :
-MAIN PROCESS-
PLAYER=Natalie
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Syou

灰院鐘 :運転で判定だ! がんばるよ

"Genocider" :────

"Genocider" :
イニシアチブプロセス:
  ガンブラー
【 妨害処理 】
《分割思考 LV1》

Option:行動済みの場合、行動値を-10することで未行動状態となる

SYSTEM :
-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER="Genocider"

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER="Genocider"

"Genocider" :

"Genocider" :choice A B (choice A B) >

"Genocider" :
マイナーアクション:
戦闘移動(1マス移動)

"Genocider" :
オートアクション:
《カリキュレーター》

メジャーアクション:
  ハドロンブラスター
【 拡散重粒子砲 】
《コンセントレイト:バロール LV3》+《黒の鉄槌 LV2》+《雷の槍 LV2》+《因果歪曲 LV2》

DICE:10dx@12+4
DAMAGE:nd10+14
Option:同一エンゲージ攻撃不可、射程(視界)、自身の判定に発生するダイスデバフを無視する
対象:UNIT A(ダン、ブルー)

ダン・レイリー :───熱源! チィ、(奪った方の)主人想いで結構なことだが!

"Genocider" :10dx12+4 拡散重粒子砲《ハドロンブラスター》 (10DX12+4) > 9[1,2,2,4,4,4,7,7,8,9]+4 > 1

ダン・レイリー :あのタイプ………長距離砲撃故の大まかな狙いとはいえ、避け切るのは難しいか

ダン・レイリー :伏せ札のままにしておくべきかもしれんが………ひとつ力を貸してもらうぞ

ダン・レイリー :ドッジを行う予定だが…その判定前に宣言だ! レイラ・イスマーイール、『砂の加護』を回して貰いたい!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :おやおや。大尉殿、テロリストの手が御入用かな?

ダン・レイリー :あの時と同じくだ、見栄は張らずにやらせて貰うさ…!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :オーケイだ。それじゃ、手を貸すぐらいはしてあげよう。
こいつはカンダタに延びる蜘蛛の糸。生かすも殺すもあんた次第、ってね……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
メジャーアクション:《砂の加護 LV4》
対象:ダン

効果:次の判定ダイス+5dx

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :そら頑張れ! 義理は果たしたよ、死神に嫌われてるトコ見せて頂戴な

ダン・レイリー :十分だ! カンダタの二の轍は踏めんよ…!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :さて、大尉殿はこれでいいとして、キミはどうすんのメイドさん

ブルー・ディキンソン :ふっふっふ……

ブルー・ディキンソン :うちのライちゃんはなんとガードもできる!

ブルー・ディキンソン :というわけでガードだ。運転手が生きればなんとでもなるでしょ。

ブルー・ディキンソン :ガード値は3!

ダン・レイリー :…斬鉄でもする気か!?

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :なるほど。冷静な判断だ、最大値が出ない限りは受けきれるだろうからね

ブルー・ディキンソン :成せば成るかも!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :了解したよ。では、後は此方の問題だ…!

ダン・レイリー :7dx+2 〈回避〉 (7DX10+2) > 8[1,2,3,7,8,8,8]+2 > 1

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :……

ダン・レイリー :………

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :カンダタとか言わなきゃよかったかもねエー

ダン・レイリー :言い訳はしない…(粛々と座して結果を待つ時の顔)

SYSTEM :【ユニット:ダンが回避に失敗しました。
ダメージ判定を行います】

"Genocider" :────────

"Genocider" :2D10+14 ダメージダイス (2D10+14) > 17[7,10]+14 > 3

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :ところで

ダン・レイリー :…ところで?

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :えっ! 此処からでも入れる保険があるんですか!!??

ダン・レイリー :…その軽快かつ安心できないトークは何処から?

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :ま、ここで使うかどうかはそっちの判断に委ねよう

ブルー・ディキンソン :いい保険〜

ダン・レイリー :…確かに可能性はあるが…

ダン・レイリー :僕がアレで対応出来なかった以上、口惜しいが損切りの必要もある そのサービスは必要なヤツに取っておいてもらおう

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :オーケイだ。じゃ、この場は引っ込んでるよ。
あたしもあんまり動き過ぎると色々危ない

ダン・レイリー :ああ。世話をかけたな

ダン・レイリー :…しかしツケを二度払わされるとはな。やってくれる、“コードトーカー”

system :[ “ホワイト・スカイ” ] HP : 7 → -24

system :[ "雷霆精"ブルー ] HP : 30 → 2

ダン・レイリー :では《リザレクト》だ。送迎役を果たし切っていないのでな、寝転ぶには何時間と早い

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :1d10 リザレクト (1D10) >

system :[ “ホワイト・スカイ” ] 侵蝕率 : 79 → 82

system :[ “ホワイト・スカイ” ] HP : -24 → 3

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :うわ! やっぱピンピンしてんじゃん!!

ダン・レイリー :止してくれ そろそろ払い渋りのし過ぎでアシが付くかもしれんのだぞ

"雷霆精"ブルー :ライちゃんサイコ〜!生きてるあたし!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :……ブルーも辛うじて耐え凌いだようですね。
下手に動かず防御に徹していなければ先の一撃でやられていた

"雷霆精"ブルー :ふふん、冴えてきたね。戦いの風ってヤツ〜

ダン・レイリー :流石の判断だ。あの距離からの砲撃にも難儀したが、追撃には支障ない

"コードトーカー" :けど、随分消耗が激しいみたいじゃない。
このままあの世まで叩き落としてあげる……!

ダン・レイリー :生憎だが、この世がうんざりするほどしがみつかせて貰う気だよ!

"雷霆精"ブルー :……あは。獲物の状態を見て過信するなんてい〜いご身分!

SYSTEM :
-MAIN PROCESS-
PLAYER="Genocider"
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Syou

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Syou

SYSTEM :【行動を宣言してください】

灰院鐘 :ようし、今度こそがんばるぞ! 運転で判定だ!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

灰院鐘 :8dx (8DX10) > 10[2,3,5,6,6,7,10,10]+9[1,9] > 1

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :あと一押し、ならば!

灰院鐘 :うん! 《バディムーブ》……きみの力を貸してほしい!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :了解!
即席のアフターバーナーです、しっかり捕まって!

ナタリー・ガルシア :ぎゅっ

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
オートアクション:《バディムーブ》
対象:灰院鐘

効果:判定後の固定値+3

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :これで判定値は22!

灰院鐘 :いっくぞ~!

SYSTEM :【判定成功!
 進行度を+3進めます】

判定値:5⇒8

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :此処まで近づけば、完全に至近距離に迫れずとも射程圏内の筈…!

ナタリー・ガルシア :はいっ、ここからは私の約目ですわ……!

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Syou
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Natalie

"コードトーカー" :なんて……そう巧く行くと思って?

"コードトーカー" :
イニシアチブプロセス:
  ガンブラー
【 妨害処理 】
《分割思考 LV1》

Option:行動済みの場合、行動値を-10することで未行動状態となる

"コードトーカー" :私がインプットした機能、私が遣えないとでも?

"コードトーカー" :
-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER="CodeTalker"

"コードトーカー" :-MAIN PROCESS-
PLAYER="CodeTalker"

"コードトーカー" :
「全く、こんな玩具まで使う羽目になるなんて……」

 高速移動する自動二輪をオートパイロットに切り替える。この超高速の中で、自動操縦とてハンドルを手放すのはそれ自体が非常にリスキーな行為だが、生死の分水嶺を計算しきる彼女はそのリスクなど無いに等しい

"コードトーカー" :
 そうして隠し戸から取り出したのは──
 オートインテリジェンスを搭載した、50口径FH製対物ライフル……
 その銃口が、先を疾走するコードトーカー寄り付きつけられる。

"コードトーカー" :
 これまで腹ばいの姿勢から一転、凭れ掛かるようにして背後に振り返ったコードトーカーは、時速400㎞もの速度の中にありながらコンマ数秒で敵影の照準を定めていた──!

"コードトーカー" :
マイナーアクション:
  バスターモード
【 照準設定 】
《クイックモーション LV1》+《アサルトルーティン LV1》+《ターゲッティング LV3》

Option:攻撃力+10,ダイス+3

"コードトーカー" :
マイナーアクション(クイックモーション追加分):
戦闘移動(1マス移動)

"コードトーカー" :
オートアクション:
《カリキュレーター》

メジャーアクション:
  ブルートフォース
【 飽和狙撃 】
《コントロールソート:射撃 LV1》+《コンセントレイト:ノイマン LV2》+《確定予測 LV3》

DICE:13dx8+4
DAMAGE:nd10+14
Option:射程(視界)、対象;3体,リアクション時のC値+2、ダイスデバフ無効化

"コードトーカー" :choice Natalie,Syou,Dan,Blue

"コードトーカー" :choice Natalie Syou Dan Blue (choice Natalie Syou Dan Blue) > Natali

"コードトーカー" :choice Syou Dan Blue (choice Syou Dan Blue) > Da

"コードトーカー" :choice Syou Blue (choice Syou Blue) > Blu

"コードトーカー" :馬鹿ね、一番硬い子をわざわざ殴りに行くわけないじゃない

ダン・レイリー :まさかテロリストに正論を説かれる日が来るとはな

ブルー・ディキンソン :テロリズムは結果で正当化させるってかァーーー!?

灰院鐘 :うぐ……!

ナタリー・ガルシア :つまり、ご自慢のそのライフルも鐘さん以下というわけですわね!!ペッ

"コードトーカー" :何とでも言いなさい! では行くわよ

ナタリー・ガルシア :くっ、やすい挑発には乗ってきてくれませんわね

ダン・レイリー :乗らせるなナタリー! 座れ!

ナタリー・ガルシア :はぁい……

"コードトーカー" :13dx10+4 飽和攻撃《ブルートフォース》-ブルー、ダン (13DX10+4) > 10[1,3,5,6,6,7,7,8,8,9,10,10,10]+6[5,5,6]+4 > 2

"コードトーカー" :13dx11+4 飽和攻撃《ブルートフォース》-ナタリー (13DX11+4) > 10[1,1,3,3,4,5,6,6,7,7,7,8,10]+4 > 1

"コードトーカー" :そして……

"コードトーカー" :
「まさか此方から攻撃されるとは思わなかったのかしら?
 御生憎様……忘れたのなら、何度でも言ってあげる」

"コードトーカー" :
   ジーニアス
「私が”天才”であることを!!」

"コードトーカー" :
オートアクション:
 コ ー ドト ー カ ー
【秘匿を破る者】
《天才 LV3》

Option:判定直後、達成値を+【精神】(8点)加算する

"コードトーカー" :後出しで固定値を8加算。
これで28と22、ダメージダイスがそれぞれ3D10になるわ

ダン・レイリー :周到なことだな 結果には臆病と見える…!

"コードトーカー" :ほざけ!さっきの疵、何万倍にして返してあげるわ!

ブルー・ディキンソン :小学生みたいなこと言うなよなァー!

ダン・レイリー :上等だ、ツケの領収書を持って会いに行くとしよう!

ナタリー・ガルシア :こちらとて痛みは覚悟してきています――受けて立ちますわ!

"コードトーカー" :派手に吹き飛んで、地べた転がりな! 私の計算は外さない、この距離でも回避は不可能よ!

灰院鐘 :そうはいかない。受けて耐える、が僕の領分だ──今はね。きっちり防がせてもらおう

灰院鐘 :《軍神の守り》でナタリーくんにカバーリングだ。《イージスの盾》も使うよ

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ナタリー・ガルシア :まずはこっちのダメージ判定ですか?

ダン・レイリー :先に其方があるか

ナタリー・ガルシア :大尉とブルーさんのリアクション判定が先かと思いましたが、こちらが先にダメージ判定までしてしまいましょうか?

ナタリー・ガルシア :

ダン・レイリー :…なお僕はリアクション時のC値+も加味すると、どちらを択んでも計算通りに踊ってやるより他にない。リアクションは遺憾ながら『放棄』だ

GM :リアクション判定の宣言をまだ聞いていないぜ!!!!!!!!!

GM :全員の宣言を聞かなければ判定を進めることが出来ないです

ナタリー・ガルシア :私はカバーリングをしていただくので、リアクションが発生しませんわ

ブルー・ディキンソン :差は1マスだから……いや1マスでもけっこ〜重いな……

GM :まあこれリアクションのC値上がるので回避宣言した瞬間ダメージがモロに入るのだけど

ブルー・ディキンソン :パ〜ス、あたしも放棄。次でいわしたるからな。

SYSTEM :【宣言を確認しました】

"コードトーカー" :3d10+24 (3D10+24) > 19[8,5,6]+24 > 4

"コードトーカー" :まずまずってところだけれど、鏖にするには丁度いい!

ブルー・ディキンソン :この■■■■が…………

ダン・レイリー :チィ───やってくれたものだな!

ナタリー・ガルシア :大尉、ブルーさん……!

"コードトーカー" :さあ!ダメージ判定の時間よ!
ヘドブチ撒いて転がりなさい!

灰院鐘 :3d10+17 (3D10+17) > 16[1,10,5]+17 > 3

灰院鐘 :アリベイトスーツの効果も使っておこう。さらに5点軽減だ

"コードトーカー" :合計38点の軽減、累計5点のダメージ……!
この、邪魔をォ……!

灰院鐘 :さあ、レース続行だ!

system :[ "ラフメタル"灰院鐘 ] 侵蝕率 : 51 → 56

system :[ "ラフメタル"灰院鐘 ] HP : 58 → 53

"コードトーカー" :けど前の二人はそうもいかないわ!さあ、ブザマな悲鳴を聞かせて頂戴!!

ダン・レイリー :彼方は無事か…よくやってくれたよ、“ラフメタル”

system :[ “ホワイト・スカイ” ] HP : 3 → -40

system :[ "雷霆精"ブルー ] HP : 2 → -41

ナタリー・ガルシア :鐘さん、無事で何よりですわ

ダン・レイリー :そう急かしてくれるなよ、今起き上がる………《リザレクト》の宣言を!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :1d10 リザレクト (1D10) >

ダン・レイリー :短時間の連続作用………そろそろ誤魔化しが効かなくなってきたか

system :[ “ホワイト・スカイ” ] 侵蝕率 : 82 → 88

"雷霆精"ブルー :……あたしも!

"コードトーカー" :どれだけハードラックが続こうと、確率は収束するのよ!

"雷霆精"ブルー :1d10 リザレクト (1D10) >

system :[ "雷霆精"ブルー ] 侵蝕率 : 64 → 65

"コードトーカー" :コイツ…………!!

ブルー・ディキンソン :……

ブルー・ディキンソン :あーっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ダン・レイリー :死神の躾が手慣れているな 結構なことだ

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :やーるねえ!

system :[ “ホワイト・スカイ” ] HP : -40 → 6

system :[ "雷霆精"ブルー ] HP : -41 → 1

アトラ :いやでも未だにピンチ中だよ……!

ダン・レイリー :問題ない………高い買い物だったが、首が回らんほどじゃあないさ

ナタリー・ガルシア :せめて、一矢報いたいですわね

ダン・レイリー :その通りだ。返しに行くとしよう

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER="CodeTalker"
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Natalie

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Natalie

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ナタリー・ガルシア :……それでは、マイナーアクションで移動を行いたいですわ

SYSTEM :【宣言を確認しました。
 1マス移動します

 進行値:8⇒9】

ナタリー・ガルシア :それでは、メジャーアクション!
まずはオートアクションで《援護の風LV7》+《ウインドブレスLV5》を発動します!

ナタリー・ガルシア :そして、《サイレンの魔女LV10》ですわ!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ナタリー・ガルシア :(12-10)DX12+28 (2DX12+28) > 5[4,5]+28 > 3

"コードトーカー" :

"コードトーカー" :
リアクション:
 リグレッション
【緊急回避】
《リフレックス LV1》《アナライズ LV5》

Option:回避時ダイスを+5加算する

"コードトーカー" :ハッ!そんな距離から当たるとでも?

ナタリー・ガルシア :この程度の距離で外すとでも?

"コードトーカー" :8dx9+8 緊急回避《リグレッション》 (8DX9+8) > 10[6,6,7,7,8,9,9,10]+10[4,7,10]+10[10]+3[3]+8 > 4

ナタリー・ガルシア :外しましたわ……

system :[ ナタリー・ガルシア ] 侵蝕率 : 86 → 95

"コードトーカー" :さっきの自信は何処へ行ったのかしらねええ?

ブルー・ディキンソン :なんて生き汚いんだこのカ……女……

ダン・レイリー :まだだ、ぶつける前から冷静さを振り落とすなよ

ナタリー・ガルシア :次は当てます、必ず

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :無理は禁物ですよ。……とはいえ、ここで仕留め損なったことでやや雲行きは妖しくなってきました。
そろそろ折り返しです、長期戦を覚悟しなければ。

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Natalie
 Complete!

SYSTEM :-CLEANUP PROCESS-

"コードトーカー" :
クリンナッププロセス:
行動なし

ダン・レイリー :
[Clean up]
▽宣言なし

"Genocider" :
クリンナッププロセス:
行動なし

ナタリー・ガルシア :私かも特に宣言はありませんわ

ブルー・ディキンソン :なっしん。

灰院鐘 :僕もないよ

アトラ :おなじく~

SYSTEM :-CLEANUP PROCESS-
 Complete!

SYSTEM :《ROUND 3》

SYSTEM :1d100 ハプニングチャート (1D100) >

SYSTEM :
【道が開けた!
 このラウンド中の判定にダイス+3,達成値+1D10】

SYSTEM :1D10 ボーナス達成値 (1D10) >

SYSTEM :-SETUP PROCESS-

"Genocider" :choice Natalie Syou Dan Blue (choice Natalie Syou Dan Blue) > Da

"Genocider" :セットアッププロセス:
  
【 EMPジャマー 】
《灰色の庭 LV3》

対象:Dan
Option:行動値を-6する

ダン・レイリー :
 ジャマー
 妨害干渉とはな…!
 手厚い歓迎を続けてくれるよ

"コードトーカー" :ほらほらほら!このままもたもた進んでると、私に撃ち落されるより先にジェノサイダーにぺしゃんこよ!

ダン・レイリー :調子を取り戻してきて結構だよ…束の間の幸福にしてやるさ

ブルー・ディキンソン :わっかりやすうい……

ダン・レイリー :利口な番犬だったようだが狙いは悪手だな…仕掛ける余地が出来たぞ!

ダン・レイリー :
[Set up]
◇R因子戦闘管制
・《赤方偏移世界Lv5》

ダン・レイリー :対象は引き続き此方で、使用者は僕だ。引き続き追跡者を気取らせて貰う…!

"コードトーカー" :ふん……行動値がジェノサイダーを上回ったようね

水無瀬 進 :さらに固定値もアップだ! 幸い障害物は見えない、今なら行けるよ!

アトラ :突っ走るには善い条件ってね~ あのデカいのとかがどう動くのか不安だけども……

ダン・レイリー :どのみち危ない橋は渡った後だ 勝負から降りる時間は過ぎているよ

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :はい……今は突き進むのみです

灰院鐘 :ごーごー!

SYSTEM :-SETUP PROCESS-
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Dan

アトラ :ほいじゃミナセさん!ウチらでキャプテンたちの道を拓きましょう!支援で!

水無瀬 進 :了解だ!どんとこいだよ!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

アトラ :8dx 支援判定:【社会】! (8DX10) > 10[1,4,5,5,7,8,9,10]+1[1] > 1

アトラ :しょっぱい回り!!!

水無瀬 進 :なあに勝ちは勝ちさ!

アトラ :そっすね!

ダン・レイリー :そうだな、有効打なのには変わりない。助かるぞ

SYSTEM :【判定に成功しました
 判定に固定値を+3加算します】

水無瀬 進 :よし、それじゃあ頼んだぞキャプテン!

アトラ :レッツゴーゴー!

ダン・レイリー :了解した、バトンは確かに!

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Dan

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ダン・レイリー :
[Main]
進行判定
〈知識〉:機械工学(8dx+11)

ダン・レイリー :先のダメージで侵蝕率が増加したのが吉と出るか、凶と出るか…

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :8dx+11 〈知識〉:機械工学 (8DX10+11) > 9[2,3,3,5,5,6,8,9]+11 > 2

ダン・レイリー :まさか俺の側が綱渡りとはな…それもギリギリだ

水無瀬 進 :良い腕だろ? アトラちゃんに感謝しなよ

ダン・レイリー :全くだ…お陰様で届いたぞ

ブルー・ディキンソン :最高じゃないけど最悪でもない、上々!

アトラ :いえ~!まあ何が起こるかわかんねっすけど!

SYSTEM :【判定成功!
 進行度を+3進めます】

判定値:9⇒12

SYSTEM :
【UNIT Aがイベント発生進行値:12に到達しました】

SYSTEM :
【 CAUTION! 】

【ジェノサイダーの無差別攻撃の余波によって街が破壊される!
 倒壊した建築物が進路を阻む!
 崩れる瓦礫を回避しなければ、先には進めない。
 直ちに1ユニットごとに〈回避〉で難易度10の判定を行う。
 失敗した場合、そのユニットは行動済みとなる(プレイヤーユニットが此処を通過した場合、この判定を回避できる)】

SYSTEM :
【判定後、コードトーカーは封鎖状態となる。
 次のメジャープロセスにてFS判定を行うことが出来ない】

GM :というわけで

GM :ジェノサイダー君が暴れ回るばかりに瓦礫が落っこちてきました
向こうはそれで足止めを喰らってるみたいなので、うまく瓦礫を躱してチャンスをものにしてください!ということですね

ダン・レイリー :“何が起こるか分からない”…なるほどな

GM :先に通過したダンさん達は、うまく落下地帯を抜けたみたいです。お見事!

GM :そして抜けられなかった鐘さん一同……
<回避>判定の時間です

GM :とはいえ

GM :今はノリにノッている!

GM :固定値5も乗るのだからな!

灰院鐘 :やった~

ダン・レイリー :其方も切り抜ければ転じて仕掛け時だ、頼むぞ…!

ナタリー・ガルシア :見せる時が来たようですわね!!鐘さんのドライビングテクニックを!!!

GM :では一人目の判定!どちらかが成功すればユニットBは成功となる!

GM :さあどちらから振る?

灰院鐘 :僕が行こう いいかな

ナタリー・ガルシア :任せましたわ!

灰院鐘 :11dx+6 (11DX10+6) > 9[1,1,3,4,5,6,6,6,6,8,9]+6 > 1

ナタリー・ガルシア :さすがですわ〜〜!!!

SYSTEM :【判定に成功しました】

ダン・レイリー :彼方も無事か…! いい走りだ、“ラフメタル”

灰院鐘 :がんばって追いつくよ!

ブルー・ディキンソン :やるう!

アトラ :ウオー!ナイスナイス!巻き込まれんでよかった!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :危なっかしい走りですが、無事で何よりです

"コードトーカー" :ぐっ、この単細胞の猿どもが…………!!!

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Dan

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER="Genocider"

SYSTEM :
-MAIN PROCESS-
PLAYER="Genocider"

"Genocider" :choice A B (choice A B) >

"Genocider" :
メジャーアクション:
  アクセラレイター
【 緊急加速 】
《コンセントレイト:ノイマン LV2》+《スキルフォーカス:知識:機械工学》LV4》

DICE:12dx8+8

"Genocider" :12dx8+8 緊急加速《アクセラレイター》 (12DX8+8) > 10[2,2,2,4,4,5,6,7,8,9,9,9]+10[3,3,4,9]+4[4]+8 > 3

SYSTEM :
【判定成功!
 進行度を+4進めます】

判定値:4⇒8

ダン・レイリー :暴れ馬め…彼方が追い付かれたか!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :おーおー、随分近付いてきたね

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :そろそろ拙いよ~?

アトラ :ナタリーちゃんとショーさんが……!

灰院鐘 :大丈夫! 何とかするよ

ナタリー・ガルシア :大迫力ですわね……!ですが、近づいたのならばやりようはありますわ!

灰院鐘 :できなかったらそのときは……

灰院鐘 :そのとき、だ!

ナタリー・ガルシア :…………ピザ生地のようになるかもしれませんわね

"Genocider" :────────────

"コードトーカー" :けれど、一手遅れるわね……本当に腹立たしいけど、ここは無茶を通しに行こうかしら

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER="Genocider"
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER="Code Talker"

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER="Code Talker"

"コードトーカー" :
マイナーアクション:
  バスターモード
【 照準設定 】
《クイックモーション LV1》+《アサルトルーティン LV1》+《ターゲッティング LV3》

Option:攻撃力+10,ダイス+3

"コードトーカー" :
マイナーアクション(クイックモーション追加分):
戦闘移動(1マス移動)

"コードトーカー" :

"コードトーカー" :choice Dan Blue (choice Dan Blue) > Da

ダン・レイリー :

"コードトーカー" :choice Natalie Syou Dan Blue (choice Natalie Syou Dan Blue) > Natali

"コードトーカー" :
オートアクション:
《カリキュレーター》

メジャーアクション:
  ブルートフォース
【 飽和狙撃 】
《コントロールソート:射撃 LV1》+《コンセントレイト:ノイマン LV2》+《確定予測 LV3》

DICE:13dx8+4
DAMAGE:nd10+14
Option:射程200m、対象:単体,リアクション時のC値+2、ダイスデバフ無効化

"コードトーカー" :13dx11+4 飽和攻撃《ブルートフォース》 (13DX11+4) > 10[1,2,3,3,4,5,5,7,8,8,9,10,10]+4 > 1

"コードトーカー" :オートアクション:
 コ ー ドト ー カ ー
【秘匿を破る者】
《天才 LV3》

Option:判定直後、達成値を+【精神】(8点)加算する

"コードトーカー" :14に、後付けの固定値8が乗って……判定値は22よ!

ダン・レイリー :此方ではない…ナタリーか…!

ナタリー・ガルシア :それでは、私はガードを宣言します!

"コードトーカー" :はん!無駄無駄!

SYSTEM :【ユニット:Natalieがガードを宣言しました。ダメージ判定を行います】

灰院鐘 :《軍神の守り》でナタリーくんを庇おう。併用するエフェクトは今回も《イージスの盾》だ

"コードトーカー" :邪魔を……!

system :[ 灰院鐘 ] 侵蝕率 : 33 → 38

system :[ "ラフメタル"灰院鐘 ] 侵蝕率 : 56 → 61

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

灰院鐘 :3d10+17 (3D10+17) > 16[7,7,2]+17 > 3

"コードトーカー" :硬い…!

"コードトーカー" :3d10+24 ダメージロール (3D10+24) > 26[6,10,10]+24 > 5

"コードトーカー" :けど、生憎……セキュリティホールを狙い撃ちするのは得意なのよねえ!!

灰院鐘 :流石に響くなあ……! でも、まだいけるよ。頑丈でよかった。

灰院鐘 :アリベイトスーツの効果を使用するよ。ダメージを軽減だ

system :[ "ラフメタル"灰院鐘 ] HP : 53 → 41

ナタリー・ガルシア :だ、大丈夫ですの……?ものすごい音がしましたが……

灰院鐘 :かるい擦り傷だよ

ダン・レイリー :あれがかすり傷か…分野の違いとはいえ、大人の肩身が狭いな

ダン・レイリー :ともかく無事だな? 一安心だ。(忘れていた侵蝕処理をそっとしながら)

system :[ “ホワイト・スカイ” ] 侵蝕率 : 88 → 90

灰院鐘 :うん、まだまだ元気だよ。それに向こうも切羽詰まってきたらしい。今のうちに距離を詰めないとね

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER="Code Talker"
 Complete!

SYSTEM :-INITIATIVE PROCESS-
NEXT PLAYER=Blue

SYSTEM :-MAIN PROCESS-
PLAYER=Blue

SYSTEM :

SYSTEM :【行動を宣言してください】

ブルー・ディキンソン :ボコる。……もとい、攻撃!

ダン・レイリー :自ら間合いに来てくれたんだ…今度は忘れたなどと寝言を言わせるなよ!

ブルー・ディキンソン :<メジャーアクション:攻撃宣言>
<判定:白兵>
<武器:決闘者の剣→対象:単体の際、攻撃力さらに+4>

<コンボ:ジェット・ストライク>
<エフェクト:コンバットシステム【白兵】>

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(3+1+4+3)dx+34 <肉体:白兵> (11DX10+34) > 10[1,2,3,4,5,6,7,7,9,9,10]+4[4]+34 > 4

"コードトーカー" :ぐ……おのれ!

ブルー・ディキンソン :ざまあ!

"コードトーカー" :リアクション:
 リグレッション
【緊急回避】
《リフレックス LV1》《アナライズ LV5》

Option:回避時ダイスを+5加算する

"コードトーカー" :8dx9+8 緊急回避《リグレッション》 (8DX9+8) > 10[1,1,3,4,4,6,7,10]+7[7]+8 > 2

"コードトーカー" :こんなバカな……!!

ブルー・ディキンソン :(声帯パーツの変声スイッチを押しながら)よく頑張ったようだが、とうとう終わりの時が来たようだな……

"コードトーカー" :このガラクタ人形が……!!!

SYSTEM :【ユニット:"Code Talker"が回避に失敗しました。
 ダメージ判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :ガラクタに斬られる気分ってどんな気分ー!? そんじゃ

ブルー・ディキンソン :(4+1)d10+11 <ダメージ> (5D10+11) > 31[6,8,2,9,6]+11 > 4

"コードトーカー" :
オートアクション:
 ロールバック
【即応防御】
《ひらめきの盾 LV2》

Option:ダメージ計算直前、対象へのダメージを-10する

ブルー・ディキンソン :悪あがきがお得意ネー!

SYSTEM :
【"Code Talker"が戦闘不能になりました】

SYSTEM :
【FS判定クリア条件を達成しました。
 戦闘を終了します】

SYSTEM :
 次々と迫る追手を蹴散らしながら、ワーディングによって人々の灯のみを残したロサンゼルスのハイウェイを駆る。
 レネゲイドの因子を燐光として散らしながら、朱いテールランプの残光を軌跡として夜街に刻む。
 
 オーバースペックのマシンを限界ギリギリまで加速させるコードトーカーと、本来の性能など無視した超人の加速。
 そこは超人の実が立ち入れる超高速の世界だった。故に篩に掛けられるのは、常に凡庸な手勢から。
 

強化猟兵 :
 囮として用意し、また妨害の為の手勢として遣わせた強化猟兵都合八機。
 敵の分散を画して放たれた彼らを再度集めて妨害に充てたコードトーカーであったが……自らのレネゲイドを最大限駆使した異次元の走りを見せる彼らに、既に追随することが困難となっていた。
 横合いから躍りかかる、発砲するなどで彼らの征く手を阻むも、その勢いが衰えることはない。

"コードトーカー" :
「チ……!」

 わかっていたことだが、寄せ集めのこいつらでは足止めにもならない。敵と自己の戦力差ぐらい、彼女とて把握していた。どんどん距離が詰められていくことに、彼女は焦燥を隠せなくなっていく。
 リザレクト能力によって傷は再生していたが、痛みは変わらない。何より実験動物に傷をつけられた事実に対する怒りが、彼女に一つの決断をさせた。

"コードトーカー" :
「(────────ぶち殺す!)」

 こいつらは殺す。
 殺して踏み越える。
 都合よく撒いて逃げるなどという甘い手は最早取らない。取れるとしても、それは目の前の障害を手ずから除いた後だけだ。
 頭に血が上っていたのもあるが、それ以上に避けては通れないと明確に認識した。
 

ダン・レイリー :
 元より囮の八台を分散させられるような分岐点に到達することもなく、到達する前から行われた追跡に、そもそも“コードトーカー”が自らを隠匿しようという心構えはなかった。
 なれば当然のことだ。追随に伴うアクシデントを“雷霆精”に任せ、遠距離からの射撃には逐一ガンビットによる重力場の偏向で対処する。撃ち合いともなる前に先手を撃ち、死角からの射撃で横転狙い。接近してくるものには“雷霆”が対応するか、そもそも近づける速度で走らないから付き合わせない。
 
 結論───“コードトーカー”の用意した人員という第一の壁は、既に突破されたも同然だった。
 構わず追走を続けながらも、しかし目視できるギリギリを走るものが放つ敵意のヴィジョンが消える兆しはない。

ダン・レイリー :
「(ならば───)」
         ...カルテ
 ───既にヤツは、実験結果を暢気に見届けているような場合ではないはずだ。
         ノイズ
 その怒りが持つ計算の乱れ、吉と出ようが凶と出ようが、ここで踏み込まない理由はない。

「詰めさせてもらうぞ、“コードトーカー”…!」

"コードトーカー" :
 確かに目の前の敵の数と質を考えれば、ホワイトカラーのコードトーカー一人ではどうにもならないだろう。
 だがそれは直接向き合っての、純粋な性能を競う場合の試算だ。
 勝利条件が逃げ切ることなら、決して分の悪い戦いではない。

「"Genocider"──ッ!!!」

 怒号と共に起動させた虐殺の魔戦車が、指揮者の怒りに呼応するが如くに急加速を開始する。

"Genocider" :
「────────────────」

 歪な電子音を鳴らしながら、敵機は地を均す如くにその速度を上げていく。
 障害物を馬力で踏み潰しながら疾走する巨大な敵影。それは、遂には逃げ遅れた強化猟兵をも踏み潰し轢き潰して確実に、先を進む彼らの速度に追随し始めていた。

ダン・レイリー :
 しかしヤツの勝利条件は、此方を鏖にすることではない。
 逃げ切り、姿を晦まし、仕切り直してしまえば時間がヤツを守ってしまう。
   ツマリ
 ───逆説。
 そのための駒があるなら、どうあれ使う時は今だ。

「熱源、来ているか………!
 此方が分かること、“ノイマン”が理解らぬ道理もない………!」

 無慈悲に動き出す鉄の処刑人。
           ポーン
 利用価値のなくなった歩兵を脇にどけて繰り出すのは、
           ルーク
 女王を守る唯一無二の戦車というところか。

ブルー・ディキンソン :「困った天才だこと!」

ダン・レイリー :「全くだ………! だが主想いの猟犬に構っても居られん、ここは───」

SYSTEM :
 ……時に、コードトーカーの能力はノイマンである。その本質は自己の神経系でネットワークを構成することにあるが、多くの場合内的なものである。基本的に物理的影響を齎すことはない。
 だが……彼女は自らの能力の研究により、それより一つ上の段階に達している。

SYSTEM :
 それが『レネゲイズワーム』を始めとする──自らの因子を演算素子として使用し、神経回路を外部化する技術だった。
 レネゲイドウイルスは時としてEXレネゲイドとして電脳世界に影響を及ぼすこともある。AIDAと呼ばれるオーヴァードの残滓を遣った人工知能技術などが代表例だ。

 彼女の場合、自身のレネゲイドの因子を抽出し、特定のプログラムを組み込んで外部に発散することにより、専門的な処理能力を付与する事に成功していた。

SYSTEM :
 『レネゲイズワーム』は、無秩序な自己生殖機能を付与したプログラムとしてアウトプットされ、アメリカのネットワーク全域に垂れ流されたものだ。
 既存の電脳を潜り、ネットワークの悉くを埋め尽くし分裂するウイルスは、コードトーカーの因子を潰さない限り破棄できない致命の毒となっている。
 だが、それは飽く迄方向性の一つに過ぎない。

"Genocider" :
 このメタルジェノサイダーがそうだ。

 追尾するジェノサイダーに搭載されている戦闘用AIはコードトーカーが自らの因子を外部化して機体にインプットしたもの。
 無人機は搭載した戦術AIによって大きく性能が変化する。どれだけスペックばかりが達者な新型機体でも、AIが凡庸であれば多少優れていれば旧型機でも討伐しうる。
 だが、この機体にそれはない。今このジェノサイダーには天才の戦術頭脳すらも獲得している。
 

"Genocider" :
 追跡戦という状況に適応し、すかさず最適な武装で迎撃を開始する。
 重力バラストを調整し、射撃の最適姿勢を維持したまま最高速度に到達。モノアイが補足するのは、目下本体であるコードトーカーへ最も肉薄した敵機である。
 本来ならばこの距離の射撃を、しかも移動しながら砲撃して当たる筈もないが─── 

"Genocider" :
 両肩部に備えた砲門が稲光を放つ。僅か数秒の内に収束を終えたそれは、魔眼を加速器とする粒子加速砲に他ならない。
         ハドロン
 亜光速で加速した重粒子が砲門から解き放たれる。
 拡散する砲門から打ち出される黒い閃光は、常ならば敵の移動距離速度方向の演算は勿論のこと、電離率や磁気嵐の影響等を考慮すれば地上で、走行しながら発射して当てられるはずがない。
 だが…恐るべきことに、それすらも勘定に入れて確実に、砲撃は200m以上離れたダン・レイリーとブルー・ディキンソンを過たず狙撃していた。

"コードトーカー" :
「まだまだァ!」

 そして……
 補強されているのは、ジェノサイダーのみに限らない。極論電子媒体であるならば、何であれコードトーカーのAIDAによって補強することが可能。
 それはこのモンスターマシンも然りであり、携行する武装すら同様だ。

"コードトーカー" :
 自動運転に切り替えつつ、超高速の暴風の中を鮮やかな身のこなしで姿勢を反転。背後に身を向けて敵影を補足するや、殺意と共に車載したウェポンケースから排出された大型自動小銃を手に。
 ヘカートIIを素体として大幅に改造を加えたセミオート式の50口径対物ライフル。FHの技術による自動照準機構に魔改造を加えた、天才たる彼女のみが使用できるオーダーメイドだ。
 レネゲイドウイルスによる暗証機能を解除し神経回線を簡易接続、荒ぶる車上で危険度を認識、敵機に照準を設定する。この間僅かコンマ3秒。

"コードトーカー" :
 彼女の高速思考と連結し、疑似的なアームズリンクを果たした火筒が抜き打ちにも等しい速度で撃ち放たれる。
 立て続けに三発発射される魔弾。何一つ神秘の籠らない弾丸だが、魔法にも似た計算の編み出した軌跡は吸い込まれるように敵の胴体に向けて直進していた。
 それは、ジェノサイダーの攻撃が直撃するタイミングに合わせ、その隙を埋めるようダンとブルーに向けて。
 また、後方から着実に近づいてくる小生意気な小娘に対しては、牽制を目的として撃ち放たれる。

ダン・レイリー :
   ・・・・
「───高熱原体!」

 予想よりも遥かに早い震動。
 鋼鉄の嘶きが齎すものを背中で感じ、アラート代わりとばかりに焦燥を交えた声が上がる。 

ダン・レイリー :

 鋼の骨格と電子の頭脳で動く殺戮の機兵。
 追う者を追われる者に変貌させんとするアサルトギアは、
 人間でないのだから攻撃に殺意などという余分を乗せない。

 ましてやアレの本懐は長期の撃ち合いなどでない。
   ペイロード
 その最大積載量から持てる火力と、十分な機動力で叩き付ける電撃作戦だ。
 それを考えると、面制圧的な大火力を搭載しない理由はなく、ましてそんなものがあるなら此処で発射しない道理もない。

 あてずっぽうでも脅威になるし、事実このタイミングで撃たれるならそれによる走行妨害と思うのが自然だ。

ダン・レイリー :
「(よもやここまで正確とは!)」

 だがその着弾予測………最大戦速による走行中、姿勢制御の難易度も並大抵ではなかろうと予測がつくこの即時射撃において、尚も僅かたりともブレることはない。

 此方の速度を緩めなければ確実に直撃コースを通り、
 緩めたところで発射された重粒子砲の範囲はかすめただけで此方の足を大破させる。

 それだけの威力があり、またそれを確実に通してくる。
 自分の脳裏に浮かんだ、数秒後に来るだろう事実がそれだ。

ダン・レイリー :
 ………ところで。
 自分の持つエンジェル・ハイロゥのシンドロームが齎す強化は、五感よりもむしろ別のところにおける割合が大きい。

 人工物相手では役にも立たない殺意の計測器。己自身にあるソレが、今度こそ脅威を測定していた。

ダン・レイリー :
 あるいは、脅威の察知と同時に実害が齎されたのかも知れないが、その“レネゲイド”の持ち主にとって、察知出来た時点で既にそのラグは修正できる誤差に過ぎなかった。

ダン・レイリー :
 結論から言えば。
 ダン・レイリーはたった今、対人には過分のマテリアルライフルの直撃を受けて、
 心臓を中心にずいぶんと風通しの良い大穴を開けていた。

ダン・レイリー :
 瞬きをする暇もない出来事である。
 重粒子砲の直撃予測を立て、対応のためにガンビットを展開し、
                   ・・・・・・
 守るべき優先順位を形成し、いままさに実行に移した直後の即死であった。

ダン・レイリー :
「グ───」
      Overed
 しかし己は超人である。
 必然、傷とは究極的に死以外のすべてが可逆である。人間では即死の心臓への傷も、レネゲイドに掛かれば不自然を自然に出来る。

 ガンビットによる小細工を行えず、またレネゲイドの展開先を“そう”向けたが故に、自らを侵蝕するレネゲイドは普段より威勢が良いようにも感じたが。
 ダン・レイリーはこのタイミングで即時に蘇生、吹き飛びかける身体に重しを乗せるように重力制御をかけて操縦をキープし………。

ダン・レイリー :
 そして本来、同時着弾するべき重粒子砲は、

 未だこの二輪バイクに届かない。
 厳密にはあって1秒ほどのラグしかないだろうが、それでも同時刻には成り得ない。

ダン・レイリー :
 理由は単純だ。

 ダン・レイリーのバロール・シンドロームを規定としたR因子の事象管制。
 単純なものでは因子が起こす事象の加速、動作そのものを数秒先への先送りなどとあるが、これを応用。

 ガンビットをあらかじめ防御陣形でハドロン砲の射程に並べ立て、重力フィールドを展開、押しとどめる壁として使うことで、これの着弾を僅かでも遅らせる。

 どだい、対人兵器と電撃作戦用のアサルトギアだ。出力が違うが、出鼻をくじくように数基一斉に展開された偏向バリア・フィールドは、粒子砲の計算を狂わせるには十分すぎる。

ダン・レイリー :
    ・・
 結果、1秒の隙間が出来る。
 同時着弾ではなすすべも無く即死であろうが、これにより“コードトーカー”のライフル弾による即死から、1秒だけ自由に使える時間が生まれる。

 もちろん無意味な足掻きである。
 それはそうだ。事実俺一人では、そうならざるを得まい。

ダン・レイリー :…そう。

ダン・レイリー :
   ・・・・・・・・・  ・・
「───借り一つくれてやる! 斬れ!」

ダン・レイリー :
 俺一人、の場合だ。

ダン・レイリー :
 前半はどこぞで見ている女へ、切羽詰まったカンダタの蜘蛛糸強請り。自分ではなく“足”の守りを補えと言う、コンマ単位の無茶振り。

 そして後半も───意味はシンプルだが、被害状況を確認してもいない状況から繰り出される、一刻を争う類の無茶振りであることに代わりはなかった。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《──アイサーまいどありキャプテン殿! 
 この貸しは高く買い取ってもらうよ。駄賃は、あの女狐の泣き面ってことで》

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《アッハハ、まーもう既にさんざ顔芸晒して笑わせてもらってるけどねえ!》

 ケタケタと、ダンの体内にも忍ばせた絲を通じて笑う声が響くと同時、それは撃ち放たれた。
 発射されるのは、蛋白性の粘糸。
 射撃をもろに喰らったダンとブルーに対して即座に巻き付けることで、レイラは着弾時の衝撃によるバイクから落下を未然に防いでいた。
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《ほんとならこのままあの女狐んところまで飛んで行って、ボコボコにぶん殴ってやりたいとこだけど……
 面倒臭いコトになりそーだしね。あとはキミらで頑張りなよ。その代わり、キッチリしめてよね》

 相変わらずレイラの姿は見えない。水無瀬の眼を警戒してのことだろう。しかし、神出鬼没の足疾鬼の面目躍如というところか。
 身を隠したままでも、必要な支援をすかさず飛ばすことは造作もない。

ブルー・ディキンソン :
Ay,sir
「了解」

 ダン・レイリーの掛け声と共に”雷霆精”は一切の雑念を捨てた。
 今更精密狙撃の見事さに驚いている場合ではなく、ブルーはその先を想像する。
 天才と天才の騙し合いは、一手の差し合いが重要となる。
 互いが互いに弾き出した解を、互いの”悪知恵”で上回ろうとする競争だ。

ブルー・ディキンソン :
 “雷霆精”がそこで無心の状態に入ったのは、先を予見した結果だ。

 ここから重要になるポイントの対処を、”ホワイト・スカイ”に全て投げた。
 根拠のない信頼だが、今この瞬間で理屈で塗り固めたもの以上に価値がある。

ブルー・ディキンソン :
 だからこそ。
 自然体で振り上げた右手に左手を添えた構えは、何者にも崩すことができない。
 例え彼女の土手っ腹が、真ん中から穿たれて、青白い血を流し続けていてもだ。

ブルー・ディキンソン : 
 脳を収めた”殻”が壊れない限り──首から下が壊れて使い物にならなくなったとしても、この妖精はけらけらと笑い続けるだろう。

 血を失ったことによる禁断症状の現れを、全身を巡るレネゲイドが急速に緩和させ。
 これによって失われていた脳から手足へのリンクを修復していく。

 義体を満たすホワイトブラッドは、あくまで生物の模倣でしかない。
 真にこの躯体を動かすのは、進化の因子のみ。

ブルー・ディキンソン :
 一連の再起動を秒速で終わらせ、しかしそれでも瞬き一つ起こらない。

 "千刃空夜叉”の手によってバイクに巻き付けられたその躯体は、より一切のブレを産まず構え続けている。

ブルー・ディキンソン :
 売り言葉に買い言葉を放っていた減らず口も開かない。
 たった一瞬、糸が絡れあった末に生まれる一瞬の”解き目”を逃さない。
 ほんの一瞬、刹那に果てにある一の太刀を、全身全霊で信じた。

ブルー・ディキンソン : 
,

「”一刀雷切”───”千鳥の太刀”」

ブルー・ディキンソン :
 見開いた目とともに業の仇名が詠まれる。 
 雷鳴轟き加速領域の中でも、女の声は猛々しく響き渡った。

 この1秒で開かれたブルーの一手は、確実な勝利ではなかったが、致命的な負けでもなかった。
 オーダーを忠実に実行するには十分すぎるストレート。
 

ブルー・ディキンソン : 
 ライキリブレードMk-Ⅲは、その名に反して帯電する。
 武器そのものを自身と同調させ、切先が触れた瞬間に増幅させることで相手に過分なダメージを与える。

 今回は、その増幅を過剰なまでに膨れ上がらせたのだ。

 レネゲイドが最も活性化する”再起動”の時だからこそ、この1秒だからこそ出来る馬鹿げた一刀。
 刀が受けきれない"雷"は無限に放出され続け、空を穿つスプライトと成り果てる。

ブルー・ディキンソン :
 雷を切る千鳥の剣が、雷を無限に放出しながら振われる。
 全く馬鹿げている。

 馬鹿げた一撃だからこそ、大いに叫ばせてもらおう。
 構えから一振りに至るまで、ブルーという女を構成する無数の剣術から、選び取ったものの有名な叫びをだ。

ブルー・ディキンソン :
.



「チェスト──────ッッ!!」



.

ブルー・ディキンソン :
 重力フィールドによって押し留められていた、命を散らす光。
 1秒の末に、ライキリブレードはこの光を”捉えた”。
 重粒子砲の光芒を”雷”と認識し、ブルーもそう”思う”ことで最大の効果を発揮。
 

ブルー・ディキンソン :
 ライキリの切先が青白く輝き、巨大な”雷”の刀身を生み出し……、

 悪魔の殺戮兵器が吐き出した黒い閃光を、なんと真っ二つに切り裂いてしまったのだ。

 収束した重粒子が行き場を無くした末、どのようになるかは想定通りだが──

 減衰し飛び散ったそれらでは、もう止まることはない。
 "天才"の驚く顔が想像できる。
 ゆえにブルーは先んじて、嫌みったらしく口を開く。

「ライちゃんにぃ……斬れぬものナシ───ってねェ!」
 

"コードトーカー" :
 手応えあり……そう感じたコードトーカーのほくそ笑む表情が僅かな驚愕と怒りに代わるのは、そう時間はかからない。

「クソが……! しぶとくしがみついてるんじゃない…!」

 コードトーカーはレネゲイドの申し子たる他の幹部と比べれば非力と言わざるを得ない。だが、この状況下においては非常に分かりやすい方法で相手を退場させることが出来る。出来ていた筈だった。

"コードトーカー" :
 粒子砲による負荷で対処に負われたところを的確な狙撃で叩き落とす二段構え。如何な猛者とて、この機体スペックを遥かに超える負荷をかけた綱渡りの状況で波状攻撃は受けきれまい。
 必ずボロを出し、累積したミスは落下という形で露わになる。まして、一瞬のコントロールのミスが命取りとなる局面、双方がそれに対処しきれるはずもない、と。

"コードトーカー" :
 だが現状はこれだ。綱渡り気味であったとて、捌き切っている。
 重粒子の大波を断ち切ろうとした諸行自体に驚きはしたが、決して不可能という訳でもない。それを断ち切るための過負荷で結局消耗していることを鑑みれば天秤が釣り合う計算だ。
 だが。それが出来たところで、結局の所機体の制御が狂い転倒するというのがコードトーカーの見立てであったのだ。

「(この私の計算が狂ったですって?
 ……あの小娘の性能は既に把握済、ダン・レイリーについても強化猟兵との戦闘で解析は概ね終了していた筈。テンペストのエンジニアにあの状況下を対処できるものはいなかった……!)」
  

"コードトーカー" :
「(いや……)」

 それだけではない。先からこちらの情報が筒抜けであることなど、様々な要因がこちらの不利に働いている、幾らアウェーであったとしてもこんなことが立て続けに続くものなのか。
 
 怒りと共に並行する、時間にして秒も満たない思考を、しかし今は切り捨てる。
 何を恐れることがある。まだ此方が圧倒的に距離でリードしている。一の矢で足りぬなら二の矢で仕留めればいい、それをするだけの余裕は十分にある……!

"コードトーカー" :
「一丁前に吼えてんじゃない! そんなにどてっぱらに風穴開けられたいのなら、好きなだけモツぶちまけて無様に這いずりな!」
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《……だってさ。怖いねえーヒス拗らせた女は。
 でも今の連携は中々だったんじゃない? ねえキャプテン?》

ダン・レイリー :
    Good Job
「───いい仕事だよ。まったく上出来だ。
 此方もまとめて出したオーダーの分、義理を果たさなければな」

 全くよくやってくれた、と言外に一言。

ブルー・ディキンソン :「ぶちまけるモンも無けりゃ、地面と寝る趣味もねーんだよナぁ……ま、ま、及第点でしょ」

ダン・レイリー :「先程の傷がたいそう鶏冠に来たようだからな。途中脱落者も出ている………変わらずスピード勝負と行くか」

ブルー・ディキンソン :「アイ・アイ、二の太刀要らずといかなかったのが残念」

ダン・レイリー :
「名は体を表したばかりだろ?
 そいつと比べたら、次は実体もある。斬れるところまでは運ぶとも」

ブルー・ディキンソン :
「期待しとく。
 地面に這いつくばるのはあっちってね……へへ!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《でもあいつ、頭は回るからね。そろそろこっちに気付くかも。
 そうなると後一手が結構きついかもだ》

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《こっちが攻める分、その度に速度を合わせなきゃいけないし、向こうがリードしててきっちりこの距離でも攻撃を当ててくる。
 向こうだって闇雲に逃げてる訳じゃないだろうから、この調子だとホントに撒かれる可能性だってある》

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《急ぎなよ、あっちの計算の外をあと1,2回は突かなきゃ戦いに勝っても勝負に負ける。
 前者は兎も角後者に負けるのは一番困る》

ダン・レイリー :
「ああ。維持したのはイーブンだけだ」

 無茶振りを強いた結果として、少なからず消耗したことは認めざるを得ないが、しかし。
 この機体は僅かたりとも減速せず、また態勢を崩しさえもしていなかった。 

 これで漸くイーブンの状況を維持した。
 進展ではないのだ。二度、三度と奇策が通用しない以上、奇策のカードをまだ残している“もう一組”ではない我々がするべきことは一つ。

ダン・レイリー :
「………だが彼方にも隠し玉がこれ以上あるわけではないと見る。なにしろ今がその好機だった。
 カードは出し尽くしたわけだ」

ダン・レイリー :
    ロジックエラー
 ならば計算外のひとつやふたつ、嫌でも起きるし、起こしてやるさ。
 操縦桿を握り、向こう側を走る鋼の獣に目をやる。同時に、先のぶっつけ本番にも意識を向けた。

ダン・レイリー :
 背を預けて無茶振りを飛ばした一人は、組むのもあるいは初の相手。
 飢えも渇きも、あるいは片鱗さえ知らぬのかもしれないただの10代は、
 “ただの10代“ではいられない代わりに、ある一つの分野におけるプロフェッショナルであった。

 それは嘗て己を徹底的に屠ったものとは似て非なる殺人剣。
 在るものを徹底的に突き詰めた”ヤツ”のそれとは、こと重きを置くものが違ったように思う。

ダン・レイリー :
    Overed
 初めから超人のために在り、超人を斬るための。
 一騎当千の枠組みさえも逸して屠るための。
 最初から、レネゲイドの使い方を熟知した、天性の一振り。

 斯く在りき、に対するコトを前提とするモノ。
 それが先の正体だろう。さらに突き詰めていくと、要するに………。

ダン・レイリー :
.   .ノイマン
 ───天才性の違いだ、と。
 ひとり合点する。

ダン・レイリー :
 軽く口元を緩める。
 
 切り抜けた。
 然るに、次の行動は一つ。

ダン・レイリー :
「───追撃続行だ。
 ・・・・・・・・・・・
 斬られる前に斬りに行く!」

ダン・レイリー :
 奴の計算速度を現実で上回り、
 無敵のロジックにエラーを起こす。

 無理難題だが、シンプルで結構だ!

ブルー・ディキンソン :
「あっはっは! イイね。
 とてもイイ──そういうの大好き」

「なら……」

ブルー・ディキンソン :
、 コードトーカー
「あの"天才"の冥府への案内……、
 私とライちゃんが仕る、ってね」

 目元を細めて剣を鞘に収める。
 先は一の太刀を疑わずといったが、再び肉薄すれば打つは必殺剣。
 次なる構えは居合といくのが"洒落て"いるだろう。

ブルー・ディキンソン :
《ま、それに……》

 再び開いた口は肉声ではなく、
 一瞬の秘匿回線と、こちらを視ているレイラへと向けられたものだった。

、   、   、 ・・・・・・・
《私の"しつこさ"は、よぉく知ってるデショ。
 だから困ってないで、腕組んで見てなさいな》

 思えばあの時から、何かを追って走ってばかりだな? と少し自嘲も交えながら。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《アッハハ、それもそうだった!
 じゃあ期待を裏切らないようにしてくれたまえ、チップは弾むよ? サイボーグメイドニンジャさん!》

 ケラケラと、絲を通じて女の陽気な笑い声が響く

ブルー・ディキンソン :
《だぁからメイド服は───》

 と続きを叫びかけて。
 いかんいかん、と頭を振るって意識を戻す。
 此処からが重要だ、詰みの一手を打つための。

 狙うは一点、真っ直ぐぶち抜く!

SYSTEM :
 コードトーカーとのデッドヒートを繰り広げるダン、ブルーの両者の一方で、それから約100mほどの距離を置いて鐘とナタリーの車両もまた熾烈な激戦が続いていた。

"Genocider" :
 無機の怪物が迫る。両肩に必殺の粒子砲を備え、バイクの速度にも追随する規格外のモンスターマシン。
 鐘を妨害せんと突貫し、それに失敗し横転した強化猟兵たちを押し潰し、踏み潰して前へ前へ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 それでも強化猟兵たちは恐れを知らず、足を引こうと突貫してくる。

 このままでは最悪轢き潰されるか、そうでなくとも妨害で距離を詰めることが出来ない。
 前衛に掛かる負荷は増える一方だ。故に……

「"ラフメタル"!
 道は私が作ります! 今は出せる限りの速度を!」

灰院鐘 :
「これは……きついかもだ!」

 強化猟兵たちの妨害をナタリーと共に捌いていた彼も、地を均しながら迫る巨影には手こずっていた。先へ先へと進むことも、後方の敵を留めることも困難。

 ──その窮状へ、一声が飛ばされる。

灰院鐘 :
「分かった!」

 一も二もなく応じて、スロットルを開く。車体性能を限界まで引きずり出され、暴れ狂うも同然のバイクを乗りこなしているのは、技巧による操作などではない。

 跳ねる車体を強引に路面へ抑え込み、持てる馬力のすべてを加速に転じさせる。それはもはや力尽くで猛獣を組み伏せているに等しい暴挙だ。

灰院鐘 :
 破滅的でさえある直進。その寸前、

「聞いたね、ナタリーくん! しっかり掴まってて。それと……」

灰院鐘 :「出せるかぎりの速度だ! 頼めるかな!」 

ナタリー・ガルシア :「――任せてください!!」

ギリギリ両手が回る背中に、精一杯しがみつく。
そのままの体勢で、託されたオーダーに応えるべく能力を行使する。

ナタリー・ガルシア :衝撃にも似た推進力。
その正体は前方からの大気を圧縮、加圧して噴射するジェット気流にも似た暴風による加速だ。

前輪が僅かに浮いて、マシンの限界を超えた速度を実現――音の壁に迫り、そして瞬間的に超える。

音速超過の証明として円状の薄雲が生まれ、即座に散る。生まれた衝撃波(ソニックブーム)を撒き散らし、バイクは前方へと瞬間的に加速する。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「行け……!!」

 燃え盛る勇魚の二輪が、二人の前を先行する。
 疾走する炎の車輪が轍として作り上げるのは、空に続く炎のレールだ。
 上空に向けて伸びる炎の道は、彼方へと押し上げるためのカタパルト。急加速したマシンは、一気に上空へと押し上げられる。

SYSTEM :
 空高く舞い上がった二輪は、同士討ちした挙句、スリップした強化猟兵をよそ目に、ダンたちの車両との距離を一気に縮めていく。
 ……が。

"コードトーカー" :
 出る杭をコードトーカーは見逃さなかった。
 今ナタリーは、ジェット気流による風圧とそれによってかかる衝撃波の調整、何より機体に掛かる負荷を抑えるために集中している。牽制するなら、底を狙わない道理はなかった。
 本来ダン、ブルーとの戦闘に注力していても、女は抜け目なくその隙をついてくる。
 まさに狙いすましたように、大口径の徹甲弾がナタリーの心の蔵を撃ち貫かんと迫る──!

灰院鐘 :
 風と炎の唸りを浴びて、バイクは高く迅く突き抜けていく。妨害を突破し、前方との距離を一息に詰めた。
 追撃にせよ、追走にせよ──ここが好機だ。だが、それは遥か先を行く敵にも同じであったらしい。

灰院鐘 :
「!」

 遠方から飛来する脅威を、何より先に勘で認識する。第六感、あるいは五感のすべて。
 それは質量を伴い速度を帯びた、殺意の具象だ。間隙を縫うように放たれた致命の一撃。

灰院鐘 :
 鐘はステップを踏みつけ、立ち上がった。制御を失って浮き上がりかける前輪を、左のグリップにかけた荷重によって地に引き戻す。路面を擦り、火花が散った。僅か一瞬の減速──

灰院鐘 :
 瞬間。迫る弾丸に、拳を振りかぶった。時速3000kmで撃ち出された金属塊が、拳骨と正面衝突する。

灰院鐘 :
 振り抜いた拳が徹甲弾を打ち砕き、衝撃と変形によって軌道の逸れた残骸が彼方へ飛んでいく。

「──よし!」

 裂けた皮膚から血が滴るのを、鐘は手を払って済ませ、再度ハンドルグリップを握りしめた。再びシートに腰を下ろし、走行を再開する。

ナタリー・ガルシア :「――キャアアアアアアア!?!?!?」

なんの宣言もなく立ち上がられ、しがみ付く先を失ったナタリーは圧縮された体感時間の中で半ば無意識にに己の体をコントロールした。

一瞬暴れそうになる車体を抑え込むのと同時、反射的に車体を風の護りで包み込む。

ナタリー・ガルシア :「~~~~っ!!」

衝撃、飛来した何かが彼方へと弾き飛ばされていったのを風が拾い上げるのを感じながら憤りと感謝のどちらを吐き出すべきか、喉元で言葉が詰まる。

「手は!!大丈夫ですの!!!」

だから、出てきた言葉はその身を案じるものであっても、その声には少々の怒気が籠もっていた。

灰院鐘 :「うん! ちょっと擦りむいちゃったけど」

灰院鐘 :大丈夫と示すように振り返ってピースする。

灰院鐘 :ねっ!

ナタリー・ガルシア :「そうですか!!!それは良かったです!!!!!」

前を向いてくださいまし!!!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「毒気を抜かれますね、本当……」

 はあ、とため息

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ヒヤヒヤしましたが、どうあれ、作戦通り。
 一気に近づけました。射程からは、少し離れていますが──」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「やれますか、ナタリー」

ナタリー・ガルシア :「――はいっ!ここからであれば、射程圏内ですわ!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ではお願いします。
 ……"ラフメタル"、ナタリーが集中できるよう今はしっかり腰を据えて運転するように」

灰院鐘 :
「任せて! ……おっと!」
 ぐっ! と胸の前で両拳を握ってから、慌てて手を戻す。

灰院鐘 :「じゃあ行こうか! 今度は僕たちの番だ」

ナタリー・ガルシア :「ええ、お灸を据えてさしあげますわ!!」

ナタリー・ガルシア :凡そ百、遥か彼方にすら感じる距離を疾駆する機体。
視界では豆粒のようなそれを、風を手繰ってより鮮明に、より克明に、その姿を捉える。

ただでさえ互いに高速機動の中、不安定な足場と数多の妨害―― 一秒ごとに更新されていく彼我の状況。平時の狙撃であれば難なく狙える距離ではあるが、この極限状況の中でそれを成すのは至難の技だ。

一瞬、一瞬で良い。
集中する時間と、出来れば平面ではなく立体的に相手を捉える視点が欲しい。

ナタリー・ガルシア :「――鐘さん!!私を、思いっきり放り投げることは出来ますか!?」

"アダム" :
 ──おいおい、おいおいおいおいマジで言ってる?

ナタリー・ガルシア :「(貴方も、死にたくなければサポートしてくださるとありがたいですわね)」

"アダム" :
 ──キミさあ。
  まあいいさ。他ならぬキミの意志だ、尊重もしよう。
  しかしまったく、人遣いの荒い宿主だことで!

灰院鐘 :
「うん。──うん?」

 ──投げるって、あの? ブンとかポイとかするかんじの?

 さしもの彼も疑問を発して、思わず振り返る。が──問いを差し挟む必要はなかった。

灰院鐘 :
 凛と前を見据える眼差しは真剣で、自信の光を宿している。それが彼女自身の蓄積に対するものにせよ、同乗者への信頼であるにせよ、応じるに足るだけの確信があった。

灰院鐘 :
「乗って。合図する」
 今度は身体ごと振り返って、鐘は手を差し伸べた。

ナタリー・ガルシア :「はいっ!」

差し伸べられた大きな手。
バイクの後部へと軽やかに立ち上がり、そのままその掌の上へ。

「いつでもいけますわ!」

灰院鐘 :
「いち、にの……」

 声に合わせて、鐘の腕が低く沈んだ。弓弦めいて、きりきりと筋肉が引き絞られていく。

灰院鐘 :
「さん!」

 ぶうんと唸りをあげて、少女の矮躯が上空へ放り出される。──その先は、彼女の戦場だ。

ナタリー・ガルシア :「――――ッ!!」

体が宙へと放られる、その瞬間。
全身のバネを使い、己自身も全力で跳ぶ。

加速によって生まれるはずの空気による抵抗は己の能力によって削り落とし、加速の全てが速度となる。
バイクの速度に加えることの投擲と跳躍、瞬間的な速度はスポーツカーを優に超える。

その速度のまま、中空――ビルの谷間、対象と己の間に一切の障害物がない場所へ。

浮遊感、そして落下。
ともすれば上下の感覚すら喪失しそうな世界の中、しかしこの一瞬だけはあらゆる制約から解き放たれる。

ナタリー・ガルシア :「捉えましたわ――!!」

人差し指と親指を立てて、ピストルの形に。
大気中を衝撃が伝わる速度は、時速に換算すれば1200を超える。
百の距離など瞬き一つにすら満たない距離に等しく、意志の發動と着弾はほぼイコールだ。

不可視の弾丸、指向性を持たせた衝撃そのもの。
巨大な力を針の穴へ――精緻なコントロールを力技の加圧で実現するかのような、力任せの制御。

ナタリー・ガルシア :生まれる弾丸は、音速を超えて伝播する圧力の不連続面。
不可視の弾丸、衝撃そのもの――それを対象が捉える時、それは即ち対象へ着弾した時だ。

放つ。    バレル
力は組み上げた砲身を通って真っ直ぐに。
己の意志を汲んで、その激発を炸薬として力が飛ぶ。

大砲のような衝撃、襲い来る反作用が込めた力の大きさの証明となる。

ナタリー・ガルシア :「――く、ぅ」

そのまま衝撃を以て再び地上へ。
先行した距離を詰める駆動音を道しるべに、風で微調整――大きな肩へ手を伸ばし、己の居場所へ帰還する。

そのまま軽やかに、羽のように、バイクの後部へと着地。

「――やりましたか!?」

"コードトーカー" :
 ……何をする気だ、こいつは。
 視界の端で奇行を見逃さなかったコードトーカーは、上空に射出されるナタリーに警戒の意識を向ける。
 彼女の能力について既に調べがついていたコードトーカーは、それが全身で風を掴む行為に相違ないと気付くのは早かった。
 より自由になった体で、障害物のない位置取りに。これまで巧みに射線上に味方の機体を置くことで躱していた狙撃の手が、この瞬間のみ有効となる。

"コードトーカー" :
「成程成程、確かに。それなら私に届くかもしれないわね。
 けど……」

          ・・・・・・・・・・・・
 確かに迅い。だが、その予備動作を見た段階で何をされるか理解し、どう応じればよいのかコードトーカーは把握していた。
 事前情報とそれだけの判断材料があれば、コードトーカーの演算には事足りる。

 どれだけの速度で来るとしても、攻撃面積は『点』に過ぎない。

"コードトーカー" :
 速度の調整では射程からは逃げられない。ならば射線をずらせばよいだけだ。幸い今は、わざわざ距離をあけてくれているおかげで持ち駒が有効となる。

「"Genocider"、かき回せッ!」

 最早コードトーカーの下知を待つまでもなく、機体は動いていた。
 

"Genocider" :
 後方から追いすがる死の戦車、その奥部に設置されたモノアイが妖しく光る。所持武装の中から最適効果を齎す武装として自動選択されたのは、魔眼を媒体とするEMPジャマーであった。
 奇しくも先のダン・レイリーの対応を真似るが如くに、鋼の機体はナタリーの操作領域の粗密波の流れに狂いを生じさせていた。

"コードトーカー" :
 歪んだ衝撃の軌道を読み、速度を調節することで、コードトーカーは本来絶死であるナタリーのアウトレンジ戦法を封殺していた。
 すぐ付近の道路を大きく陥没させるが、しかし疾走するコードトーカーの鉄騎を止めるには至らない。

ナタリー・ガルシア :「――!」

弾道が歪み、意に沿わぬ結果が生まれる。
だが、今は歯噛みする暇すら惜しいとでも言うように、ナタリーはすぐさま運転の補佐へと戻る。

「――次です、次は当てますわ」

灰院鐘 :
「おかえり。惜しかったね」

 音もなく着座した少女へ、おっとりとした声がかかる。走行速度に不釣り合いな、散歩中の雑談めいて穏やかな声色。
 それは過度に励ますでも慰めるでもない、自然体のしぐさだった。

ナタリー・ガルシア :「ええ、ジェットコースターよりもよほど刺激的でしたわ」

ダン・レイリー :
「………あの短時間で此方のやり方を意趣返しして来るとは!」

 さすがは“ノイマン”の玩具とも言えようが、と呟きつつも、走行中の直前に起きた震動と、前面一点に巻き起こる嵐が残した破壊を見やりつつ、呟きと同時に端末に手を伸ばす。

ダン・レイリー :
『見たところはバロール・シンドロームの小細工だ! 
 其方、戦闘継続に支障はないか!?』

灰院鐘 :「大丈夫! 僕もナタリーくんもやる気いっぱいだよ」元気よく肉声で返答!

ダン・レイリー :距離は変わらんとはいえ相変わらずよくも響くな 本当に元気のようだ!

ナタリー・ガルシア :「ええ!向こうも逸らすことで精一杯、反撃までは手が回らないようですわ!」

ダン・レイリー :
『よろしい、十分に伝わった!
 それに当たらずとも火力が違う、ヤツの動きには対応のラグが生まれる、悪くない判断だぞ』

ダン・レイリー :
『………とはいえどちらから火線が向くかも分からん。引き続き、お互いを頼むぞ』

灰院鐘 :は~い!

ナタリー・ガルシア :おまかせください!

ダン・レイリー :ナタリーも端末抜きで応じてくるとは もしかして張り合っているんじゃあるまいな ナタリー…!

灰院鐘 :せっかくだから手を振っておこう ダンさんたちもがんばってー!

ナタリー・ガルシア :運転!運転!!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『片手で運転してる場合ですか……!』

灰院鐘 :だいじょうぶ!まっすぐだから!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『……そのようですね。先の緩やかなコーナーを抜けて、ここからは直線が続きます。
 距離を詰めるなら、この機を逃す術はない。後は敵がどう応じるか』

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『距離は離されましたが……大尉、"雷霆精"、どうかお願いします』
 

ダン・レイリー :
 一刻を争う段階だ、流石に振り返してはやれんが………。
 アレでいて本当に脅威を覚えたなら、どうにも直感的に対応を変える少年だ。
 揃って少々投げっぱなしのようでもあるが、まだ問題はない。

『了解、二言はない。
 仕掛け時はモノにするさ───』

ブルー・ディキンソン :『任せなって!』

"Genocider" :
 だが、その出鼻を挫くが如くにジェノサイダーが先手を取る。
 再び機体のベアリング外殻に収められた魔眼のスフィアが赤き光を放つ。加速する敵機を妨害するための機構、電磁パルスと赤方偏移により領域をかき乱すEMPジャマーが発動する。
 その機獣の眼差しが一瞥するのは、この機を無駄にすまいと速度を高めた先鋒のダン・レイリーであった。

"Genocider" :
 そして、それだけにとどまらない。
 先行する敵機の足を止めるには至らないことに気付くや、メタルジェノサイダーの戦術AIはサブウェポンとなる背部のミサイルポッドから八連装対艦ミサイルを解き放つ。
 速度を考慮して敵機に直接充てるより先行するルートを崩した方が手っ取り早いと考えたのだろう、それら噴進弾はロサンゼルスのビルに向けて撃ち放たれていた。

"コードトーカー" :
「な……!」

 それに最も狼狽したのはコードトーカーであった。
 コードトーカーがAIDAを使用して処理を分散させているのは当然、負荷を分散させつつ指向性を与えて性能を向上させる為である。故にその神経ネットワークはコードトーカーとリアルタイムでリンクしている訳ではない。

"コードトーカー" :
 だが……だとしても、この場でこのような自軍を巻き込みかねない行為に及ぶような。
 自身が不利になる行動を取ることなど、万に一つもない。

 おかしい。此処に来て、この行動をとることだけはおかしい。
 機体には既にこの街一帯の地形を導入している筈だ。如何に動作に誤作動が生じたとしても、このような迂闊な砲撃に及ぶことだけはあり得ない。

"コードトーカー" :
 間違いない。
 事ここに行って漸く確信した。

 ・・・・・・・・・・
 何者かが妨害している。

 自分すら気付かない場所で。 

"コードトーカー" :
「ちい……!!」

 しかし狼狽しても思考は止めない。雪崩れ込む瓦礫は一同を襲い、その進路を塞がんと降り注ぐが……漏れなくコードトーカーの進路をも塞いでしまう。
 やむを得ず速度を落とし、FHブレードバイクに搭載したジャンプ機構の機動準備に入る。
 

"コードトーカー" :
 ──ふざけるなよ、漸くリエゾンエージェントの席に返り咲いたというのに、こんな理不尽で失敗してたまるか……!

 激昂しながらも冷静にヘカートをマグチェンジし、距離を取るより確実に迎撃して時間を稼ぐようシフトする。本来、リスクヘッジを徹底するコードトーカーにとって眩暈がするようなハイリスクローリターンの対応だが、最早それ以外に手段はない。

SYSTEM :
 リードを広げていたコードトーカーの、ここにきて致命的なアクシデント。
 だがその機をものにするには、速度を落とすことなく、確実に降り注ぐ瓦礫の雨を躱して肉薄しなければならない。ジェノサイダーが齎した災厄は、等しく高速の世界を進む機体に襲い掛かる……!

ダン・レイリー :
 問題は───あの応対が出来ると分かった、コードトーカーの“玩具”の方だった。
 バロール・シンドロームは俺だけの特権ではなく、プラスをマイナスで中和するやり方があると分かっていれば、次に狙いを定めて来るのは───。 

ダン・レイリー :
  ・・・
「(やはり、俺か───)」

ダン・レイリー :
 自分の思考にラグを感じる。
 身体的な所作、機体の機動性能、何から何まで、過剰な負荷をかけたコンピューターのキーボードを叩いているかのような緩やかさ。加速する此方を妨害するための、限定的な領域形成から来るレネゲイド展開阻害、とでも言うか。

ダン・レイリー :
 しかもそれだけではないというのが、コイツの厄介なところだ。
 放出された対艦ミサイルが破壊目標に定めたのはロサンゼルスのビル群。
 崩落で以て此方の進行ルートを塞ぐか、あわよくば押し潰すという判断とも思える。
   
 機動性能の低下から畳みかけるようなこの一手。
          チェック
 判断を誤ればまさに王手だろう。
 だが………。

ダン・レイリー :「安心したぞ………」 

ダン・レイリー :
 ここは好機だ。
 ダン・レイリーは、それが想定内か想定外であるかを判断こそしなかったが、
 少なくとも此処こそが“ロジックエラー”を起こす瞬間であると踏んだ。

ダン・レイリー :
 バロール・シンドロームの重力制御は攻守において万能。
                  あし
 まして因果関係への干渉ともなれば、速度を奪われることは戦闘において致命傷だ。

 だが………しかしだ。
         Overed
 万能の兵器はなく、超人もいない。
 バロール・シンドロームが齎す無敵の他者干渉にも、常々泣き所がある。
 そしてその泣き所を“ケア”する方策を、僕は未だ見つけられていなかった。

ダン・レイリー :
                               クロス
 ………あのご立派な殺戮マシーンは、ブラックドッグとバロールの雑種である。
 ブラックドッグのサポートプログラムと余剰出力で以て、既存の性能をレネゲイドと言う付加物で高め、そこに戦術的な思考を加算しているように見える。

 細部が違い、優劣があっても、けっきょくのところ条件は同じだ。つまり。

ダン・レイリー :
              ペット
「乗り手とマシンが良くても、飼い犬の扱いは別だったらしいな………!」

ダン・レイリー :
 つまり、自分の欠点と似たものを抱えている相手だ。
 この場に適した対処方法など、思いつけない道理はない。

ダン・レイリー :

 組み合わせが多様であれど、此処の部品は既知のパーツに過ぎない。
 EMPによる重力制御と機体の加速性能悪化は、究極的に自らを起点にしたものだ。

 二輪バイクの操縦席にいる自らをこそターゲッティングし、
 ダン・レイリーの所作に負荷をかけるものであるならば。
 スピードの優劣という確定した数式に、此方エラーをかけられる。

ダン・レイリー :何をするのかと言えば、それはまあ単純。

ダン・レイリー :

 エルヴスプライト
「“雷霆精”!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 EMPの干渉の起点が俺なのであれば
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 加速の起点はヤツの影響を受けない人物であればいい。

ダン・レイリー :
 声をかけるのに合わせて、此方は加速の起点をズラす。
 干渉領域の中心点が自らであることを逆手に取る。

 こちらは逆に“雷霆精”にピントを置く。
 ダメ押しとばかりに機体周囲にガンビットが展開、包囲するようにして重力場を形成。
 鈍化した機体のベクトルをまさに“力ずく”で正面に押し出しつつ、EMPと拮抗させながら………。

            ・・・
 正面、ヤツらの死角に、ゲートを展開する。
 崩落の瞬間、僅かに見えた『隙間』から、足を止め、今まさに攻撃を仕掛けるコードトーカーの居場所へ。

ダン・レイリー :
 意図が正しく伝わったなら、起こることは一つ。

 此方の機体は、先程“雷霆精”が行った疑似ブースターをトドメとして、
 崩落するビルを、空間ごと素通りしつつEMPの形成範囲外に脱出───。

ダン・レイリー :………ヤツが忘れたころに、黄泉への案内人とやらが到着だ!

ブルー・ディキンソン :

「OK──”ホワイト・スカイ”」

ブルー・ディキンソン :
、  、  scramble
 オーダーは緊急加速。
 脳殻を中枢として何本かの伝達機関を四肢へリンク。

ブルー・ディキンソン :
 、   、カスタマイズ
 局所戦闘用に特化したイモータル義体に搭載されている装備・機能とは想定出来ない使い方ではあるが───

 既に実用出来ることは先の一瞬で実証済みだ、つまり検証と最適化は不要と言える。
 一時的なデュオ状態が生んだ"棚ぼた"だ。

ブルー・ディキンソン :
 バトルマニューバ
 戦闘機動用瞬間加速機に薪を焼べる。
 現時点でのリミット上限の最大加速状態までステップを移行、維持。

ブルー・ディキンソン :
 同乗者との意思疎通の速度は、先ほどよりも大きく省略。
 それだけ最大加速するまでの猶予期間が大きく生まれるわけだ。
 いちいちする必要もないが、人間という生物を媒体としている以上、口頭でシステムを起動していくのが効率的。

ブルー・ディキンソン :
 ……そ、わざわざ音声認識をするだけの心の余裕も生まれるわけで。

ブルー・ディキンソン :
「マニューバ、アクティブ。
 スラスター噴射1秒後、Rリンクで外力相殺。
 ボディアップデート、加速領域への更なる適応開始」

ブルー・ディキンソン :
「モーション誤差、制御システムRT修正。
 到達目標へのルート形成、ブーストゲートを起点としてオーバーアクセル開始。
 アクセル開始後1秒、姿勢制御をマニュアルへ移行」

ブルー・ディキンソン :
「プロテクト、オールクリア──」

ブルー・ディキンソン :
「シーケンス・スタート。
 コード”ブルー"スプライト!」

ブルー・ディキンソン :
 ──チキチキチキ!

 義体”ブルー”のアイライトが文字通りの青色に点灯し、全身のレッド・アラート全てを青く染め上げていく。
 展開されたバトルマニューバは直線加速用に、更にその可動域を展開させる。

ブルー・ディキンソン :
 電撃を思わす粒子を撒き散らしながら、スプライトの残光を描き、唸りを上げてバイクを更なるスピードの世界へ押し上げていく。

 カートゥーン・アニメーションにありがちな──残光だけ動いているような状態。
 外周から見れば、青い光がただ一直線に動いているように見えるだろう。

ブルー・ディキンソン :
 一連のマニューバシーケンスは”ホワイト・スカイ”のオーダーを忠実に実行した。
 どころか、現段階における最大加速領域にまで突入するというオマケ付きだ。

ブルー・ディキンソン :
 もちろん自分の打算も含めている。

 暴力的を超えた加速の果てに、我々の後方で行われた覚悟の一撃……ナタリーのアイデアを拝借しようと思う。
 なにせこの"雷霆精"、仕事の遂行内容によっては人生をアドリブとノリで済ませる妖精だからだ。

ブルー・ディキンソン :
 なので、その時"イケ"そうな手段を取る。
 ブルーはその勢いのまま、妖精の羽に雷光の鱗粉を乗せ、羽ばたくつもりでいた。

ブルー・ディキンソン :
「ギターの返品ついでに──その身に叩き込んでやるか、”殺意の閃き”!」

ダン・レイリー :
 オーダー、オール・クリア。
 シークエンスの進行とともに加速していく機体は、此方への妨害EMP領域を強引に振り切って尚有り余る殺人的な加速を起こした。
 稲光を帯びたその機体は、まさに現実のテクスチャを剥がし、速度のために幻想に足を突っ込ませるような行いをしたに等しい。

「(注文通り、いや…注文以上だな。
  こういうところは向こう見ずの悪童かもしれん───)」

 当然、操作の負荷は跳ね上がるが、注文したのはこちらだ。
 今更、クーリングオフもキャンセルなどもする気もなかった。

ダン・レイリー :かつてない最高速度のまま、機体は青光を帯びて速度の彼方へ。好機に備え、言うべきは一つだけ。

ダン・レイリー :「───やってみせろよ!」

ダン・レイリー :
 常識の世界に理解不能を叩き込むのは、
      フェアリー コード
 いつだって妖精の悪戯と相場が決まっている!

ブルー・ディキンソン :
、   ・・・・・・・・・
「───言われるまでもねえ……!」

 即答……そして、居合準備。

灰院鐘 :

灰院鐘 :
「っ……街が──」

 標的に命中させるのではなく、行く手を直接阻むがごとく。先と一転して地形を狙った敵の行動に、鐘は瞠目した。
 もはや一刻、いや一秒の猶予とてない。早急にこのレースを終わらせなくてはと、ハンドルグリップを握る手に力を込める。

灰院鐘 :
 ナタリーの制御と勇魚の誘導を受け、前方の二人に続く鐘。
 しかしその瞬間、根元から爆ぜ折れ、聳えたつ巨塔から降りかかる瓦礫の雨へと姿を変えたビルが襲いかかってきた。

灰院鐘 :
「……困った!」

 正直に声をあげて、眉を落とす。

 ハンドリングのハの字もないまま、"とりあえず直進"と"なんとなくカーブ"だけでここまで追い縋ってきた彼に、崩壊の驟雨を躱しながら先へ進むすべなど持ちうるはずもなかった。

灰院鐘 :
 挙げ句──
 ラボからここに至るまで限界性能を発揮してきたバイクは、止まったが最後、二度と使い物にならなくなるだろう。
 減速など以ての外。先へ先へ、直走ることでしか、機能を維持することができない。

灰院鐘 :
 この窮地に際して、鐘は咄嗟の思いつきに身を委ねた。
 もはや逡巡の猶予も惜しく、そも思慮があるのならこんな運転でここまで来てはいない。

灰院鐘 :
 差し伸べた手に、根元から引っこ抜かれた街灯が吸着した。
 磁力によって鐘のもとに引き寄せられた街灯は、再びステップに立ち上がった彼によって、さながらバットの如く握られる。

灰院鐘 :
 ──誰が知ろう。わずか数瞬前。過ぎ行く景色のさなかに、彼がメジャーリーガーの看板を見出していたなど。

灰院鐘 :
「よい──しょお!」

 躱しきれない巨大な塊めがけて、力いっぱい街灯を振りかぶる。すると軌道を逸らすどころか、塊は砕けながら跳ね返り、他の雨を打ち散らして明後日の方向へ飛んでいった。

灰院鐘 :「わお! うまくいったね」

ナタリー・ガルシア :「――――――…………」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………まあ、巧く行ったから善しとしますが」
 呆れ顔で呟く。
 咄嗟にフォローに入ろうとしたが、流石にそう出るとは思わなかった

ナタリー・ガルシア :
「ここだけコメディの世界になっていませんこと!?!?」

灰院鐘 :「こういうの何て言うんだっけ。ほーるいんわん?」

ナタリー・ガルシア :「それを言うならホームランですわ!!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『何だか毒気を抜かれるというか……いえ』

 鐘のフォローに割いていた意識を回避に戻す。勇魚のバイクは、次々降り注ぐ瓦礫を手際よく躱しながら進んでいく。

灰院鐘 :それだ~!と納得して、ひしゃげた街灯を瓦礫を払いがてら道に捨てる。

灰院鐘 :「"コードトーカー"もこの瓦礫で足止めを食らったみたいだ。追いつくなら今だね」

灰院鐘 :
「はりきっ──あいた!?」

 赤子ほどの大きさをした瓦礫──もはや岩石に等しいコンクリートと鉄骨の塊が、ごちん、と音を立てて額に直撃する。
 驚いて仰け反るあたま。姿勢を戻した鐘はかぶりを振って、割れた瓦礫の破片を払った。

ナタリー・ガルシア :「………………そうですわね、今のうちに追いつきましょう」

ツッコもうと大きく口を開け、そこで心配が先だと思い当たる――とはいえ、傷ひとつないその姿を見るに心配も妥当ではない。

結果、ナタリーは大きく吸い込んだ息をため息に変えて吐き出した。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『後詰めに間に合うよう、引き続きフォローします、ナタリー』
 なんか音がしたがコイツなら大丈夫だろう。そんな意志が通信音声から伝わる声だった。

ナタリー・ガルシア :「はい!いよいよ大詰め――最後まで気を抜かず行きましょう」

"コードトーカー" :
 雪崩れ込む岩石を、しかし追いすがる彼らはものともしない。
 此処に来てマシンスペック以外の要素、シンドロームによる出力差という影響が露わになった。
 彼女は選ばれた存在ではない。そうであるが故に自分が上位にあり続けようという向上心があったのだ。自らにないものを外付けで補完することで上位エージェントの座にあり続けた彼女は、今この状況下ではその力の多くを奪われている状態と言える。
 このような石くれ一つで足止めを喰らうほどに。
 
「クソがッ!!」

 ガン、とディスプレイを殴る。次々起こるアクシデント、しかもその悉く、自分以外の要素が齎しているとなれば怒りを感じるのもむべなるかな。
 

"Genocider" :
 頼みの綱のジェノサイダーも、背後から走行し追尾を続けているが、ミサイル射出からのクールタイムの影響で今は距離を詰めることに専念せざるを得ない。
 機動力に長け、高速走行しながら砲撃を可能とするメタルジェノサイダー。だが、最高速度を維持しながら安定した砲撃を行うことは不可能。
 今はアテには出来ない。

"コードトーカー" :
 厳しいが、この武装で何とかするほかはない。すぐそばまで迫っている筈のブルーたちへヘカートの銃口を向けようと意識を傾ける。
 しかし──

「いない……!? 消えた、だとォ……!?」

 コードトーカーが攻撃するのは、数手遅かった。加速の出始めを潰すことが出来れば或いは何とかなったかもわからないが、一度ゲートの中に姿を消してしまえば最早手遅れ。
 

"コードトーカー" :
 次にやってくるのは、間違いなく自分の懐だ。そこで、稲光を纏い疾走する処刑人の刃がその首に充てられるだろう。

 ──拙い、拙い拙い拙い!!

 敵の発生地点予測は完全には絞り込めない。敵を見失った状態で、片手で数えられる程度にパターンを絞り込む頭脳は見事であったが、逆に死ぬ可能性が既に四通りも出来てしまっている。どちらかを読み違えれば、その時点で死ぬことを意味している。
 それは安全圏での虐殺を好みとするコードトーカーのそれとはあまりに掛け離れた死と隣り合わせの、分の悪い賭け。

"コードトーカー" :
 故に彼女が取った行動は、よく言えば不利な状況で取れるせめてもの有効策。悪く言えば、まさしく悪あがきというしかない。

「なら……!!!」

 照準の先を、迫る死神の剣から完全に外し。その銃口をナタリーへと向ける。
 恐らくUGNにとっても最重要人物であるナタリー・ガルシアへの攻撃。既に侵蝕率的に危険水域に迫りつつある少女への攻撃で揺さぶりをかけ、一つでも死に直結するパターンを削り取る苦し紛れの一手であった。
 

"コードトーカー" :
「ただでは死んでやるものですか……!
 もうシャンバラなんかどうでもいいわ! 私の代わりに、脳みそぶっ飛ばしておっ死ね!!」

 狂気の笑いと共に大型の対物ライフルが轟音の如き銃声を上げる。息吹のようなマズルフラッシュによって超音速の50BMG強装徹甲弾が押し出され、正確無比なコントロールの狙う先は少女の脳天。
 如何にリザレクトがあるといえど、オーヴァードのリザレクトには限界がある。一撃で頭部を粉々にされた場合、その可能性は著しく上昇するだろう。そのリスクが欠片でもある限り、あちらも完全に攻めの手に集中することなど出来ない筈だ。

SYSTEM :
 しかし……
 或いはそれは、既に脳の何処かで叩き出していた『詰み』を振り切るための虚性であったのかもわからない。
 何故なら、彼女の隣にいる人間について。
 彼女程の頭脳が、計算が及ばない筈もなかったのだから。

SYSTEM :
 ──難攻不落の"ラフメタル"の牙城が、そこに聳えていることに。

灰院鐘 :
 ──紫電の翅がはばたく、その直前。

 虚勢、あるいは自棄。されど一掬いの救いに望みをかけた"コードトーカー"の弾丸が、少女の命脈を狙う。

灰院鐘 :
 まさしく百歩穿揚。死に迫られた動揺のさなかにあっても、天才を自負する彼女の狙撃には少しの狂いもない。
 
 で、あるのなら。番狂わせを起こすのが"鐘の──ラフメタル"の務めだ。

灰院鐘 :
「うん」

 頷きは、誰にともなく。
 応じるのではなく、確かめるように。

灰院鐘 :
「ここまで大変だった。ワームの脅威はとんでもないし、おかげで物資はずっと足りなかった」

灰院鐘 :
「今だって追いつけないままで、街はやられ放題だ。あなたがここで死んだって、ただになんてなるもんか」

灰院鐘 :
 反省は済ませた。敬意も払った。

 あとは、そう──コン、コン……

灰院鐘 :
 ブツカリアイ
「 衝突 だ!」

灰院鐘 :
 唸りを遠く置き去って、徹甲弾が飛来する。限界を超えて駆動するバイクも、さながら一個の弾丸と化していた。

灰院鐘 :
 装甲を貫くために造られた鋼へ、
 ただ頑健であることだけの鋼が挑みかかる。

 構えさえしなかった。なにせ必要がない。身ひとつを守ると決め、身ひとつで阻むと定めたのなら。

灰院鐘 :
 着弾──衝突。爆ぜる音は、まるで金属がぶつかり合うのに似て。徹甲弾は右肩を穿孔しながらも、骨に至る前に弾かれ、彼方へ飛んでいった。

灰院鐘 :
「よし!」

 バイクに初めて跨ったときと同じくらい無責任に頷くが、彼はひとつ失念していた。

 最高速の上限を押し上げて走行するバイクの上だということを。

灰院鐘 :
 いままで体幹と膂力だけを支えに運転をしていた彼のバランスが、遂に崩れた。

「わっ──!?」

 二メートルに迫る図体、百を超える重量。それが傾ぐということは、当然……

灰院鐘 :
 バランスを崩したことで制御を失い、とたんにバイクも暴れだした。勢いよく跳ね上がる車体。振り落とされる前に、鐘はふりかえって背後の少女を抱えこんだ。

灰院鐘 :
 法定速度と比較するのもばからしい速度のなか、道路に放り出される。何メートルか転がった鐘は何事もなかったかのように起き上がると、腕におさめたナタリーの様子を確かめた。

灰院鐘 :「ご、ごめん! だいじょうぶ? けがはない?」

ナタリー・ガルシア :「――それよりもまずは自分の体の心配をしてください!!ほら、肩を見せてくださいまし!!」

不安げにこちらを覗き込む瞳を睨みつけて、跳ね起きるように立ち上がる。
あの銃撃が誰を狙ったものなのか、それが分からぬナタリーではない。だからといって、素直に守られるだけの少女であることはナタリーのプライドが許さなかった。

灰院鐘 :

灰院鐘 :「……!」

灰院鐘 :「ふくが」

ナタリー・ガルシア :「服はまた買い直せばいいでしょう!」

灰院鐘 :「そっかあ。……そうだ、せっかくだからみんなで一緒に買いに行こうよ」

ナタリー・ガルシア :「~~~~~ッ!!」

"アダム" :
(くぐもった笑い声だけが聴こえる)

灰院鐘 :「あ!」でっかいこえ

ナタリー・ガルシア :うるさいですわ!

灰院鐘 :シュン

灰院鐘 :「……すまない。せっかくここまで追いつめたのに、バイクをだめにしてしまった」

ナタリー・ガルシア :「私は、貴方の、体を、心配しているのです!!わたくしの!!話を!!聞いていますか!!」

水無瀬 進 :
『──おい、大丈夫か!? 
 すごい勢いで転倒してったけど!!』

 その折に喧しく鐘の自慢の端末から聞き覚えのある水無瀬の声が響く。どうやら心配になって真っ先に連絡を取りに来たようだ。

灰院鐘 :「あ──ぅ」怒気に圧倒されてちょっと仰け反る

灰院鐘 :「だ、だいじょうぶ。かるい擦り傷だから」たぶん

灰院鐘 :「あっ進さん!」わ~と抉れたほうの肩で手を振る

灰院鐘 :「ナタリーくんも僕も無事だ。でも……」

灰院鐘 :ちらりと彼方で炎上するバイクの残骸を見遣る。

灰院鐘 :「刑事さんの……バイクが……」

水無瀬 進 :
『そんなことを気にしてる場合か──!
 まあそうかもな! 君結構ピンピンしてるもんな! でもせめてその肩で手を振るのはやめてくれ観てるこっちの腕が痛み出しそうだ!!』

灰院鐘 :ション……としたまま手を下ろす

灰院鐘 :

ナタリー・ガルシア :「貴方が貴方を大事にしないのは仕方のないことですが、私が大事にしているものには少しは頓着して欲しいですわ!」

ほら、傷口を見せてくださいまし!と破けた服をびりびりと破いてしまう。

灰院鐘 :「あっあっ待っあっ」

灰院鐘 :「ああ~~~~……」

灰院鐘 :両手で顔を覆ってもじもじしだす190cm

ナタリー・ガルシア :「動かないでください!!まずは止血、を………………」

ナタリー・ガルシア :「……止まってますわね」

灰院鐘 :「うん? ……うん」

灰院鐘 :「言っただろ、かるい擦り傷だって」げんき! と肩をまわす。ぐーるぐーる。

ナタリー・ガルシア :「結果的にそうだっただけでしょう!!次からはもう少し、考えてから行動してください!!!」

灰院鐘 :「がっ がんばります……」

灰院鐘 :「……そうだ。ダンさんたちのほうは──」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『こちらは、後一手。
 外せば、また危機的状況に陥る所でしょうが──、大尉の采配と、"雷霆精"の腕を信じましょう』

 割り込むように、今度は勇魚からの通信が入る。それとなくそちらの様子をうかがっていたようだ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『……ナタリーは無事ですね。
 "ラフメタル"、ナタリーを連れて線路の外へ。そこで休息を取って下さい。
 恐らくあの大型AIDAはそちらを狙って襲って来ることはない筈ですが、路上で転がっていては巻き添えを食いかねません』
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『後は──"雷霆精"に命運を託します』

灰院鐘 :
『と……危ない危ない、すっかり忘れてた。教えてくれてありがとう』

灰院鐘 :
『……そうか。ブルーさんが』

 呟いて、彼方を見る。未だ続く攻防とようやく巡ってきた好機。その中心にいま彼女がいると。

灰院鐘 :『途中で脱落しちゃってごめんね。あともう一押しだ、きみも気をつけて』

ナタリー・ガルシア :『そうですわね……こちらは、もう追いつくことは難しそうですから。大丈夫です、決めるところではきちんと決めてくれるはずですわ』

大尉もついていますし、と付け足しておく。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
『──はい。お疲れさまでした、二人とも。
 後は、こちらが引き受けます』

 後は任せろ、と。静かな、自信のようなものを感じる声音でそう告げて、通信を切る。

灰院鐘 :
「……うん。きみとみんながいれば安心だ」

 呟いて、ナタリーに向き直る。

灰院鐘 :
「それじゃあちょっと早いけど休憩だ。巻き込まれないうちに退避しよう」

 既に"コードトーカー"たちが通過した路面は、アスファルトが損傷し悪路と化している。それを気遣ってなのか、たんなる人懐こさなのか、鐘の手が差し伸べられた。

ナタリー・ガルシア :「ええ、ここに居ても邪魔になってしまいますしね」

差し伸べられた手を、当然のように掴む。手を引かれるのではなく、横に並んで――異なる歩幅で、共に歩く。

:
───……

ブルー・ディキンソン :
 “雷霆精”は悪ノリと運任せで人生の選択肢を決める時がある。
 悪癖であると同時に、彼女の幸運の証でもある。
 レネゲイドは”認識”と強く紐づいている。  

ブルー・ディキンソン :
 感情をはじめとして、人間の脳がもたらす電気信号の数々と同調し、それに応じて力を高める性質。
 ブルー・ディキンソンを名乗る女の場合は、その体を機械のものへと置換し、組織をレネゲイドに代替したことで、ちょっぴり距離が近かった。

ブルー・ディキンソン : 
 彼女の悪ノリに対して、レネゲイドは確かに応じてくれる。
 無茶振りに無茶振りを重ねる行為、大博打をブチかますだけの勢いがある。
 

ブルー・ディキンソン :
「さぁて……いくぜダメ押し!」

ブルー・ディキンソン :
 コード・トーカー。
 彼女は文字通りの”天才”であった。
 支援機と呼ぶには仰々しすぎる大量破壊兵器との連携プレー。

 インストールした”技術”を応用した狙撃──ああ、ありゃあ確かに一回死んだしな。

 荒事を得意とするわけでもない頭でっかちが、よくもまあ、よりにもよって対R戦闘に特化した連中と一人で戦えたものだ。
 

ブルー・ディキンソン : 
 が、しかし。
 しかしだ。

ブルー・ディキンソン :
 度々彼女の計算の”粗”をついたように……、この妖精を嘯く奇妙な女もまた、”天才”なのだ。

 天才というのはジャンル分けができる概念だ。
 コード・トーカーが研究分野での”天才”だとするのならば……ブルーはその真逆。

ブルー・ディキンソン :
 故郷を追われ、放浪の果てに会得し、ごちゃ混ぜにしていった剣術の数々。
 一つ一つの質は達人に及ばずとも、インストールした武芸は数知れず。

ブルー・ディキンソン :
 誇張混じりであっても彼女は武の”天才”の一人だった。
 生き永らえるためにレネゲイドの力を、戦いに投資してきたバトルジャンキー。

ブルー・ディキンソン : “勝つ”ためならばどんな奇想天外な一手も打つ、それに見合うだけの技量を有している自信があるから。

 馬鹿と天才が紙一重というように、

 天才の発想は奇天烈なものであればあるほど……鋭く突き刺さるように出来ているのだ。

ブルー・ディキンソン :
,

「”一刀雷切”──居合」


ブルー・ディキンソン :
 鞘に収めたライキリブレードが唸りをあげる。
 その名に反して帯電し、触れたものを焼き切る性質を帯びた”決闘者の剣”の亜種たる武器。

ブルー・ディキンソン :
 電気を帯びるということは、もう一つ別の使い方が存在する。
 ブルーは久しくこの使い方を選んでいなかったが、お誂え向きの場面が今までなかった。

ブルー・ディキンソン :
 ライキリを収める鞘は電極棒で挟み込むように造られており、リンクした使用者の任意のスイッチによって電流を流すことができる。

 それによって起きる現象を利用し、まるで神速の居合術のように敵を”斬る”ことが実現する。

ブルー・ディキンソン :
  、  、  、 RAIL XAN
 名付けるのならば”投射居合”。

 発射=抜刀に必要な電力はブラックドッグたる自身のレネゲイドによる”発電”で供給。

 そして、先の重粒子砲を真っ二つにしたようにライキリはプラズマを纏い刀身として形成することができる。
 大電流によって発生するプラズマ化は無問題。刀身がそれに耐え切れるように出来ているのだ。

ブルー・ディキンソン :
 攻撃の準備は概ね完了。
 残すはシチュエーション──
、   、  、  ・・・
 この時点でブルーの悪ノリは最高潮に達していた。

ブルー・ディキンソン :
「──Let’s Go!」

ブルー・ディキンソン :
 あろうことか。
 この加速領域の中で。
 ブルー・ディキンソンはその身を捩って……、
 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・
 バイクから飛び降り、自らを空へ投げ出した。

ブルー・ディキンソン :
 アイデアの拝借とはこういうことだ。
 常識を逸脱した飛び降り、これから起こるアタックシーケンスの”画”を際立たせるにはこれしかない。

ブルー・ディキンソン :
 無論、圧倒的速度の中にいたバイクから飛び降りれば即座に置いていかれるのだが……、
 ブルーは自身の両手両足から展開したバトルマニューバで、己自身が加速状態にあった。
 
 無理くりに噴射しながら──彼女は更に、自身の背中に内蔵していた最後の五つ目のリアマニューバを展開。


 無茶苦茶な飛行状態へと移行。

 当然長くは続かないが──ただ一直線に加速を続けることで、ブルーの躯体そのものはコード・トーカーを瞬く間に追い抜かした。

ブルー・ディキンソン :
 追い抜かした直後に彼女がしでかしたこと。
 それは旋回──ぐるっとUターンを挟み、あろうことかコード・トーカーの車線上に自ら突っ込みにいったのだ。
 彼女からすれば、目の前から一度は捕らえたはずの女サイボーグが突っ込んできている光景が映るだろう。

 
「(重ッ───上等ォッ!)」

ブルー・ディキンソン : 
 ブルーはフィクションの再現を好む。
 居合切りとされるものは、よく対象とすれ違い様に一閃し……とあるが。
 それをやろうというのだ、自身の体にかかるGすらその為の"チップ"とした上で。
 
 加速に加速を重ねた最高潮の状態で、一瞬の判断を間違えれば正面衝突しかねないのような荒業を!

ブルー・ディキンソン :
,

「”投射居合”───


      ───”鵺殺しの剣”!!」

ブルー・ディキンソン :
 コード・トーカーと、ブルーが交錯する瞬間。
 彼女は言霊を叫び、それに呼応するように、待ち侘びていたかのようにライキリが”投射”される。
 光速に匹敵せん勢いだったのはエンジェルハイロゥの同乗者への、ちょっとした対抗意識からか。
 兎にも角にも、”投射”されたライキリはプラズマを帯びながら一文字に敵を狙って滑り、青白い粒子をスピードの世界へ残してゆく。
 反動で鞘は吹き飛ぶが、その軌道は上へ上へと昇り。

 鵺と呼ばれる東洋の化物は、一説には雷獣であるとされる。
 即興で名付けたこの居合の名前は、雷獣すら瞬く間に切り捨てる意味合いを込めたものか。
 ……最もブルーが、そこまでセンチな意味を付けるのかは怪しいところではあるが。

ブルー・ディキンソン :
 交錯し、ブルーの体は徐々に減速。
 残心と共にライキリを一振り。
 投射の反動で吹っ飛んだ鞘は──見越したかのようにくるくると、彼女の手元に落ちて。

ブルー・ディキンソン :

 ───ばさっ! と、布が靡く音がする。

ブルー・ディキンソン :

「宣言通り……、
 ・・・・・・・
 二の太刀要らずってね!☆」

 いつの間にか彼女は、奇天烈な衣装に再び袖を通し。
 その口にはいつからか咥えられた煙草があり。

 納刀と共に弾けた"雷"が、それに勝利の火を灯した。

"コードトーカー" :
「~~~~~~~~~~ッ!!!」

 最早悪態をつく余裕もないのか、撃ち放たれた弾丸が齎した結果に憤怒の声が漏れるばかり。
 あの木偶が!
 確かに撃った。当たった。しかし、あんなものが割り込んだばかりに致命傷にすら至っていない。

 その故に迫る殺気からは微塵の動揺もしていなかった。
 バイクから転倒こそすれど、築き上げた信頼関係は今更そう易々と崩せない。
 注意を逸らそうと放たれた弾丸を無視して、雷光の死神が超高速の世界で稲妻の如く瞬く。

"コードトーカー" :
 そして、消えた筈の残影が今、その姿をあらわにする。
 慣性を味方に付けて、スラスターで飛翔する雷霆精。徒に舞う電子の怪異が、あろうことか次の瞬間にはすぐ目の前に到達してきた。
 背中から刺すでもなく、敢えての正面からの奇襲攻撃!宛らスプリット・Sのマニューバをなぞるかのような、ある種冗長な軌道を描いて目の前から襲い掛かってきたのだ。

「ヒッ」

 目の前まで迫る死。
 その絶対の可能性を前に、コードトーカーは震えあがった。
 
 死。死ぬ。死んでしまう。この私が。
 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死んでしまう……いやだ死にたくないこんな、こんなくだらないことで!! 

"コードトーカー" :
 火が付いた怒りと生存本能がこの時最高潮を迎える。彼女は恐怖の情で固まり動けなくなるような人間ではない。
 意図して怒りを奮い立たせ最期の悪あがきに出る。

「この……野良犬がァァッ!!!!!」

 敢えて正面から向かってくる相手に、左手のライダースーツに仕込んだスリーブガンを取り出す。
 照準はコンマ1秒、否コンマ0.01秒でつける。自分からこの速度で突っ込んでくる以上小口径の弾丸だろうと一発であの世に飛んでいけるだろう。

"コードトーカー" :
 慣性に逆らっての強襲、合理性の欠片もない突撃。奇を衒ったのが、その反撃の余地を与えたのだろう。

「ナメた真似してんじゃ──」

 かつてない速度の超高速思考が持ち上げた銃口。その引き金を引き絞れば、この距離この無謀な突貫なら間違いなく一撃で仕留められるだろう。
 銃と剣を通して殺気が衝突する。
 しかし。

"コードトーカー" :
 しかし──。
 突き付けた銃口が火を噴くことはなく。
 

"コードトーカー" :
 続く神速の斬撃が、最後の希望であったグロックごと女の命脈を叩き切っていた。

"コードトーカー" :

「が、ヒギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 絶叫。断末魔の絶叫。
 血飛沫を上げ、業火に焼かれるような痛みに吠えながら、合衆国を貪り続けた電子の雷獣が堕ちていく。
 

"Genocider" :
 鋼の馬から引き摺り落され、女が超高速で地に引き摺り落されたのと同時に、稼働するジェノサイダーが矢庭に動作を停止した。
 レイラが言っていた通り。コードトーカーが戦闘不能となった瞬間に、セーフティが制御を取り戻したのだろう。
 走行するジェノサイダーは、徐々に速度を落とし、いよいよ待機状態となり制止した。

SYSTEM :
 ──希代のサイバーテロリスト。
  合衆国を混乱に引き落とした電子の女王。
 コードトーカー
 "秘匿破り"。
 これは徹底して凡夫を見下し、実験動物として扱ってきた女の、完全なる敗北を意味していた。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
 ……かくして、ロサンゼルスにて繰り広げられた壮絶なカーチェイスは決着した。
 ワーディングはまだ止められていない。これだけ派手に動き回った以上、敵が動きを止めてすぐに解除できるような状況にはない。
 関係各所への手配や情報操作等、事後処理のために多くの人員が割かれている頃だろう。

SYSTEM :
 ビルに突入したロス支部のメンバーは無事のようだ。重要参考人である研究者ヨーゼフ・メンゲレの検挙を果たし、支部へ搬送している段階である。
 そして……

"コードトーカー" :
「が、ごふ……ぐ」

 血まみれになりながらも、リザレクトによって治癒する肉体を引き摺ってコードトーカーはアスファルトを這いずっていた。
 彼女は生きていた。いやそもそも、彼女はジャームでもなかったのだ。

"コードトーカー" :
 女は聡明であった。ジャーム化によるリスクとリターンを考えて『思考能力が制限される』ような処置をするわけにはいかない。
 いや……或いは、単純に恐怖の故か。
 身も蓋もないことを言ってしまえば。そのリスクに踏み込むことも出来なかったともいえるだろう。

「ハァ……ハァ……(あの太刀筋なら、確実に死んでいた筈、なのに……
 何故かわからないけど……生きている……生きてるぞ……!)」

"コードトーカー" :
「ハ、ハハ、ハハハハ……!」

 狂った笑いを浮かべて、道路から何とか這いずって路地裏へと逃げ込もうとしているのだろう。
 歩けば1分とかからない距離。しかしコードトーカーは、大河を遠泳するような錯覚さえ覚えていた。そして、それだけの時間があれば。彼女の動向を見とがめ、捉えることも……そう難しくない。
 最後の最後まで往生際の悪い。否、そうであればこそ一度捕らえられて尚も脱獄し、こうして合衆国で災厄をばらまいたのであろうが。

覇王 :

ブルー・ディキンソン :
「ちょいちょいちょーい」

 そうは問屋がナントカ。
 這いずる"コードトーカー"の頭上をふらふらと低空飛行し、ブルーが着地。
 行く手を遮るように──彼女からすれば絶望の象徴なように───妖精が舞い降り。

「やっぱり生きてたね。うーん、善哉善哉」

ブルー・ディキンソン :
 ──ついでに重傷の彼女の体の上に腰を落ち着けた。
 痛いだろうけど我慢我慢、リザレクトしてるのだから。

"コードトーカー" :
「ぎっ、~~~~~~~~~~~~!」

 ずしっ、と女の体が乗る。リザレクトしていると言えど重傷なのに変わりはなく、当然上から乗っかられて無事で済むわけもない。
 コードトーカーは憤怒の形相で見上げるばかりであった。

ダン・レイリー :
「───そういうことだ。
 全く、最後まで派手にやってくれた」

ダン・レイリー :
 その派手にやってくれた、はどちらに向けた台詞だったか。
 短いようで長い壮絶な勤めを終え、五体満足のままの二輪バイクを近くに停め、路地裏に逃げ込む“狐”の逃げ道を塞ぐように後方に立つ。こういうのを四面楚歌というのだったか?

ダン・レイリー :
 ………時にその二輪バイクも、随分とオーバーワークをした。次に動かした時、万全と行くかは怪しいところ。
 乗り手の片方の分も込めて労い代わりに最後は丁重に扱いながらも、愛銃を携行し、周囲確認を怠らぬままに手負いの女を見る。

 言葉は要らなかった。
 二度目の戦後処理は、最初と比べれば恐らくは幾分かシンプルに済むだろう。

"コードトーカー" :
「ぐ、……」

 続いてやってくるホワイト・スカイに対して、同様に睥睨の視線を向ける。

「"ホワイトスカイ"……米帝の犬が、実験台の分際で、私を見下ろす気……!?」

ダン・レイリー :
 実際、その戦後処理というのも単純すぎることはない。

 ヤツはリザレクトした。ダメージからの復帰があった。
 然るに衝動ありきの行動パターンではなく、半端な趣味。
 ジャームでない以上は、その扱いも定義も代わって来るだろう。

ダン・レイリー :
「さて」

 だから、僕はそいつの言葉に何も答えない。それを回答にする。

 答えることがあるとしたら、いますぐ銃口か、後々檻の中で事情聴取か。
 テンペストとしてなら分かり切った解答だが───此度は聊か以上に事情も違う。そんな単純な取捨選択では済まないわけで。

灰院鐘 :
「お待たせ~」

 のんびりとした声。見れば勇魚に拾われてきたらしい鐘が、のっそりと路地裏に巨きな影を落とした。

ナタリー・ガルシア :「東方では年貢の納め時、と言うらしいですわね――年貢が何かは知りませんが」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……もう耳に蛸が出来る程言いましたが。
 緊張感を持ってください」

 鐘の後ろから少女が姿を現す。一応、敵を捕縛しはしたが、警戒はまだ説くべきではない。

灰院鐘 :「はあい」

ナタリー・ガルシア :「はい!」

肘でツンツンと鐘さんを突っつく。

ダン・レイリー :「───ン。異常ないか、そちらは」

ブルー・ディキンソン :「お〜う、もう慣れたねえこの緩さ。
 やほ、御三方。無事そうねえ」

"コードトーカー" :
「本部エージェント、"ラフメタル"……"アルカンシエル"に、『鍵』となる娘……
 まさか総出で、こっちに当たって来てたとはね……
 クソが
 Damn itッ!」
 

灰院鐘 :「うん! げんきだよ。バイクは駄目にしちゃったから、ここまで勇魚くんに連れてきてもらったんだ」

灰院鐘 :「そっちも上手くいったみたいでよかった。

 ……や、ひさしぶり」

 片手をあげて"コードトーカー"に挨拶

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「お疲れ様です、大尉。
 聊か派手にやりましたが、此方も無事です」
 敬礼。

ダン・レイリー :
「致し方ないさ。
 その辺りは必要経費だ、此方と上がどうとでもする───まずはお疲れ様、三人とも。作戦の終了までは気を抜くなよ」

 ショウと“炎神の士師”………二人の様子と、ナタリーの様子を見ながら応じる。実際、前者二人は過分な消耗をした様子も見受けられない。

"コードトーカー" :
「ふん……あの時、おまえさえいなければ」

 心底不服そうに応じる。このような間抜けのせいで失敗したと考えると、はらわたが煮えくり返りそうだ。

ブルー・ディキンソン :「あらら〜、相当嫌われちゃったねえカイくん」

灰院鐘 :ちょっとしょんぼり

アトラ :
「うおお~!追い付いた追い付いた!
 見てて気が気じゃなかったっ、マジで!…… ……おわぁ」

 ナイスドライブ~!とサムズアップで更に遠くから駆け寄っていく。
 駆ける、と言うにはやや不適だ。足だけでどうにもならない距離はちょっとばかり反則したが。
 ……で、辿り着いた現場はコレだった。少し面白い絵面だ。

灰院鐘 :「アトラくん!」ナイスアシスト~!とサムズアップを返す

ブルー・ディキンソン :「やほ〜、"トラちゃん"」
 あだ名は建前。

水無瀬 進 :
『はいよっと、どうぞアトラちゃん。すっかり君僕のタクシーの常連さんになったねえ
 ま。ともあれおつかれさまだ!』

ナタリー・ガルシア :「そちらもおつかれさまですわ、アトラさん」

ダン・レイリー :「ミナセか。それに“T³”も。お陰様でひと段落だ」

アトラ :
 いえ~い、と手を振る。
 何はともあれ、どうにかなった。

ダン・レイリー :「とはいえ、ここで手を抜こうものなら、彼方の言葉で言うところの“画竜点睛を欠く”というものだが───」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《ぶっはははは!アトラ観てみーこいつの顔芸!
 あー面白!! ザマーミロ、ヴァーカ!!!》

 一方アトラの耳元ではそれはそれは、ご機嫌に馬鹿笑いする声ばかりが響いていた

アトラ :
 楽しそ~だなアンタは!何よりだよ!
 思わず声に出かけた。顔には出た。 

"コードトーカー" :
「次から次へと、雨後の筍のように湧いて出るカスどもめ……
 チッ、全く試験管の中でじっとしてれば、可愛いがってあげたのに」

 最後の、塩の柱の遺産を宿した娘に、いよいよ観念したかのようなやや落ち着きを取り戻した口調で

灰院鐘 :

ブルー・ディキンソン :「地べたを這いずり回るカスになってんのは自分の方だってのに、よくもまあ回る舌ですこと……」

ナタリー・ガルシア : 

灰院鐘 :「言っただろ。次は負けないから、そのつもりでって」

灰院鐘 :言いつつ素知らぬ顔でドローンをそっと抱きかかえる

"コードトーカー" :
「まんまとしてやられたというわけ。
 でも、勝った気でいるのはまだ早いんじゃないかしら?」

"コードトーカー" :
「この国全土に蔓延るウイルスの機能を止められるのは私だけ。
 私を殺せば確かにウイルスは停止するでしょうけど……あなたたちUGNが、ジャームでもない患者を抹殺できるのかしら?」

ダン・レイリー :一旦周囲を『偏差把握』で確認。

灰院鐘 :「止めてほしい!」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ナタリー・ガルシア :「……貴方がウイルスを停止させなければ、命が危うい人々が何人もいます」

ナタリー・ガルシア :「善人であれ、悪人であれ、命は等しく尊いものです――で、あれば」

「天秤はどちらに傾きますか?」

SYSTEM :
偏差把握を試みたダンだが、周囲に何かしら目立った物体は感じ取れない。
 たとえばコードトーカーの身柄を回収しに来る何某かや、或いは何か逃亡の手立てがあるようにも見えなかった。

ダン・レイリー :
 まだ少々の余裕はあるか。
 仕込みの様子も見受けられない。悠長にしすぎることはないとも言えるが。

"コードトーカー" :
「あなたたちは命は平等だとか言うご立派な大儀の為に動いているのでしょう?
 それとも、あなたがあなた自身の意志で、私を手に掛けると?」

ナタリー・ガルシア :「ええ」

"コードトーカー" :
「出来るのかしらね。
 よしんばあなたがその気だったとしても……黙ってる人はそういないと思うけど?」

ナタリー・ガルシア :「ええ、ですから、お互いに素直に交渉と行きませんか?私もギリギリなので、試すような真似をされて箍が外れないとも限りません」

困ったように、頼み込むように――誰かを手に掛けるなど、まっぴらごめんだという感情を隠そうともせずに、言う。

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :「その前に三つ。訂正する」

ダン・レイリー :
「ひとつ。
 逃亡の手立てはないとはいえ、そいつはノイマンだ。悠長に時間を与えるほど嘗めてやるな」

ダン・レイリー :
「ふたつ。
 ・・・・・・・・・・・・・・
 交渉は対等の人間がするものだ」

ダン・レイリー : 
「………みっつ。
 これは未遂だが………ナタリー」

ダン・レイリー :
「やるつもりのない脅しはするな。
 それを、逃げ道を塞ぐためには使うな」

灰院鐘 :「それに、人殺しはいけないことだ」

灰院鐘 :「どうしてもと言うなら、僕がやる」

灰院鐘 :「……って言うと、また喧嘩になっちゃうかな」

ナタリー・ガルシア :

灰院鐘 :「手を汚すなとは言わない。きみが守護者の道を志すなら、いつかその時はやってくる」

灰院鐘 :「でも……こんな風に振りかざすのはよくないよって、ダンさんは言ってくれてるんじゃないかな」

ナタリー・ガルシア :「そうですわね……ですが、余裕がないのも事実ですわ」

ナタリー・ガルシア :「ですから、私はお願いしているのです……最後の手段を取らせないで欲しい、と」

ナタリーは己が見下ろす女性が、賢い人間であると知っている。それは演算能力だけではなく、賢しさや狡猾さ、これまでの経験、その全てにおいて己よりも遥かに上の頭脳を持っていると知っている。

だから、『脅し』は通じない。ここまでなら死なないだろう、という、脅迫は通じない。

ナタリー・ガルシア :「今まさに混沌に陥れんとする『ワーム』がインフラにまで到達すればどうなるか――私達は、追い詰められているのです。ギリギリの、限界まで余地はありません」

ナタリー・ガルシア :「私が提示できるのは、『コード・トーカー』が己の意志で停止させるか、私達の意志で停止させるか、その二つに一つです――どちらを選んでも停止するのですから、私としては前者をおすすめしたいですわね」

ブルー・ディキンソン :
 ……さっきから黙って話を聞いていたが。
 なるほど、確かに。
 この地べたを這いずっている天才の処理は最終的に一つになるわけだ。
 ワームを解除させてからか、それともさせるためにか。
 ……まあ、もう一つの道がないわけではないが……。
 ちら、と自分の尻に敷かれている女を一瞥する。

"コードトーカー" :
「……今度は、何のつもり?」
 

ブルー・ディキンソン :
「……はぁ」

 コードトーカーの口にした言葉を聞いて、ため息をつく。

、  、   ・・・・・・・・・・・・
 ……コイツ、茶番に気合い入れすぎだろ。

ブルー・ディキンソン :
 茶番。
 そう、これは茶番だ。
 知っている人間は指で数えられるほど。
 情報漏洩は即ち死という重い禊を持って完結する。
 
 ……しかし、まあ。
 あの時捕まりに行って、直で見て思ったが……いやあ、いやまさか。
 まさかここまで気合を入れているとは……。

ブルー・ディキンソン :
「……やあやあ皆さん。
 そうカッカしないで、物騒な話をするもんじゃないですよ。
 なにせねえ──これって……」

ブルー・ディキンソン :
、   、   、 ・・
「これって、ぜぇんぶ茶番なんです」

 お手製のプラカードをさっと取り出し、ナタリーと鐘を先ず見る。
 そしてダン、アトラにと視線を流し……、最後にコードトーカーへ。
 

ブルー・ディキンソン :
「敵を騙すにはまず味方から。
 茶番は誰かが誰かを騙した時から始まる。

 皆さん真面目にやってるから……ほうら、狐に化かされちゃった。
 小物みたいに笑う、女狐さんに」

ブルー・ディキンソン :
 立ち上がる。
 そして、コードトーカーを抱えあげ、彼女にもう一度視線を向けた。

「あなたはTinker。
 わたしはSoldier」

「理想郷に、狐のお面を被ったモグラが一匹。
 自由の国に、首狩り人の首輪をぶら下げたモグラが一匹」

ブルー・ディキンソン :
「全部は茶番。全部は化け事。
 皆さん、よく騙されてくれました。

 こん、こん、こーん……♪」

ブルー・ディキンソン :
 はぁい。
 じゃ、あたしのRHOを開示しまーす。

GM :よろしい。では……

"コードトーカー" :
「え──────────?」

 まるで意味の分からない言葉を訥々と聞かされ、コードトーカーは困惑した。
 だが、思えば、違和感は幾つもあった。
 少なくともコードトーカーは、今まで幾つもミスを連発してきた。その悉くは、彼女が犯すはずもないミスの数々。
 その故に元 天刑の追跡を赦し、その故に考えられない失態を繰り返してきた。

"コードトーカー" :
 だが……その言葉を耳にした瞬間。

"コードトーカー" :
 "コード"は静かにスイッチし。
 マカビアス
 "鉄槌"は、静かに振り落とされた。

「────」

SYSTEM :
【Information】
イージーエフェクト《完全演技》が解除されました。
使用者:"Judas"
効果:
 Tinker Talker


【Information】
アイテム「Masked」が解除されました。
使用者:"Judas"
効果:
 Soldier Spy

SYSTEM :
 ぶつり。と
 何かの糸が切れたように、
 女は項垂れて。
 
 程なくして、支えられた身のまま顔を上げる。
 ……変相の極意とは、単純な服装だけではない。身のこなし、細かな所作に至るまでの投影によってなされるもの。
 ──コードトーカーと呼ばれていた筈の、ほんの数秒前までそう呼ばれていた筈の人間は。しかし、素人目から見ても明らかな『別人』となっていた。

"コードトーカー" :
「先に一つ、訂正します」

 同じ生体から発される声でも、単に語調を変えるだけでここまで別人になれるのか。
 今までのコードトーカーとは異なる『声』が、そうであったものから響く。

"コードトーカー" :
  ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「"コードトーカー"という犯罪者は脱獄などしていなかったんです」

"コードトーカー" :
          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「"コードトーカー"。ドイツ支部にて私が検挙したサイバーテロリスト。
 彼女は、今ドイツ支部の中で監禁されています。

 今回の任務に当たり、私は……
               サイテック
 彼女の精神データを、同支部の技術者に外部化し──完全にその人間の人格と性質を、仮想マシンのように私の脳にオーバーライドした」
 

"コードトーカー" :
 既に満身創痍であった筈の身体を、巧く動かして。
 その身に身に着けた大柄な服装を、引き剥がす。
 それはまるで、ヴェールを脱ぐかのように。

"コードトーカー" :
 その先にいたのは──少女だった。
 恐らくはドイツ系の、金髪を二つに結い纏めた、碧眼の少女だった。
 

"コードトーカー" :
「わたしはTinker。
 あの子はSoldier」

"コードトーカー" :
「私の"コード"は、"ジューダス・マカービアス"。
 所属は、UGNヨーロッパ支部、情報工作部隊『ミラージュバイト』……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「──ミリア・ポートマンであります!
 以後、どうぞお見知りおきを!」

SYSTEM :
【Unlock!】

 RHO④のRHO開示宣言を確認しました。

SYSTEM :
Rハンドアウト/Judas
 ロイス:"ジューダス・マカービアス" 推奨感情:P信頼/N任意
 
 あなたは、『シャンバラ』の一員である『コードトーカー』の正体を知っている。
 『コードトーカー』とは、FHを通じて潜入捜査を行っているUGNのヨーロッパ支部に籍を置くミラージュバイトの一員『ジューダス・マカービアス』である。
 あなたはイリーガルの立場で作戦に入り込み、彼/彼女の情報を受け取ることで、『パラダイス・ロスト作戦』を後押しするために行動することとなる。
 
 あなたは十分な情報が得られた段階で、彼/彼女の身柄を引き取り情報を得なければならない。
 
 RHO効果として、一巡後ごとに『ジューダス・マカービアス』からの情報提供を得られる。
 また特定の条件下でRHOを公開することで、ジューダス・マカービアスの身柄を回収し、PTメンバーに加えることが出来る。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【HOシーン⑤:-Judas Maccabaeus- Foxtrot】

SYSTEM :
 ……事の発端は一年前、夏の或る一日のことだ。
 ドイツ・デュッセルドルフに構えられたこの豪邸が、この時ブルーの表向きの仕事場であった。

 ブルーは各所でカヴァーを付け替え、転々としている。使用人として依頼人と接する予定になったのは、まさにこの折のことであった。
 

SYSTEM :
 相手は彼女にとっても、全く知らない仲という訳でもない。何せ万事屋として身を立てるに当たり必要な金銭を工面したのは彼女の支えも大きかったからだ。
 ブルーの仕事は、決して綺麗なものではない。ましてドイツの富豪の跡継ぎという、やんごとなき御令嬢が資金を援助するのは勿論、直に接する機会すら常ならば絶無の相手であった。

SYSTEM :
 それは彼女にとっても、深い闇に潜り込まねばならない理由があったからであり。
 こうして関係が続いているのも、ビジネスのみという訳ではないのだろう。

 ミリア・ポートマン。

 ポートマンは母方の姓だ。紆余曲折あり父の遺産を継いだ彼女は、家名を継ぐ一方私的な場面では好んでその名を名乗り、裏の仕事においては専らその名で通っている。
 資産家をカヴァーとし、UGN設立以前のドイツのガーディアンに対して資金面で援助を続けた古株の家の人間であり、金銭面コネクション面の双方において途方に暮れていたブルーを助けた人間だ。

SYSTEM :
 尤も……私的な関係があるとて、彼女が邸宅にやってきたのは単なる友誼のためではない。
 ブルーにしか任せられない仕事。途方もない危険の伴う仕事の代理人として、ミリアはブルーを指名し、この場に呼びつけたのである。

SYSTEM :
 穏やかな昼下がり、彼女は静かな庭園のテラスで木漏れ日に照らされながらブルーを待っていた。

ブルー・ディキンソン :
 因みに。
 一年前には既に、私はストレス軽減と暇つぶし、としてレネゲイドのコントロールを目的とした喫煙を始めていた。
 いたが……、流石にここに来る時はそれを断つ。
 もはや依存症レベルといっても差し支えないのだが、それはそれ。
 脳から体に伝わる"認識"を弄れば、ある程度の抑制はできる。
 煙草が好きな自分を忘れればいいのだ。それで終い。

ブルー・ディキンソン :
 ミリアとの付き合いは長い。
 中国を脱出し、途方に暮れていた私が奇跡的に繋いだ最重要コネクションの一つ。
 いくらオーヴァードになったといっても、社会も知らぬ小娘。
 表の社会でも、裏の社会でも生きていくには何かの支えが必要だった。

 ふと今でも……彼女はなぜそんな酔狂なことをしているのだろう、と疑問に浮かべることはあるが。
 あるが──それは茶をしばいている時、何も話題がないときにふと思い浮かぶようなレベルのものでしかなかった。

ブルー・ディキンソン :
 思えばこんな仕草を叩き込まれたのも彼女がきっかけだ。
 それが原因で社員に一週間は笑われていた気がする。
 いや、そんなことはどうでもいい。今年は使用人で行くと決めたのは私だし、あいつらにも同じ格好させるだけだから。

 ……話を戻そう。
 ともかく私は、奇妙な経緯で、ビールの国のお嬢様と繋がりがある。
 今回ここに足を運んだのも、それを通じてだ。

 ……最も、今日は様子が違う。
 ようやく慣れた紅茶を淹れるわけでもなく、
 所定の位置に菓子を並べるわけでもなく、
 埃一つにすら殺意を向けるようなものでもなく、
 ・・・・・
 仕事として、だった。

ブルー・ディキンソン :
 僅かな足音ともに、一歩一歩足を前に運ぶ。
 歩きの仕草だけでも、ブルーは気配を限りなく殺すことに意識を割いた。
 例えここが絶対安全の屋敷だったとしても、テラスにミリアしかいなかったとしても……、
 ブルーには最大限の警戒があった。

 彼女が自分の体に経験として叩き込み、知識としてインストールした武道の極地。
 足を踏み出す所作にさせ、そこには明確な"武"のための動きがある。

ブルー・ディキンソン :


「お呼びですか、ミリアお嬢様。
 ディキンソン、すでに居ります」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 クラシックなメイド服という服装と裏腹に戦士の側面で現れたブルーに、ミリアはたじろぐこともなく優雅な振る舞いで応じる。

「ごきげんよう、ブルー。
 ああ、楽にしていいわ。今回は私がホストだもの、紅茶も入れてある。
 仕事の話とはいえ、思考リソースを余計に散らすのは効率悪いもの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「どうぞ座って?
 心配しなくても、此処には話を聞かれて困る人は下がらせてある。
 話もそれなりに長くなるしね」
 

ブルー・ディキンソン :
 ……うむ、実はちょっと苦手。
 故郷にこういう立ち振る舞いの人間は一切いなかったし。
 苦手だが、それは触れたことのないものに触れる事への怯えのようなものだ。
 しかし、まあ。
 私は一応"武"の側面を出していたわけだが、動じないとくる。

「……」

ブルー・ディキンソン :
「ええ、わかりましたお嬢様。

 ……紅茶を淹れる時の姿勢って、
 義体の人工筋肉部分を無駄に刺激するから、痛いのよ。
 だから安心しちゃった☆」

 さて。
 許されたからには座るし、紅茶を一口飲んで、軽口を叩くだけの切り替えを行う。

ブルー・ディキンソン :
「んーで? 
 ・・・
 あんたがそう畏まってくる時って、大体デカいヤマ持ってくる時でしょ?
 記憶領域は空けてきたから、話してみなさい」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「律儀で助かるわ。仕事意識の方は衰えてないようで何より。
 私も投資させてもらった甲斐がありました」

 気の知れた以上に、お互いにその性質を知っていることもあるのだろう。その豹変ぶりにも動じることなく、冗句を交えつつ話を進める。
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ・・・
「まあね。
 話が早くてよかった。実際、あなたぐらいしかアテがいないの。このぐらい危ないヤマだとね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「でも一応、意思確認しておくわね。今度のは結構スケール大きいし、訊いちゃった時点で巻き込むことになると思うし」

 ……彼女がこう前置きして依頼された仕事の内容は、大抵の場合本当にろくでもなく規模が大きい。
 さり気無い口振りで前置きされ、東ドイツのソ連政府絡みの事件でKGB相手に大立ち回りをしたことは記憶に新しい。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「私がUGNに席を置いてることは覚えてる? それも、ヨーロッパ支部に設置されてる「例の機関」の。
 今回あなたに依頼したい任務はそこ経由の任務、つまり対国際テロ関係の案件ってことになるわ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「前回の"グリースハイム"絡みの一件よりずっと危険な仕事になる筈よ。私も命懸けで立ち回らなきゃいけなくなる」

 だから、協力者が欲しい。一時的な共闘関係でなく、言葉通りの意味で命を預けられるような相手が。

「……話、聞いてみる?」

ブルー・ディキンソン :
「はァん、テロ絡みか。
 ドイツ
 此処は60・70年代の難民受け入れからずーっと潜在的脅威が残ってるもんねえ」

 もっとも。
 ここで言う"テロ"はおそらくその類ではない。
 確かにこのドイツという国は自国民が過激派となることでのテロ脅威が存在しているわけだが。
 それだったら彼女が動くはずもないし──何より前置きがそもそも異なる。

「さて……」

ブルー・ディキンソン :
 煙草に手はつけない。
 ただ紙の棒をそれに見立てて指で摘み、回して思考を巡らす。
 ブルーはこういった時に即答をしない。
 即答をするのは命知らずのすることで、リスクとリターンを考慮していない。
 
 大きなヤマの時は莫大な報酬が手に入る。
 そしてそれを部下に分けて払う以上、最終的なリターンを確認しておかなければならない。
 それを彼女もわかっているのだろう。

 だからまずは「聞いてみる?」なのだ。

ブルー・ディキンソン :
「……ま、"玩具屋の隣人"と視線を交わしあうよりはそっちの方が気が楽かもね。
 あたしに"直に"依頼をするんだから、当然腹は括ってるわけだ」

「まーったく顔に似合わん豪胆さだこと」

ブルー・ディキンソン :
 ・・・
「聞こう。
 命をチップにしてるのはいつもの事だぁね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「誉め言葉として受け取っておきましょう。
 それに、それを言うなら前の作戦も、"ビッグハウス"相手に無茶ぶりに応えてくれるあなたが居なきゃ巧く行かなかったし。
 今回も勿論、それに見合う報酬も保証も期待してくれていいわ」

 まあ、手付と準備費用でこの辺りかな。と、紙面を取り出して机に置く。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 最新鋭の武装に身を包んだブラックドッグのサイボーグであるブルーとはいえ、その駆体が一般社会に流通しないR由来の材質や技術を多く含んでいる以上、最大の問題は維持費である。
 それは勿論他の社員に対しても同様であり、ブルーの会社が万年悩まされている点でもある。
 紙面に踊る数字は、その手の問題を当面気にせずにいられるだけの額が記載されていた。その上で各社員の維持費は別途支給という好待遇。

 ──それだけの危険を伴う、ということでもあり。手付でこの額だ、断った場合の口止め料も兼ねているに違いない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 それを見せる傍ら、カップを置いて少女は本題を切り出す。
   ティンカー
「──そっちの界隈でも有名だと思うけど。
 次の標的は『モスクワセンター』じゃない。ダークウェブに巣食う蜘蛛……"シャンバラ"よ」

ブルー・ディキンソン :
 ジーザス。
 表情こそ崩れなかったが、彼女のニューロンは間違いなくかき乱された。
 だが同時に、これだけの金額を提示するだけのリスクが存在する事は明白だった。
 生唾(生なんてものは義体にないが……)を飲み込むほどの衝撃。
 
 紙切れをしまいこみ、一秒静止。

「…………なるほど」

ブルー・ディキンソン :
「……なるほど、なるほど……。
 なるほど、確かに、これだけ支払うのは"当然"だぁね」

ブルー・ディキンソン :
「アレ、正直眉唾物だと思ってたんだけど。
 真実なんだ? よりにもよって、あんたがそれを切り出すってことはさ」

 入れ替わりでカップを手にする。
 味のわからぬ液体だが、飲み嗜んだという行為を脳が認識する。

ブルー・ディキンソン :
「……まったく、豪胆な女だよあんた」

ブルー・ディキンソン :
「これじゃ断れないじゃん。
 退路を潰して交渉たぁ、気概ありすぎっしょ……あはは」

 口元を緩める。
 これは暗に"受けるから続きをどーぞ"と言っている。
 回りくどい言い方を相手に察させるのは、彼女なりの誠意だ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 下に入れたと同時、義体に導入した粗悪な味覚センサーが脳に上品な味わいを提供する
 この仕込みはミリアではない。恐らく同僚の"彼女"が入れたものだろう。

「残念ながら。『深層ウェブに潜るだけで、αトランスが大麻ぐらい簡単に手に入る』……
 武器の足りない民族には、最新型の機械化兵が。人手の足りないセルには、上質な労働力が。
 自己責任の名の元に、あちこちにばら撒かれてる」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「当然。分かってるでしょ? 選択肢を出しはしたけど、初めからこの話を出す時点で逃がす気はないもの。

 皆、私のことを剛毅だの無鉄砲だの言うけれど、これでも全部計算の上、最大限保険を打っての行動なんだから」

 幼さが残る顔が妖しく笑う。了承を得たとして、少女はさらに説明を続ける。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「UGN本部の捜査の結果、シャンバラの拠点は合衆国……北米を中心に展開されていることが分かった。
 これに対してUGN本部は同じく事態を重く見たペンタゴンにシャンバラ討伐作戦を提案。正式に決定してはいないけど、私の見立てでは来年の丁度夏場には固まるでしょうね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「R案件専門NGO、UGN協力の下で行われる対大型シンジケート『シャンバラ』摘発作戦……
             ・・・・・・・・・・・・・・
 と──いうのが少なくとも業界人に流すカバーストーリーってところ」

ブルー・ディキンソン :
 ……うげ、あいつ。
 気遣いなんだか、それとも揶揄いなんだか。
 淹れた人間の微笑が脳裏に浮かんできて少し目を細めた。

ブルー・ディキンソン :
「無鉄砲とは思わないけどねェー……。
 ま、最近のあんたは依頼をするときにいつも"こう"だから。
 時折……蜘蛛の巣のように思えるよ」

「気づいたらもう既に巣の中。
 糸に触られて絡め取られてるって感じ」

ブルー・ディキンソン :
「───別に悪い気はしないけどね。
 巣に引っ掛かる代わりに、美味い餌を与えてくれるんだから」

 なんだかヒモのような言い方だが実際そうなのでしょうがない。
 荒事を請け負う代わりに、信じられんくらいの金をもらっている。
 今の待遇にはかなり──それはもうかなり満足している。

 この格好だけはどうかと思うが。

ブルー・ディキンソン :
「……"シャンバラ"ねぇ。
 当然、国家群はそれを裏で察知しているだろうけど。
 特にアメさんなんて対テロ戦争からそう年月が経ってないものねえ」

「で、それを叩くと。
 表の後ろ盾も用意して結構な事で。
 とはいえ、それだけで済むなら別にあんたの所属が出てくる必要もないよね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「勿論、優秀な人間は逃がさないのは私のポリシーみたいなものだし。
 でも……うら若い乙女を捕まえて「蜘蛛」呼ばわりはどうかと思うわ」

 少しむっとして

ブルー・ディキンソン :
「東の国は、蜘蛛は美女に化けて人を喰うっていうらしいぜ?
 やってることはおんなじようなもんでしょ、お嬢様☆」

 で、
 表があれば裏もある。
 表の状況だけで見れば彼女が命をかける必要などない。
 カバーストーリーを撒いて情報を塞ぐ。
 塞ぐには理由がある。

「で……そんな"うら若き乙女"のお嬢様は、
 ・・・・・・・・・・
 何をしでかすおつもりで?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「結論から言うと……」

 ・・・・・
「強請るのよ、ペンタゴンを」

ブルー・ディキンソン :
「…………。
 …………やっぱ剛毅だよ、あんた」

 感想を口にし、続きを目で促す。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 さらりと言ってのけた言葉は、しかしブルーで無ければ苦虫を噛み潰したような顔をするだけでは済まなかっただろう。

「国益、秩序、経営方針、etcでシャンバラが居られると困るのは共通認識。そこはいい。
 けど、UGNにはUGNの裏の目的があって、アメリカにはアメリカの触れられたくない部分がある……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「私……というよりUGN諜報機関としての目的の一つは、そのアメリカの汚点。
 ウィアードエイジ
 奇妙な時代から秘かに続いたアメリカのレネゲイドに関する事件をダシにUGNを新たなビジネスパートナーとして正式に認めさせる……
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 詰まる所アメリカ政府にUGNの全面的活動を認めさせること」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ヨーロッパ……特にイギリスは王族が直々に認めたことで法整備も迅速に進み、北ヨーロッパを中心に速やかに基盤を固めることが出来たんだけど。
 アメリカの方は本部の拠点にもなってる割にそう巧く事が運ばなかった。北米セルの討伐の後、すぐにUGNとしてガーディアンズの連携を推し進めてきたこともあって、地固めがまだ万全に出来ていなかったの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そもそも……米帝からすると別に他国をリードできるならFHでも良いし。もっと言うなら二次大戦期にレネゲイド……当時は、そうは呼んでいなかったとしても……それに関する研究に多少手を付けていたのなら。
 先にFHや、或いは何らかのクランと結びついて研究を続行していたとしても何もおかしくない」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「各地の進駐軍の一部にもFHの関与が疑われてる。叩けば埃なんて幾らでも出てくるし、何ならシャンバラがかなり深い部分で関わってるのも間違いない。

 ……北米FH決戦ではそんな余裕なかったみたいだけど、今回は遠回しに置いておいた『先人のやり残し』を清算する絶好の機会ってこと」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 つまり要約すると、少なくともUGNの裏の目的は。
 「アメリカ政府が抱えたテロリストとの関係の解消と、その事実を元としてUGNの活動を認めさせる」という。
 後ろ暗い面を暴き立て、それを以て商売の場所を強請るという……脅迫同然の作戦であった。

ブルー・ディキンソン :
「アメさんらしい理屈だぁね。
 特に二次大戦を制していこうは鼻が伸びまくりだし。
 R関連技術に関して確実なものが得られたら、
 ベトナム
 象蟻戦争の負債も完全に取り返せると思ってんでしょ」

ブルー・ディキンソン :
 アメリカという国の性質をよく表している。
 それ故に叩いて出てきた埃をいちいち"掃除"していてはキリがないのだ。
 それにアメリカだけに限った話ではない。
 これが中東にでも渡ればえらい騒ぎになる。

「で……その強請りか。
 確かに最初に繋がりを作ってしまえば、早々に解除はしづらい」

ブルー・ディキンソン :
「いいんじゃない。
 一旦そろそろ、痛い目を見ておくべきでしょう。
 露助は結構参ってるみたいだし? あとは星条旗の前で土下座させればある程度のバランスは保てる」

「で……あたしの仕事はさしずめ、その作戦に参加しろって事だろ。
 コマとして使ってくださいと売り込んでおくわけだ、根回し付きで」

ブルー・ディキンソン :
「触りの部分はわかった。じゃあ、一個質問だ」
 ・・・・・・・・・・・
「あんたが命を懸ける部分、そこ一つ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「それがすべてという訳じゃないけれど、その通り。話が早くて助かるわ。
 あなたには表の顔として、一年後に発される作戦に参加して欲しいの。この資金も時間も、それまでの準備のために充てて頂戴。
 本来なら外野の人間がこんな重要なオペレーションに参加してきた時点で疑いが向くかもしれないけど、そこは、そう。
 ・・・
 仕込みを入れておく」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 そしてブルーの質問を前に、ミリアはティーカップに口をつけ一拍する。
 彼女は何も答えず、しかしそっと紙の資料を卓上に取り出してみせた。

 卓上に差し出されたのは、オーヴァードのプロファイルリストのようだ。見覚えのない眼鏡をかけた銀髪の女が、そこには映し出されている。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ミリアはソーサーにカップを戻し、訥々と語り始める。

「コードネーム、コードトーカー。
 本名ジョエル・コルディエ。年齢25歳。
             ピュアブリード
 シンドロームはノイマンの純 血 種。
 生まれはボルドー。著名な時計技師の職人の家に生まれる。
 幼い時期に事故の影響で脳を負傷し、ノイマン・シンドローム罹患前から天才的な数学の才能に開花。一方で離人症を併発し、特に父親からの圧力が原因で酷い癇癪持ちとなる。
 飛び級で入ったMITを卒業後、両親を殺害後消息を絶つ。この時期からFHが接触し、ノイマンへ覚醒したと推測される」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「衝動傾向は吸血。活動圏内はヨーロッパ。とくに遺物に関して高い興味を示しており、それらを巡りサイバーテロリストとして幾つものテロ活動を扇動してきた。
 南東ヨーロッパ、ユーゴスラビア近辺に発見された賢者の石の産地を巡って、地元民の民族問題を由来とする第二次ユーゴ内戦を誘発させようとするも、未遂に終わり検挙され、現在に至る」

 一通り経歴を語り終えた後、彼女はこう続ける。

 ・・・・・・・・・・・・
「コイツを遣おうと思ってる」

ブルー・ディキンソン :
「はァん、"2+2は5"って事」

 "遣おう"──その言葉の本当の意味を悟った時、まず解が口から出た。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「遺物探索局……遺産って言われる前時代のEXレネゲイドを研究する機関がフランスに配置されてるのは、前大戦期の頃、ナチスと関係していると言われてるわ。
 彼女はその地で生まれ、それを求めて活動を続けてきた。その彼女の資金源は、ODESSAと言われる南米に逃れた旧SS将校たちの組織からと後に判明してるの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そしてシャンバラは同じ資金源を持っている。遺産の運用に関する知識も当然欲している。

 この重犯罪者は、シャンバラへのコネクションと、彼らが必要とする要素を持っているってこと。それに重用される技能(スキル)についても同様に」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「だから……そう。
    ・・
 これを遣うの」

 とんとん、とミリアは指でプロファイルを叩く。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「勿論こいつを出すなんてのは論外。
 洗脳して操るのも、ノイマンの精神耐性から考えて難しい。出来たとしても不自然さがどうしても出てしまう。
 ならどうするか。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 そいつになりかわってしまえばいい。

 ……私たちもノイマン。
 ・・・・・
 そういうのは得意だってこと、わかるでしょ?」

ブルー・ディキンソン :
「そりゃそう」

ブルー・ディキンソン :
、 、 、・・・・・・・・
「あたしも普段やってることだからね。
 幸い、あんたが雇ってる女中はどいつもこいつも個性派揃い。
 言動の「あ」から「ん」に至るまで、思考の「1」から「100」まで、全部覚えた」

「よく仕事で使わせてもらってるよ。
 特にあの……私より一つか二つ下の、ドジっ子。
 あれは"再生"のし易さがあって良い」

ブルー・ディキンソン :
 ということは、だ。
 彼女は彼女なりに、非常に細い橋を渡ることになる。
 しかもそれは、どんどん先細っていくのだ。
 一歩踏み出すどころか、先が無くなっているかもしれない"橋"。

 なるほど、よくわかった。
 確かにそれは命を懸けなければできないことだ。

ブルー・ディキンソン :
「……最悪どころじゃないね、五分の確率で死ぬ。
 生きて戻ってこれたとして、あんたが"ミリア"に戻れるとも限らない」

ブルー・ディキンソン :
「あたしは自分を偽ることには慣れているよ。
 そうじゃなきゃ生きてこれなかった人生だ。
 他人を模倣し仮面を被ることで、その自己を護る行為。
 だが下手したら、それは自分を上書きしてしまうことになる。
 真実を覆い隠すというのはそういうことだ。

 一度仮面を被ってしまえば、もう誰も秘密は知らない。
 秘密なんて存在しなくなる」

ブルー・ディキンソン :
「それでも構わないのかい。
 あたしは──100%を公言するのは嫌いだって知ってるでしょ?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ・・
「覚悟は出来てるわ。この所属に身を置いてから、ずっと。
 そもそも、この任務……私の個人的な動機もあるし。この分の悪い賭けに対する備えも、きちんとしてきた」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ノイマンの完全演技と人格管理だけなら、かなり厳しいけれど。それも外側の補助を加えれば、成功率はぐっと増す。
 言ったでしょ、私は無鉄砲に見えて計算はしっかりしてきてるの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
                 サイテック
「ドイツ支部に私の主治医の腕のいい精神技術者がいてね。"ビビッドファンシー"……アダマスさんっていうんだけど。
 数日後に彼からサイコセラピーを受けて、記憶ごと人格を移植して貰うことになってる。
 その折に幾つもセーフティをかけた上で、私は重犯罪者『コードトーカー』として脱獄する」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
        ランドスケープ
「彼から今の私の精神風景のバックアップを引き出す『コード』をあらかじめ作ってもらう。
 それを遣えば、一度徹底的にフラグメント化させた私の人格を再構築することが出来る。

 ……ブルー。あなたにやってほしいことの一番のポイントは詰まるところ、その部分。
 あなたには最終的に、コードトーカーとなった私にコードを入力して人格を修正する役目を果たして欲しいの」

ブルー・ディキンソン :
 精神療法。
 ノイマンの持つ高度な情報処理能力によって実現する"人格の模倣"と、対話による精神の認識。
 これらを併用すれば、完璧に他人を模倣することもできるだろう。
 言わば人格移植に等しい。精神的なドッペルゲンガーだ。

 最も、それが上手くいかない可能性は捨てきれない。
 人が他人に完全になりきるなど、どれだけ遺伝子の技術を突き詰めたところで不可能だが。

 ある環境下で目的/役割を担わせれば、特定の人格のフリくらいはできる。
 その点においては、"人格模倣"を疑う必要などあるまい。
 

ブルー・ディキンソン :
 確かに計算された"模倣"だ。
 今から私と彼女は、"シャンバラ"などという馬鹿げた名前を名乗る組織相手に……
 緻密な計算のもとに作り上げられた、「化かし合い」を行うというわけだ。

 真実を知られてはいけない計画だ。
 知られた途端に、作り上げられた"茶番"が現実の悲劇になってしまうだろう。
 適切なタイミングで彼女のいうコードを入力しなければ、彼女は"コードトーカー"として死ぬ。

ブルー・ディキンソン :
 作戦に同席する全ての相手に教えてはならない。
 その時が来るまでに絶対に秘密が漏れてはならないのだ。
 無論、UGNと米国の双方がどのような人材を寄越すかにもかかってはいるが。
 
 少なくとも後者の人間には絶対に話せないだろう。
 どれだけ信頼を獲得されていたとしてもだ。
 これだけは話せない。
 話せるとすれば、断片的なヒントを口にするだけ。
 答えは絶対に喋れない。

ブルー・ディキンソン :
 騙し合い。
 茶番。
 私はそれを、真実のものとして虚飾し──然るべき時に、茶番であることを明かさなければならないのだ。

ブルー・ディキンソン :
「つまり」

ブルー・ディキンソン :
「あたしがしくじれば、あんたは知識欲に溺れた愚かな賢人として死に。
 あたしはその報復を受けるか、あるいは食い扶持を失って死ぬか、か」

ブルー・ディキンソン :
「……なぁーんだ、それくらいか。
 じゃあ、楽勝だね。あたしはその時まで黙ってればいいし、あんたはその時までにバレなきゃいいだけでしょ」

「だけど……提案が一つ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「提案?」

ブルー・ディキンソン :
「そう。、   、   、 ・・・・
 プロテクトをかけるのなら、もう一つあったほうがいい」

ブルー・ディキンソン :
、  、  、  、ポーズ
「例えば───こんな"手印"とかね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……それもそうね。命綱は多い方がいい。
 "狐の化かし合い"……か。冗談みたいだけど、洒落が効いてる。
 "ビビッドファンシー"にも、その設定を追加するよう頼んでみるわ」
 狐を模した手印と、言葉。
 それを認識することがトリガーとなり、自動的に長時間発動していた完全演技は解除される。
 それがこの茶番の終局の合図。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
        ロール
「私とあなたは、役割を果たし終えるまで、まさに一蓮托生となる。
 私とあなたによる大仕掛け。大国を騙す舞踏。
 洒落を利かせるなら、そう」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「私とあなたのこの作戦は。
          Fox trot
 オペレーション・『 F 』……としておきましょう」
 
 Foxtrotとは社交ダンスの一種であるが、別の意味としてNATOの暗号における「F」のアルファベットを意味する語でもある。
 Faith,Fake、     Forget
 信用、欺き、そして『忘却』。
 
 その中で演目を踊り切ることで、この任務は果たされる。

ブルー・ディキンソン :
「……これまで散々、自分の命を賭けてはきたけれど。
 他人と運命共同体になって、レイズするのは初めてだ」

「私はね、ミリア。
 "エスコート"がないとダンスが出来ないんだ。
 あいにく道をまっすぐ歩けるような心の持ち主じゃあないからね。
 
 だから精一杯、"コードトーカー"として、事件の裏でエスコートをお願い。
 そうすれば私は、狐面を被って、真実を覆い隠す舞を踊りましょう」

ブルー・ディキンソン :
「何故ならこの真実は、あたしも知らないからだ。
 あたしはあんたを、"コードトーカー"として認識し、信じ込む。
 これで秘密はもう存在しない。多少の齟齬は生まれるかもしれないけれど、そこは上手くカバーする」

「あたしの中で、あんたと"コードトーカー"がイコールであることは全て忘れ去る。
  403 Forbidden
 思い出すのは禁止だ。あたしは、あんたが地面にぶっ倒れた時にロックを解除し、思い出せるようにする」

ブルー・ディキンソン :

「時来るまで、
、  、  、  、  Forbidden
 その真実を明かすことは許されない。
 あたしにはただ漠然と『依頼人を明かしてはいけない』という暗示を施しておく」

「うん、ちょうどいい。UGNの方に送ってる名前は一つじゃないんだ。
 けど、この作戦に相応しいコードネームがある」

ブルー・ディキンソン :
「これは騙し合いにして化かし合い。
 真実を知らないものたちをおちょくるようなもんだ。
 だったら"妖精"がふさわしい。高高度で起こる雷のように、一瞬の断片で悪戯を仕掛ける、
エルヴスプライト
 "雷霆精"がちょうどいいでしょう。あは!」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
                                Forget
 ブルーの宣誓に頷いて答える。この伏せられた使命を、今はお互いに"忘却"する。
 ロール
 役割と完全に一体化し、シナリオ通りに踊り続ける。その筋書きに当事者さえも気付かぬように、自分自身すら騙して踊る仮面舞踏会。
 いずれかがしくじれば、その時点で未来は断たれる。それは死ですら生ぬるい、『消滅』と呼ぶ方が似付かわしい。顔に張り付いた仮面が、そのまま素顔となって消滅する。
 踊り出せば、すべてを為し終えるまで仮面を外すことは赦されない。
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そう。
 Tinker
 あなたはSoldier。
 Talker
 わたしはSpy。

 私があなたをシャンバラの深みへとエスコートする。今から、約一年後……その時が来たら、舞踏会への招待状を送りましょう。
 ……だからあなたも必ず、"コードトーカー"の檻から私を助けに来て」

 真剣な眼差しで語る、少女の細い指がブルーの手を取る。熱を感じない鋼の手を取る行為は、互いに命を掛け合うための儀式でもあったのかもしれない。
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
エルヴスプライト
「"雷霆精"……悪戯に舞って面白おかしく笑う妖精さん。
 姫を救うナイトにしては、自由に過ぎるかもだけど……私にはそのぐらいが丁度いいのかもね。

 ──だから、あなたに私の命を預けるわ。
 ──代わりに、あなたの命を頂戴」

ブルー・ディキンソン :
 自由。
 そう、あたしは自由だ。
 何者にも縛られずに、全てに嘲笑を向けて、全ての物事に中指を立てて、自分の感性だけを信じて生きる。
 
 自由。
 あたしは自由ではない。
 今自由だと思っている大部分の全てが、あたしを作り上げてきた人生によって作られている。
 そしてその人生は、戦いによって構成されている。
、  、  グリーンカラー
 あたしは戦争生活者だからだ。

 視線を覆い隠す仮面/サングラスを外し。
 ミリアの目を見る。
 あたしにとって目を見るという行為は、その人物の信頼を試す最後のプロテクトだ。
 だからあたしは普段、その目を覆い隠しているし──その色を見せようとしない。
 

ブルー・ディキンソン :
「いいよ」

 "けらけら"と笑う振りをして、ブルーは少女の腕を掴んだ。
 重ねられた手とは逆のそれで、引き寄せるように。
 この義体に熱もなければ、吐く息すらない。
 だからそれを証明できるのは、魂を収めた言葉と、眼だけだからだ。

「おもしろおかしく、踊ってやるさ。
 でも、クラシックで踊るのは性に合わない。
 "ブラッド・ブラザーズ"でも流して全員の耳をぶっ壊すつもりでいこう」

 サングラスをかけなおした少女の顔は、これから起こることへの"楽しみ"への期待に満ちていた。

ブルー・ディキンソン :
「……だから、くだらないことで死なないでよ。
 檻の前に来たら死んでましたなんて、寝覚めが悪すぎる」

、 、 、 、 檻
「──あんたの"コード"を壊すのは、
   このあたしの役目なんだからね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「わ、っとと」

 掴み、引き寄せられる腕。まさしく社交ダンスのように身を寄せ合い、目を合わせる。
 ぶれない芯を示すような真っ直ぐな瞳は、ブルーの双眸を見つめ返す。その内の紫電の魂を見据えるかのように。
 熱もなく、息遣いも感じない。
 だが、見えすぎ知りすぎ理解しすぎるお互いにとっては、それで十分だった。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……当然。
 暫く逢ってないからって、忘れちゃった?」

 悪戯に嗤うブルーに応じるような、強気で不敵な笑みを浮かべ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ・ ・・・・・・
「私、天才ですから。
 失敗しないので、その辺り改めてよろしく」

ブルー・ディキンソン :
「……、…………、…………」

ブルー・ディキンソン :
「あっはっはっはっは! そうでした。
 くくっ、じゃあ大丈夫だ。命なんていくらでもくれてやる」

「なぜならあたしも、"天才"だからね。
 上手い具合に演出してやるよ、失敗なんて言葉は元からない!」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そうこなくっちゃ!」

 年相応にあどけない顔に笑顔を広げ、二人は静かな庭で手を取り合い踊り始める。
 まるで切株の上で踊る悪戯な小さな妖精たちのように。
 
 そして、この時を以て、幽契は交わされた。
 オペレーション・F。
 ふたりの狐の化かし合い……妖精とその主の、敵も味方も国も巻き込んだ、真夏の夜の夢の始まりである。

SYSTEM :
 その後、手筈に従いミリアは施術を受けて移植した『コードトーカー』の人格になり切り。
 ブルーは『コードトーカー』という役の演者を自らの記憶から取り除いた。
                      Forget
 此処で話された内容の真実をこの世から完全に忘却し。
 一年後。最初の通信がやってくる。

"コードトーカー" :
『直に作戦が決行される。UGNのイリーガルとして潜入されたし
 以下に情報を送信する。

 既にドイツ支部に話は通っている。速やかに潜入せよ。
 私のコードネームは『コードトーカー』だ』

"コードトーカー" :
『次にシャンバラからターゲットとなるのは、アメリカのナタリー・ガルシアという資産家の娘だ。
 奴らに身柄を確保されれば、シャンバラは最終目標を達成するだろう』

"コードトーカー" :
『先ずは彼女の安全を確保してほしい。
 追ってシャンバラに関する情報を送信する』

SYSTEM :
 ……と。
 その後もブルーは名義不明、周波数や地域の特定が出来ない謎の領域から情報を受信し続け。
 その指示や情報を支えに作戦を背後からバックアップし続けた。

 ブルーもまた、コードトーカーの検挙……即ち、ミリアの回収のために尽力を続けていた。
 すべてはオペレーション・Fの成就と、この馬鹿げた茶番を大団円で終わらせるために。

SYSTEM :
 そして熾烈な追跡劇と、ひりついた空気をも置き去りにして。

 二人のFox trotは、成功を収めたのだ。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :【人物:コードトーカー⇒ミリア・ポートマン/1】
コードネーム:"コードトーカー"/"ジューダス・マカービアス"
シンドローム:ノイマン
エフェクト:完全演技

 複合セル「シャンバラ」の研究セルに所属する科学者。常に人を小馬鹿にした態度を取り、興味の赴く範囲ならば何にでも手を伸ばすと言われる女。
 安全な場所から他者の危険を娯楽として享受することを至福とし、技術の躍進の奴隷であると公言するも、それを盾に好奇心で非道な実験を指示してきた。

 というのが、今回のカヴァーとして選んだ人間のパーソナリティ。その実態はUGNヨーロッパ支部、ミラージュバイトのエージェント。今回の作戦においてヨーロッパ支部からの支援として派遣された諜報員である。

 ドイツ人、17歳。ポートマン姓は母方の姓で、実家はプロシア貴族を由来とする財閥の御令嬢。UGNドイツ支部の支援者の一人の家柄の生まれを持つやんごとなきお嬢様。

 跳ねっ返りのお転婆娘で気も芯もとても強く、過酷な生まれや任務の割に心の欠けが見られない。私情も込みとはいえ向上心も高い。
 今回はシャンバラ潜入に際して、個人的接点のあるブルーを頼り、自分の命を託して敵地へと向かっていった

 ダブルシンクの技能を有しており、完全演技によってFH用の別人格を作成し、記憶管理を行っている。
 普段表に出ているのはFH用の戸籍に合わせた人格設定である。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「──と。搔い摘んで事情を説明すると……
 ・・・・・・
 そういうことになります。……ブルーの言い方はちょっと露悪的な気もしますケド」

 オペレーション・F。
 そのあらまし、一年もの時間をかけて広げてきた茶番劇の種明かし。
 コードトーカー"だった"少女……ミリア・ポートマンは、未だ負傷した体をブルーに預けながら、そう締めくくる。

ブルー・ディキンソン :
「ごめんねー☆
 敵を騙すにはまず味方から……というでしょ?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「こちらも手が抜けなかったもので。
 ……正直、確保された後が一番命の危険を感じましたけどね」

 くすくす、とからかうよう子供のように微笑んだ後で

「──ああ、そうそう」

 思い出したように彼女は、左腕でブルーの肩に背負われながら右手をゆっくり持ち上げ、指を鳴らす。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
【Information】
エネミーエフェクト《組織崩壊》が解除されました。
使用者:ミリア・ポートマン

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……タネが割れたところで、早速大道具を片付けないと。
 今、各所のワームに対する停止命令を発信させました。防護に当たってる各支部の方々から、すぐ連絡が行くと思います」

 鳴らすと同時、特別変化は見られない。規模が巨大であるが故に、すぐ見てわかる変化として顕れないのだろう。
 だがこの時確実に、この国を覆いつつあった巨大な蟲の大軍は凄まじい速度で死滅し始めていた。

オオ/ /トリ :1d10 (1D10) >

ブルー・ディキンソン :(お掃除)

灰院鐘 :「こっ」

灰院鐘 :
「コードトーカーは実はミリアくんだけど、ミリアくんは本当にコードトーカーで……?」

 国も組織も巻き込んだ茶番劇。大団円を目指した妖精の悪戯に、青年の瞳がまるくなる。

灰院鐘 :
「ええと──つまり」

 むずかしい顔から一転して、ぱっと表情が明るくなる。単純単色、過程はどうあれ彼にとって結果はいたってシンプルだ。

灰院鐘 :
「きみも仲間! うわあ、うれしいなあ!」

 両手を広げてずんずか直進する巨体が、広い両腕でミリアを支えるブルーごと抱きしめた。

ブルー・ディキンソン :
「ンぎゅおッ」
 二人同時だったので思わぬ声が出る1号。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ちょ、ちょっと!?」
 成すすべなく同時に腕の中へ!

灰院鐘 :頼もしいなあ 嬉しいなあ と全身で親愛を示している

ブルー・ディキンソン :
 辛うじて見えるブルーの手が、左右にやや弱々しく振われる。
 悪い気はしないが……、

 ヘルプ・キャプテン!!

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :「ショウ。ほどほどにな」 

ダン・レイリー :
「海向こうの、まして女性に僕やミナセと同じノリでやるもんじゃないぞ」

 苦笑い気味に応答。

灰院鐘 :「えっ」

灰院鐘 :そう……なんだ……

灰院鐘 :そうなんだ……!

ダン・レイリー :そうだよ。主に力加減な。

灰院鐘 :ション……

ダン・レイリー :そこはそこだ バランスを量って行けばいいさ

灰院鐘 :傷に響かないようそっと解放して「ごめんね。驚かせちゃったかな」と眉をハの字にする

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「いたたた……もう、仮にも私……さっき斬られたんですケド! アメリカの子って本当ハグ大好きなんだからもう!」

 別に良いですけど!

灰院鐘 :だいすきです!

ブルー・ディキンソン :「斬られましたね〜。
 斬ったのあたしじゃんね〜」

ダン・レイリー :
「悪いとは思わんでやってくれ。
 彼なりの親愛表現で、歓迎の態度だ」

ダン・レイリー :
 ………。

ダン・レイリー :
 そのつい先ほどまで処遇を考えるべきだった“コードトーカー”改め、現在の名はミリア・ポートマン。コードネームは“ジューダス・マカービアス”。

 彼女の口から語られた概要、動機。
 命をかけた綱渡りであったこと、本人たちには決して“そう”ではなかったこと。
 それらの一切合切を抜きにしてしまえば、結論はこうだ。

ダン・レイリー :

         ・・
       ───茶番


ダン・レイリー :
「………しかし、まったく。
 大の大人が手玉に取られる日が来ようとは………」

ダン・レイリー :
「まあ、いい。
 コイツが種明かしなら、悪い気はしない」

ダン・レイリー :
 人生で同じ言葉を脳裏に過らせたことはある。
 あるが、その時よりはずいぶんと心地良い響きだったし───。

 俺の目はある意味鈍ったかもしれないが、ある意味で鈍り切ってはいないようだ。
 悪戯好きの生徒に出し抜かれたティーチャーという不名誉な称号はつきそうだが。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あはは、ほんとはもっと問い詰められると思ってたんですけどね。
 それに茶番は茶番でも、命張りましたから。
 この様子だとホントにばれてないみたい。ブルーの演技も中々のものでしょう?」
 私ほどではないにしろ。などと冗談めかして

ダン・レイリー :
「思い返せば気になる点はあったが、今言ってもカンニングだ。
 まったく食えんバディを持ったな」 

ブルー・ディキンソン :「いえい☆」

ダン・レイリー :見てくれ 先程まで威勢のいい文句を並べていた者の顔だ

灰院鐘 :いい笑顔!

ダン・レイリー :…そう捉えたか…

ダン・レイリー :
「それに確認したいことはないでもないが、敢えて確認することじゃない。
 若しくは、いまさっき解決した、確認しても仕様がない事だ」

ダン・レイリー :
 ………例のレネゲイズワームだ。

 大道具、でやるにはずいぶんと真に迫ったし、大道具で済ませるにはまあ洒落にならない物体だったが、そいつはまあ、解決を前提に踏んだものだろう。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……、い、いえ」

 ……一杯食わされた、という表情のダンに対して、勇魚は珍しく狼狽した様子だった。
 何せ、その性質上出し抜かれる経験があまりなかったが故なのだろう。

「待ってください、そこは放っておくわけにはいきません」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私たちはそんな話、欠片も聞いていません。この場を乗り切るためのでっち上げということも……!
 本部への裏取りを、いやそのまえにレネゲイズワームについてもそうです!」

灰院鐘 :「そうなの?」

灰院鐘 :「僕が知らないだけかと思ってた」

ナタリー・ガルシア :「――ええ、そうですわね。きちんと解決しているかどうかの確認は必要ですわ」

ダン・レイリー :“炎神の士師”が伝達を怠る性格と思うか? と軽口を言いかける。

アトラ :「実際どーなの?」 ミナセさんとかに聞けば分かりそうだけども。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「たとえ仮でも合衆国全土へのサイバーテロ攻撃、そんなものを国が容認できる筈がない!
 よしんば止めたところでどれだけの被害になることか──!」

ダン・レイリー :「………」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あはは。
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 やっぱり。そちらからはきちんとそう見えていたわけですね」

ダン・レイリー :「………“コードトーカー”のタレコミをしたのは“雷霆精”だった」

ブルー・ディキンソン :「です」

ダン・レイリー :
「あれを、ずいぶんとリリア・カーティスは丁寧に受け入れたと思っていた。
 そこだけならまだしも、僕の知る限りで探る様子も見えなかった」

アトラ :「…… ……あれ?その言い方じゃ……」

ダン・レイリー :「………そうだな。答え合わせを恃もうか」

ダン・レイリー :「僕も実際、度肝を抜かれた気分だからね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そうですね。本部の人間、という単位なら知っている人間はほぼいませんでしたが。
 少なくともリリア局長にはきちんと話は通っていました。或いは"あの場でそれに気付いた"か」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そして肝心のレネゲイズワームについても。
 あれ、全米に垂れ流されたように見えて実は
 ・・・・・・・・・・・
 UGN支部が存在する場所から基本出ないように設計されてるんです」

ダン・レイリー :「………………」 長い沈黙。

ダン・レイリー :まさか再び“ペテン師と呼んでやろうか”と心の中で思うことになるとは

灰院鐘 :「………………………………」 なが~い沈黙。

灰院鐘 :すごいね!

アトラ :「……ほえ~」 沈黙は保てなかった。

ブルー・ディキンソン :「知っている人間が少なければ少ないほど……、

 "秘密"というのは機能する。もちろん、大胆すぎたきらいはあるけどネ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「もちろんフェイクとして幾つか支部の存在しない州も当てましたし、ワームウイルスという性質から完全に制御出来た訳じゃありません。
 それにある程度ダメージが行かないとこちらが疑われかねませんし、この秘密を勿論支部の人間は知らないので全力で抵抗しに来る」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「だから『攻撃して一番陥落しにくい場所』から優先的に攻撃するよう仕組んでいました。
 そこを起点に広がるので、一瞬で致命的な打撃を受ける前に各支部が抑えることに成功していたということです。
 ……とはいえ、本国のエージェントもまだまだですね。ギリギリ耐えられる予測数値以下の処理能力とは。リリアさんが抑えに入っていなかったら、もっと酷いことになってたかも」

 やれやれ、とかぶりを振って

アトラ :言われとりますけど。

ブルー・ディキンソン :「しゃあないって」

灰院鐘 :言われちゃった~

灰院鐘 :
「それは……うん、ごめんね」

 あの現場で何もできなかったのは事実だと、すなおに頷く。

灰院鐘 :
「もっと頑張るよ。信頼に応えられるように」

 ミリアは命懸けで芝居を打ち、支部の人員は全力で応戦した。そこに彼らならばやってのけるという信頼を見出し、青年は嬉しげに目を細めた。

灰院鐘 : ……まではいいが、彼は機微に疎いんだか聡いなんだか分からない面があって、少なくとも今回は後者のほうだった。

灰院鐘 :
「ねっ勇魚くん!」

 よりにもよって今このタイミングで、
 よりにもよって彼女に笑顔を向けた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「くっ……!」

 見えてる範囲の最大限の位置で影響を及ぼしていた、となると。完全にスケールの規模で上回られたというしかない。
 そもそも勇魚は対面であれば人の心理を読むことは長けているが、ミリアについては例外だ。
 コードトーカーとしての彼女を直接見たとしても『元となった人間』との差異をつけるための判断材料が致命的に足りなかった。
 こうした局面に強い彼女が見事に気付かなかったのは、そうした点も影響していた。

灰院鐘 :そ……

灰院鐘 :そんなに……!

ダン・レイリー :

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 確かに言葉の内容は筋が通る。まだ混乱している自分を落ち着けるように息をつき。

「分かりました。……とにかく、裏取りを優先します。その言葉が真か、リリア教官に訊けば済むことです」

灰院鐘 :
「うんうん。じき支部からも連絡がくるだろうって話だし、ひとまず安心だね」

 疑いもしなかったくせになんか言いつつ。

灰院鐘 :
「それにさ、向こうが一枚上手だったけどレースは僕たちの勝ちだよ」

灰院鐘 :僕は途中で脱落しちゃったけど!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「そういう問題ではありません」

 むすっ。心なしか少し早口に聞こえる。

灰院鐘 :そんなあ~

ナタリー・ガルシア :「その話が本当でることを祈るばかりですわ――本当に」

ここで判断を誤るわけにはいかない。
確証が得られるまでは、銃爪から指を離して、最悪の事態が進行してしまえば自らが悔いるだけでは済まない。

「それでは、しばし待ちましょう。すみませんが、お付き合いくださいませ――ええと、ミリア、さん?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ええ、お願い。けど……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「さっき少し触れたと思うけど、この段階でもまだ聞かれちゃいけない事は幾つかあるの。
 ブルーがここで私の『コード』を解除した理由は、『アメリカの眼が入らない』から」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《……あれ、ドローンの奴がいるんじゃなかったっけ》

 秘かに耳打ちして

アトラ :「……!」 ショーさん!ドローン!

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その、ドローンについても。
 ・・・・・・・・・・
 コード解除する直後にワームウイルスを咄嗟に叩き込んでまして」

灰院鐘 :「?」またドローンを抱いている

灰院鐘 :えっ

ダン・レイリー :「………………」

アトラ :
「うえっ」

ダン・レイリー :「ミナセのやつが泣くな(道理で反応が一切なかったわけだ)」

灰院鐘 :進さんの……

灰院鐘 :ぬけがら……

灰院鐘 :ぎゅっ……

ブルー・ディキンソン :
「そりゃあ、ねえ?」

 聞かれてはいけない意味。
 それを知っているブルーは、ダンに目配せをした。

アトラ :(語弊ない?)

ダン・レイリー :「そいつはミナセじゃないぞ。でも、後で五体満足のまま返してやってくれ」

ダン・レイリー :
 お互い様だがまったく、あちらから吹っ掛けて来ようとは。
 目配せには気付かないフリをするが、気付いて黙ってやる。

灰院鐘 :うん……

灰院鐘 :きゅっ……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《ふーん。じゃあ……》

 抑え気味の声。この状況でやけに落ち着いた様子で、それが却って不気味なレイラは、次の瞬間には行動を起こしていた。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 矢庭に、絲が風に吹かれて流れる。
 メンバーの体内に潜んでいた体の断片、それらが見えない絲として吐き出し、繭を作り……
 そこから、既に見慣れた女の姿を形作る。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「──────────うっわ、ほんとだ!!
 ほんとにクソ女狐剥いだら可愛い子が出てきとる!!!!!!!!!」

 などと。
 今まで必死にこらえていたリアクションを爆発させながら。

ダン・レイリー :「まさかと思うが其方の内側にいる段階からずっとこのリアクションを我慢していたか?」

アトラ :
「ふつーにレイラも知らんかったヤツなんだよね?
 危なかったね~“コードトーカー”の鼻っ柱折りに出てきてたら逆に吃驚させられてたかもじゃん」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「!!!!!!????? え、ちょ、なにこの状況!?
 なんで"ラクシャーサ"が此処に!?」

ブルー・ディキンソン :「……あー」

アトラ :「あっそこからかぁ!」

ブルー・ディキンソン :「そういや報告してねえや」
 へっへっへw

灰院鐘 :うっかりだね!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そりゃ勿論!知ってたらガチで殺そうとかしなかったし!」
 ケタケタ

アトラ :あぶね~

灰院鐘 :あぶないね~

ダン・レイリー :
「………話の限りでは報告する余地もなかろうな。
 単刀直入に言おう、ミリア・ポートマン」

ダン・レイリー :
「そこにいるのはラクシャーサではなく、イリーガルのレイラ・イスマーイール………」

ダン・レイリー :
「───ということにしている。
 扱いとしては、出て来たタイミングから察して貰えるとそれでいい」

灰院鐘 :「ともだちです!」

ナタリー・ガルシア :「利害関係の一致というやつですわ」

アトラ :「妹分で~す!」

ダン・レイリー :「とのことだ」 …おや もしや知らない間に仲良くなったか、ショウの方は? 元々の気質からそうか。

アトラ :(ともだち……!?)

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……ブルー、あなたね……。
 こっちはこいつに結構本気で殺されかけたんですケド」

 周囲の反応を見て、完全に味方扱いでよいのだろうと判断し

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そりゃあまあ。恨みを買いやすい役柄だったけど……流石に私も、何もしてないのに狙われるぐらいヘイト買ってるとは思わなかったけどさ……」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まーいいじゃないいいじゃない!
 終わったことは水に流して! あたしだってコードトーカーだったらブチ殺してたけど、そうじゃないなら命狙う理由ないしね」

灰院鐘 :「元同僚として……仲良く!」

灰院鐘 :ハグとかどう?

アトラ :どうだろう……

ダン・レイリー :それはどちらかというとショウの希望だな…

灰院鐘 :うん!

ダン・レイリー :…素直でよろしい 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :なんか、ドッと疲れたのでパスで…

ブルー・ディキンソン :「結果オーライ!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :あたしはしたいけどなーハグ

ダン・レイリー :
「………しかし。
 殺されかけた、と言えば………」

アトラ :はっ、でもウチもブルーさんの友だちだし、友だちの友だちってコトに

アトラ :したいの……?!

灰院鐘 :(両手を広げて待っている)

ダン・レイリー :
「(ロサンゼルスには“ヤツ”が来ていたはず………。
  ヤツの気分には御目溢しされ、此度もたまたま“雷霆精”が都合よくトドメに回った………)」

ダン・レイリー :
「悪運は強いな。
 此方にとっては功を奏したが」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……そうですね。
 後で話をするつもりでしたが、私はシャンバラの中でも命を狙われていたところなんです」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……そうね。考えてみれば"ラクシャーサ"の理由が、あなたなら。コードトーカーは多分妹さんをダシにとって実験させようとしてくるだろうから、その危険性から消しに来たって所かしら」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「そだねえ、だいたいそんな風に思ってたよ。流石ノイマン、剥いた後も冴えてるね」

アトラ :「お、おぉ……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……ヨーゼフ・メンゲレからは、研究のイニシアチブを手に入れるために執拗にこちらの出方を伺っていましたね。巧く撒くことができましたが。
 そして元 天刑……彼の行動は読みづらいですが、恐らく『あの件』が原因になってるんでしょう」

灰院鐘 :ション……

ダン・レイリー :「あの件?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :君ずっとスタンバってたの?

灰院鐘 :あの件? 言いかけて口を閉じる。そうそれ、という頷き。

灰院鐘 :いつでも歓迎だよ

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 横の漫才を押し流して。

「ブルーには既に伝えたと思います。そして、ラクシャーサ……今はレイラ・イスマーイールでいいのかしら。
 彼女がついてるなら、ある程度の情報が掴めていると仮定して、話を進めますが」

アトラ :まーまー後でみんなでスクラム組もう!

灰院鐘 : 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「私がシャンバラの拠点となる人工島に立ち入った際。
      ・・・・・・・・・・・・
 ──一度、完全演技がレジストされたんです」

ダン・レイリー :
「………なるほど。シャンバラの───ソドムの遺産が齎す、エフェクトの強制停止だとかいうアレだな。

 コードトーカーの行動の不自然はそこから来るものか」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「成程ね。遺産ナードのくせに、やけにあの島に立ち入らなかったのは……
 張り直した完全演技を二度と剥がされたくなかったから、と」

ブルー・ディキンソン :「実際……マジでヤバかったし」

ダン・レイリー :………遺産ナード………物は言いようだな………

アトラ :遺産ナードて……

ダン・レイリー :
「…ヤツがなぜロサンゼルスのくんだりに来ていたのか、その答えもそこか。
 シャンバラの幹部の面を思えば、確かにヤツがその辺りにはいちばん機敏と見える。対面しなかっただけ上手くやったと言えるはずだ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。あの時……踏み入ったと同時に私の二重思考が一時的に剥がれた。
 偶然残った常時的に発動する代謝制御がありましたから、その際はボロを出さないよう後は経験だけで辛うじてその場を乗り切りました。
 けど、あの場に元は立ち会っていた」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そこで違和感程度とはいえ、何かを掴んでいたのやもしれません。
 そして作戦が開始されたと同時、彼は執拗に私の拠点を捜すかのように二週間に渡りあの街に滞在していた……」

 宛らそれは、死神が家の外を巡遊しているが如き様子であったことだろう

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「────本当に。
 本ッ当に気が気じゃなかったんだから。
 ブルー、雷霆っていう割にはちょっと遅すぎよ」

 空いた右手でむにむにとブルーの顔を指でつつき

ブルー・ディキンソン :
「ぐっ。
 どちらかというと"スプライト"の方に重きを置い……やめ、やめなさい怪我人!」

 私のナチュラルシリコン肌が傷つく!!
 
 ……。
 怪我させたのは私だな!

ダン・レイリー :良い太刀筋と啖呵だったぞ “雷霆精”

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ふふっ、久々にブルーの義体近くで見るけど、いつみてもカワイイ顔……」
 ぷにぷに

ブルー・ディキンソン :「   」
 二方向の……称賛? 称賛……、
 キャプテンのはマジの称賛だろうが……。

ダン・レイリー :

ダン・レイリー :いや 大変に骨が折れたことを除けばタクシー冥利に尽きた バイク関係には第二ラウンドが待っているがね

ダン・レイリー :…大人気ない真似をし過ぎるのも───いや、困り顔が此方に向くまでは放っておくか…

ブルー・ディキンソン : 

ブルー・ディキンソン :向いてる。

ブルー・ディキンソン :超向いてる。

ブルー・ディキンソン :超!向いてる!!

ダン・レイリー :僕は時計を丁度見ていた

灰院鐘 :なかよしだね!

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……ごほん。
 どうあれ──」

 つつくのをやめて、再び話を戻そうと切り出す

ブルー・ディキンソン :つつかれなくなったので、騒ごうとして騒ぐのをやめた。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ブルーと、皆さんが頑張っていただいたおかげで、私は……"ジューダス・マカービアス"として、無事にUGNへと戻ってくることが出来ました。
 それについて、遅れながら……改めて礼を言わせてください」

 ブルーの肩を借りながらお辞儀を一つ。

灰院鐘 :「どういたしまして! 僕も心強い仲間が帰ってきてくれてよかった。守護者同士、これからよろしくね」

アトラ :
「友だちの友だち……みたいだし?気にしなくても良いっすよ~そういうのは!」

 まあウチなんも直接手ェ出してないけど!

灰院鐘 :ナイスアシストだったよ!ハイタ~ッチ

ダン・レイリー :僕の分もやっておいてくれ ショウ

アトラ :いえ~い!

灰院鐘 :じゃあもういっかい!

ダン・レイリー :
 さておき…。

「其方は不確実でも成すべきことを果たした。
 此方も出来ることをし、それが功を奏した」

アトラ :うおっ いえいいえ~い!

ダン・レイリー :
「ナタリー・ガルシアの誘拐を止めた切欠はきみだろ。漸く確信した。
 ありがとう、は此方もだな。ここからは此方でその腕を期待したい」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……釈然としない結末でしたけどね。
 それに、一応私は直に教官に訊くまでは信用する気はありません。私一人ぐらいは警戒をしておくべき、でしょうから」
 ムスッ

灰院鐘 :「まあまあ」と苦笑

ナタリー・ガルシア :「私も、いつでも為すべきことを為せるようには心構えをしておきますわ」

ダン・レイリー :「苦労をかけるな、“炎神の士師”」

灰院鐘 :「為すべきこと……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい、こちらで手を回させていただきました。
 私にしかできない事でしたから、当然のことをしたまでですよ。

 彼女も無事で何より。とはいえ……そのまま作戦に参加するとは少し意外でしたが」

灰院鐘 :「いまはこれかな!」えいや!とかっさらうようにナタリーを抱きあげてミリアの前へ

ダン・レイリー :
 此方にも理由がないではないが………

「とはいえ、是非もすぐにわかるだろうし………。
 僕とて、何の根拠もなく信じたわけじゃないよ」

灰院鐘 :「握手! しよう! お互いの健闘を讃えて!」

ナタリー・ガルシア :「それは後で、ですわね」

ブルー・ディキンソン :「(……こうなるから茶番に気合い入れすぎだって思ったんだがなあ……)」

灰院鐘 :しょ~ん

灰院鐘 :じゃあ代わりに僕がやっておこう よろしくね、と二人の間で握手

ナタリー・ガルシア :「言った通り、私は確証が得られるまで銃爪から指を離すつもりはありませんから、ね?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「(まあそんな気はしたけど……
 仕方ないじゃない、徹底的に騙しきらないと現に私の身も危なかったんだから……)」

アトラ :(代わりの握手は意味あるかなあ……あるかあ……)

ダン・レイリー :
「………分かった。
 では確証を得たなら、その指は握手のために使ってやりなさい」

ブルー・ディキンソン :
「(……まあこればっかりは、
  すぐに信用できるほどポイント稼いでなかったあたしのマイバッドかな……)」

ダン・レイリー :
「警戒するな、とは言わんがね。
 少なくとも僕はそう判断し、結論する………が。
 99%が100%に変わるまでは、その対応がきみの出来るベストと考えたわけだろ」

ナタリー・ガルシア :「はい、勿論ですわ大尉」

そう告げて、困ったような笑みを浮かべてミリアの方へと向き直る。

「ミリアさん、貴方のことを信頼していないわけではありません――ですが、万が一、億が一、判断を誤った場合に出る被害を考えれば仕方ないのです」

この苦笑のまま、いつでも能力を放てるように――警戒と緊張を研ぎ澄まして。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「(まあ、用心深いのは良いことだと思うけどね。でも、この子なんかイメージとズレるな。
 私の前のプロファイリング結果と比べて随分こう、荒れてるみたいだけど)」

灰院鐘 :「疑うのも信じるのも、盲には変わりない。だから僕は信じるほうを取るよ」

灰院鐘 :「でもそれは、きみたちみたいに賢明な人がちゃんと考えてくれるおかげだ。ありがとう」

灰院鐘 :でももうちょっとリラックスしよう! ゆ~らゆ~らさせる

ダン・レイリー :………盲には変わりない、か

ダン・レイリー :ああそうそう 力加減は考えてやりなさい リラックス通り越して目を回すぞ

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ええ、じゃあ今はそれで構わないわ。私に後ろ暗い所なんかないもの。
 ……でも、苦労を掛けるわね。そういう子がいてくれる方が、私としても安心が出来る」

 こそこそ会話を断ち切って、ナタリーに平素の微笑みで応えを返す。

ナタリー・ガルシア :「私も、出来る限り全ての人が救われてほしいですから――全員が助かって大団円になれば良いと思ってますわ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「(……やっぱ、何かあったでしょ)」
 こそこそ。ブルーの耳元で

ブルー・ディキンソン :
「(さあ?
  それについては知らないとしか)」

、  、   ・・・
「(……リリア教官殿って人は。
  教え子にこうなってほしかったんかねえ……?)」

ダン・レイリー :
「ならばいい。
 “なればいい”を“する”に変えるのが、この仕事だからな」

アトラ :
「ま~今疑っちゃったらブルーさんのことも疑っちゃってるみたいになるしね。
 信じてみる寄りで行くしかないんですけども……」

ダン・レイリー :
「と、いうのは…UGNの先達が言うべき台詞かも知れんが。
 ───積もる話は彼方でいいか、ミリア・ポートマン?」

灰院鐘 :ダンさん……!

ダン・レイリー :
 逆説、いまが“アメリカの目を持たないタイミング”だ。
 そういう話をするなら、此処が打ってつけだろうし………。

灰院鐘 :じりじりと距離を詰める

ブルー・ディキンソン :「スンマセンコンナ格好デ……」

ダン・レイリー :…ではハグに応じよう。来なさい。

灰院鐘 :やった~っ

灰院鐘 :ぎゅっ……

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「──そうですね。
 少し場所を変えましょう。今のうちに話しておくべきことも多い」

アトラ :(タックルしにいくみたいな詰め方してたな……)

ダン・レイリー :
「ああ。………であればミナセへの言い訳を考えてやらねばな」

 そして僕の肉体とHP6は、
 知られざる死闘に身を投じたわけだが、その前に………。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「実際……負傷者もずいぶん多そうだしね」

ダン・レイリー :
「そうだな、レイラ・イスマーイール。
 あとでショウを診てやってくれ」

ダン・レイリー :
「普段より力の入りが若干弱い。
 コードトーカーだったころから狙いは正確と見える」

アトラ :「やったれやったれ~!」 いけっレイラ!いいきずぐすり!

灰院鐘 :はわ

灰院鐘 :は、はずかしいな……ちょっとだけ……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「よしきた!
 戦闘では結構楽してたしね、このぐらいは朝飯前ってね」

灰院鐘 :ぎゅううう……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
 あとあんたには踊る髪!!!!
 姉貴に命令してんじゃないっちゅうの!!

アトラ :おわーーーーーーーッ!!?

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :印象変わるなあ……"ラクシャーサ"

ダン・レイリー :
「ああ………よろしく頼むよ」

 そして僕はいま見栄を張っている

ブルー・ディキンソン :何やってんだあの姉妹は

ブルー・ディキンソン :……まあ、あたしも倒れそうですがネ!

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「とはいえ。これからは続々と支部からの支給が回ってくる筈です。
 回復につぎ込む余地も出てくるかと」

 だから頑張ってブルー! 私ももう正直立ってられる余裕もなくて!

アトラ :
「ともあれ休んだ方がいいのは間違いないっすね!」

 ウチも今ぐるぐる巻かれてるけど!

灰院鐘 :「えっと それじゃあ……おせわになります」大尉に隠れながら──盛大にはみ出ている──おずおずもじもじとレイラに寄る。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「応急処置ぐらいなら、こちらで引き受けます。近場の施設を借りて、そこで休みながら話を進めるとしましょう。
 如何せん……今は支部に戻る訳にもいかない。先に話があるようですから」

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :
「そうだな。方針に異論はないよ。

 話している間にも“コードトーカー”の救援に出向いた勢力は確認出来ていなかったが、第二波が来る前に行動を開始しよう」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「なーにもじもじしてんのさ。
 ほれ、ちこうよれ男児、ほれほれ」

灰院鐘 :あう……

ダン・レイリー :では怪我人をよろしく頼むよ

ダン・レイリー :実際、よく頑張ったさ よくナタリーを守った

アトラ :何かオジサンっぽい言い方だなあ……

ダン・レイリー :ナタリーはよくショウを守り助けた

ナタリー・ガルシア :そうでしょうか?

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :そうそう、お見事。私あの状態だと基本加減とか考えてなかったし……

灰院鐘 :……!

ナタリー・ガルシア :そうでしょうか……?(徹甲弾を弾くのを思い返しながら)

灰院鐘 :うん、ふたりでがんばったよ!

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :……まあやり方については、ね

ナタリー・ガルシア :ま、まあ、そうですわね!

ダン・レイリー :操縦の際のケアはきみがやったことだ。ショウはやれば出来る男だが 経験はどうにもならんからね

ダン・レイリー :それにキュマイラ・シンドロームというのは荒っぽくてなんぼだ 見ていてハラハラしたと言われたら返す余地はないかもだが

灰院鐘 :がんじょうだよ! と振りあげた腕の上がりがちょっとわるい

灰院鐘 :むぐ

灰院鐘 :「……うん、さすがに怪我人です。いい狙撃だった」いよいよ認めてレイラのもとへ。

ナタリー・ガルシア :今回の私の役目はお守りのようなものでしたしね……

ダン・レイリー :「よろしい。無理無茶が出来るということは、そのリスクを踏み倒せるわけでもないからな。“頑張った”と“アフターケア”は別だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「遣えるもんは使っといたほうがいいよ。
 程々に自分を甘やかすのが長旅のコツさ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「というわけで患者一名ご案内~!
 闇医者ドクターLが診察して進ぜよう」

ダン・レイリー :「(絶妙なネーミングセンス)」

ブルー・ディキンソン :「髪の半分、黒く染めんのか〜?」

灰院鐘 :「やみいしゃ」

アトラ :「法外な報酬吹っ掛けられても払っちゃダメだぞ~」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
じゃ、そういうことで、遣うよ。
欲しいのはあたしのカンビュセスの籤、だよね

灰院鐘 :うん、おねがいします!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
アイサー、了解!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
メジャーアクション:《カンビュセスの籤 LV3》
対象:灰院鐘

効果:単体のHP4d10+7回復

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :4d10+7 《カンビュセスの籤》 (4D10+7) > 28[5,10,6,7]+7 > 3

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :ざっとこんなもん。
いやー医者の才能まであるとは参っちゃうな、惚れ惚れしちゃうなーあたしの強さって奴は!

system :[ "ラフメタル"灰院鐘 ] HP : 41 → 58

灰院鐘 :げんきになったよ~

灰院鐘 :ありがとう!

灰院鐘 :(完全フルパワーハグをダンさんに仕掛ける)

ダン・レイリー :(もうじき30になる男のあまりに穏やかな覚悟を決めた笑みと構え)

灰院鐘 :むぎゅうううう~~~~~っっっっ

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :止めなくていいのアレ?

アトラ :いつものことなんで!

ダン・レイリー :(視線が“気にするな”の意を出している)

ブルー・ディキンソン :だってさ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :そっか……苦労してるのね……軍人も

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :あわれみの眼

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……こほん。
 では、行きましょう。ロスの地形は概ね熟知しています。休息に使うなら近場だと、あのビルがいいかな。
 あまり長くなると不自然ですし、手短に澄ませましょう」

 言いつつ、ブルーの肩を借りながら近辺のビルを指さす。先程ミサイル攻撃で倒壊したビルの近隣である。
 ある程度腰を落ち着けるほか、ミリアの工作員の技量によって施設の設備を使用することもできるだろう。

ブルー・ディキンソン :
 ミリアに肩を貸す自分も満身創痍ではある。
 だが自分の傷よりも、ブルーとしては気にすることが二点……いや一点。

(……”炎神の士師”の疑いの目はわかる。
 彼女は思慮深くて、エージェントとしての訓練は十全に受けてきている。
、  、  ・・
 だが彼女は若い。
 さっきの反応だって、その青さ故だろう。
 子供でそんなことする方が珍しいから、しょうがないのかもしれないけど───)

(……もう一人、ナッちゃんの方は……、少し、気になるな。
 思えば最初の追撃の時から彼女には年に似合わない"度胸"があった。
 それ自体は教育の賜物ってやつなんだろう、それはいい。

 だけど……あの判断力は……、……あの年齢の少女がするもんかね。
 シエルちゃんみたいな青臭さじゃない。
 思えば例の都市型遺産の話の時も……少し引っかかることがあった)

ブルー・ディキンソン :
、 ・・  、  ・・
(……何かあったな。何かが。
 それが何なのかは分からないけれど。
 少なくとも、小さなものではない。
 自分の行動や意思決定の方向性に対して……バイアスがかかるほどの。

 内に何かを秘めて──自分だけの経験をした人間の面構えというのは、大きく変わるもの。
 あたしはこの茶番を明かす時まで隠し通した……、だから大きな秘密を抱えている人間の行動にはピンとくる)

(……それを問いただしたところで、彼女が答えてくれるかは定かじゃないけれど──)

ブルー・ディキンソン :
(……あたしの最大の目的は達せられた。
 ここから先は本当に『自由』だ。
 
 隠すものも無くなった。そろそろ、一歩進めてもいい頃合いかな……)

 複数の思考を脳内で回しながら、ブルーは今度の方針を決める。
 ……本人の言う通り、隠すことは無くなった。口を閉ざす必要も無くなった。
 あたしは今度は、明かす側に回るのだろう───。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

灰院鐘 :今回はないかな。大丈夫だよ

ブルー・ディキンソン :
アトラにロイスを取りたいね。
感情は○P友情/N不安で

GM :取り忘れを取りに行くってわけね 了解!

ブルー・ディキンソン :あぶね〜い

ナタリー・ガルシア :私も今回は特になしですわね

アトラ :ウチも新規所得はない~……けど、ブルーさんのロイス替えとこ!〇P好奇心/N不安にシフトで~

GM :其方も了解!キャラシに記載をお願いします!

ブルー・ディキンソン :記載オッケー。

ダン・レイリー :既にロイスの空欄はないが、そうだな。感情の変更がまだあったか。

ダン・レイリー :であれば僕も今回は特にないよ。

GM :了解!

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……




【MIDDLE ⑩ - Mission 3nd Phase】

SYSTEM :
【MIDDLE ⑩ - Mission 3nd Phase】

登場PC: ALL
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 "コードトーカー"だった少女、ミリア・ポートマンに案内され、一同はロサンゼルスの雑居ビルに入っていく。
 無人のビルの中、管理室と思しき部屋を、簡単なハッキングでロックを解除して中へ。管理室の設備はお粗末なものだったが、少なくとも軽いブリーフィングと休息のために立ち寄るには申し分ないだろう。

SYSTEM :
 支部はワーディングを展開し、突入した研究施設の現場検証及びに検挙した研究者ヨーゼフ・メンゲレを護送している。
 米軍関係者であるディアスらはこの護送に当たり、追跡戦のサポートに当たった水無瀬はサポート用のドローンをハックされ干渉する手立てを失った。

 彼の手腕なら近辺の電子機器を通じてモニタリングすることも可能だったろうが、そこもぬかりなくミリアはウイルスを仕込んでコントロールを掌握している。

 つまり現時点で懸念事項である米国政府の介入は避けられる。
 いずれ、テンペストの面々の前で話すことは避けられないにしろ、不用意に巻き込むことも、無警戒に流して情報が漏れることも避けねばならない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「さて、と……」

 ミリアはブリーフィングの準備のため、屋内の設備に自身の腕に装着したPDAを接続。手早く指を走らせ、ハッキングと秘匿回線からの通信を開始する。
 恐らくはこの機材を使って逐次ブルーと連絡を取っていたのだろう。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「これでよし、と。
 プロジェクターは……うん。そっちのドローンを借りればいけるかな。
 エージェント"ラフメタル"、そこに持ってるドローンを配置してくれますか?

 こちらのフェイク情報の疑いは消せないため、私の潔白の証明にはなりませんが……一先ず本部と接続しました。
 そちらからの映像を写そうと思います」
  

ダン・レイリー :
「ミナセのドローン経由でか。
 ブラックドッグも抜きに器用にやる」

ダン・レイリー :特に厭を言う理由はないし、もし此方を見るようなら“構わない”の意思表示だけしておこう。ミナセには悪いがね。

灰院鐘 :
「進さんはいなくてもすごいね」

 本人が聞けば微妙な顔をしそうな感想を朗らかに言って、了承に首肯で応じたあと、指示された場所に抜け殻を設置する。がしょん。

アトラ :
「ってかプロジェクターとかにも改造できるんだ~。
 ミナセさんにはウチからも謝っとこ……世話になり通しだし……」

ダン・レイリー :「ウチのエンジニアだからな」 それにしては不憫の割合が大きいが。

ブルー・ディキンソン :「設計図パクりたいくらいネー」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「この手の技術はブラックドッグだけの専売特許という訳じゃありません。結局の所、機械工学も人間の発明の代物ですから。
 では、ちょっとお借りしますね……っと」

 言いつつ端子をドローンに挿入。
          アドミン
 ウイルスを仕込んで管理権限を乗っ取った段階で粗方構成を把握していたのだろう。ドローンの機能のうち、恐らく地形説明のために用意されたホログラフィックプロジェクターを起動する。

ナタリー・ガルシア :「そのうち一家に一台、ドローンを持つ日が来るかもしれませんわね」

ダン・レイリー :
「まあ、な。
 数十年先の延長線上だろうと、技術は技術だ」

 ブラックドッグ・シンドローム自体、もっとも現代技術が近付いた分類でもある。そう言われると頷かざるを得ない話だ。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「戦争もそのうち自動化したりしてね。
 そうなったらうち廃業だけど、まあ早いにしろ遅いにしろ生きてる間には食い扶持困らないか」

 ケラケラ嗤いながら鐘の疵を縫合するよう絲を遣って体を縫いながら

ブルー・ディキンソン :「それはマジで困る」
 ブルーの目は深刻だった。

ダン・レイリー :「そもそもボタンひとつで顔も見ずに銃が撃ててしまったら、文明は進むどころか最悪Uターンだな」

ダン・レイリー :最もそうなれば僕も飯を食いっぱぐれないために、別の戦いが始まるかもしれんが…

灰院鐘 :「…………」おとなしく縫われながら、黙って会話を聞いている。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「平和や日常、国民の安全を守る仕事をしている以上、いざそいつが保たれると行き場を失う……
 これも世の矛盾ですなあ」

 しみじみとした表情で語る。無駄に芝居がかった口調は、実にクソどうでも良いと言いたげであった。

アトラ :
「そうなると命より情報メインになっちゃったり?それならウチも今までと似た感じで生きてけはしそうだけどな~……。
 けどそーいうときって軍人さんとかはお国が何か変わりのお仕事用意してくれたりするんじゃないすか?」

 無知。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……」
やや浮かない表情。

ダン・レイリー :
「そもそも働かないに越したことがないからさ」

「で………むろん用意そのものはされるのが順当なケースだが。
 ………“仕事がある”と“居場所がある”はまた別の理屈でな」

ナタリー・ガルシア :

ブルー・ディキンソン :
「国防の概念が消えるこたあ無いだろうからね。
 戦争が起こらなくなったら今度は街の小さな戦争が増えるだろ。
 警備会社とか、天下り先としてピッタリっしょ」

 ウチとかね。

ダン・レイリー :そこには軽い頷きのみに留める。 

ダン・レイリー :

灰院鐘 :「うーん」

灰院鐘 :「むずかしいね」

灰院鐘 :
 肯定も、否定も、さほどの意味はないと言葉を控える。
 諍いを減らせはしても、決してなくせないことや。平和を目指して戦うほどに居場所を失う矛盾に苦しむのは、彼にはない感性だ。

 そうなれば喜んで山奥にでも引っ込むだろう。もし報いが赦されるのなら、人々の営みを遠望できればいい。
 
 ……それだけで、彼は十分すぎるくらいに満たされる。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「まあ、そういう鞍替えが嫌で嫌で仕方ない人たちもそれなりに居て。
 何となればシャンバラにもそういう手合いが居ましたけど、ねっ」

 端末を操作する傍らにそう告げて、PDAを操作。すると、ドローンのプロジェクターから映像が映し出される。

ダン・レイリー :「………“ブラックモア”………」

ダン・レイリー :軽く呟くだけ呟いて、映像の方に視線をやる。

SYSTEM : 
 ホログラムが映し出したのは、オペレーション・Fに関して予め知っていた、数少ない人物の一人であり。
 仮にUGN本部を預かる指導者代理、リリア・カーティスだった。

ナタリー・ガルシア :「…………お姉様」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『……"ジューダス"名義で連絡が来たということは……
 あなたも任務を無事に全うした……その理解でよろしいですね』

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
                  メイド
「はい、この通り。すべては優秀な私の従者のおかげです」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「とは、いえ……山場を越えたとて、正確に言えば此処で折り返し。
 情報を持ち帰り、報告すること。交渉の席につかせること。そして、シャンバラの事件の解決にこぎつくこと。
 オペレーション・Fは無事完了しましたが、それを考えれば、任務はむしろこれからです」
 

ダン・レイリー :
「………その様子、やはり存じていたようですね。
 リリア・カーティス」

ダン・レイリー :
 ………同時にこれだけスムーズに話を通すというなら、上層部諸共含んだ合衆国の認識は、ミリア・ポートマンの話した内容が共通見解というところか。

 顎に手を当てて多少の思案を含む。

ダン・レイリー :「ワームのことについては、現在なんと?」

灰院鐘 :あっリリアさんだ! と映像に向けてちいさく手を振ったあと、表情をきゅっとまじめにして話を待つ。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『はい。対応はほぼ即興ですが、予め伺ってはいました。
 ……そしてワームウイルスについても、本部のサーバを通じて今、米国各支部との連絡を通じて確認を取っています』

 手を振る鐘には軽い会釈を、何処か思う所のあるナタリーには、静かなその翡翠の瞳を以て応じ

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『現在米国各州、首都の支部、特別支部、その各所から支部機能の回復及びに通信機能の復旧が確認されています。
 通信によるタイムラグはあれど、着実に各々のワームウイルスが自壊し始めているのでしょう』

灰院鐘 :「よかった」ねっ、と勇魚とナタリーの顔を覗き込む。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『そしてあなたからの通信を受けた段階で『コードトーカーの検挙に伴い、ワームウイルスが解除、身柄を再びドイツ支部に移送』というカバーストーリーのために、既に別動隊が動いています。
 この芝居に関わる記録は重要機密として処理され、UGNでも限られた権限の者にしか閲覧できないよう記録されるでしょう』

ダン・レイリー :
「成程、理解しました」

 驚きは然程ない。
 確信があったわけではないが、ミリア・ポートマンのバディは、悪意を持って茶番を仕立てあげるわけでも、ノイマンの頭脳をそのように使うわけでもないと、自分には一先ずの理解があったからだ。

 しかし全くというわけではないし、何よりコレは主観的な話。

ダン・レイリー :………であれば僕から“99%が100%になった”と言い切りに掛かるのはしこりを残す。ショウに対するもの共々、一旦反応を見るか。

アトラ :
(……なにを何処まで把握してんのか分かんないよなあ、この人も)

 とりあえずふんふん唸って頷いておく。ウチもそれとなくみんなの様子気になるし。

ナタリー・ガルシア :「…………ええ、本当に良かったですわ」

覗き込むようにこちらに向けられた視線に嫌味の色はない。リリアの言葉を受けて、ようやく緊張の糸を緩めてナタリーはぎこちない微笑みを鐘に返した。

「本当に、本当に良かった……」

灰院鐘 :「うん」

ブルー・ディキンソン :
・・・・
……化けの皮を被ってたのはあたしらだけじゃなかったってことね。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「(……人格模倣が出来るノイマンのレネゲイドとAIDAを併用すれば、完全演技で模倣したリリア教官の人格や形状をホログラムにして映像化しフェイクとして写すことも或いは出来なくもない、が。
 流石にそれは現実的でないか。一朝一夜で準備が出来るものでもないし。
 ……何をムキになっているんだ、私は。まったく)」

 気合を入れるように顔を叩く。

ダン・レイリー :「………」

ナタリー・ガルシア :張り詰めた糸が途切れたせいで、世界が揺れる。
平均感覚を失って、クラクラと頭が傾ぎそうになる。
たたらを踏みそうになるのを堪えて、抜けそうになる体の力を必死に留める。

ほう、と、小さく息を吸う、吸って視線を上げる。

ダン・レイリー :ここは管理室だったそうだが、近くに座れるものはあるか?

灰院鐘 :(片膝立ちになる)

灰院鐘 :どうぞ!

ダン・レイリー :そう…来たか…

SYSTEM :
管理PCを操作するための手頃なデスクもあるが、近くに医務室も備えているようだ。ベッドを持ってくることもできるだろう

灰院鐘 :……!

灰院鐘 :まかせて!

ダン・レイリー :ン………手頃なヤツの方が望ましいが、それしかないなら僕も行こう。僕としたことがひとつ計算を間違えたようだ。

ナタリー・ガルシア :「これで気持ち良くお話が出来るというものですわ!大仕事を終えたばかりで申し訳ありませんが、これからもよろしくお願いします!」

と、満面の笑みを意識して浮かべる。声に力を込める。自分で自分を鼓舞して、気分を高揚させる。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ええ、よろしく!
 でも無理は禁物よ。話は始めるけど、今は楽にしてていいわ」

ナタリー・ガルシア :大丈夫です!どちらかと言えば気疲れですから、安心したら力が湧いてきましたわ!

ダン・レイリー :
「ともかく、これで99%は100%になったわけです。
 であるに収穫について話をさせて頂きたい」

ダン・レイリー :
「………頂きたいが、その前に。ショウ、ちょっと付き合ってくれ。
 座れるものを探す」

ブルー・ディキンソン :
 ……杞憂が半分かな。
 ブルーはそう結論づけた。
 そこまでの緊張感を抱く理由をクローズアップしないと、なんとも言えない。
 ただ単に、現状をうまく受け止めてきれないだとか……。

 マジで杞憂だったら良いんだが……。

灰院鐘 :「喜んで!」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 気配を感じた故か、ブルーに軽く目配せを返す。
 一先ず気にかけてあげて欲しい、というところだろう。

ナタリー・ガルシア :「私も手伝いますわ〜!先ほどはあまりいいところを見せられなかったので、役に立つところを見せなければ!」

灰院鐘 :「えっ、でも」いいのかな、とダンさんを見る

ダン・レイリー :
「助かるよ、ショウ。
 そしてナタリー」

 軽くかぶりを振る。問題はない。
 大事なのはどちらかというと…。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あ、私も手伝いますよ!
 報告も大事ですが、休息はより重要です。近くの医務室から取ってきましょう」

灰院鐘 :なんだか腕相撲大会を思い出す流れだね!

ダン・レイリー :
「ン。すまんな、よろしく頼む」

「通算で三度目とはいえ、さっきのはシャンバラの雑兵とは規模も状況も違った。
 どんなタフな軍人でも自分を多少は甘やかす。今は小休止の頃合いだ」

アトラ :「おっ、じゃあウチ…… ……は流石に人数多い気がするなあ」

灰院鐘 :

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「人の親切は素直に受けときなよ。
 アトラもそんな大所帯で行っても仕方ないっしょ」

灰院鐘 :

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
とか言ってるレイラはいつの間にか絲でハンモックを作って一人で寝転がっている!

アトラ :「そーね~、じゃあナタリーちゃんもお話でもしながら待っ……」

ダン・レイリー :“T³”と二人組の時も今までこのノリだった………とは思わんが、堂々としているな………

アトラ :「いやいやいや コラコラコラ」

ブルー・ディキンソン :
 ミリアの視線に肩を竦める。
 結構、今はやり取りをするのにエネルギーを割くのが難しい。
 義体の自己修復に時間がかかり過ぎる。

「コイツいつの間にくつろいで…………」

 絞り出た言葉は羨みの言葉だった───……

灰院鐘 :すごいね! とのんきに拍手

ダン・レイリー :「大所帯で行くことがないのも正論だよ。別に悪いことじゃない」

アトラ :「つかそれするならみんなの分もさあ~!」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ええー? いいよ」

アトラ :「いいの!?」

ナタリー・ガルシア :「いいんですの!?」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「めっちゃ粘つくけどねコレ!」
 ケラケラケラ

ナタリー・ガルシア :「しっとりサラサラにはできませんの?」

アトラ :こいつ……

ブルー・ディキンソン :「自分はそうじゃないオチだったりしねーだろな……」

ダン・レイリー :「調整が利いても、あくまで当人のレネゲイド同士だからこそというわけか」

ダン・レイリー :
「では…やはり横着は出来んようだ」

 正直そんなことだろうとは思ったが、出来るならお願いしようかとも僅かに思ったのは内緒だ。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「皆ちょっとびっくりするぐらい警戒してないけど、うちのレネゲイド毒性だしね」

灰院鐘 :「そんな話もあったね」

アトラ :「そうなんだよねえ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 オーバーカウンターレネゲイド   ネツィヴ・メラー
『極 性 対 抗 種……『浄火の柱』、でしたね』

 静かに、既に明らかとなった情報を口にする。彼女が語るその言葉の重みを知るものは、或いはこの場では一人だけだったろう。

ダン・レイリー :
「今となっては、そいつの停止も必要条件の一つでしょう」

ダン・レイリー :
「………そのためにも、ソドムについての仔細は分かれば分かるだけいい。
 尚の事、もたついているわけにも行きませんか」

 そもそもあまり長居すればミナセもディアスも盲目じゃないんだ、すぐ気付く。特にディアスの方は、あれで勘が鋭い。

ダン・レイリー :「とはいえオンオフの切り替えを怠ると、すぐに限界点を越す。一先ず用意だけしてしまおう。ありすぎることはないが、その程度の時間はある」

ダン・レイリー :その間をよろしく、と、残る面子に告げるだけ告げておこう。人数分は最悪なくてもいいが、一先ずさっきの様子を見せたナタリーと、相当にダメージの嵩んだブルーの分くらいは用意しておきたい。

灰院鐘 :いっぱい持てるよ~

アトラ :ウチは最悪レイラのでもダメージないし程々にねえ

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :私はその辺の椅子に掛けさせていただきます。
これから報告するのにぐったり横になる訳にもいきませんし

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :……体はまだちょっと痛いケド。

ダン・レイリー :そこはイーブンだな…というのは意地の悪い言い方か

ナタリー・ガルシア :全員で攻撃しましたものねぇ(他人事)

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :ナタリーちゃんのは正直、結構必死で避けてましたよ。良い腕です、本当……

灰院鐘 :それも空中から! かっこよかったね

ナタリー・ガルシア :ふふ〜ん!褒めても何も出ませんわよ?

アトラ :よっ お嬢様

ダン・レイリー :当てずとも上策の仕掛け方ではあった 呑み込みが早いと言っていいのか

灰院鐘 :と、程々のところで取ってこよう。ダンさ~ん! ベッド7個あったよ~!

ブルー・ディキンソン :土手っ腹ぶち抜かれてしんどすぎ〜。

ダン・レイリー :ああ…感想会になる前に行って来るか ショウ 持てるからと一斉に運ぶんじゃないぞ

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
   ソレハソレトシテ
「……閑話休題。
 そろそろ本題に入りましょう。丁度席も……って」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「全員分は要りませんからね? 部屋も狭いんですから」

灰院鐘 :は~い! と古びた施設を揺るがす大音声で応じて椅子をたくさん持ってくる

灰院鐘 :パイプ椅子とキャスター付きのやつとベッドとサイドテーブルとストレッチャーと……いろいろ!

ダン・レイリー :僕が手を出す前に揃えてくるとは…やるな…

ダン・レイリー :

ダン・レイリー :…という具合で、少なくとも怪我人ではある“雷霆精”と、多少疲労の色が濃いナタリーにはベッドを、それ以外は椅子があれば十分だろう、ということで話を戻したい。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……そんな片鱗をプロファイリングしてはいましたけど、この人いつもこんな感じなんですね」

 苦笑い

ダン・レイリー :
「オンオフの切り替えはするヤツだよ」
 
 などと言える程度には見て来た。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ええ、そこは先ほど身に染みました。
 ……さてと」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『ええ、時間は十分あるとて、決して余裕がある訳でもありません』

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『早速、話して頂けますか。あなたが敵地にて、目にしてきたものについて』

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 コピー
「了解。
 では、調査結果の簡単な報告も兼ねて、臨時のブリーフィングをさせていただきます」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「経緯について語るのは後にしましょう。
 先ず、シャンバラという組織の目的について。
 "ラクシャーサ"……レイラ・イスマーイールと、コードトーカーの研究施設から情報を持ち帰ったブルーからある程度話は伺っていると思いますが」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「うん、話したよ。ざっくり言えば『ソドム』の遺産を継承するために集まった場所だってね。
 組織の体を為してるけど、何処まで行こうとFH。全員別々の欲望で寄り合って動いてるってね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ですがシャンバラの幹部メンバーの欲望は、大別して二種類。
 『遺産そのものに用がある人間』と『遺産を継承したその先の世界に用がある人間』。
 ……コードトーカーと、ラクシャーサ、そしてヨーゼフ・メンゲレは前者に当たる」

ダン・レイリー :「ならば後者に当たるのが………“ブラックモア”とヤツ、天刑府君………というわけか」

ダン・レイリー :「幹部ではないと聞いたが、件のエヴァンジェリンというのはどこに分類する?」

灰院鐘 :「…………」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そうですね。"エヴァンジェリン"については例外的にそのいずれにも相当しませんが。
 その例外を除けば、彼らは一つの目的を翳している」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……彼らの目的は、ある意味では非常に単純です。FHという組織が是とする、基本的な目的に邁進している」

ダン・レイリー :「………実力主義とでも言う奴か?」

ナタリー・ガルシア :「秘匿を破る、ということでは?」

ダン・レイリー :「ン………そちらでもあるか」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……より正確に言えば『自由』を得る事、ですね」

灰院鐘 :「自由……」

ダン・レイリー :
 自らが社会に合わせて『やりたいこと』を見出すのではない。
『やりたいこと』に社会を合わせる………

ダン・レイリー :
 ………だが。
 ・・
「自由とは、ずいぶん抽象的な言葉だ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「この世界の秘匿を破り、オーヴァードがオーヴァードとして活動する世界。
 大手を振ってその力を全力で行使できる時代。
 上位種たるオーヴァードが世を総べ、そこに追随できないものを振り落とす……

                Renegade War
 彼らから言わせれば、そう。『原始的闘争時代』」

ブルー・ディキンソン :
、  、  liberty
「……そっちの自由、か」

アトラ :
「……そう聞くとあんまり魅力的じゃあない“自由”だよねぇ」

ナタリー・ガルシア :「…………」

灰院鐘 :「……そういう世界でなければ、自由を実感できない人もいる。むずかしいことにね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そうね。彼らの望む時代、それは詰まる所オーヴァードとの共存とは掛け離れた支配……いえ、彼らからすれば支配する事さえ目標としていない。
 言うなれば、自由のための闘争が終わりなく続く場所。
 国を超えて人と人がただ殺し合うことでのみ繋がり合える場所。

 かつて"マスターテリオン"が目指した理想社会。
 Outer Heaven
 "天国の外側"。
 彼らはその継承者……いや、その復活をこそ望んでいる」

ダン・レイリー :
 即ち戦場という地獄でしか生きる事ができない者達が、永遠に生きるための世界。 

ダン・レイリー :
「平和に馴染めない人間の行き先か。

 仮令その後に何が起きようと知った事ではなく、ただそこでなければ自由を行使出来ない………」

回想する、曰く :
 兵士は敵の名も、素性も知らぬまま、ただ出逢った何者かを殺すもの。
 それで良い。十分だろう? 男がソイツを抜く時は、そのぐらいの理由で良い。
 飢えて渇いて手を伸ばし、ぶつかり合う。
         ・・・・・・・・・
 その束の間だけ、俺達は自由に成れる

回想する、曰く :そうだ、兵士に生来の因縁や前世の縁など不要だ、ただこの殺し合う関係だけが最大の因縁たりうる!

ダン・レイリー :「ロクでもない言葉があったものだ」 嘆息一つして、続きを促す。

ブルー・ディキンソン :
「『内』なる囲われた自由でしかない、か……」
 一人呟く。

灰院鐘 :
「あるいは、それもひとつの形なのかもしれない」

 らしくなく静かな声。容認する意図はないと、あとに続く苦笑が示した。

ナタリー・ガルシア :「……自由でありたいことと、自分が好き勝手に生きたいことはイコールではありませんわ。そんなものは結局、子供の癇癪のようなものです」

ナタリー・ガルシア :あるいは、誰も彼もが独りで完結した存在になることができれば──と、そこまで考えて、頭の中の戯言をかき消した。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──それを実現させるだけの力が、男には存在した。ということでしょう。
 
 ……聞いたことがあります。
 マスターテリオンは、FHが活動を活発化させたレネゲイド解放より、新たなる社会を創設するべく動いていた。
 或いはそれは、FH全体が望むより余程過激な形で」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「"解放"衝動に完全に呑まれ、そしてその故に常軌を逸した力を振るうジャーム。
 現在の資料ではそう推測がなされていると」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ただ、それ故に惹かれる人間も多かった。
 『自分はコイツより仕事が出来るのに』『コイツより優れているのに』『劣っている奴の為に一々歩調を合わせないといけないのが分からない』
 ……そうした発想の人間は大勢いた。とくに、アメリカは移民の国ですからね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そんな中で『自由』を求めて、民族も国家も超越した純粋な能力者の世界を望み、抑圧からの解放を是として動いた彼を支持する人間は多かった。
 ルイジアナを拠点として多くの支持を得たのは、そうした側面もあったのでしょう」

ブルー・ディキンソン :
「ルイジアナは元々はフランスの領土。
 アメリカを中心とした国の枠組みからの脱却としては、確かにネームバリューに富んだ拠点だあね……」

灰院鐘 :
「────」

 線引きを超えるのでは足りない、と。すべてを囲う線を欲した青年は、じっと耳を傾けていた。

アトラ :
「…… ……」

 そういうものか。……そういうものなんだろうな。
 いやな顔は隠さない。

ブルー・ディキンソン :
「皮肉なもんだね。
 Sons of liberty
 "自由の息子達"から作られたこのアメリカという国の中で、
 今再び同じことを考えている連中が現れるってのはさ」

ダン・レイリー :
「そんな過激な目標を以て掲げた革命の是非はともかくとするが。
 ………ルイジアナにUGNの手が伸ばせんのも、その辺りが原因だろうな」

ダン・レイリー :
 結果的には武力によって革命した国を覆すのは、また別の武力による革命だったわけだ。
 未遂ではあるが、しくじれば歴史書にはそういう皮肉が乗るに違いない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
             ミーム
「そして……彼らが死んでも規範は残った。
  Renegade War
 『原始的闘争時代』、その新時代を築こうとする意志を、"ブラックモア"は受け継いだ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「"ブラックモア"とマスターテリオンは、北米FHが誕生する以前から繋がりがあったんです。
 当人がそう語っていました。そして、テリオン自身も未だ計画の為に息を潜めていることも」

ブルー・ディキンソン :「……ああ、言ってたね」

ブルー・ディキンソン :
 ・・・
「不死身、
 ・・
 転生……」

ブルー・ディキンソン :
「結局妨害電波のせいで最後まで聞けやしなかったけど──その先、話してくれるんだ?」

ダン・レイリー :「………もしや、マスターテリオンがか?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 静かに頷く。
「マスターテリオンは何も、単なるおためごかしとして『自由』を掲げていたわけじゃない。人間の姿を模し続けることの出来たジャームは、最終的な結果こそ破綻しているとしてもその道筋に関しては的確なことが多いですから。

 これはシャンバラの目的である『SODOMの継承』と並行して行われた、新しい時代を築く計画」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「"マスターテリオン"の不死性たる故。
 肉体の完全性、絶対的な不変性。少なくともそう認識されていましたが、それに加えてもう一つ。
          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 マスターテリオンは電子生命体として異なる生命に転移できる」

ダン・レイリー :
「………電子生命体として、異なる生命に………」

 なんて荒唐無稽な話だ。
 荒唐無稽な話だが、あの顔が真顔で冗句を言っているようには思えない。

ダン・レイリー :
「本部に安置されているマスターテリオンと、異なる生命を器にしたマスターテリオンが両立できる………。

 ………手段に手間がかからないのであれば、いやかかるとしても、もう今まさにマスターテリオンの系統樹を受け継ぐ“次”が生まれている。そういうことか?」

ブルー・ディキンソン :
「……ああ、だからか。
 プロセスの方を聞くと納得いくな──だから最後の定期通信の時……」

ブルー・ディキンソン :
  ・・・・・・・
「《無限を継ぐもの》──って言ったんだね」

 キャプテンの口にした事例と、ミリアの説明は概ね合致するだろう。
 なればこそ、彼女があの時の通信で口にした言葉がピースのように嵌まるのを確信する。

ナタリー・ガルシア :「スワンプマン……というには質が悪いですわね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「理論的には、あり得ない話ではないです。少なくともオーヴァードに関わる界隈では。
                  サイコセラピー
 AIDAのように、オーヴァードの情報を電子医療によって疑似的に再現する技術。
        ジーンセラピー
 肉体を複製する遺伝子医療によるクローン複製技術も、ヒトゲノム解析の結果に確立されました。

 ……この折に、遺伝情報によってある程度オーヴァードのクローンを作ること、オリジナルに近しい表現型が発生させられるという試験結果も出ています」

アトラ :
「……そもそもがバケモンっぽいって話だったのに。
 ますます嫌な話になってきたね。オーヴァードのクローンかあ……」

灰院鐘 :「……オリジナルに近しい、か」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「本来なら、これらの技術は別々に存在しても、それらを結合するための『歯車』となる技術が存在しませんでした。
 恐らく、シャンバラの手にした『SODOM』のロストテクノロジーの中にそれを確実なものとする技術が眠っていたのでしょう。

 ダン・レイリー大尉の語るように。
 オリジナルの肉体は現在安置されていますが、コードウェル博士がテリオンを討った際には既に手を打っていた。 
 そして──」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……これは私事ですが、手遅れになる前で本当に良かった。
 もし、もう何週間か手が遅れていれば、恐らく次の器となるのは私だったかもしれませんから」

"雷霆精"ブルー :
「"幹部の最後に回された時、致命的なことが起こる"……」

アトラ :
「うへえ……」

 それは本当に良かったと思う。ついさっき知り合いになったウチらが、と言うよりはブルーさん的に。

ダン・レイリー :「その言い方となると、器にするものに条件と、するにあたっての手間はあるようだが………」

ナタリー・ガルシア :「……それでも、大本を叩かない限りはイタチごっこですわね」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「うわ、それじゃもしかしてあたしが早めに潰されてなかったら、このサラサラヘアーのナイスバディが顔も知らないおっさんの身体になってたってコト!?」

ダン・レイリー :
「ああ。そもそもマスターテリオンの伝聞からして、これのクローンなどやられたらたまったものではない。

 ………いやそもそも、ヤツを完全に消し去ったとて、ヤツの思想を受け継ぐ人間がいる限り、同じことは幾度となく繰り返されるだろう」

ダン・レイリー :「身体はそのままで中身が違うのかも知れんだろう………いや、そういう話ではないか」

アトラ :
「言い方言い方 いやあんまり違わないんだろうけども……」

 身体そのままっていうのも結構イヤだなあ。

ブルー・ディキンソン :「大した"ビッグブラザー"だ……」

灰院鐘 :

ダン・レイリー :「………その“幹部の最後に回された時致命的なことが起こる”というのは、当時コードトーカーだったきみに限った話ではない、と考えるわけか」

アトラ :「…… ……滅茶苦茶イヤだなあ……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。
 自らの表現型を発現させるための条件設定は、完全に解析出来た訳ではありませんが……
 『特定の期間』までに、シャンバラの設備とリンクしていた場合であること。また素材として一定以上の性能がある場合の二点が予想されています」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「私は『レネゲイズワーム』を発信するサーバ。
 そして"ラクシャーサ"に関して言えば、あのPWE」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ゲッ……あれそんな仕込み入ってたの?」

アトラ :(ちょろまかしたりせんで良かった……)

ダン・レイリー :
「利用しに来た相手を、逆に利用する準備まで整っていたか………。
 よくもまあ、周到にやってくれると言うべきか。これも不幸中の幸いと言うべきか…」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「まあ、この繋がり自体は別に強制力や束縛力がある訳じゃないみたい。
 レイラ流に言うなら『強大な能力に対する縛り』というところかしら。
 自由意志で何時でも破棄出来るけど、その段階まで流れに乗ってたら問答無用で発動する。一度発動したら逆らえない代わり、発動する前ならいつでも破棄できる……これはそういう悪魔との契約だったってコト」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「あー、成程ねー……そうなるとあたしの選択肢は元々一つしかなかったってわけだ。
 まるで気付いてなかったわ、あたしひょっとするとだいぶやばかったじゃん! コワー」

ブルー・ディキンソン :「……裏を返せば、残りの2人は……」

灰院鐘 :「…………」

灰院鐘 :「彼らは……原始的闘争時代ってやつを望んでいる。承知の上かもしれないね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そうね。
 この機能は、首輪としての役割もあったでしょうから」

ダン・レイリー :「………」 ショウが零したその言葉へ、僅か沈黙する。それは否定の意ではないことは確かだ。

ダン・レイリー :
「最初から目的の一致するような“ブラックモア”に“天刑府君”には、そいつを用意する理由もないのかも知れないが………。
 少なくとも、あったらあったで、それを苦慮するようなヤツらでもないのは確かだ」

ダン・レイリー :兵士として生きることが望みならば、兵士のうちに終わることも望みのうちだろう、と加えて。

アトラ :
「いや想像すると滅茶苦茶怖いな。身内がそうなっちゃったらと思うと……いやまあ、なってないからやいのやいの言うことでもないんだけども……。
 …… ……逆に言ったらあっちに残ってんのはみんなが言うようなんばっかってことだけども。うわあ」

ブルー・ディキンソン :
        Apostle of The Beast
「……自らすすんで、"666の獣の使徒"にでも成ろうってか。
 怖いねえ……闘争は嫌いじゃないけど、そこまで入れ込みたくはねーナ……」
 

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ね?あたまおかしいやつらまみれでしょ」

ナタリー・ガルシア :「…………」

アトラ :頷き頷き。

灰院鐘 :個性的だね!

ブルー・ディキンソン :レイラの言葉に同意のため息をつく。

"アダム" :
 ──理解できない、って面に見えるけど。

   いや、それとも今なら深く身に染みてるかな?

"アダム" :
 ──自分も他者も食い尽くした後。
   狂おしい程に望む『自由』ってやつを。

ナタリー・ガルシア :「……そんなわけ」

ありません、と。思わず口から零れた言葉を噛み殺す。

ダン・レイリー :「………ナタリー?」

ナタリー・ガルシア :「いえ、少し思うところがあっただけですわ……大丈夫です、大尉」

ダン・レイリー :
「ン。ならばいいが。自分の考えに自分で押し潰されるんじゃないぞ」

 ………思う所があったのは本当だろう。
 当たり前のように触れるような奴らではなかった。少なくとも“天刑府君”は。

ブルー・ディキンソン :
(……"そんなわけ"、か)

 今のは一体……、
 ・・・・・・・・
 なにに対する否定、だったのだ。
 彼女の中で、彼女だけが知り得る何かが確立されている?
 直前のレイラの発言を思えば………そう邪推してしまうのが私のようなブンヤ崩れのサガなのだが。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「…………」

 女の澄んだ瞳は、ホログラムのゆらぎの中で静かに見つめるだけだった。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……助かったことについては感謝しています。ただ、過ぎた話でもあります。
 本題は寧ろ、ここから」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「話は前後しますが。"コードトーカー""ラクシャーサ"が各国に対して行っていた干渉は、後の計画の為に撒いた布石だったんです

 ジーン                 ミーム
 遺伝情報を電子化し、また『意志』さえも意伝子として生命のデジタル化に成功した、マスターテリオン。
 本当に重要なのは、その性質です」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……衝動浸食という概念があります。
 強力なジャームがそこに存在する場合、時としてその異常性によって一時的に同じ衝動を共有する、という性質」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「この衝動浸食に充てられた場合、オーヴァードであれば衝動を共有し、そうでないものは場合によっては覚醒するかジャーム化する危険性がある。
            ・・・・・・・・・・・・・・・・
 ……そしてこの特性は、電子化されている状態でも効果を発揮する」

ダン・レイリー :
 ジャーム自体、常に衝動を露にし暴走している個体だ。
 ・・・・・
 中てられる、というのは決して有り得ないことではない。
 だが………もしも。もしも。

ナタリー・ガルシア :「そ、それでは……世界中、どこにいたとしても」

ダン・レイリー :
 電子化している状態。
 その状態でも、己の衝動を、不特定多数に拡散出来るのだとしたら………。

「………ああ。文字通り、自分の思想で世界を染められるということだ。
 そう言う風に、受け取れてしまうな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ッ、まさか」

 そこまで説明されれば、誰しも想像がつくだろう。
 慄然たる未来に、勇魚は背筋が凍るようだった。

ブルー・ディキンソン :「……マジでタチの悪いビッグ・ブラザーじゃん」

アトラ :「…… ……うわあ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「────今の時代は転換期です。
 冷戦は終局し、東西対立からテロの時代に入り、さらに情報が錯綜する時代。
 個人の力が最大化する時代へと変わっていった」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
       ・・・・・・・・・
「そして当然、それに伴う社会不安も。

 アフガンでの失敗と、金融ショック。保守層とリベラリストの対立。
            コンフリクト
 今やアメリカはそうした 対 立 の温床となっている」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「悪意のミームは、そうした土壌を元に際限なく拡散と膨張を続ける。
 『自由』を求める意思で、満ちている」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
               ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「この計画の肝となるのは、この情報化されたテリオンの因子を米国中に拡散すること」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その為にPWEを複製することで発生の起点を作り。その為にレネゲイズワームによって効果的に拡散できるネットワークを築いた。
 情報化したマスターテリオンの因子は、その土壌に流れ込む形で情報化社会を席巻し……

 世界は"覚醒"する」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 それはある意味では、シャンバラというシンジケートがこれまで行ってきたことの総仕上げ。
 遍く国、遍く民族に、『自由』の象徴。
 力という名の銃を隅々まで配給した、その極点。
         レネゲイド
 無尽蔵に拡散する GUN によって、世界は一つとなる。

ダン・レイリー :
「………解放されたいという衝動の赴くままに、争いが起きる。
 あらゆるものに、個人の力の恩恵が渡る」
 
 文字通り、抑圧から、秩序から、敵意から。
 あらゆる些細な理由を切欠にして、自らの理由が赴くままに。

「気に入らないヤツはぶん殴って黙らせる。
    マジョリティ
 それが多数派の望む唯一の法になる───ヤツらお望みの新時代が、それか」

ダン・レイリー :
 まったく、とんだオーパーツもあったものだ。
 元々がどうであれ、今この時代にとってのSODOMは何処の何に繁栄を齎すようなものじゃない。あるいは、その超技術を核として計画を作ったヤツら自身にも。

. アメリカ
「この船が沈みます、では済まされん。
 さらに最悪なのは、連中の一部を見る限り、それが“続く”かは概ねどうでもいいってことだ」

灰院鐘 :「────」

ブルー・ディキンソン :
「……くっだらな……」

ブルー・ディキンソン :
「ナッちゃんが最初に言った通りだ。
 子供の我儘と変わらん。
 『銃』を拡散させることで、闘争で充足を得るということは……生きたきゃ戦うことを強制するということ。

 ……そんなもん、一般人からしたら自由でもなんでもない。
 明日の献立の方がよっぽど大事な連中の方がほとんどだと思うがね」

ブルー・ディキンソン :
「手前の破綻した責任を世間に押し付けちゃ世話ねーナ……全く」

「……くっだらね。
 世界はそう簡単に変わりゃしないし、変わっても元に戻るってのにな。
 それこそキャプテンの言った通りだケド」

アトラ :
「…… ……確かにシンプルで分かり易いし。
 世の中全部がそんな連中ばっかになるなら、ウチも気なんて遣わず街中闊歩出来ちゃいそうだけどね」

 冗談っぽく言おうとして、嫌な顔は止まらないまま。
 ……うーん、最悪だ。自分で想像してるより最悪なんだと思う。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「うんうん、やっぱ頭ブッ飛んでるわ。
 けどまあ──こうなるだけなら正直どっちでも変わんないよねって」

 最初にレイラが言った言葉は、そうした考えもあったのだろう。具体的な案を訊いたのはこれが初めてだが

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「マスターとか偉そうな名の通り、贅沢な発想だよ、まったく」

灰院鐘 :「僕は……」

灰院鐘 :
「望むことを……してほしいんだ。誰にだって」

 例外はない。善悪の区別さえ。

灰院鐘 :「…………」

灰院鐘 :
「────」

 重く……浅く、息をつく。色褪せた表情。穏やかな声色だが、どこか温度がない。

灰院鐘 :
「解き放たれることを多くの人が望むのなら……多様に分岐し、区分され、散逸したものが纏まりを持つのなら……」

「……悪いことだとは言いきれない。それもまたひとつの形だと思う」

灰院鐘 :「……でも」

灰院鐘 :「悪意はあるけど、より多くの善意で回っている……。そんな営みが好きなんだ」

灰院鐘 :「だから、今のほうがいいな」

ダン・レイリー :「…」

ダン・レイリー :
「きみのそいつは否定しない。
 情けは人の為ならずだったか───人間の社会ってのは、半分はそうして回るもんだ………。
 それでも、多くが望んだならば、そうした社会になることもあるかもしれない」

 さっきの話ではないが、例えばアメリカでお役御免になった軍人たちの多くは、戦場の後遺症でまた戦場を求めるかも知れない。
 大多数のためという言葉に見えないまま消えていく少数も、いるかも知れない。

ダン・レイリー :
「………だがマスターテリオン───そいつが既にジャームであるならば必ず。そうでないとしても、恐らくは、自ら以外の望む望まないなど考慮もしない」

ダン・レイリー :
「従って僕からの回答はこうだ。

 僕は少なくとも僕の選択でマスターテリオンの望みを打ち砕き、その行動の責任を取る。
 世の中のかじ取りなどというのは、少なくとも、“望む”“望まない”の選択すらないまま決めていいもんじゃないからね」

ナタリー・ガルシア :「――たとえ多くが望もうとも、それは肯定できない欲望ですわ」

望み、己の意志で道を決めるということは、荒れ果てた荒野を己の足一つで歩むことと同義である。

己の責を、己が背負う――多くの者は、そんな世界に耐えられない。

ナタリー・ガルシア :
「今の世界、今の社会は、先人たちがとてつもない代償を支払って作り上げた『合理的』な社会です。なるべく、多くの人間がどうしようもない不幸にならないで済むという諒解の上で成り立つ世界――それを、はるか以前の社会体型まで巻き戻せば、どれだけの人々がどうしようもない不幸に陥るか」

ならば、多くが望み、そして間違えた時、その罪過を背負うのは一体誰か。

幾万、幾億と流されるはずだった血と苦痛を贖うことになるのは、一体誰か。
               
それを望んだ人々であるのならば――
  ・・・・
――まだいい。

ナタリー・ガルシア :「そのような世界が訪れることは看過出来ません。多くが望み、その道を望んだとしても、その先に支払われる代償を理解できるのであれば止めるべきですわ」

善き人々。あるいは強い人。
誰かのために、血を『流してしまえる』人。
責任を、罪過を、代償を、狂った歯車の軋轢を受け止め、流されるはずだった血を代わりに流してしまえる人。
       ・・・・
そんなことは、許せない。

ナタリー・ガルシア :「間違える前に、止めなければなりません。それがその判断を下せる私達の責務ですわ」

湛えた笑顔と、力を込めた声。
真っ直ぐな意志を宿した言葉。
それが、己のきれいな言葉が――どこまでも我欲と醜い衝動のような感情にまみれていることを、『今の』ナタリーは正しく理解していた。

ナタリー・ガルシア :強く、激しく、そしてどこまでも拭い落とせないその感情。
幾つもの色を混ぜ込んだ、真っ黒な感情。
それは恐怖を消し、痛みを忘れさせる――『今』必要なものだった。

"アダム" :
 ──ふうん。
 

"アダム" :
 いや何。お姉さまの真似事ばかりじゃない訳だ、キミも。
 相応しい目になってきた。少なくとも……オレは嫌いじゃないよ、そういうの。

ナタリー・ガルシア :その言葉に――その言葉を、黙殺する。
あるいは、返す言葉を持たなかった。

目指す場所へ辿り着くために乗り越えなければならない試練。
なのに、目指す場所から遠ざかる矛盾。

そして、今は『これ』に頼るしかないという短絡的な思考――短絡的と分かっていても、前に進むために仕方ないという諦念。

ナタリー・ガルシア :もはや、どちらに進んでいるのかもわからない。
立ち止まっているのか、遠ざかっているのか――それすらもわからない。

そのことを認めてしまう事もできずに、ただ、黙り込む。

大きな流れの中で溺れないよう、必死にあがき続けるだけの自分。
運命に立ち向かうなんて吠えたかつての己を、心底おかしいと笑えてしまうほど――ただただ運命に翻弄されている己の姿。

それでも、『時間は万人に平等』だ。

ナタリー・ガルシア :進むしか無い。
そのためならば、使えるものは使う『しか』ない。

ナタリー・ガルシア :――今は、それだけで良い

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……そうですね。こんなのは、子供の我儘と大差ない。
 私たちがそれなりに気に入ってる『時代』が、脆いように見えて案外丈夫に出来てるってこと、改めて思い知らせてやらないと」

灰院鐘 :「がんばりどころだ。気合いが入るね」

アトラ :
「……そ~ね。
 ウチは……まあ今がまるっと好きとか口が裂けても言えないけど……。
 嫌いじゃない人たちもいるから、やっぱ止めなきゃって思うわけで……」

 うむうむ。

ブルー・ディキンソン :
「……」

ブルー・ディキンソン :
「あたしはシンプルに嫌だね、
 ハクガイトギャクサツ
 西部開拓時代あたりに戻るの」

ダン・レイリー :
「えらく直球に言ったもんだな。
 間違っちゃいないが」

ブルー・ディキンソン :
「頭の悪い生き方なんざしたくない性分なもんでね。
 賢い生き方っていうのは、その時その時の時代に合わせる事だと、あたしは思うし」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「へー意外、おたくの仕事柄儲かると思ったんだけど。
 ……いや、逆にレッドオーシャンになるかな?」

ブルー・ディキンソン :
「そゆこと。

 ──つうか、"そうなった"ところで結局得をするのは連中くらいだしね。
  じゃくしゃ
 "巻き込まれた側"が得することは絶対にない。
 強者が都合よく作り替えた世界なんだから」

ダン・レイリー :
 競合だけでモノを考える娘ではあるまい───考えたが、口に出すのは止す。無粋だ。

ダン・レイリー :
「………であれば、実利の話に戻るか。
 夢みたいな絵空事を掲げて始められようとしている暴力革命に冷や水浴びせる手段の検討だ」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「アッハハ違いない! 世知辛いねえ、でも概ね同意。
 ぶっちゃけどっちもクソならマシな方選ぶだけさ」

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :
   テリオン・クラウン
【概念:獣の因子】
Eロイス:無限を継ぐもの
 
 マスターテリオンを不死身のオーヴァードたらしめていた能力の一つ。最強者の肉体を求めたテリオンの見出したもの。
 マスターテリオンはかつてコードウェルに敗れる以前より肉体と精神を乖離し、生体情報をデジタル化して保存していた。
 その結果敗れたテリオンの肉体は安置される一方で、その精神、因子は外に出力、肉体という檻から解放され活動を続けていた。
 物理的に干渉する肉体を失ったマスターテリオンだが、彼のミームを受け継いだ支持者たちまでは根絶やしにすることが出来ず、彼らによってまさしくシャンバラという闇のネットワークその者として潜伏し続けた。

 電子空間を生きる獣の因子はそれ自体が物理的に影響を及ぼさない。強力なレネゲイドの流体として認識される。
 だがこの保存された遺伝情報を特定の条件を満たしたオーヴァードが感応すれば、塩基のレベルから対象を書き換え
 電脳化したマスターテリオンに意志も肉体もコントロールされることとなるという。
 

SYSTEM :
     Renegade War
【概念:『原始的闘争時代』】
Eロイス:覚醒する世界
 彼の掲げる世界の象徴的な存在。天国の外側。
 あらゆるオーヴァードが個人の力を全力で振り回して殺し合う戦士たちの楽園。
 国家に対する不信感と世界的な不況、鬱屈した現行社会に対する解放衝動を寄る辺に
 ネットワークを通じてテリオン・クラウンを拡散。超広域に渡る解放の衝動侵食を発生させる。
 
 オーヴァードの存在と共に、恐怖と怒りによる世界規模の対テロ戦争を引き起こす。
 国籍や民族を超え、純然たる主義と主張を剥き出しにしたオーヴァード達が自らの欲望と秩序の為に戦い続け
 終わらない戦火、止まらない地球規模の闘いによって世界は『レネゲイドウォー』の時代を迎える。
 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──エージェント・ジューダス=マカビアス。
 あなたはコードトーカーとして潜伏する傍ら、その任務の一環としてレネゲイズワームを解き放った。
 であれば……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。
 マスターテリオンの計画の基部となる一部、テリオン・クラウンの拡散を阻止するための方策について……
 勿論仕込みは済ませています。
 ──私、天才ですので」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……とまあ、気前よく見栄を張れるほどのことが出来た訳ではないんですが……
 こちらをご覧ください」

 言いつつ、PDAを操作しホログラム上に画面を表示する。
 表示されるのは合衆国の地図のデータのようだ。

ダン・レイリー :「コイツは──」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……結論から言うと、私の手では獣の因子の拡散を完全には止められない。
 けれど、それを抑えるための準備は出来ています」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「”コードトーカー”のレネゲイズワームの拡散規模が、実は各支部単位に抑えられていた、というのは以前話した通り。

 つまり獣の因子が発現し、攻撃することが出来る範囲は……
 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 すべて、アメリカ支部が配置済みのポイントに絞られるということです」

ナタリー・ガルシア :「あえて道を通し、誘導したということですわね」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「発生地点が特定できているならば、なおかつそこがこちらのホームグラウンドなら……
 成程確かに、やりようはある、か」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ですが気になる点も一つ。
 あちらも只、因子を拡散すれば後は放っておいても争い合う、などとは考えていない。銃を配れば争いを始めるというのは早計でしょう。

 なら、その上で仕込みをしている筈。
 民衆に紛れて、民衆のふりをして、周りの枷を外してやる……というのはテロリストの常套手段です」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「恐らく、その仕込みこそ強化猟兵部隊と
 これまで製造してきた機械化兵たち、その戦力を大盤振る舞いしてくるはず。
 予め民間人を可能な限り避けるとて、米国各支部での大規模な抗争は避けられない」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──であれば早急に、各支部の戦力を増強せねばなりませんね。
 今回の作戦はヨーロッパ支部も大きく絡んでいる。地中海、南欧近辺は難しいですが、比較的余裕のあるイギリス支部を始めとする西欧、北欧の各支部から応援を要請しましょう」

ダン・レイリー :
「………連中はこの合衆国の闇に根深くネットワークを張って来た。
 国ひとつの問題とも言い難い。見栄を張る場面でない以上、万全を期するに越したことはありませんね」
 
 海向こうからの援軍も、元より織り込み済みというところだろう。
 なにせ眼前のミリア・ポートマンこそ欧州のUGN支部から参上した人間であり、シャンバラは北米FHの流れを汲む最大勢力である。
 まして“マスターテリオン”も然ることながら………上級セルリーダーの二名のうち、存じている一名を思えば、戦力を補填しない理由などはない。

ダン・レイリー :
 ………強いて問題点を挙げるとするならば。海向こうからの派兵に上層部が何を思うかだが。

 あるいは、本当に先手を打つ必要があるかも知れない。貧乏籤を持って伺ったあの時の言葉を果たす必要が。

ダン・レイリー :
「仕込みの方も、その時になって悠々と繰り出させるわけにはいかない。ルイジアナ方面を主として、まだ“ブラックモア”共々温存されている戦力が居る。
 それに機械化兵の流通請負も、どうもO-Tec社とやらの名前がチラつく………」

 少なくとも前者は物理的に対処できる範囲だ。
 完全未知数のSODOMを除けば、懸念するべきはこの辺りか。

灰院鐘 :「増援! 頼もしいね」

灰院鐘 :
「でも大丈夫かな。合衆国はあまり良い顔をしないかも」

 一度、伺うようにダンへ視線を投げる。折しもそれは大尉の内なる懸念と重なるものであり、あくまで協力者という形で越権行為を許されている身の上として、自然な疑問だった。

ダン・レイリー :
「ふむ。やはりそこは気になるか」

 尤もな疑問だ。と頷く。
 いい顔をしないかも、という疑問形に留めたのは彼なりの配慮だろう。あるいは本気でそう考えたのかも知れないが、恐らくは前者だ。

ダン・レイリー :
「確かに欧州のエージェントが勢揃いで我が物顔となったのを素知らぬ顔で“通します”では、国はやっていけんな。
 尤もシャンバラの危険性を承知し、ここで面子と見栄を優先するリスクが分かっているならば………これは“いい顔をしない”に留めておけるものだ」

ダン・レイリー :………

ダン・レイリー :とまあ、出会い頭のブリーフィングならこれで終わらせたが。 

ダン・レイリー :
「最初からそのつもりでいてくれるなら、ここには今頃ミナセか少尉がいて当然なわけだが」

ダン・レイリー :
 ………振られた視線を今後は然るべき別の方向に受け流す。

 あるいは、その辺りを俺にやらせたいから、アメリカの目を避けたのに自分だけをそのまま引き込んだのかも知れないが。ある点では、お互い様の話だ。

灰院鐘 :むずかしいね、と眉を落として頷く。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そうできない理由があるからこそ、です。
 ダン・レイリー大尉のみをこの場に同行して頂いた理由は、既にわかっていただけている筈。
 ──ブルーを通じて、話は聞いていましたからね。それを元に一部情報をこちらで検めました」

ブルー・ディキンソン : 

ダン・レイリー :
「無論だ。その意味も当然ね」

 さり気ないウインクには気付かないフリ。だが本当に先手を打ってくれたってコトらしい。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「他のテンペスト構成員について話を漏らせば、何処から情報が漏洩するか分かりません。
 何より……『知ってはいけない事』を知ってしまった組織の一員というのは、どこの組織であろうとも後が大変でしょうから」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「彼らの立場を守るため、そう納得して頂けると助かります。
 ……シャンバラの動向を語る上で、本国との関係を語らない訳にもいきませんしね」

ダン・レイリー :
「納得する気がないのなら、僕はきみのバディに話などしないよ。
 ………其の件では物の見事に一杯食わされたもんだが、お蔭でまだ目が節穴になり切っていなかった程度の確認は出来た」

ダン・レイリー :
「………連中にも、申し訳ないが狐に化かされてもらうさ。
 その“知ってはいけない事”を墓まで持って行くのは僕の特権ということだ」

アトラ :
「…… ……」

 ウチも自分のこと黙ってるようなもんだし何も言えることがないんだなあ。流れを見守っておく。

灰院鐘 :
 ……レイラの合流以降どうも合衆国の"好ましくない"話が続いているのを、この青年は気にしているらしい。複雑そうな居住まいは、ともすると彼のほうが余程いたたまれなそうに映る。

灰院鐘 :
  Pledge of Allegiance
   忠誠の誓い   が慣習として根差す国で、兵士として武器を執ることの意味。

 たとえそれが、なんでもないことから始まったのだとしても。
 今なお特別でない理由のために戦い続けているのだとしても。

灰院鐘 :
 ……ぶんぶんとかぶりを振る。青年の内情がどうあれ、ダン本人はあくまでも泰然と事実を受け止めてきた。

 そう、あの冷静な姿をずっと見てきたのだ。察しの悪い鐘をして、要らぬお節介を焼かせないだけの信頼があった。

灰院鐘 :
「僕、ダンさんが大好きだよ」

 ものすごくとうとつに、それだけ言って満足する。

ダン・レイリー :ほんの僅かに口元を緩ませて、

ダン・レイリー :「そりゃあ良かった。やって来た甲斐もあるよ」

ダン・レイリー :言外のありがとうを込めた、あくまでもその言葉で終わらせる。この少年が、そうでない言葉も望んでいるような話の“選び方”ではなかったからだ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 その信頼関係が伺えるやりとりを、薄く微笑んで見遣り、視線をブルーに切り替える。

「それにアメリカとシャンバラが衝突しているという点については、ブルーには伝えた通り。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・
 彼らはシャンバラの台頭をよく思っていない。一刻も早くの消滅を望んでいる。

 そこに間違いはありません」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 一見してこれまでの状況の確認程度の言葉に聴こえるが、それは過去の関係を知るものにのみ別の意図で伝わったことだろう。

「そこはブルーにも伝えた通り。アメリカの面子の問題として、よくは思われないでしょうが強硬手段を取る可能性は薄いかと。
 そして…」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
                ・・・・・・・・・
「万が一に干渉された場合我々には彼らを黙らせるネタは上がってます。
 加えてこの喫緊の状態、利用しない手はありません。
 確定事項ではありませんが、其方の問題に備えはある、とだけ言っておきます」

灰院鐘 :おお~! と拍手。管理室にひとりぶんのぱちぱちが響き渡る。

ダン・レイリー :
 ───そうか、と。
 内心に留めた言葉の呟きが、もしも外に出せばどんな色を持っていただろうか?
 
 少なくとも今、もう合衆国にとって連中は手に負えない存在だ。
 その辺りの認識を、元でも局長の椅子に座った人間が間違えるとも思わない。

 ………思わないが。
 予想外のことは起こるもの。

ダン・レイリー :
「了解した。
 うちの上層部が見栄の張り方を間違えないことを願いたいが………」

ダン・レイリー :
「万が一が起きたならば是非もない。今この状況で、船頭を多くした結果が山登りとなろうものなら誰にとっても困る。
 眼を瞑ったら後で今度は僕が睨まれるかもしれんが、まあ、その時はその時さ」

 ………それに“シャンバラ”についての言及だけともなると、思わぬ下心もあるかもしれない。
 もとよりそのつもりで話を通した。遠慮なく活用し合わせてもらうつもりだ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……そして仕込みまでの余裕の問題についても……猶予は、まだあります。
 因子の覚醒が発動するのは時限式です。止めることも、これ以上遅らせることも出来ませんが、計測は出来ています」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「それは、今から二週間後、そこから推定三日間──
 
 推定するに、12月25日──誕生祭前後です」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「本来なら、SODOMを手中に収めた状態でこの段階に入っていた。
 そうなると絶望的でしたが……今の状態ならまだ辛うじて勝ちの芽はある。時間的猶予についても、欧州支部に大規模のトラブルがなければ何とか都合がつけられるかと」

灰院鐘 :「君が命懸けで残してくれた芽に、今度は僕たちが水をやる番だ。がんばるよ」

ダン・レイリー :
「誕生祭………そこまでが期限だな」

 黙示録の獣───偽りの救世主の生まれる日とは、なんともまた皮肉の利いた話だ。
 よりにもよって、という日は、偶然なのか、あるいは必然なのか。後者の言葉はあまり使いたくないもんだと、昔の反発心が少し蘇る。

ダン・レイリー :
「出た芽を咲かすのは此方の仕事というわけだ。
 とはいえ、その猶予にするべき大筋は変わらん。今まで通り、出来るベストを尽くすさ」 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……我々の与り知らない場所で、方々に手を打って下さったということですね。
 なら我々は、我々の任された責務を全うするまでです」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……何も伝えられずに作戦をしていたことについて、まだ不満はありますが。理解はしました」

 むす

灰院鐘 :「びっくりしたね!」一方こっちは能天気に

ダン・レイリー :「足して2で割ると丁度いいな」

ブルー・ディキンソン :「(……案外"ガキ"っぽいのな……)」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「まあまあ、そこは成果で納得して欲しいわ。
 それに潜入自体はうちらに限った話でもない。UGNならよくあることだもの、ここは後学の為と思って見逃して欲しいかな」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「ここまでガチる奴見たことないけどね」

アトラ :
「すげ~温度差」

 こういう時だとショーさんの方が気楽……ではないんだけど、柔軟性あるように見えるな。
 お仕事が絡むと大変だ。改めてちょっと思う。

ダン・レイリー :
「実際、現場も上も、全部が全部織り込み済みで進むわけでもない。
 納得はしてるのだろ? その上で、不満はあっても飲み込めるなら上等だよ。前向きに見返してやれ」

ダン・レイリー :………ショウはショウで、自分の手の届かない領分は任せられているからこその楽観なんだろうしな。ある意味才能だ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……はい。そのつもりです」

 目を伏せ、呑み込む。

灰院鐘 :飲み物いる?

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :結構です。

ナタリー・ガルシア :

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『……であれば本部のやるべきことは決まっています。
 決戦となるのは12/25日前後。『獣の因子』拡散の対策本部を建て、時期までに欧州支部の面々からチームを募り事に当たらせましょう」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「オペレーション『パラダイスロスト』メンバーは引き続き作戦に当たって下さい。
 残すルイジアナの作戦エリアは敵の重要拠点、そこを潰すことは決戦の助けにもなります」

灰院鐘 :「は~い! ………」

灰院鐘 :
     こぴー
「えっと……了解!」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「拡散したテリオン・クラウンが何を条件に停止するか。如何にして殺傷するか……推測はありますが確定はしていないのが現状です。
 ただどちらの目的にせよ、『パラダイスロスト』作戦の中で不可避的なものとなります。
 UGNの勝利は、このチームの働き如何に大きくかかわってくるでしょう」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「よって以降は私も、こちらの作戦に参加させていただきます。
 レガシーホルダー
 遺産所有者程ではないにせよ、私もそれなりに場数を積み、それは証明できたと思います。脚は引っ張りませんよ」

ダン・レイリー :
Aye,ma'am
「了解。
 どのみちブラックモアと奴の旅団はシャンバラの手足です。“獣の因子”の停止に備え、目下の相対は避けられない。
 そして………」

ダン・レイリー :
「その言葉へのアンサーは先程口にした通りだ。きみのバディ共々、もうひと頑張りを共にして貰いたい。
 よろしく頼む、“ジューダス・マカービアス”」

灰院鐘 :「改めてよろしく、ミリアくん!」

灰院鐘 :嬉しいな 頼もしいな お近づきの印にハグしてもいいかな!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :やめなさい。

灰院鐘 :ション

アトラ :
「心強~い!手強かった分も頼りにしてるっすよ」

 レイラの絲もあるし、ミリアさんも居れば大抵のことは調べがついたりしそうだ。本当に心強い。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……もう一件、色々と話しておかなければならないことも。この事件と切っては切り離せない、その『遺産』についての話です。
 ですが──そこについては作戦メンバーで話した方が良いかもしれません。
 今回の取り急ぎの報告はある意味背景的な面を解消するためのものであって、作戦行動に関係する内容について共有が漏れる訳にもいきません。
        フ ラ ン ス
 話す内容も『遺産研究の本場』での研究結果と言えば通る範疇です」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「時間的な問題もあります。そろそろ外の皆も不審がる頃でしょうから。
 ですので──改めて、作戦メンバー加入に際して自己紹介で、この場は締めくくらせていただきましょう」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「私はミリア・ポートマン。
      ジューダス・マカービアス
 コードは『悪党共に鉄槌を!』。
 イスカリオテ   ユダマカバイ
 裏切り者と、 救 世 主 の名をかけた、この作戦でのコードです。ちょっと大げさですが、名前負けしない働きはしてみせますよ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「シンドロームはノイマンの純正種。
 神経ネットワークを構築することで高度な演算能力を行使することが出来ます。
 潜入と戦闘の手並みについては、既に全員に見ていただきましたから、此処は割愛しましょう」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
       ア ン サ ー シ ー カ ー
「固有能力は『秘匿を暴く者』……早い話が未来視です。
 ・・・・・・・・・・・
 私が本来知り得ない情報を、私の意識外からかき集めて言語化する。言ってしまえば、ノイマンなら誰でもやってることを押し広げてやっているだけなんですけどね。
 これによって本来習得しえない技能についても、それが人に可能な技術ならコピーできるということです」

 髪を少しかき上げて、目をよく見せる。瞳の奥がニューロンの紋様を描くそれは、高度な演算を行う際の予兆なのだろう。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「勿論、シャンバラに潜入した折の情報についてもご入用なら仰ってください。報告に挙げていますが、読むより私に訊いた方が早いでしょうから
 『パラダイスロスト』チームを幅広くサポートさせていただきますので、よろしくおねがいします」
 

灰院鐘 :
「わあ、かっこいいね」

 掻きあげられた前髪の向こうの瞳を覗き込み、素直に感嘆をこぼす。屈託のない笑顔には、堂々と「細かいことはよく分からなかったけど」と記してある。

灰院鐘 :
「また一人、頼もしい味方が増えて嬉しいよ」

 広げかけた腕と踏みだしかけた足を戻す。

ダン・レイリー :其方がよければ後で付き合ってやってくれ、と視線だけで促しつつ。

ダン・レイリー :
「ノイマン・シンドローム………
 それを乗りこなす手並みを拝見するにはお互いスリリングだったがね。その分、難題を任されるだけのものは見せて貰ったつもりだ」

 それに後々、この場では気遣わせた“知ってはいけないこと”について詰める必要もある。
 本当の意味で、そちらについてはよろしく頼むことになるだろう。

「ダン・レイリーだ。改めて、よろしく。
 此方も期待には応えるつもりだ」

アトラ :
「どもども!ウチは~……ってまあこっちのことは大体分かってるのか。
 まーでも一応……“T³”のアトラです!なんかその節はウチの姉貴分とかとバチバチしてたみたいで申し訳ねっす!」

 まあなるようになった結果なんだろうから特に申し訳ないとも思ってないが。

灰院鐘 :あ!

灰院鐘 :「僕は灰院鐘だ。よろしくね」

灰院鐘 :こっちは勇魚くんです!と前に連れてくる

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「"炎神の士師"です。
 コードトーカーを演じきったあなたが支援して頂けるなら心強い。私からもよろしくお願いします」

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
「まー別に済んだ話だから気にしないでね。
 あ、一応あたしレイラね、レイラ・イスマーイール。本名隠してた訳じゃないから伝わってると思うけどさ」

 しれっと全く悪びれる様子はない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
    ・・・・・・
「はい。そちらの一件についても、そう遠くないうちに協力して頂くことになるでしょう。
 よろしくおねがいします、レイリー大尉」
 
 目配せの意図に気付き、そちらについては曖昧に笑って返す。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……まあ結果良ければ…とはいうけど普通先に水に流すのは被害者の方なんですケド。ほぼ全方位から睨まれて大分メンタル削られたんですケド。
 別に良いけど!」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「こほん。それで……レイラの義妹よね、よろしく!
 それにしても"ラクシャーサ"にこんな可愛い妹分がいたなんてね。よろしくお願いするわ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ええ、あなたのことも知ってるわ。リリアさん直属のチルドレンは、こちらの界隈では有名だもの。
 それに、あなたも。よろしく、ショウ。まあ、ハグはその、また心の準備が出来てからお願いするわね」

灰院鐘 :「うん! 準備ができたらいつでも声をかけてほしい!」

ナタリー・ガルシア :「では、次は私ですわね――ナタリー、ナタリー・ガルシアですわ」

続き、前に出る。
差し出した右手と、浮かべた微笑みは僅かにぎこちない――最悪の結末にならなくてよかったという安堵と、ほんの少しの後ろめたさ。

ナタリー・ガルシア :切り替えるように、言う。

「貴方の凄さは、ここにいる皆が知っていることですが、改めて――貴女のような人が味方になってくれるなんて、とても心強いですわ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ええ、よろしく。
 本当、あなたが無事でよかった。ああ、任務だけの話じゃなくて……一応お父様とは知らない仲じゃないもの。
 それに今回、あなたが気に病むことないわ。私はこうして生きてるし、あなたが立派にエージェントやってることも分かったから」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「でも、余計な節介かもしれないけれど。
 たまには電話ででもいい、お父様を安心させてあげるといいわ」
 

ナタリー・ガルシア :「お父様の知り合いでしたの?」

自慢の父は仕事上の付き合いで海の向こうの人々との関わり合いもある。そのうちの一人、ということだろうか、と、ナタリーは一人納得する。

「はい――一段落つけば、顔を見せに行きたいと思います。次の作戦の後か前か、時間が少し出来たときにでも」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『私からもよろしくお願いします。が……
 帰投した折には、まず休息を取ることです。主治医の"ビビットファンシー"もアメリカに来ています、報告が終わり次第そちらで検査を行うように』

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『今回の通信は以上とします。
 "ジューダス・マカービアス"は遺物調査の協力者としてミラージュバイトより派遣されたエージェントとして受け入れます。
 然程に変化はないですが、以後はそのように扱ってください』

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……! 了解です。
 以上……通信終了」

 プロジェクターを切り、ホログラムのリリアの姿が立ち消える。
 てきぱきと用意を片付けるミリアの横顔は、何処か嬉しそうに見える。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「では皆さん、帰りましょうか。
 テンペストの方々も、支部の方々も、あんまり蚊帳の外に置いて待たせすぎてもいけない」

ダン・レイリー :「そうだな。連中も置いてけぼりにし過ぎては後で根に持ちそうだし、きみの紹介も要る」

ダン・レイリー :首肯し、合図してから歩き出す。…彼女に関して、少尉のあしらい方を心配する必要もないだろう。

灰院鐘 :
「ナタリーくん、ちょっといい?」

 管理室を後にする面々を見送って、青年は目に留まった背中へ声をかけた。ちょっとした雑談でも持ちかけるような気軽さで、鷹揚に。

ナタリー・ガルシア :「……?どうかいたしましたか?」

部屋を出ようとする足が、呼び声に止められる。
気軽な調子に、こてんと首を傾げる。

灰院鐘 :「うん。あのね」

灰院鐘 :
 青年は、ナタリーの心を……彼女の抱える苦悩や矛盾を解きほぐす言葉を持たなかった。

 なぜ、そうなのか。
 なぜ、そうでなくてはいけないのか。
 なぜ、なんで、どうして──

 問えばまた追い詰めてしまう。だから、

灰院鐘 :
 膝をついて、真正面から抱きしめた。肩に顎が載るほど深く、しかし苦しくないよう加減に気をつけて。

灰院鐘 :
「よく頑張ったね」

 頑なさを案じる思いも、日毎に磨り減っていく気配に痛む心も変わらない。

 それでも/だからこそ。
 ナタリー・ガルシアの懸命を……健闘を、ただ認める。
 万が一を恐れて、強張った心を引き金から外せなかった少女を……何もできなかったと自らを評した、彼女のぶんまで。

ナタリー・ガルシア :「――――」

息が止まる、何もかもを見抜かれているのではないか――そんな思考は、しかしこれまでの鐘の言動と行動が打ち消した。

本当に、ただ、ナタリー自身のことを想ってのことなのだという納得。それを得た瞬間、ナタリーはゆっくりと、意識して息を吐き出した。

ナタリー・ガルシア :「私のことをあまり甘やかさないで欲しいですわ、怠惰に耽ってしまいますから」

その言葉とは裏腹に、体からは力が抜ける。
だから、その言葉は建前で、本心は決して漏らさない。

漏らさないかわりに、ほんの一時、その大きな体に手を回す。
しがみつくように――あるいは縋るように。

「それに、頑張っているのは皆おなじですわ。私だけ特別に褒めてもらうのは、子供扱いされているみたいで少し腹立たしいですわね」

ナタリー・ガルシア :ほんの少し、力を込める。
名残惜しさを振り払い、己一人で立つために。

「ですが、ええ、その言葉に嫌味はありませんもの――受け取らなければ私が悪者になってしまいますわ」

もう大丈夫、と、告げるかわりに、ぽんぽんと鐘の背中を叩く。

ナタリー・ガルシア :
「ありがとうございます――貴方こそ、頑張りすぎて無理はしないでくださいね?」

灰院鐘 :
 抱擁が返ってくる。背中に回りきらない手と、胸にすっぽりと収まった身体。
 懸命に立ち続ける痩身は、強さが宿っている。彼女を支える強さは、翻せば弱さでもあった。

 それを言葉にするすべを、青年は持たない。そうと理解しているのかも、余人には定かではなかった。あるいは本人にすら。

灰院鐘 :
「うん、みんな同じだ。だから、こうしてる」

 君も頑張っているのだと、届けるために。

灰院鐘 :
 かるく背を叩くのに応じて、そっと身を離す。青年が立ち上がれば、ナタリーとの距離は自然と遠ざかる。それは隔たりにも似た視座の差だ。

灰院鐘 :「もちろん! "いつでもばんぜん"にしておきたいからね」

灰院鐘 :
「行こう」

 ……青年の相棒は、彼を我儘と評する。現に今も、言いたいことを言って満足したかと思えば、今度は手を差し伸べた。

 応じてもらえることを疑わない自然なしぐさで。

ナタリー・ガルシア :「本当に分かっていますか?まったくもう……ええ、行きましょう」

こちらの案じる言葉がきちんと伝わっているのか疑わしいとでも言うように、ナタリーは半眼を向ける。
だが、それも数瞬のこと、諦めたようにため息を付いて差し出された手を握る。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 イベントシーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

灰院鐘 :今回もないよ。大丈夫だ

ナタリー・ガルシア :私も追加取得はありませんわ

ダン・レイリー :こちらもロイスの更新はまだない。

ブルー・ディキンソン :無いかな。

アトラ :同じく!

GM :オーケイ!

SYSTEM :
【Information更新!】

 隠しNPCカードが解放されました

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
『ミリア・ポートマン』
 『インスピレーション』……いずれかを選択して効果を適用する『任意の通常判定を成功させる』『任意の指定した情報を取得する』(シナリオ2)
 『常勝の天才』……同一セクタ内ユニットの攻撃力を+20する(ラウンド1)
 『チェイストリガー』……同一セクタ内ユニットの行動値を+10する(ラウンド1)
 『オペレーションX』……同一セクタ内の判定直後に固定値を+10加算する(シナリオ1)

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
エリア内の全ユニットの判定が終了しました。
メインプロセスを終了します

SYSTEM :
-CLEANUP PROCESS-

SYSTEM :
各エリアのエネミーの行動を開始します。

GM :本来ならここでダイスバトルが始まる訳ですが

GM :デトロイト、ロスが攻略済み
そしてニューオーリンズにはずっとスタンバってたあの人がいる!

ダン・レイリー :ニューオーリンズは貴女に掛かっている 幸運を祈るぞ(敬礼)

紅 蘭芳 :知って欲しい……何故かUGNなのにあの場で蚊帳の外に置かれていた人間もいるってこと……!

ブルー・ディキンソン :(どんどん残念要素が積み上がってってるなこの人……)

灰院鐘 :げんきだして! えっと

灰院鐘 :えっと……

灰院鐘 :そっちは任せました! がんばって!

アトラ :いっぱい頼りにしてますんで!(フォロー)

紅 蘭芳 :勿論!せめて任された仕事はきちんとやり遂げないと!

ナタリー・ガルシア :師匠の勇姿!楽しみですわ!

紅 蘭芳 :この紅の獅子奮迅ぶりを御照覧あれ!
これもワンカットで終わっちゃうんだけど!

紅 蘭芳 :
メジャーアクション:【獅子奮迅】
対象:ニューオリンズ強化猟兵部隊、OTH-24NS "カリギュラ"

効果:防衛判定を成功させる

SYSTEM :
判定に成功しました。
AREA:NEW ORLEANSの防衛に成功しました。

ディアス・マクレーン :くっ……!専用カットイン……!

ディアス・マクレーン :俺も欲しかった…………!!

紅 蘭芳 :ふふふ ざっとこんなもんです!

紅 蘭芳 :(結構危ないところあったけど、見られてないのでヨシ!)

ダン・レイリー :少尉はタイミングを逃がしたが功績は同じだからな ともかくお疲れ様だ よくやってくれたよ

紅 蘭芳 :当然のことをしたまでです!

system :[ 紅 蘭芳 ] 獅子奮迅 : 1 → 0

GM :そしてこれでニューオーリンズの判定も終了!

GM :これでこのラウンドの防衛判定は終了となります じつにすむーじー

SYSTEM :
エリア内の全ユニットの防衛判定が終了しました。
クリンナッププロセスを終了します。

SYSTEM :
【CAUTION!】

 イベントフラグを経過しました。
 イベントシーンを開始します。
 指定PC:ブルー、任意

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……




【MIDDLE ⑪ - Apocrypha】

SYSTEM :【MIDDLE ⑪ - Apocrypha】

登場PC: ALL
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 レネゲイズワームの解除と。    sense
 その奥に眠っていたもう一人の援軍の意 志を一同は取り戻した。
 デトロイトの奪還に次いで、ロサンゼルスの攻略と、作戦は順調に進行していた。

 多くの意志による、綱渡りのような作戦は、しかし今その成果が結実しようとしている。

SYSTEM :
 ワームによる米国経済の破綻と大混乱を避けることは出来、余裕は生まれはしたが……
 新たに浮かび上がるマスターテリオンの『新時代』の計画は、何としても阻止せねばならない。
 対策を講じたとて、その最後の詰めを担うのは『パラダイスロスト』チームであることに変わりはないのだ。

 そしてその為の問題も、それに纏わる背景も、その攻略手段さえ現状は明らかとなっていない。それを考えれば決して安心できる状態とは言えなかった。

SYSTEM :
 或いは、それに関する回答をも掴んできたのか。
 "コードトーカー"として潜伏したミリア・ポートマンの帰還と、それによりもたらされる情報は、作戦は新たなステージに移行させようとしていた。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「というわけで……」

 少女はUGN本部のミーティングルームに集まった面子を見渡して、話を切り出した。

「UGNヨーロッパ支部より危険遺物調査の為に派遣されました、ミリア・ポートマンです。
 どうぞよろしくお願いします」

 本部に帰還し、作戦用のボディスーツから着慣れた正装に着替えたミリアは、テンペスト含め集まった面々にそう名乗る。
 少し前まで潜入任務に当たっていたことだったことなどはおくびにも出さない。

ダン・レイリー :
「ああ。こちらは第三海兵遠征軍所属、テンペストの“ホワイト・スカイ”だ。
 そこの二人も所属を同じくする」

ダン・レイリー :
「というわけだ、少尉、ミナセ。
 “コードトーカー”の件が終わって一区切りというところでだが、以後は彼女もチーム入りするとのことだ」

     よろしく
 改めての自己紹介。
 再三になるそいつに、今度はこの立場で『よろしく』と返すついでに、名乗りへの返答(あるいは異論への返答)を促す。

ディアス・マクレーン :
「…………」

水無瀬 進 :
「何か言いたいことがあるようだけど、ストップだ。言わせないよ」

ディアス・マクレーン :
「まだ何も言ってねえだろうが!!!!」

ダン・レイリー :「流石だぞ 少尉の止め方をバッチリ分かっている」

ダン・レイリー :「………とはいえ言うことは今のうちにな」 流石にそれだけではないだろう

ブルー・ディキンソン :
、   、  、    クリティカル
「(実際に言ったら鳩尾に的確な一発もらいそうだな……)」

ディアス・マクレーン :
「だから俺は年上派とだな……! ごほん失言を。
 ああ、よろしく頼むぜ。
 レガシーだとかファンタジーの話になると俺らはズブの素人だしな、頼りにしてる」

灰院鐘 :年上派?

ダン・レイリー :気にしてやるな いつか分かるが今でなくていい言葉だよ

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
聞かなかったことにしてあげます。
営業スマイル。

灰院鐘 :よくわからないけど元気スマイル!

アトラ :ディアスさんの年上って実際そこまで出会えるもんなんかな~ 言わないけど……

ナタリー・ガルシア :精神的な歳上ということかもしれませんわ

水無瀬 進 :
「こちらからもよろしく。
 僕の専門は電子工学だ。機材のサポートをさせてもらうよ。
 ……とはいえ」

水無瀬 進 :
「頑丈に作りはしたんだけど、大規模な戦闘だと支援用のドローンがどうにも毎回活動限界まで酷使しちゃうようでね。
 今、次の投入までにMk3を作成中だ。そこで名誉挽回させて欲しいね」

灰院鐘 :(動かなくなったMk2をそっと抱きしめている)

灰院鐘 :ぎゅっ……

アトラ :
「いやあ~最後まで付き合ってもらっちゃったんすけど守り切れず……」

 ドローンの友だち面。

ダン・レイリー :「気にするな 二度ともよく支援の任務を全うしてくれた」

ブルー・ディキンソン :「ロボットの棺っていくらかかんだろネー」

ダン・レイリー :ショウ Mk-2が気に入ったのだろうか…

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい、期待しています。
 こちらも技術面で手伝えることがあればサポートしますよ、私天才ですので」

 自分が壊したことは全く触れもしない。しれっとしている!

アトラ :天才~。拍手拍手。

ブルー・ディキンソン :ワースゴーイ。拍手拍手。

灰院鐘 :ぱちぱち

ナタリー・ガルシア :ぱちぱちぱち

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 その真顔やめなさいったら。

 などと言いたげな視線を一瞬ブルーに送り。

「今回私が派遣されたのは、他でもない今回の遺産に纏わる事件で調査を依頼されていた件につき、ある程度の調べがついたことと。
 それを踏まえてこちらの作戦に遺物処理の一環として参加する運びとなったからです」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そこで今回はその結果に関する報告と、その内容を踏まえてのブリーフィングの為に時間を設けさせていただきました。
 丁度、帰投のタイミングと噛み合ったようで助かりました」

紅 蘭芳 :
「はえー……ミラージュバイトって話には聞いていたけど実在するんだ。
 改めて思うけど、すごい規模の作戦」

 てきぱきと話す自分より年下の少女に、感心するように口を開けて

ダン・レイリー :
「そうだな。連中のネットワークが広いのか、それだけ大きな部署からの派遣が必要になるということだろう。
 ………その処理対象の遺産というのも、シャンバラのもので相違なさそうだ。報告を恃む」

紅 蘭芳 :
「はい、おねがいします!」

 自分よりしっかり者の後輩が増えるにつれて余計立場がなくなりそうな思いを、しかし紅は黙殺する。
 戦闘時のリソース管理に特化したノイマンの紅は、彼女程柔軟なノイマンの運用が出来ない。ばかりかマイナス思考に陥る前に、思考を手ずから封鎖した。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
(なんか思ったより癖のある面子ね……)

ブルー・ディキンソン :オメーモナー…… …… …… …… ……

灰院鐘 :良い人ばかりだ たのしいね!

アトラ :ね~。

ナタリー・ガルシア :楽しいかはともかくとして、心強いですわね

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……では、既に報告書類は送付済みですが。
 今回のミーティングにはリリア遺物探索局長、兼本部局長代理も参加してもらいます」

灰院鐘 :わ~っ 再度拍手

ナタリー・ガルシア :…………

アトラ :ぱちぱち~

ダン・レイリー :つくづく彼女も多忙だな…この案件に関わる人間は概ねそうだろうが。

ダン・レイリー :頷いておく。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 ミリアが端末を操作し、モニター上にリリアの姿が映る。現在は恐らく欧州各支部への折衝の最中なのだろう
『……はい。
 話は伺っていますが、権限の問題で話が滞るのは望むところではありません。
 加えて、遺物に関係する事柄であれば、こちらから助言することも可能でしょう』

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
『ことにかの遺産について、我々としても気になる点は多い。
 是非、聞かせてください』

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 コピー
「了解。
 ──それでは本題に入りましょう。
 "コードトーカー"の戦闘に際して得られた情報は一先ず置いて、先ずはこちらの報告から展開します」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「報告内容はシャンバラの研究目的となる遺物『SODOM』及びに、その関連技術……
 そしてその経緯となる死海文書外典、「アポクリファ・クリフォト」に関連する事項について」

灰院鐘 :「……アポクリファ・クリフォト──」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「先ず確認として、遺産ソドムの正体。それが『当時の人間によって作成されたオーバーテクノロジーにより構成された人工都市』であること。
 シャンバラの目的は、その解禁による圧倒的技術力をわが物とすること。

 そこまでは、既にブルーの調査で判明している扱いでいいのよね」

ブルー・ディキンソン :
「ええ、そうなります。
 外部媒体に私が閲覧してきたデータは収めてありますので、いつでも確認できるかと」

 手のひらを返して返事をする。
 対外的な敬語は「ワタシコノ人ト関係アリマセン」の意思表示だ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 そっちから漏れることないんだから、別に良いのに……と少し不満げな顔も束の間。
 調子を戻して続ける。別段、そこで不便が発生するでもない。

「そもそも彼らがどのようにしてその遺産を獲得するに至ったか。
 ──それは今から約60年前、当時のナチスドイツが発見した遺物と関係しています」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 此方は既にブルーとは共有した内容だが。確認を取りながら話を進める必要もないだろう。

「歴史上では1947年。ヨルダンの塩湖北西部の沿岸にて、洞窟の中にある複数の書物を発見したと言います。
 発見されたものは『死海文書』……20世紀最大の考古学的発見と称される、旧約聖書の写本です」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「後のUGNでは、これらの文書は微弱ながらEXレネゲイドを宿すもの……つまり遺産であるということが明らかとなっています。
 現在考古学の研究が進んでいるのは、EXレネゲイドとしての効力は非常に薄く、封印措置によって感染リスクがほぼないと確認されたためです。
 ……余談ですが、こうした危険度や感染リスクが極めて低いとされたものについては、一部一般に流される事もあります。純粋に一定の場所に管理しきれないため、世を渡ることもありますが」

ダン・レイリー :
「しかし危険度の低いものまで管理するリソースも手間もないから、管理と処理を行う優先度というやつがある………。

 その『アポクリファ・クリフォト』とやらは、どうにも例外のようだが」

ダン・レイリー :
「………鉤十字の末裔、ヒットラーの尻尾。
 既にヨーゼフ・メンゲレは尋問中のようだが、ヤツが持ち込んだものか?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「加えて言うなら、一般企業に解析させた場合の方が速やかに運ぶ場合もある。
 そして……これ自体は今もなおイスラエル博物館に管理され、展示していることが明らかとなっています。

 これ自体は問題ではありません。飽く迄、それ自体は」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 言いつつ彼女は、懐から一枚の黒いカードを取り出し翳して見せた。
 見る限り、IDカードの類のようだ。

「これは日本の神城財閥にて研究が進んでいるもの。知人から借り受けたものですが……」
 
 言いつつ、ミリアは小規模にワーディングを発生させる。すると、そのレネゲイドに反応し、IDカードは薄く金色に輝き始めた。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「このように。
 特定の材質を用いることで、レネゲイドの波長に反応して発光する……そういう素材が存在します。これは現在の技術でも再現可能なものですが。
 この技術を利用して、本来のヘブライ語聖書の内容の他に、別の記載が存在することが判明しています。つまり……
       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 死海文書にはレネゲイドに反応して浮かび上がる透かしが刻まれていたんです」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「現在イスラエルで保管されている死海文書の原本には、この透かしが刻まれています。
 その内容は……その写本が記載される以前、現在より2000年前に記載された『目録』」

ダン・レイリー :「………目録………」

ダン・レイリー :改めて聞けば大した話だ。我々がオーパーツだと囃していたレネゲイドとオーヴァードは、その頃を生きる人間にとって既に理解があったものだ、と暗に言っているようなものになる………

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その目録の内容とは、旧約聖書の写本を作る名目で、ひそかに伝えられたものの存在を示唆していた。
 歴史の闇にうずもれたイスラエルの古い歴史を細々と刻んだもの。
 カノン    アポクリファ
 正典ならざる外典。

 故に彼らからはそれらを仮に……『アポクリファ・クリフォト』と呼ばれています」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「オーヴァードの基礎的な能力には『マーキング』と呼ばれる技能がある。ソドムを築いた者がいたなら、何らかの手段でそれを残していたのかも。
 つまりこれは、そのマーキングによって、文書の中に密やかに刻まれたことで形となった遺産──。

 であるなら……それ自体は特殊な力を持たない。ただ存在を伝えるための遺物」

灰院鐘 :
「……あくまで埋もれた歴史を記したものというわけだね。とはいえ──」

 ……人工都市の中核。遥かの昔に刻まれた、オーヴァードにのみ紐解ける目録。
 特別だが無力である、という話では済まないだろう。

ダン・レイリー :
「ああ。その伝えられる存在に問題があったんだろう。
 遥か昔からオーヴァードの存在に通じていたと思わしい連中がそこに居たという存在の証、それに封じられた超技術………」

ダン・レイリー :「力は使い方次第なんて謳い文句はずいぶん聞いたがね」

ブルー・ディキンソン :「嫌なマッチング」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その通り。
 死海文書に秘かに刻まれた外典……それこそが、ソドムの遺した遺産、その中核に位置するもの。
 死海文書は公には終戦後に発見されたものですが、現在紛失している一部の文書は恐らくナチスが発見し、所有していた」
 

灰院鐘 :「……していた、か」

アトラ :「むむ……」

ブルー・ディキンソン :「……シャンバラの前身を考えれば、か」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ナチスドイツが敗戦後、その所在は行方不明となっていました。ですが……
 死海文書は言うなればユダヤ人の古き時代の信仰を秘めたもの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「イスラエルの人間、特に信仰深い人間からすれば、それが悪逆非道のアーリア人の手に在り続けることは看過し難い。力づくで奪うことも叶わなかった。
 となると彼らは、たとえ多大な資本を切ってでもそれを「買収」するほかなかった」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……ユダヤの資本家は世界の経済を支配している。という話は、陰謀論者の間では有名です。
 ただその是非は兎も角して、彼らの資本は世界経済にまで影響しうる──
 ナチスは敗戦に追い込まれた傍らで、世界を買う商品を握っていたんです」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ユダヤ人たちにとって、その原本の存在こそが重要で。
 ナチスにとっては、その原本に記されたものこそが重要だった。
 その結果として、ナチスドイツは多大な財力と、世界経済を通じた国際関係への干渉能力を。
 ユダヤ人は、信仰の寄る辺を手に入れた」

ダン・レイリー :「望みが噛み合ってしまったわけか」

ダン・レイリー :「………。そしてヒットラーの尻尾でしかない連中は、その財力を以てかろうじて息の根を繋いだ、と?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。
 ですが、当然彼らは財力だけを確保した訳ではありません」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「──事実上イスラエル、及びにその資本家の多くの動向をコントロール出来るということは。
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 彼らの存在に、政治的に強く依存する国のコントロールをも可能にする、ということでもある」

ディアス・マクレーン :
「お、おいおいおい……!
 待ってくれ流石にそれは……!」

 その言葉にたまらず、頭を抱えた様子でディアスは割って入る。

水無瀬 進 :
「同感だよ。それ、ロスチャイルドの陰謀論じみた理屈じゃないか」

 解釈するのに時間を要するディアスに対して、水無瀬は眼を鋭くして静かに問い返すのみだった。

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :
「少尉。結論を急ぐな。
 言いたいことは分かるが、話は最後まで聞いてやれ」

ダン・レイリー :
「とはいえ………聞いてからもその是非を判断はするが。根拠ナシに揺すったとは言うんじゃないぞ」

 ………愛する国がテロリストにコントロールされていました、という言葉に対する尤もな反応をなるべく宥め、その上で軽い気持ちで口にしていないだろうな、と言葉を択ぶ。
 テンペストの“ホワイト・スカイ”が取る尤もな対応だ。

ディアス・マクレーン :
「だ、だが……」

 食い下がろうとするのを引っ込めたのは、ダンの訴追する態度を見て一先ず落ち着こうとしたからだろう

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ・・・・・
「当時の政府が、それに関係して動いた可能性があると説明しているにすぎません。
 その根拠も同様に」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「──特に当時の合衆国も、また。
 件の死海文書、その紛失した一部を欲していましたから。
 そして、その動機についても……宗教的理由と実働的理由の双方からくるもの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「第一次世界大戦後から第二次世界大戦終戦に至るまでの、1930年代から1945年。
                     ウィアードエイジ
 この時代を遺物探索局の年代区分において『奇妙な時代』と呼ばれています」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「探索局の知る限りではそれ以前の1800年代、西部開拓時代の中頃から。
 レネゲイドの干渉、と思われる事象自体は、実は観測されていた」

ダン・レイリー :「………レネゲイド解放はコードウェル博士がかかわったという20年前とだけ聞いていたが、先の話も込みで、実態は別だったということか」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ことにこのウィアードエイジの期間においては、情報の電子化が始まった時代です。
 故に当時、「ウイルス」という概念が存在せず、能力の正体に関して何一つとして明らかになっていなかったにせよ──
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 そうした超人が存在する記録は秘密裏に残っていた」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……その研究の最先端を行っていたのが当時のナチスでしたが。
 あの世界史上もっとも混迷を極めた闘争の時代。大国がその実態について研究しないで置いておく……などということがあり得ますか?」

ダン・レイリー :
「………。………アメリカが世界最強の軍隊を持っている理由は。
 ・・・・・
 敵から学ぶからだ」

ダン・レイリー :
「ましてやそいつを、当時悪名高きハーケンクロイツが持ち合わせていましたと言われて目を瞑るほど楽観視して、国はやっていけないだろう」

「………当時の事実を照らし合わせて。
 その可能性はあるのだと、言いたいわけだな」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。
 事実としてナチスドイツはその後、東西ドイツに分割して統治され、その後は東西冷戦として新たな戦争体型を作った。
 ・・・・・・・・
 武力が必要な時代。代理戦争という形ではありますが、その間激しい軍拡争いがあったことは知っている筈」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その折に、戦勝国がナチスから奪ったものは、決して賠償金や国土だけではなかった」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……ベルリン侵攻によってアーネンエルベに貯蔵された技術の多くはソ連に渡りました。
 実際にどれだけの技術が流れ込んだかは定かではありません。ですが、アメリカはナチスという財宝の争奪戦に出遅れたと、そう認識する」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そんな折に、そんな棚から牡丹餅が巡って来たならば……
 完全とはいかずとも、ある程度の制御は可能になるとは思いませんか?
      ・・・・・・・・・
 例えば──見て見ぬふりをする程度には。
 それらの話が与太に過ぎないと、国民に信じさせる情報工作を行う程度には」

ブルー・ディキンソン :
「(……だからアメリカはSS将校を迎え入れてソ連に探りを入れていた……っていう、妄想をするには十分すぎるお話だな。
  問題は……これだけの裏付けがあったとしても、それを簡単に信じて……「はい、そうですか」と言えるだけの器量と度胸があるかどうかかな)」

ダン・レイリー :
 戦争はやがて変わって行った。
 現代であるならば、そのリスクを冒してまで踏み込むことはないだろう。

 しかし………。

ダン・レイリー :
「その時代には敵がいた。
 銃を向け合う以外の選択肢がないのかも分からないが故の敵だ」

 ソ連という競争相手がいた。
 己を脅かすだろうと思われた存在がいて、そいつだけに銃器が渡った。
 
 実際がどうであれ、国はそこに住むものの権利のために動かなくてはならない。ならば、暢気に構えている理由はなく、時間も伝手も余裕はない。そんな中で、もしも望外の幸運というのがやってきたら………。

ダン・レイリー :
「………“全ての不可能を除外して最後に残ったものが如何に奇妙なことであってもそれが真実となる”」

ダン・レイリー :
「僕は新兵の頃、オーヴァードとしか思えない、海向こうのずいぶん経験豊富な爺さんと出会ったことがあってな。
 今の話のうち、“奇妙な時代”とやらにオーヴァードが既にいたことは事実だ」

ダン・レイリー :
 僕の言葉で誘導するわけにはいかないが、さりとて、今の話を“陰謀論”で片付けることは、まだ出来る。その奇妙な時代の証拠がないからだ。

「………遺憾ながら、そう口にするより他にないな」
 
 となれば、こうなる。
 結論の補強だけはしても、その認識は僕の手ではやらない。

 あくまでも当時だ、と付け加える必要があるとしても、その後だ。

水無瀬 進 :
「…………参ったね、うちのお国柄、陰謀論という奴は流行りがちだ。
 少しネットを徘徊すれば、地球が平らだと言って憚らない奴らはごまんと出てくる」

水無瀬 進 :
「けど、その与太話の一部となっている僕が、頭ごなしに否定できない。これもまた事実だ。
 現に僕は今、『一般の人間の記憶を処理してなかったことにする』現代陰謀論の最先端の組織を、目の前にしてる訳だし?」

 肩をすくめて

ディアス・マクレーン :
「…………ああ、判らん。
 判らんし、信用できるかも曖昧だ。けど考えて見りゃ……俺が信頼するかしないか、そんなのは大した問題じゃない」

ディアス・マクレーン :
「決めるのはあんただ。
 そして俺は百の言葉よりあんたの判断を信じる。
 何、それだけの話じゃねえか」

 ダンを見据える。サングラスで覆われた奥からは真摯な眼差しが伺えた。

ダン・レイリー :
「ああそうだな。言い逃れの余地がないような、確証足り得るものはない。
 しかし、全くのデマだと切って捨てられるものではない………」

ダン・レイリー :
「そこのところ、おまえの言うとおりだ。ミナセ」

ダン・レイリー :

 叩きかけた軽口を、形になる前から奥底にしまう。
 ディアスの視線に乗るものが、己の行動の結果に対する信頼であることを。
 
 そしてアメリカに馴染んだ証でもあるジョークめいたジェスチャーに留め肯定も否定もしないミナセの態度が、恐らくは暗に類似する回答を見出したのだろうということを、確認するまでもなく分かっていた。 

ダン・レイリー :
 ミナセ・シンはそういう男だった。
 なまじ血の気が多い軍人の中においても、技術畑の自分の立ち位置を理解しているから、
 なるべくフラットにモノを見るという務めを自分に課しているような男だった。

ダン・レイリー :
 ディアス・マクレーンはそういう男だった。
 オーヴァードが履いている二足の草鞋の片方が、兵器や道具ではなく、人間であるということを知らしめようとする男だった。

ダン・レイリー :
 あるいは、そのような男どもがテンペストに戦友として在ることが。
 俺にとっては理由の一つでもあった。

 ───あるいは自らの対応を以て、何かを察した可能性もなくはない、が。
 それは、それだ。今出す回答は決まり切っている。

ダン・レイリー :
「………俺達は合衆国の軍人だ。ここに喧嘩を売ったテロ屋から守るべきを守り、撃つべきを撃つためにやってきた。
 その任を遂行するために、成せる限りのことをする。これまでも、これからも」

ダン・レイリー :
「その最中に背中を疑ってしまえば、チームとして立ち行かん。

 もし疑いを持つとしても、偉大な父の過去に差した魔と遺したツケだ。ここが落としどころだろう」

ダン・レイリー :
「そいつが事実だったとしたら、現代に溜まったツケを払うために。そうでないならば、その濡れ衣を完膚なきまでに払拭するために………。

 どちらだろうと、自分が久々に祖国に戻り、そして銃を執る理由を忘れなければいい」

ダン・レイリー :
 もし当時から現在の少し前まで、なんて身も蓋もない言われ方をされていても同じだ。

 翻って、するべき解答とは“生まれ育った国の汚点を認めろ”でもなく“目を逸らせ”でもないのだ。それではどちらだろうとしこりが残る。

 どちらだろうと受け入れるつもりでいてやれ、と。そして前者でも、当時は当時でいまは違うという気兼ねでやってやれ、と。それが結論であった。

ディアス・マクレーン :
「だな。……それにまあ、この御国がそうお綺麗なもんじゃねえ、なんてのは先刻承知よ。
 イラクだって結局、大量破壊兵器なんてもんは見つからなかった。
 ベトナムの話を聞かされて、そいつがこっちの正しさとどう関わりがあるのか子供心に疑問に感じてたもんさ」

ディアス・マクレーン :
「まあ、なんだ。
 『これから手前のやることは別に正しくも無けりゃ、認められることもねぇ』と面と向かって知ることになるかもしれんのは、怖いけどよ。
 ・・・・・
 そういうのもひっくるめて、軍人って奴の仕事なんだろ。理不尽に慣れてねえと、こんなのやってられねえ」

水無瀬 進 :
「まあ、僕の生まれた地は合衆国じゃないし、帰化した訳でもない。ディアス程、重く受け止めてる訳じゃない。
 そもそも此処にいるのだって、おいたが過ぎた結果なんだ。寧ろ、向こうから引き出しを開けてくれたと思ってるぐらいさ」

水無瀬 進 :
「齢30近くになって、若い時分にアノニマスの連中とつるんで捜してたフィラデルフィア・エクスペリメントの闇の続きが見れるなんて。
 これを逃したら、一生若い時期の決着はつけられない」

ダン・レイリー :
「確かに若い頃のやらかしは美談か苦い記憶の二択だが、やりかけは後悔になるだろうな」

 多少杞憂もあったかもしれんな、と苦笑い。だがまあ、そんなものだ。

ダン・レイリー :
「そうだろうさ。軍人の世知辛いトコだが、どんと構えてやるとしよう。普段ケツを持ってもらっている偉大な父のやらかし疑惑に悪態でも付きながらな」

ダン・レイリー :杞憂なら杞憂でいいさ、とは改めては言わない。そういうところも含めて僕の杞憂ならば、人を見る眼は鈍っていなかったようだ。

灰院鐘 :
「やっぱり僕は……ダンさんたちが好きだ」

 そうであることが自然のような、気負わない口振り。穏やかさの奥に頑なさを秘めた声は、テンペストの面々ではなく勇魚に向けられていた。

灰院鐘 :
 灰色の瞳が、少女の双眸を覗き込む。

「かまわない?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「────」

 腕を組む。熟考するような態度。
 勇魚は極めて高度な熱感知知覚を、ほぼ常時展開している。その彼女が、少なくとも二人の意志に裏はない……現状はない、と判断することは出来ていた。
 問題は……

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「こちらの動きを知った政府が、どうリアクションを取るか。
 出来るなら、大尉の話が済んだ後が望ましい所でしたが」

 飽く迄真に意識を向けているのは……その『上』だ。
 勇魚は早い段階で、このテンペスト自体に陥穽はないと考えていた。
 『上』の意志次第で、こちらの動向に掣肘が加えられる可能性は、まだ完全に消えたわけではない。ある程度、その配慮をミリアや大尉が行ったうえで、この話を広げている部分もある。

灰院鐘 :「それはそうだ。ごめんね」

灰院鐘 :「でもほら、こうなったら結果は同じだし。ね、いつかした話をおぼえてる?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「はい。それを踏まえれば、頃合いかもしれません。
 出来る限り避けたい所でしたが、この作戦でこの一件に触れずに進むのは既に不可避……」

灰院鐘 :
「うん。……人柄に信を置けても、立場に信を置けない。そういうことは往々にしてあるって君は言っただろ」

灰院鐘 :
「あることだけど、今じゃない。それで十分だ」

灰院鐘 :
「表裏を受け入れて、為すべきことを為すと決めた彼らを……僕は愛している」

灰院鐘 :GM、僕のRHOを開示するよ

GM :ほうほう……了解しました。では……

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 一度だけ、モニターに目配せをする。
 映像越しに、リリアに向けて最後の確認を。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 リリアは静かに頷き、それに応じた。
 その時が来たのだろう。それを認識したように。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──この話について、補足を。
 ミリアの懸念通り、死海文書の一部はアメリカに渡っています。そして、その故に我々は手出しが出来なかった」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「いつかは、明らかにしなければならなかったことです。それはこのミッションにおいても避けては通れない壁となり、最後に立ちはだかるものでしたから。

 これを敢えて伏せていたのは、その事実を知ること自体が足枷となるための措置です」
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 鐘の話を、勇魚はこう切り出す。

「今、我々の追う遺物について。
 その情報を共有します」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「遺物探索局一級指定危険遺物―――――
    ヴァリューレス
   『無価値なもの』について」

SYSTEM :
【Unlock!】

 RHO②のRHO開示宣言を確認しました。

SYSTEM :PC2
Rハンドアウト/SEEKER
 ロイス:『ヴァリューレス』 推奨感情:P脅威/N任意
 
 あなたと勇魚が派遣された任務には一つだけ裏がある。
 勇魚の指示系統は、正確には遺物探索局の執行部門。
 そしてその命令とは、遺産『ヴァリューレス』を封印することだ。

 ヴァリューレスとは『無価値なもの』の意を指し示し、その由来は死海文書に記された惑乱と虚言の悪魔の名から取られているという。
 その正体、その実態はFHの情報操作によって巧みに隠されているが。
 一つだけはっきりしていることがある。

 それは既に、これはFHの『シャンバラ』に名を連ねるエージェントの手に渡っており。
 その者が持つ遺産は無価値なものの名が示す通り、あらゆる方向に転んでも、世界を滅ぼす何かであるということだ。
 そしてそれは今、『シャンバラ』の都市の深部、この都市の最深部に眠っているという。
 この詳細を掴み、再度封印することがあなたと勇魚の使命である。
 
 しかしここで問題が発生している。
 米国が秘蔵する遺産の詳細を記した死海文書の原本を米政府は頑なに見せようとせず、
 加えて発動された『パラダイス・ロスト作戦』は、『シャンバラ』を壊滅させることをのみ目標とし、その詳細について頑なに明かそうとしていない。

 元来米国政府とUGNは互いにマークし合っている仲だ。何があっても、おかしくはない。
 あなたは『パラダイス・ロスト』作戦に参加し、米国政府の動きを確認しながら、ヴァリューレスの行方を追わねばならない。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───




【HOシーン②:Seeker-責務の為の力-】

SYSTEM :
【HOシーン②:Seeker-責務の為の力-】

SYSTEM :
 鐘と勇魚が、本部にて共同で任務に当たるようになってから少しした頃のことだ。

 二人は本部の一室、リリアの書斎に招集をかけられていた。
 この書斎に呼ばれることは少ない。訊ねてやってくる場合の多くは個人的な用向きで。こうして任務の話でこの部屋を遣うことはごくまれのことだ。
 それこそ、秘密裏で話を通す場合を除いては。

SYSTEM :
 10月の早朝、暖炉の焚かれた暖かい屋内だったが、少なくとも鐘以外のそこに集まった者達は皆、一様に冷たい静謐を守ったままそこに座していた。

 鐘と、勇魚は席に着き、遺物探索局局長としてのリリア・カーティスと直面する。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「おはようございます。"ラフメタル""炎神の士師"。
 息災で何よりです。任務についてもう幾らか経ちますが、そろそろこの本部には慣れましたか?」

灰院鐘 :
「おはよう、リリアさん! あなたも元気そうでなによりだ」

 窓向こうに朝靄の煙る時間。薪の燃える音に寄り添われた清澄を、朗らかな声がが打ち砕いた。

灰院鐘 :
「うん! なんとか。今朝も迷子になってしまったけど、勇魚くんが迎えにきてくれたおかげで無事辿り着けたよ」

灰院鐘 :
 ごく限られた人間が招かれる、常ならぬ場所にあっても、青年には僅かの緊張もなかった。

 どころか、"朝からあなたに会えて嬉しいです"という喜色をいっぱいに浮かべ、両腕を広げてリリアへ歩み寄っていく。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「あなたという人は……!!
 少しは落ち着いてください!教官の前ですよ!」

 がし!と、手を広げて進む鐘を引き留める。対格差は歴然だが、その実筋力において勇魚は鐘を数段上回っている。
 出会い頭に抱擁を求めてあちこちに突き進む鐘を引き留めた経験は最早数えきれない。

灰院鐘 :
「おっと」

 引き留められて、かるく仰け反る長身。相棒──と呼ぶにはどうにも一方的に世話を焼かれている関係ながら、彼の行動を抑止できる人材という意味でも、勇魚であることが幸いしたことは数知れない。

 主に、力加減を誤りがちな抱擁から救われた人々にとって。

灰院鐘 :
「ざんねんだ。せっかく会えたのに」

 しょん、と肩と眉を落とす。かと思えば、次の瞬間にはぱっと明るく切り替わる豊かな表情筋。

灰院鐘 :
「いい朝だね。今日みたいな日は、公園で散歩する人も多そうだ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……すっかり息が合ってきましたね。
 作戦報告は伺っています。少なくとも共同での作戦も順調だと。
 お疲れ様です、勇魚」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……これを息が合う、と言うべきなのでしょうか」

 やや不服というか、腑に落ちないという表情で

灰院鐘 :「いつもありがとう!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「そう思うなら自制してください」

灰院鐘 :ハイ……

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……」

 その様子を微笑ましげに一瞥した後、切り替えるように表情を改める。
 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「さて……今回、ここに呼び出したのは、あなた達に託したい任務があるからです。
 話は長くなります。まずは、そちらに掛けて」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「了解。……」

 ちら、と鐘の方を振り返る

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「くれぐれも椅子は壊さないよう慎重に」

灰院鐘 :なっ あっ っ……! ……!!

灰院鐘 :おそるおそる椅子に手をかけ、かるく座面を押す。ぐっ……ぐっ……

灰院鐘 :…… ……

灰院鐘 :
「が 頑丈そう……だから だいじょうぶ」
 体重でだめにするような……ことは……

灰院鐘 :
「だと……」
 会議室の二の舞には……おそらく……

灰院鐘 :「正座、得意だよ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「気にせず楽にしてください。
         スクランブル
 この部屋の家具は緊急出動に備えて頑丈に作られています」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「それに呼びつけて咎なく正座を強いる訳にもいきません。話どころではなくなってしまう」

灰院鐘 :ほっと胸をなでおろして「それじゃあ、お言葉に甘えて!」と腰かける。

灰院鐘 :……! い、勇魚くん

灰院鐘 :これ……きしまない……!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……よかったですね」

 はあ、とため息。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「さて……
 本来ならこの任務はもう少し段階を踏んで声をかけるつもりでしたが……事情が変わってきました。
  レガシーホルダー
 "遺産所有者"の勇魚と、その相方であるショウ……あなた達にこそ、この任務が適任となります」
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 レ ガ シ ー  シ ー ラ ー
「遺産継承者の封印者として、私が適任と仰る。
 つまり遺物探索局の遺物封印任務の一環と認識して相違ありませんか」
                         シークレットミッション
 それも、こうして記録を残さないよう話を通す以上、機 密 任 務であることは間違いない。

灰院鐘 :
「本職ってやつだ。気合いが入るね」

 遺産──歴戦のエージェントであれ、そのワードを前には身が引き締まるものだが、相方の彼はあくまで暢気だ。事の重さを理解しているのか、いないのか。

 おそらくは、もっと単純だ。勇魚という適任者を頼もしく思うからこそ、難しく考えることをしないだけだ。

灰院鐘 :「でも、まいったな。僕は内緒話があんまり得意じゃないから」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 然り、と頷いたリリアは、任務に関わる話を切り出した。

「遺物探索局の執行部門、封印者としてあなた方に命じる任務。
 それは一級指定危険遺物……『ヴァリューレス』の封印です」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──、一級指定遺物……」

 その名の重みを、彼女はよく知っていた。
 それは普通の封印者では封印処理すら施せないもの。
 特定の条件下でのみ封印を施せるもの。
 その規模が世界認識にまで及びうるもの。
 極めて高度な知性を持ち、悪意を持って多くに害をなすもの。
 ……ともすれば現代に新しい神話を作りかねない代物。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「"無価値なもの"……寡聞にして存じません。
 多くの人間に認識されている遺産ではない、ということですね」

 一級指定遺物、ともなれば概して『本来と違う名前』を付けられることが多い。
 この手の遺物は、『名前』さえも影響を及ぼしうる。だから様々な方法でその神号の御稜威を殺ぐ。
 例えば、それは原義をそのままに、言語を変え一般化するなどだ。
 意味は同じであろうとも、文字や読みを変えればそれは本来の魔的を殺がれることがある

灰院鐘 :
 ……一級指定危険遺物。

 渡米した当時、レネゲイドに関して基礎知識しか持たなかった青年だが、予てより勇魚から聞き及んでいた。

 暇を見つけては教授された知識の、その一部。こうして現に触れることになるとは思いもしなかったが──

灰院鐘 :「……有名になると危ないんだっけ? 名前に意味が籠ると、だったかな。むずかしいね」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「その通り。
 そして。それの本来の名はヘブライ語にて記されています」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ヴァリューレス。無価値なもの。
 ──無価値なる者、無頼なる者、邪悪なる者、不正の器」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──ヘブライ神話に登場する魔王。
 闇の子らの王。敵意の御使い……

   ベリアル
 ──無 価 値 、ですか」
 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──"だが、破壊のために神は敵意の天使ベリアルを創りたもうた。
 彼の支配地は闇の中にあり、彼の目的は邪悪と罪を振りまくことである"」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……発掘された死海文書の一つ、『光の子達と闇の子達の戦い』……エッセネ派終末論に登場する一説です。
 その御名は、ヘブライ神話時代から存在する忌み名の一つ」

灰院鐘 :
「それが"ヴァリューレス"の正体。一級指定危険遺物だっけ? なら、その大仰さも納得だ。でも……」

 人の手で御しきれない、外なる邪悪。世界を作り変えてしまうだけの力を持った、封じられるべきもの。

灰院鐘 :
「でも、分からないな。聖書の神ってあれだろう? 天地を造って、アダムとイブを楽園から追放した」

灰院鐘 :
「赦しを乞われる存在が、なぜそんなものを?」

灰院鐘 :
 青年には信仰を寄る辺とする人々を慈しむ思いはあっても、その中身にまでは心を寄せなかった。

 そんなもの
   神  がいるのなら、なぜ人は苦しむのか。生は渇きに満ち、死を身近に感じるのか。
 無垢なる問いに、答えはまだない。求めることも。

灰院鐘 :
 だから、これはもっと単純な話。
 いま投げかけた疑問は、単なる無宗教者の無知だった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……あくまで、学問的な理屈で言えば……」

 その問いかけに、勇魚は腕組みして答える。

            ・・
「彼らの世界は、強固な『運命』によって設計されているからです」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「少なくとも、この悪魔が記された死海文書を記したもの。「エッセネ派」と呼ばれる宗派は、そうした理屈に依って文を記した。

 神は全能である。その全能を証明するためか、或いは全能であることを前提に積み上げられた信仰なのか」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「『この星に生まれた遍く生命、遍く事象は、その意志に至るまで悉くが神に設定されたもの』である、と。
 あらゆる善性もあらゆる悪性も、始まる前から設定され、予め定められた『規範』に基づいて線をなぞるものなのだ、と」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 人は二元論に基づき、善と悪に分かたれ。光の子と闇の子らは、その指導者と共に結果が設定された最終戦争を行う。
 やがて最終戦争の果て、闇の子らは勝利し、善の子らはメシアの王国に至る。

 ──その最果てに神判は下され、神の御元にて永遠を授かる。

 人の意志が介在する余地はそこにはない。
 選んだつもりが、選ばされた一本道。
 運命によって策定された二元論。
 ・・・・・・・・・・・・・
「そういう役割を以て生まれたもの。だから、神は悪をも作り為す。自らに弓引くことさえ設定して」

灰院鐘 :
「……むう」

 ますます分からない、と眉が下がる。

灰院鐘 :
「だってそんなの、あまりに残酷だ。……」

 初めから何もかも決まっている。苦しみに喘ぐことも、救いに涙することも、人の意思に依らない次元で徹底的に統制された世界観/価値観。
 そうした絶対性の故に信仰を懐く人を、この青年が否定することはないが。彼の原点……宿痾にも似た諦観にとって、受け容れがたい理屈であったことは確かだ。

灰院鐘 :
「役割を以て生まれたもの、か……。じゃあ、対処のしようはあるわけだ。
 だって最後には負けて、善い人が救われるために居るんだろう?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──────そうですね。
 人の世界を広げるのは各々の意志。それもまた別の形の残酷さに彩られているのかもしれませんが。
 そうした『信』を持つ意志を否定はしません。それでも、自らの各々の信によって世界が成り立つべきだと、私も思います」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 何か物思いにふけるような、僅かの間遠い目をした後、リリアは静謐な瞳を再び鐘へと向ける。

「正しくそういう形の存在であるならば。その為に発生するのでしょう。ですが……」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「誰も運命の形を識ることはできない。
 善し、悪しの価値基準は、現在の基準に設定されない。誰の目線のものかも理解は及ばない。
 故にその性質だけでは、対処自体が分からない……そういうことですね」

 それは或いは、後出しの予言と然したる違いはない。少なくともその線路の上にある自分たちにとっては。

灰院鐘 :「そう簡単にはいかないか」ざんねん、と困ったように笑う。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ですが、それを問題とする以上、何が問題となり如何なる事象が懸念されるのか……
 詰まる所、その実態についてはどの程度調べがついているのでしょう。その御名は、あまりに強大であるが故に多岐に別れすぎている。

 ──伝承などを寄る辺に形を変えるといえ、これの本質はEXレネゲイド。レネゲイドが信仰によって性質を変えるとはいえ、それは信仰を元に後天的に形を変えたものに過ぎません。
 ですが、この域の遺物は多くの場合、その『発信源』であることが多い」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 火のない所に煙は立たない。たとえ、その火が偽りであったとしても、そこに煙を見たことがまやかしに過ぎずとも、そのミームにはルーツがある。
 極めて多くの例外があり、一概に型にはめることが危険であるにしろ。散逸した伝説の太祖となったものが、そこには存在していると見ていい。

灰院鐘 :「……信仰の根源。始まりになったもの」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「その形状や実態については不明ですが……
 ただある程度、推論を挙げることは出来ます」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「形状に関して何一つ伝わらないのは、形を持たないか、或いは人と同化する存在であるということ。
 悪魔の王。魔が差すというように、それは概して人に憑くものです。
 契約することでその精神と同化して、何らかの影響を及ぼすこと」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そしてこの遺産に関連する存在に、私は一人、覚えがあります。
 どのような形でかかわっているのか、迄は不明ですが」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
       リエゾンロード
「それはFHの最高幹部。……FHにおける最高幹部とは、その半数が人から大きく外れたもの。
 そのリエゾンロードにおいて、最大最古の一人。いや、それは最早『一柱』と呼ぶ方が適切かもしれません。
 人が楽園を追われる以前より地を這う存在。『計画』を司る来訪者と性質を異とする者。

 曰く、旧き蛇」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「曰く尾を噛むもの。
 曰く長生種」

       テ ト
「──名を、誘惑者」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「かの古のもの。それが深く影響を及ぼした存在である……
 私はそう睨んでいます」

灰院鐘 :
「……誘惑者」

 実像を持たない遺産。憑き物じみた脅威に関連する、人ならざるもの。
 かつて感じたことのない重みを確かめるように、青年はその銘をなぞった。

灰院鐘 :
「…………」

 オーヴァードの世界に踏み込んでまだ日の浅い青年にとって、リリアの語る多くは理解と想像の埒外にあった。

 世界に散逸した伝承の原点がレネゲイドに由来することも、世界の在りようを塗り替えてしまえる神秘も……

 まして、信仰に語られる太古の時代より蠢動するものの実在など。

灰院鐘 :
 だが──

 彼らが在るというのだから、在るのだろう、と当然のように受け入れた。疑問を提起し、実像を測り、その深淵を検めるのは、少なくとも彼の役割ではなかった。

灰院鐘 :「天使の次は楽園の蛇か。すごい話になってきたけど、FHが絡んでいるなら動機はやっぱり欲望なのかな」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「確証はありません。ただ、その存在がバックについている可能性がある。
 彼が従えるという正体不明のクランもまた。
 大仰に語りましたが、重要なのはそう……

 彼らが干渉する疑いがある以上、それが齎すものは必ずしも社会に留まらず、人類に善いものでないだろう、ということ」
 

灰院鐘 :
「……それは困るね」

 うん、と神妙に頷く。場に似つかわしくない平素の態度だが、彼はあくまで真剣だ。

 事の重きをどう受けとめるにせよ、青年にとって重要なことの多くは"それ"だ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……………………」

 暈す物言いだが、それの指す意味を正確に勇魚は読み取り、その重みに緊張を覚えた。
 こうした任務を請け負うことは今に始まったことではないが、そこまで断言される規模の話はこれが初めてだからだ。
 月並みな言い方をすれば世界の危機。
 より分かりやすい譬え方をするなら世界中の核ミサイルのスイッチが、それを欲望のために押しかねない人間の手元に今置かれている、と言っているようなものだ。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「確かなことはもう一つ。
 その遺産を今所持しているFHセルの名は『シャンバラ』……

 既に噂は聞いていると思います。各国のFHやギルドを顧客として闇ルートで技術、物資の売買を行っていると言われてきた影なきシンジケート。
 かの遺産は、その拠点の最奥に眠っている」

灰院鐘 :
「"グリーン・リヴァー"の保有していた兵器の出所か。そこまで分かってるなら、拠点さえ分かれば話は早……」

灰院鐘 :
 ……くなさそう! 背筋を正す。

 この手の短慮と短絡は性分で、そう変わるものではないが、相方の半眼が向けられやすくなることは理解した。最近やっと。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ギリギリ気付いたようですね。
 シャンバラは巧妙に糸口を隠しています。まして拠点の情報を掴むとなると指南を極める。
 そして、先に申し上げた通り拠点が分かれば乗り込めるほど、今の我々の立場は自由ではない」

灰院鐘 :「軍人さんたちの協力者って立場でやっと動けるんだったね」

灰院鐘 :
「どんな人たちなんだろう。はやく会いたいな」

 オーヴァードもレネゲイドも関係なく、力を持たない人々の為に武器を執ることを選んだ兵士。その在り様に思いを馳せて、青年は柔らかな微笑を浮かべた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ですがその為に我々からも米国政府に嘆願し、政府もこの問題を重く受け止めて……
 少なくとも国際テロリストの検挙を主目的とした作戦が此度に展開された。
                  シャンバラ
 ミッション『パラダイスロスト』…… 楽 園 彼ら罪人を追放する。
 そういう名目で行われる、失楽園の蛇の遺産を捜す特殊任務」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「事前に触りだけ話した折には、そう説明しましたね。
 ですが──彼らとの間には、かねてから摩擦が生じている。決して一筋縄ではいきません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「此度の作戦に当たり必要な米政府が所持する死海文書の原本の一部。今回の重要参考資料となりうる資料を彼らはひた隠しにしている
 それだけなら、まだ得体のしれない非政府組織に重要文化財を見せることなど出来ない、と断りを入れただけかもしれませんが。
 CIAらと執り行われた『パラダイス・ロスト』作戦の協議内容についても、不自然な点は多かった」

灰院鐘 :

灰院鐘 :「不自然な点……?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「我々は既に方々にモールを入れています。諜報活動と言うほど大それたものではありませんが、各国の政情は同時にFHの動向を掴む切っ掛けとなる。シャンバラに関する情報を多く得られたのも、その情報網の故です。
 ですが作戦協議にあたり、米国側が提示した情報について幾つもの虚偽が見られた」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「とくに、指名手配犯一名に関して。
 主に五年前のアフガニスタンでの新型兵器実験の失敗、及びにUGN支部の突如としての壊滅にまつわる記録等。
 これらに関するダミー情報については、かなりの誇張及びに虚偽が見られました。精査を進めれば、他にも多くの不備が見られるでしょう」

灰院鐘 :「協力相手として信用ならないわけだ。……」

灰院鐘 :「難しいね。彼らには彼らの事情と、重んじるべきものがあるんだろうけど」

灰院鐘 :「でも、そうする理由がちょっと思い当たらないな。いくら部外者を胡散くさく思うからと言っても、目的は同じシャンバラ掃討のはずだ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……我々の任務目的が遺産の封印であると同様に。
 アチラ
 政府の目的も必ずしも一致するとは言えない……そういうことですね」

 詰まる所、目的は同じ、とは便宜的な了解に過ぎない。双方の目標として重なる部分を主目的として据えているだけで、重きを置く狙いはそれぞれ別にある。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「であれば空白の部分やその近辺に『隠しておきたい目論見』があり。
 それは或いは衝突する可能性さえある。元々、我々とペンタゴンは然程友好的とは言えません。英国のようにはいきませんでしたから」

灰院鐘 :「うーん」むずかしいね、と再度呟く。

灰院鐘 :「……でもなんとなく分かってきた。表立って喧嘩はしちゃいけないけど、向こうの隠し事をほっとくわけにはいかないんだね」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そういうことです。
 危険遺物処理に対する協力拒否と、この作戦の幾つかに見られる情報操作の痕跡。
 確証はありませんが、疑いを持たないわけには参りません」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
            コンフリクト
「国の思惑について、必ず衝 突が起きると決まった訳ではありません。
 たとえばそれが政治的目的の一環で、世界に害をなさないのならば、お互い見て見ぬふりで各々の目標を達成できるでしょう。
 ……私たちUGNとしては、それが望ましい」

 飽く迄願望だ。それは遠回しに、十中八九そうはならないだろうと見做している口振りに聞こえた。

灰院鐘 :「お互い上手くいってよかったとやり過ごせるならそれが一番、か」

灰院鐘 :
「……」

 だが、きっとそうはならないと──
 この場にいる全員が予感していた。確信めいた思いは、少なくとも青年のぶんだけは諦観に似ていた。悲観ではないが達観ほど成熟してもいない、穏やかな受容。

灰院鐘 :「困ったな。疑うのはあんまり得意じゃないんだ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「では、その役目は私が担いましょう」

 目を伏せ、勇魚は胸に手を当ててそう提案する。

灰院鐘 :「……でも」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私は熱感知知覚を高度に扱えます。
 人の感情のゆらぎを、私は敏感に感じ取れる。他シンドロームの偽装も同レベルでない限り、貫通することが出来る。
 これは私が、覚えが付いた頃から身に付いた特色です」

 常軌を逸した域の熱感知知覚。索敵、状況把握のみならず真偽感知にまで流用できるそれは、確かにその役目を担うなら適任であった。

灰院鐘 :
「……ごめん。いやな役回りを任せてしまうね」

 頑固な彼にしてはめずらしく、おとなしく提案を受け入れた。適材適所という以上に、こればかりはどうしようもなかった。

 信じることも、疑うことも、青年にとって大差はない。だから前者を取り続けていたし、それが一番すなおな感情だ。
 馴れないことをしようとすれば、不器用な彼のことだから、かえって相手にも不審がられるだろう。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「構いません。いつものことです。
 それに余計なものを感じ取れてしまう私には、信じる方の役を演じるにはノイズが走る」

灰院鐘 :「そっか。……」

灰院鐘 :
「がんばろうね」

 青年は少しだけ返答に悩んだが、勇魚の言葉に翳りがないのを感じとって、少女を慮るのではなく相棒を信じることを選んだ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──はい」

 飽く迄、役割を託す鐘に、勇魚は静かな、しかし力強い言葉で応じた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ではあなたは出来る限り、作戦内で彼らと接触を取り続けてください。この際、普段通りに接するだけでも十分です。
 私はその傍らで、彼らの動向を確認します。下がったガードの奥の意志を検めるのは、私には容易いことです」

灰院鐘 :「……! まかせて!」

灰院鐘 :「うん、それなら全然できそうだ。たのしみだな、早く会いたいよ。どんな人たちなんだろう!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 よろしい、と頷いて応じる。
 ロール
 役割は此処に定まった。
 一方は迫り、一方はその意志を検める。
 信じる者、疑う者。
 その二方面で、協力者の思惑を追う。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「願わくば、信用に足る相手であることを祈ります。
 そしてその上で……彼らの上に立つ者らの意志が誠実であることを」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「忠誠の誓いに相応しい行いを期待したいですね」

 それは皮肉でもあるが、一方で願いでもあった。
 世界が優しく在るように。だが、それを願うものはその故に力を持ち、やがて最初のそれを忘れ去る。
 そして更なる力を求めるものだ。絶え間なく。

 少なくとも「人権」の概念の発端となった国であり、しかし今では消費社会の頂点に君臨する国が。
 ──その意志の舵を取る者達が、それに呑まれていない可能性を彼女は想像できなかった。

灰院鐘 :
「────うん」

 首肯は穏やかに、祈りを伴って。

 作為と虚偽へ臨むにあたって、
 その灯火は余人には儚く、そして愚かしく映るのだろう。

 だが、消えることのない光だ。燭台を持つ手が、自ら絶やそうとしないかぎり。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──よろしい。
 であれば、この遺物探索局局長リリア・カーティスより、エージェント"ラフメタル"並びに"炎神の士師"へ、改めて命を下します」
 
 二人が確かに意志を一つとしたのを見たリリアは、静かに目を伏せてそう告げる。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「此度のあなた達二人に課せられたミッションは二つ。
       ヴァリューレス
 一つは遺物『無価値なるもの』の実態を探り、本格的な稼働を前に封印すること。
 実態が不明確な以上、その手段は問いません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そして二つ目は、共同で作戦に当たる米軍特殊部隊、正確に言えば米国政府の動向を探り、衝突の回避のために動くこと。
 ……これに関して言えば政治問題が深く絡むことになります。解決を目的に入れる必要はありません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「政府絡みの対処については、別の部隊が既に動いています。ですが、常に作戦とは現場で起こるもの……
 常に変容し続ける状況の中、上の意向が変化するとも限りません。そして」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「万が一、対処し難い状況になった場合。或いは、双方の意向が合致を見、秘密を共有するに足ると見做した場合。
       ・・・・・・・・・
 その場合は、私を呼んでください」
 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「UGN本部局長代理の権限と責務を以て、為すべきを為しましょう。
 そして、その折には私からも幾つか、語るべきことがあります」

灰院鐘 :
 一つ目は封印。
 人類に影響を及ぼし得る遺産を適切に処置する、というのは元来彼女たちの役割だ。青年はそこで、できることをすればいい。
 持ちうる手段は多くないが、手段を選ばないことはできる。それは青年の長所であり、短所でもあった。

灰院鐘 :
 二つ目は接触。
 合衆国上層の動向を探り、共に戦う兵士の意向を確かめること。そして表立った衝突を避けること。
 しかし解決を目的とせず、別働隊がいるのなら、やはり一つ目の命が何にもかえがたい優先事項なのだろう。

灰院鐘 :
「リリアさんを? うん、わかった」

 作戦行動中における、本部局長代理の招請。それを、まるでお使いでも頼まれたみたいな安穏さで青年は応じた。

灰院鐘 :「為すべきこと、か。あなたは……ううん、あなたたちはいつも何かを背負っているね」

灰院鐘 :
 ・・・
「だから、僕も力を尽くしたいんだ。がんばるよ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
   コピー
「──了解!」

 命令に対し、敬礼をもって応えを返す。
 いつか見た、目上への敬意を示す挙措と共に。
 それが困難を極める使命とて、退く理由は勇魚にはなかった。

灰院鐘 :
 ああ──と青年は小さく吐息した。彼女たちの流儀は、それだった。

 であるのなら。ここにいる彼は、きっとここに居続ける彼は、

灰院鐘 :
 こぴー
「了解」

 多くの愛おしいものへ、成し遂げるという意思で応じた。困難の意味を未だ知らず、また、そうと思いもしないような穏やかさで。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「どうか、健闘を祈ります」

 鐘の宣誓を、静かにリリアは聞いていた。
 背負う責務の重さ、その真意は、しかし澄んだ静謐な瞳からは未だ伺えない。
 彼女はただ戦士たちを見送るだけだ。

SYSTEM :
 かくして二人のミッションは始まった。
 或いは世界の形を歪めかねない、旧き時代のやり残しを清算するそのために。

    ヴァリューレス
 ──『無価値なるもの』。古き遺物に在りながら、その価値を認められなかったもの。
 この時代とかつての時代を繋ぐ歯車となるもの。
 深き塩の湖の底に眠れるものの存在は如何なるものなのか──。

SYSTEM :
 今は静かに、旅立ちの時を待つ。
 来るべき時に待ち受けるものが、決して受難ばかりでなく。その身は一人でないのならば。
 偶さかに出会う縁の鎖が、その心を繋ぎ止めてくれると信じて。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「以上が、我々の課せられた任務です。
 ……多くを語らずにいたことについては不誠実であったと、此処で謝罪させていただきます。そして……」


 自らに課せられた使命を、二人は語る。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「この任務について明かしたのは、此度の状況を検める限りシャンバラ掃討の際、必ずそれと関わることになること。
 そしてあなた方が信用のおける相手と認めた故です」

 同意を確認するように、鐘に視線を向ける

灰院鐘 :「うん? うん」

灰院鐘 :「…………」

灰院鐘 :
「あはは、ごめん。実を言うと、そこまで考えてなくって」

「要点はそうだと思う。いずれは明かさなきゃいけなかったし、みんなが関わり合いになる話だからね」

灰院鐘 :「でも今ここで明かすと決めたのは、僕のかってな理由だ」

灰院鐘 :
 言うや否や、がばあ~っとブルドーザーのごとくテンペスト三人をまとめて抱きしめにかかる。あまりにもむさくるしい光景。

「──ダンさんたちが好きだなあって思って!」

ダン・レイリー :
 己の天秤には“絵面”と“誠意”が現れ、僅かな時間の経過も厭うことなく左側に傾く音がした。
 もはや反射の領域。研ぎ澄まされたCQBの経験が成せる前進は、そのブルドーザーの突進の射程範囲を自らのみに留め置く試みであった。 

ダン・レイリー :
 なぜならあの威力で迫ると恐らくミナセが数分ほど帰って来なくなるからだ。

 然して意味のない取捨選択はもはや己の見栄であった。この半月である意味最も慣れた対ショック姿勢は、初見でない分の洗練されたものがあり、続いて一言。

ダン・レイリー :
「大の大人三人をまとめては囲えないぞ、ショウ。
 先ずは此方からだ。ゆっくりやってやれ、こちらはきみの厚意に逃げんよ」

灰院鐘 :わ~い! ぎゅむう~っ

水無瀬 進 :
「し、死ぬかと思った……
 あれだね、バッファローの突進の予備動作を目の前で見た気分だったよ」

水無瀬 進 :
「見えてても体は石になるんだなあ、やっぱこういうの」

ディアス・マクレーン :
「なんというか、調子狂うぜ……」

 ずれたグラサンを直し

ディアス・マクレーン :
「でキャプテンどうだ。熱いハグを貰った感想は。背骨言わせてねえか?」

ダン・レイリー :
 なおこの位置であったならばミナセが中央の配置になる。
 ヤツは嬉しくない人間サンドイッチ………。

 そうアレだ。
 ニホンじゃ、トレインはすし詰めだったらしいが、良くてそれになっただろう。
 確実に少尉の断末魔も響いたことが想像される。当事者でなければ絶対に止めなかった。

ダン・レイリー :
「案ずるな、僕を誰だと思っている。
 年下の受け止めも出来んまま20代は卒業出来んな」

ディアス・マクレーン :
「やれやれ、あんたにゃ敵わんな」

ダン・レイリー :
「いずれおまえがそうなるんだぞ、少尉。
 何時かの大仰な称号とでもいっしょにな」

ダン・レイリー :
 ………ショウがひとしきり満足するのを待つ傍ら、“炎神の士師”を含め、UGNの面々を見る。

ダン・レイリー :

 あるいは、その事実を“炎神の士師”が口に語る時でさえ。
 ショウの態度は平常のそれであった。

 僅かでも熟練の業を連想したところであるが、ショウは考えナシでなくとも、不慣れなことをしない人間と受け取れていた。ここ最近の成果である。

 ………ガードを崩す役と見極める役。
 まさに、試す側もまた試されていた、という言葉の儘であったわけだ。 

ダン・レイリー :
「詫びることはないさ、”炎神の士師”。するべきことを繋いだのだと、終わった後にでも胸を張れ。
 その結論を、一先ず受け取らせて貰うよ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ありがとうございます。
 そう言っていただけると助かります」

 静かに目を伏せる。普段通りの澄まし顔なれど、彼女をよく見てきた者には僅かな喜悦と安堵が垣間見えたかもしれない。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ところで、そろそろ離してあげてください、"ラフメタル"」

灰院鐘 :
 ぎゅっぎゅと熱い抱擁をしたあと、水無瀬、ディアス、の順で餌食にしていく。……だけに留まらなかった。
 ふたりが言葉を交わすかたわら、テンペスト以外も巻き込んで、ひとりひとりにハグ巡礼の儀式が行われていた。

灰院鐘 :は~い! と元気な返事。いつも返事だけはいい。

ナタリー・ガルシア :「……鐘さんではありませんが、お互いに仲良くなれて良かったですわ」

ナタリーは誰にも聞こえないようにひとりごちる。

微笑ましい、と言うには若干一名の限界が近いが、少なくとも互いに力を向け合うような状況ではないことをナタリーは嬉しく思う。

お互いにしがらみはあれど、多くを護るために戦う者たち同士なのだから、手を取り合えるならばそれに越したことはない。

ナタリー・ガルシア :それにしても、と、その名前を言の葉には乗せずに胸中でつぶやく。

――『無価値なるもの』

その正体を、己の体を間借りしている彼は知っているのだろうか。

"アダム" :
 ──さて、どうだったかな。

"アダム" :
 ──なんてね。
 まあ、ここでしらを切ってもどうせ全部見ることになるんだ。それに期待でもしたらどうだい。
 

ナタリー・ガルシア :「(ええ、そう言うと思っていましたわ――それに、真実は私自身の目で確かめて、初めて私にとっての事実になり得るのですから)」

"アダム" :
 それでいい。
 オレにとっても然程気の良い話じゃないからね。

ナタリー・ガルシア :「(――――では、また、夢の中で遭いましょう)」

SYSTEM :
 声は、皮肉げに鼻で嗤ったきり、返事は届かなくなった。

灰院鐘 :
 テンペストたちから、他の面々にまで波及していたハグ。最後の被害者アトラを解放しながら──ハグどころかもはや抱きあげていたので、すとんと床に降ろして──青年はモニターのリリアへ向き直った。

「そういえば、リリアさんの語るべきことって?」

ディアス・マクレーン :
「……って、ありゃ」

 肉体の頑健さならテンペストでもぶっちぎりで一番のディアスだ。ハグから復帰するのは早く、それ故に彼が気付き、鐘が向き直った時には、モニターの奥に彼女の姿はなかった。

アトラ :
「ぐぇ」

 そもそもUGNだの米国の組織だのなんて、“そういうの”が無い方がおかしいのだ。個人レベルでなくとも。
 というか何より、ウチが言えた話じゃないし。とまで考えていたところでそっと地に足が着く位置に落ち着き、静観の構えをとり。

アトラ :「およ」 あれ?

灰院鐘 :「おや」あれ?

ダン・レイリー :………言われて確認する。確かにその姿はない。

ナタリー・ガルシア :

ダン・レイリー :「火急の用か………あるいは、」

ナタリー・ガルシア :「……お姉様?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「局長なら、先の話を始めた頃に席を立ちましたよ。
 多分、直に逢って話をする、ということだと思います」

 熱い抱擁を受けた後、また傷が開かないか体をさすりながら。

ブルー・ディキンソン :「行動がお早い」
 ──ドッキリ大成功のプラカードを塗りつぶしてそう書かれている。慣れたはずの抱擁を受けた後、口が一瞬開かなかったらしい。

ダン・レイリー :
「了解した。では待たせて貰うか。
 先の話には僅かなりともショッキングな部分があったが、加えてそれ“も”明らかにしていいと看做すのならば、この分では議題のタネはまだ尽きてくれそうにない」

水無瀬 進 :
ところで水無瀬はハグの衝撃でくたびれたように安静にしていた。

灰院鐘 :健やかな笑顔!

ダン・レイリー :………単身ならば行けると思ったがダメだったか………

アトラ :み、ミナセさーーーん!

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……まあ予想通りってところだけど、遺物探索局の実働部でも話が進んでいたのね。
 局長はそこまで読んで動かしていたってことか」

 目配せして問いかける。
 恐らくだが、話の中に出ていた政治絡みの別動隊とはミリアのことだろう。飽く迄実働部隊はこのチームというだけで、他にも表舞台の外側から活動しているエージェントはいる筈だ。

灰院鐘 :
「そっかあ、リリアさんも来てくれるんだ。うれしいね」

 この流れでは意味が違ってきそうな発言だが、どうやらナタリーに向けて言ったようだ。

ダン・レイリー :
「そうかもしれんな。海向こうから来て早々、この手のデリケートな緩衝に付き合わせることになるとは」

 尤も、この分ではさらにもう一度付き合わせることにはなるだろう。
 大目的の遂行にさえ支障が出ると分かれば、十分に大義名分がある。

 あるいは、なくとも必要性がある。

灰院鐘 :目配せに笑顔! にこーっ

アトラ :
(すると、まあ。割と最初からアタリ付いてることもけっこーあったんかな~。
 ……だからって、対応が変わるようなコトも無かったんだろうけど……)

 自分……と言うより、この場に姿を見せることの出来ない身内を思っておく。

ナタリー・ガルシア :「……ええ、お姉様が来てくださるのであれば、こんなに心強いことはありませんわ」

灰院鐘 :
「それもあるけど……」

 いくつかの言葉を、青年は呑み込んだ。

灰院鐘 :「また直に会って話せるのが、僕は嬉しいな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……、そうですね」
 僅かに表情を綻ばせる。

灰院鐘 :「!」

灰院鐘 :ね~っ

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……それに、先の遺産……ヴァリューレスについての話だけど」

 思う所があるというように、彼女は場の流れを仕切るよう話を切り出す。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「『アポクリファ・クリフォト』と関係がある。いや、その別名なんだと思ってる。
 経緯についても調べと合致するもの。それ自体か、あるいはそれに付随する何かか……それが遺産化したものなのかは分からないけれど」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 これも以前、ブルーには告げたことだ。
 此度の案件には、リエゾンロードの影がある。
      アポクリファ
「そもそも、外"典"……と言っても、必ずしもそれは文書という媒体を取らないの。
       スクロール
 もっと純粋に 書 物 の目的は何か、と考えて。

 簡単に言えば、文字や絵、記号や触感という形で情報を残すもの。

 つまり外部に記録された情報……ミームを保存するものとまで押し広げて解釈できるわ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「つまり形状は問題じゃない。
    ・・・・・・イコン
 それは蛇の形をした偶像で……
 ・・・・・・・・・
 情報を記録する物体だった。
 要するに、コンピュータのような能力を持っているってこと」

ダン・レイリー :
「現代の科学ではそれを“コンピュータのような”と説明出来ても、当時の人間にそんな言葉はない。あったとしても、別の形。
 ………それを何か得体の知れない、まさに神や悪魔が齎すようなものとしてとらえるより他になかったわけだ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その通り。
 アポクリファ・クリフォトと呼ばれるそれは、実際には神託の像です。

 ……ユダヤ教が成立する以前。預言者アブラハムが存命の遥か古に、原始ユダヤ教は偶像崇拝を行い、その信仰の対象は蛇でした」

ナタリー・ガルシア :「……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「これはそれを模した……いえ。
 その伝承そのものとなったもの。
                     ネフシュタン
 モーセの伝説に『言い伝え』として登場する青銅の蛇。そのさらにオリジンにあたるもの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その正体……アポクリファ・クリフォトにの実態について、結論から言いましょう」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「最大最古のリエゾンロードの一柱。
 現在確認される中で、少なくとも最も最長の時間を生きたEXレネゲイドと目されるもの」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
          クリファ
「────あれは、その抜け殻です」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
        ・・・
「あれは古き蛇の抜け殻。
 人のミームを吸って無限の成長を続けるもの
          アルティメットワン
 それを媒介とした "究極の進化を齎すもの" ──その成り損ないです」

灰院鐘 :
「誘惑者の──抜け殻」

 曰く旧き蛇。
 曰く尾を噛むもの。
 曰く長生種。

灰院鐘 :
「リリアさんの見立ては正しかったわけだ。影響を及ぼしているどころか、そのものに近いのはびっくりだけど」

ダン・レイリー :
「…FHのリエゾンロードというのはつくづく荒唐無稽だ。
 抜け殻にさえそのような能力があり、コミュニティの象徴として祀り上げられると来た」

ダン・レイリー :「蛇は不死の象徴などというが、御伽噺の中だけにして欲しかった………というのは、僕の立場で言うもんじゃあないな」

灰院鐘 :
「偶像崇拝……それに像か。契約によって精神と同化する性質を持つなら、信者からすると神託を受けたようなものか」

灰院鐘 :
「ナタリーくん、そういった異変はない? 契約の可能な者として……たとえば、なにか声が聞こえるだとか」

ナタリー・ガルシア :「……そう、ですわね」

その言葉を受けて、考え込む。
夢の中で見た、『御神体』――それこそが『無価値なるもの』に違いないだろう。
あの都市全体のオーヴァードの情報を集積していた偶像が、一体どれほどのミームを蓄積しているのか……想像することすら難しい。

「……夢は、見た気がします」

ナタリー・ガルシア :「とても、とても悲しい夢を……詳細な内容までは、上手く話せませんが、もしかすると関係のある夢なのかもしれませんわね」

ダン・レイリー :「夢…か。その言い分、捉え方としては偶然のソレではないようだが」

ダン・レイリー :「…ショウ。なるほど遺産というやつは、遺産自身が契約する相手を択ぶのだったな」

灰院鐘 :「うん、僕はそう聞いてる。強大な遺産は時に自らの意思で契約者を選び、対価と共に常軌を逸した力を与えると」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
添えるように頷く。
凛とした表情を保っているが、明かされたその正体に彼女も僅かに強張っているようにも見えた。

ナタリー・ガルシア :「……アトラさんは、声やビジョン見聞きすることはありますか?」

アトラ :
 ……結構普通に可能性として有り得たりすることなの?抜け殻とかって。ヒトとして。
 とまで考えて、EXレネゲイドと言うなら……まあ、フツーとも言い難いし全員受け入れてるようなので口に出さずに呑み込み。
 ……その“夢”って言うのがショーさんの言う通りの神託だのと考えると全然良いこととは思えないけども。

アトラ :
「いや、ウチは特にそういうのは無いかなあ。
 シンプルに夢見が悪いことならないわけじゃないけども……そういうんじゃないだろうし」

(……ちなみにレイラは?聴いてんなら何か分かったりしない?)

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《ないね。生憎とさっぱりだよ。
 夢だとかビジョンだとか、そういう干渉を受けたことはないよ。実際、コイツが語りかけてきたこととかアトラもないでしょ?》

アトラ :
(……だよなぁ。痛むことはあってもそういう感じのコトがあった覚えはないし……)

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……」

 その様子を、ミリアは静かな眼差しで眺めていた。何かしら考え事をするような間を僅かにおいて。

灰院鐘 :「……悲しい夢か」

灰院鐘 :「じゃあ今夜は僕と一緒に寝よう!」

ナタリー・ガルシア :「嫌ですわ、仮にも淑女である私と同衾など、非常時でなければ許容できません」

灰院鐘 :ション……

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「兎に角」

 脱線し始めた話を区切るように、勇魚は割って入りながら続ける

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 ナタリーのことが気になるとしても、今問い詰めるより報告を総べて聞いてからの方がいい。そう判断した彼女は『確定していること』だけを語り続ける。

「……誘惑者とは、推定される限り古のレネゲイドを保菌した非霊長類。
 蛇のアニマルオーヴァード……つまり、レネゲイドに感染した動物に該当すると言われています。
 レネゲイドは多くの場合人間に感染しますが、ごく一部の例外においては他の哺乳類に留まらず、脊椎動物、無脊椎動物の区別なく、発祥しうる」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「その実在はUGNでも本部の一部しか知らない。FHの中でも、噂程度に広まっているに過ぎません。ですが……」

 確かにそれは存在し。今、その足跡がこの地に在り、ここで災禍を為している

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「古き蛇の抜け殻。それは本体が失われて尚、人の手に余る存在として存在する。
 それの持つ能力は不明ですが……蛇が何を象徴するか。それと、かの古代都市の存在を鑑みれば浮かび上がってくるはずです」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ──蛇は多くは生命を司り、そして智慧を齎すもの。

 或いは、智慧を齎したものとしての伝説の発端こそがこの『アポクリファ』そのものなのか。
 いずれにせよ彼らを高みに押し上げたものは、まさにこれだったことは間違いない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「人々にとってそれは、まさに叡智と力を授ける神の似姿だったことでしょう。
 それを信仰する隔離された社会の中で、あの遺産となる古代都市は形成された。
 ……しかし」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
  アルティメットワン
「"究極の進化を齎すもの"となる筈だったそれは、しかし由来がそう在る故の欠陥があった。

 どの時点でそう成り果てたかは不明です。ただ恐らくその由来を鑑みれば……
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 アレは初めからジャーム化していたと見る方が良いのかも」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 人々の願いを受けるまでもなく、貪欲に知恵を喰らう蛇は人々に憑りついた。
 永遠を夢見せておきながら。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 始まりの時点から終わることが決まっていた。

 ──運命に縛られた、惑乱の都。

ダン・レイリー :
 ………よもやそれを以て、誰かは知らんが彼の遺産は『無価値なもの』と名付けたのか?
 ならば皮肉と悪意もいいところだ。嘆息一つして、続きを聞く。 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「知恵を授け、智慧を吸い、欲望を育てる神の写し身。
 けれどそれが齎すものは、やはり破滅以外にあり得ない。

 ……或いは、それが無価値の故なのでしょう」

 ──伝説に曰く、ソドムの都を間接的に滅ぼしたものとは。
 退廃と混沌に導いた敵意の天使ベリアルが、地上で騒乱を起こした結果とされている。
 その言い伝えをなぞるなら、『ヴァリューレス』とはその蛇の似姿こそが相応しい。

ナタリー・ガルシア :「それでは、件の都市は……滅びることが決まっていた、ということですか?その始まりが間違っていたがゆえに?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ・・・
「そうよ。
 ジャームが齎すもの、そのすべてが災いを起こすという訳ではないけれど。
 少なくともそのジャームの意志通りにコミュニティが動いていたなら……」

 必然、そう言うしかない。

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :
【アイテム;アポクリファ・クリフォト/1】
    ネフシュタン
MODEL:青銅の蛇の起源

 EXレネゲイドを宿し、双頭の形を取る蛇の像。後世のモーセの『青銅の蛇』の原典となるもの。
 古代都市ソドムの中核に眠り、都市の発展の中心を担った御神体と呼ばれるアーティファクト。

 その実態は、最古のオーヴァードの一柱である誘惑者と呼ばれるリエゾンロードが、自らの活動の中で発生した抜け殻(クリファ)である。
 古き時代、原始ユダヤ世界における神の偶像として崇められた"誘惑者"の脱皮した鱗。
 人類の歴史が始まる以前より存在すると噂される長生種の抜け殻が強大なEXレネゲイド……即ち遺産として変化したもの。
 それが有する能力は多岐にわたるが纏めれば『人類から蒐集した意伝子を元に進化を齎す』こと。膨大な時間をかけ、人間の情動、ミームを集積し、それにふさわしい成果を叩き出すという。

 その実態は後の時代において発見されたアルティメット・ワンに近しく、似て非なるもの。
 故にこそ、誘惑者が切り離した物体で作られたそれは生まれた時点からジャーム化しており、その進化が人間に寄与するものは滅び以外にあり得ない。

ナタリー・ガルシア :「それでは、全てが無意味だったのですか?初めから破滅が定められていたのであれば、その全てが……」

誰かに問いかけるというよりも、自問自答に近いつぶやきをこぼす。

灰院鐘 :
「……天命」

 ふと口を衝いた言葉を、青年はかぶりを振って打ち消した。

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :
 客観的に見て是とするが、私的には否とする結論。
 私情を語ることは幾らでも出来るが即ち、

ダン・レイリー :
「終わることが定まっていて、それを知らないうちに積み上げられた道中の過程が無駄になるのか?
 如何なる形でもそれを結論するのは当時の者であり、左右するのはその事実に向き合った当時の決定だ」

ダン・レイリー :
 定めたものがいたとしても、そうでしかない結論だ。
 言う意味はないから言わないが………当時の者達にとって、それは無価値などではなかっただろう。それは個人にとって価値があり、意味があるものだ。

 しかし人間の歴史として判断してみれば、この系統樹から何かが育まれることはなかった。
     ミーム
 後に続く意伝子などは、何も。その点において無価値と呼ぶならば一理を認めざるを得ず、なるほど悪意のある皮肉とも言わざるを得ない。

ダン・レイリー :…閑話休題。

ダン・レイリー :
「だが彼の古代都市ソドムというやつはいま現在にも、その名残を残している。
 ………動機がなんであれ、遺憾ながら困った方向にな」

アトラ :
「そりゃあ、まあ…… ……ダメな方には転んじゃうのか。その上で今なんだ」

 抜け殻により齎された智慧は人々に影響を齎し…… ……その結果が滅びなのだから確かに最悪だ。
 当事者たちが“そういうもの”だと知らなかったのだとしたら、余計に。

ブルー・ディキンソン :「…………なんだそりゃ、遣る瀬ないね」

水無瀬 進 :
「……違いない。
 その行為と結末は彼らだけのものだ。たとえ受け継がれ伝えられることがなかろうとね。
 後世に影響しなければ、そいつはないも同じで意味はない……なんて言うなら、それこそ馬鹿げた話さ」

灰院鐘 :
「…………」

 誰に語り継がれることがなくとも、かつてあった営みの意味が失われるわけではないと。静かな肯定を尊ぶように、青年はそっと顔を綻ばせた。

水無瀬 進 :
「まあ……それはそれとして。一技術者として、作った代物が全部どうしようもないって設計の段階で叩き返されたことを考えると。
 正直キツいとこはあるけどね」

ダン・レイリー :
「それはそうだろうよ。初めの一歩から間違っていた、と突き付けられておいて、尚も『挫折』とか『再出発』とかで区切れるなら苦労はしない」

ダン・レイリー :
「そうであってほしくない、と思うこともな」 

 その上で僕は私見として、
 かつて誰かに言ったことを暗に反芻するわけだ。

ナタリー・ガルシア :「…………そうですわね、どちらにせよ終わった話に意味を見出すのは、今を生きる私達ですし」

ディアス・マクレーン :
「……色々とついてけてるか怪しい所はあるが、まあ、そいつを今、頗る悪く遣おうとしてるのが、シャンバラって訳だな。
 ひでえ話だな、それじゃまるで墓暴きじゃねえか」

ダン・レイリー :
「ああ。そういうことだと判断できる。
 遺産のタチの悪さを分かっていてのことなのかは知らんが」

ダン・レイリー :
「誰に残されたバトンでもなく………。
 先の話の限り、都市に残るどんな名残を今の『無価値なる者』が宿したのかも分からんが。
 そいつがジャームである以上、無節操な進化を続け直して貰う訳にゃいかんだろう」

ブルー・ディキンソン :「……」

ブルー・ディキンソン :「……例の"預言者"って、どこまで知って協力なんてしてるんでしょーねェ……」

ダン・レイリー :
「“エヴァンジェリン”か。
 ………」

ダン・レイリー :
 …ヤツはナタリーを向いていた。
 僕が知っていることはその程度だが、この娘は僕よりもほんのわずかにコンタクトが早い。

ダン・レイリー :
「ヤツについては………どうかな。
 ソドムとの関係性は、シャンバラの関係者では最も高いと考えられるが」

アトラ :「…… ……」 難しい顔。少なくとも単純に使われてるなんてことは無さそうだなあ、とは思う。

紅 蘭芳 :
「彼女なりの欲望がある……ってことなんでしょうけど……」

ブルー・ディキンソン :
「"シャンバラ"は……幹部の人となりを見るに。
 "遺産そのもの"に用があるメンツと、"遺産を使った後"に用があるメンツに大別できそうですね。
 技術屋と戦争屋ってカンジで」

ブルー・ディキンソン :
「"預言者"……アイツ、どっちでもなさそうじゃありません?
 我々の最初の会敵(ランデヴー)時も、そういう印象がありました」

ダン・レイリー :「成程。………」

ダン・レイリー :
「あの時、ヤツの感情は最初から最後までナタリーに向いていた。というより、恐らくは他を眼中に入れた様子がなかったとでも言うか。
 ………しかしそれならば後者とも判断できる。根拠を聞けるか?」

ブルー・ディキンソン :
「正直乏しいと言わざるを得ないですが──、
 "預言者"の言っていたことに2点ほど」

ブルー・ディキンソン :
「ひとつ、"ラクシャーサ"相手に言っていたことです。
 "まずはおまえたちの望みを叶えるがいい。
 その間、契られた新約は全うすると誓おう"。
 ……後者だった場合でも、言えそうではありますが……。
 他の幹部連中の望みを叶えさせ、その後に自分のを、って言う風なカンジありました」

ブルー・ディキンソン :
「ふたつ、奴が撤退する時に言った……"活動限界"という言葉。
 シエルちゃん曰く、"預言者"もまた遺産と契約している。
 主にそれに関わることなのかもしれないですが───」

 ここまで述べた上で……、と。
 "自分の立場"で話せそうなことは話した。
 そのため、ミリアに一瞬だけアイコンタクトを飛ばす。

 補足よろしく、と。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……都市と契約しているという事実を踏まえて考えると、あれは都市内部においては絶対的な権限を持っていると考えるのが妥当でしょうね。
 例えば、オーヴァードに対する能力特攻……一部の力が使えなくなる、とか」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「或いは内部でのみ使用できる武装が存在する、とか。
 だからこそ、そこから離れることが出来ないし、離れて行動するのにもある程度制限もかかる」

ダン・レイリー :
「………都市との契約に加えて権限か。
 少なくとも、この古代都市ソドムと最も密接に繋がっているのがエヴァンジェリンなことに代わりはないだろうな」

ダン・レイリー :
「断片的な情報からも推測は出来る。

 既に遺産と契約したエヴァンジェリンは、シャンバラと何らかの利害一致で動いている可能性………。
 あるいは………」

ダン・レイリー :………此方はあまり考えたくないが。

ダン・レイリー :
「ジャーム化している遺産と繋がる可能性が最も高い者。それが、都市の心臓たる件の抜け殻がため込んで来た意伝子に引き摺られるなんてことが、もしあり得るのであれば。

 そうすれば、乱暴な結論だが“知っている”“知っていない”などは問題じゃあない」

ブルー・ディキンソン :「……なるほど」

ブルー・ディキンソン :
「……彼女がナッちゃんにだけ視線を向けていた理由、
 ぼんやりと掴めてきそうですねェ。

 そうだったとしても、そうじゃなかったとしても……」

ナタリー・ガルシア :「…………」

SYSTEM :
 折しも、僅かな沈黙を破るように。矢庭に鉄の自動ドアが稼働音をたてた。
 静寂が包む部屋の中で、女は悠然と硬い足音を立てて数歩前に出た。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「…………どうやら、丁度良い頃合いのようですね」

 金砂の長髪を悠然と靡かせて、凛とした表情を崩さない鉄の女。リリアは、変わらず透き通った瞳で一同を見遣る。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……話の前に、まずは謝罪を。
 私は意図的に、皆に伏せていたことがあります。
 『エヴァンジェリン』と、その都市について……本来知っていることを、口にせず黙していました」

灰院鐘 :
「……リリアさん」

 おっとりとした微笑が、硬い跫を迎え入れる。彼にしてはめずらしく、それ以上の歓迎はなかった。

 青年はただ待つだけだ。
 為すべきを為し、語るべきを口にすると誓ったひとの言葉を。

ナタリー・ガルシア :「…………ですが、それは理由があってのこと、ですわよね?」

平静を保っていた瞳が、その金糸の長髪を目にした瞬間――揺れる。
口から漏れたのは問いかけではなく、思わずこぼれた言葉だった。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 問いに、静かに頷く。
 或いはそれは、不安を察して宥めるような思惑もあったかもしれない。

「私は、エヴァンジェリンを識っている。彼女の正体と……恐らくは、目的とするところについても」

ダン・レイリー :「…成程」

ダン・レイリー :「その目的については、いまこそ聞かねばならないことと判断しましょう、リリア・カーティス。
 彼女は………“エヴァンジェリン”は、なるほどシャンバラの中でも異質だった」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「はい。私も任務を抜きにしても、彼女を止めたいと思っている」

 ダンの言葉に静かに答え、彼女は続ける

「……エヴァンジェリンは、正確に言うならば遺産の継承者ではありません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「彼女が人工島の遺産を使用できること。
 彼女が島より出ることに制限が掛かっていること。
 彼女が遺産と繋がっているにも拘らず、能力を十全に行使できないこと……」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「それらから導かれる答えは明白です。
      ・・・・・・・・・・・・
 彼女は……遺産から発生した人工生命なのです」

ダン・レイリー :「遺産から………発生した?」 

ダン・レイリー :
 遺産“が”生み出したのか?
 遺産を通して、誰かが生み出したのか?

 ………ではそいつはなんでそこにいる?

アトラ :
「ど……どゆこと?そういうことってあるもんなの?」

ナタリー・ガルシア :「…………」

ハーヴァが、皆の幸せを願って生み出した都市の管理者。

灰院鐘 :「……どう?」アトラのそういうことってあるもんなの、に続くように勇魚に訊ねる。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ない、ことはないでしょう。
 遺産に意志が存在すること。時としてそれは人格を持ち語り掛けることもある、とするならば、或いは」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「彼女は都市の意志を代行するために作り出されたもの。
 都市を管理するために、その能力の粋を以て作り出された存在。

 自立型大規模都市管理人工知能……
 そうして作られた都市を管理するためのプログラムが『意志』を持ち、形を成し……そこに顕現せしもの」

ナタリー・ガルシア :「では、彼女は心を持ち、己の意志で以て行動している、というわけですわね」

向けられた眼差しに込められたものが、彼女自身の意志によるものであれば――あのとき感じた、彼女からの思いやりにも似た尊重の意志はやはり間違いではなかったのだ。

灰院鐘 :
「そうか、たしかに」

 青年はあっさり頷いて、事実を受け入れた。

 意思があり、人格を持ち、心と呼ぶべき情操を有しているのなら、正体がなんであろうと彼にとっては"尊い生命"のひとつだ。

 それ以上でも、それ以下でもない。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「レネゲイドウイルスには、ごく僅かな例にそうした者が現れます。EXレネゲイドとの違いは、主体がモノにあるかレネゲイドにあるか。
               Renegade Being
 彼女は主体から分離した、"レネゲイドより生まれし"存在。
 彼女は契約者というより、その一部。今風にたとえるなら、そう。
 マザーAIとでも言いましょうか」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「尤も、"ラフメタル"の言うように彼女はAIから生まれた存在でもありますが……その意思があり、人格を持ち、その精神は人の心を複製した。
 そして他の生物と同じように、死因を経れば死に至る。彼女の行動は、何者かに操られた結果ではないのでしょう」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──それに。
 守るべき民も、その足跡も、己の身体さえも失った彼女が。
 次に何を始めるかなど。分かり切ったことですから」

 静かに目を伏せて、何かに想いを馳せるように語る。
 エヴァンジェリン。福音の名を与えられたその意味。それは或いは、かの都に嘗て住まう者達にこそ与えられたものだった。

ナタリー・ガルシア :「…………」

ダン・レイリー :
「もう一度、始めるしかない。
 そう定義されて生まれたモノとして。あるいは、命令するモノのいない状況で、誰に言われるまでもなく自発的に………」

 あるいは、もっと別の結論だが。
 彼女の言い方や、エヴァンジェリンの発生プロセスから、“自暴自棄”に辿り着くことはないだろう。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 然り、と頷く。
        ・・・・・・・
「彼女の望みは、古代都市の再興。
 自らを縛る鎖を解き放ち、失われた文明を取り戻し。その魂に刻まれた使命を全うすること」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「けれど彼女の存在は、現在の地球には赦されていない。その使命が果たされたとき、それはこの時代が終わることを意味している。
 そして──彼女はその事を斟酌することはないでしょう。或いは認識さえしないかもしれない」
 

灰院鐘 :「……衝突は免れない。彼女も、僕たちも、譲ることなんて出来はしないから」

アトラ :「…… ……それが彼女のやりたいことなら、そりゃ譲れないかぁ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「彼女の守るべきものは、飽く迄『都市の人間』だけ。
 そして都市の人間とは契約者……その因子を登録された一部の人間だけ」

 外の世界が如何なる様相を呈していようと、誰が交渉に出ようとも変わらない。
 その種がほぼ絶滅した現代においては。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……そしてアポクリファ・クリフォト。その正体が正しいのならば。
 彼女は既にジャームとなっているのでしょう」

「滅び去った都市を、託された世界を、育て続けた日常を。
 とうの昔に喪われたそれらを守るという妄念に、駆られ続けている」

ダン・レイリー :
“エヴァンジェリン”の定義する世界と使命を有するもの………。 
 それは都市の人間。そしてそれこそが、契約者なのだという。

 事此処に至って、あの違和感は腑に落ちたが………。

「文字通り………時計の針が進むことはないか。
 始まりを思えば、なんとも無情な話です」

灰院鐘 :
「……失ったと思えないのか、あるいは受け入れることができなかったのか。彼女は……気の遠くなるような時間を、妄執の中で過ごしてきたんだね」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「そんな時間を経た彼女が『契約者』を追うのは当然です。
 都市の意志が彼女ならば、それは市民を求める筈。
 そして、市民なきままでは彼女はその力を振るうことが出来ない。
 そこから先は権限を越えています」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「だからこそ、市民ではないものの、その都市を利用しようとする『シャンバラ』に手を貸すのでしょう。
 彼らは動機はどうあれ、その都市を復活させるために動いている。彼女はそれを、今持てる権限を最大限に遣って支援しようとしたのでしょう。

 ──これが、恐らくは『新約』。

 AIとしての機能を作られ、最初に創造主と結んだ『旧約』とは別の、異なる時代の民と結んだ協定なのでしょう」

SYSTEM :
 『旧約』の上では、それは強制力を持たない。民の自由意志によって導かれるべきものだが。
 『新約』、シャンバラと結んだ契約に則る限りにおいては、その強硬が赦される。
 相互に矛盾するのは、恐らくは都市の運営を優先するロジックとなっているのだろう。

ダン・レイリー :
「民のための都市でなく、都市のための民。
 ………手段と目的の優先順位があべこべだ」
       Overed
 だが、それこそ超人の一線を越えた先…ジャームの所作でもある。

ダン・レイリー :
「切欠がなんであれ、それを以てシャンバラと足並みを揃えた………。
 ソドムの外を勘定に入れていない者と、ソドムの復活を障害とも思わない者。お互いの欲望がかち合わないならば、確かにそうなるでしょう」

 お互い、世の中の運営については別ベクトルで“どうでもいい”と来た。
 欲しいものの本質については正反対だ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
      エヴァンジェリン
「……成程。『 福 音 』という名前は、純粋に大型セル「シャンバラ」にとっての未来の栄光を示すものではなかったんですね。
 あのセルは、良くも悪くも自由という混沌を象徴していた。欲望が衝突しない間は手を結び、いざぶつかり合えばその場で殴り合い雌雄を決する」
 すべての意志が此処に明らかとなり、ミリアはかつてそこに属した者の一人としてそうまとめた。

ダン・レイリー :
「その名前こそが、エヴァンジェリンと呼ばれるマザーAIの存在理由であり行動理念なのだろう。
 ………それ故に彼らの初手はああで、失敗したからこそ今の状況があるわけだ」

ブルー・ディキンソン :
「……」
 あまりいい顔はできない話だ、マジで。

灰院鐘 :「それに……残すところは今の世を顧みることのない面子だけだ。いまさら彼らの衝突は期待できそうにないね」

アトラ :
「…… ……そっすね。そうなったらなったで街が大変だろうし」

 元々は、その『新約』やら何やらの中に《浄化の柱》をどうにかする話もあったわけだ。
 ……いや、別に惜しんでるワケじゃないけど。希望自体は繋がってるし。

ナタリー・ガルシア :「…………」

与えられた使命すら果たせずに、ただ一人、あの都市から出られなかった彼女は何を想ったのだろう。
何千年と続く孤独の中、生まれた意味すら果たせずに……彼女は何を抱いていたのだろう。

水無瀬 進 :
「……人工知能ね。さしずめ人工ハチ公みたいなもんか。夢があるんだかないんだか。
 勝手に掘り起こされていいように遣われてるっていうのは、何ともむごい話じゃないか。製作者はどんな気持ちなのやら」
 はあ、とため息を一つ

ダン・レイリー :
「さあな。少なくとも………。
 製作者が、その当時を善くしようと尽力したことに違いはない。
 嘆くとすれば、掘り起こされる以前かもしれんが………」

ダン・レイリー :
「ただ、最善の方法が最善の結果を生むとも限らないんだ。
 ………それに“掘り起こされた”まではそうでも、行動を起こしたのは“エヴァンジェリン”だよ。それが自分の要る意味だと考えてな」

ダン・レイリー :
 となれば後はショウの話じゃないが、
 ぶつかってやるしかない。

灰院鐘 :
 ……正しいことをやっていても、悩みはなくならない。いつかの話を思い出す。

灰院鐘 :
 だが、その話には続きがあることを、青年は知っている。

「それが本当に良いことなら、いつか、どこかで返ってくる」

灰院鐘 :
「そう信じて、ぶつかるしかない。僕は……失われたものではなく、今を生きる人のために明日があってほしいから」

ダン・レイリー :
「………そうだな。
 僕はきみにそう言った」

ダン・レイリー :例えばそれが何時になろうとも………だ。その言葉は遠回しの肯定ではあった。あるいは生きるものが生きていくにあたって、そうしていくことでもあった。

紅 蘭芳 :
「……ずっと昔の、別の何処かの『日常』。
 きっと、そのエヴァンジェリンって人も、私たちと同じように自分の世界を守ってきた。

 ……だからこそ、ぶつかり合わなきゃいけないこともあるんですね」

 とても規模が大きく漠然とした話を、自分の尺度で解釈するのは、彼女の利点であり欠点であった。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……それにしても。
 そんな情報、いったい何処で? シャンバラの資料を獲得していた私にも、そこまでの知識を得ることが出来ませんでした。
 確かにエヴァンジェリンに関しては、あまり調査が進まなかったんですが……」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……そのことですか。
 何のことはありません」

 リリアはその問いに、静かに目を伏せて。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
   ・・・・・・・・
「──私が当事者だからです。
 ……尤も、普段は誰も信じる人はいませんでしたが」

灰院鐘 :「とっ」

灰院鐘 :「……うじしゃ」

灰院鐘 :って、あの……? という顔で勇魚を振り返り、大尉を見て、あらためてリリアに向き直る。

ナタリー・ガルシア :「…………」

ダン・レイリー :
「───………何ですって?」

 向けられた視線に対する回答さえ、
 一瞬遅れた。
 ・・・
 当事者。そう。つまり。

ブルー・ディキンソン :「───……」

アトラ :
「…… ……うえっ?」

 またまた、御冗談を~。とか。そんな若いのに~とか。ふざけている間がない。

ダン・レイリー :
「………当時に、居合わせていたと? まさに生まれる瞬間でも見たと?
 そんなバカな。ソドムは貴女や“ジューダス・マカービアス”の言うように古代の都市。まさか数年単位で一連の出来事が行われるわけが………」

ダン・レイリー :
 ………口にした俺自身が、正直なところその結論と可能性に困惑している。

 ………レネゲイドとは、時に物理法則もあったもんじゃないと聞くが、まさか───。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「な……にを」

 瞠目する表情に、恐らく嘘はない。勇魚も、この時初めて耳にすることだったに違いない。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あなた達が目の前にしているのは、四千年以上の時間を生きた怪物であると。
 そう申し上げているのです。
 尤も、それを外の人間に知られるわけにも参りませんでしたので、先の情報諸共黙していましたが」

 今の面子には、特に隠すほどのことでもない。案じる様子のナタリーに目配せで応じながら

ナタリー・ガルシア :「…………化け物、などと、そのように言わないでください」

灰院鐘 :
「…………」

 青年はぽかんと口を開けたまま、リリアの言葉を聞いていたが、

灰院鐘 :
「びっくりした。ものすごく長生きなんだね、リリアさん」

 なるほど! とまじめに頷いた。

アトラ :「……い、いやいやいや。そんなスッと受け入れられるもん?」

ダン・レイリー :………本気で“ソレ”で済ませたな、ショウ。確かに、重要なのはそこではないということか。

ダン・レイリー :
「………成程………。
 ごく正直に、生まれてから三番目に大きいサプライズを喰らった気分であることは否定しませんが」

ブルー・ディキンソン :
 全ての合点がいく。
 レイラのあの反応も、この情報の詳細さも、その全てが。
 隠している理由に関しても、まあ、頷けなくもない。

「……ま、そう考えれば全ての辻褄が合いますからね」

灰院鐘 :「うん。何年生きてたって、リリアさんであることに変わりはないし。好きな人が長生きしてくれてるのは嬉しいよ、僕は」

アトラ :
「そっ…… ……そうかもだけど……!」

 ……いや、確かに。
 今思えば、レイラが立ち会って初めて感じたような脅威……その正体は、彼女の告白したような部分に起因してたのか。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《……なんだ、しっかりやばい奴じゃん。
 リエゾンロードをも打ち倒したって噂だけど……ははあ。
    ・・・・・・・・・・・・
 そりゃ当人がリエゾン何某と同格ならではの話ってわけだ》

 恐らくレイラが一番にその脅威に気付いたのは、強力なレネゲイドを扱う故に、あまりに膨大過ぎる何某かを知覚してしまったから、なのだろう。
 或いは、それに関連する遺産を自ら手にしていた故か

ダン・レイリー :
 ………咳払い。

 少々どころでない驚きがあったことを否定する気はないが、改めて聞くと、ただの一言にも拘らず、齎した衝撃は並ではなかった。

ダン・レイリー :
 ………時計の針が止まっているのは、リリア・カーティスもだが。
 それでいて、この者は一線を越えずにやっていけた。 

ダン・レイリー :
 口にしなかった理由も当然だ。
 これが珍しいが、珍しすぎる話ではない程度のものだったならば───。
 きっと、あまり喜ばしくない扱われ方をするだろう。であれば。

ダン・レイリー :
 確かに───。
        Overed
 この人間の前で、超人は名乗れまい。

ダン・レイリー :
「僕はレネゲイドウイルスの専門家でもない。
 そのメカニズムについて追求する気もありません。恐らくは理解出来るかも自信はない。
 ………しかしそういう経緯と因縁があること、その上でいまそこにいること。それは、理解しておきましょう」 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……ごめんなさい、失言でした。あなたの矜持を汚しましたね、ナタリー。
 今の言葉は聞かずにおいてください」
 
 穏やかな口調で、彼女は応えを返す。
 静謐に瞼を開けて、リリアは続ける。

ナタリー・ガルシア :「…………」

いいえ、と、力無く首を振る。今論じることではないし、論じるべきことでもない。

ディアス・マクレーン :
    Jesus
「…………マジかよ」

 唖然とした様子でディアスはあんぐりと口を開けていた。

水無瀬 進 :
「…………」

 水無瀬は珍しく、何か物思いにふけるような様子でそれを見ていた。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「受け入れがたいのも、無理もないと思います。
 私自身、平時であれば然程隠すこともなかった。
 ──それも訊かれなかったから、ではありますが。
 よしんば、それを耳にしたとて多くは信じもしません」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「このリリア・カーティスという名も。18世紀にランカスター王家の騎士として叙任された折に頂いた名。
 そうして名を変え、身分を変え、時代を渡ってきました。
 すべては──遺産が齎す災いを鎮めるために」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「本来ならば、これは早期に伝えておくべきことだったのでしょう。
 ですが……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……『ソドムに関するすべての情報』が渡っているという事実が、米国に漏れることとなる。
 そうなると合衆国は、今回の作戦で手を結ぶ筈がないということですね」

 言葉を継ぐようにミリアは冷静に口にする。
 飽く迄重要な部分は古より生きていることでなく『古の知識を握っている』ということ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 それが知れた時点でUGNの裏の目的は勿論、共同戦線という流れを作ることも難しく
 何より……古代都市の正体を知ることはこのシャンバラ攻略戦において然程のアドバンテージではない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 都市の解放は結局の所『通れば必殺』の手段でしかない。
 現に今の戦線を勝ち進んでいるのは、テンペストや合衆国の協力あってのこと。まず最初の関門としてシャンバラの勢力を殺がねば、都市の攻略に当たれないのだ。

ダン・レイリー :
「そうだろうな。
 ソドムの正体、技術。今の持ち主。知って“そうですか”で流すようでは国家としてやっていけん。

 ………となれば、共同戦線は宝の山扱いになるやもしれんソドムの抜け駆けに早代わりで、もしもそうなればこの船はタイタニック号になってしまう」

ダン・レイリー :「………そうだな? 少尉、ミナセ」

ダン・レイリー :GM。………使用のタイミングと判断する。

ダン・レイリー :
『七色の直感』の行使を希望する。

 少尉………は、まあ別にいいだろう。
 ミナセ。思ったよりこちらの衝撃が軽い。物思いに耽ったのは“何故”だったかは分かるか?

GM :ふうむ、いいでしょう

GM :目標値は伏せます

ダン・レイリー :成程。

ダン・レイリー :…判定を行っていいか?

GM :どうぞ!

ダン・レイリー :6dx+1 〈知覚〉 (6DX10+1) > 10[1,3,7,8,8,10]+7[7]+1 > 1

GM :ふむ いいでしょう

水無瀬 進 :
「ああ、それもそうだ。
 あそこに埋まってるもののひとかけらでアレなんだ。うちなら是が非でも手に入れたくなるってもんだろうし」

水無瀬 進 :
「何より制服の連中は揃いも揃って現場の人間なんか見やしない。
 賢明な判断だと思うね。現にこうしてトントン拍子で討伐は進んでるし」

 ……語る水無瀬の言葉から、嘘偽りの色は見受けられない。少なくとも先の考え事の折に感じられたのは、打算の類ではなかったように感じられた。
 

水無瀬 進 :
「でも……気になることが一つ。
 そもそもなんだけど……」

ダン・レイリー :「気になること…か?」

灰院鐘 :首を傾げる。

水無瀬 進 :
         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リリアさん、実はその気になったら自分一人で連中ねじ伏せられるんじゃないの?」
 

灰院鐘 :「そうなの?」と当人に水を向ける。

ダン・レイリー :
 ………なるほど、と内心頷く。

 ミナセの思考は別の意味を見出したが故の思考時間ではなく、
 その存在の、リリア・カーティスの立ち位置とパワーバランスに疑問を見出したが故の沈黙だったようだ。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
《そうそうソレソレ! あたしが言いたかったんだずっとソレ!
 このあたしでもコイツ無理だわって思うレベルなのに、なーんで動かないのかなーって!》

 表に出れない代わり、アトラの脳内でさながらテレビ傍らに野球観戦する大人よろしく叫び倒し

アトラ :
(そりゃまあ何か理由が…… ……いやいやいや盛り上がりすぎ!他にゃ聞こえてないからって盛り上がりすぎ!)

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……そうですね。
 ・・・・・・・・・
 被害を考えなければ……或いは、私が出れば済むことであるのかもしれません。
 ですが、それではいけないのです」

ダン・レイリー :
「(………相対してはならぬ相手がいるか、あるいは)」

 シンプルな話だ。
 その形の勝利をしては、後が続かないと判断したのか。
 ………あるいはもっと別のことか。

ダン・レイリー :
「全てが未知数のマスターテリオンとの交戦についてはともあれ………“ブラックモア”の麾下戦力は最初の交戦で民間人を盾とすることを辞さなかった。

 これを構わず殲滅させては、UGNの道理が、これに協力を選択したテンペストの道理が通らん」

ダン・レイリー :………その見極めは、どうにも俺が判断することではないだろう。目下、遠回しの『過剰火力』という言い分に理解は示す。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……それに加えて私はベセスダ周辺の国の電力状況を賄う必要があった。
 そして……私は、エヴァンジェリンと争うことは出来ません。『私自身の意志』では、決して」

灰院鐘 :「リリアさん自身の意思では、エヴァンジェリンと戦えない? それって、どういう……」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──友との誓いです。
 それを破らぬよう、契りを結んだ故のこと」

ナタリー・ガルシア :「…………ハーヴァとの、約束」

灰院鐘 :「ハーヴァ……?」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「それに──それのみに留まらず、私自身の願いもあります。
 或いは、あなた方には迷惑な話かも知れませんが」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──私は、そも、この時代の人間ではない」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「同じ時間を生きていない私が、異なる時間を生きている人間の世界に干渉し、すべての禍根を除く。
 それは、その時代を生きる人間にとっては喜ばしいことなのかもしれない。

 ……ですがこの時代の人間でもない人間がそれを解決するという行為を、私には認められない」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
      いけにえ
「ただ一人の 人 間 によって成り立った世界が脆く淡いことを、私は知っています。
 この目で、見てきました」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「今を変えられるのは、今を生きる人間だけであるべきです。

 歩調が遅くとも。私は人が人自らの意志で問題を解決し、未来へ進んでいくことを。それが出来る存在だということを信じたい。

 人が本当の意味で、レネゲイドのしがらみから解放されるその時まで」

灰院鐘 :
 そっか、と青年は寂しげに笑った。

 俯瞰の視座を持ちながら、彼の視野はあまりに狭い。差し出せるものがあるのなら、迷わずにそうする。
 それではいけないのだと、実感を帯びた声で説かれても。誰かの代わりに背負い、自らを損なおうとする生き方をやめることはないだろう。

灰院鐘 :
 そして──

 自らが生きていくためではなく、
 ・・
 そこにいる人々を想って彼は戦う。

灰院鐘 :
「先のことなんて、僕には分からないけど」

灰院鐘 :
「未来に希望を持つなんて、あんがい無責任で、自分のためにすることなんだって」

 そうなったらいいという祈り、願い。確かなことなど何もないが、続いていくかぎり"いつか"を目指すことはできる。

灰院鐘 :
              ・・
 だから、と青年は微笑んだ。そこにいる彼女と、彼女の信じる未来を想って。

「リリアさんにも願いがあって、そのために僕たちを頼ってくれる……こんなに嬉しいことはない」

ナタリー・ガルシア :「……………………………」

その通りだと、開きかけた口を閉ざす。
人は自らの意志で進むべきだ、その言葉にナタリーは心底同意する。

だが、それはリリア・カーティスとも灰院鐘とも違う。
人々を信じているからでも、未来を信じているかでも、ない。

ナタリー・ガルシア :
もっと自分本位で、醜い――夢の中で気づいてしまってから、胸の奥に押し込めていた感情だ。

夢はただのきっかけに過ぎない。
それはずっと、ずっと昔から――あるいは、生まれたその時から。

自分や、自分の大切なものが苦しんでほしくないという極々当たり前の願い。

ナタリー・ガルシア :
自分や、大切なものが苦しむくらいなら――

  ・・・・・・・・・・・・・・
――代わりに他者が苦しんでほしいという『普通』の考え。

誰かのために、他人のために、苦痛と責務を『大切な人々』が背負わなければならないなんて――許せない。

ナタリー・ガルシア :
その身勝手な想い。
自己中心的な考え。
理不尽に対する、八つ当たりめいた憤り。

あの夜から何一つ変わらない、己の本質。

それを突きつけられて、ナタリーは口を閉ざすしかなかった。

ダン・レイリー :
 ショウの言葉を耳にしながらも、多少思慮に耽る。

 ………リリア・カーティスの言葉は、確かに、永遠に時の止まった人間のセリフだった。

ダン・レイリー :
 ………思うに。
 リリア・カーティスの戦いは、その四千年前から終わっちゃいないのだろう。

 彼女にとって、その戦いと、これから先は、別であるようにも聞こえたその言葉に、それ以外を見出したり、追求する理由も意味もない。

ダン・レイリー :
            タスク
「それが貴女自身が課した任務というなら。
 此方にも課した任務があります」

ダン・レイリー :
「誰にとっても例外ではない。
 故に誰が望むでもなく、ただ力を持ったものとして、するべきことをするだけです。が………」

ダン・レイリー :
 ・・・
 敢えて私見を出すならば………。
          ひと
「未来に希望を信じる貴女がUGNの看板を代行する立場であることは、正直に言えば喜ばしい。
 その願いを“已むを得ない”と翻さぬようにするのを、こちらの任務とすることも吝かではない」

アトラ :
「……まあ、正直……時代がどうのとか、あんまり飲み込めてるわけじゃないですけども。
 あとまあ、確かにメーワクっちゃメーワクですけど……結局やるしかないですし?」

 それはそれ。そも、もっと迷惑なことがこの身に起きているし。
 だから元々彼女の願いに報いるだとかは、あんまり素直に考えきれるわけでもなく。周囲の空気も、深く察せるわけでもない。

ブルー・ディキンソン :
 ブルーは現時点において、口を開くことはなかった。
 開くと何を言うか、自分でも想像がついていたからである。
 その上で、考えを巡らせ──結論として、やはり私はこの組織(UGN)とは合わない事が分かったくらいだ。
 この依頼を受けたのはミリア個人との縁によるものが多いというのは、漸く実感を持てた。

 少なくとも二点ほど、UGNという組織に気に入らない点はあった。
 ……それを言っても仕方がなく、また只の主義主張の違いでしかないため、言及は避けるが。
 私がこの組織と関わっているのは……そう、あくまで、金払いがいいというだけだからだ。

 そしてこの状況においてブルーが口を開くとすれば──アトラの発言に便乗するときだけだ。

「まあ──巻き込まれたクチですから、私も」

水無瀬 進 :
「……まあ別に、押し付けも強制も教化もしてない。別に理由がないでもない。
 やれる奴がやらないと後ろから指さすのは筋違いもいいとこでしょうな。

 ただ……今を生きる人間に託す、ですか」

 ふうん、とつまらなさそうな表情で男は相手の言葉を反芻する。
 

水無瀬 進 :
「そこに立ってそう生きてるなら、あなただって別に僕らと変わらないでしょう。百歳だろうと千歳だろうと。別にくたばったワケじゃないんだ。

 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
 生きてる限り永遠に、世界と無関係でいられないのだし。
 だから隠居して趣味で人助けでもしてりゃいいものを、わざわざこんな胡散臭い組織の頭にまでやってきたんでしょう」

水無瀬 進 :
「変なレッテルを自分に貼って距離置くの、どうかと思いますけどね」
 
 やれやれ、と肩をすくめて

灰院鐘 :「進さんは優しいね」

水無瀬 進 :
「そうかい? 君程じゃないさ。
 僕は引っ掛かる所があったからそう告げただけだし」

灰院鐘 :(予備動作)

水無瀬 進 :
「待て待てステイステイだ」

ダン・レイリー :「ショウ」 後でな、の名前呼び

灰院鐘 :は~い

ダン・レイリー :そしてなるべく加減をしてやるように。

灰院鐘 :がんばる!

ダン・レイリー :
「その胡散臭い組織が、この件に関しては、これからも此処からも手を組んでいく相手だ。
 だからとて引っ掛かりを留める必要もないがね」

 おまえらしい言い方ではあるな、と。
 特に否定はしない。僕の発言はあくまでもタスクの一致に関する結論と僅かな私情だ。

ダン・レイリー :「で、少尉。おまえからはどうだ」

ディアス・マクレーン :
「…………正直さっきからスケールがデカすぎてついてけねえけど」

 ふう、と吐息をついて

ディアス・マクレーン :
「元々そいつが仕事だろ。
 そいつに年上の美人の頼みが乗る。そんだけだろ?
 猶更無碍にゃできなくなっちまったな、こりゃあ!」

ダン・レイリー :

ダン・レイリー :
「そういうことだ。
 モチベーションが変わらんようでそこは結構、来週に聞き慣れた愚痴なぞ零すなよ」

灰院鐘 :「……勇魚くんはどうかな」

灰院鐘 :「彼女に教わってきた君にこそ、答えを聞かせてほしい」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………、私は」

 勇魚は言葉に迷ったように俯いた。
 リリアの言葉に否やはなかったのだろう。託されたものを果たすその意気は確と存在している。
 自分の信じてきた人は、信じた通りに誇り高く、そして優しい人間だった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 であるにもかかわらず、勇魚の心境は複雑だった。
 少しずつ近づけていたもの。
 伸ばせばきっと届くと思っていたその手。
 それが、またひどく遠いものに見えてしまったような……
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「私は……」

 勇魚は自分の居場所の為に戦ってきた。
 それが自らの証明だった。
 故にこそ、彼女は自分を恥じた。
 答えを安易に出すことなど、出来なかった。

灰院鐘 :
「……勇魚くん」

 迷わない青年には、
 少女たちの慙愧を理解できない。

灰院鐘 :
 不理解、不可解ではなく、だからこそ性質が悪い。恥じ入る念すらも善性と認め、賢明と尊ぶ彼では、決して埋めることのできない溝。

灰院鐘 :
 恩を返したいと言った相棒。
 自分を善き人ではないと言った友人。

 ……教わったものを、正しく受け継ぐことができなかったと溢した少女。

 この数ヵ月ずっと傍にいた彼女の姿を思い返して、青年は──

灰院鐘 :
「宿題だね」

 靄がかった、穴だらけの記憶。懐かしいと思うこともない過去から引っ張り出してきた言葉を、そっと差し伸べた。

灰院鐘 :
「君も、ナタリーくんも。冬休み前の最後の課題というわけだ。……あ、こっちだとカリキュラム違うんだっけ?」

 どうだったかな、と困ったように。

紅 蘭芳 :
「……そう、ですね」

 紅は、それにどう応じるべきか……自分も、それを持ち合わせていなかった。
 言葉はやや曖昧だった。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……リリア局長の意向に応えられるかは分かりません。
 けど……あなたは別に、自分の意志を代行してほしい、とか、それを強いるつもりはないのでしょう?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「なら、今まで通り私のやりたいこと、やらねばならないことをやるだけ。
 それ
 責務から逃げる事、私は我慢できませんから」

     sense
 そういう意志が大事なんですよね?と、少女は強気な笑みを絶やさない。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「…………」

 リリアは静かに、各々の言葉を聞いた。
 その言葉に理解を示すものも、不服気に口を閉ざすものも、透き通った瞳はすべてを静かに受け止めた。
 彼女はそれを否定することも肯定することもなかった。
 それが醜い理由であろうとも、貴ばれるべき高潔さであろうとも。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
                     Sense
 どのような理由であろうとも、彼らが彼らの 意志 でそれにあたることに意味がある。
    sense           sense
 他者の 意思 を尊重し、そして自らの 意思 を信じる事。

 その故に、彼女は静かにこの場の各々の意思を肯定した。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「……そうですね、ショウ。私は我儘な人間です。周りの思う程高潔で高尚な人間ではない。
 けれど、最低限のけじめはつけねばなりません。
 アトラのように、あの遺産の生き残りによって被害を被ったものもいます。

 今度こそ、終わりにしなければ」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
 自らの素性と、敵の関係とを明かしたリリアは、静かに佇んだまま続ける。
「さて……口惜しいですが、私はこの本部の管理のために残らねばなりません。
 旅立つ前に……伺いたいことがあれば仰ってください」
 

ダン・レイリー :顎に手を当て、僅か考え込む仕草。

ダン・レイリー :
「此方からは特にありません。
 現状、この場で確認するべき情報は確認したと判断します」

 強いて言えば遺産周りの話だが、其方はなにぶん未知数だ。
 盲目な信頼というわけではないつもりだが、危険度の高いブツの情報を私情以外で惜しむ状況ではないだろう。

ダン・レイリー :
 ………それに個人として聞くべき案件は“ここ”では禍根を残す。
 テンペストの人間としてはこんなものだろう。総括にならないように、軽く周囲を見る。

ブルー・ディキンソン :
 手を左右に振る。
 "ありません"のジェスチャーだ。
 メンテが出来ていないせいか、関節部の鉄と鉄の擦れ合う音がする。

ナタリー・ガルシア :「お姉様、それでは……また」

アトラ :
「……う、うす」

 挙げられた名に大きく反応せず、ちらちらと気付かれない程度に軍人らを見。
 その後、同じく今問うことはない、と首を振って表しておく。

灰院鐘 :
「いってらっしゃい、リリアさん」

 青年の知るかぎりそれは送り出す者の言葉で、また、帰りを待つ者の言葉でもあった。

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「分かりました。
 ……私は此処で、あなた達の闘いを見守ります。この時代の闘い。シャンバラの闘いが、無事にやり遂げたならば。
 そして、真にこの槍を振るう刻が来たならば──
 その時。一人の戦士として、あなた達と共に戦の場に立つことでしょう」

 言いつつ、リリアは踵を返す。……立ち去る間際、ちら、とナタリーを見遣って。 

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「最後に……ナタリー」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「それは、あなたの罪ではありません。
 それは、あなたの咎ではありません。

 けれど……あなたが未来を望むなら、それに打ち克つための支えを、あなたが意識しなければならない」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「欲とはその場限りの望み。
 信とはその芯となる願い。
 欲に依らず、信に準じるとは……『自分が、何が大切なのか』を知ることでもある。
 ……少しだけ、考えてみることです」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
  コギト エルゴ・スム
「“我思う、故に我在り”
 ――その言葉の、意味について」

ナタリー・ガルシア :「欲と信……私が、未来を望むなら……」

単語の意味を拾い上げることができても、リリアが伝えたいモノを上手く掴み取ることが出来ずに口の中で繰り返す。
今、ナタリーが何に迷い、何を恐れているのか……そして、それに打ち克つために必要なもの。

ナタリー・ガルシア :
「……わかりました、お姉様。答えが出ずとも──いいえ、答えが出せるまで、考えてみます」

"高き者の箴言"リリア・カーティス :
「──武運を祈ります、ナタリー。
 そして、チーム『パラダイスロスト』……あなた達も、どうかご無事で」

 静かに目を伏せてそう告げた後、彼女は自動ドアの奥へと歩み去っていった。
 決して振り返ることなく。

ダン・レイリー :
 振り返ることのないその背を、此方の流儀で、ただ静かに見送る。
 
 今度こそ、終わりにしなければ───何事かに付けねばならぬ“けじめ”を持つことだけを確かに伝えたその者のことを、俺はそう多く知らない。
 あるいは、その“けじめ”にいかほどの(ある種当然の)私情を抱えているのかも。

ダン・レイリー :
 知らない、が。
 かつて見送ったあの日に垣間見たものが、この組織から失われていないということは幸いだった。
       ・・・・・・・・・・・・・・
 これは故の、成すべきを成そうと思った人間への敬意だったと、当時を独白する───。

SYSTEM :
 いま かこ
 現代と太古が、この移民の國で交差する。
 
 遥か古、未来を祈り築かれた先人の遺産は今も眠り続けている。
 目覚めと共に、かつての世界を取り戻そうと忘らるる都の中で願い続けている。

SYSTEM :
 預言者。
 その刻が来れば、争うこととなろう。
 彼女にとって……その失われた日常を守ることこそ、自らの存在意義である限り。
 
 彼女の守り続けた日常と、この時代が守り続ける日常は、決して相容れぬが故に──。
 

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ナタリー・ガルシア :私は大丈夫ですわ!

ブルー・ディキンソン :無いよ。

アトラ :ウチも~

灰院鐘 :改めて勇魚くんにロイスをとりたい。感情は〇友情/敵愾心だ。なんたってまだ勝負の途中だからね!

灰院鐘 :それから、ずっと忘れてたんだけど……

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :はい。……望むところです

GM :なんです?

灰院鐘 :ダンさんに対するN感情を猜疑心から無関心に変更したい。彼の"理由"を気にする必要は、ずいぶん前からなくなっていたからね

GM :なるほどぉ
まるきり無関心になっちゃうと勇魚から怒られそーだが

GM :いいでしょう!ともにキャラシへの記載おねがいします!

ダン・レイリー :“らしい”判断だな。僕とて半月で何もわからぬほどじゃないぞ。 

ダン・レイリー :そんな此方はロイスの更新ナシだ。当分そうだろうが、念のためな。

灰院鐘 :怒られるのは困るなあ

灰院鐘 :うん、しっかり書いておくよ

GM :オーケイです!

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :
【人物:"預言者"エヴァンジェリン/1】

ワークス/カヴァー:レネゲイドビーイング/FHエージェント
経験:喪失 邂逅/欲望:保持 覚醒:命令 衝動:妄想
エフェクト『オリジン:サイバー』『ファーコンタクト』
Dロイス『転生者』

 かつて存在したオーヴァード『ハーヴァ』を元に人格形成されたレネゲイドビーイング。
 遺産や賢者の石など、契約・適合というプロセスを必要とするEXレネゲイドには、程度の差はあれ意思と呼べるものが発生する。
 彼女はその意思を、外部の人間によって調律し、目的に沿って意図的に表出化させて生まれたRBである。
 古代都市ソドムを管理運営し、人間の意志判断では行えない域で社会を健全なものとする自動化機構、神託装置にして国防機能。
 本来特別な指向性を持たない『アポクリファ・クリフォト』を国家運営のために運用する為のマザーAIである。
 
 SODOMの一部であり、本来使用不能である都市の能力を行使できるのは、彼女自身が遺産の意思でもあるため。
 彼女は使用できる範囲のソドムの遺産やシステムの一部をシャンバラに提供することで、自らの契約者たる都市の民の子孫を捜し、本来の役割を果たそうとしていた。
 
 その性質上、彼女は原則的に都市の内部以外に発生できない。都市の外側……つまり自身の本体から離れて活動する場合、発生するポイントや行使できる能力に著しい制約が発生する。
 都市の外側にいる限り、彼女から攻められる危険性は考慮しなくてもよいだろう。
 

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……
 




【INTERLUDE ⑫】

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑫】

登場PC:Dan,Blue
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 ブリーフィングを終えた日の夜のこと。
                  アークエネミー
 表向きには幹部のうち三人を検挙し、 大 敵 マスターテリオンの野望を明るみとすることに成功した。
 それと共に、太古から続く因縁もまた同様に清算の時を迎えようとしている。
 先の会議にて倒すべき敵に関する情報は共有され、作戦も大詰めを迎えることだろう。残す処は最後に残る敵、ブラックモアの待つシャンバラ発祥の地、ニューオリンズのみ。

SYSTEM :
 少なくとも……表向きにはそういうことになっている。
 現場の人間からすれば、それを全うする事こそ使命。
 だが作戦の裏で絶えず行われてきた政戦は、全く無視できるものではないことも事実である。
 そろそろ外患ばかりでなく、内憂に目を向けなければならない局面でもあり、その為の手札はそろいつつあった。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「さて……」

 ダン・レイリーとブルー・ディキンソンが案内されたのは、UGN本部ビルの屋上。
 寒風吹き抜ける夜空の元、二つに結い纏めた金の髪を流しながら、ミリアは話を切り出す。

「この本部近辺は一部リリア局長の電波制御で通信機能の殆どをコントロールされてます。盗聴の危険はない。
 そして此処なら人目につかないし、万一身内から探られても割れることはないでしょう」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ここなら多少デリケートな話も出来る。
 仮にも祖国の恥部、触れ得ざる領域の話。
 これから行うやり取りは、飽く迄事情を知るものだけが知り、為すべきを為せばよい。
 

ダン・レイリー :
「“知ってはいけないこと”だからな」

 冗談めかして、先ずはその防諜の主要因に言及する。
 表向きにも、テンペストのヤツら抜きのブリーフィングでも明かさなかった用件の確認───あるいは此方から持ち掛けた密談の続き───のロケーションとしては、十分な場所だ。

ブルー・ディキンソン :
「……んであたしまでご同行っちゅ〜ワケ?」
 若干辟易とした表情を浮かべている。

ダン・レイリー :「ではここで“エスコートがないと踊れない”などと言ったのは誰だったか思い出してみるか」

ブルー・ディキンソン :「ちぇ、物覚えのいい地頭をお持ちですことー」

ブルー・ディキンソン :
 と──煙草を咥えて悪態をついてみせる。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「やるなら最後まで、よ。
 Fox trotは踊り切っても、まだ全部終わった訳じゃない。
 "知るべきでない"ことを伝えられた以上、そんな気はしてたでしょ? 当然、あの報酬はそれ込みのモノだから」

 くす、と無邪気な笑顔。報酬を渡した以上それに見合う仕事をやり切るまで逃す気はないらしい。
 例外なく、資産家とは吝嗇家でもある。

ダン・レイリー :
「一杯食わされた以上、そこまで誇ることじゃあないが…。
 ある程度は確信を以て踏み込んだものだからな」

ダン・レイリー :
 物覚えなど悪くしようと思えば意図的に出来る。
 あるいはそれも要領の良さということなのであれば、僕は確かに凡百の人間だったんだろう。

ダン・レイリー :
   ソレハサテオキ
 ………閑話休題。
(クライアントと雇われの世知辛い話を聞かなかったことにしながら)

ダン・レイリー :
「そして、きみのバディが先手を打っている“らしい”のでな。であれば、俺にも責任の一つ二つがある。
 ウチの人間は大人しさとは無縁だしな。先んずれば何とやらだ」

ブルー・ディキンソン :
「………」

 視線がミリアに一瞬向いて、「おめーなー」と口にしたくなるのを我慢した。
 で、まあ。それはそれとして。

ブルー・ディキンソン :
「……ま、キャプテンには約束してましたものねえ。
 あっと驚くものが見れますよって……一言一句同じじゃないですケドー」

ダン・レイリー :「一周回って爽快だったよ、まったくしてやられた。言われていなければ僕がナタリー・ガルシアや“炎神の士師”の対応をしたかもしれんな」

ダン・レイリー :半分以上は冗談だ。もしもの話は何とでも言える。

ブルー・ディキンソン :「ごもっともで」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あはは、肝が冷えましたよあの時は。
 ブルーが割って入らなかったらもう一発ぐらい入れてくれそうでしたし……

 ……う、思い出すと寒気が」

ブルー・ディキンソン :苦笑い。

ダン・レイリー :
「その節は失礼した。ノイマン・シンドロームの人間と敵対するならば時間を与えるものじゃないと思っていてな。
 揃って仕掛けを台無しにしなかっただけ良しと言いたい」

ダン・レイリー :
「………さて」

 とまあ、当時の振り返りも程々に。
 このまま雑談相手をしてもらうなら、そもそも俺のようなのでなく同い年辺りひっ捕まえて来た方がいいだろう。それこそ、イリーガルの二人か。 

ブルー・ディキンソン :「ええ、本題に?」

ダン・レイリー :
「ああ。先の話で気になるところもそうだが、前提から確認していこう。
 件の“マスターテリオン”というのは、懸念点を残し、背中を気にしたままどうにか出来る相手でもないからな。仕損じると誰もが困る」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「了解です。
 まずは、そうですね。質問への答えに加え、ブルーとの定期連絡の内容から語っていきましょう」

ダン・レイリー :宜しく頼む、と一瞥。

ブルー・ディキンソン :オーケー、と頷く。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「先のロサンゼルスで伝えた通り、私は内通者として潜伏し、ブルーという窓を通じて情報を横流ししていた。
 ブルーは怪しまれない程度にそれを遣って活動していました。
 例えば『雪の止まない村』の一件について……
 全容や被験者の一人がこの作戦に参加していたという話は寝耳に水でしたけれど」

ダン・レイリー :…『雪の止まない村』、か。嘗ての記憶で流したあの話の答えが意外なほど近くにあったというなら、それは此方も同じだったな。

ブルー・ディキンソン :「マジ本当の話」頷く

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あの「浄火の柱」に関する実験は、プロジェクトアークの一環。ことにアメリカ合衆国側が欲し、率先して進めた分野の実験です。
 ・・・・・
 R因子管制……という言葉は。
 レイリー大尉はよくご存じの筈ですね?」
 

ダン・レイリー :「ああ………よく存じているよ。今更隠すモンでもない」

ダン・レイリー :
「因子管制統合システム………。
 と言っても、こちらはその一部分の、しかも先駆けであったようだがね。
 実験タスクが複数個所に別れていたことも裏は取ったし、その一つでないことも想像はつく」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「その通り。あれらはProject Arkの産物……
 ソドムの遺産を通じて、あらゆるレネゲイドを管理、統制するための『システム』の研究だった」

ブルー・ディキンソン :「うへえ、暗黒テクノロジー」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「詳細について調査が及んでいませんが、元々アメリカは保守的な国です。どういう発想に至ったか想像するのは容易い。
 詰まる所この国を、唯一オーヴァードの脅威に晒されない方舟、いわばR的モンロー主義を貫くための研究だったのでしょうね」

ダン・レイリー :
 ・・  ・・
「未知とは恐怖だ。
 ………そしてソレを既知にすることで人間社会は回って来た。

 その先導としてナプキンを取って行きたい合衆国が、未知へのカウンターを持とうとしない理由は“ない”な」

 それ故の“戒め”を収めた箱の中身に何を生み出そうとしていたのかは知らないが。

ダン・レイリー :
「………そして今回はそれが限りなく悪く働き続けた。その想像通りでいいんだろう。
 だからこそ………」

 ………シャンバラを潰すことは良しとしても、ひとつだけ懸念点が残っているわけだ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「軍属というものはリスクを嫌います。制御のメソッドが確立されていない力などもってのほか。
 ……ですがペンタゴンは、すべての技術を獲得することに執着していない」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「現状拾える限りの資源でも、破格の国益となり、そこから研究次第で更なる進歩が見込めるとなると、破棄するにせよ研究するにせよ自国で確保したい……
 恐らくは、そう考える。
 そもそも、破棄出来るものかも妖しいですからね」

ダン・レイリー :
. ウチ
 上層部がシャンバラの台頭をよく思わない………。
 もはや共存共栄ではなくなったことは分かっている。

 しかしシャンバラの消滅と………あの遺産、SODOMの消滅はイコールではない。
 大目的の裏切りにはならずとも、これを握ることで軍事パワーバランスは一変するし、逆も然りだ。

「握るだけで世界が動くパンドラの箱の中身と来た、確保ないし封印………優先順位は落ちるにせよ、全くのノーマークではないだろうな。
   リスク
 その脅威は、時間を掛けて研究してきたはずだ」

ブルー・ディキンソン :「随分曰く付きの"宝の地図"だこった……」

ダン・レイリー :「浪漫というには物騒が過ぎるし、趣味が悪いがね」 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「この辺りは目的の違いもあるのでしょう。
 新時代秩序、粗く纏めてしまえば政府転覆が目的のシャンバラに対して、覇権国の国防とRという感染症への対策を目的とする合衆国ではまるで視点が違う。
 それがプロメテウスの火であるなら、不用意に掘り起こすのも不味い」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「詰まる所、我々UGNの目的とするSODOMの封印は、ペンタゴンに対する反目とはならない……そう結論出来ます。
 勿論それに因縁をつけて、阿漕な取引を持ち掛けるやもしれませんけれど」

ダン・レイリー :首肯する。自分達にとっての絶対条件でないとしても、誰かにとっての絶対条件であるとすれば、そこには価値が生まれるだろう。

ダン・レイリー :
「そういう足の引き摺り合いが起きてしまって、根本をしくじったとあらば元の木阿弥だ。
 シャンバラは脅威と認識しているのであれば、そこのところ、全くの無策ではないだろうが」

ダン・レイリー :
 同盟、共闘の本質とは先払いであるが、同時に戦後が最も拗れる種だ。
 共に肩を並べて戦い、勝利をおさめ、いざその目の前の戦利品をどう分配するか───誰が最も“得”をするか───の側面が出る。

 この段階で“勝利”を踏まえて動くほどではないだろうが、そういう可能性もある。

「上層部がUGNを好いているかと言われれば、答えはNoと見えることだしな」

ブルー・ディキンソン :「わかりやす〜」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そこでNoと言わせないために、我々は動いている……というコトですね。
 アメリカはこれまで、FHに関連する組織からの協力を受けて此処まで秘かに対策を練ってきた。
 その席に、我々をねじ込んでもらう……要点はそこにある」

ダン・レイリー :「FHに関連する組織………」

ダン・レイリー :………もしシャンバラの話でないなら心当たりは薄いが、納得できないことはない。続きを恃もう。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「これまでの合衆国は、FHという闇市場から闇取引を以て秘密裏に研究を続けてきた。
 ブラックバシェット
  闇 予 算 から秘かに資金を捻出し、明確に政敵になりうる相手と呉越同舟を続けながら、慎重に。
 その立場に、我々がすげ代わる。既に今までの対応では間に合わないことを、アメリカは自覚している。その上で北米FH、シャンバラの大規模な活動……
 合衆国も新たなビジネス・パートナーを所望するところのはず」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「少なからず我々に対する警戒も、快く思わない人間も多いでしょうが……我々のバックがコードウェル博士と知る以上、その背景は他より手を取りやすいでしょうから。
 FHの関連組織となれば、多くの場合はリエゾンロード麾下とするクラン絡みか、或いは彼らが陰で支配するギルド辺り。
 経済大国のアメリカが、そこのリスクヘッジを誤ることはないでしょう」

ダン・レイリー :
「蜜月とは言わずとも、握手を交わせる立ち位置になるワケだ。
 ………同じ経済のテーブルに着く気のある相手を択ぶというのも自然な話ではある」

ダン・レイリー :
「尤も思う通り、両手での握手は難しいだろうな。
 そこで弱みを握ろうとしてきたのは、だからってワケじゃないだろうが」
     イリーガル
 そもそも外部協力者の存在さえ、こちらは今回の作戦をなるべく外部に頼りたくないというスタンスで行くことは指示されていた。

 今後を考えると、そのためのカードも必要だろう。

ブルー・ディキンソン :
「……で、大掛かりな未来計画のために、このお方は敵のマッドに化けて、オホホと笑ってたってワケ」

 余談。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「蒸し返さないで、あの役結構振り返ると辛かったんだから……」

ダン・レイリー :「今にして思えば、此方の基地に電子戦など仕掛けた理由も頷けるが………」

ダン・レイリー :「世辞にも怨みを買いにくい立ち位置ではなかったな」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「仕事とはいえ、特別な理由もなくシンプルに嫌われる性格の、実年齢より十歳以上上のヒスを拗らせた研究者なんて……出来ればもう二度とやりたくない……」
 苦虫をかみつぶしたような顔で

ダン・レイリー :…これ以上ここに触れるのはやめておいてやるか…と、“雷霆精”を見ながらもひとり結論する。

ブルー・ディキンソン :「はぁい」
 やや不満げ───なのは普段の二人のパワーバランスを良く表している。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……こほん。
 合衆国がFHと内通し、ビジネスパートナーとして活動していた。
 彼らが主な目的としていたことは、因子管制という技術のためだった。
 ブルーと私の間でシェアした情報は、概ねこの辺りですね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「この上で実際にDARPA局長の意志を加えると、また事情は少し変わってきます。が……
 一先ずここまでで、何か質問は?」

ダン・レイリー :
 軽く顎に手を当てて思案する。
 話の筋は通ると言えるだろう。

 爺さんが何を考えているかは与り知れないが、少なくともウチの本当の優先順位は今確認した通りというわけだ。

ダン・レイリー :
「疑問点はないが………確認だけしておこう。
 局長と言うのは、“元”の方か? それとも現在のか?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ああ、肩書の上では元でしたね。
 ただ、現在闇予算によって運営されている、DARPA第八秘密研究分野『情報認知局』……
 あそこを事実上コントロールしているのはヘルムート・ヘスですから」

ダン・レイリー :良くも悪くも、爺さんらしいな。

ダン・レイリー :
「局長の計画も年単位と見える分、当然ではあるか。
 ………その意思というのは?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「…………」

 少し考えるように間を置く。その間、瞳の奥で数多のニューロンの小宇宙が瞬く。

「……プロファイリングを続ける限り、どうにもヘルムート・ヘスとペンタゴン全体ではズレがあります。
 彼は推進派……というより、恐らく彼がR因子管制に纏わる計画を最初に提言したのでしょう」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あの男、ヘルムート・ヘスはドイツ人で、二次大戦期においては二十代中頃。
 そしてその時からナチスの超人兵士計画に関わっていた人物です」

ブルー・ディキンソン :「わーお……」

ダン・レイリー :「………そのドイツ出身のヘルムート・ヘスがペンタゴンに何食わぬ顔で籍を置いていた理由は………」

ブルー・ディキンソン :「……"オデッサ"?」

ダン・レイリー :「………まさか何時かの“雷霆精”がした話が現実味を帯びるとはな」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「今振り返る限りでは、当時戦勝国側か、敗戦国側か、どちらの所属で動いていたかは曖昧ですし、今この時重要な要素ではありません。
 重要なのはその後、彼はアメリカ政府に引き抜かれ、現在の職に就いていること……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そう。SS将校の一部はアメリカに引き抜かれ重要なポストについていた、という話もあります。
 オデッサと内通していた可能性も十分にある。
 あの男が手引きしたと考えるのが自然でしょう。尤も……FHを利するためというような、単純な思惑だったかというと恐らくは違うように見えますね」

ダン・レイリー :「ただ未知の商品を持つビジネスパートナーを求めてやったことじゃない………そう考えるか」

回想する、曰く… :すべて狂った碩学の計画のため、捧げられた生贄。俺はおまえに同情を禁じ得ない

ダン・レイリー :「………どちらか選べと言われれば同意見だ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。……どちらかと言えば……カネや権力のような単純な利害関係というより。
 自分の研究テーマのため、そういう風に見えてなりません」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あくまでヘスがFHの一員というより、ヘスが入り用でオデッサのツテを遣って旧知の仲に交渉を取り付けた。
 こう考える方がしっくりきます」

ブルー・ディキンソン :「嫌なマッド〜」

ダン・レイリー :
 ………であれば因子管制とは………。

 遺産に適応する人為的な継承者/そのシステムの到達点とは、
 思うに爺さんの中では別の意味を持つのではないか? 

ダン・レイリー :
「是非はともかく。
 ………その旧知の仲が、ヨーゼフ・メンゲレ………シャンバラの発端、同じ鉤十字のよしみというヤツか」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「恐らくは。
 品物を抱えているだけでは、商談は出来ない。けど、軍部への強いパイプがあれば話は別です。
 ヘルムート・ヘスがその役割を担ったことは想像に難くない」

ブルー・ディキンソン :
「"品物"と、それを流すための"ルート"……両方揃ってこそ成立する。
 嫌(ヤ)だねぇ、表も裏もやってること一緒だ」

ダン・レイリー :「ヨーゼフ・メンゲレもまた、件の研究を進めるための隠れ蓑とビジネスパートナーが必要だったとするならば、この取引は確かに円滑に進んだのだろうな」

ダン・レイリー :「…敢えて聞くが、そこまでして臨んだ研究のテーマについては、まだ不明か?」

ダン・レイリー :分かっていたとしても、概ね嫌な予想はつくが…

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……推測は出来ます。
 恐らくやろうとしていること自体は、マスターテリオンの"真逆"のこと」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
     ・・・・・・・・・・
「即ち──米国内全域の因子統制。
 パノプティコン
 R監視社会ですよ」

ダン・レイリー :
「暗闇が怪物の出る余地を作るなら、それを全部照らしてしまえばいいようなもの………」
   .Overed
「そして超人が齎す技術も、埋没する可能性も手元に収めるというわけか。
 単にリスクを恐れてやってくれているだけなら、何も良くはないがまだマシだ」

ダン・レイリー :………だが……… 

ダン・レイリー :思い返すに、ソドムの遺産は………。

ダン・レイリー :
「イヤなところが符合した。

 そんな思考実験の極致を限定的に現実化させたモンが、よりによってソドムにある。
 局長には、欲しくない理由がないな」

ブルー・ディキンソン :
「あーやだやだ。
 "理想郷"のテクを使って、"自由の国"って名前の刑務所づくりなんて。
 何だか随分と星条旗をバカにしてるような構想だねえ……」

 別にアメリカに肩入れをするつもりもないが、
 舐め腐っているな、というのがブルーの所感だった。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「モデルケースの実物がありますからね。SODOMの都にはR因子の使用を禁ずるシステムが作られていた。
 現代と比べてはるかに強大な力が働いていたにせよ、これを当時の時点で作った人間は天才中の天才でしょう。

 ただ、過程や手段はどうあれ、先人の手によってその嘘のような思考実験が実行可能であると証明されてしまった」

ブルー・ディキンソン :「ベンサムも英国の土の下でひっくり返ってそーな話」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「情報認知局……IAOは対テロ戦争の興りと共に増大した防衛費を元手に、国内の対テロリズム、対スパイ用のシステムを開発していました。
 チップやナノマシンによって国民全員を監視下に置き、管理統制する大規模なシステム。そんな絵空事を大真面目に始めたのは、『先例』を発見したが故のものなのかもしれません。
 地に足が付き、施工するのに体のいい言い訳もできたことですから」

ダン・レイリー :
「どれほどの技術が、予算が、危険性が伴うかを別にすれば………“出来た”。
 その保障がついてしまった以上、考えない理由はないってコトか」

ダン・レイリー :
..     ブラックモア
「これではあのテロ屋を笑えんな」

ダン・レイリー :
 呆れたようにつぶやく。
   パノプティコン
 形ばかりの自由の国か、
     デスペラード
 自由という名の無法の荒野か。どんな二択だ?

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「本当、呆れたものです。放っておけば御国も思想家も、ロクなことを考えない」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「無政府主義と管理社会。知らぬ間にこの国は、混乱の裏でその二つの間で競りに出されていた。
 市井の意思も知ったことじゃないとばかりに、よその国の墓まで暴いて」

ブルー・ディキンソン :「この話……この三人だけで良かったね」

ダン・レイリー :「………双方において、なんとも同意するしかないことだが」 

ダン・レイリー :
「俺にとっては、それでも生まれ故郷だ。
 偉大なる父の失態に“待て”を言う義務も、汚される直前の晩節を阻止する義務も行使する」

ダン・レイリー :
 ………口にはしないが、この話を他に聞かせたくないというのも同意ではある。
 特に“T³”だ。いまさら信頼などない国の話だろうが、それが突き抜けて精神的にどんな悪影響があるか分からん。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そうね。とくにあの二人は、そういうエゴに一番振り回されてきたことだし……
 ナタリーちゃんもそう。あの子、政治家の家の娘だった筈だから」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……勿論これが全部政府の意思、というわけじゃない。けど此処まで尖った考えをヘスは持っていて、実際に行動に移せるだけの権限があちらにはある。
 ……いや、敢えて持たせたのかな」

 考えるように細い指で顎に触れて

ブルー・ディキンソン :
「("偉い奴"の娘、ね……)」

 結果的に……、
 親に愛されていようがいまいが、
 身にかかる不幸に"親"は関係ないのかもしれない。

ダン・レイリー :
「泳がせたのか、どちらに転んでもいいようリスクヘッジは取ったのか。
 ………上層部の意思を受け取って動いている駒が、他にあるか………」

ダン・レイリー :
「………敢えて持たせたとすれば、そんなところか?
 国を操縦する人間が、なにも希望的観測で銃を握らせるほど愚かではないだろ」 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「概ねその辺りでしょう。
 ヘスは表向きには既に重要ポストから離れています。ただ、実質的には会長職のような権限が暗に与えられている。
 加えてR関係の部署は闇予算で運営される実在しない部署。いざという時のトカゲのしっぽ切りの準備は整っている」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「口をそろえて『ヘスの暴走』という方向で罪を擦り付ければ、痛手は最小限で済む。
 そう考えると元ナチスでテロリストと縁があったことも都合が良い」

ブルー・ディキンソン :「ひっでえ」

ダン・レイリー :
 ………ミリア・ポートマンの発言を纏めるならこうだ。

 ヘルムート・ヘスから何かを聞き出すなら、むしろペンタゴンに尻尾を切らせるように動いた方がいい、と。

ダン・レイリー :
「尤も、いざという時が来ないようには立ち回って来たのだろうがな。
 ………死海文書のこともある。パズルのピースはうちの上層部が持っているようなのは確かだ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「けれど、流石に幹部の一人がスパイであることまではあちらも予想外のこと。
 それに「切る」側のペンタゴンも、重ねて保険を打っていたようですし……つけ入る隙は十分ありそうです」

ブルー・ディキンソン :「無い方が困る。じゃないと苦労が水の泡さね」

ダン・レイリー :
「………前者は想像出来まいな。
 それを予め想像して手を打てる戦略家など、いたら今頃世の中を変えている」

ダン・レイリー :「しかし………保険、か」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……ブルー。私との依頼を請けた時のこと覚えてる?」

ブルー・ディキンソン :「覚えてるよ。それで?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
     ・・・・
「あの時、味のする紅茶を一杯口につけたでしょ」

ブルー・ディキンソン :
「ああ───うん、言いたいことが何となく分かった。
 ……いや、正直、"いつ聞いたもんかな"ってタイミングを伺ってたんだ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そういうこと。
 私は『聞かれても問題のない相手以外は』ここにはいない、って言ったでしょ?」

ブルー・ディキンソン :「ちぇ。あいつ。何が『戻って来れたなら紅茶の用意をしてる』だよ……」

 ……と、そろそろ盤外の駒の話をしすぎたかな。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「つまりあの場で、彼女は話を聞いてたし。
 聞かせた上で動かさせていた。ってこと。彼女、ラングレーだもの」
 

ブルー・ディキンソン :「……」

ブルー・ディキンソン :「…………」

ダン・レイリー : 

ブルー・ディキンソン :「……後半は初耳なんだけど!? あれ、私それとも忘れてた!?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「今初めて言ったわね」
しれっ

ブルー・ディキンソン :「がぁっ!」

ダン・レイリー :
「………待ってくれ。ラングレーだって?
 其方の話と思い口出しはしなかったが………どういうことだ?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ペンタゴンとて一枚岩じゃないということです。シャンバラと政府が袂を分かった際、既にUGNに代替の当たりをつけていた要職がいたんでしょう」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「シャンバラと米政府の対立が始まった段階で親UGN派の人間の子飼いを、こちらに寄越してきたんです。
 ウチは諜報担当ですから、こーいう根回しをしてから作戦に当たるのは常ですよ。仮にもペンタゴンを脅すんです、協力出来る相手には乗っかって貰った方が都合も良い」

ダン・レイリー :
「情報捜査はラングレーが一任してくれていると聞いていたが………まさかこんな変化球とは」

 この分だと爺さんにも肝心の部分以外は伝わっていると見えるが

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「まあ別口の指示系統から逆に探られているというのはあちらも想像していたかもしれませんが。
 それも我々の潜入のカヴァーにもなりました。裏手で随分手際よく動いてくれたみたいで」

ブルー・ディキンソン :「ちくしょー、手際がいいと思った……」

ダン・レイリー :「………あの“紅茶に一滴の毒を入れられた”とかいうのは」

ブルー・ディキンソン :
「"仕込み"の一環ってことです。
 外部情報提供者の立ち位置にいるあたしを、一足早く"コードトーカー"の拠点に拉致する。
 そして見事脱出してしまえば、拠点の位置はキャプテンらに割れ、あたしとミリアの合流はトントン拍子で進む……」

ダン・レイリー :
 何かの歯車が狂えば紐なしでバンジージャンプでもするような真似をよくもまあ。
 ………とはいえ今更だし、トントン拍子で進んだことは事実だった。頷きはする。

ダン・レイリー :「少なくともペンタゴンの中には合意で動けるのがいる………それを確認してからの作戦だったというわけか」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そしてFHからUGNに乗り換える『意志』も然り、ですね。
 ブルー、また用入りなら使ってあげて。多分あの人、電話でも掛けたらしれっっっっと何もなかったみたいに応じてくれるだろうから」

ブルー・ディキンソン : 

ダン・レイリー :「これが解答らしい」

ダン・レイリー :………思ったことは敢えて言わないでおくか

ブルー・ディキンソン :「いーけどサ! 別に! 仕事が超出来るのは事実だし!」

ブルー・ディキンソン :
 出し抜かれたのが気に食わねえ──とは言わない。
 言ったら何かが崩れる気がする……くだらんプライドが……。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……それにしても、そっか。ひょっとしたら程度に思ってたけど、ブルー送り込んできたの彼女だったのね。
 本当随分派手に動いてくれたみたいで……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あれ、待って。じゃあアレやらされたのあの人の所為ってこと……?
 なんか私までじわじわムッとしてきたんだけど」

ブルー・ディキンソン :「下手したらあたしはバラされてたけど」

ダン・レイリー :(返って来る答えはなぜか顔も知らんのに想像がつくな…)

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あの人ったら余計なことを……割と楽しんでやってそうなのが性質悪いというか……
 別口の指示系統で適宜支援を送るという話とはいえ、思った以上に大胆な手を遣うわね……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……まあいいや。現状巧く行ってるし、おかげでキーも揃った。
 詰まる所、後はペンタゴンにヘスを切らせるよう動くだけです。あちらのコネクションとなる人間も既に検挙済み、野望に火が付いたシャンバラに逃げ込むような余地もありません。
 袋の鼠、というわけです」

ダン・レイリー :
 ………蓋を開ければなんてことはない。
 僕がこの船を守るためにコンタクトを取った人間は、
 僕より先にこの船の今後を考えたヤツとコンタクトを取っていただけのことだ。 

ダン・レイリー :
「であれば、最後の詰めをしくじってステイル・メイトにするわけにはいかんな。
 ………掣肘を入れられる前に、局長には観念して頂く………そのつもりで動きたい」

ダン・レイリー :………それに爺さんについて、俺のケジメをつけないとならんな。 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「了解です。
 では……手を打つ前に、他に何か質問はありますか?」

ブルー・ディキンソン :キャプテンに視線がいく。私はないですの意思表示。

ダン・レイリー :視線が行くのは構わんがなんだその顔は 

ブルー・ディキンソン :いやあ……。

ブルー・ディキンソン :いやあ……情報源の女の顔が浮かんできてウゲーとしてただけでさ……

ダン・レイリー :…逆にそこまで言わせるヤツの顔が僕は見たくなったよ

ダン・レイリー :
「ああ。概ね理解したし納得したが………。
 一つだけ気に掛かっていることがある。蛇足かもしれんが、いいか?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい、何でしょう?」

ダン・レイリー :
「オーヴァーテックとかいう、デトロイト企業連のシャンバラと癒着していた連中。
 ………例の───レイラ・イスマーイールの口から、ソドムにもずいぶん熱心に取引に上がったと聞いているが」

ダン・レイリー :
「ここが一枚岩ではない部分か?
 疑問の答え合わせだ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
               カットアウト
「O-tec社……あそこが米政府との中継点だと睨んでる訳ですね」

ダン・レイリー :「ああ」 頷く。そう考えたことは事実だ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「それは考えたので調査の手を回しました。
 けど、どうやらギルドとしての経営実態は存在している。単なるペーパーカンパニーという訳ではありません。
 実際にそこの社長と何度か接触したこともあります」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ゴドフリー=ソーマという日本人のハーフとなるアメリカ人です。
 私が"コードトーカー"だった頃、その男と何度か接触したのを覚えています。恐らく彼はかなり早期の段階でシャンバラに取り入り、自社の版図を広げていた」
 

ダン・レイリー :「………ゴドフリー=ソーマ………」

ダン・レイリー :
「いや、聞き覚えはない名前だな。
 ………アメリカの手足というわけではなく、
. ギルド
 犯罪組合の思惑が何処かにあるということか。早合点しないで正解だったな」

ブルー・ディキンソン :
「……アイツ、そんな奴から依頼受けたの?
 今ここで電話したら答え聞けたりするかね?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「とはいえ……彼当人は非オーヴァード。少なくとも今まで能力が発揮するところを見せてはいない、筈なんだけど」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あの社長、何故か発言力は高かったのよね。スポンサーの権限というにはやけに意見が尊重されていた。
 多分彼女が受けたっていうその依頼も、フリーランスの手駒に金を撒いて潰させに来た状況を、体よく乗っかったんだと思う」

ブルー・ディキンソン :「『何故』か、ねえ……」

ダン・レイリー :「………連中の思考と何かが噛み合ったか?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あ、電話を繋ぐことは出来ると思うわ。
 直接接触してた私より重要な情報を訊けるかは判らないけど……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「それにしても、正直微妙というか……
 ゴドフリーを可能な限りプロファイリングしてみても、なんか反りが合わないような情報しか見えてこないのよね。

 筋金入りの拝金主義者で、このシャンバラの計画についても何処まで知ってるか分からないけど、体よくマーケットを押し広げるためのものと思ってるフシがあるし」

ブルー・ディキンソン :「……怖いなソレ」

ブルー・ディキンソン :「"実態の掴めない"盤外のコマ……不確定要素にしては、あまりにも未知すぎる」

ダン・レイリー :
「………ふむ。其方が知らないとなると、本当にアンノウンか」

ブルー・ディキンソン :「この調子だと、確かに電話してもあんまり意味はなさそうな気もするね」

ダン・レイリー :
 ………反りが合わないような情報しか見えて来ないが、なぜか重用されていた。

「ブラックモアは破滅的な男だが馬鹿じゃないように見えるし、聞こえた。
 意味のない“気に入った”で取引のテーブルにあげるなんてことはしないだろうが、ただ、取引のテーブルを律儀に回すかも怪しいタイプだ」

ダン・レイリー :
 ………何かがあることは分かったが、
    ・・
 肝心の何かが掴めんな。コイツは。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……あと特筆すべき点としては……日本の神城財閥と太いパイプを持っていて……
 その他にも手広いコネクションが、研究の基盤となった。という話も聞きます。あくまで、そうした施設と資財を提供した会社と見るのが妥当ではあるんでしょうが……」

 そこで言い切らないということは、彼女自身違和感をずっと抱えていたのだろう。
 

ダン・レイリー :
              カード
「………重宝しなければならない理由があった。か」

ダン・レイリー :
「であれば、その男についても調査の手を入れる意味はあるだろうが………。
 非オーヴァードだという確証はあるのだったな。ここで煮詰めても仕方のないことかもしれん」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「純粋に秘匿していただけかもしれませんけど。オーヴァードと非オーヴァードを見分けるのはワーディングの有無などが分かりやすいですが、基本かなり難しい。
 まして裏取引をしているような人間ですし、常に対ワーディング用マスクは常備していました。
 それが偽装の為の装備か、純粋に取引の際の最低限の装備であったかも謎です」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「これ以上深掘るには……もう一、二巡程調査に当たるか、回数こそ限られてはいますが
  ア ン サ ー シ ー カ ー
 『秘匿を暴く者』を遣う他ない、かもしれませんね」

ダン・レイリー :
「そもそもオーヴァードの能力はどいつも濫用は出来ん能力だ。慎重に使いたいところだが」

 思案する。

ブルー・ディキンソン :「モヤつくなァ〜……」

ダン・レイリー :
「………いや。時間の猶予はまだある。
 それに、ペンタゴンはどう転んでも国の頭脳で、シャンバラはそこを欺き続けて来たネットワークだ。
 あるいはそいつに頼らねばならん隠し玉が出張るかもしれん」

ダン・レイリー :
「頭の片隅には置いておくべきヤツではあるが、“今は”そのくらいだ。
 ………疑問の答え合わせどころか新しい疑問が出てしまうとはね」

ブルー・ディキンソン :「……そーすね、そんなとこか」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「O-tecは装備の生産元、どの道詳しく見ていく必要があります。手っ取り早く差し押さえられれば話は簡単なんですけど」

 強硬手段を取る訳にもいかない。少なくとも今集中すべきなのはルイジアナの拠点制圧と、古代都市への対処。マスターテリオンの計画を止める手段も模索せねばならない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……では、他に質問はありますか?」

ダン・レイリー :
「手っ取り早くやろうとして、優先順位を間違えては元も子もないからな。
 ゴドフリーという男についても、O-tecについても、まだ突くべきではないか」

 応対のち、少し思案する。

ダン・レイリー :
「………此処がそうである以上、僕からの疑問点は概ね解消したよ。
 いつ、局長に渡りを付けに行くかだけだ」

ブルー・ディキンソン :
「タイミング間違えると大変そーすね。
 肝心な時に嵐が来たんじゃ、乗組員も揺られまくりだ」

「……シケの原因あと3つほど残ってんのが嫌ですね」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「確かに。少なくとも盤面に敵がいる間にやってしまった方が良いかもしれません。
 脅威を除いてしまうより前に接した方がこちらに有利かと」

ダン・レイリー :
「その”シケの原因”を除いた後では、彼方も戦後を考える余地が出来るか。
 分かった。間はあまり置けんということらしい」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……こちらから出来ることはしたつもりです。
 恩を着せる訳ではありませんが、あなたのタスクが今後の作戦に強く影響してくる。
 どうか武運を祈ります、レイリー大尉。
 他に天才の助力が必要なら言ってください、力になりますよ」

ブルー・ディキンソン :
「あたしは"荒事"の方の天才なので、そっちの方面でよろしくお願いしますよ。
 ……まあ、乗り掛かったナントカと言うし───」

「それに使ってくれなきゃリターンにリスクが見合わんので」

ダン・レイリー :
「ハッキリ言う。
 だが元より確信を持ったから、あの時コンタクトを取ったんだ」

ダン・レイリー :
「あまり宣誓のようなことは言うもんじゃないが………。
     かんしょう
 数年来の恩師/疑問に答えを付けてくるだけさ。その労力を裏切り予想を下回るようなヘマも、乗りかかった船ごと沈めるような真似もしないよ」

ダン・レイリー :「………揃いも揃って一杯食わしてくれたことだしな。割に合うところを見せるとも」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「そういうトコ私は嫌いじゃないですよ、レイリー大尉殿。
 確かにバトンは渡しました。後はお願いします」

 に、と破顔して応えを返す。年相応の、影を感じさせない笑みで、ミリアは戦地へ向かうダンを見送った。
 

ダン・レイリー :
「受け取らせて貰った。ではな、ミリア・ポートマン。
 そして“雷霆精”。次はこっちがやることをする番だ」

 ついこの間まで、悪辣な秘匿破りの役を演じていたとは思えない快活な態度。
 それを見送りの言葉として、二度目の密談は幕を下ろした。

 一度目は漸く疑惑を確信に変えてのもの、二度目は確信を持ったうえでのものと違いはあるが、そこそこに振り回された自覚も、あろうことか大人が橋渡しをして貰った感覚もある。

ダン・レイリー :
 ………あの日の前後においてさえ、なんら態度を変えることのなかった己の恩師。

 いくら言っても過去は過去であり、消滅する内容ではなかったが。
 いざ、その時が近づけばどうしても感傷のようなものはある。その時が来たら、仕舞い込める程度のものだ。

ある新兵 :
 何処かの誰かから受け取った“良いと思った事”を他人にしてやる。
 ・・・・・・・・・・・・・・
 それが本当に良い事だったなら、何時か、何処かで自分に帰って来る。
 ………正しさの証明をするやり方の一つだ

ダン・レイリー :
 かつて自分が人の環から外れた時、
 俺はきっとそれをされたと思ったから、何気なくコレを始めた。

ダン・レイリー :
 かつて自分の足場が崩れ落ちた時、
 俺はそれを捨て去る理由が全ては揃わなかったから、これを続けた。

ダン・レイリー :
 この考え方が正しかったのか………。
 この考えに意味があるのか………。
 
 あるいはこれから先にすること、今までして来たことは、その解を求めるためのものではなく。
 とっくの昔に出た解の確認だったわけだが。

ダン・レイリー :
「もう若くないようだな」

 解散のち、ひとりごちる。
 ある新兵の戦いは、あの日から終わっておらず。

 ただ俺にも、その区切りの近付きに思うところというのがあったようだ。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ダン・レイリー :(もはや定型文めいてきたが)僕から追加・変更するロイスは今のところないな。

GM :スロット埋まってますからねえ 了解です!

ブルー・ディキンソン :同じくかなー。

GM :オーケイ了解しましたー

GM :では続いて次の幕間は……鐘さんの所ですね
展開していきますますます

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……




【INTERLUDE ⑬】

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑬】

登場PC:Syou,Dan
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 レネゲイズワームの脅威が去っても、UGN本部の慌ただしさは健在だった。
 マスターテリオン率いるシャンバラの「新時代」計画、それに対抗するための対策本部は急ピッチで設営され、本部の管制室はアメリカ各所の支部に対する通達と、欧州支部とのすり合わせに奔走していた。
 増員せよと言われてすぐに集められるならば、どんな組織も苦労はしない。ましてそれが、あの強化猟兵に抗いうる、戦闘経験の実績のあるエージェントとなれば猶更だ。
 

SYSTEM :
 その一方で灰院鐘は暇を持て余していた。
 実働部隊である鐘にとって、今の仕事は決戦に備え休むことではあるが。
 先のコードトーカー戦を終えて普段より早く本部に帰還し、得られた情報を元に長めの対策会議を行っている間。その間に、普段より時間の余裕が出来てしまった。
 如何に心根穏やかな鐘とて、漲る十代の活力、ましてキュマイラのそれを抑えるには、聊か長い安寧の期間。

SYSTEM :
 勇魚はさっさとトレーニングに向かってしまった。
 何処か悩みを抱えた様子に見えないでもないが、気晴らしも兼ねているのだろう。逢うにしても終わってからの方が良い。
 水無瀬は早速次の任務の準備に取り掛かっている。
    サ イ フ レ ー ム
 敵の『機甲猟兵』に関するデータを纏め、その対策マニュアル作成の御意見番として会議に出席しているようだ。

 であれば暇を託つ鐘が向かう先は決まっていた。

灰院鐘 :
 戦う以外の能を持たない青年は、ひとときの休養も早々に持て余していた。

 相棒は不在、話し相手も忙殺されている。おとなしく私室にこもるたちでもない彼にとって、今回は、思いつきを決行に移すよい機会であったらしい。

灰院鐘 :
「こんにちはダンさん! ちょっといいかな!」

 と、どう居所を見つけだしたのか。いきなり押しかけて、行き先も告げずに歩きだす。
 散歩じみて暢気な歩みだが、わずかの迷いもない足取りからは、目的地があるらしいことが分かる。

ダン・レイリー :
「ん? ショウか、急にどうした───」

 ………などと。
 つい先日、ロサンゼルスで“コードトーカー”の確保のために行っていたテンペスト一個小隊の作戦行動についての報告書がひと区切りした後。
 UGNの増援要請について手出しすることもなく、直近に用事の珍しくなかった時のことだ。

 聞き覚えのある少年の声が“こんにちは”から、何ら慣性を付けず自分の背を押して何処かに歩いて行く姿まで、まさに電光石火の早業と呼ぶより他にない光景がいま、目の前で起きていた。

ダン・レイリー :
 ………時に、ショウは基本的に思い立ったことを実行に移すのが早い人間だが。
 全く脈絡のないことはしない人間だった。

「丁度良かった、ちょっといいぞ」

 となると僕に用があるか、僕と誰ぞに用があると見える。
 先に見つけた方を引き合わせようってとこだろうか? いずれにせよ、断るほど火急の用があるわけでもない。まさに“丁度空いていた”ところでもあると意思表示する。

ダン・レイリー :「で、行先は聞いてはならん類か?」

灰院鐘 :「うん? うん、そうしよう! ついてからのおたのしみってやつだ」

ダン・レイリー :「分かったよ、サプライズだな」

ダン・レイリー :………いつかの初対面でコレだったら多少警戒したかもしれんが、今ならそうでもなし。
ただコレは特に考えてなかったヤツだな。もしかすると思うより大した用事ではないのか?

灰院鐘 :
 にこにこと笑顔で、のこのこと歩いていく。彼と彼の(任意の)被害者が目的地に着くまで、そう長くはかからなかった。

「こんにちは!」

 で──やっぱり、脈絡はないくせに挨拶だけ欠かさなかった。

紅 蘭芳 :
 その頃、紅が何をしていたか、といえば……
 彼女は野外の人気のない中庭にて、結跏趺坐の姿勢でじっと何かを考えている様子だった。
 彼女にとって考えねばならない事はどんどん堆積していた。この戦いが想像を超えて規模の大きなものとなりつつある中、自分に何が出来るかを再考しなければならなかったのだろう。

紅 蘭芳 :
 そんな中、静寂を破るような一声が耳を劈く。

「おわわわわっ、おはようございますぅ!寝てませんから!
 って……灰院君とキャプテンかあ。びっっっくりしたあ……」

 修業時代の反射で口にしていた台詞をうっかりこぼしながら、紅はずんずんと大股で迫ってきた鐘に苦笑いで応じる

灰院鐘 :「? おはよう!」せっかくなのでハグしちゃおう。ぎゅっ

ダン・レイリー :
 そして誰に会わせるのかと思えば。

 人呼んで『飄颻天華』。UGNの前身、ガーディアンズ時代からの人物だ。
 迷いなく行った辺り、話があるのは彼女で間違いないようだが………。

ダン・レイリー :
「おはよう。もしや邪魔をしたか」

 そして僕はショウ流の挨拶を、
 ずいぶん珍しく見る側に回った。

紅 蘭芳 :
「グエーッ、ノータイムハグ!
                カンガエゴト
 おはようじゃありませんから!  瞑 想 してたんで!」

紅 蘭芳 :
 これまで二週間ほど共に行動してきた故だろう。リアクションこそオーバーだがそれ自体は慣れて、避けることもしなくなっていた。
 言ってもあんまり加減してくれないのは彼女としては困り物だったが。

「い、いえ元々私もやることありませんでしたし……
 全然大丈夫ですよ、ビックリしましたケド……」

紅 蘭芳 :
「こほん……こんにちは、二人とも。
 今日はどうしました? 珍しい組み合わせ……って程でもないか。いつもの勇魚ちゃんはトレーニングでもしてるのかな」

ダン・レイリー :
「おそらくは。少なくとも道中“炎神の士師”の顔は見なかった。
 で、此方はちょっと時間を頂かれてショウのサプライズでも受け取りに来たところだったが………」

ダン・レイリー :
「紅さんは普段から此処に?
 オーヴァードのRCと言えば、確かに精神統一など付き物と言えるが」

紅 蘭芳 :
「いえ、いつもは屋内の道場とかを借りてるんですけど、今日は外で日の光浴びながら色々考えたくって。
 ……何というか、随分突拍子のないことが立て続けに起きるもんですから…」

ダン・レイリー :
「そうだな。考えてみれば、お互い慌ただしい時間がずいぶん続いたと思う。
 改めてお疲れ様だ」

 彼女、僕らがロサンゼルスで“コードトーカー”の検挙に勤しんでいた時は、ルイジアナで奮闘していたことだ。軽い戦いではなかっただろう。
 そのうえで聞かされた話は”次の敵がどうこう”のようなシンプルな議題でもなかった、さもありなんというところだ。

灰院鐘 :お疲れ様の一言に倣うように密度の増す抱擁! 圧し潰さないだけの配慮はあるが、労わりの気持ちがとどまるところを知らない。

紅 蘭芳 :
「あはは、こっちは現場の人たちが立派なおかげで大したことありませんよ。
 それよりコードトーカーの検挙、何とか早い段階で出来て良かったですね。上の負担も減って前よりかは本部も落ち着いてきましたし……」

紅 蘭芳 :
「──っていうか、そろそろ離してくれるとありがたいデス……
 もう十分、十分伝わったから気持ちは……!」

 半ば埋もれながらSOS。慣れたとはいえ、肉体派とはいえ、きついものはきつい!

ダン・レイリー :とのことだショウ。そろそろ。

灰院鐘 :は〜い

灰院鐘 :ありがとうございました! とても晴れやかな笑顔で、そっと解放する

ダン・レイリー :もはや近頃は時と場合にも依らなく…いや、この場合はそう間違ってないしいいのか?

紅 蘭芳 :どういたしまして……
悪気はないことが分かってるだけに断りづらい……こっちの国だと珍しいことでもないとはいえ

ダン・レイリー :
「実際、あれのレネゲイドワームがやらかしてくれていた間は支部間の連携も困難だった。
 だからこそ今の慌ただしさがあるわけだ」

 ………と。
 まさかこんな世間話をするわけでもあるまいし、この少年の押しに彼女を弱らせにきたわけでもない(はずだ)。

ダン・レイリー :
「………時にショウ。
 珍しい取り合わせと言われたが、僕と紅さんを揃えてどうした? “炎神の士師”には頼みづらいことか?」

ダン・レイリー :「それともミナセの三代目が四代目になったりしたか?」

紅 蘭芳 :
「……もしかして『いつもの面子が忙しくて暇だから』とか、そんな感じ?」
 紅は何となく、この青年が行動するのにさほど理由をつけないと当たりをつけていた

灰院鐘 :「それもちょっとあるかも。あ、ちいさい進さんは無事だよ」

ダン・レイリー :「(小さいミナセ………)」

灰院鐘 :
「二人に集まってもらったのはね、蘭芳さんから"天刑府君"──元天刑の話を聞かせてほしくって」

灰院鐘 :お願いできるかな、と首を傾ける。

ダン・レイリー :「………………」

紅 蘭芳 :
「…………あー、そういう……」

ダン・レイリー :「………。何時ぞやに話した敗戦がよほど口惜しかったのは分かった」

灰院鐘 :「へ? ……」

灰院鐘 :「……ううん。確かにレイラくんにはそんな話をしたけど、今回はそういうんじゃないんだ」

ダン・レイリー :「では、どういう話だった?」

灰院鐘 :「どう、という程の話でもないんだ。ただ知っておきたくて」

灰院鐘 :

灰院鐘 :「気になるべきじゃないし、必要はないのかもしれない。でも、あなたはそうすることの価値と意味を否定しなかった」

灰院鐘 :
「だから、できればあなたにもいてほしい」

 一連の行いに理由があるとするなら、多分これが最も具体的だと青年は微笑んだ。

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :
 確かにそうだ。
 ・・・・・・・・・・
 気になるべきではないというのは、
 兵士の理屈でもある。

 ただ兵士の理屈は、いつも自らを守るための理屈だった。 

ダン・レイリー :
 引きずり込まれるな、と。
 死ぬものに向き合い過ぎて自分もそっち側になるな、と。

 昔の教えだったのを覚えているし。
 ………だいいち、ヤツに必要なものは恐らく共感ではなかった。

ダン・レイリー :
「知ること自体は、悪いことじゃない。
 知らないものを知らないままにしておくよりは、ある種律儀な対応だ」

ダン・レイリー :
「………その辺り言いたいことがないではないが、意図は理解したよ。
 確かに、ヤツはべつに無関係の男じゃない。出会ってしまった以上、それはきみもそうだ」

ダン・レイリー :
「しかしだ、紅さん。
 貴女にとってそれは“話せる話”か?」

紅 蘭芳 :
「…………」

 やや逡巡するように視線を逸らす。
 これは大筋とは然して関わらないだろうと。それは、そう予防線を張って語ることを拒んだ内容だった。
 事実こうして段階が進んだ今でもその認識は変わらない。

紅 蘭芳 :
「ただ、話せと仰るなら話します。隠しておきたい、という話でもありませんから。
 単に決して楽しい話ではありませんし……この作戦には直接関わりのない余談ですので、あんまり触れる意味もないかなって」

灰院鐘 :
「うん。ありがとう」

 訊ねた彼からして、実利を求めてはいなかった。知って何がどうなるわけでもない。
 却って、どうにもならないことが増えるだけだろう。

 ……元天刑が紅の姉弟子を手にかけ、ジャームへと成り果てた事実が、決して変わらないように。

灰院鐘 :
「言っただろう。どうという理由はないんだ。知りたい以上のことは、何も」

「だから、あなたが話していいと思えることなら、なんでも聞かせてほしいし……知りたいのは彼のことだけじゃないんだ」

灰院鐘 :
「ほら、僕はあのとき少しだけ聞いちゃっただろう。"天刑府君"の過去は、蘭芳さん……あなたの過去でもある」

 だから、あなたのことも教えてほしい──と。

ダン・レイリー :
 ………それは無意識の“疵”を覆う反応にも見えた。
 はたまた、残った傷跡を呑み込もうとするための準備にも捉えられようそれは、私見ながら前者が近くも思えた。

 そして時として無粋で無遠慮とも言える言葉は、好奇心と呼ぶには透明にも感じる。 

ダン・レイリー :
 暫し、考える。

ダン・レイリー :
「人のセンチメンタルだ。“どうという理由はないけど、知りたいので教えてください”というのはちょっとデリカシーがないな」

灰院鐘 :「あう」

ダン・レイリー :
「ただし、その上で………。

 きみがヤツとヤツの周りを何も知らんまま、ヤツと再戦するのを拒むというなら。僕は止めない」

ダン・レイリー :
「いつか言ったな。僕の答えはきみの人生の答えじゃない。

 ………そうするべきと、培うべきと心で感じたなら。どうあれ無意味ではないだろう」

ダン・レイリー :
 敢えて俺を呼んだということは、
 ・・・・・・・・・・・
 俺がこういう反応をすることを分かっている上だろうしな。そのうえで聞かせたいと思ったというなら、殊更始まる前から拒むこともない。

「なので、それを聞いて立ち去らない僕も今日はデリカシーなしになるが。許して貰えるか?」

紅 蘭芳 :
「あはは、心遣いありがとうございます。
 でもほんとに大丈夫です。何というか……私も人に話したい気持ちも、確かにあって」
 

紅 蘭芳 :
「犯人に纏わる情報とかは多ければ多い方がいい、とは判ってます。けど、知りすぎても仕方のないこともある。ブリーフィングの場であまり語らなかったのは、そういう部分もあって。
 でも避けて通れないなら……せめて自分の中で整理をつけたい」

紅 蘭芳 :
「なので、気にしないでください。
 寧ろこっちが巻き込むみたいで、聞かせるのも申し訳ないかなって思うぐらいで……」

ダン・レイリー :
「ではまあ、イーブンだな」

 要は自己の整理だと言うならば、それはそれで気に病むこともない。
 何故なら………。

ダン・レイリー :
「ヤツが手当たり次第など始めてくれたのは、僕にやり残しがあるからだ。
 気に病むなら、その事実と帳消しにしてやってくれ」

灰院鐘 :
「……!」

 しょんぼりと垂れていたこうべが持ち上がる。彼がこうした反応をしたとき、後に続く行動も、まあ大体想像のとおりだ。

灰院鐘 :
「ダンさん! 蘭芳さん!」

 がば〜っと腕を広げて2人まとめて抱きしめにかかる!

灰院鐘 :
 彼なりのありがとう──というよりは、二人に対する好意だとか、敬意だとか、常々持っているものが溢れてしまったような。最近は特に箍がゆるいような……。

紅 蘭芳 :
「ぐえ」

 躱すことも出来ただろうに受けられたのは押しに弱い性質故か。

ダン・レイリー :………ぬかったのかもしれぬ、僕としたことが………

ダン・レイリー :
 ………まあ、らしいと言えばらしい。
 多少反応が遅れたか、それとも今回はテンペストの男三人組を纏めてという悲劇を避けるという瞬発力がなかったか。

「………場所を選ぶんじゃなかったのか、こいつめ」

 その好意の表現に、苦笑い気味に応じる。今回ばかりはいつもより早めに切り上げてもらうとしよう。
 なにせターゲットの片方が片方だ。彼女、単独だとずっと押し切られるのではないか?

灰院鐘 :「……つい!」

灰院鐘 :
 ぎゅっと腕に力をこめて、「ありがとう」とささやく。思いつきに付き合ってくれることに対して。そして、それ以上の、多くのことへ。

灰院鐘 :まんぞくげな笑顔!

紅 蘭芳 :
「あはは、どういたしまして!
 でも、流石にこの体勢で長話するのはしんどいかな!」

ダン・レイリー :
「とのことだ。
 満足したなら、改めて聞く態勢というやつになろう」

 どういたしまして、に続く軽口。

灰院鐘 :は〜い!

灰院鐘 :……

灰院鐘 :ぎゅっ……

灰院鐘 :もうちょっとだけおまけしてもらったあとに解放! いつでもどうぞ、と姿勢を正すよ

ダン・レイリー :(しかし“炎神の士師”はよくこれを制御していたな…リリア・カーティス辺りには何度かしようとしたのではないか…?)

ダン・レイリー :「よし」 では、改めてだ。

紅 蘭芳 :
「流石に慣れたけど、ここ最近は大分増えてきたなあ……
 ……ごほん」
 

灰院鐘 : 

紅 蘭芳 :
「でも、イーブンと言っていただけると助かります。
 ……ただ、先に言うと、なんで彼があなたに執着するのか。実の所、私にもわからないんですが……良ければ参考にしてください」

ダン・レイリー :
「分かった。………僕も、全部分かってるわけじゃないしな。
 ヤツのことも、一度見たきりだ」

ダン・レイリー :
 忘れようのない、一度見た記憶だけ。
 人となりは敢えて気にしなかった。互いに必要としないだろうと、あるいは推測しただけで。

紅 蘭芳 :
「……元 天刑。四凶・餓窮奇。神魔狩り。
 私が彼と逢ったのはずっと昔。まだUGNが出来る前の香港・裏九龍の丐幇でのことで、当時はまだ十代の子供でした」
 

紅 蘭芳 :
「その時は、姉弟子から連れてこられた時のことだったと思います。
 ……身寄りのない身分だった私は、丐幇に拾われて、武術の師範の元で生活してました。そこであの人は本当の姉さんみたいに世話してくれた。
 ファン イーリン
 黄 夜鈴。綺麗でかっこよくて快活で、気前のいい姉御肌って感じの人でした。

 夜鈴は一度だけ、傷を負った元をうちで匿ったことがあったんです」

紅 蘭芳 :
「その事がきっかけとなったのか。それとも、夜鈴が元々彼と懇意の仲で、その縁から匿ったのか。今となっては判らないままですが……
 少なくともあの二人は、子供の私から見ても、そういう雰囲気の仲なんだろうなって察するものがありました」

紅 蘭芳 :
「……当時はレネゲイドが拡散する以前。裏九龍城はある遺産によって撒かれた因子に感染し、局所的に罹患者が発生していました。
 それがFHという組織の手のもので。
 そこから生まれる怪物を狩るうちに、私たちはガーディアンと呼ばれる幇の一員となった。

 そんな中で、彼は自分の所属を明かすことはありませんでした。そしてこちらの幇に属することもなく、放浪の身でそれを斬り続けてきた。
 "餓窮奇"とは、そういう影の英傑でした」

ダン・レイリー :「所属を明かさなかった………か」

灰院鐘 :「……影の英傑」

紅 蘭芳 :
「勿論私も、それに惹かれた一人。あれ以降、姉弟子に色々と話をせがんだりして。
 夜鈴も彼について話す時は、すごく楽しそうだったように思います。

 だからこそ……出張から帰って来ない夜鈴を待っている折、彼が夜鈴を斬ったと知った時。
 浮かんだのは怒りでも、憎しみでもなく、ただ困惑だった」

灰院鐘 :「……それが十年前」

紅 蘭芳 :
「思えば……滅茶苦茶になっていったのは、そこからのこと。
 元はその強さでありながら身許の知れない人間でしたが、少なくとも敵意を向けてきたのはジャームだけだった。
 だから丐幇は彼を罰することなく、その内の武林の侠客たちに至っては夜鈴を代表とした面々が引き込もうとしていたぐらいです。

 けれど、夜鈴を斬ったという事実が、そのバランスを崩させた」

紅 蘭芳 :
「……『武林』の精鋭らを悉く討ち取った、という話は……詰まる所、危険分子と認識された彼を始末しにかかった武林の面々が、返り討ちに逢った結果なんです。
 そして……それを最後に、元は香港から姿を消した」

ダン・レイリー :
 誰の目から見ても、何故斬ったのか分からぬ繋がりを斬った。
 恐らくは、そこに男の岐路があったのだろう。推測はたやすく、事実はたやすくない。

 あるいは魔剣に魅入られた、武侠の終わり。物語の終わりなのか。 
 ………彼女の言葉を待つ。

灰院鐘 :「……彼はなぜと問うあなたに、宿星が望んだ迄と答えた。元の言葉に照らし合わせれば、夜鈴さんはもしかしたら──」

紅 蘭芳 :
「……なんとなく、ですが。そんなことだろうとは、思ったんです。
 私だって色々、その後で調べたんです。当時何が起きたか。その為に本部のポストを手に入れて、その為に色々な現場を転々とした」

灰院鐘 :
「……うん」

紅 蘭芳 :
「それで分かったことは……
            ・・・・・・・・
 この一件が、もしかして仕組まれてたことかもしれない……ということ」

ダン・レイリー :「………。黄 夜鈴が、斬られたことがか?」

紅 蘭芳 :
「そもそも香港支部となる場所、香港特別行政区の裏九龍城と呼ばれる貧民街で、R開放以前にレネゲイドウイルスが発生したこと。
 それは遺産の影響によるものでした」

紅 蘭芳 :
「その遺産の名は──『龍卵』。
 その現在の所持者の名を李文龍。"応竜"と呼ばれた黒社会の怪人。
 彼は丐幇を援助していたパトロンの一人でした。その目的は、先祖代々から抱えたその遺産を奪われ、それを自らの家に取り戻す為……」

紅 蘭芳 :
「彼の話が何処まで正しいかは分かりません。
 ……ただ。彼にとって自らが所有権を主張する遺物を喪失したことが割れれば、責任問題を問われるでしょう。
 そして……これも、あくまで予想の範疇に過ぎないにしても……」

紅 蘭芳 :
「元か。夜鈴か。或いは両方が……
 その事を知ってしまったとして」

 それを体よく始末し、抹殺できずとも社会的に立場を奪われたとしたら?

灰院鐘 :「……そんな」

紅 蘭芳 :
 権力者の失態を覆い隠し、なおかつ既に役目を負えて厄介者となった暴力装置を破棄する。
 それは、双方を体よく片付けるのに都合が良いに違いない。
 或いは、所属が知れぬとした元の本来の居所とは……かの怪人の懐刀であったかもわからない。

 すべての真相は闇の中だ。

ある男が曰く :
 考えるな。ただ敵に向かい、これを殺すためにすべてを傾けろ
 
 兵士は敵の名も、素性も知らぬまま、ただ出逢った何者かを殺すもの──そうである限り俺もおまえも何も変わりはしない

ダン・レイリー :
 ………すべては推測だ。
 だが、筋の通る推測だったとも言える。 

ダン・レイリー :
 三度のその言葉は、二度目のものよりは遥かに残酷で、如何ともしがたい響きを込めていた。

 此、即ち───。

ダン・レイリー :


        ・・
        茶番

          /
           ・・
           天命


ダン・レイリー :
「………………。
 全ては闇の中。探る術もない。
 ただ、推察するより他にない」

ダン・レイリー :
「だとしても………。
 暴力装置の“天刑府君”で居たいわけだ」

 あるいは、それを切欠に狂人のまねごとから始めて、本当に狂人になったのやもしれぬが。

灰院鐘 :
「……」

灰院鐘 :
「……?」

 ふと。違和感をおぼえて、鐘は首を傾げた。

灰院鐘 :
 脇腹に感じた熱感に手をやると、湿った音がした。

 ……どうやら、古傷が開いたらしい。元天刑に穿たれ、とうに塞がったはずの傷痕から、血が滴り落ちている──

ダン・レイリー :「………───ショウ。傷が」

紅 蘭芳 :
「だ、大丈夫……!?」

灰院鐘 :「う……ん、へいき。すぐに止まると思う」

灰院鐘 :「……こんなこと、今までなかったのに」

ダン・レイリー :
.Overed
「超人というのは、今までがそうだったから、これからもそうってことのないやつだろ」

 たとえ、そうするために戦うのだとしても。

ダン・レイリー :
「………待っていろ、応急措置の必要がある。
 道具を探してこよう」

灰院鐘 :「……ありがとう。でも、待ってる間に塞がると思うから」

灰院鐘 :「それよりも、勇魚くんにする言い訳を一緒に考えてほしいかな」

紅 蘭芳 :
「灰院君……」

灰院鐘 :「心配させてごめんね。……すこし、むずかしく考えすぎたのかも」

 へたな冗談で打ち消すように苦笑する

ダン・レイリー :
「所感だが“炎神の士師”は、ひとつふたつの言い訳で『まあいいでしょう』なんて御目溢しをするヤツじゃないぞ」

ダン・レイリー :
「何か聞かれたら素直に、傷口が開いたとしておこう。心配はそちらの方が減る」 

灰院鐘 :「そうかも……そうだね……」

ダン・レイリー :
 傷口の経過は今も見る。
 大したものじゃないというのは本当だろう。そもそも大人として言いたかないがショウは僕より頑丈だ。
  Overed
 ただ超人とて人間だ。
             ・・
 無意識の感情が、無意識に衝動を励起させたのか─── 

ダン・レイリー :血が止まらないようなら一旦中断だ、として。経過を見ながらつぶやく。

ダン・レイリー :
「………兵士は戦場を択べない。
 また、任務に異を唱えることはない。

 手足が脳の意に沿わないなど欠陥品だ………」

ダン・レイリー :
「………ヤツは、そういうのを択んだように見えたよ。
 どんな意図があるか、真実など分からぬにしてもな」

紅 蘭芳 :
「そうそう。
 勇魚ちゃんは、人の痛みとか、そういうのに鋭いから。
 灰院君も、そういうのは隠して抱え込んじゃだめだよ」

紅 蘭芳 :
「多分。
 彼はそれが出来なかったのが、一番いけないことだったと思うから」

灰院鐘 :「…… 装置になれず、人間になれず──か」

 その生き方では苦しむだけだと、"天刑府君"は言っていた。まるで見てきたような物言いのわけが、すこし分かったような気がした。

灰院鐘 :「……うん、おぼえておく。でも大丈夫だよ。僕は頑丈だし、抱えるほどのものもないから」

紅 蘭芳 :
「自分は頑丈っていう子ほど不安なものなんだけどなあ……」

灰院鐘 :げんきな笑顔!

ダン・レイリー :
 ………ならば。
 ・・・・・・・・・・・・・
 抱えるものが出来てしまった時には?

ダン・レイリー :敢えて口にし問い詰めることではなかった。ショウは、少なくとも今は自己評価の通りの純粋なヤツだった。

紅 蘭芳 :
「……まあ、灰院君は大丈夫そうかな。
 けど」
 

紅 蘭芳 :
「それはそれとして傷薬持ってくるね!念の為!
 大丈夫、私の足なら1分とかからないから!」

 言い終わるが早いか、その躰は風となり姿が消えていた!

灰院鐘 :「えっあっ」ばびゅんと駆け出す背中に制止の声が間に合わない!

ダン・レイリー :「………なるほど」 先に押されるとこうなるのか

灰院鐘 :「話してるうちに塞がっ……あっ、ああ〜」

紅 蘭芳 :
「……おまたせ!」

 一分とかからぬと豪語した手前、30秒ほどで何処からか取ってきた応急キットを抱えて紅は戻ってきた。

ダン・レイリー :「有言実行とはな。だが、ありがとう」 

紅 蘭芳 :
「あはは、つい居ても立ってもいられなくて、体が先に動いちゃって。
 ノイマンではあるんですけど、私考えるの苦手で」

 或いはそれは……考え過ぎて精神に支障をきたすのを、無意識に避けるために思考を絞っているのかもしれないが。
 いずれにせよ彼女は先の話の重さを感じさせぬような、天華のようなからっとした笑顔を見せた。

灰院鐘 :「ごめんね、せっかく取ってきてくれたのに……」

灰院鐘 :「……よし!」

灰院鐘 :「待ってて! 勇魚くんと組み手してくるから……!」連戦連敗、覚悟の表情

ダン・レイリー :「ショウ???」 まさかと思うが使うために怪我をしに行く気ではないだろうな???

灰院鐘 :蘭芳さんのやさしさは無駄にしないよ!

紅 蘭芳 :
「いやいやいやいや! いいってば! 何もないなら無いに越したことないし!」
 

紅 蘭芳 :
「まあ、灰院君が何もないなら良かった。うん!

 で……話を戻しますが、私の知ってる元 天刑に関する話はそんな感じです。
 ……結構憶測混じりなので、参考にならなかったかもですが」

灰院鐘 :
「そんなことないよ。聞かせてくれてありがとう」

 走り出しかけていたが寸でのところで戻ってくる

紅 蘭芳 :
「(よかった、ちゃんと止まってくれた……)」

ダン・レイリー :
「………真相は分かるまいが。
 筋は確かに通る」

ダン・レイリー :
「何となくだが、心当たりも出来たよ。
 此方からも礼を言おう」

 そして実際に走り出して“炎神の士師”のところにでも赴こうものなら、どんな顔をしたやら。
 ………止める前に止めて貰ってしまったな。

紅 蘭芳 :
「どういたしまして。あんまり気分のいい話じゃなかったので、力になれたなら幸いです」

 薄く笑ってそう告げると、にわかにその表情を曇らせて続ける

紅 蘭芳 :
「……私の中である程度踏ん切りがついたというか。一旦区切りの付いた話ではあったんです。
 それが、こんな形で元本人とまた逢うことになるなんて……なんの因果なんでしょう」

灰院鐘 :「……案外、向こうもそう思ってるかもしれないね」

ダン・レイリー :「やり残し、区切り………」

ダン・レイリー :
「一区切りのついたものと、もう一度向き合う機会なんて。
 思っていない時ほど来るものだよ」

紅 蘭芳 :
「あはは、案外そういうものなのかもしれません。
 まあ、実際に合って私は手も足も出なかったんですケド……」

紅 蘭芳 :

紅 蘭芳 : 
「自分のこと一番弱いって自覚はありましたけど……実際にやり合って『自分が言うほど弱いかな?』とココロのどこかで思ってた分、結構響きます……」

ダン・レイリー :
「強さ弱さで話をするもんじゃない。
 ………イヤ、あるいはそう感じることがあったとしても」

ダン・レイリー :
「それでもやれることはあるし、実際にあったのだろ。だから生きて戻った。

 そういう背を見せられる人間が、今回の作戦にいることは、きっと大事だ。UGNというのにとっても、そこを目指す人間にとっても」

ダン・レイリー :
 つまりそれでも、やるからには虚勢でもいいから気張れという、大人の世知辛い励ましだ。

 強さ弱さの話をしたらリリア・カーティスしか残らないだとか、そういう慰めなど、されたって仕方がないだろう。

紅 蘭芳 :
「うぐ、手厳しい……
 ……でも、そうですね」

紅 蘭芳 :
「私だって、姉弟子みたいになりたいと思って槍を握ってる身です。
 こういう人生生きると腹をくくった身です。
 それを裏切ることは出来ません」

ダン・レイリー :
「その意気だな。
 裏切れないものがあると思えるなら、きっとそいつがベストだよ」

ダン・レイリー :
「誰だって、案外やってしまえば出来るしな。
 ………それに“天刑府君”がそう簡単に済むではないにせよ、ヤツが引き下がることはないだろう」

灰院鐘 :
 でも、と穏やかだが頑なな声が続いた。

「簡単に引き下がらないのは僕だって同じだ。次はきっと、守りきってみせる」

紅 蘭芳 :
「うんっ、そうですね。
 私も……結局、あの時は何もできなかったし、何も終わってなかった。彼の消息が消えたことをいいことに、見ていないふりをしてただけ。
 だから……せめて最後まで前を向いて、立ち合いたい」

紅 蘭芳 :
「それが、剣侠だった彼を知る……私の為すべきことだと思うから」

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :
「過去が否定されても、消滅するわけじゃない………。
 いつかは思い出にして、片隅に仕舞うモンだとしても、何事もそうする時は来るんだろうさ」

ダン・レイリー :
 ………それがどんなに嫌でも、どんなに過去と現在のギャップがあっても。
 過去を知る人間なりの“ケジメ”ってことだろう。静かに頷く。

「それで、貴女には今がその時なんだろう。
 そう、僕は思う」

 そして、その過去を知らぬが因縁を持つ者としては───。

ダン・レイリー :
「そうだな、ショウ?
 負けっぱなしではお互い終われんようだ。言いたい事ごと、借りを返してやろう」

灰院鐘 :「うんっ! がんばるよ!」両拳を握って気合いいっぱいに

紅 蘭芳 :
「……、はい!」

 気を引き締めた顔で、紅は意を決して応えを返す。
 一介の拳士として、一角の武辺者として。胸中に収め、出すつもりのない過去の話を吐き出した彼女は、一層その覚悟が固まったように見えた。

灰院鐘 :
 失ったものは戻らない。どんな後悔も過ぎ去った時間、起こってしまった事を覆すことはできない。

 ……誰にとっても。
 ……誰であっても。

灰院鐘 :
 いつか──いつか。
 決して失われないという重さが、拭いがたい穢れとなって、いつか心魂を蝕んだとしても。

 残された者の……続いていく道の中にあって、過去へ手向けられることは、彼女の選んだ行いだけだと。

灰院鐘 :
 誰知らず、また我知らず。
 青年は未踏の時の、その一端へと触れていた。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

灰院鐘 :大丈夫だよ〜

ダン・レイリー :こちらからもやはり変更はない。

GM :了解です!

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……




【EXScene⑦/廃都の夢-4】

SYSTEM :
【EXScene⑦/廃都の夢-4】

登場PC: Natalie
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 ────────────

 静かに燃える焼け爛れた灰の中で、その意識は浮上した。

SYSTEM :
 鼻を突く腐臭が嗅覚を犯し、
 コールタールのような粘つく黒が触覚を犯す。
 耳障りな羽音と腐肉の蠢く音が聴覚を犯し
 口内に広がる糞のような味が味覚を犯した。
 既に朧げな視覚だけが、身動きの取れないまま、それの姿を目にしていた。
 

SYSTEM :
 それは大樹の根の底。
 堆く聳える生命の木の、その裏側。
 
 人が踏みしめる度、大地に染み渡り、沈殿していった営みの残り滓。

SYSTEM :
 消費された世界の澱の中。
 善くあるべしと揉み消され続けた黒い堆積物だった。
 

SYSTEM :
 例えばそれは、病によって仕事を失い、遂に看取る家族もいない者。
 例えばそれは、精神の歪みと人に理解されることなく、はみ出者として処理されたもの。
 例えばそれは、自業自得の果てに転落し、誰も手を差し伸べる事をしなかったもの。

 都市は進化を求める。
 善く在るために、絶えず向上することを望まれた。
 堆積するものも消化しきらねばならなかった。
 故に炎は黒く燃え続けた。
 棄てられたもののすべてを薪にして、それを処理し続けた。

SYSTEM :
                   ゴミ
 ──人が活動する以上、どんなものでも 塵 は貯まる。
 それが消費して生きる生命の絶対原則。

 積み重なった屑は、この世界にあってはならない。
 故に誰が顧みることもなく燃え尽きる。どこでもない根の底で。

SYSTEM :
    マサクマヴディル
 此処は神 の 屑 箱。

 棄てられたゴミが、これ以上先に逝く余地のなくなった思念が、最後に行き着く地獄の火。

"最後の一人" :
 ──ご苦労様、ここが行き止まりの底の底だ。
  何処の誰だか知らないし興味もないが、労いはしよう。
  生憎お出しできるのは、見ての通りこのぐらいしかないんだが。

"最後の一人" :
 幸福の数には限度がある。
 どんな場所でも束になるとな、底から大勢と、てっぺんから一掴みを引っこ抜くことでそいつを担保するようになる。

 そういう燃料が何処でも必要になってくる。薪をくべずに火をともすなんて、ムシが良すぎる話だろう?
 

"最後の一人" :
           ・・・・・・・・・・・・・
 キミらの本当の関心はそれが納得のいく薪かどうかだけだ。
 だからほら。
 一番要らない奴が誰か、残酷なぐらいハッキリさせて、こんな場所まで運んでくる。

"最後の一人" :
 オレはその、最後の一人さ。
 キミみたいな落ちるところまで落ちた滓を燃やして、熱に変える仕事がある。
 無駄のないエネルギーの創出には、そういうやりくりも必要ってコトだ。たとえ屑でも、何一つとして価値は無駄に出来ない。

 でもまあ。別に理不尽とは思ってないだろ?
 原因はあったろうが、その上で努力もしなかった奴が大半だからな、此処まで行きつく奴は。

"最後の一人" :
 キミらは悪だよ。
 呪うことを好んだのだから、呪いは自らに還るように。
 祝福することを拒んだのだから、祝福は遠ざかるように。
 
 だからここまで落ちてきた。此処で誰に看取られるでもなく、この炉の中にくべられる。

"最後の一人" :
 恥の多い人生だったろう。
 意味のない生涯だったろう。
 
 だから、そういうモノに対する最後の慈悲をくれてやる。

"最後の一人" :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 どこにも存在せず何者の為にもならないこと。

 そうやって消え果てることを、オレが赦そう

"最後の一人" :

 他者にとって何の価値も認められず、伝えられることもなく消える。
      それ   ・・・・・・・
 故にこそ、生涯は真実キミだけのモノになる。

"最後の一人" :
 そう生きてそうくたばることを、無頼のまま誇って消える。
 ……嗚呼、全く以て羨ましい限りだよ。

SYSTEM :
 既にその鼻腔から、吐き気を催す悪臭は消えていた。
 既にその耳からは、静かな羽音すら聞こえない。
 すべての感覚が幕を下ろすように消えていく。
 行き着く果て。路傍の屑のように、その命は炉の中で掻き消える。

SYSTEM :
 その終着の刻。
 最後まで残った視覚が、燃える黒炎の中に人影のようなものを垣間見た。
 消えゆく最後までその様を見届けた男。
 霞んで見えない影法師からは、どうしてか遠い郷愁を感じさせるような。
 そんな遠い眼差しを向けられているように感じた。

SYSTEM :
 …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……

SYSTEM :
 そして意識が落ちると同時に、ナタリーの視界に戻ってきたのは、いつもの夢の景色。
 沈み続ける死海の夢。まるで包み込む母の愛のような、深い眠りの中だった。

SYSTEM :
 ……先程垣間見えたものが何であったのか、ナタリーは想像するしかない。
 あれもまた或いは、かつてあの島で過ごしたものの記憶の断片なのか。
 それとも偶さかに見た、自らの内側から発されたインスピレーションの類であったのか。

SYSTEM :
 深い深い海の底へと沈みながら、ゆりかごのように波に揺られて。
 あなたは幾度目か分からない、安らぎの中に沈んでいく。

 いつもと変わらない景色。
 それは宛らに状況に翻弄され、寝静まった中でさえ悪夢に晒される少女を、癒そうとしているようでもあった。

ナタリー・ガルシア :「………………あれは」

貴方ですか?と、零れそうになった言葉を口の中で転がす。
問えば答えてくれそうな気もするし、煙に巻かれそうな気もする。

けれど、そう、これは何度も互いに確認し合ったことだ。

答えは、自分で見つけなければならない。

ナタリー・ガルシア :だから、溢れなかった言葉のかわりに溜息を一つ。

「……結局のところ、昔も今もあまり変わりませんわね」

誰かが富むために誰かから奪い、全体の利益と嘯いては犠牲を強いる。
それが直接的な略奪から経済的な搾取に変わろうとも、人の営みは何も変わらない。

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :「貴方から見て、現代はどうですか?昔と比べて、今の社会は――そこに住まう人々は」

"アダム" :
 ──特に何も。
 まあたかが四千年、変わるとしてもこんなもんだろう。寧ろ、それまで続いただけ上出来とさえ思うね。

"アダム" :
 ただの猿に毛が生えた程度のもんを高尚に捉え過ぎだ。人間なんぞ、そんなものでいいだろう。
 進化の日は遠く、ただ進歩をのみ尊んで構造だけは欠片も変わらない。結構なことじゃないか。

 尤もアイツが同じことを考えてるかどうかはわからんが。
 

ナタリー・ガルシア :「はぁ……それはそうかもしれませんが、なんだか言い草が偏屈なおとしよりの方に思えてきましたわ」

呆れと同意を半々にして、ほんの少しばかり皮肉を込める。

「……お姉様やハーヴァは、たしかにこんな風には考えないかもしれませんわね」

ナタリー・ガルシア :「……少しばかり、露悪的な物言いをしても仕方ないとは思いませんか?私、我が祖国に裏切られたばかりですのよ?愚痴の一つも言いたくなりますわ」

被害者と、己以上に国に尽くしてきた者たちがいる場では到底吐き出せない言葉を、悪感情を込めて吐き捨てる。

ナタリー・ガルシア :「そうしなければならなかった理由も、その選択のお陰で大局的には多くの人間が救われるのかもしれないという論理も理解できますわ……けれど、それでも、失望してしまいました」

まあ、貴方にこんなことを言っても意味はありませんけど、心のなかで付け加える。

大人であれば、お酒に頼って消化してしまうのだろうか、とも思ったりする。

もっとも、エールすら口にしたことのないナタリーにとっては想像でしかない話だが。

"アダム" :
 老害呼ばわりされる筋合いはないんだがね。だが知った仲の連中はどいつもこいつもそいつに過度な期待を寄せ過ぎだったんだよ。
 キミが言う祖国のお話に関してもね

"アダム" :
 大量生産大量消費。奇しくもウチとそっくりだ。たとえ認識されていようといなくとも、歴史は繰り返すか。
 だからって連中もくだらないことを考えてくれる。何で滅びたか、考えもしないんだから。

"アダム" :
 どうしてこう、後の時代の連中は自分の方が巧く使えると過信出来るのやら。
 移民の国、後先考えないまま入植した能天気な連中の子孫の考えそうなことだよ

ナタリー・ガルシア :「存在しないものを信じられるのは、人間の長所でもあり短所でもある、というわけですわね」

期待も、過度な自信も、歴史の中で何度も繰り返される繁栄と衰退も――

「愚かでなければ、これまで人は生きてこれなかったかもしれませんわよ?賢しく悟った者ほど世を儚むと言いますし」

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :自嘲するように、僅かに口の端を緩ませる。

「痛い目にあっても、予想を裏切られても、それでも時を於けばまた――また、立ち上がれるかもしれないと、思ってしまいますから」

"アダム" :
 そういう機能が無くては生きていけない面倒な生き物だ。度し難いなニンゲンという奴は。
 

"アダム" :
            ・・
 だが……だからこそ彼女はそこから始めた。

"アダム" :
 時に、こんな話がある。
 其方の時間軸では今から五十年ほど前になるか。マウスを使って一つの行動分析学の実験が行われた。

 水と食料が十分に供給される環境で、小さな箱庭で行われる鼠たちを遣った行動分析学の実験でね。

"アダム" :
 要するに……生きていくことに不自由のない環境を与えられた生物が築く社会は、どういう推移を辿るのか。
 そいつを鼠を遣って試してみたという訳さ。

"アダム" :
 これは何度か行われたが概ね結果は同じだったらしい。
 途中までは順調に個体数を増やしていったが、突如として個体数は減少傾向に入り、やがて完全に滅亡した。
 最後まで満たされていた環境で育っていたにもかかわらず、だ。

"アダム" :
 実験はこう結論された。
 生殖により増加し、過密するにつれて社会的な役割もまた埋まっていく。すると、競争とストレスによって社会行動が崩壊する……とね。
 

"アダム" :
 多様性による生存を是とする反面、淘汰を行わねば腐敗し自壊する。鼠も人も、その点においては変わらない。
 全員の生存を確約したところで個体差はどうしても生まれる。差がある限り争いは生じる。
 そして社会を構築するものが結局の所個人である以上、適さない個体が増えれば増えただけ不健全になる。道理だよな? たとえ上位存在の監視の下ですらそうなんだから

"アダム" :
 ハーヴァはあの都市構想を固めるうえで、当然そういうことも考慮していた。
 煮詰めれば煮詰めただけ立ち行かなくなる都市計画。数千年先を見据える彼女の視野は、ある意味では広く狭かった。
 

"アダム" :
 元々、一つの場所、一つの星に生存できる生物の数は限られている。
 幸福も役割も善の席も富める者貧しい者も。
 すべて有限だ。
 無限の資源の頭打ちは、役割の限界だった。
 枠組みを作り続ける限りは、必ず辿り着く場所だ──とくに、善くあることに拘れば猶の事

ナタリー・ガルシア :「……では、生物は適度に間引かれなければ立ち行かなくなる、と?」

限りあるカードでは、いつか人々に行き渡らなくなるときが来る。その論理は至極真っ当で、ナタリーの感覚と思考の両方が正しいと告げていた。

「この世界が有限である以上、それは仕方のないことだとは思います……思いますが」

ナタリー・ガルシア :それをハーヴァが許容するだろうか?

そして、それを放置するだろうか。

ナタリー・ガルシア :「ハーヴァは、見つけ出したのですか?その限りを取り払う、術を……」

言って、言いかけて、脳裏を光景が過ぎる。

ナタリー・ガルシア :
「そんな、まさか、ハーヴァがそんなことを許すはずがありませんわ」

"アダム" :
 ああ。彼女にとってもそれは認めるわけにはいかなかった。彼女にとって善と悪の比較、なんてものは一番嫌いなものの一つだ。
 ・・・・・・・・・・・・・
 あちらが悪だからこちらは善なんてことで善性を保証するというのは、何の自己研鑽も生みはしないってね。
 だから色々考えて試してみたようだ。

"アダム" :
 例えば──個体差による軋轢を失くすために、そもそも外に目を向けさせないようにするとかね。
 各々が閉じた世界で観たいものを観て、その中で同時に各々が秀でている社会的役割を果たす社会。
 人と人との繋がりを敢えて思い込みで舗装して作り出される自己完結した都市。

"アダム" :
 各人の形に閉じた世界で永遠に生命活動を行い、脳内で自らの満たされる姿を想像する。
 各々が欲しいものを受け取って自由に生きる閉ざされた理想社会。

 けど、これも彼女はお気に召さなかった。

"アダム" :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 初めから幸福を想像できない人間には永劫の地獄しか待っていない。
 いるんだよ、そういう心底面倒臭い人種が。尤もそいつもそいつの見たいものを観ているから、幸福であると言えなくもないが……
 そもそも、こういう形になると一生個体数は増えないままだし、レネゲイドとの相性もよろしくない。

"アダム" :
 レネゲイドは外部からの刺激を受けとるために人に寄生している側面もある。
 外部の刺激による情動の発露。これが行われなくなった個体は漏れなくジャーム化した。
 本末転倒ってやつだ

"アダム" :
 あちらを立てればこちらが立たず。
 社会に依れば多数の個人が歯車に潰されて、
 個人を見れば見る程社会の持続が危ぶまれる。
 まさに度し難い人の業だよ。

"アダム" :
 まあ──だからこそ、自分では無理だと神に縋ることにしたわけだが。
 考えうる限り、一番信頼のおける神を作ることによってね

ナタリー・ガルシア :「……それが彼女、『預言者』ですわね」

ナタリー・ガルシア :完璧という言葉が孕む矛盾と同じ、全てが満ち足りた完全であるからこそ、『満ち足りていない』という不完全が足りていないという矛盾。

全ての人間が等しく幸福になれるように、全てを与えたとしても零れ落ちるものは必ず現れる。
望むものを何であれ手に入れられる楽園であっても、望むものがなければ地獄でしかない――そんな少数すら、等しく救けるためにハーヴァはすがったのだろう。

ナタリー・ガルシア :「絶対に不可能なことを成し遂げることと、絶対に不可能なことを成し遂げられる何かを作り出すこと――よく被造物は創造主を超えることは出来ないと言いますが、成長する『預言者』であれば話は別、ということでしょうか」

"アダム" :
 ああ。彼女は"御神体"から生まれたRB……都市の神たる蛇の偶像、その意思の具現とするならば、言ってみれば御遣いのようなもの。
 彼女は人間より長い時間を生きて、ノイマンを含めた人間よりはるかに高い知性を持ち、より柔軟に都市全体を管理できる。
 より人々の声を聴き、それに応じて自己進化、成長をすることが出来る。
 

"アダム" :
 方向性を間違えないように慎重にインプットを続ければ、自己進化する『預言者』は必ず人々をそこに導いてくれる。
 人が管理するより、余程巧く事を運べるようになる──そう期待した。

"アダム" :
 まあ……その最初のインプットは他所の誰かがとっくの昔に入力済みで。
 だからこそ懸命に敷いた『預言者』のレールは、派手に転ぶ羽目になるんだがね。
 そこは、キミも先に聞いた通り事実だ。何も間違っちゃいない。預言者は、その出生からして運命が設定されていた。

ナタリー・ガルシア :「……最初から、いえ、その最初だけが間違っていた」

それは、あまりにも悲しい話だ。
ハーヴァも、『預言者』も、その最初の一歩を間違ってしまったがゆえに全てが狂いだした。

ナタリー・ガルシア :「これは、ただ、かつてそうであっただけだという話です。話、ですが……こうして想いを馳せることは、無意味なのでしょうか」

全ては遠い過去に起きてしまったこと。
それは決して覆らず、刻まれた轍が消えることはない。
だからこそ、この感傷は『余分』であると、どこで冷静な自分が告げている。

過去にあったことに拘泥するのではなく、前に進むための力にしてしまえば良い――これまでそうすることを心がけてきたように、はるか彼方を目指すのであれば立ち止まる暇など無いのだから

ナタリー・ガルシア :けれど、この想いを昇華してしまうことを呑み込めない己もまた、ナタリーは自らの裡に認めていた。

もはや誰も知らない、かつてあった人々の願いと営み――それをたった一人抱えて歩み続ける人を思う。
永遠なんてものは存在しない、けれど、自らが抱える感傷を簡単に断ち切ってしまっていいとも、ナタリーは思えなかった。

ナタリー・ガルシア :
「『預言者』は……彼女は、何を想っているのでしょうか。何かを、想っていたのでしょうか」

"アダム" :
 意味がない、ということはないだろう。価値があるかは別としてね。
 けどまあ……
 

"アダム" :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 面倒臭いからそっとしておいてくれ。
 そう思う奴もいるだろうね。

"アダム" :
 まあ『預言者』の考えることは判らんが、彼女に限ってそんなこと考えてもいないだろう。
 オレから保証出来ることはそのぐらいだ。
 

"アダム" :
 そして彼女がその時何を想っていたかの是非は兎も角して、彼女がやってきたこと自体はハッキリしている。
 これから観に行くのは、その行く末だ

"アダム" :
  アルティメットワン
 "究極の進化を齎すもの"……とか言ったか?
 そういう名前を付けた奴は皮肉が利いている。進化、成長の窮極が何なのか、理解って言ってるなら性格が悪いとしか言えないよ。
 最初の役割が決められている以上、もうやることは一つきりだ。

"アダム" :
    コマンド
 どんな願いを入力しても、最終的には『それ』を前提として命令を解釈する。
 誰をベースに設計されても、畢竟その方向性にカタチが歪められる。
 どう形を歪めようと、湧き上がる衝動を前にそうせずにはいられない。

"アダム" :
 だからね。
 『預言者』……エヴァンジェリンが手段として目指したのは成長・進化だった。

"アダム" :
 猿であることが失敗なら。
 猿である限り幸福になれないなら。
 ・・・・・・・・・・
 猿をやめさせりゃいい。

"アダム" :
 彼女はそう決めて、その為に突き進んだ。
 もう止まることはない。
 この時代から成長はより加速的に発展する。

ナタリー・ガルシア :「……それが、これから見ることになる光景なんですわね」

"アダム" :
 そういうことさ。
 最初のが黎明、その次が成長期への転換期なら、ここからは成長期にあたる。本来なら成熟と衰退、という運びで推移するのが社会の常だが……

"アダム" :
 貪婪に膨張を続けてきた以上、その終わりも歪だった。
 もう前回までみたいに呑気に観光は出来ないぜ。

"アダム" :
 ハーヴァは既にいない。
 視点も恐らく、セラからズレるだろう。
 どちらかというと見ている時間の方が多くなる。そこで。キミは、変わり果てた都の姿を目にすると良い
 

"アダム" :
 ──準備はどう?
 何時でもいいが、前みたいに錯乱して途中で止めさせてくれるなよ。折角時間を取ったんだ

ナタリー・ガルシア :「…………大丈夫ですわ、今回は覚悟ができています」

ナタリー・ガルシア :「それに、貴方にあんな醜態を二度も晒すわけにはいきませんもの」

ね?と、笑みを浮かべる姿は虚勢であることは明白で――けれど、繕えるだけの余裕があるということでもある。

"アダム" :
 上等。それだけデカい口を叩けるなら……
 ご開陳だ。お綺麗な都市がひた隠しにした暗部を、白日に晒すとしよう。

"アダム" :
 ──────では、話をしよう。
 

"アダム" :
 これは運命の熾り、縁の起こり。
 
 キミに纏わる、キミへと繋がる、キミと関わりのない物語。
 

"アダム" :
 ──忘らるる都に繋がる、夢廻の旅路だ
 

"アダム" :
 さて。
 今はキミが知りたいことを見せてあげよう。

 ここなら、それが出来る。

SYSTEM :
 …………………………………………
 ……………………
 …………

SYSTEM :
 そうして、意識は三度浮上する。
 まるで目覚めるように、深い深い眠りから目覚めたあなたが最初に感じたのは肌寒さだったろう。
 気候や気圧のような物理的な問題ではない。
 もっと直感的な、夢の中であればこそ感じうる場の触感。
 近未来的な景観と打って変わり、どこか牧歌的な雰囲気を感じていたあの街とはまるで違う。

SYSTEM :
 眼を開けた先に広がるのは、綺羅星の如く輝ける、地上に降り立った星空。

 しかし、そこから感じ取れ、見聞き出来るような人の営みはない。そればかりか、人影一つさえも景色に移ることがない。

SYSTEM :
 かつてあった街の憩いの場も、豪奢な民家も、人が少ないながらも賑わった飲食店もなければ、街を征く人々が自らの力を活かして大工仕事に取り組む様子も見受けられない。
 最早そこは面影すらない別の世界へと、変貌しきっていた。

ナタリー・ガルシア :「…………随分と様変わりしましたわね」

もはやかつての面影すら残さない、様変わりした都市をぐるりと見渡す。
SF映画に見るような、非現実的な光景。

「空を飛ぶ車が走っていても不思議ではありませんわね」

SYSTEM :
 ナタリーがそう感じたように、事実ここは先の時代に見たニューヨークの面影はまるで感じられない。最早似ても似つかない。
 薄暗い夜闇を照らす、床を伝う光のそれは電子回路を彷彿とさせた。
 暗がりを薄く照らすその景色は幻想的であるが、一方で凡そ人間らしい場所といえるものが何一つ残っていないことを気付かせた。
                  マザーボード
 これではまるで街というより、巨大な電子盤だ。

????? :
「……ここに人が流れ着くのも、実に何年ぶりでしょうか」

 そんな変わり果てた街の様子を眺めているあなたに、矢庭に聞き覚えのある女性の声が響いた。
 聞きまがうことのない凛とした声音。かつての夢では少女のものであったが、認識のズレが正された故か、時間軸のズレが修正された故か。
 確かに、現実世界のものと同じ声に聞こえていた。

"セラ" :
「──この街の名は、ソドム。
 ディアスポラ
  共 同 体 を負われた、天使の加護を賜りし者たちが流れ着く地。
 失望させて申し訳ありませんが、ここは世に伝え聞くカナンの街ではありません」
 
 目を伏せて語る様子は見紛う筈もない、リリア・カーティス……この時代においては、『セラ』を名乗る女性のもので。

"アダム" :
「……いや、此処でいい。
 元々そっちに行くつもりだったがね。ぼちぼち水も切れそうなところだった。
 上の連中のごたごたに巻き込まれて家内と娘とで途方に暮れてたが、どうにも運がいいらしい」

"アダム" :
「噂には聞いてる。
 ヨルダンの死の海には忌み人が集う静かな島が存在していて……
 そこでは天使たちが集い、祝福を賜り面白おかしく過ごしてるってよ」

"アダム" :
「──オレはハランの息子、ロトという。
 家内共々世話になるぜ」

 その問いかけに対して、流暢に応えを返したのは、これまでの時間軸では存在すら街に認識されていなかったアダムだった。

"アダム" :
「…………ああそうそう」

 ふと思い出したように、アダムはナタリーに向けてすかさず耳打ちする。

「ちなみにキミ、今はこの『ロト』の妻の設定ね。
 オレだって頗る嫌だが呑み込め」

ナタリー・ガルシア : 

ナタリー・ガルシア :「…………」

ナタリー・ガルシア :「……は、はい、見慣れぬ町並みに少し驚きましたが、ええ、よろしくお願いしますわ」

ぎこちなく頬を吊り上げて、なんとかほほえみを作る。もっとも、ナタリーの瞳はまったく笑っていなかったが。

"アダム" :
 一方でナタリーが後ろ姿を見つめるアダムの肩は細かく震えていた。

"セラ" :
「……そうですか。遠路はるばるようこそおいでくださいました。
 ですが──早々に立ち去ることを勧めます。旅の方。この街に、囚われる前に」

 ぎこちない笑みに気付いてか、気付かないままか。セラは二人から視線を切って、街の空を見上げていた。

"セラ" :
「天使の住まう街。と、そう伝え聞いていたのでしょう。
        ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・
 此処は、もう。人の住める環境から、少しずつ外れています」

"アダム" :
「みたいだな。よくは判らんが」

 どこか白々しい態度で適当に相槌を打つ。

"アダム" :
「けどどの道ここを出たら結局犬死するだけ。だいたい出方も分からん。乗ってきた船もねぇし……
 ちょっと家族会議させてくれよ」

ナタリー・ガルシア :……なんとかほほえみを貼り付けて我慢する。お姉様の前でなければ、蹴っ飛ばしていたところだ。

"セラ" :
「……わかりました。
 けれど、決断はお早く。
 ──次のフェーズが始まるまで、そう短くない。今のこの"都市"に、あなた達を巻き込みたくはありません」

 そう言ってセラは彼方を見据えて目を離さない。

"アダム" :
「はいよ、そうさせてもらうさ…………」

 軽薄な口ぶりでそう言いつつ、ナタリーの背中を押して距離を置く。

"アダム" :
「…………さて。
 そろそろ、説明の方に入って行こう。お子さんにはちと刺激がきついスペクタクルだ。何の準備もないまま始められちゃいかんだろう」

 こそこそと、声を潜めて"アダム"はナタリーに耳打ちを始める。

"アダム" :
「今の時系列は、表の時間ではあれから2,300年ぐらい後の時間軸になる。
 紀元前1700年。観測史上で、ソドムの原型と思しき街が滅びた時期に相当する」

"アダム" :
「見違えたろう。これじゃまるで別物だ。すべてが自動化され、人の姿さえまともに見えない水晶の都。
 世に聞く退廃の都の正体であり、キミらがこれから立ち向かう街の、最終形態ってとこだ」

ナタリー・ガルシア :「……確かに、この光景を見れば納得ですわね。私達の生きた時代よりも、遥か先の時代と言われても納得できますわ」

"アダム" :
「ああ。当然話も此処からずいぶん飛躍するからしっかりついてこいよ」

"アダム" :
「こっちに入る前、鼠の実験の話をしたよな。居住スペースが限られていると繁殖に支障が出るという話にも触れたが、当然それはこの街にも適用される」

"アダム" :
「島の広さ自体は葯9,000km²。クレタ島とどっこいって具合だ。
 海域を含めても然程広くない。常に拡張する必要に迫られた」

"アダム" :
「ルールとして範囲から脱出してはならないという原則があった故に、その版図は必然的に上か下へと延びることとなる。
 地下か、上空か。ソドムの開発は往々にして上方へ延びる方向で増設されていったんだ」

ナタリー・ガルシア :「……確かに、NYの摩天楼も、これには叶いませんわね」

"アダム" :
「宛らバベルの塔ってわけさ。
 まるで階層化社会を視覚化するように、上層、中層、下層に分かれて管理されることになった」

"アダム" :
「この傾向はハーヴァが生きていた頃から存在していたことだが、都市の王が「預言者」による管理となった折にそれは根本的に視野を変えた。
 一つの発見があったからだ」

"アダム" :
         ・・・・・・・・・・・
「それはこの法則が大気圏内まで適用されるという原則を識ったからでね。

 階層化のために堆い塔を築いた、この島は根本から別の形状を取ることとなった」

"アダム" :
「──見える? 
 向こうの遠巻きに見える光の柱が。あれは本来の居住区だった塔を、改築して出来た代物……」

"アダム" :
「あれはもう居住区としての機能を完全に失い
   ジェイコブズラダー
 既に軌道エレベータに改造されちまってるんだ」

ナタリー・ガルシア :「軌道エレベーター……本当にSFそのものですわね」

"アダム" :
「ここはもう、すでに島と呼べるものじゃない。
         ・・
 敢えて言うなら、大樹。
 この星に現出した生命の木。
 成層圏をも突き破り高く……高く聳える。
 宇宙を衝く大樹の根を張る土台に過ぎない」
 

ナタリー・ガルシア :「まさに『世界樹』というわけですわね……こんなものが、遥か過去にあったなんて」

"アダム" :
「そしてここはそう、下層にあたる。
 アッシャー イェツラー ブリアー
 下層、中層、上層。
 丁寧に生命を三つに分断して、このシステムは作り出された。もっと比喩的な言い方をするなら地獄ってやつだ」

"アダム" :
「ま……作為して作られた地獄と考えりゃ、現代と比べたらマシかもな。
 そう言う方向では確かに救いがある場所になったんじゃない?」

 皮肉げに鼻で嗤って

"アダム" :
「ここでは生物の情報は基本的に電子化されている。より正確に言えば生命の情報化……ともいえるか。
 マスターテリオンとか言う奴がそうなったって話してたろ。
 アレの基幹にある技術さ。元々は居住区の不足による問題から生み出されたものでね」

ナタリー・ガルシア :「それでは、住民たちは……皆電脳空間のような場所に生きている、ということですか?」

"アダム" :
「そうであるともいえるし、そうでないともいえる。
 ……実際、完全に電脳空間で暮らすだけならこんなでかい施設はいらんからね」

"アダム" :
「島一つのサイズがあれば、サーバとその予備、メンテナンス用の諸々込みで十分事足りる。ことにこの都市は狭い土地を遣ってただけに小型化の技術はそれなりに早い段階で進んだ。
 『ただ暮らすだけ』なら、仮想現実を作ってその中で住まわせればいい」

 だが、そうはならなかった。
 彼はそう結論する。

ナタリー・ガルシア :「……満たされるため、ですか?」

"アダム" :
「思い出してみろよ。此処の今の管理人は、要件定義の段階で上から無理難題を吹っ掛けられてたんだぜ。
 最終的な行動の指針がどうなるかはエヴァンジェリンの習性に沿うとしても、ハーヴァから与えられた命令は絶対だ。だからどんな曲解でも従わないといけない」

"アダム" :
「満たされるため。というのは一部正解だ。
 『知識を以て善く在るように』……
 満たされるため、というのは手段の一つだった。その上で腐敗しないための手筈を整え、視野を狭めず、何より進化に向かわなくちゃいけない」

ナタリー・ガルシア :「では、滅びに至るまで進化し続けるために……そのために、進化を、人々の発展を推し進めたということですか?」

"アダム" :
「滅びる事が目的に含まれているかは分からんがね。少なくとも進化を推し進めるためには、電脳ではいけなかった。
 電脳空間では物質的なイレギュラー要員、ひいては突然変異を誘発するのは難しかったんだよ。これは物理学的な話でなくレネゲイド的な話だ」

"アダム" :
「レネゲイドの解析は、この時代ですら完全には出来ちゃいない。だから仮想現実を作ったとしても、仮想現実内で進化の起点となる突然変異を発生させられなかったんだ。
 ──それが出来る存在がいるなら、それこそ本当の意味で神というしかないだろうね」

ナタリー・ガルシア :「巨大なシミュレーターとしての面が強かったということですか?それでも、目指すものには届かなかったようですが……」

"アダム" :
「ま、それもあるが……
 三位一体って言葉、あるだろ。仏教だと三身って言うんだっけか」

"アダム" :
「神と聖霊と子の本質は同じでどうのこうのとかいう、カトリックが苦し紛れにひねり出したあの言い訳さ。
 例えるならアレに近い」

"アダム" :
「電子情報化された生命は、上層での躰と下層での躰に分割され、それを電子情報として相互に情報を伝達していた。
 此処で人格の同一性みたいなのは重要じゃない」

"アダム" :
「あー、なんだ。
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 要するに一つの情報を遣って別の人間を作ってるんだよ。それぞれの層に別の人間を作ることでね」

"アダム" :
「……肉体の情報ってのは、少なからず精神にも影響を与えるもんでさ。
 電子化された市民を複数の現実で活動するマテリアルボディに分け、それぞれの役割を担わせた。
 これなら必要なパターンを一つのサンプルから多く精製できるし……
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ……同じ人間が別々の身分で活動しているから
 ・・・・・・・・・
 身分の差は生じない。トンチにしては嗤えるだろ?」

ナタリー・ガルシア :「全て自分だから、というわけですか……そんな課せられたルールの穴を突くような」

"アダム" :
「エヴァンジェリンの判断では、今の人類でその達成は無理だ。でもその、次の代に至るための試行には犠牲が必要だった」

"アダム" :
「そうなると最初に決めた条件の穴をついて動かねえとやってられんだろ。
 それにこれなら『今の市民』を幸福にするという制約にも引っ掛からない。準備が整うまでサーバに電子情報として保管しとけばいい」

"アダム" :
「ま……ハーヴァが想像するものはその準備段階で割と用意できたかもしれんが。
 良くも悪くもエヴァンジェリンはハーヴァをモデルにして発生したとしても、『別の生物』なんだよ。とくに、その身が衝動に焼かれているなら猶更に」

 肩をすくめる

ナタリー・ガルシア :「そうですわね、人間では心理的な盲点で試すことさえしないようなことも、実際に試行してしまえる、と」

あるいは、倫理的に試してはいけないと思うようなことも、また。

"アダム" :
「視野を広げるために人でない者に託した結果がこれだ、とも言えるね。
 
 で──実際に此処で何が行われていたか。についてだが……」

 アダムがそう告げた折に、変化は起きた。

SYSTEM :
 突如としてアラート音を思わせるような高い音と共に、この地表の随所に配置されたレッドランプが点灯し始めた。
 宛らに災害の前触れ、避難を勧告するように響き渡るサイレンが耳を劈く。

"アダム" :
「……一々間が悪いな、まったく。
 そろそろ時間だ」

ナタリー・ガルシア :「お姉様が言っていた、『フェーズ』が始まるということですか?」

"アダム" :
「ああ。所詮夢と侮んなよ、此処でのダメージは現実の身体に持ち込まれやしないが精神は別だ。
 腕がぶっ飛べば幻肢痛よろしく失った痕が痛み出す」

ナタリー・ガルシア :「……初耳なんですが?」

"アダム" :
「今言ったからな」

ナタリー・ガルシア :「~~~~ッ!!!」

SYSTEM :
 軽口を叩く傍らで、拡声器越しの女性の声が響く。
 恐らく年齢的にはナタリーと差はないであろう少女の声だ

女性オペレータ :
『緊急警報発令!
 ブリアー    ディアスポラ   ディアスポラ
 上 層にて第三 居 住 星と第五 居 住 星 の衝突を確認!
            ディアスポラ
 それに誘発し第六、第二 居 住 星 も活動を観測
 トライアル 
 聖 戦 の開戦が予想されます、各下層市民は配置に付いてください!』

"セラ" :
「…………。
 エヴァ……あなたは一体、いつまでこんなことを」

 警報の中、一層険しい表情で彼女は遥か上空を見上げる。

"セラ" :
「さあ、旅の方!
 早くシェルターの中へ!」

ナタリー・ガルシア :「おね……いえ、貴方はどうするんですの!?」

"セラ" :
「私は此処に残ります。
 いざという時、ということもありますから」

"セラ" :
「ですが……巻き込んで申し訳ありません。
 今のこの都市は──もう、平穏からは尤も縁遠い都なのです」

ナタリー・ガルシア :「いいえ――私にも、見届けなければならない理由があります!」

ナタリー・ガルシア :「ですから、ご一緒いたしますわ――私のことは捨て置いてくださっても構いません。私は私の意志で、この都市で何が起きているのか、どうなるのかを見届けると決めているのですから」

"セラ" :
「勝手なことを……!
 本当に死にたいのですか!?」

 一喝するセラ。ナタリーが、これまで数える程、というより初めて目にしたかもしれない、リリアの激情。
 それは或いは、本気で彼女の身を案じていた故であったろうが……

"アダム" :
「相変わらずお転婆なこって!
 へいへい。キミがそういうことなら付き合おう。それに……もう遅ぇだろ、あの様子じゃ」

"アダム" :
 言いつつ、視線を上空へと移す。空を見上げるよう促して、アダムは続ける

"アダム" :
「ここは夢の中。だからこそ、意識を向けりゃ見えるはずだ。
 折角特等席に座ったんだ、しっかり見ておけよ」

"アダム" :
「──死海文書に曰く『光の子達と闇の子達の闘い』……

 ──大気圏外に根を張る、天使たちの聖戦だ」

ナタリー・ガルシア :「……すみません、お姉様。ですが、私はこのためにここにいるのです」

その言葉が届いたのか、確かめる暇もなく――はるか天空の光景へ、視線が引き寄せられる。

SYSTEM :
 見上げた遥か上空。
 そこは都市中枢軌道エレベータの続く果て、高度400kmを超える遠きの宙。

 星々が瞬く原始の青の星の上に、無数の鋼の衛星が、そこには犇めいていた。

SYSTEM :
 遥か上空。見渡せる宙に点在するのは、星の宙まで活動権を広げた人類の足跡。
 
 賢者の石による核融合炉を動力源とするスペースコロニーに他ならない。
 都合八基。それらは地球の衛星軌道に乗りながら、都市上空のポイントに留まり続けていた。

SYSTEM :
 此処が根で、空を衝く巨塔がエレベータならば、この宙域に広がるそれは枝分かれする大樹の葉。
 その間で──今、一際光が強く瞬いた。

"アダム" :
「少し勿体ぶったが、そろそろ結論を言おう」

 瞬き、地表にさえその余波は伝わるだろう激震を肌で感じながら、アダムは述懐を始めた。

"アダム" :
      トライアル
「ここはな、聖 戦の場なんだ。
 さっき言ったろ、進化は偶発的にしか起こらないと」

"アダム" :
「地上のこれが人間としての活動なら、上層の人間に割り当てられたのは生存競争の場。
 彼らは宇宙植民としてこの宇宙コロニーで培養され、電子生命の情報として都市の人間が詰められた生き物。
         バーテクス
 次世代の生命体の 頂 点 がいずれに成るのかを定めるために設計された、陳腐な言い方すりゃ天使と悪魔たちだ」

ナタリー・ガルシア :「そのために――次世代へ届くために、屍を積み重ねろということですか?そんな、そんなことを……」

SYSTEM :
          ディアスポラ
 激闘の開始と共に、 植 民 星 から這い出た異形が姿を見せる。
 鋼の肉体と、異形の肉体を併せ持った騎士の如き無顔の姿があった。
 さながら黒龍をかたどった、鋼の鎧を身に纏う巨いなるものがあった。
 異形質の争いであると思えば、通常の人間の姿をした個体もいくつか観測された。
 異様な光景であったが……間違いなく彼らは団結していた。団結し、作戦を練り、運用を考え、効率的に敵を殺す為、互いに兵を出していた。

SYSTEM :
 星間宇宙をも割いて活動する星の戦士たち。

 荷電粒子が息吹を放ち、電磁フィールドの波が大気を震わせる。
 その度に空の彼方が瞬き、一拍遅れて暴風が地表にまで伝わってくる。

"アダム" :
 風をうけながら、アダムは飄然と続ける。

   サ イ フ レ ーム
「……鋼殻猟兵ってのがいたろ。あれをイメージしてくれたらいい。
 サーバのシミュレータ内で算出されたデータを基に、人類の派生形を創造し、コミュニティ……つまり植民地となる人工衛星、ディアスポラだな。
 そいつをあてがい教育させ、実戦によってレネゲイドとの親和性を高めつついずれかが上か検証する……」

"アダム" :
           ・・・・
「──あいつらは人間の品種改良ってワケだ!
 まったくどっちが家畜だかわかったもんじゃない!」

ナタリー・ガルシア :「戦わせ、よりレネゲイドに選ばれた者達を選び取るための選別……こんなことを、一体どれだけ繰り返して……」

"アダム" :
「具体的な時間や規模はもう誰も覚えちゃいない。現実世界で二百年といっても、この都市の中の時間の流れが同じとも限らんしな。
 
 人為的に設定された大規模戦争。口減らしのような絶滅戦争、これを繰り返す」

"アダム" :
「猿を辞めさせたら全員幸せになれるってね。
 誰もが宇宙規模に至るために、人類はまだ積み重ねが足りなかった。
      ・・・・・・・・
 ──だから今から積み重ねる。それも今までのやり方とは違う」

"アダム" :
「レネゲイドにとって高価な栄養である『人生』というミームを……よりインスタントに、且つ高カロリーで使い切る。
 その為にこの都市は特化していった。

 プラスな面も、マイナスな面も。僅かな間に出しきって、搾り尽くして、増やして、潰して、増やして、潰す。
 その為の戦争で、その為の極限状態だ。
 ああ……」

"アダム" :
「つまるところ、あれだ。
 ・・・・ ・・・・
 大量生産、大量消費──

 キミ達アメリカ人の大好きな教義の極点だ」
 

"アダム" :
「そして当然。現実でこんなことをするもんだから下の人間も大迷惑だ。
 別に想定されてなかったわけじゃない。というか、それを込みでこんな場を作ったんだ。

 ──と、言ってる傍からだ。デカいのが来るぜ!」

 まるで時計を確認しながら茶飲み話にするような素振りで、しかし確かに焦りを感じさせる早口気味の口調でアダムは空を見上げ語る

ナタリー・ガルシア :   リソース
「人を資源として見るのであればこれほど効率の良い実験とデータ収集もありませんわね……」

機能的、という一側面を見ればこれほどクリーンな仕組みもなかなかないだろう。
最小限の人員で、最大限の効率を――一人の存在を、あらゆる可能性を、全て薪へと焼べようというのだから。

ナタリー・ガルシア :「ですが、ええ――人は、こうなってはいけませんわ」

僅かに焦燥が滲んだその声に、釣られるように遥か天空へと目を凝らす。
これから襲い来るであろうものへと身構え、見届けるために。

SYSTEM :
 アダムがそう口にするが早いか、拡張された意識は速やかにそれを見とがめた。
 
 地球に直撃すれば優に地殻変動を起こしうる巨大な流星。
           ディアスポラ
 敵機によって損傷した植 民 星 の一部分がパージされ、その断片となる鉄片が引力に引かれ落下を始めたのだ。

"セラ" :
「……!
 あれは私が処理します!
 遊撃隊はその他の落下物の相殺を、防衛班はシールドの展開に専念してください!」
 
 無線で下知を飛ばす傍ら、セラは槍を片手に息を深く吸い身構える。

"セラ" :
 腰を深く落とし、地面を蹴ると同時に、その背から虹の粒子が奔る。
 まるで翼のように見えるそれは視覚化出来る程の斥力を発するイオノクラフト。
 かつてナタリーが彼女に救われた折に見たそれとは、別物と感じさせるほどに威力も速度も段違いに見えた。

"セラ" :
 吹き荒ぶ衝撃。ソニックブームをまき散らし大気をかき乱す彼女の体は、初速から宇宙速度に到達していた。
 流星の如きランスチャージ。目で追いきれないそれは、まさに星の瞬きとしか形容できまい。

SYSTEM :
 雷轟と共に撃ち放たれた一撃が、墜落する星を打ち砕く。
 打ち砕き、その残骸を熱量を以て焼いていく。
 しかし……

女性オペレータ :
        2   6
『……! 遊撃隊ベート、サメク反応途絶!
 くそ、こいつら前の聖戦より出力が上がってる!
 電磁障壁、最大出力! みんな、踏ん張って!』

SYSTEM :
 それでも尚、うち漏らしは往々にして発生する。ことに、下層の人間の成長速度と上層の人間の成長速度が同じな筈がない。
 これは、最早周知の事実。

 号令に応じて、下層に住まう者達が一斉に能力を励起させる。
 ブラックドッグの面々は磁力障壁を、バロールの面々は重力の盾を一斉に広げた。ソドムの医学薬学により強化されたそれらが押し広げた、言葉通り十重二十重に折られた壁。

SYSTEM :
 理論上原子核分裂の直撃をも耐えうるであろうその電子の守り
 だが、それに畳みかけるように重粒子の大波が次々と降り注ぐ。
 レネゲイドクリスタルの炉心崩壊による核分裂反応。
 運動エネルギー爆撃弾の流れ玉などが、次から、次へと。

SYSTEM :
 障壁が一枚、砕け散る度に見えない場所で命が散った。
 自らの生命をかけた防護の盾が、次々と散華する。

SYSTEM :
 衝撃の余波で電子回路の随所が焼き切れるようにスパークを起こし、衝撃の余波による熱気が地上に立つ二人の肺腑を焼く。

ナタリー・ガルシア :「――ッ」

十重二十重の絶対防壁を超えた余波にさえ、肺を焼かれて喉が干上がる。
熱か、光か、衝撃か――遥かなソラを見据える瞳がズキズキと痛み、限界を訴え生理的な涙が溢れていく。

"セラ" :
「…………っ」

 粉塵が晴れた先で。
 セラは傷一つなく、白い装束に埃一つつけないまま空の上に立っていた。
 セラだけが、そこに佇んでいた。
 目を伏せて佇む様は何時もの泰然とした様子をうかがわせるが、しかし……涙越しの視覚が捉えた彼女のそれが、かつてなく哀愁を感じさせたのは。果たして、ナタリーの心情がそうさせたのか。

"アダム" :
「……ああくそ、見ろ。間近で見ようなんて考えるから服汚れちまった」

 その一方、アダムは実にどうでも良さそうな反応、態度を崩さない。
 彼にとっては周知の事実でしかないのだろう。

ナタリー・ガルシア :「…………こほっ、たしかに、下手すれば簡単に命を落としそうですわね」

咳き込んで焼け爛れた空気を吸い込めば、内腑まで焼かれて顔を顰める。

「ですが、貴方もきちんと見届けろと言いませんでしたか?それに、私に付き合わずにシェルターに入れば良かったのでは?」

"アダム" :
「ああ言えばこう言うね。
 その減らず口が叩けるなら引き摺ることもないか。キミがべそかいてケツ捲っちまうところを見るなら、間近で観たかったんだが」

ナタリー・ガルシア :「奇遇ですわね、私も貴方が腰を抜かす所を見たくて、今は必死に頑張っていますわ」

"アダム" :
「そいつはお互い無駄足だったようで。期待に沿えず申し訳ないお嬢様。
 ま……こんな様子でふるまってられるのも、部外者の特権というわけだが」

"アダム" :
「実際に住んでる連中は、こんな災厄に巻き込まれながら生存していた。
 この状況こそが必要だった。

 安穏とした生活を、ただ享受するだけでは、総合的な進化は見込めない」

ナタリー・ガルシア :「それは、そうですわね。あまりにも現実感がないせいで、少し不謹慎でしたわ――亡くなった方も大勢いるでしょうし」

そして、それこそが必要とされていたのだ、という理屈は理解しても、感情がそれを納得することはない。

"アダム" :
「戦時下の緊張状態という奴を下層の人間は味わっていたんだよ。進化を促すには危機感を与え適応して貰うのが手っ取り早い。
 それに下層の人間は見た感じ普通の人と何ら変わらん体をしてるが」

"アダム" :
「下層で暮らしてる普通の人間みたいな連中も品種改良されててね。この環境で生きていけるように一年で戦える肉体年齢に達する。そして肉体の絶頂期を過ぎれば潔く死ぬようテロメアが調節されてる。
 ・・・・・・・・・・・
 奴らの平均寿命は八年だ」

"アダム" :
「オペレータの声も、迎撃に飛んでいった奴等も、皆餓鬼みたいな声してたろ。
 こいつらは皆思春期過ぎたぐらいの身体のまま戦いに駆り出されてんだよ。勿論情緒もその辺りと大差ない」

"アダム" :
「知識の蓄積自体は電子化生命の情報を引っ張ってきた段階でインストールされてる。だが精神は肉体の年齢によって左右されるし、記憶を丸ごと引き継ぐわけじゃないから情動は餓鬼と変わらん。
 加えて経験値として『都市の人間の寿命は八十以上』であることを知っている。たった八年しか生きられないことが異常であることを、そいつらはきちんと認識しているんだ」

"アダム" :
「何週と繰り返そうと、死には慣れないし殺すことにも抵抗を拭えない。
 こんな環境に生まれたことを呪い暴れ倒す奴だって珍しくない。
 そして受け入れようと受け入れまいと、死の恐れ故に振り切ってこの下層での共同生活を続けるわけだ。何時始まるかもわからない聖戦に怯えながら」

ナタリー・ガルシア :「…………」

"アダム" :
「そして偶然八年も生きた奴らは、異常がないことをその身で感じ取り、希望を抱く。
 もしかすると、このまま頑張り続けたら普通の人生が送れるんじゃないかって。
 普通の人間だったころを覚えているから夢を見る。

 ……そして、ある日ぽっくりと眠るように死ぬって訳だ。そう言う風に遺伝子で設計されてる限り、逃れられん。一日で急激に老け込み、骨と皮だけの亡骸になる」

ナタリー・ガルシア :「……そのような苦しみとな痛みを伴う試練を与えて、いつかどこかへ届くために屍を積み上げていけと?」

ナタリー・ガルシア :「ただ、理不尽に晒されて怯え、苦しむためだけに生まれてきたというのですか?」

"アダム" :
「そうだよ?
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 だって幸福を感じる担当は別に用意されてるからね」

"アダム" :
「そうして短い一生を終えた奴等は、電子生命として情報をサーバに送信して、ナマのミームとして収集を完了する。

 八年ですべての情動を出し切って、死ぬ。そう言う設計の人間だ。
 これで老いの苦しみもカバー、くたばっても別の自分に遺伝するからオールオッケーってな」 

"アダム" :
「生命の大量生産、大量消費ってのはそういうコトさ。
 この都市は命を全力で腑分けした。
 苦しみも喜びも最大値と中間値を最速で蒐集するためにこの地獄を作り、徹底的にあらゆる営みを遣い捨てて此処まできた」

"アダム" :
「無限に等しいリソースをあますことなく使い切る。
 使い切り、無限に等しい進歩によって進化へとたどり着く。
 ま……全部ジャームがやることだから。全部失敗が確約されてるんだがね」

"アダム" :
「……くく、ハーヴァを殺した奴らの子孫はこんな眼にあってたわけだ。報われたなあ?」

ナタリー・ガルシア :「……胸がすくような想いですわ、とでも答えれば満足ですか?」

胸の中で淀む鉛のような想いを溜息と一緒に吐き出して、呆れと怒りで以て睨めつける。

「別に、嬉しいとも悲しいとも思いません――ただ、ここは、この街は、息苦しいですわ」

"アダム" :
「ああそう。ただ、セラはその辺りを観てどう思ってたんだろうね?
 その辺はキミの想像に任せるがね。さっき見ての通り下層の人間の味方に徹してたのは間違いない。
 こいつらが都市の技術を使って自衛できるようになったのもあいつのおかげだ」

"アダム" :
「どの程度思い入れがあったのか。
 それとも、そんなもんよりハーヴァとの約束が一番だったのか……」

 やれやれ、とかぶりを振りながら、粉塵の晴れた空を再度見上げる

ナタリー・ガルシア :「……お姉様」

"セラ" :
 遥か上空、あまりに熾烈を極める戦が繰り広げられる中で、セラは静かに立ち続けていた。
 セラの拳は、静かに、強く握られていた。
 此処を去って戦を止めに行くこともできたであろうに、それを彼女は行えない。下層の人間は、あまりに弱く脆い、意図的にそういう設計をされたし、根絶やしにされれば都市がゼロから作り出す。『弱者』という役割は、そうして補充される。
 故に、都市は彼らを決して守ろうとはしないだろう。

"セラ" :
「──エヴァンジェリン!!!」

 セラは天へ向けて叫んだ。
 この都市の神にも等しき存在。
 人々の福音たれと、多くの者達から呼ばれるべきとして、異国の語を遣い呼び習わされたその名を、今の都市の人間は誰も口にしようとしない。
 その存在の実態さえも、恐らく解してはいないだろう

"セラ" :
「これが……こんなことが、本当にあなたの使命に必要なことなのですか」

"セラ" :
「これが本当に!     Sence
 ハーヴァがあなたに託した 意 思 なのですか!?」

SYSTEM :
 天へ向けた咆哮は、超次元の戦の喧騒にかき消されていく。
 否。その主への嘆願に、答え応じるものは確かにいた。

SYSTEM :
 遥か天上。王国と王冠の狭間に垣間見える神の真意を顕すが如く、それは相争う者達を祝福するように姿を現した。

 ──エゼキエル書に曰く。
 
 其は四つの顔があり、第一の顔は雄牛の顔、第二の顔は人の顔。第三の顔は獅子の顔、そして第四の顔は鷲の顔であった。

SYSTEM :
 ──そこに顕れたものは、まさにその伝承を象るもの。
 或いは、後の世代にかの御姿が言い伝えとして残ったのか。
 
   ケルブ
 ……智天使の如く、四方を観測する人工衛星であった。
 

"アダム" :
「ケルビムの伝説は知ってるだろう? 
 あれはかつてハーヴァが力尽きた、御神体の座す祭壇の今の姿さ。
 どうにもあそこが彼女はいたく気に入ったようで、最後まで手放さなかった。
 その周辺に拡張した演算機能すべてを、外殻で覆って都市の制御機能にした」

"アダム" :
「空に浮かび、四方を環視し、都市と都市の管理する宙域を遍く見渡す頭脳──
 伝承の通り、主を載せる車輪だ」

ナタリー・ガルシア :「これを、ハーヴァが望んでいたとは思えません。彼女を……エヴァンジェリンを止めなければ」

ならない、と、そう思った者がいたのだろうか。
そして、それを為せる者などこの場には一人しかいない。

SYSTEM :
 顕現した神の御遣いに座するは、都市の意志たる存在。
 それは、遥か彼方からセラへと語り掛ける

”預言者”エヴァンジェリン :
「──然り。これが、我が主の願いに他ならない」

”預言者”エヴァンジェリン :
「私が導こう。私が先導しよう。
 彼女が望み、諸君が望む。夢物語な世界を望むなら、彼ら自身が夢物語の域に辿り着かねばならない」

”預言者”エヴァンジェリン :
「犠牲のない世界。我が主が託した望みと費やした時間は、報われねばならぬ。
 それを作るために犠牲となった意志に、私は報いねばならぬ。
 おまえたちの望む約束の地。楽園を、エデンの園を、此処に築く」

”預言者”エヴァンジェリン :
「祝福せよ。祝福せよ。
 盲目の生贄たちよ、大樹を登り、這いあがれ。
 汝らいざ征き征きて王冠の座へ駆け上がり、人の愚かを剋し給え。
 アッシャー、イェツラー、ブリアー、アティルト。登れ、登り、頂のエデンに辿り着け」

"セラ" :
「違う!」

 淡々と語るエヴァンジェリンの言葉を、セラが一喝する。

"セラ" :
「ハーヴァの望みは……
 あなたを含めて多くの人が牧歌的な日々の中、ささやかな幸福に満ち足りる場所だった筈。
 異様な力を持つが故に忌み嫌われ、人々から追われた者達が、安らぎと共に日常を過ごせる新天地であった筈」
 

"セラ" :
「そんな言葉通りの"得難い幸福"が……
 それを守ることが彼女の望みだった!」

”預言者”エヴァンジェリン :
 ・・・・・・・・・・・・
「そんな命令は受けていない」

 その叫びを、無機な声が否定する。

”預言者”エヴァンジェリン :
「私に命じられた責務」
「私の使命は、ただ一つのみ」

”預言者”エヴァンジェリン :
「私にしか果たせない。私だから果たさねばならない。
 その為に作り出され、その為に戦い続けよう」

”預言者”エヴァンジェリン :
「既に数百年の時が流れた。訪れるなら、もうすぐだ。
 そしてそれが足りずとも、これがあと千年続こうとも、私はこれを続けよう」

”預言者”エヴァンジェリン :
「そうでなくば、我が主のすべては無駄となる。
 そうでなくば、我が主の奮闘は水泡に帰す。
 
 何百何前年断とうとも。
 那由多の時間を過ごそうとも。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 彼女の遺志を遂げることが出来るのは私だけだ」

”預言者”エヴァンジェリン :
「これが私の活動理由だ。
 私の身に刻まれた、テスタメント。
 それは、あなたも誰より理解している筈だ」

”預言者”エヴァンジェリン :
「──そう語るあなたにも、私は感謝している。
 我が主の友。孤独な我が主に付き添い、支えて下さった者。
 あなたは我が市民ではなく、為政者でもない。私の認識では、稀人に過ぎない。
 だが……」

”預言者”エヴァンジェリン :
「その故に契約でその身を縛ることなく、この都市に在り続け、その身の自由を赦している。
 我が市民を守り、円滑なトライアルの進行の為の支えとなっている」

”預言者”エヴァンジェリン :
「苦しみやいずれ終わる。
 成就の日は近い。約束の地は、必ず来る。
 それを、あなたにはもう暫くの間見守って欲しい」

"セラ" :
「……駄目なんです、それでは……
 それを続けたところで、あなたは──」

”預言者”エヴァンジェリン :
「案ずるな。穏やかであれ。
 その苦しみもその痛みも、私が請け負う。
 そして、数多の刻苦によって真の安らぎを人々は得るだろう」

”預言者”エヴァンジェリン :
「その暁に生まれた場所で、あなたを待つ。
 それが、我が主の友への義とする。
 今更に止まることは赦されない」

"セラ" :
「……、…………」

 セラはその言葉に偽りがないことを。善意によるものであることをよく知っていた。
 彼女にとっては、或いは引き取った養子のような存在でもあったからこそ、分かる。
 

"セラ" :
 気配が消える。引き留めることも、否定し続けることも、セラには出来なかった。
 それを護り支えるという友の約定も、現実に苦しみかつての日常が軋み続ける音を見逃すことも出来なかった。

"セラ" :
「……どうして、こうなってしまったのでしょう。
 どうして、こんなことになってしまったのでしょう」

 その表情を隠すように、片手で顔を覆った。
 決して、下層の人間に憂いの表情を見せないように注意を払いながら

"セラ" :
「皆、安住の地を求めて此処にやってきた。
 どれだけ工夫を凝らしても、それ以上を求めることはなかった。
 それが今……どうして、敵もいない場所で敵を作り、市民同士を進んで殺し合わせるような……
 そんなことが、あの子の望みの筈がないのに……」

"セラ" :
 孤独な空、雲一つない朱い空のもと。彼女は静かにそれを目にし続ける。目を逸らさないことが、ハーヴァとの契りだった。

 戦火が遥か大空の上で燃え上がる。
 今も尚、さらなる進化を求めて熾烈な生存競争を続けている。
 そのすべてが同じ人間だった。同じ苦楽を伴とした人だった。
 

"セラ" :
 彼らに怒り、憎しみを抱いたことはなかったわけでは決してない。けれど、ここまでされる謂れはない。
 失われた日常の日々。それを守ろうとした結果がこれなら、あまりに無体ではないか。
 何よりそれを、自らの市民の為に尽くす彼女が率先して行っていることが、セラには耐えられなかった。

「──あなたの街を見守ると。そう決めていた筈なのに。
 私は……私は、このままでいいのでしょうか」

"セラ" :
 自らの無力に歯噛みするように、一層強く槍の柄を握る。
 しかし、感傷に浸っている余地など彼女にはない。
 戦いはまだ終わらない。次の余波がいつ来るかもわからない。全滅状態の遊撃隊の分まで、己が動かねばならないだろう。

"アダム" :
「……ま、言って退いてくれりゃラクだったんだが。
 そういうわけにもいかないよ。そりゃジャームなんだ、言ったって訊きゃしない」

 肩を竦める。その苦悩を、しかしアダムは嘲笑うことはしなかった。

"アダム" :
「それに一応このまま続けとけば万が一にでもそういうことがあり得るって期待もあったんだろう。ジャームってのが何処まで致命的なのか、この時代の人間の多くは正確に理解していなかった。
 勿論、何人もそうやって暴走した奴等を仕留めはしたがね。殺すまで至った例は半々だ。残りは別の処置で肩をつけた」

ナタリー・ガルシア :「別の、処置……?」

"アダム" :
「──ロトの妻は振り返ったが故に、塩の柱となった」

"アダム" :
「つまりそういうことさ。
 アレの本来の使用方法がそれだった」

ナタリー・ガルシア :「つまり、アトラさんとレイラさんがその身に抱えたアレは、そのための……」

"アダム" :
「そう。塩の結晶とすることでジャームを生かさず殺さず繋ぎ止める、一種の冷凍保存法だったんだよ。
 ま……それは初期の話。使い方が途中で激変したおかげで、もっと惨い能力になってる。たとえば」

"アダム" :
「キミが何気なく踏みしめてるこの水晶の床……コレね、全部が塩の柱だ。
 そしてその用途は……いや、敢えて言わなくてもいいか」

SYSTEM :
 そこで言葉を止めたのは、彼なりの気遣いか別の意図があってのことかはわからない。
 だが……ここがあらゆる生物を消費する絶対消費社会であると知った上で考えれば……
 そして何より。これだけの戦争が続いていながら都市設備が破損していない事を考えれば。
 ──おのずと、答えも見えてくる。

ナタリー・ガルシア :「…………どこまでも、効率的に、資源として」

ナタリー・ガルシア :――正しく、屍を積み重ねて作り上げられている都市。

ナタリー・ガルシア :「これほどの都市になるまで、一体……一体どれだけの、人が……」

"アダム" :
「そのすべてを、あいつは律儀に見送って来た」

ナタリー・ガルシア :

ナタリー・ガルシア :「…………」

"アダム" :
「ま、どうでもいいことだ。どうあれこの都は、崩れ去ることとなる。
 彼女の手によってね」

"アダム" :
「そろそろ時間だ。オレたちも御暇するとしようぜ。
 このまま火の雨の中、日光浴続けたいなら話は別だが」

ナタリー・ガルシア :「……そう、ですわね」

"アダム" :
 アダムはそう言って最後に宙に佇むセラを見上げる。
 彼方に浮かぶセラは、内なる苦しみを外に見せることはない。鉄の面を被ったように、凛々しい横顔だけを見せて空を舞う。

"アダム" :
「くだらん。
 意味が無くて何が悪い。
 価値が無くて何が悪い。
 それは手前らが決めることじゃないんだよ」

"アダム" :
 吐き捨てるように告げる。
 それは何に対しての宣言だったか。誰も知るものはいない。
 少なくとも、この場においては。
 この時代においては。

SYSTEM :
 そして────

SYSTEM :
 その故に。
 その時代ならざる者。
 それを識る一人の男は、深い深い深淵の奥でほくそ笑んだ。

SYSTEM :
 粘つくような含み笑い。
 遍くすべてを無価値と嗤うような。
 
 まるで、蛇を連想させるような。

SYSTEM :
 ──誰の眼にも留まらない場所。
 ──暗がりの中。
 ──そこに。

????? :
 姿なき影法師は。
 喉を鳴らして、嗤っていた。

????? :
【Information】
エネミーエフェクト《通信支配》が発動しました。
使用者:『ט』
対象者:『深海都市の夢』
効果:

Disce libens
喜んで学べ
 

"アダム" :
「──────! 野郎……!」

 異変に気付いた時には、もう遅い。
 アダムは悪態をつきながら振り返り、夢の終わりに歪み征く景色の中で手を伸ばすが。

"アダム" :
「蛇が、今までやけにおとなしいと思っていたんだ。
 つくづく、人の癇に障るタイミングで横槍を入れやがる……!」

 しかし、アダムが何かを起こす前に、ナタリーの視界が黒く染め上げられていく。
 燃える大気の匂いも、目を焼く赤い空も。すべてが塗りつぶされる。
 それはまるでより深く、深く。人の与り知るところにない深淵へと引きずり込まれるように。

ナタリー・ガルシア :「えっ、あ……?」

何か、予想外の事態が起きた。
胸の内を満たした無力感が、そのことに気付かせるのを遅らせた。

――もっとも、気付いたところで何か出来たとも思えないが。

ナタリー・ガルシア :「こ、これは……いったい、なにが!?」

介入されるはずがない、夢の世界。
その前提条件が崩される。

世界が書き換わり、光景が歪んでいく。

とっさに、伸ばされた手に縋るようにナタリーも手を伸ばし――

SYSTEM :
 しかし手は届くことないまま、
 深海の底。何者も光を通さない深みの中へ、落ちていく……

SYSTEM :
 既にこれまで体験していた過去世界は消え失せて。目の前に広がるのは、深い深海の闇ばかり。
 此処が何処で自分が何処に立っているのか。或いは浮いているのかさえ感覚が掴めない。
 重苦しさを感じさせるそれは、途方もなく巨大な何某かの目の前に晒されているような錯覚を覚えるだろう。

SYSTEM :
 本来ならばそこに介入できる存在などあろうはずもない。
 遺産に遠隔で介入しうる存在など。いるとするならば。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 それと同じ年代を生きてきた古きものを以て他にない。

古き蛇 :
 ──ああ失礼。少々手荒な真似を取らせてもらった。
 そう気を張らずとも構わんよ、少女よ

古き蛇 :
 私の愚息が迷惑をかけていると聞いてね。親としては粗相がないか目を光らせておかねばならなかったのだよ。

古き蛇 :
 故、そう構えることはない。
 私は元より君の味方のつもりでここに来たのだから。

ナタリー・ガルシア :「あ、貴方は……?ここは……?」

警戒に強張った体は、投げかけられた言葉を聞いても緩むことはない。
むしろ、目にして、その言葉を聞いて、本能がより警鐘を鳴らしている。

そこに存在している、ただそれだけで、圧し潰されそうな気さえする。

古き蛇 :
 私は、古き蛇。

古き蛇 :
 或いはその性質から"誘惑者"と呼ぶものもいるがね。
 君の縁者の一人でもあり、彼の父親のようなものだ。

SYSTEM :
 暗がりの中、その輪郭は姿を現す。
 その顔立ち、その背格好。いずれも"アダム"のそれと酷似している。
 けれど致命的なまでに、そこから感じる気配は違っていた。

SYSTEM :
 まるで影法師。
 途方もなく巨大なもの、その影を相手にしているような。底が知れず、それを想像する事さえ叶わない。
 ただただ不気味さを漂わせる影法師だった。

ナタリー・ガルシア :「あ、貴方は……貴方が誘惑者?急に現れて息子の代わりに挨拶する親なんて、不審者でしかありませんわよ?」

"誘惑者" ט :
 それは失敬。だが、彼は常に肝心な部分ばかりを誤魔化す癖というものがある。天性の天邪鬼とでも言うべきかな。
 嘘をつかなければ生きていけないのだよ。

"誘惑者" ט :
 真実を包み隠さず見つめるというのであれば、それは聊か不義理とは思わんかな。
 尤も、君とて完全に信用などしていなかっただろうが

ナタリー・ガルシア :「……あなたの言葉と同じくらいには信用していますわ」

"誘惑者" ט :
 そして、此処は何処か。という問いに対してはこう答えるべきだろう。
 君の知り得ない場所であり。
 彼の覆い隠した汚い部分とでも言おう。

"誘惑者" ט :
 彼は君の知っての通り、我儘な人間だ。自分のものは自分だけが知っていればいいと感じ、それについて特に語ろうとしない。

 無頼。兎角己だけのものを持ちたがる性分でね。

"誘惑者" ט :
 私は、そのヴェールを暴きに来たまでのこと。
 愚息の足掻きをもう少し楽しむのも一興だが、試練の一つや二つ親から課されるべきだろう。
 何より……

"誘惑者" ט :
 エヴァ
 彼女も君に会いたがっている。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 本来なら最初の瞬間からずっと君に声をかけ続けていた彼女の声が、此処ならば届くだろうからね

ナタリー・ガルシア :「……彼が、隠していたもの?」

"誘惑者" ט :
 さて。
 では、今は君が知りたいことを見せてあげよう。

 ここなら、それが出来る。




【EXScene⑧/深海都市の夢】

SYSTEM :

【EXScene⑧/深海都市の夢】

登場PC: Natalie
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 誘惑者。
 そう名乗り、そう顕現したもの。
 或いは遺産の意志にさえも潜り込み、その中に意識を顕現させうる古き蛇。

SYSTEM :
 何故に彼があなたの夢に現れたか、暈すような口ぶりの蛇の言葉から、その真意を推し量ることは難しい。
 それはまるで、『知りたい』と願う人間の欲を煽るように。
 或いは『知りたくない』と祈る人間の罪を擽るように。

 耐えがたい誘惑として、精神を蝕んでいく。

"誘惑者" ט :
 彼は、決して語ろうとしない。
 都市の終わりと、その夢。
 
 セラが何を想い、何を選び、その結果に何を背負ったか。
 そして……エヴァンジェリンの真意を。君に伝えよう。

"誘惑者" ט :
 君が最初に、そう祈ったように。

 君が最初に、そう願った通りに。

 そして……私の親切は、その対価として君の情動を観測することを以て等価交換としよう。

"誘惑者" ט :
 ああ、まさかここまで来て逃げたい、とは言うまい?
 これまでの都の在り様を見てきた、そう、君という人間に限って。

ナタリー・ガルシア :「……もしかして、これまでも覗いていたんですの?悪趣味ですわよ」

"誘惑者" ט :
 さて、どうだか。
 君の想像に任せよう。

ナタリー・ガルシア :「…………」

ナタリー・ガルシア :「貴方の意図を裏切りたいという気持ちで、見たくないという選択をしたくもありますが……ええ、良いでしょう、せいぜい健気に踊ってあげますわ」

"誘惑者" ט :
 それは重畳。
 そうでなくば押し売りじみた様相で見苦しく幕を開けねばならなかったことだろう。

"誘惑者" ט :
 では……始めよう。
 これより紐解くのは、アルファにしてオメガ。

 都市の弥先にして、弥果て。

SYSTEM :
 語り出すと共に、影法師の如き姿が霞のように消えていく。
 まるで初めから幻影を相手にしていたかのように、その人影は蛇の影に溶けていく。

SYSTEM :
 そして──暗い。暗い深海のような闇の中。
 それを斬り裂くようにして、暗がりは掻き消える。
 一条の黒い炎が、焼き焦がすように。

SYSTEM :
 それは大樹の根の底。
 堆く聳える生命の木の、その裏側。
 
 人が踏みしめる度、大地に染み渡り、沈殿していった営みの残り滓。

SYSTEM :
 棄てられたゴミが、これ以上先に逝く余地のなくなった思念が、最後に行き着く地獄の火。
 都市の誰も、この場所を見つけられないままでいた。
 きっとハーヴァですら、その存在を知り得なかった。
         アビス     ダ ア ト
 巧妙に隠された、深淵の内に潜む神の真意。

"セラ" :
「──、────────」

 セラは、そこに辿り着いていた。
 その存在を捜していたわけではない。
 淀みゆく人々、壊れゆく日常、やがて来たる刻を前に何も出来ぬ自らの無力と不甲斐なさのまま。
 ある日の闘いの後、戦いの果ての行方不明者を捜して彷徨っていた時のことだった。

SYSTEM :

 燃え盛る腐敗の炎。
 この島の最下層、始まりとなる土台で、彼女は初めてそれと遭遇した。

"最後の一人" :
『ああ……』

"最後の一人" :
『遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ、セラフィータ。
 おかげでオレも随分余分を食っちまった』

"最後の一人" :
 燃える炎の中、揺らめく何かが声をかける。
 それは未だ、人の形をしていない存在。
 形を作るにはまだ未成熟なレネゲイドの塊。
 ただ明確な意志のみが揺らぐ生命未満のウイルスの集合体というべきもので。

"最後の一人" :
 セラはその姿を初めて目にした。
 正真の意味で、その男とも女とも呼べぬ何某かと初めて邂逅したのだ。

SYSTEM :
 そう。初めてだった。何の身の覚えもない。
 この中に燃える何かの存在の中に、見知った感触は何一つない。
 だが──

"セラ" :
「そんな。
 そんな、そんなことって──」

 力を失った両足が頽れて、両膝をつく。
 これまで貯め込んできた者が、堰を切って崩れるように。
 事実それは、セラにとって己の足場が崩れ落ちる程の衝撃として彼女を打ちのめした。

"最後の一人" :
『ああ、さては……』

 燃える炎の中で。それは悪意も善意もなく、何の気も無しにこう続けた。

"最後の一人" :

   ・・・・・
『今、思い出したか? キミの使命を』


"最後の一人" :


 ・・・・・・・・・・・・・・・
『キミが何故この島に流れ着いたか』


SYSTEM :
 思えばそれは運命だった。
 あらかじめ定められていたものだった。

SYSTEM :
 セラは……本来ならば、自分というものがなかった。
 どのように生まれ、どう育ってきたのか。
 その実態を掴めない。
 自我というものがない。意識することがない。

SYSTEM :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 そんな自分がこの街に惹かれたこと。
 それは、偶然では決してあり得ない。
 自我のないものは、求められねば辿り着けない秘境になど流れ着かない。

 何か、目的があったに違いないのだ。

SYSTEM :
 目が醒めた。
 長い、長い夢から目を覚ますように。
 その黒い炎は、彼女のモラトリアムを終わらせに来た。
 

"セラ" : 
 自分がなぜ、この都に来たか。

 自分がなぜ、此処から離れられずにいたか。

 ずっと忘れていた。
 考えようとしなかった。
 それに気付けばすべてが終わるような気がして、ずっと脇に追いやっていた。
 

"セラ" :
「私の、使命は」

 自分の為すべきことは。

"最後の一人" :


『そう。
 
 都市と結びついたオレを──
 ヴァリューレス ・・・・・・
 無価値なるものを都市諸共消すことだ』


"最後の一人" :
 炎は、皮肉げだが穏やかな口ぶりでそう告げた。

 その発生からして都市は詰んでいたが。
 その発端からして彼女の命運も定まっていた。
 これは、それだけの話。

"最後の一人" :
                    ロ ー ル
『それが神罰の御使い。"神の人"が為すべき役 割だ。
                ベリアル
 過ちによって生まれた悪徳の街。無頼によって築かれた退廃の都を終わらせること』

"最後の一人" :
 この都市を、罰するために。
 正確には、その都市の起源に眠った大罪を裁くために。
 そのために、此処へ遣わされたのだ。

"最後の一人" :
          みうち                     デウスエクスマキナ
『星の裁定者。人類が人 類の間で対処しきれなくなった災厄を前に顕れる神 罰 装 置。
 キミの宿した遺産こそが、その翼の筈だろう。
 誰よりも遠く速く彼方まで征ける代わりに、誰よりも自由を奪われる遺物。
 それがキミの宿した使命の筈だ』
 

"最後の一人" :
『そこに人間らしい情動は不要。レネゲイドが、ヒトの情動を求めるものだとしてもね。
 だからこそ初めから何もない人間にその因子は寄生する。
 そういうものだと、蛇の知識にはあったんだが……』

"最後の一人" :
『……驚いたな。御使いが涙を流すのか。
 そんなヒトの真似事をするものなのか。
 辛いだけだろう。そんなコトをしても』

 どこか奇異に感じた様子で、最後の一人……無価値なものを名乗る男が呟いた。
 その姿、その表情は、こちらからは見ることが出来なかった。

"セラ" :
「────っ、────!」

 はじめはそう。意志なきその身は、ある声を聴いた。
 助けを呼ぶ、その声に導かれた。
 或いはそれは、遥か彼方よりの使命の声であったのか。
 最初はそのために此処にやってきて。

 何時しかそれを。今の今まで、ずっと忘れていた。
 見えないふりをして遠ざけた。

"セラ" :
 だって、それを認めてしまえば。
 それを認めてしまったなら……

"最後の一人" :
『随分寄り道をしてくれた。オレは意識がはっきり生まれるまでずいぶん時間が掛ったが……
 最後には此処に来ると思っていた』

"最後の一人" :
『この糞貯めの中で燻りながら、オレはキミと同じ旅路を進んだ。オレ自身にそんな自覚はなかったしキミもそれを正しく認識するまで時間を書けたみたいだけど。
 だけど、ようやく。
 オレをやっと見つけてくれたね』

"最後の一人" :
『さあ、使命を果たす刻だ。
 ──キミの手で、オレを消してくれ』

"最後の一人" :
『キミは全て忘れればいい。
 これは所詮、一時見た夢だ。
 すべて価値がないことだが──オレも。この屑箱の中身も、それを受け入れた』

"セラ" :
「………………、」

 返事はない。
 項垂れたまま、セラは言葉を返さない。
 長い金砂の髪が、帳のように彼女の表情を隠していた。

"最後の一人" :
『………………』

"最後の一人" :
『……はあ。
 わかったよ。別にキミがどう考えようと、此処に留まってくれたのはそういうことなんだよな。
 なら……今更焦りはしない』

"最後の一人" :
 ・・・・・・・・・・・・・・
『その刻が来たらキミのは全自動だ。
 オレにとっては安心できるが、キミはそうでもないと見える』

"最後の一人" :
『何、時間はまだある。キミにとっちゃ瞬き程かもしれないがね。
 悔いのないようにしなよ』

"最後の一人" :
『その代わりにオレの意識は引き続き、キミに伴おう。此処にいるだけというのも退屈だし。
 ──長い付き合いだ。オレがうずめられたクソの山のような世の中が、どれだけあっけなく消し飛ぶのか。
 そういう世界の終わりという奴も、見てみたい。オレ諸共に、何もかもなくなるとしても』

"セラ" :
「………………………………………………………………」

 答えはない。譫言のように何かを口にしているようだが、それを聞くほど男は野暮な性分ではなかった。
 ただ、やれやれとため息をついて途方に暮れるばかりだ。

"最後の一人" :
『……面倒臭ぇ女』

 愚痴るように溢して、男の気配は掻き消える。
 元より形のないレネゲイドの意志に過ぎない存在は、この空間のどこにでもいて何処にもいないのだろう。

"誘惑者" ט :
 ──そう。この物語は始まりから結末が決められていた。
       ファースト・シン
 都市の抱えた 原 罪 。
 その故に都市は狂い、その故に裁く者が現れた。
 宛ら、尾を噛み回る蛇のようにね。

"誘惑者" ט :
 では愚息の流儀に倣って、一つずつ紐解くとしようか。
 そろそろ、説明が必要な頃だろう? 

ナタリー・ガルシア :「…………」

"誘惑者" ט :
 ああ、そう気を落とさなくていいとも。
 大事なのは、寧ろこれからだ

"誘惑者" ט :
 この事実を識るのは私か、或いは彼女か。
          ソ ロ モ ン
 ああ、その名も高き魔術王もまた然りか。

"誘惑者" ט :
 彼女は私のような生まれついてそう在ったものではない。れっきとした人間だ。
 少なくともその由来は、ただの人だったことは間違いない。
 

"誘惑者" ט :
 だが彼女は何時か、それに選ばれ。それを受け入れた。
 我々古株のリエゾンロードですら、未だその真意を正確に解し得ないもの。
     アルカンシエル
 聖遺物『虹の翼』。

"誘惑者" ט :
 虹とは即ち契約を示すもの。
 かつて洪水神話を齎した神は、その果てに二度とこの裁きを下さぬよう天へ虹をかけることを以て契約の証とした。

"誘惑者" ט :
 だが、神はその後幾度となく裁きを下し続けてきた。人知れず。或いは誰もが知る所として、御遣いの裁きは幾度となく繰り返されてきた。
 それがこの遺産の所以なのだよ。
 

"誘惑者" ט :
 この遺産の能力が齎す絶対的生命力など、飽く迄副産物に過ぎない。その能力は別にある。

"誘惑者" ט :
 この遺産の真の能力。それは──

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 『その時代の人類で対処できなくなった存在を、規模や条件を無視して歴史から消滅させる』絶対抹消能力。
 

"誘惑者" ט :
 それがたとえ地球の圏外に行こうと、人間から超えた存在であろうと。
 それが天体規模に至ろうとも、概念により歪められた守護を得ていようとも。
 完全なる存在であろうと、その上から存在を抹消する。

"誘惑者" ט :
 ・・・・・・・・・・    ・・・・・・・・・・・・
 人間から生まれている……或いは人間の活動の影響を受けたという消し去りがたい事実がある限り。
 それはこの世のどんな存在であろうと完全に消去してしまえる。
 

"誘惑者" ט :
 これの最も厄介な所は、消滅範囲は記憶・記録にさえ干渉するという所でね。
 失われた存在は、その世界線において完全に縁を断たれる。

"誘惑者" ט :
 人々はその存在を忘れ。
 足跡は消滅し、記録は消え去り、後に残るすべてが消え去る。
 縁さえなくなる故に、並行世界からさえも侵入を拒絶される。いや、侵入されたと同時に自動で消滅すると言った方が正しいかな。それは既になかったこととなっているから、横から入ると同時にその消滅の判定を受けるというべきだろう。

"誘惑者" ט :
 レネゲイド、或いはそれの亜種たちがそこから学び取ることもない。無論、全くの抜け道がないでもないがね。
 我々としては手を焼いたものだとも。

"誘惑者" ט :
 ──彼女の遺産が何者に作られ、何のために生まれたかは分からない。
 未来にて誕生する星と同化したプライメイトが、過去に向けて作り出した自浄装置とも。
 最初にレネゲイドが地球に墜落した折、外来種から己の世界を守るために生命の総意で生まれた、とも。
 天の御使いと呼ぶのも、飽く迄便宜的なものだよ。だが、語り得ぬものについては沈黙しなければなるまい。大事なことは他にある。

"誘惑者" ט :
 既に身を以て識っている筈だが。
 強すぎる力には常に代償が付きまとう。
 例外はあるがね。だがそれだけの力に限って、何の見返りも求めぬ筈もない

"誘惑者" ט :
 彼女の遺産は、既にジャーム化している。
 ああ、心配せずとも彼女本人はジャームではない。だが契約者と、契約物。本人の意志の裏で、ジャームとしての意志が裏の意志として両立する存在となった。
 彼女が聞く『天の声』『神託』とは、概してそれを指す

"誘惑者" ט :
 これも特殊な条件付けがなされてね。
 ジャーム化した遺産の暴走は、特定の条件を満たした場合にのみ発動する特製となった。
 それら複数の条件を大まかにまとめると、地球の範疇で、自然に依らず生態系が大規模に変化する場合といえる。

 その条件を満たしたとき、これは自動的に機動し活動を始める。

"誘惑者" ט :
 代償とは他でもないこの性質だ。

 ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 彼女の力は、決して彼女の意志通りに使用できない。
 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 条件を満たした瞬間、彼女の意志に関わらずその世界を滅却する。
 

"誘惑者" ט :
 つまり全自動のリセット装置だ。
 遺産継承者たる存在は、一生、その『使命』を魂に刻みつけられる。
 拭うことなど赦されない。
 古代種としての不死性とは、この際限なく跳ね上がる力を行使するため。そして外部からの妨害によって神罰の執行を阻害されぬよう付与される副産物に過ぎない

"誘惑者" ט :
 故にこの遺物は本来、自我意識の薄弱な存在を好み、それと契りを結ぶものだ。しかし、その対象は必ず人間でなければならなかった。
 人を守護するための遺物。その由来ゆえかな。
 尤も、彼女はそうあることをやめてしまったようだが……

SYSTEM :
 それは、あまりに人のスケールから外れた物語だった。
 神の裁き。人類の失態を拭う為に、永劫の奴隷となったもの。
 あまりに現実離れしたその物語。だがそれを戯言と切って捨てられるような段階には既にない。

"誘惑者" ט :
 彼女はそうであったが故に、ソドムに導かれた。
 ヴァリューレス
 無価値なるもの……私の抜け殻を捜して。

 それ故に、彼はその神罰の刻を受け入れた、筈だったのだがね。

ナタリー・ガルシア :「……お姉様は、抗ったのですね」

SYSTEM :
 その言葉への応答は、想像したものと違う。
 嗤っていた。
 蛇は、静かに嗤って一拍を置き、続ける

"誘惑者" ט :
 真逆だとも。
    ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
 彼女は自らの意志で、最後の引き金を引いたのだ。

"誘惑者" ט :
 彼女は、自らの手でその裁きを下した。
 一度遺産の効果が発動してしまえば、邦友との約定で結んだ不戦の契りなど意味を成さない。

"誘惑者" ט :
 彼女は遺産による効果が発動した、その折に。遺産に操られるでなく、自らもその意志と共に槍を振り上げた。
 ……遺産の強制力は意志を制御するものではない。命令に従うなら、その意志を保ったまま発動できる。
 彼女はその滅びから決して目を逸らそうとしなかったのだ。

"誘惑者" ט :
 その心情を、此処でつまびらかにするのも面白いが……君の刻苦は、すでに限界に近いだろう。
 これはまた、調子を取り戻した折にとっておくとしようか。

"誘惑者" ט :
 いずれにせよ、それが幸いしたのか、或いは意図せぬバグであったか。
 彼女の暮らした古代都市は、彼女の意思と愚息の力添えによって、灰燼に帰した。
 だが──
 

"誘惑者" ט :
 ほんの一部。
 全体からするとたった0.1パーセントにも満たない情報だけが残った
 結果成長はリセットされたが、その存在した証と、都市のごくわずかな残骸だけが確かに残ったのだ

"誘惑者" ט :
 恐らくだが、彼女が彼女自身の意志で、遺産の強制力に抗わず執行する場合に限り、ほんの数瞬だけ滅ぼさずにおける余地が生まれるのかもしれない。
 彼女は仮にも契約者。制御は出来ずとも干渉が全くできない訳ではないのだから。

"誘惑者" ט :
 そこまで彼女が考えていたかはさておくとしてね。そして、その故に『ソドムとゴモラ』という神話が現代に至るまで語り継がれ、旧約聖書の物語の一説として言い伝えられている。
 尤も残ったのは殆どミームだけだ。歴史上からはそれを知るものは一時は途絶え、伝説として残り続けた。
 
 その間、都市の核は四千年の時間をかけて、死海の底で眠り続けた。
 

"誘惑者" ט :
 無論それについて彼女が気付いていなかった筈がない。
 そして彼女自身の能力は兎も角、遺産の特性は遺産が覚醒しない限り行使できない。
 人類で対処可能な、単なる伝説、訓話の類まで落ちぶれた都市を、その故に彼女は完全に抹消できなくなっていた。

"誘惑者" ט :
 その所在が何処にあるかも、最早謎だ。
 再び浮上する時まで、『セラ』としての人生は終わることはない。

"誘惑者" ט :
 ──彼女の巡礼の旅は、そこから始まる。

"誘惑者" ט :
 これまで。ソドムを滅ぼす以前の彼女は、その神罰の旅、すべてを忘れてきた。
 自らの意志などなかったのだから。
 何があったとしても、何を失ったとしても、それを頓着するような人間性がなかった。
 それも記憶ごと失われるのだから、彼女の精神性も本来ならリセットされる筈だったのだがね。

"誘惑者" ט :
 だが彼女は、意志を持ち、人を愛することを知った。
 友と出逢い、人の温もりを知った。
 忘れたくないと願い、人から忘れ去られてほしくないと思った。
 その為に、自らを差し出すことも厭わぬほどに。
 ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・
 それがなくなってしまうことが、とても悲しいと思うように成長した。

"誘惑者" ט :
 彼女は、天の御使いから人となった。
 であれば、相応の代償が必要だろう。
 物語の世界では、人魚が人となる代償に声を失うと聞くが……
 彼女もまた相応の責務が与えられる。

"誘惑者" ט :
 彼女がどのような感情を抱き人らしい性格を手にしようと、彼女は神罰の代行者だ。
 何を尊ぼうと、何を憎もうと、彼女は自らの意志に反して自動でそれを粛正し続ける。
 何もかもをなかったことにして。

"誘惑者" ט :
 ──そうなれば。
 彼女は『ソレ』が発動する前に行動して、未然に防ぐ以外になかったわけだ。

 幸いにも彼女には、その遺産によって未然に世界が終わる規模の何かが起きるのをどれだけ離れていても感知できるようになっている。
 神の啓示、とでもいうべきかな。

"誘惑者" ט : 
 彼女は自らの遺物の発動を防ぐために、あらゆる時代の遍く世界を旅して回り、古き力の使い方を教え、導く者となった。
   フ ァー ス ト シー ラー
 ──"最初の封印者"の誕生だ。

"誘惑者" ט :
 尤も、それは君の期待に沿う形の由来だったか。
 彼女の信念と呼ぶべきものか、或いは自らの力に振り回された不可抗力に過ぎないか。
 意見は分かれるところだろうがね。

"誘惑者" ט :
 ただ、失望してやらないことだ。
 彼女は天の声を聴き、その飛行能力を用いれば地球上のあらゆる場所に急行することが出来た。それは裏を返せば、何処にでも行けてしまうし、遺産の干渉は何処で事態が発生してもお構いなしということでもある。

"誘惑者" ט :
 何時目覚めるか。
 何処から起きるか。
 それはどのようにして発生するのか。
 どんな能力を持ちどれだけの力を持つのか。
 すべて曖昧なままの情報をね。

 そんな曖昧な情報を、世界中から受信して。
 その度に彼女は馳せ参じた

"誘惑者" ט :
 この地球上に発生する、遺産が齎すカタストロフ。
 ・・・・・・・・・
 現代に至る四千年間、毎日、毎日、休みなく。
 

SYSTEM :
 自死することは出来なかった。
 それに手を打つように、彼女には通常を遥か超える無尽蔵な古代種の生命力を与えられた。
 自らの意志で彼女は自分を抹消できない。
 

SYSTEM :
 摩耗することさえ、彼女には赦されなかった。
 何故なら自らがジャーム化してしまえば、完全に遺産に意志を常時乗っ取られることとなるからだ。
 それを止める手立てがなくなってしまう。

SYSTEM : 
 歯止めの利かなくなった能力は、分を過ぎた遺産の暴走のたびにカタストロフを起こす存在となる。
 誰かから殺害される場合も同様に。先にジャーム化が起こることは想像に難くない。

SYSTEM :
 故に、彼女は。
 裡と外。その双方を常に敵に回して戦い続けることを決意した。
 世界を守護り、約定を守護る。
 それは単なる綺麗事を叶えようとする理念などで、継続できることではなかった。
 強迫観念と、諦観と、激情と、崇拝と、愛と,欲と、妬みと、歓喜と。
 それらを束ねる信念があった。

"誘惑者" ט :
 彼女は、様々な時代に顕れ、様々な戦いを経て、様々な人々を導いた。
 それが望むにしろ望まざるにしろ。発端が強いられたものであれ、そうでなかったにしろ。

"誘惑者" ט :
 その結果が如何なるものだったかは、さて。
 多くの国に平穏を齎してきたようだが、何しろ失敗した場合は記録に残らない。
 先の例もある、或いは彼女だけがその過ちを記憶しているのやもしれないな

"誘惑者" ט :
 彼女は強く頭も回るが、力ある者を誰もが恐れる。実際の所どの程度の割合で歓待されたことだろうか。

 どれだけ力に溺れた教え子に背中を刺され。
 十字架で火あぶりに掛けられてきたか。
 穴倉で水一滴与えられぬまま、何十年もの月日を過ごしたことも、きっとあったことだろう。

SYSTEM :
 恐らくは同じ時代を行き、そのすべてを見て来たであろう蛇は、まるで想像もつかないと言うかのような白々しい言い草でそう語る。
 

"誘惑者" ט :
 どうあれ彼女は今に至るまで、使命を全うしてきた。
 それは我々にとって目の上のたん瘤というべきものだが、共存し難いという訳でもなかった。あちらはその気などさらさらないだろうがね。

"誘惑者" ט :
 彼女が自我を得る以前はこうはならなかった。
 何しろ無差別な災害と変わらん。始末を検討したものの、そもそも彼女を葬っても『虹の翼』は別の宿りを見つけるだけか、と考えれば有効な手ではない
 私も、彼女も。その折の我々同胞らも彼女には手を焼かされてきたが……

"誘惑者" ט :
 聊か聞き分けが良くなったおかげで、我々の行動も聊かばかり動きやすくなった。

 ああ、そうとも。
 私とて人類を滅ぼしたいわけではない。それは他のロードも同じだろう。少なくとも今は大事な足場だ、崩されるわけにはいかん。
 なればこそ彼らの進化の為、手間暇をかけているのだから。
 

ナタリー・ガルシア :とうにキャパシティを超えて、もはやナタリーの思考は千々に乱れて理路整然からは程遠い。

だが、だからこそ――リリアを嘲弄するような言葉を、道具扱いする言葉を、ナタリーは黙って聞いていることなど出来なかった。

ナタリー・ガルシア :
意志とイメージが能力を形作るなら、それは必然だった。
言葉もなく、激発もなく、ただ閾値を超えた感情が結実する。
眼の前の蛇に向けて放たれたのは、どこまでも怜悧に研ぎ澄まされた風の刃――狙いは違わず首。

  ・・・・・
――もう喋るな、とでも言いたいかのように、それは殺意でも以て放たれた。

SYSTEM :
 怒りの感情が明確な殺意となって迸る。
 眼前でさえずる蛇の、その首へ向けて怒りの牙は容赦なく向けられる。

 冷酷なまでの殺意、閾値を超えた感情が紡ぎ出す背筋を凍らせる殺気の具現が影法師に向けて炸裂する。

SYSTEM :
 蛇の影絵は喉を切り裂かれる。
 しかし、影は揺らめくばかり。刃はその実態を捉えることはなく、まるで手応えのない感触を返すのみだった。
 そして、だからこそ影法師の舌は止まらない。

"誘惑者" ט :
 我々は兎も角、我々の意志を離れた者達の多くは破滅を望みたがるものでね。
 力を持ったニンゲンという生物の習性というべきか。彼女はそれを多く止めてくれたよ。
 

"誘惑者" ט :
 故に、私を感謝こそすれ、恨まれる筋合いはないつもりでいるのだがね。何しろ君が彼女と見えるきっかけを作ったのはこの私なのだから。
 いやまったく。人間の機微というものは、やはり難しいものだ。

SYSTEM :
 既に傷一つなく霞のように元に戻った首筋を手でさすりながら、邪蛇の幻影は続ける。
 まるでその怒りを堪能するかのように。

"誘惑者" ט :
 私の旧知の仲……かの遠大なる計画を練り動く彼女と違い、私は幾分か刹那的なきらいがある。

 彼女は全体の底上げを望む節があるが、私は全体ではなく一個体が、自らの欲望で何処までたどり着くか。
 その擲たれた石が起こす波紋がどこまで影響し、レネゲイドの進化を齎すか。
 私が知りたいのはそれだ。

ナタリー・ガルシア :「――――」

傷どころか、何一つ変わらない様子で話を続ける男を前に、ナタリーの膝が折れる。
許せないものを目の前にして、一矢を報いることすら出来ない。

その無力はナタリーの心を折るには十分な後押しとなった。

"誘惑者" ט :
 ……ああ。あの人工島も、そうした検証の一環。言うなれば観察のための鳥籠だった。

 とはいえ私は島を築いた父祖へ、私の出来損ないの分体を差し出したに過ぎない。後のことは、すべてが彼らの考え、行動した結果だ。

"誘惑者" ט :
 だが、それは十分すぎる成果を果たしてくれたよ。

 私の抜け殻を放置していたのは彼らの欲望がどう転がるかを観察するためでもあったが……本当の狙いは別にあったのだから。

"誘惑者" ט :
               ・・・・・・・
 我々の手では負えない。ならば手におえる代物にしよう。
 実に、単純な帰結だろう?

"誘惑者" ט :
 私があの抜け殻を放置した狙いのもう一つはね。
  ・・・・・・ ・・・・・・・・・・
 『彼女に情動を、人間性を付与するため』でもあるのだよ。
 

"誘惑者" ט :
 つまるところ、奪うには、まず与えねばならん。
 恐怖とは認知することで、初めて意味を成す。
 奪われる事の恐怖を前に初めて情動を得るものと、私は認識しているつもりだ。
 

"誘惑者" ט :
 そして彼女は人間となった。
 その代償として、人間としての人生を捧げ続ける使命を負った。
 ・・・ ・・・
 実験は、成功だ。

"誘惑者" ט :
 天使を人間に堕とし、その罪に身を焦がされながら進み続ける道は、きっと意味のあるものとなるだろう。
 その旅路は伝説として知れ渡り、数多の人生に多大なミームを起こすことだろう。
 彼女一人によって辿るべき歴史は大きく変わった。この星の生命はレネゲイドとの共存と進化の道に向けて歩み続ける。

"誘惑者" ט :
 そして……私は待ち続けているのだよ。
 長く。永く。
 四千年もの刻を人としての煩悶に満ちた生涯が、どのようにして堕ちていくのか。

 そうして滴り落ちた果実の甘さは、果たして如何程のものであるのか。

"誘惑者" ט :
 聊か手間暇をかけはしたが、これを見届けられるならば些細なこと。
 
 ──そう。
 古今、女を誑かし、魔道に導くのは蛇の役割と、相場が決まっているだろう?

 私は彼女一人が起こし、やがて堕ちゆく様を観たい。
 そのミームこそが、私の望みだ。

SYSTEM :
 嗤う。嗤う。嗤う。
 アダムとイブを楽園から追放し、或いは誰より人間を愛すと公言して憚らぬ傲慢なる古き蛇。
 その影法師から、ねばつくような嗤笑が暗中に響き渡る。

ナタリー・ガルシア :「う、うぅ……」

憎しみで人が殺せたなら――ナタリーは心底からそう願う。

だが、耳に届く嗤い声を止めることすら叶わない。ならば、その憎しみはどこに向かうのだろうか。

誰に、ソレを向ければ良いのだろうか。

ナタリー・ガルシア :
――そんなものは決まっている。

ナタリー・ガルシア :己の無力さを憎む。

これまでのおままごとのような努力の日々。
能天気に笑いながら日々を過ごしていた己を。

なぜ、なぜ、死にもの狂いで努力しなかったのか。己の意志を、己の覚悟を通すための力もないのであれば――こんな力、無意味でしかない。

SYSTEM :
 無力に打ちひしがれ、その心さえ黒く染め上がるような。
 その悲嘆を以て、此処に契約は完遂された。
 ナタリーは真実を求め、蛇はそれに応じてその反応を得た。
      サタン
 これを以て 蛇 との取引は結ばれる。

SYSTEM :
 既に、双方の目的は達成されたのだ。

 であればこそ──

????? :

「────────────用は済んだはずだ。

  疾く、去ね」

SYSTEM :
 直後、冷徹な声が闇の中響き渡ると共に、翡翠の剣が閃いた。

 それは闇を引き裂くが如く、接見する魔光を以て蛇の影法師を切り裂いた。

"誘惑者" ט :
 ──これは失敬。
  君が来るまでに、話すべきことを話しておこうと思ってね。それにしては遅かったようだが

”預言者”エヴァンジェリン :
 粉塵が晴れた先にいたのは、預言者──
 エヴァンジェリンと呼ばれた彼女だった。彼女は翡翠の剣の切先を、未だ姿の掻き消えぬ古き蛇の残影に向けている。

”預言者”エヴァンジェリン :
「貴様の声など訊きたくない。
 疾く去ね、侵入者。
 この夢は我が都の版図、無断で踏み入るは何者だろうと万死に値すると知れ」

"誘惑者" ט :
 取り付く島も無し、か。構わんよ。
 どだい伝えるべきことは伝えた。先に告げたように私は既に人工島に対する興味は失せているのでね。

"誘惑者" ט :
 だがその顛末については、見届ける価値がある。なればこそ、君たちの旅路に手を貸したのだ。
 案ぜずとも……その欲望の行き着く果ては私が見届けよう。どのような結末であろうとも、その果てに何を願い行おうと──

"誘惑者" ט :

 ──その願いは正しいとも。

 躊躇うことなく、実現するといい。

SYSTEM :
 そうして……誘惑者の輪郭が闇に溶け、形を失っていく。
 最早この場にこれ以上干渉する気はないということだろう。
 だがそのすべてを彼は此処ではない何処か。或いはこの世の果ての大樹の上から、見下ろしているのかもしれない。

”預言者”エヴァンジェリン :
「────」

 残されたのは、ナタリーと。
 預言者、エヴァンジェリン。
 本来この海にはいなかった筈の闖入者。
 彼女は、敵たる蛇の気配が消えたことを確認すると、その刃を鞘に納める。

”預言者”エヴァンジェリン :
 剣を納めたエヴァンジェリンは、そのまま視線をナタリーに向ける。
 項垂れていたか、或いはつくばっていたか。闇の奥では見えづらいその姿を正確に捉えて、ゆっくりと歩み寄る。
 何かを告げることはないまま、静かに。

”預言者”エヴァンジェリン :
「…………」

 すぐそばまでやってきたエヴァンジェリンから、冷たい視線が降り注ぐ。
 彼女は。
 静かにその双手を振りかざし。

”預言者”エヴァンジェリン :
 ……彼女は黙って、包み込むようにナタリーの身体を静かに抱きしめた。
 触れる手からは、人の温もりは感じられない。
 触れる肌からは、人の感触は感じられない。
 その様子は、何処かぎこちなく。

 けれど、何の悪意も害意もない。無垢な、相手を想う心のみがあった。

”預言者”エヴァンジェリン :
「──。
 我が主は。私が形を抱いてから。
 しきりに、こうしていた」

”預言者”エヴァンジェリン :
「これの意味するところを、私は正確に知り得ない。
 けれど──これで、君の苦しみがわずかでも安らぐのなら、それでいい」

ナタリー・ガルシア :抱きしめられて、どれだけそうしていただろう。
ようやく、押し殺した嗚咽が漏れる。

声を殺して、小さく震え――そのまま、零れ落ちるがままに感情を溢れさせる。

ナタリー・ガルシア :
ぎこちない包容。
リリアを、ハーヴァを、エヴァンジェリンを想う。
どうしようもない無力感は未だナタリーの体を満たしている。
だが、自暴自棄のような――破滅的な激情は、洗い流されたかのように綺麗に消え失せていた。

ナタリー・ガルシア :暫くして、掠れた声が言葉を紡ぐ。
腫れぼったい目を隠すように、俯きがちに、けれどしっかりと、二つの翡翠がエヴァンジェリンを見つめる。

「……もう、大丈夫です。ありがとう、ございます」

SYSTEM :
 無力を呪う怒りを拭い去るように。エヴァンジェリンは黙して、彼女が落ち着くまで静かな抱擁を続けた。
 どれだけの間、そうしていただろう。
 時間の感覚など曖昧な沈む夢の中、ナタリーはエヴァンジェリンに包まれていた。

SYSTEM :
 ──ナタリーにはそれが懐かしいものに感じられたであろう。

 この感覚を感じたのは、今に始まったことではなかった。

 夜ごと、夢に見たあの感触。
 何かに守られているような、或いは求められているような。
 あなたが何度となく経験してきた、沈夢の中。それを彷彿とさせた。

SYSTEM :
 何度となく感じたその感触。
 その由来は、きっと、彼女の抱擁ではなかったか。

”預言者”エヴァンジェリン :
 かすれた声を聴いて、彼女は告げられるままゆっくりと彼女から離れた。
 翠の双眸、向けられる視線を、彼女は静かに受け止める。

「ならば、善し」

”預言者”エヴァンジェリン :
「……もっと早く、迎えに行くつもりだったのだが。
 我が身至らぬ故に、おまえの心を傷つけたか」

ナタリー・ガルシア :「……いいえ、いいえ、それは違いますわ。これは、ただ、私の弱さのせいです」

緩く首を振り、ぎこちなく微笑む。
こうして助けになろうと駆けつけてくれたことに感謝こそすれ、責めることなどあるはずもない。

ただ、己の無力さが辛く、悲しい。
結局、誰かに助けてもらわなければならないことが――己一人で、立てないことが、不甲斐ない。

”預言者”エヴァンジェリン :
「……そうか。
 だが、私が遅れたのは事実だ。その結果として、この都市の夢に蛇を招く失態を犯した。
 無力というのは私の方だ」

”預言者”エヴァンジェリン :
       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そのせいで、今の今までおまえの元に顕れることも出来ずにいた」

ナタリー・ガルシア :「……それでは、最初から?私がこの都市であったことを夢として見ていることに気付いていたのですか?」

”預言者”エヴァンジェリン :
「ここは都市の夢だ」

”預言者”エヴァンジェリン :
 ・・・・・・・・・
「即ち私の夢でもある」

”預言者”エヴァンジェリン :
「私が。おまえに。この景色を、識って欲しいと願って。
 これらは、そうして見せてきたものだ」

”預言者”エヴァンジェリン :
「おまえに知って欲しかった。
 そして……知った上で、今一度。我が都に招きたいと」

”預言者”エヴァンジェリン :
「おまえこそが、最後の一人だ。
 ロトと、その娘たち。
 我が民の最後の生き残りの血を継ぎ、市民たる資格を宿したもの」

”預言者”エヴァンジェリン :
「私の。最後の、存在する理由だ」

ナタリー・ガルシア :「……分かり、ました」

なんとか絞り出すように、そう応える。
その言葉がどれほどの重さを持って投げかけられたものなのかを、今のナタリーは知っている。

それ故に、揺れる。

「その、私が市民になり、私がそう望むのであれば……私以外の誰も都市に入れず、都市の技術やあらゆるものに触れさせない、ということは出来るのでしょうか?」

”預言者”エヴァンジェリン :
「おまえがそれを望むならば、そうしよう。
 だが」

”預言者”エヴァンジェリン :
「また、始めねばならない。
 私の責務は、まだ終わっていない」

”預言者”エヴァンジェリン :
「我が主の夢。私を創造り、その身を捧げた主の願いも。
 私を居場所として歩んだ者達が、あまさず幸福を得られるように」

”預言者”エヴァンジェリン :
     エヴァンジェリン
「──皆の 福 音 となるために。
 私は、今度こそ成功する」

ナタリー・ガルシア :「……少し、考えさせてください」

力なく項垂れ、なんとか答えを返す。
答えは、分かっていた。
責務を果たすこと、それこそが彼女の存在する意味なのだから。

「この巡礼の旅の最後までに、答えは出しますわ」

”預言者”エヴァンジェリン :
「────分かった。
 おまえが、そう望むならば」

”預言者”エヴァンジェリン :
「だが新たに結んだ契りもまた、果たさねばならない。
 急かすことは、すまい。だが、そう時間は残されてはいない」
 

”預言者”エヴァンジェリン :
「……私は、おまえの力になりたい。
 おまえの味方でいたい。
 おまえの苦しみを除いて、祝福したい」

”預言者”エヴァンジェリン :
「それは、偽りなき我が都市の総意だ。
 故に……どうか、そんな顔をしないで欲しい」

 ナタリーを案じるように、寂しげな表情で

ナタリー・ガルシア :「……私も、出来れば貴方には幸せになって欲しいですわ」

果たすべき責務を、果たさせてあげたい。
彼女の願いの力添えをしたいと思う。

けれど、その選択が齎す結果を許容することだけは出来ない。

――全てを選ぶことは出来ない。

「ありがとうございます、あなたの気持ちは伝わっていますわ」

”預言者”エヴァンジェリン :
「──私はどうでもいい。
 だが……都市の総意が伝わったことを嬉しく思う」

 誰も。市民は、彼女の意思に耳を傾けなかった。
 都市を邪な方向へ押し進めた悪の独裁者。その似姿を持ち、あのような惨たらしい世界へと変えたエヴァンジェリンを、民は善悪すら超えた絶対者としてその意志を耳にしようとさえしなかった。
 そんな彼女にとって、その言葉に込められた意思は、決して軽くはないだろう。

”預言者”エヴァンジェリン :
「また逢おう。そう遠くないうちに。
 今の私は、おまえに逢いに行くことが出来ない。おまえを傷つけたくもない」

”預言者”エヴァンジェリン :
「私は待っている。
 約束の地で、何時までも」

 今までそうしてきたように。
 四千年もの時間を、そう過ごしたように。

SYSTEM :
 言いつつ、その姿が海の底へと沈んでいく。
 深淵の先、都市へと還るように。
 彼女の瞳は最後まで、ナタリーを慈しむ眼差しを向けていた。

SYSTEM :
 …………………………………………
 ……………………
 …………


 そして。

SYSTEM :
 闖入者が失せた空間で、入れ替わるように声が響いた。
 それはエヴァンジェリンのような凛々しい声でもなければ、あの誘惑者のような蛇を思わせる嬲る声でもない。

"アダム" :
 ──ち、とんだ邪魔が入った。つくづく性格の悪い野郎だ。
   あんなのの面でカタチを得た辺りから嫌な予感はしてたが……

"アダム" :
 キミもヒドい面してるぜ。
 さしずめキミもアレに嬲られてきたってトコか

SYSTEM :
 アダム。
 そう名乗り、そう接してきた男。
 夢の中がどれだけの時間を経たのか、久方ぶりに耳にする男の声だった。

ナタリー・ガルシア :「……ええ、貴方のお父様も『いい性格』をしていますわね」

ナタリー・ガルシア :「まさか、貴方の声を聞けて安心する日が来るとは思いませんでした」

"アダム" :
 ──これでもオレはキミを女性としてエスコートしてきたつもりなんだがね。
 罰当たりな子だ。

ナタリー・ガルシア :「――ええ、私にお姉様が担うものを隠していたのは貴方なりの気遣いですか?」

"アダム" :
 そんなところだ。

 それを信じるかどうかはキミの判断に委ねよう。

"アダム" :
 しかしそいつを知ってるあたり案の定、色々と聞かされたようだ。
 つくづく迷惑な奴

ナタリー・ガルシア :「――それで、貴方が私に見せたいものはこれで全てですか?」

"アダム" :
 ああ、これがすべてさ。
 向こうで何を見せられたかは知らないけど、だいたい想像つくしね

ナタリー・ガルシア :「それでは、そろそろ貴方がこの都市――ソドムを目指す理由を教えてほしいところですわ」

無理やり見せられた過去の中で語っていた言葉。
都市の終焉を望む、都市から生まれた意志。

「貴方は、終わることを望んでいますの?」

"アダム" :
   ・・
 ──ああ。
 そんなことまで知ってるとは、相当核心を見せられたな。

"アダム" :
 それがオレの使命。或いは設定というべきかな。
 そうでないとオレはキミをエヴァから庇ったりはしないさ

"アダム" :
 あいつみたいに、またしくじられても困るんだ。今度は跡形もなくキッチリ片をつけてくれねえと

ナタリー・ガルシア :「……それでは」

はいそうですか、と切って捨てることも出来ず、困ったように眉根を潜める。

「貴方が、『無価値なるもの』なのですか?」

"アダム" :
 ───────

SYSTEM :
 単刀直入にそう訊ねると、アダムは暫し口を閉ざした。
 それは、答えることを躊躇っている、という様子ではない。

SYSTEM :
 悪魔とは。
 概して、その真名を喝破された時。
 正体を露見するものだ。
 そう言うように、常に感じてきた気配が少しずつズレていく。

"アダム" :
 ──ああ。キミに対してはあんまり隠してもなかったけど。割れちまったなら仕方ない。

"アダム" :
 アダムってのは仮の名前さ。元々、そういう風に言ってただろ?
 オレ
 悪魔は嘘吐きでね。

"アダム" :
 ──無価値なる者、無頼なる者、邪悪なる者、不正の器……罪悪の王。
       もの
 色々と余計な名前を括りつけられてきたが、そうだな。

SYSTEM :
 ──曰く
 其は天から失われた者で、彼以上に端麗な天使はいなかった。生まれつき威厳に満ち、高邁であったとされ。
 同時にそれはすべて偽りの虚飾に過ぎなかったという。

 その伝承に倣うように、気配は異質なものへと変容する。

"アダム" :
 此処で名乗っておこう。共犯関係を結ぶためにも、改めて

"無価値の炎" :
     ヴァリューレス
 オレは『 無 価 値 』……或いは、
 ベ リ ア ル
 無価値の炎。

"無価値の炎" :
 都市の罪と共に顕れて。
 都市を滅びへと導くことを定められた。

 曰く、敵意の天使、だそうだ。

ナタリー・ガルシア :         さだめ
「――では、貴方の 運命 は、あの都市を滅びへと導くことなのですね」

"無価値の炎" :
 ──────ソドムの街に悪徳が蔓延り、熟れた果実が落ちる時。
 ──────太古より眠り続けた裁きの時が訪れる。
 さしずめオレは、その為の舞台装置……

"無価値の炎" :
       クソッタレ
 そういう風に古き蛇より定められた。
 運命の奴隷というやつさ。

ナタリー・ガルシア :「……ですが、貴方で良かったとも言えますわね」

虚勢か、逃避か、緩やかな諦念か――力の抜けた笑みを浮かべて、いつものように軽口を叩く。

「ベリアルと聞いたときには身構えたものですが、貴方にはそんな威厳はありませんもの――名前負けというやつですわ」

"無価値の炎" :
 プランシー
 悪魔オタクの記述通り、八十の軍勢を従えて偉そうにふんぞり返ってたほうが良かったかい?
 そいつは期待に沿えず悪かったね。オレに出来ることは、ただ否定することだ。

"無価値の炎" :
 故にこそ、オレはキミを必要とする。
 既に契約は交わされた。オレも、キミも、その際果てに都市へとたどり着く。
 運命の導きによって

"無価値の炎" :
 さあ、巡礼の旅を続けよう。

 キミは都市を消したいか?
 それとも彼女を護りたいか?
 選択肢ぐらいはくれてやるよ。
 実際に選べるかは別としてね。

 他人事みたいに見守ってきたこの夢の続きは、キミが紡いでいくんだよ。

"無価値の炎" :
 キミは天使でも悪魔でもない。
 まして神でもなく英雄でもないただの人。

 ──ならばこそ、何でも使って進んでくれよ。
     ケチ
   神は吝嗇だが、悪魔はいつも大安売りだ。

ナタリー・ガルシア :「否定しか出来ないなんて、なかなか話し相手としてはつまらない方ですわね――」

ナタリーにだって分かっている。
持てる全てを費やしても、成し遂げられることなんて限られている。
ならば、悪魔の甘言にだって乗ろう。

「ええ、私と貴方は共犯者です、最後にどんな選択をするのであれ、最後までは付き合いますわ」

ナタリー・ガルシア :
「だから、私にも付き合ってもらいますわよ――せいぜい扱き使ってあげますわ」

"無価値の炎" :
 ──オーケイ。そうこなくっちゃ。

"無価値の炎" :
 今度こそ消しちまおう。
 あの蛇が作ったもの、全部。

SYSTEM :
 真実か虚構か。陽炎のように掴みにくい男の言葉の中で、その瞬間だけ明確に垣間見えたものがある。
 それはすべてを拒絶する存在が、明確に絶死を望むどす黒い意志の炎。

SYSTEM :
 それはナタリーがこの夢廻で手に入れた憎悪の篝火に、更なる火を継ぐかのようだった。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ナタリー・ガルシア :今回はとくにありませんわ~

GM :色々あったとはいえ、飽く迄温存!
いいでしょう

ナタリー・ガルシア :後一枠ですから、もう少し温めておきますわ

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :【地名:古代都市ソドム/2】

 嘗ては流れ着いたオーヴァード達が技術を研鑽しながら牧歌的な生活を送っていたが、その集落の族長……ハーヴァの台頭から陰りが見え始める。
 彼女は千年、万年先にこの都市を残すべく尽力し、そのための投資として多くの都市政策を慣行。都市の人間が余さず幸福になれること、飽く迄人間としてその幸福を享受できること、不幸しか知らず幸福を自覚できないものがそれを手にすることが出来る事。
 それを都市の持つリソースで可能な限り実行するために開発を続け、その折に「人間を超えた意志判断を行う」ための人工知能の具象化のRBを顕現させた。

 エヴァンジェリンの発現後、都市はその願いを曲解し『今の人間では幸福になれない以上、人間というハード自体を上位の存在に変容して余すことなく幸福にする』と理解。
 都市の規模は成層圏を超えて宇宙に進出し、そこで壮絶な生存競争と自己保管により次世代へ進化するための巨大な実験場へと変化した。
 
 

SYSTEM :【地名:古代都市ソドム/3】

 この都市の由来は紀元前20世紀前後、当時プランナーがギリシャを中心に活動していた中(エピックヒーローズを指す)、その版図の外側となるエジプト・シリア方面で『個人の欲望で、何処まで行けるか』を試行するために生まれた。
 『アポクリファ』はそのモノリスとして都市の礎となることを期待して誘惑者により当時の族長に授けられたという。

 しかしその他にもう一つの目的として『虹の翼の活動を御するように、契約者の情動を復活させる』という誘惑者の目論見があったという。
 それを呼び寄せるために都市にはヴァリューレスという都市の死因となる概念が盛り込まれた。この都市は初めから滅びることが設定されていたのである。

 都市最後の日、予め黙示された道筋をなぞるように。
 隆盛を極めた古代都市ソドムは伝説上の天の火に焼かれて、ただ一人の男とその娘たち、及びに「退廃の都の象徴」というひとかけらのミームをのみ残して完全に消滅した。

 ……余談ながら。
 近年発見された調査によると、紀元前17世紀のヨルダンにおいて小型隕石の衝突により、ツングースカ爆発をはるかにしのぐ超巨大爆発(規模にして水素爆弾に相当する)が発生し、近隣都市が消滅したということが判明している。
 これらは地球の衛星軌道上にまで及んだ超階層都市ソドムの都市の悉くを焼いた火が、ほんのひとかけら漏れ出た結果であり。
 同時にソドムの実在を後世に伝えるための貴重なミームとなった。

SYSTEM :
     アルカンシエル
【アイテム:虹の翼/1】
 Eロイス:ファイトクラブ・破壊神顕現
 TYPE:IRREGULAR MODEL:契約の虹
                        デウス・エクス・マキナ
 リリアが遥かな太古に契りを結んだ、誘惑者曰く『 神 罰 機 構 』。審判の喇叭、神判の具現。
 実体が上位次元に存在するという異端の遺物であり、契約者は背に契約の証たる聖印を刻まれ、遺産と同化する。そのためデータ上では特殊な因子としか認識できない。
 契約者に神罰を執行するための不死の聖性と様々な概念への抗体を与えるが、その対価として秩序の為に戦い続ける宿命を課すという。
 
 とてつもなく強大な遺産であり、常時暴走しているため対話可能な自我を持たない。その一方で平時においては契約者に何ら害を加えることもなく、ジャームによる精神汚染も発生しない。
 しかし特定の条件下においてのみ遺産の持つ破壊衝動により稼働し、条件の対象となった概念に自動で攻撃を行う性質を持つ。
 この遺産の場合『文明が限界に達した場合』『その時代の人間には対処できない場合』『現存する文明に致命的な被害を齎す場合』に活動を始め、その根元と影響を受けた概念すべてを存在ごと歴史から抹消する。
 一度覚醒すれば、契約者のリリアの意志など無関係に神罰を執行し、この星の歴史からその禍根の原因となる存在を跡形もなく消し飛ばす。その際、規模は関係なく、必要に駆られてならば天体一つすらも消滅させることさえもある。

SYSTEM :
     アルカンシエル
【アイテム:虹の翼/2】

 リリアはファイトクラブによって『遺産の意志』という神託の声=ジャームの意志と、リリア自身の意志が隣り合う状態にある。
 この力を抑え、留めるため、リリアは隣人をこそ愛する身でありながら世界という広い視野を持たざるを得なかった。
 世界の守護者というが、遺産が要求するその在り方は『大災害の予兆に際して出現し、その原因となるヒトの物語を発生源ごと歴史から抹消する』という神罰の化身であり、要するにその時代の人間が処理し損なった”歴史を終わらせるモノ”を物語ごと滅ぼし続けてきたもの。
 
 この遺物はリリア自身の意志だけで発動できる能力は限られている。そのため、リリア自身の戦闘能力に寄与する部分は不死性や耐性、能力の基礎スペック向上が主で、表面上は一際強大な古代種以上の力を持たない。
 飽く迄彼女自身の強さを担保するものは、彼女自身が否応なく研鑽を積み、身に着けてきた武錬の故であろう。

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……




【INTERLUDE ⑭】

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑭】

登場PC: Syou Kain
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 その日、青年は時間を観て遠出をしていた。
 次の出立までの時間にまだ余裕があると見て、許可を取った上で彼が向かったのは、ロックビルの高級住宅街だった。
 如何に暇を持て余すとて、何の用向きも無しに彼がこんな場所まで来る筈も無し。動機はともあれ理由として彼が此処にいるのは、先の紅との会話が原因だった。

SYSTEM :
 ナタリーに関する話題が出た際、紅はナタリーとの日々を語る折にうっかり場所について口を滑らせてしまったのである。
 無論、聞けば自分で調べをつけ勝手に割り出していただろうが、わざわざ赴くまでに至ったきっかけとなったのは間違いない。
 

SYSTEM :
 ナタリーの実家は拠点とするベセスダの本部ビルからはそう遠くなく、決して無関係な家でもない。知ったきっかけを与えたとして、これを紅の落ち度というのは聊か酷だろう。
 いずれにせよ、おっとりした見た目や態度に反して行動までに躊躇のない彼が、実際にそこに向かうのに時間は要らなかった。

灰院鐘 :
 冬の寒風よりも、暖かな日射しを身に感じる──そんな日取り。出かけるにはちょうどいいと、暴風雨も猛吹雪も気にしないくせに一丁前にきっかけらしいものを持って、青年は本部を飛び出した。

灰院鐘 :
 大柄な身体がずしずしと闊歩するのはホワイトカラーの住宅街。静穏で、清潔で、緑に彩られた営み。眺望するには少し近すぎる位置は、この日、青年には目的があることを意味していた。

灰院鐘 :
 しかし行き当たりばったりの行動は、いつものように壁に衝突する。紅のうっかりで得た情報だけでは、具体的な位置までは分からなかったのだ。まして土地勘もない。だが迷子の常習犯だ。

「こんにちは、ガルシアさんのお宅を知りませんか」

 分からなければ、聞けばいい。経験則だ。ぐうぜん行き会った人へ、にこやかに尋ねかける。

SYSTEM :
 丁度花壇に水やりをしていたところの中年男性は、問いかけられ鷹揚な態度で応じてくれた。
 見ない顔にも丁寧な反応だ。あの家には丁度年頃の娘もいたことだから、クラスメイトでもあるのだろうか。

 そんな風に考え、応じようとしたところに、グイ、と鐘の手を引く力が入る。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ガルシア邸宅はこちらですよ。
 それでは、お騒がせしました」

 自分より50センチ近く体躯の差があるにもかかわらず、まるでその対格差を感じさせない有無を言わさない膂力は良く知るバディのものに相違なかった。
 今まで彼女と同伴していたことに鐘は気付けなかったが、どうやら見かねた様子だ。
 彼女は中年に一礼して、進路を変えぐいぐい引き摺って行く。

灰院鐘 :「しました~」と笑顔で言い残して、引きずられるままついていく。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 それから少し距離を置いてから、勇魚は掴んだ手を放して、鐘を見上げる。浮かべる表情は相変わらずの呆れ顔だ。

「元々私用での外出に干渉する気はありませんでした。なので気配を殺して見張っていましたが……
 あまり目立つ行為は慎んでください。この付近は、こんな様子でも特に緊張した状態ですから」

SYSTEM :
 わざわざ彼女がトレーニングの時間を割いてやってきたのは当然理由がある。
 元々、ガルシアの家はUGNにとって重要なパートナーの一人。
 関係者と共同で任務に当たるとて、一エージェントが私用で逢う訳にはいかない。ましてや現在はナタリー・ガルシアが作戦に参加している身で、その親族は有名人である。テロリストがどう考えるかなど容易に想像がつく。

SYSTEM :
 今だとて紅の任務入りと入れ替わりに別の護衛エージェントが配置され、警護に当たっているのである。
 監視役として、また信用を得ているバディの勇魚が同伴するのはある意味当然の流れでもあった。
 飽く迄姿を隠して自由にさせていたのは、勇魚なりの気遣いであったのだろうが……

灰院鐘 :
「うん、ごめんね」

 おっとりと微笑む。素直だが、まるで悪びれていないとも取れる。

灰院鐘 :「……」

灰院鐘 :
「あれ?」

 どうしてここに──と驚きそびれたぶんが、遅れてやってくる。

 一頻り説明を受けたあとの「そっか」という返答に、どれだけの理解があったかは分からないが、ともかく。

灰院鐘 :
「案内ついでに、君も一緒にどうかな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……………………」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「いえ。
 こちらは終わるまで遠くで待機しています。元はあなたの方に用事があると伺っています」

灰院鐘 :「うん、ナタリーくんのご両親に挨拶しようと思って」

 こっちはお土産、と手にした紙袋を掲げる。なけなしの社会常識をめずらしく発揮したようだが、それ以外の全部が台無しにしている。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「確かに挨拶に向かうなら、小休止の今ぐらいしか時間はないでしょうね。
 ですが、どうして急に?」

灰院鐘 :「うーん」

灰院鐘 :
「いつかは行こうと思ってたんだ。ほんとうはナタリーくんも誘いたかったけど……」

 言葉を濁らせる。その続きをうまく言葉にするすべを、青年は持たなかった。

 張り詰めることでどうにか保っている少女の糸を無理に緩めることが正しいのか。自分がしてあげたいこととナタリーにとって必要なことの板挟みで悩んでいる自分にさえ、彼は気付いていない。

灰院鐘 :
「……もう今までのようにはいかないから、かな」

 ”ラクシャーサ”と”コードトーカー”との戦いで迎えた決着は、例外中の例外だ。残る難敵とは、殺意の応酬しか望めないだろう。
 たとえ複雑な情の絡む余地があったとして、戦いの場を支配する理はひとつしかない。
 
 敵を斃すか、敵に斃されるか。ただそれだけだ。

灰院鐘 :
 それはナタリーもよく理解している。必要以上に──望まれる以上に。

 ”天秤はどちらに傾きますか?”

「…………」

灰院鐘 :
 その一線はいつか超えるものだ。
 超えた瞬間、もう二度と元の自分には戻れない。

 ……いつかの声。とうに失われたものの残響が、鐘の裡に響いた。

灰院鐘 :
「うん、難しいのはよそう。だいいち、最初はもっと単純だったんだ」

灰院鐘 :「ナタリーくんはげんきで、がんばってるよって伝えたくて」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………そうですね。
 これまでは運が良かった。戦場に立った身でありながら、奇跡と呼べるぐらい」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 彼女を取り巻く運命は、やがてその局面へ追いやるだろう。
 その時、彼女は普段通りに親と接することが出来るのか。
 親は子を今まで通りに愛することが出来るのか。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 答えはない。
 勇魚も鐘も、そんな昔のことを覚えてはいない。

 彼女を連れてくるべきだったか否か。
 その責任を取るのに否やはないが、是非の如何に関して勇魚もまた答えを出せないでいた。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「そうですね。心配になるぐらい、彼女は懸命に戦ってきました。
 もう、初日から三週間も経ちますか。親御さんも心配している頃です」

灰院鐘 :
 だろ、と頷いて青年は相棒に紙袋を手渡した。というより、ほとんど押しつけたような格好だ。

「分かってくれるなら話がはやい。じゃ、一緒に行こう」

灰院鐘 :
「君が外で待ってると思うと、僕がゆっくりできないんだ。君も、傍にいたほうが止めやすいだろ」

 さっきみたいに。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「えっ」

 押し付けられるままに紙袋を、当惑した表情で受け取る。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 珍しく虚を突かれたように声を上げた勇魚は、そのまま受け取った紙袋をしげしげと見つめて鐘の言い分を黙って聞いていた。

「……それは、そうかもしれませんが。
 良いんですか?」

灰院鐘 :
「うん?」

 いつにない反応をふしぎがるように、高い位置にある首がこてんと傾く。

灰院鐘 :
「どうして?」

 彼には、よくない理由が見つからなかった。
 勇魚の当惑を追いかけるように、しゃがみ込んで視線を合わせる。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……いえ、特別理由がある訳でも、ありませんが」

 合った視線を逸らす。その後、逡巡するように目を伏せて一拍置き

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……いえ。
 あなたが良いのなら同行させていただきます。特別、不都合があるでもなし」

灰院鐘 :
「よかった!」

 うれしげに言って、すっくと立ちあがる。そればかりか、さっそく勇魚の手を取って歩きだした。反対方向に。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……意気揚々と逆方向に行こうとしない!
 さっき案内したでしょう!」

灰院鐘 :
「あれぇ……」

 ──結局。ニューオーリンズの時のように、青年はほとんど先導してもらうかたちで目的地に到着したのだった。

灰院鐘 :こっちではインターホンはめずらしいんだっけ。ドアをノックしてもしもーし!でいいかな?

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 わかりました。私がやりますので下がって下さい

灰院鐘 :うん? うん、おねがい!

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 ……では失礼。

SYSTEM :
 勇魚は控えめにドアベルを鳴らし、名乗りを上げる。その傍らで、小さくワーディングを発生させる。
 護衛の人間に所属を伝え警戒を解かせた彼女は、そのまま呼び鈴の応対に間延びした男の声が聞こえるまで待っていた。

ガルシアの父 :
 それから暫くして、戸を開けた先に出てきたのは、鐘の身長に勝るとも劣らない大柄の男性だった。
 背丈といい、大らかな雰囲気といい、何処となく鐘のそれと似ている。今の鐘が年を経て落ち着きを得れば、このような男性となるのだろうか。
 

ガルシアの父 :
「はい、どちらさまでしょう。
 ……間違っていたら申し訳ないのだけれど、君たちは初対面の子だね?
 仕事の場でも逢った人の顔はだいたい覚えてるつもりだから、もしかしてUGNの子かな」

灰院鐘 :
 顔を合わせるなり、青年はちょっとだけ驚いてから、おっとりと微笑んだ。”彼”が記憶するかぎり、近い体躯の相手と向かい合った経験は多くはない。
 海を渡ってやっと、両手で数えきれなくなったくらいだ。ちょうど今がそうだった。

「うん、そうです。はじめまして!」

 さしもの彼といえど、こういうときくらいは”きちんと”するらしい──多少は。
 前以て言い含められていたのか、彼なりの良識かはさておき。

灰院鐘 :
「ナタリーくんのともだちの、灰院鐘っていいます。こっちは勇魚くん」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「はじめまして。UGN本部エージェントの勇魚=アルカンシエルです。
 お忙しい所、アポイントメントも無しに申し訳ありません」

 一方で小柄な勇魚は普段通りに、アメリカの父親像を体現したかのような大柄な男性を見上げる。

ガルシアの父 :
「うん、元気が良いのはいいことだね。
 はじめまして、ナタリーの父です。話は聞いてなかったけど、今日はオフで手が空いていてね。
 それにナータの友達なら大歓迎さ。
 大した準備は出来ていなくて申し訳ないけれど、中でゆっくりしていくと良い」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……御寛恕、感謝します。
 ですがどうぞお構いなく」

 本当に用もなく世話話の為だけに来た、などとこの場で切り出す訳にもいかず。
 内容を聞くまでも無く内にいれようとする相手の態度も相まって、勇魚は最小限の言葉に留めた。

灰院鐘 :
「わあ、お邪魔します」

 と、こっちはこっちで遠慮がない。素直と言えば聞こえはいいが。

SYSTEM :
 そして。
 ナタリーの父親に促されるまま、二人はリビングに案内される。素朴なものを好む父親の像に影響を受けたのか、庶民的な落ち着きを感じる雰囲気の広間だった。
 ナタリーが幼き日から、日々の朝を過ごしてきた場所。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 勇魚にとって、そうした場所を見るのは初めて、と言わずとも得難い経験だったに違いない。

「…………(しかし、本当に上がってしまった……)」

 勇魚はそれとなく熱感知で護衛の人間の気配を感じ取り、小さく会釈すると、そのままナタリーの父親に案内されるまま席までやってきた。まだ立ったままなのは鐘の重圧でソファが破壊されないか警戒しているからだろう。
 それにしても当人から何の許可も目的もなく知人の家に上がるということは、実際問題一般家庭にはよくあることなのだろうか? 勇魚は流されながらも訝しむばかりであった。

灰院鐘 :
 何の問答もなく通されたリビングは、主人のひととなりを反映したように温かな空間だった。生活感の中にも整った印象があり、壁に掛けられた家族写真の数々はいかにもアメリカ家庭的だ。

「素敵なお家だね」

 どちらともなく言う青年にも、こうした生家があったのかもしれない。少なくとも、傍らの少女ほど手の届かない場所にあるわけではなかった。記憶にせよ、記録にせよ。

灰院鐘 :
 だが、懐かしむそぶりはない。それは決して、風土の違いだけが理由ではないだろう。

 穏やかな微笑は、どこか遠い。
 人々の営みを慈しみたがるものの、眺望のまなざしだ。

灰院鐘 :「ここはナタリーくんの大切な居場所だって、伝わります。もちろん、あなたにとっても」

ガルシアの父 :
「そうかい? そう言ってくれると何だか照れ臭いな……
 ああ、コーヒーとココア、どちらがいい?」
 
 その微笑みが何処か遠きを見つめるような顔をしていることに、ナタリーの父は気付かない。
 或いは気付いた上なのか、少し機嫌の良さそうな素振りで珈琲を淹れ始める。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 勇魚は、どうかお構いなくと一言断るが。その一方で吸い寄せられるように、視界の端でとらえたものに歩み寄っていた。
 壁に掛けられた、たくさんの家族写真。コンクールの写真や、家族旅行先と思しき場所の写真などなど。
 ナタリー・ガルシアという……普通の少女が辿ってきた足跡を巡るように、勇魚はそれらを見渡していた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……娘さんとの時間を、大切にしていらっしゃるんですね」

 その眼差しは同じく遠い。
 けれど肌で感じずとも、心でその時間の熱が、写真の一枚一枚から伝わるような錯覚を覚えていた。

灰院鐘 :
「じゃあ、コーヒーで。勇魚くんにも」

 断りを入れたのもお構いなしに応じて、壁の写真を見つめる少女の隣に立つ。

 紡がれてきた時間と、想いと、内に宿る温もりとを、彼も感じているのだろう。ともすると、少女がそうしていることをも喜びながら。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 不服げな眼差しを一瞬向ける。
 本人不在で人の家に上がり込んで、あまつさえ飲み物までいただく図々しさ。
 本来なら遠慮して然るべきところだが、あちらは気にした様子もなく楽し気に珈琲を淹れていた。
 此処は厚意に甘えるところだろう。そう判断してか勇魚はそれ以上何も言わなかった。

ガルシアの父 :
「はい、おまちどうさま。
 淹れたての珈琲だよ。冷めないうちにどうぞ」

 言いつつ卓上に珈琲を一つずつ置きながら、続ける。

「色々なことがあったよ。今でも、鮮明に思い出せる。
 この家に来たのはそう、生後半年のナータが夜泣きと一緒にポルターガイストを起こし始めたのがきっかけだった。
 あの時は本当、びっくりしたなあ」

灰院鐘 :
「わあ、ありがとうございます」

 好意もコーヒーも、青年は臆面なく受け取って、笑顔で口をつけた。おいしい!と素直に声にする。

灰院鐘 :
「そんなに幼い頃から力を持っていたんですね」

 赤子のナタリーを思い浮かべて、青年の表情が柔らかくなる。不在の本人からしてみれば、たまったものではないだろうが。

ガルシアの父 :
「うん。それで家内と色々相談してね、色々あってこっちまで越してきたんだ。
 今みたいに理解ある人達がいる訳でもなかったからね当時は。家内と二人三脚で色々と奮闘してきたものさ。

 はは、まるでピクサーの映画みたいな毎日だったなぁ、あのころは」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………」

 さらりと告げられる事実に、口をつけかけた珈琲が止まる。鐘は気付かなかったが、時系列的に考えるに、ナタリーはレネゲイド拡散の以前より覚醒していた、ということとなる。

「……では、我々の組織が出来るまではご家族三人でこちらに?」

ガルシアの父 :
「そうだね。
 ……出来れば、幼いころから色んな場所に連れて行きたかったけれど……
 あの子は他の子より長い間、家の皆に囲われて過ごしてきたんだ。基本的に僕と、家内と、この家の中で」

灰院鐘 :
「…………」

 頷いて、続きを促す。

 箱庭、と。余人の懐くであろう連想を、青年が持つことはなかったが。

 長く深窓に留め置かれていたのは、その力の故だろうということは彼にも理解できた。

ガルシアの父 :
「そんな穏やかな日々も終わって、あの子が今みたいに積極的に将来に向けて動くようになったのは……リリアさんに助けられてからなんだ」

 遠い昔を回顧するように遠い目をしながら、ゆっくりと椅子に座り込む。

「コードウェル博士の論文について、政治屋のコネがあった関係で僕も聞かされていてね。
 娘を診てもらいながら、少しずつ外の世界に目を向けていこう……UGNの支持を始めたのは、そこからだった」

ガルシアの父 :
「ただどうにも僕のことを余程快く思わない人たちがいたようで。娘は、その人質として攫われたんだ。
 ……そこで、彼女。リリアさんがすぐに駆け付けて、助けてくれた」

「あの子は、それ以来ずっと彼女に夢中でね。危ないから止めるようにと説得しても、聞きやしない」

ガルシアの父 :
「あの子はその日から、積極的にいろんなことを知りたいと思うようになった。自分について、社会について。
 ちょっと危なっかしさを感じるぐらい貪欲に」

 それ自体は良い傾向だとは思ったのだけどね。と付け加え

灰院鐘 :
「……そんなことが」

 お姉様、と呼び慕う姿を思い返す。憧れに輝く瞳に応じる、静かな双眸と共に。

灰院鐘 :
「うん……しっかりしてるのに危なっかしいのは、僕たちの前でもあまり変わらないです」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……教官に憧れるのは、そうした背景があったからなんですね」

 納得したように頷いて。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「平和な陽だまりを自ら抜け出てまで、その光に追いすがろうとした。或いは」

 浴びた光で浮き彫りになる影を振り切ろうとしたのか。

ガルシアの父 :
「そんなあの子が、今はリリアさんの元で一生懸命働いている、なんて。
 これも主の御意志、運命の導きだったのかもしれない。今にして、そう思うよ」
 
 語る言葉の割に、口調は重く沈んでいた。

灰院鐘 :
「──?」

 青年は素直に首をかしげた。
 ナタリーの父は敬虔な物言いではあったが、その重苦しい雰囲気は、主の御心に感謝を捧げているようには見えなかった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………」

 少し考えるように間を置く。
 それは違和感の元を探る、というよりは。
 口にするべきか否かを判断するための時間に見えた。

灰院鐘 :
「勇魚くん?」

 どうしたの、と声をかける。たんにふしぎがっているようにも、背を押すようでもある、そんなしぐさ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……いえ、ただ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
      ・・・・・・・・・
「随分と……受け入れるのが早いですね、と。
 そう思ったまでです」

 勇魚は彼の様子を見て、そう思った通りのことを口にした。
 相手の反応は、諦観している訳ではないが整理が出来ているように見える。
 この事件が起きて三週間。声のやり取りはしても一度も顔を合わせていないにも拘らずだ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 政治家としての決断と見切りの早さ、と言うには家族の間の揉め事が近々で起きたようには見えない。

 ナタリーがこの選択をした時点である程度はそういうこともあるだろうと理解していた、そこは間違いない。
 だが、それが今で、今すぐだとは思うまい。勿論、ナタリーの家の人間に限ってその情報が伝わっていない、ということもあり得ない。

 心配していたことは間違いないが、その事態の急激な変化の割に。
 ・・・・・・・・・・
 既に腹が据わっている。そこについて、勇魚は疑問に感じずにいられなかったのだ。
 

灰院鐘 :
「────」

 ゆっくりと瞬きをした灰色の瞳が、勇魚からナタリーの父親へ移る。

 ……疑問の余地を解することは、青年にもできた。一人娘が再び誘拐され、救われはしたが、そのまま戦いに身を投じていると知りながら、目の前の男性はとても落ち着いている。突然の訪問者に、無事を問いただすこともなく。

灰院鐘 :
「でも」

 何に対する「でも」だったのかは、口にした彼にも分からなかった。

灰院鐘 :
「……それじゃあ、まるで」

 こうなることをずっと前から知っていたみたいじゃないか、と。声にされなかった問いが、揺れる湯気の上に落とされた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 勇魚は、鐘が問いを投げて詳細を知ろうとする意思を見せない限り、訴追することはないだろう。
 飽く迄エージェントとしての態度を貫徹するなら、怪しきは取り調べるに限るが。

 ──彼もまた、使命という枷を嵌めて生き抜く覚悟を、ずっと昔にしてきたのだろう。
 その事は。問いを投げるまでも無く察せられた。

灰院鐘 :
「…………」

 沈黙は逡巡だろうか。おのれが何に躊躇っているのかさえ、彼には分からない。

灰院鐘 :
 問いたださなくてはいけない理由はなかった。少なくとも、この青年には。

 ナタリーの父が抱える何かを、把握しているであろうリリアが何も語らないのなら……きっと、それが答えだ。

灰院鐘 :
 枷を外してやりたいのではない。
 代わってやれるわけでもない。

 だが……

灰院鐘 :
 吸って、吐く。深く……大きく。
 胸のつかえを、吐息ごと逃がすように。

灰院鐘 :
「教えてください」

 彼は問うのではなく、乞うた。ただ静かに。

ガルシアの父 :
「……本当に遠慮を知らないな、君は。でも、まあ。
 本当に何も知らないなら、僕だってこんな場所で呑気に休みを満喫してないよ」

 それは問いかけではなく、答えを乞い、求める言葉だった。
 決して意図を解さない、軽はずみな問いではなかった。だが、無関係な身の上である以上、やはり興味本位と大差ないことも事実だった。
 本来なら怒り、拒絶すればいいだろう局面。けれど男は、教えを乞う鐘を退けはしなかった。

 束の間、困ったような表情を見せた後、彼は少し考えるように顔を伏せる。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……すみません」

 勇魚は努めて冷静な声で非礼を詫びた。
 その上で勇魚は問いかけるのを止めはしなかった。少しの間、水を打ったような静寂が広がる。
 幸福な温室だった部屋は、驚くほどに冷たく感じられた。

ガルシアの父 :
「結論から言うと……。
 君の察したように、僕らはそれを聞かされていたんだよ。あの子が生まれてから、程なくして。
 ナータが、『約束の地』へと導かれる人間で。それを巡る、争いに巻き込まれることになる、と」

ガルシアの父 :
「僕の家はユダヤ系なんだ。でも、後で調べたところだと、うちはそれなりに異端の流儀が源流となっているらしくてね。
 南北戦争の頃に改宗したらしいけど、僕らのルーツはエッセネ派の生き残りだった」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──エッセネ派。死海文書を記したとされる民、クムランの教団が信じていたとされる『教え』ですね」

ガルシアの父 :
「ずっと昔の、古い時から、伝わってきた教えだよ。もう誰も覚えてない。
 先ず言葉の仔細から歪められて。
 次に物語が失われて。
 やがて歴史も忘れ去られた。
 遂に教えと言える程の原型も、芯もなくなって。
 僕らのおじいさんの頃には、とっくに意味を失くしていた。勿論僕だってそうさ」

ガルシアの父 :
「──けれど、どれだけ代を経て血が薄まったとしても。
 ・・・
 血の縛から逃れることだけは、出来なかった」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……旧約聖書、創世記に記された、ソドムとゴモラの物語。
 その滅びを前にして、アブラハムの嘆願に応える形で十人の『善き人』を救い出した後、神はその退廃を焼いたと言います。

 滅びゆくソドムとゴモラの生き残り。
 ツォアル
 小さな町へと逃げ延びたアブラハムの甥、ロトとその娘たち」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「あなたたち一族が、そこから生まれた。
 ずっと、その血脈を、無自覚ながら継いできた……そういうことですね」

灰院鐘 :
 ……宗教観、派閥、民族。いずれにも馴染みがない青年は、ともすると理解に窮したかもしれないが、それらがすべて遠い幻想ではないことは先日のリリアの話からも分かっていたことだ。

灰院鐘 :
 失われた都市の末裔──現代まで紡がれてきた織り糸の末端。”預言者”の守るべき者たち。

「……」

 ナタリーが生まれたばかりの頃の話を、懐かしむように語っていた父の姿を思い返す。
 未来が幸福の期待に満ち、無限の広がりを持っていた時間。多難を運命付けられているなど、誰が思おうか。

ガルシアの父 :
 首肯して、ナタリーの父は続ける。

「勿論最初からそんなことを気にしていたわけじゃない。知りもしなかった。
 けど……生まれて少しした頃。まるでベツレヘムの星を見た三賢人のように……なんて言い方は大仰だし、したくないけど。
 僕と違って、律義にその教団の教えを覚えていた人たちが押し寄せてきた時があったんだよ」

ガルシアの父 :
「まるでホラー映画を見てる気持ちだったさ。
 僕は最初、彼らの言い分を妄言と切って捨てた。不思議な力を持っていたとしても、この子がそんな生贄紛いの為に生まれたなどと、誰が信じてやるものか。
 ……無視できなくなったのは、そう。リリアさんと出逢ってからだ」

ガルシアの父 :
「リリアさんは僕に対して、その話を聞かせてくれた。家内には内緒で、ナータが辿るかもしれないこれからの道行きを。
 知った上で……飽く迄親として。変わらぬ様子で接してほしいと」

ガルシアの父 :
「これは、避けることが出来ないらしい。
 そう生まれたという、ただそれだけで。
 それだけであの子は多くの欲望から目をつけられることになった」

 オーヴァードの覚醒は、或いは人が故意に接しなければ発現しない。
 ただのオーヴァードであったならば、人に紛れて暮らすことも出来ただろう。そうした人が多いと言えずとも相当数いることを、知識として知っている。
 ナタリーはそのどちらにも当てはまらない。生まれついた時から回避の余地がない。

ガルシアの父 :
「リリアさんは、ナータをその後も陰ながら守ってくれていた。けど、ずっとそうしていられるわけでもない、とも言っていた。
 だからこそ、僕は……あの子が目指す道を、止めてやることが出来なかった」

 子はヒーローに憧れるが。
 子を持つ親の誰が、ヒーローになることを望むだろうか。
 それは、少なくともガルシアの父にとっては紛れもなくそうだった。

 自衛する力が要る。
 銃を持たねば生き抜けない。
 その責務を果たす時が約束されているならば猶更。
 それが、少なくとも従軍経験のあるガルシアの父の認識だった。

ガルシアの父 :
「あの子は真っ直ぐ育ってくれた。いい子に育ってくれた。勿体ないぐらいに立派に育ってくれた。
 けど、それと同じぐらい……無力感を感じてしまうんだ」

 彼を指して家族を守る大黒柱などともてはやすのは無責任なメディアだけだ。
 彼自身は常に、恵まれた体躯も財力も権力もあって、娘の身に掛かる何かを何一つ代えられなかった無力感にさいなまれ続けていた。

灰院鐘 :
 運命──

 時に人はそう呼ぶのだろう。確約された未来を。
 良きものであれ、悪しきものであれ。

灰院鐘 :
 逃れられない運命も、果たすべき責務も……じっと耳を傾けるばかりの青年には何一つないものだ。

 少なくとも彼には、戦いから遠ざかる道があった。その手を銃や剣の代わりに振り回す必要はなかったし、望めば代わりを果たしてくれる誰かがいたはずだ。

 その権利を、どうと思うこともなく手放した。

 ……いや。そんな自覚すら、あったかどうか。

灰院鐘 :
「……少し、分かります。ああいや、どうかな……」

 青年は困ったように笑う。娘の苦難を代わってやりたいと願う親心と彼の献身とでは、愛情の意味も、無力ゆえの煩悶も、趣を異にするものだ。

灰院鐘 :
 人畜無害なふうで、結局のところ彼は童話の巨人だ。視座が異なる知能の低い生き物。自分たちは共存できるという、相互不理解の上でしか人と生きられない。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……辛いことをお話させて、申し訳ありません」

 その無力感を正しく共感することが、自分に出来ていたか。ただ忘れ去った古傷が痛むように、沈鬱とした表情でそう口にしていた。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……差し出がましいと存じますが。
 ナタリーは立派に務めを果たし、自信も身に着けてきています。彼女が今も立っていられるのは……あなたが彼女に贈った、日常という土台ありきのものと思います」
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「安心しろとは言えません。ですが、私も、"ラフメタル"も、皆彼女を仲間として守り、共に征こうとしている。
 彼女の身も、心も、私たちにとって大切な者。決して損なわせはしません」

ガルシアの父 :
 男は、それに対して穏やかに笑った。
 気を遣わなくても良い、という意図にも見えた。
 それは自分の為すべきことを、既に理解して、行動している人間の眼だった。

灰院鐘 :
「…………」

 穏やかだが、内に確固たる意志を秘めた姿。しかし鐘は慈しみ、微笑むことはしなかった。複雑そうに口をつぐんだ様子は、今にも俯きそうだ。

 ……遠くから人々の営みを見守るのが好きだった彼は、きっと、近づきすぎたのだろう。

灰院鐘 :
 高潔さの裡にある苦悩が見えてしまうほど。
 決意の犠牲にされてきた幸福を想ってしまうほど。
 
 うつくしく気高いものを、いじらしく優しいものを、ただ愛するだけでは済まなくなるほど。

灰院鐘 :
 ふと面をあげた青年の腕が持ち上がる。

「見て」

 彼の指差す先には何もない。しみひとつない、柔らかな色合いの壁紙だ。その傍には、十数年の歳月を示す家族写真が並んでいる。

灰院鐘 :
「まだ掛けれる場所がある。こんな写真を撮れる日が、まだ続いてほしい」

 戻るように──とは言わなかった。まだ失われていない。誰も、何も。

灰院鐘 :
「ナタリーくんががんばっていることは、あなたが一番知ってたんだ。僕たちが伝えるまでもないくらい、初めから。だから……」

灰院鐘 :
「あなたたち家族が戦っているように、僕もがんばります。僕は僕のやりかたで。彼女と、ここにいない仲間たちも」

 それぞれの理由で、持てる力のすべてを尽くして。

灰院鐘 :
「その結果が、善いものであるように。できることなら、誰にとっても」

 青年は手を差し伸べた。握手を求めて。友人としてではなく、守護者としてでもなく……戦いに臨む者として。

ガルシアの父 :
「……」

 指さした壁と、次いで差し出された手を見つめる。余白の空いたアルバムノートのように、思い出を残す余地はまだ十分に存在していた。
 運命はどうあろうとも、まだ何も失われてなどいない。望むにしろ望まざるにしろ、続く余地がそこにはある。
 

ガルシアの父 :
「……ありがとう。僕も、それを祈っている。
 リリアさんに。UGNに。委ねたものを、君にも託したいと思う」

 彼は快く手を伸べた。
 異なる戦いに臨む者として、而して行き先を同じくする者へ、敬意を持ってその手を取る。

灰院鐘 :
「──はい」

 彼の首肯は短く、力強かった。
 重なり合う手と手。青年は慎重に、しかし、ごく自然に握った。
 誠意と敬意が交わされる、わずかな時間。そこには言葉以上の密度と雄弁さがあった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 その様子を見て、勇魚は思う。
 この人は強い人だ。無力さと向き合った上で、為すべきを為そうとしている。
 彼は何も、自分の抱えた者の苦しみを識ってほしいから、これを語った訳ではないのだろう。既にそうしたものは超えてきた。先程語った内容も、今なお苦しみはあっても進み続ける決意をした後のこと。

 交わされる握手は、異なる立場で自らの為すべきを果たすために奮闘するものたちのものだった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「────」

 余計な杞憂を一つ棄てる。ナタリーが変わってしまったとしても、彼女がそれを拒絶しても、父はそれさえ受け止めるのだろう。
 彼女がすべて投げ捨てて逃げ込んだとしても、彼は責めずに受け止めるだろう。それで解決することでもない以上、何時か彼女を連れだすこともするだろう。
 
 勇魚は、その表情を薄く和らげる。ナタリーの父が真に、娘へ真摯に向き合っていることを、言葉を介する余地なく理解した。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 であれば猶のこと、こちらに出来ることをする。

 先に告げた言葉に二言を残さぬよう最善を尽くす。それだけが、この誠意へ報いることとなる。

ガルシアの父 :
「……今、君たちに逢えてよかった。僕は今日の巡り合わせに感謝したい」
 
 視線を交わし終えた後、彼は元の穏やかな笑みを浮かべて席に戻る。

「折角家に来てもらったのに、少し真面目な話をしすぎたかな。
 さ、珈琲をどうぞ。少し話が長くなったからね、冷めないうちに」

灰院鐘 :
「こちらこそ! 話せてよかったです」

 彼にも朗らかな笑顔が戻る。勧められるまま素直にカップに口をつけて、おいしい! と元気に言う。二度目だし、ふだん本部で貰っているものとの違いなんて分かってもないだろうが。

「勇魚くんもどうぞ」

 おいしいよ、とあてにならない太鼓判。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……わかりました。戴きましょう」

 静かに頷いて、ずっと遠ざけていたカップを手に取る。
 12月の凍える季節を忘れさせる、穏やかな温もりがそこにはあった。

SYSTEM : …………………………………………
 ……………………
 …………
 ……

SYSTEM :
 そして、珈琲を戴きながら少しばかり歓談の後に、二人はガルシア邸宅を出た。

 冬空の下、二人は帰りのバス停を目指して歩く傍ら、話を切り出したのは勇魚からだった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ガルシア夫妻は良き人でしたね。
 彼女が自慢の父と誇るのも、分かる気がします」

灰院鐘 :
「うん。それに、とても強い人たちだった」

 長く伸びた影を並べて歩く二人が、冷たい風に凍えることはない。常ならぬ身がそうさせている。それでも、吐く息は少しだけ白かった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ナタリーの帰る場所が、ナタリーに優しい場所でよかった。
 或いは、それが彼女に棘として刺さるとしても……それは別の繋がりが解決してくれる」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……………………」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 普段と違い、時折歯切れの悪い調子になりながら、勇魚は街道を歩き続ける。
 少なくともナタリ―とその両親について、思う所は晴れた。そこに間違いはないだろう。彼女の胸中にあるものは、それと別の何かだ。

灰院鐘 :
「……うん」

 苦悩はいつか晴れ、傷は癒えるものだと信じるほかなかった。ナタリーの帰る場所はひとつではないし、ひとつしか選べないわけでもない。

 ……ただ、できることなら。彼らにまた幸福な未来を夢見る時間が戻ればいいと、青年は祈らずにはいられない。

灰院鐘 :
 勇魚のいつになくはっきりしない様子に、青年は首を傾げた。

「なにか心配ごと?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……いえ、心配事、という訳でもありません」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「ただ……少しだけ気になっただけです」

灰院鐘 :
「?」なんだろう、と反対に傾く。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………。
 私にはいませんし、居たとしても覚えていませんから」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……その、家族、というものが」

 少し気恥ずかしい様子で、彼女は視線を逸らして懸命に口にする。

灰院鐘 :
「……ああ」

 ちょっと意外そうに目をまるくしてから、おっとりと微笑する。年相応に照れる相棒の姿を見たのは、たぶんこれが初めてだ。

灰院鐘 :
「僕もあんまり覚えてないや」

 父がいて、母がいて、家族の中にいて、
 こんな町に住んでいて、学校に通っていて──
 そういった輪郭は思い出せても、内情までは語れない。彼には、確かな感情のこもった思い出がないのだ。記憶のどこにも。

灰院鐘 :
 お世話になったのに申し訳ないな、という思いはある。
 それ以上に……他の誰かにもそうするように、幸福を祈っている。灰院鐘の肉親は、今の彼にとっては守るべき多くの人々の一部だ。

灰院鐘 :
「でも、なんだかうれしいな。気になるんだね」

 うんうん、とおおきくうなずく。

「いつか君にもできるよ。君は面倒見がいいし、やさしいし」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……………………まあ人並みには」

 あまり見せたくない部分を晒してしまったばつの悪さで、少し睨むような眼つき。溢すように彼女はそれを認める。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ナタリーがそうであるように。
 アトラもまた、義理という形でもそうした身内が居るように。
 私にも……そうした人がいたら、どうなのだろう、と。

 そう思っただけです。欲しいとは、一言も」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 何とか歯切れの悪い部分を吐き出しきった後、堰を切るように早口でまくし立てる。語調を抑えていても、隠し切れないものは隠し切れない。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……そもそも私にとって、そう呼べる人がまるきりいない、という訳でも、ありませんし。いえ、それが親や兄弟姉妹に相当するような関係であったかどうかは、疑問ではあり、正しいモデルケースを知らない以上どうカテゴライズすべきか曖昧な所ですが……」

 消え入りそうな声で口にするのは、恐らくリリアのことだろうか。

灰院鐘 :
 早口でまくしたてる少女を、青年はにこにこと受けとめた。歩いていなければ、今にも屈んで視線の高さを合わせにきそうだ。

灰院鐘 :
「そうだったね」

 ……いつか勇魚が、リリアが親のように接してくれたと言っていたことを思い返す。彼女が、そのことに深く恩義を感じていることも。

灰院鐘 :
「”家族”にはいろんなかたちがあるけど……」

「離れていても、ずっと待っていてくれる誰か。僕は、君にそういう人ができたら嬉しいなって思うよ」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……ただ、あの時」

 自分が今まで処してきたもの。
 封印者としてこの手で封じ、時には滅してきたもの。戦い続けた、敵。
 己を形作るものがそれと同じだと、リリアの口から語られた時。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「あの時から、不安感が拭えないんです。
 言語化出来ない、断絶を感じてしまったような」

 同じ時間を生きられない。
 今を生きるものではない。
 それは否定されるべきことだ。少なくとも勇魚はそう思っている。
 だが、それが自分のエゴでないと言えるのだろうか。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 為すべきことを為し、それが終えれば何時か霞のように消えてしまうのではないか。実際にそうならずとも、或いはそれを望んでいるのではないか。
 そんな中で、自分が居て欲しいと考えるのは良いことなのか?

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……それが急に不安になり始めて。
 気になったのかもしれません」

 親と子。或いは姉と妹。
 そうした人間の、『普通の』あるべきカタチについて。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………そう、ですね。
 私にも、出来るでしょうか。
 離れていても、待ってくれるような。或いは、どんなに遠く離れてしまっても、待ち続けることが出来るような。
 そんな人が」

灰院鐘 :
「……そっか。でもごめんね」

灰院鐘 :
「僕に君の不安は分からない」

 はっきりと、これ以上ないくらい明瞭に彼は言った。

「ほんとうに隔たりの向こうにいるなら、たぶん、そんなこと気にも留めない。だから……遠くに感じるときがあっても、君は手を伸ばせば届く場所にいるって僕は思う」

灰院鐘 :
「こんな風にね」

 小さな手を取って、青年はすこしだけ歩を早める。
 彼らの歩幅の差はこのさき少しだけ狭まって、しかし、生涯埋まることはないだろう。
 だが、歩調を合わせることはできる。先に進んで待つことも、後ろから追いかけることも。

灰院鐘 :
「できるよ」

 穏やかな断定。このとき彼はそうなればいいという祈りではなく、確信をもって応じた。

灰院鐘 :
「いつかその時が来たら、会いに行くよ。ほら言っただろって、胸を張りにね」

 振り返った鐘の笑顔は、いつもの柔らかな微笑ではなく、年相応のいたずらっぽい笑みだった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「………………」

 手を取り、歩を速めた鐘に、勇魚も少し歩調を速める。そうするだけで、まだ十分に手が届く範囲なのだと語るように。
 
「そういうものでしょうか」

 ある意味彼らしい楽観。彼が最初にそう告げたように、巨人の視座は地を這う人の視座でもなければ、遥か星界を征く御使いの視座とも違う。
 その溝の深さを正しく見積もることも出来ない。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 けれど、それを理解している筈の鐘の口から、そんな確信を込めた強い言葉が続いたことに、勇魚は少し驚いたように小さく目を瞠る。

「……、そう、ですか」

 それが意外な反応だったからか、願うような言葉を確たる意志で肯定された故か、生返事気味に応えを返す。
 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……好きにして結構です。ただ……その頃には、所かまわず抱擁する癖も治して貰えたら嬉しいですね」

 悪戯な笑みに、持ち直した彼女は酷く疲れた様子で溜息を溢した。その表情には先ほどまでちらついた陰りが、少しだけ薄まるように見えた。

灰院鐘 :
「むぐ……」

 いたいところを突かれて、眉が八の字を描く。何週間か前はちょっとがんばってた気がする……と、もごもごと口の中で言葉を転がしているが、あんまり自信はなさそうだ。

灰院鐘 :
 いくらか翳りの薄らいだ様子を肩越しに見遣り、青年はそっと微笑んだ。

 勇魚の感じた断絶は、今すぐには解決できない問題だ。
 でもいつか、ふとしたきっかけで終わるものかもしれない。その時を、青年は信じていた。

灰院鐘 :
 人に寄り添ってあげられる彼女の優しさが、
 彼女が多くの人から受け取ってきた思いが、

 この炎のような少女と”家族”を結びつけてくれるはずだと。

SYSTEM :
 そうして日が沈みかける中、高い影と小さな影が寄り添って歩み続ける。
 歩幅も合わず、視点も異なる二人は、同じ方向に進んでもきっと別の道を辿るだろう。
 だが、鐘がそれを確信したように。違う道を征くが故に、その行き先を信じることが出来るのかもしれない。

 今はまだ、同じ帰路を歩き続ける。
 今はまだ。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

灰院鐘 :うん、今回もだいじょうぶだよ。ありがとう

GM :OK!

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
3ラウンド目の行動が終了しました。
リザルトを確認します。

SYSTEM : ─RESULT─

SYSTEM :
 ─ROUND 3/5 ─

 STAGE『United States』
 MAP Progress:
 LOS ANGELES :4/4 (CLEAR!)
 DETROIT :4/4 (CLEAR!)
 NEW ORLEANS:1/4 (Danger)
 
 ALLY UNIT ;6/6
 ENEMY UNIT:4/7
 
 CAPTURED AREA:3/4

SYSTEM :
 デバフ状態:
 ・Auto Action Limmiter :OFF
 ・Prize Point Canceler :OFF
 ・Energy Absorber :ON

SYSTEM :
STAGE『Sodomy City』
STAGE:2⇒3

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───




STAGE『United States』 Round4

SYSTEM :-ROUND 4-

"天刑府君"元 天刑 :シークレットダイス ??

"天刑府君"元 天刑 :シークレットダイス ??

SYSTEM :各PCは行動内容を選択し、判定を行ってください

ダン・レイリー :まずはセットアップからだな。

GM :このラウンドからはお買い物が解禁されます!

ダン・レイリー :ああ。漸く調達判定が解禁された今、やっておきたいこともあるが………“天刑府君”はどう動いたか

灰院鐘 :とくいだよ~

ダン・レイリー :いいのか 世話になってしまうぞ、ショウ 

灰院鐘 :まかせて!

ナタリー・ガルシア :センサー全開ですわ!

ダン・レイリー :ああ。任せたぞ

ダン・レイリー :ということで先ずは奴をどうするかだが…「居て困る」場所はルイジアナだけだ。

アトラ :どうなっとるかなあ~

ブルー・ディキンソン :ヤなとこいってないといいねえ……

ダン・レイリー :さてな。“ヤなとこ”を衝くのが彼方の仕事と言えばそれまでだ。

GM :とはいえ元の調査については

GM :『コイツ今どこで油売ってるんだろうな~~~』とか興味本位で探ろうとしなければ

GM :基本的に残す1エリアの探索で事足りるでしょうな そこは間違いないです

GM :では如何にする?

ダン・レイリー :ルイジアナへの調査を行えれば事は済むが…あまり大人数を割きたくないな。回復した支部機能の分で調達しておかねばならないものも多い…。

ダン・レイリー :…“T³”、頼めるか? その道に詳しいきみすらアタリを付けられなければ後は却ってリスクだ。

アトラ :隙見てお薬補充できるかどうかってトコだしね~ ウチとしては良いけども!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :さあやっちまいな!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :奴を丸裸にしちゃりな!

アトラ :あることないこと探っちゃるぜ~!

アトラ :そういうわけでウチが調査に行く!情報:裏社会!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

アトラ :5dx+5 ウオオ~ (5DX10+5) > 10[1,5,6,7,10]+3[3]+5 > 1

SYSTEM :【判定:情報判定 ニューオーリンズ-第三段階 に成功しました】

ナタリー・ガルシア :流石ですわ

アトラ :フッフッフ プロなので

ブルー・ディキンソン :うぉ〜すっげ……

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :ヒュー!さっすが!毎度頼りになるねぇ~!

アトラ :いえ~!もっと褒めて~!

ダン・レイリー :流石だ“T³” よく割り出せたもんだよ

灰院鐘 :元いたね~

GM :いや……

GM :いないぜ!!!!

アトラ :いないよ~

灰院鐘 :いなかったね~

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :これなら安心して一気にニューオリンズを攻略出来ますね!

ブルー・ディキンソン :心臓バックバクするわね本当ね(鼓動してないけど)

ダン・レイリー :ルイジアナにいないだと? まさか……… 

ダン・レイリー :………いや、居ないなら居ないでいいんだ。今が好機とも言えるが………。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :パスポートでも落っことしたんじゃないの~?

ナタリー・ガルシア :攻め込むチャンスですわ!

ブルー・ディキンソン :意外と道に迷ってたりして

アトラ :うむうむ!後ろからどつかれたりしない限りは安心安全に突っ込めるってワケ!

ダン・レイリー :(あの男がパスポートを落としている構図、あまり想像したくないな…)

アトラ :あの顔でぇ?

灰院鐘 :僕もよくやるから分かるなあ

アトラ :(やりそう……)

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :一先ずクリアリングも済んだところで……

ダン・レイリー :何処かに行く時は持ち物の確認をしっかりな………と、いうところで。此処が済めば、別件の本題にも入れるか。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :今はもうレネゲイズワームも取っ払って、支部機能を自由に使って武装を整えることも出来ます。
市販の武器なので、特殊なEXレネゲイドの武装なんかは取り寄せにくい所ですが……

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :長丁場ですからね。こういう細やかな調整は結構大事になるかと

灰院鐘 :銃がほしいな ええと何て言うんだったかな……アトラくんが使ってるみたいなやつ

ダン・レイリー :ああ。………銃とは珍しいな、あのタイプとなると………

ダン・レイリー :ショットガンか。

灰院鐘 :そうそれ!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :アトラが遣ってるのはかっぱらった猟銃をソードオフに切り詰めた奴だけど、ここでならもっといい感じの代物が買えるでしょ

灰院鐘 :……????

灰院鐘 :銃じゃなくて剣……?

アトラ :うんうん。ウチはもう愛着っていうか 慣れ…… ……

ダン・レイリー :銃口を斜めに切って軽くするタイプの………と説明してもややこしくなるな

ブルー・ディキンソン :こんがらがるよねー

ダン・レイリー :付き添うから、実物で確認するか? 調達と言えば銃ではないが僕も用がある。

アトラ :ウチみたいな細腕でもぶん回せるヤツ!と普通の!くらいの……(説明下手)

ナタリー・ガルシア :私も銃の訓練を積んでおくべきでしたわ

ダン・レイリー :何に使う気だナタリー??

アトラ :鷹狩りとか?

灰院鐘 :うん、おねがいします! ダンさんに選んでもらえるなら助かるよ

ブルー・ディキンソン :鹿狩り?

ナタリー・ガルシア :こう、二丁拳銃で近接格闘を……

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :アレ結構疲れるのよね(出来ないとは言っていない

アトラ :功夫と銃術を組み合わせた全く新しい戦法的な……?

ダン・レイリー :ああ、よろしく。UGNの調達機能だ、僕一人であれこれと覗くわけにもいかんだろうしな、そもそも。

ブルー・ディキンソン :(リベリオンでも見た……?)

ダン・レイリー :(もはや映画の使い方だな…と言う疑問をそっと仕舞い込む)

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :

GM :さて、それではショットガンを調達ということで…

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

灰院鐘 :4dx+7 (4DX10+7) > 10[1,3,6,10]+2[2]+7 > 1

灰院鐘 :買えたよ~

ナタリー・ガルシア :やりましたわ~

ダン・レイリー :よくよく人に好かれる男だな きみは

SYSTEM :
【判定に成功しました。
 アイテム:ショットガン を入手しました】

ダン・レイリー :感心だ。ところでそのショットガンで何を…

灰院鐘 :というわけで、ダンさんに贈呈します! いつもありがとう!

ダン・レイリー :なるほど………僕宛てか。

ダン・レイリー :ありがとう。普段使いは“此方”があるが………。確かに一つ、用途に心当たりがあるものだ。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :
イ ン フ ァ イ ト
至近距離 用の射撃武器ね。確かにこの武装じゃ有用かも。
とぼけたツラして考えてるんだかいないんだか。

灰院鐘 : 

ブルー・ディキンソン :……鋭い時は鋭いんだよねえ、凄く。

アトラ :あ~ キャプテンの間合いだと確かに…… ……(考えてる笑顔かなこれ?)

ダン・レイリー :殊更ヤツ相手となるとな。手札は多い方がいい。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :では、大尉はどうします? サイドアームは確保できたところですし、後は防具を強化するか補給を調達するか、という所と思いますが

ダン・レイリー :ふむ…。

ダン・レイリー :調達したいものは事欠かない。どれもプラスにはなるだろうが………

ダン・レイリー :次の戦闘はヤツの旅団だ。負傷が避けられぬとあらば、優先してハードコートを調達しておきたい。

GM :オーケイです!では……

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :3dx+2 〈調達〉 (3DX10+2) > 10[4,9,10]+5[5]+2 > 1

ダン・レイリー :流石にUGNの本部だ

SYSTEM :【判定に成功しました。
 アイテム:ハードコート を入手しました】

ダン・レイリー :よし、では…先の礼だ。僕自身が持っていれば誤差でも、ショウが持っていれば命を拾う機会はあるだろう。

ダン・レイリー :きみに譲渡したい。いいか?

灰院鐘 :わあ、ありがとうダンさん! すっごくうれしいよ!

灰院鐘 :ぎゅむう~~~~っっっっ(感謝のハグ)

ダン・レイリー :よろしい、これでイーブンだ。(その構えに対する対応の構えは、慣れにより速攻であった)

水無瀬 進 :一足早いクリスマスか。物騒なプレゼント交換だなこりゃ……

ダン・レイリー :まったくだがそこはそれだ、本番の予行演習ってとこにしておこう。

水無瀬 進 :まあこんな状況だしね。
そうそう、入手したアイテムはキャラシートに記載しておいてくれよ、忘れやすいからね

灰院鐘 :うん!

ダン・レイリー :“武器は装備しなくては”か? 了解。

水無瀬 進 :レーションを食べてもHP回復はしないから気を付けてくれ!!!

ディアス・マクレーン :マジ!!!???

ディアス・マクレーン :俺のバーガーには何のタクティカルアドバンテージもなかったのか……

ダン・レイリー :ああ…マジだ レーションを焼いてもファンファーレは鳴らない

ブルー・ディキンソン :光るキノコ食べても、バッテリーは回復しないよ

ダン・レイリー :しかしおまえのバーガーはそこで完成していいのか? まだ詰め切れる“高み”があるんじゃないのか?

アトラ :でも美味いとテンションあがるっすよ

ダン・レイリー :(とかなんとか言うだけ言っておくか)

ナタリー・ガルシア :バーガーはジャンクなのが良いんですわ

ナタリー・ガルシア :繊細な味付けよりも脂質!!タンパク質!!!ビーフ!!!チーズ!!!ですわ

ディアス・マクレーン :くおお、気遣いが染み渡る……!

ディアス・マクレーン :というかお嬢食ったことあるのか……

ブルー・ディキンソン :うわあアメリカ帝国資本主義の象徴!

ナタリー・ガルシア :NY観光の折に一度口にしましたわ

ダン・レイリー :却って新鮮だったというわけか…

灰院鐘 :みんなで食べるのが一番好きだなあ

紅 蘭芳 :貧乏人には腹持ちがよくてなかなか……

紅 蘭芳 :それはそれとして。ナタリーちゃんはどうしたい?

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :その前に。医療器具を補給する前に、こちらで応急処置を行うのがよろしいかと

ダン・レイリー :分散して行動する前の今が、最も効果のある時か

灰院鐘 :(堂々と受けにくる)

ダン・レイリー :僕に異議はない。立て続けの戦闘だったからな、外面は何とかなっても見えん疲労もあるだろうが…どうだ?

ダン・レイリー :ところでそれはそうとショウは元気だよな? 元気に越したことはないが

灰院鐘 :うん!

アトラ :確かに~ 元気になっとくに越したことはない!

ナタリー・ガルシア :皆さん、体調も万全と言えませんしね

ブルー・ディキンソン :……わははは!

ブルー・ディキンソン :わっはっはっはっはっは……がふ。

ダン・レイリー :誤魔化した第一人者もいることだ、その線で進めたい。恃めるか、“炎神の士師”?

ブルー・ディキンソン :ハイハイハイ! それでお願いします!!

灰院鐘 :しま~す

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :メンテ間に合ってなかったのね……薄々そんな気はしたけど

アトラ :しま~~~

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :了解しました。では、施術します

ナタリー・ガルシア :しましま~

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
セットアップ: 《火の鳥の加護》
対象:ダン、アトラ、ナタリー、ブルー

効果:HPを+15回復する

system :[ ”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル ] 火の鳥の加護 : 3 → 2

system :[ 勇魚 ] 火の鳥の加護 : 2 → 1

ダン・レイリー :感謝する。ずいぶんと余裕が出来たな。 

system :[ “ホワイト・スカイ” ] HP : 6 → 21

system :[ ナタリー・ガルシア ] HP : 13 → 28

灰院鐘 :(そわそわ)

ナタリー・ガルシア :温まりますわ

system :[ “T³”アトラ ] HP : 15 → 24

ナタリー・ガルシア :残念ながら……貴方の分は……

system :[ "雷霆精"ブルー ] HP : 1 → 16

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :………(一応演出的に回復を施す

灰院鐘 :ション……

灰院鐘 :

アトラ :全快全快~

灰院鐘 :ありがとう! とってもげんきになったよ!

アトラ :(気持ちがかなあ?)

ブルー・ディキンソン :よ〜しよしよしよし、半分くらいだ。

ブルー・ディキンソン :あたしもありがとネ!シエルちゃん

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :礼には及びません。これは飽く迄応急処置

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :足りない分は別途資財での回復を推奨します

ブルー・ディキンソン :だぁね あたしも前に出るロールだし

ブルー・ディキンソン :……んーじゃ、そのまま応急キットを取ってきたいな。

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(1+1)dx+1 <社会:調達> (2DX10+1) > 3[3,3]+1 >

ブルー・ディキンソン :わぎゃん……

SYSTEM :【判定に失敗しました。】

ダン・レイリー :気を落とすな…風向きの悪い日はある

ナタリー・ガルシア :私がその雪辱を晴らしますわ!

灰院鐘 :がんばって!

ブルー・ディキンソン :な……

ブルー・ディキンソン :ナッちゃん……!!

ナタリー・ガルシア :では私も、応急キットで!

アトラ :ガンバ~!

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :じゃあ、ナタリーちゃん。この子の仇を取ってあげて!

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ナタリー・ガルシア :4DX (4DX10) > 10[2,5,6,10]+8[8] > 1

ナタリー・ガルシア :フッ……

SYSTEM :【判定に成功しました。
 アイテム:応急キット を入手しました】

紅 蘭芳 :やった!

ナタリー・ガルシア :最高級の応急キットですわ

アトラ :最高級とかあんの?????

ブルー・ディキンソン :サイコ〜!

ダン・レイリー :大した目利きのセンスだ、ナタリー………

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :これでまた最低値出したらえらいことよ、ブルー
しっかりね

ブルー・ディキンソン :……

ブルー・ディキンソン :わっはっはっは

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :ま、今すぐ譲渡して使うかってとこもあるけどね。
どうするの? 一旦キープしとく?

ナタリー・ガルシア :そうですわね……この先の戦いに備えておきましょうか

ブルー・ディキンソン :そうだねえ

ブルー・ディキンソン :なんだかイヤな予感もする……

水無瀬 進 :了解だ。じゃあキャラシートに記載しておいてくれ。この手の消費アイテムは特に管理が面倒だからね

灰院鐘 :わあ!

ナタリー・ガルシア :しっかりと記載しましたわ~!

アトラ :忘れがちだしねぇ

水無瀬 進 :オーケー、確かに確認した!

水無瀬 進 :これでセットアップも完了だ。
次は今まで同様攻略地点を決めていくとしよう

ダン・レイリー :ああ。残りはニューオリンズ…。少尉や紅さんに維持して貰ったわけだが、反転攻勢に出るには丁度いいところだ。

SYSTEM :
セットアッププロセス内の全ユニットの判定が終了しました。
各ユニットは配置に就いてください

灰院鐘 :……勇魚くん、セクトBで君の力を借りたい。僕の所用も、そこで済ませてしまうとしよう。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :──了解です。為すべきを為しましょう。

ダン・レイリー :連中の兵力の展開されている箇所だが、周囲被害などの懸念についてはUGNにとって愚問だろう。武運を祈るよ、二人とも。

ブルー・ディキンソン :ガンバ〜

アトラ :任せた!

灰院鐘 :うん、いってきます

ダン・レイリー :よろしい。いってらっしゃい、だ。

ナタリー・ガルシア :あまり迷惑をかけてはいけませんよ

アトラ :(保護者?)

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :もう慣れましたよ

灰院鐘 : 

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :では、私も出陣します。

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :あたしはいつも通り、用があったら呼びなよ。何処でも飛んでいけるからさ

アトラ :いえ~

ダン・レイリー :ああ、恃む。が…本命はどちらかというとこの後かもしれんな。後者は。

アトラ :んじゃウチはそのまま探れるもん探ってきちゃおうかなあ。腕力勝負はお任せして……

ダン・レイリー :…では僕らも行動指針を決定する頃合いか。セクトAの整理をするつもりでいる。Dには適任がいることだしな。

ブルー・ディキンソン :はいは〜い。ま、他ンところでもだいたい同じことしてたしネ。

ブルー・ディキンソン :Dにはあたしがいくよ。パパッと取っちめてやらぁ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :どんな状況でも変わらないポテンシャルがウリだものね。じゃあ、私も現場に向かいます

ナタリー・ガルシア :それでは、私は……後詰めといかせていただきましょうか

ダン・レイリー :了解、其方を任せるよ、“雷霆精”。足元は掬われんようにな。ナタリーも、元々消耗の激しいタイプだ。本命まで小休止のつもりでいてくれ。

アトラ :ウチもAの方でちょこちょこと……キャプテンの補佐をね……

ダン・レイリー :
 ああ。そのAについても、万が一の保険をかけたいところだ、その言葉を是としよう。
 “T³”、それから…せっかく現場に来てくれるんだ。此方を頼めるか、“ジューダス・マカービアス”。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :勿論!工作は得意分野です。
足りない分はこちらでフォローしますよ

アトラ :うす!もす!

ブルー・ディキンソン :(もす?)

ダン・レイリー :ああ、よろしく。では世話の焼ける男とは思われんようにしたいもんだな。

灰院鐘 :もす! がんばって!

ダン・レイリー :(「もす」への疑問を押し流そうとしている)

ナタリー・ガルシア :そちらもがんばってください!もす!

アトラ :いえ~!もす!

水無瀬 進 :オーケイ、こちらはいつも通り後方支援に当たらせてもらおうかな。最後まで気を引き締めていこう

ダン・レイリー :そうだな…少尉とミナセも同じく後詰めだ。“天刑府君”が外部のエリアにいると聞く、不測がいつ起きるか分からん。

ダン・レイリー :その時は不測へのフォローを恃む。………これで配置には問題ないな。

ディアス・マクレーン :イエッサー!前回に続いて、こりゃ愉快なピクニックになりそうだな!

紅 蘭芳 :じゃあ私も……ナタリーちゃんの援護に回ります!大きな山が控えてそうですから!

ナタリー・ガルシア :お願いしますわ、師匠!

ブルー・ディキンソン :ヒュ〜百戦錬磨〜

SYSTEM :
ユニットの配置を確認しました。

SYSTEM :
Los Angeles: MISSION COMPLETED!
DETROIT:   MISSION COMPLETED!
New Orleans:
A:ダン、アトラ、ミリア
B:勇魚、鐘
C:
D:ナタリー、ブルー、ディアス、紅

SYSTEM :
-MAIN PROCESS-

SYSTEM :
各セクタに配置されたユニットの判定を行います。

GM :それでは判定の時間!

ダン・レイリー :ある種の分水嶺だな

ダン・レイリー :まずは上から順当に行くか。
Aから進めたい。いいかい?

GM :いいでしょう!Aということは、
判定は情報<噂話>、知覚のいずれか

GM :目標値は16になります!

アトラ :ウオ~~~!

GM :今回から財産点の使用が解禁されている故、足りない分はそれでゴリ押すことも可能にごす!

ダン・レイリー :失敗してもフォローは入るが、此処は成功しておきたいところだ

ダン・レイリー :…よし。では、こちらから行くとしよう。

アトラ :(おうえん)

灰院鐘 :(おうえん)

GM :オーケイ、では何で判定します?

ダン・レイリー :下手なところは見せられなくなったな。さて、判定だが…

ダン・レイリー :僕がやるなら〈知覚〉が妥当と見る。

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ダン・レイリー :よし。では…

ダン・レイリー :6dx+1 〈知覚〉 (6DX10+1) > 10[4,4,5,8,8,10]+6[6]+1 > 1

ダン・レイリー :応援してもらったからな。

アトラ :ウオ~!!!

灰院鐘 :わあ~!!!

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :お見事。伊達にエースを張ってませんね、レイリー大尉殿

ダン・レイリー :そういうコトだ。看板一つ背負い込むからにはってことだな。

ダン・レイリー :ともかく…こっちはコレで完了だ。

SYSTEM :判定に成功しました。
NEW ORLEANS:sectorAを制圧しました

SYSTEM :
【CAUTION!】

 イベントフラグを経過しました。
 判定一巡後、イベントシーンを開始します。
 指定PC:ダン・レイリー

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :なんか踏んだね

アトラ :

ダン・レイリー :大変に他人事のコメントをありがとう…さて、鬼が出るか蛇が出るか

水無瀬 進 :まあまあまあ、どうあれ成功したんだ

ダン・レイリー :ああ、一安心ってところだ。次に行こう。

ダン・レイリー :………。と、言いたいが。

ダン・レイリー :
 他の行動結果を見る前に………予め此方から打診しておく。GM。
 元局長ヘルムート・ヘス………爺さんと話を付けられるか? 今がその時だ。

GM :
いいでしょう!

SYSTEM :
【Information】

RHO効果が発動しました。

SYSTEM :
【CAUTION!】

 イベントフラグを経過しました。
 判定一巡後、イベントシーンを開始します。
 指定PC:ダン・レイリー

ブルー・ディキンソン :さーて、あたしらもお仕事しちゃいますかぁ。

ブルー・ディキンソン :もちろん<白兵>でいこうと思うケド

SYSTEM :【宣言を確認しました。判定を行ってください】

ブルー・ディキンソン :(3+1)dx+27 <肉体:白兵> (4DX10+27) > 10[2,8,9,10]+7[7]+27 > 4

紅 蘭芳 :おお……(拍手

ナタリー・ガルシア :ワザマエ!というやつですわ!

ブルー・ディキンソン :……

ブルー・ディキンソン :(フッ……)

ブルー・ディキンソン :お茶の子さいさいですなーアッハッハ!

SYSTEM :判定に成功しました。
NEW ORLEANS:sectorDを制圧しました

GM :イベントは……発生しない!

GM :メイドさんが全部斬り捨てて尾張! コノアサルトメイド強すぎうち

ブルー・ディキンソン :イェーイ☆

ナタリー・ガルシア :私は今回は楽をさせてもらいましょう……最近は少しつかれることが多かったので

ブルー・ディキンソン :ん、しちゃいなしちゃいな。

GM :最後のセクタについては小規模戦闘ですね

GM :特に雑談で承知の上で進んでいたせいで、今からメインログ振り返っても何の確認もなく唐突に戦闘シーンを始めてしまっているが……

GM :NPCの使用による攻略の場合であれ、PCの導入によって戦闘に入る場合であれ、
小規模戦闘の際にはイベント扱いでシーンに突入することとなります

GM :なので、一旦こちらの判定結果については先送りということになります
尚、NPCカードを使用する場合に同じセクタにいたとしても、NPCカードの効果を適用した場合『アバドンの顎』は発動しない!

灰院鐘 :……よかった。手放しでは喜べないけど。

灰院鐘 :順番を待つとするよ。ありがとう

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

GM :では、まずはセクタAで発生したイベントから、順に進めていきましょう!

ダン・レイリー :よし。では、よろしく恃む。

アトラ :ウオ~!(勢い)

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……




【MIDDLE ⑫ - 21st Century Schizoid Man】

SYSTEM :
【MIDDLE ⑫ - 21st Century Schizoid Man】

登場PC: Dan , ATORA
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 長期間に渡り、戦線を維持してきたニューオーリンズの本格的な進行を開始するため、ダン・レイリーとアトラは先んじて敵陣地の視察に赴いていた。
 ミシシッピ川河口の大橋はレジスタンスの補給の要所。戦線の維持に際して、此処の防衛戦は幾度となく繰り広げられてきた。
 ならば最初に此処から当たるのは定石だったろう。幸いにも現在、敵の手は及んでいない。

SYSTEM :
 アトラとダンは現地での戦闘の痕跡と、これまで確認された敵の装備を確認することとなった。一般人に見える範囲の影響は戦闘の都度修復されているが、オーヴァードにのみ確認できる特徴もあるだろう。

 ことに、あの強化猟兵の軍勢が死した折に放つ生命収奪。此処ではそれが、最も多く発動したことだろう。調査を行えば、何かわかることがある筈だ。

SYSTEM :
 結論から言えば、その判断は正しかった。
 ダンの優れた感覚によって、その痕跡が強く残った地点を計器で確認すると、特定の波長のレネゲイドが残っていることに気が付いた。
 
 その報告を受けて、ミリアは有識者と連絡をつけ、現場に向かうとのことだ。ダンとアトラは、夕暮れ時の大橋で彼女の到着までつかの間の休息についていた。

ダン・レイリー :
 ………UGNが拠点を保持し得ないニューオーリンズにおいて、
 最も堅牢堅固に拠点を築き上げたシャンバラの牙城。
 そこに抵抗する現地レジスタンスの補給線が、このミシシッピ川だ。

 ここで行われた遭遇戦、防衛戦は枚挙に暇がない。
 既に半月は前となるショウたちの迎撃戦から、テンペスト一個小隊による迎撃戦まで。
 多くの戦闘が行われながらも、どうにか戦線は崩壊の結末を辿ることなく持ち堪えているのは偏に連中や現地の協力あってこそだった。 

ダン・レイリー :
 そのニューオーリンズにおいて反転攻勢の運びとなった今、改めて認識する必要の出来たことはいくらでもあった。

 なにしろ此処に根付き巣食うのは、あの男。
 曰く───。

ダン・レイリー :
   尽き喰む死禽
「───ブラックモア。

 これがヤツの波長かどうかは分からんが、
 やはり後片付けなどする男ではないようだ」

ダン・レイリー :
 ………戦闘の痕跡も数知れぬこの地で、計器が拾った特有の波長持つレネゲイド。
 こいつの正体を“ジューダス・マカービアス”に預けて、どんな返答が返って来るのか。予測のつかぬところを、同じく休息中のものにぼやく。

アトラ :
「でもでもその辺の杜撰さ……?大らかさ……?のおかげで助かっちゃったっすね。
 最低でもなんかの足掛かりにはなりそうだし。キャプテンの勘も冴えてるし」

 せめて血の一滴でもあれば何らかの情報をこっちでも攫えたかもしれないが……そもそも、くだんの彼が絡んだ現場にほぼ顔を出していない身だ。

ダン・レイリー :
「…どうかな。
 杜撰さで済んでくれることはないだろう」

ダン・レイリー :
「足掛かりになるって言うのは同意したいところだが」

 その後片付けをしない理由も、単に食い散らかす性分だからにすぎないのかも知れないが。

「ヤツみたいな手合いは手段が目的の戦争狂いだ。
 僕の勘が錆びていないだけと自惚れたくはなるが、最低でも彼方が“それ”を適当にやることはすまいな」

アトラ :
「う」

 まあ、そりゃあそうだ。そんなうっかりで足が着くようなのが今更出て来るとは思えないし。ふんふんと唸りつつキャプテンの評する人物像を思い浮かべる。

アトラ :「聞けば聞くほどイヤっすね。普段なら避けて通るんですけども……」

ダン・レイリー :
「イヤで当然だが、今回ばかりは避けて通れるところに居てくれていない」

 嘆息。

ダン・レイリー :
 求めるものを考えると、誰だって本能的に好きはしないだろう。
 ………オーヴァードのレネゲイド能力は思った以上に、そいつ自身の何かに起因しやすい。経験則だ。

ダン・レイリー :「実際、彼女も避けていたんだろ」 名前は出さずとも意図は通じるだろう。

アトラ :
「避けられんからこうして事前情報も探してるし、動いてるわけですし。
 ……」

 うん、と追加で頷く。その辺の嗅覚は当然、信頼していいものだ。

「それもそーっすね。そう考えると何か余計に怖いっすけど……」

ダン・レイリー :
「そこは“ジューダス・マカービアス”次第というところだ。
 彼女にはフォローさせることなく済んだが、拾ったものが何かは彼方に回して結果待ちだ」

 ………その最中の襲撃も、警戒している限りでは今のところ何もない。
 ヤツがのこのこ河口を越えて挨拶、などという絵面も想像したくもないところである。

SYSTEM :
 二人きりの間のやり取りには、とっくに蟠りも失せていた。
 既に二度も死地を超えた経験故か、そもそもお互いに苦手意識も希薄だった故だろうか。迫りつつある敵の影に緊張しながら、談話を続けていたところ……

SYSTEM :
 そうした中で、少し時間を置いて二人の隣に黒い車が一台留まる。
 見知らぬ車だが、警戒に値しないと判断するのは、運転席でハンドルを握っていた人物を観れば瞭然だった。

ダン・レイリー :「ン───」

アトラ :

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ごめんなさい、待たせちゃったかしら二人とも。敵地だから、一応念を入れて慎重にルートを選んでここまで来たの。
 それから……」

 窓ガラスを開けた先にいたのはミリア・ポートマン。
 彼女は金の髪をかき上げてから、手際よく隣席のドアを開け放つ。その隣席からは……

:
 開け放たれたドアの隙間から、白い手が伸びた。
 ミリアに手を差し伸べる。立たせろ、と言わんばかりだ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あは、ごめんなさい先生! 折角遠路はるばる来てもらったんですものね。
 では……お手を拝借」

 委縮より、普段より聊かテンションの高い様子。にこやかにミリアは席を立ち、隣席に手を伸べる。宛ら淑女をエスコートするような慣れた手つきだ。

可憐な声 :
「よろしい♡
 きみのためにつらぁ~い弾丸に文字通り飛び乗ってきたんだから、このぐらいのサービスはしてもらわないとネ」

可憐な声 :
 現れたのは、白衣に身を包んだ人物だ。
 華やかな顔立ち、真っ直ぐな鼻筋、薄く形のいい唇。
 ストロベリーブロンドを背中でゆるく編んだ麗人だ。
 大ぶりな丸眼鏡の奥で光る同色の瞳は、角度によって七色に光を反射する。

可憐な声 :
 遺伝子レベルから細心に設計された左右対称の美。
 整形かレネゲイドかサイボーグの類か、そのどれもか、あるいは別のものか。
 この上なく人による作為を滲ませる無機的な美しさにわずかに施された化粧は、つくりもののような美貌に血色と人間味を加えている。
 自らの輝きを正確に磨き上げた宝石の風情だ。

“ファンシービビッド”アダマス :
 女性にしては低く、男性にしては高い、軽やかな声が楽しげに跳ねる。
 浮かべた華やかな微笑みが、そのひとを人形ではなく活動的な人間そのものに見せた。
 美しいという言葉はそのひとを飾るにふさわしかったが、いいや、それより──可憐な、と、呼ぶほうがいい。

“ファンシービビッド”アダマス :
「ハァイ、はじめまして。
 きみたちが今回のお仕事仲間なんだね? うんうん、なかなか……」

“ファンシービビッド”アダマス :
 きみたち二人を無遠慮に眺めまわすさままでかわいい。
 場違いに華やかな男/女は、しばらくしてから満足げに頷いた。

“ファンシービビッド”アダマス :「うん、けっこう好きかも! ふたりとも仕事終わったらウチ来てほしいな、遊ばせてほしいから……♡」

ダン・レイリー :
 一目で見て多くの人間が振り返ることは予想の付く美貌に、
 まず真っ先に浮かんだのは“ヤツの好みは年上だったな”という他愛もない脱線の感情。
 
 明らかに身に覚えのない姿に、僕は内心で思わず首を傾げた。
 さりとて警戒の必要はない人物だろう。

 ミリア・ポートマン/“ジューダス・マカービアス”が無遠慮に、危険人物を自分の横に乗せるとは思えない。度胸はありそうだが。 

ダン・レイリー :
 ………ともかく。
 そのミリアの様子から、いくつかのピースは嵌ってくる。

 どういう人物で、どういう位置なのか。
 考えはするが、ひとまず。

ダン・レイリー :
「御褒めの言葉をどうもと言いたいが、仕事が終わってもちょっと多忙でな。下手に遊ばれに行ったら、同僚のどいつに嫉妬されるか分からん」 

ダン・レイリー :
「改めて、はじめまして。
 ダンだ。ダン・レイリー。知っているなら蛇足だったが、自分の名は自分で名乗りたい方だよ」

アトラ :
「いやいや~、気にしなくていっす───……」

 彼───というか、“テンペスト”とは、話せる。重要な部分の共有が済んでる分、ミナセさんたちよりもやりやすいし。
 などと口には出さずにミリアの声と車の方に視線を向け。

アトラ :
 正味、自分の立場・生活からは無縁と言っても良さそうなほどの“オーラ”。
 諸々加味して、飲み込んで、それでも飛び込んでくる視線と言葉に少女は普通に狼狽した。

「だっ…………だだだ誰ー!!?」

 何か褒められてる!?しかもかわいい!

ダン・レイリー :(弱くていい不測の事態には弱いようだな) 彼はその感想をおくびにも出さなかった。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「本当、近づけば近づいただけかわいいとか反則っていうか……
 どんなにやってもこうはならないっていうか、オーラが違うっていうか……」
 
 余程なついているのか、ミリアは普段の様子は鳴りを潜めている。手を取ったまま近付いた横顔にうっとりしている。

アトラ :(こっちもなんか雰囲気とキャラ違わん!!?)

ダン・レイリー :ダン・レイリーの中で、どうも予想のピースが嵌って行く音がする…

“ファンシービビッド”アダマス :「もっとあらゆる角度から見てっ、あ、そうそうこの夕陽が絶妙にかかる場所から……」

“ファンシービビッド”アダマス :とてもいい角度をつける。

アトラ :
「あっいやどういうヒト!?」

 かわいい以外の情報が入って来ないけど!?

“ファンシービビッド”アダマス :あっ。てへ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……はっ!
 いけない、紹介が遅れました!」

ダン・レイリー :「思ったより自由な人だが名乗って貰って大丈夫か?」

ダン・レイリー :敢えて聞かなかったが大丈夫だよな?

“ファンシービビッド”アダマス :「ごめんね~、つい! ぼくに免じて許してほしいなぁ」

ダン・レイリー :すごいな 自尊心がロケットの如く加速している

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……こほん、このかわいい方は私の主治医。
 ドイツ支部、現在はベルリンのRラボに席を置かれ、私の渡米に際して同伴してくださった……」

アトラ :でも許しちゃいそうな雰囲気出てるよぉ……

ダン・レイリー :(このかわいい方)

アトラ :(このかわいい方……)

“ファンシービビッド”アダマス :
「ぼくがアダマスちゃん先生です!
 ちゃんと仕事で来てるから大丈夫だよ、よろしくねっ」

アトラ :「アダマスちゃん先生……」

ダン・レイリー :「アダマスちゃん先生」

“ファンシービビッド”アダマス :「そう! リピート! もう一回!」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「アダマスちゃん先生です」
胸を張り

ダン・レイリー :“雷霆精” どうなっている こんな娘だったか “雷霆精”

ダン・レイリー :「それでアダマスちゃん先生」

アトラ :「アダマスちゃん先生……」

アトラ :
「あっウチ!ウチはアトラです!ども!」

 気圧されて名乗ってなかったのに気付いた。この感じだともう知られてそうだ。

ダン・レイリー :
「………もしやあなたが“ファンシービビッド”と?」

 ………一連の様子から予想はつけていたが。
 あの時のミリア・ポートマンの反応からして、彼女…彼? がそうだろうか。

“ファンシービビッド”アダマス :
「そ。
 フ ァ ン シ ー ビ ビ ッ ド
 上品で鮮やかな最高級の美しさでしょ?」

“ファンシービビッド”アダマス :
「もう聞いてるんだね?
          コードトーカー
 うんうん、この子がブス女のガワ被るのを手伝ったのがぼくです。
 仕事だから仕方ないとはいえ、大変な思いしてたよねえ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「思い出したくないぐらい苦痛でした……色んなイミで……」

わざわざ努力して嫌いな女の事毛穴の数まで調べ上げてきっちり頭の中に叩き込んだことを思い出す。

ダン・レイリー :「(もはや一つの発言に突っ込みたいことが山のようにある気がするが)そうだな」

アトラ :「ほぇ~…………」 実際凄い。凄かった。

ダン・レイリー :
 実際見た目について文句を付けられる人間が居たら、それはもう希臘の女神とかそういう類だろう。そういうことにしておく。

 とはいえ………裏表のない、本当に「心の主治医」をしていた先生なのだろうことは、この自他ともに認める天才の年相応の姿を見れば明白である。 

「UGNの本部代理から、名を。
 “ジューダス・マカービアス”のバディからは、さわりだけだが。中々見事に化かされたよ」

“ファンシービビッド”アダマス :「ミリアったら、おカネと手間と暇と心の健康を犠牲に頑張ったんだよ~? 手中の玉のように大事にしてくれよな」

“ファンシービビッド”アダマス :
「……それで、ふたりがキャプテンとアトラちゃんだ。
 ぼくもちゃあんと話は聞いてるよ。キャプテンのことは別のひとからもネ」

ダン・レイリー :
「確かにそのキャプテンだ。
 とはいえ、大西洋の向こうで時の人になった覚えはないが………」

ダン・レイリー :
「それと…仕事上しょうがなかったんだろうが、その彼女は手中の玉というほど守られる立場の動き方をしてなかった。
 よもや普段からああだったりするか?」

 具体的には御付きがいると気が気でないタイプのだ。バディ共々、頼もしいことに違いはないが。

“ファンシービビッド”アダマス :「こっちの海の人からだから大丈夫♡ シンちゃんによろしく言っておいて」

“ファンシービビッド”アダマス :ウインクする姿もかわいい。

アトラ :(シンちゃん)

水無瀬 進 :
『………………』

 げんなりした溜息がスピーカーから漏れる

“ファンシービビッド”アダマス :「景気悪い音したなぁ〜、どこのシャチクかナ」

アトラ :シンちゃん!?虚空を二度見。

ダン・レイリー :「任せろ、景気の悪いシンちゃんには後で詳しく話を聞いてやろう」

水無瀬 進 :
『この場で訊かないでいてくれる君に、改めてリーダーの資質を見たよ……』

水無瀬 進 :
『名誉の負傷だ。どうか聞いてくれるな。
    ・
 そこの彼に誑かされ儚く散る様は、なるべく多く見たいしね』

アトラ :彼。

ダン・レイリー :
   マジ
 ………本気か………。

アトラ :アダマスちゃん先生を三度見。

ダン・レイリー :
 僕は思ったことをそっと奥底に仕舞い、
 同時に第一被害者の顔を思い浮かべた。

ダン・レイリー :絶対に面白いので胸の奥に秘めることを誓った。

“ファンシービビッド”アダマス :「さわってたしかめてみる?」

アトラ :「う゛ぇっ」

ダン・レイリー :
「言われるまで気付かなかったからね。
 流石にそこはデリカシーを使わせて貰おう」

 それこそ自尊心10割の呼び名の通りだし、
 ミナセも引っ掛かるくらいだ。

水無瀬 進 :
『まあ、こんな凄まじい人だけど腕は確かだ。仕事で一度一緒になったぐらいだけど、それは保証する』

“ファンシービビッド”アダマス :すさまじい(ほどにかわいい)人? ならいいよ

水無瀬 進 :
 実際凄まじいだろ 色々

ダン・レイリー :

ダン・レイリー :凄まじいな 忘れたくても忘れられんキャラをしている

アトラ :う……ウチも見習おうかな 見習えるところあるかなこれ

水無瀬 進 :
        サ イ テ ッ ク
『けど、君の専門精神技術の方だったろ確か。
 どして今日現場まで来てるんだ? 人材不足?』

ダン・レイリー :腕を組む。言われてみればそうだが…。

ダン・レイリー :「こちらで見つけた、件の波長の鑑識結果………だけではなさそうだな」

アトラ :
「……あれ。ホントだ。確かに話が合わないように思うけど、……」

 特に理由がない、はずもないだろうし。

“ファンシービビッド”アダマス :
「ああ、うん。
 いつものミリアのじゃじゃ馬を心配したのもあるんだけど、ちゃんと本職のこともあってサ」

“ファンシービビッド”アダマス :
    ・・・・・・・
「ここのくっさいニオイを嗅ぎ当てにね。
       エ ン パ ス
 ぼくったら、共感能力の精神技術者だろ?」

ダン・レイリー :
「………そいつで此処の………。
 ジ ャ ー ム
 ブラックモアの落とし物を掴もうというわけか」

ダン・レイリー :
「能力で見て適任だが、聊か危ない橋だな。
 その最悪なニオイというやつで鼻が曲がるのは必要経費にする気なのか?」

水無瀬 進 :
『ああ……なるほどね』

水無瀬 進 :
               シナスタジア
『場所に残った情報に関しても、共感覚的に掴み取れる。適任と言えば適任かもだ。
 ……それに大尉殿、あんまり本職を見くびらない方がいい』

水無瀬 進 :
『これは腕以上に太鼓判を押してるが、彼はすごーーーーーーーーーくメンタル強いから。
 細腕細足だが、健全な精神は健全じゃない肉体にだって宿るもんさ』

“ファンシービビッド”アダマス :「美人厚命っていうだろ?」いわない。

アトラ :「いうんすか?!」

ダン・レイリー :「薄命だが…」

ダン・レイリー :
.      プロ
「とはいえ、専門家同士の太鼓判かい。
 おまえがそうでは、確かに信じないわけにはいかないし。今のも、無礼だったようだ」

“ファンシービビッド”アダマス :
「い〜の、い〜の。
 そう思われるってことは、ぼくが深窓の令嬢も裸足で逃げ出すぐらい可憐だからでしょ? 褒めことばサ」

ダン・レイリー :…確かに逞しいな…メンタリティが…

アトラ :「確かに強いっすね……確かに……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「それにブラックモアは元々、ソビエトの人間ですからね。先生は黒禽旅団の活動の痕跡を調査したこともあると伺っています」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「先生からなら、ブラックモアの能力について、何かしらの知見が得られるのではないかと思いまして」

ダン・レイリー :「………ヤツについても、ヤツの在り方にも、初見ではない、ということか」 成程、と頷く。

ダン・レイリー :「であるなら、此方からもお願いしたい。………“どういうヤツか”が見当もつかないわけじゃないが、“どういうカラクリか”は門外漢だ。ない袖は振れん」

アトラ :ふんふん、と頷いておく。専門知識的なことは分からないが、最低でも彼……の土俵であることに違いはないようだし。

“ファンシービビッド”アダマス :
「末端追いかけて、小競り合いしたぐらいだけど。
 ベルリン支部って、土地柄あそこのお国とよ〜くかち合うんだよね。わかるだろ?」

ダン・レイリー :
「なんとなくは、な」

 第二次大戦からこっちの腐れ縁。
     ウィアードエイジ
 あるいは奇妙な時代の名残ってとこか。

“ファンシービビッド”アダマス :
「たぶん、いま考えたやつがアタリ。
 ぼくのそういう事情はともかく、ちょっとばかり心当たりがあってね」

“ファンシービビッド”アダマス :
「で、今回の話と“ブラックモア”って名前を聞いて、
 さっきまでこのあたりドライブしてたの。

        ・・・・・・                 ・・・
 嗅いだことある悪意のニオイと、このへんにずうっと立ち込めてる黒い色を追っかけてね」

“ファンシービビッド”アダマス :
 眼鏡をずらした麗人の瞳が、艶やかに紅く色を変える。
 七色の視界であたりを見渡して、嫌そうに目を眇めた。

ダン・レイリー :
 ・・
「悪意か」

 言い得て妙だ。
 ブラックモアのそれは、喜悦と飢えにも似た、死人の引き摺り込むような悪意。
 本職が言えばまた見解は異なるんだろうが………。

「死に方を忘れた死人の群れみたいなもんだ。数える程度の邂逅ですら、そう感じた…」

ダン・レイリー :「………だが“黒い色”と来たか」

アトラ :
「……悪意のニオイに、黒い色っすか。既にイヤっすね……」

 思わず、倣うように周りを見て匂いを追うように目を動かしてみる。
 自分にそういった能力はないので特に意味はない。

“ファンシービビッド”アダマス :
「でしょ?
 鴉の濡れ羽色ってきれいだけど、こんなじゃあなあ。
 泥まみれ、煤まみれ……生き物臭くって、鉄臭い」

“ファンシービビッド”アダマス :
 その場にしゃがみこんで、彼にしか見えない色を白魚の指で掬う。
 舐め取るようなしぐさをして、不快感を示すみたいに舌を出した。

“ファンシービビッド”アダマス :
 ・・・・・・・・
「朽ちた血のにおいがする」 

“ファンシービビッド”アダマス :
「あいつ、たぶん従者使いだよ。
 血で誰かにとりついて、情報を上書きする。そうして、兵隊をつくってる」

ダン・レイリー :
 言い換えれば、それは戦争の臭い。

 炎と、血と、諸々が。
 しみついて取れなくなったような臭い。

 ………だが彼の言うことはそれだけじゃない。そういう、メンタルやパーソナリティの話だけに限らない。

ダン・レイリー :
「“ブラム=ストーカー”………」

「兵隊の死後の不可解な動きも、
 突如として現れることも、カラクリはそこか…」

アトラ :
「……聞いたり、見たりしたことはあったか覚えてないけど。
 そういう使い方も出来るヒトがいるっていうのは何か分かるっす」

“ファンシービビッド”アダマス :「イエス。兵隊連中に自我があるのは、理由はどうあれ彼がそうやってイメージしているからだろ」

“ファンシービビッド”アダマス :
「あれだけの数の従者を自我ごと抱えてるやつだ。
 トレースはそんなに簡単じゃなかったけど……食った痕がこれだけあれば、なんとか読み取れる」

ダン・レイリー :「………死にゆく兵士たちの自我………」

ダン・レイリー :
 口を出た推測。
 従者一つ一つにそのようなイメージを持つほどの記憶。
 ………奴の求めるもの。推測は容易だが、それは事実とイコールでもない。

 だが、ひとつひとつのピースが揃う音が、この“ファンシービビッド”の語り口から聞こえる気がしてならない。

“ファンシービビッド”アダマス :
「たぶんそう。
 少しずつ光り方が違うのは、それだけの人間の記憶を抱え込んでいたからかな。色が混ざって混ざってできた、混色の黒だ」

“ファンシービビッド”アダマス :
「やつが飛ばす鴉が、その因子を凝らせたものなんだろうね。
 それで人喰いをして、死んだ仲間に生きた肉体を乗っ取らせるって寸法だ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……鴉。
 いえ、鳥類は古くから、命を、魂を運ぶものとして伝えられてきました。そう言う象徴として場所や時代を問わずに」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「けど、それじゃ寧ろ黒死の菌で死を運ぶ死体漁りの猛禽。
 ウイルスと大差ない……戦争という名の伝染病と化した、ということですか」

“ファンシービビッド”アダマス :
 ブラックモア
「"尽き喰む死禽"──名前のとおりだろ?」

ダン・レイリー :
 戦争と言う名の、伝染病。
 全てを灼いて止まらない黒い鳥。
                     ゴースト
 ………二度とない死を求めて彷徨う、戦場の亡霊。 

ダン・レイリー :
「………旅団の正体などは、なんてことない。
 彼方で言うワルプルギスでもないのに境界線を飛び越える死肉漁り。
 仲間を探して膨れ上がる、猛禽の群れか」

ダン・レイリー :ならば、あの時の求めていたものも…。

ダン・レイリー :天刑府君がともにいる理由も…察しは付く。

ダン・レイリー :
「………戦場でしか生きられないのではない。
 もはや戦場そのものになってしまった兵士たちか。なんと、まあ」

アトラ :
「…… ……」

 死を運ぶ、死体を喰らう猛禽。ウイルスと大差ない、戦争という名の伝染病。
 それを、自分からやっている存在が“ブラックモア”か。……死を広げるような行為を、病めいて。
 気持ちのいい話じゃない。“病”持ちとしても、普通の感性としても。

“ファンシービビッド”アダマス :
「自分の中に保存した『仲間』を憑依させる、人食いからす。
 だけど大事なのは、あくまで母体は“ブラックモア”ってことだ」

“ファンシービビッド”アダマス :「本当にカミンスキー旅団が蘇ったわけじゃない。……ま、それが厄介なんだけどな」

ダン・レイリー :
「………蘇った?
 その言い方では、まるで───」

ダン・レイリー :「いや、やはりというべきなのか?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。カミンスキー旅団……元は、ナチスドイツ時代の武装親衛隊をもじって、当時のソビエトで編成された部隊でした。
 尤も、この時点では今のような超人兵団ではなかった」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ソビエトが失われたナチスの技術を継承していたとしても、三千人ものオーヴァードの兵士を、しかもここまで練度の高い舞台を統率するような諸行は到底出来なかった。
 万が一出来ていたとしても、それだけの武力があれば国家転覆さえ容易でしょう。まず管理下に置けない」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「今のカミンスキー旅団は、甦りによって超人の部隊として編成されたもの、というと良いのかも。
 ブラックモアによって保存された情報……それにより複製された、いわばクローン兵士の群れ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「本当によみがえった訳ではありません。
 だからこそ、厄介です。
 自我が残っているとしても、従者である限り無意識的に使い手の意思に沿った行動を取る。
 同じではないが故に、オーヴァードとしての性能を十全に遣い、生前の判断力を柔軟に行使できる」

“ファンシービビッド”アダマス :「一定の自律行動ができる、とっても便利なお人形さんだ。……ぼくの感じ取ったものが正しければ、多少は心も残ってる」

“ファンシービビッド”アダマス :
「カタログに載ってる絵を想像して。
 彼が選んだものを、人間ってプリンターに印刷して、代わりは何度でもつくれる」

ダン・レイリー :
「………印刷する道具がある限り。
 そいつの保存した情報がある限り、いくらでも蘇る」

 戦場に出て、戦って、死んで。
      ・・・・・・
 それすらもかりそめの死となる。

ダン・レイリー :
「あんな兵団が今の今まで国家に脅威視されない理由も、“ジューダス・マカービアス”の説明で分かった。
 だろうなと、腑には落ちる」

 四十人にさえそのリスクを考えた事例があったのだ、という事実は、おくびにも出さない。

アトラ :
「……生きてたけど、もう、そうじゃない。
 “ブラックモア”が元気な限り、そのヒトたちにとっても終わりがないんすね。
 そう言う風に使われる命、心が残ってるんだとしても……生きてるとは言いたくはないっす……」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「死に飢えて、死を喰らう、貪食の鴉……
 心を残したのは、或いはブラックモアの能力上の制約なのでしょうか。それか……」

“ファンシービビッド”アダマス :「……………」

“ファンシービビッド”アダマス :
「心当たりはあるけど、決め手はないかナ。
     しって
 ぼくが共感しているのは、血の香りに、彼のものじゃない、たくさんの『死なせてくれ』が混ざってたこと」

回想する、曰く… :

 飢えて渇いて手を伸ばし、ぶつかり合う
         ・・・・・・・・・
 その束の間だけ、俺達は自由に成れる

ダン・レイリー :
「二度とない死を求めているのは、
 ヤツ本人かと思っていたが………」

ダン・レイリー :
「どうだろうな。
 少なくとも貴方がそう感じたのであれば、“死なせてくれ”はいなくなった兵士たちのものなんだろう」

ダン・レイリー :
「制約だとしたら、それこそ“そちらの方が強くなる”から…だと考えるよ」
    ・・・・・
 尤も、だとしたらの話だが。

アトラ :
「…… ……」

 死を願う気持ちも分かる。今聞いた、くだんの兵士たちに残された心を思えば余計に。
 共感……は、出来ないけど。ウチは逆だし。

アトラ :
「…… ……なんもない操り人形な状態より、そういう意思があった方が戦えるってことも確かにありそうっすね。
 なんというか、そういう意思の力ってバカにも出来ないし。そもそも御本人のチカラ使うんなら要りそうだし」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「だとすると……考えたくないこともあります」

ダン・レイリー :「…考えたくないこと、か」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……従者の特性を考えると、本来なら本体が死すと同時に消滅する筈。
 けれどこれは、他者の血を遣い、恐らくは遺伝子情報を利用して人格を成型している。加えて、あの生命吸収能力……」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「つまり燃料の現地調達と、細かく分断された指揮系統で動いている。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・
 製造元のブラックモアを斃しただけでは、生成された従者たちは止まらない」

ダン・レイリー :
「新規の製造を止めることは出来ても、
 既に動き始めた個体には、本体が斃されても尚動く燃料が積まれている…」

ダン・レイリー :
「縦型ではなく横型か。
 確かに考え得る話だ」

「現地調達が可能なら、そのイレギュラーな形態の従者は新規の製造さえ独自にこなすこともあるかもしれんが、それは更に考えたくないことだな」

アトラ :「……うそぉ」

“ファンシービビッド”アダマス :「悲観視しとくのはいいことだね。ぼくらの知ってる限り、だれもブラックモアを殺せてないんだからわかりっこないしな」

ダン・レイリー :「ひどいシュレディンガーの猫箱があったものだ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ただその分、精製までに時間が必要であること。
 そして弾数に限界はあると予想します」
 ぴ、と指を立てて

アトラ :「!」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :       プリント
「先の譬えでは印刷という表現を先生は使われましたが、これまでの能力の使われ方を考えると寄生が近い。
 その証拠に宿主が死んだ折、その周囲の生命力を収奪し、それをエンジンとして血狂いの鴉が羽搏いていた」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「恐らく遺伝情報を書き換える血の鴉は何度も回収しているのではないでしょうか。
 膨大であるにせよ、数が限られている。恐らくカミンスキー旅団総勢三千人を超えるだけの複製は難しいと思います。
 同様に鼠算形式で増えることも」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「帰巣本能が強い。これも烏の特徴ですしね」

ダン・レイリー :
「あくまでも保存している情報で上書きと複製を行い、それ自体は一つ一つ違う分、同じ遺伝情報の兵士を並べることは出来ない………」

ダン・レイリー :
「………加えて言うならヤツの鳥は確かにどれも飛び去った。
 あれは死に土産の爆弾であると同時に、元となる情報を持ち帰るための緊急脱出装置だってワケだ」

“ファンシービビッド”アダマス :
「なるほどねぇ」
 顎に人差し指をあてて、首をことりと傾げる。

“ファンシービビッド”アダマス :
「そう聞くと、ぼくは『旅団の体をなすために』そうしてる感じがしちゃうな。
 物理的に不可能であるっていうこともそうだけど」

“ファンシービビッド”アダマス :「都合がいいからで三千人の人格を内側に収めるなんて、イカれてたって簡単じゃないぜ。人間ひとりでも手いっぱいだってのに」

アトラ :
「お、……おぉ……?
 確かに冷静に考えたら…… ……」

ダン・レイリー :
「文字通り、手が回らんだろうな。
 ヤツの頭が相応にキレるのは理解るが、そういうのが出来るタイプのシンドロームには恵まれていないはずだ」

ダン・レイリー :
 一人の面倒を一人が見るのだけでも簡単じゃないのに、三千人の面倒と戦略まで考えたら、それはスパコンの頭脳も真っ青だ。
 そういう話だって言うなら頷ける。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「だからこそ、あくまでクローン……遺伝子情報の書き換えによって作られる『種』を生成するにとどまっているのかも。
 それでも十分すぎる程、常軌を逸してるけれど」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「それに『都合がいい』ではないとするなら。
 多分『そうしなくちゃいけない』のかもです」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ジャームには、たまにいますよね。
 そういう執着がある故に、そういう能力を獲得する例。

 出来る、出来ないでなく、執着が『出来る』ようにしてしまえるパターン」

 所謂、イグゾーストロイスがそれだ

ダン・レイリー :
「………ああ。経験上だが存在する。

 成れの果てが、成れ果てる前の願望に沿った、前例もシンドロームごとの一定の法則性も無視したようなのを引き起こす例………」

ダン・レイリー :
「”出来るようにしてしまえる”か。
 確かにその形態こそが、ヤツの欲望のカタチならば、そうした不便さも含めて不可逆だ」

アトラ :
「うぇ~……」

 その手の経験値は浅い身だから、知った顔で頷くのは難しい、が。
 執着が生む、力の獲得。そりゃ、望むもんに近いカタチにもなるんだろう。良くない。

“ファンシービビッド”アダマス :
   エグゾースト
「衝動の排気。
 彼にとってのそれは、三千人を収めるアバドンの胎ってハナシか」

ダン・レイリー :「底なしどころか底の抜けた、飢えた顎………か」

ダン・レイリー :歪んだ執着の先が戦争にあるのか、旅団にあるのかは分からぬ話だし、気にしても仕方のないことだが。それも含めてあのメリットと思えば何ら不自然な話ではないだろう。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。そして、あまり仮説に仮説を積み上げることはしたくありませんが……以上のことから考えられることもある」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「維持費用は無視できても生成には時間とコストがかかること。戦闘の折、都度回収する必要を考えると……必ず大型の拠点を構えている筈。
    アバドン
 丁度、奈落王が深淵の中で、蝗害の軍勢を育てるように」
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ブラックモアとの決戦は、その基地を強襲する形になるかと」

アトラ :
「おぉ……カチコミ。
 確かにあんまりいい予感もしないけども……」

ダン・レイリー :
「仮説と前置きしても妥当な予測だ。
 ルイジアナはただでさえ、ずいぶん昔からFHの手が伸びていたらしい地域で………。
 ヤツは狂人かも知れないが、それでも『戦場で生きて来た』狂人だ。そうなら、もう迎撃の準備は完了しているだろう」

ダン・レイリー :
 ………兵站を確保し、戦力のアテがあり。
 そもそも時間が味方するのであれば、新米の兵士でも気さえ逸らなければソレをできる。

「生命収奪は件のカラクリを抜きにしても、事実として脅威になる。
 それすら込みで罠の可能性もある───が」

ダン・レイリー :「それだけでも事実だと分かれば、遺憾ながら”そのまま踏み抜く”以外の選択肢はないだろうね」

“ファンシービビッド”アダマス :
 虎穴に入らずんば虎子を得ず
「“Nothing ventured, nothing gained. ”ってやつだろ?」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「ですね。問題は、その場所について」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「少なくともルイジアナのどこかに、死の鴉の巣箱がある筈。この街にはFHの拠点と思しきポイントが多く設置されていますが、どこが血鴉の苗床なのか……。
 次は、その調査から入るべきでしょう」

“ファンシービビッド”アダマス :「さすがにここほれアダマスちゃんはできませんでした。ゴメンネ」

アトラ :「いやいや~ここまでの分でも十分すげ~っす。アダマスちゃん先生」

ダン・レイリー :
「ヤツらだって、仮に虎穴だとしても“ここが自分たちの巣穴ですよ”とアピールすることはない。
 精神的な危険は無縁でも、物理的な危険を踏み越えるのは此方の仕事だな」

ダン・レイリー :
「………奴らの巣箱、か………」

 しかし、流石に心当たりがあると言うことはなかったわけだ。
 一朝一夕で見つかるような仕掛けはしていまいが、さて。

アトラ :
「…… ……いやホント。分かり易かったら分かり易かったで滅茶苦茶怪しいっすもんね。
 虱潰し~とか言ってたら時間足りなさそうだし……」

“ファンシービビッド”アダマス :「向こうは長期戦のほうが有利だもんね? う〜ん、むずかしい局面だ」

ダン・レイリー :
「一人潰しても彼方には替えがあり、消耗戦となっては分が悪すぎる。
 ………そして困ったことに、そんなことは彼方も分かっている」

ダン・レイリー :
「そもそもジャームなどというのは、こっちが苦心して調べ上げて来たオーヴァードとシンドロームの基底を、躊躇いなく、容易く、ブチ壊してくるやつらばかりだ。
 ここはまだ何も断定できん。方針が見つかった分を前進と呼ぶべきだろう」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はい。……ポジティブに考えれば、今は他の懸念を潰し終えた後。
 全戦力をニューオーリンズ攻略に向けて注ぐことが出来ます」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「叶うなら電撃戦にて、一気に叩きたい所です。
 リミット
 期限まで、残す所あと二週間。それまでに抑えることができるかどうかで、大攻勢の趨勢が決まる」

SYSTEM :
【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :【概念:ブラックモアの能力】
エフェクト『鮮赤の牙』『従者の目覚め』
Eロイス『アバドンの顎』
                              マーダーオブクロウ
 ブラックモアの有するオーヴァードの特性、星明かりすら喰らう凶鳥の曇天。
 血液を媒介とした従者創造に長けた能力で、わけても彼のそれは『自身の作り出した闇の中を苗床に、記録した遺伝情報を複製』するというもの
 ブラックモアは自らの体内に、かつて死した自分の同胞の因子を吸収しており、これを基として『因子情報を記録した生物』を生成できる。
 これらは血の鴉として形作られ、非オーヴァードを啄むことにより対象に自身の遺伝情報で上書きし、リザレクトを強制的に適用させることにより肉体と症状を記録された情報に書き換える。
 遺伝子を書き換えられた対象は生前の自我を残したまま戦場に馳せ参じ、死した折に周囲の生命力を吸収して自らの影に還元されるという。
 
 オルクスであれば領域内部の生物を操るものだが、これは領域外で活動できる従者を作り続ける能力となる。
 そのため作成に時間が掛かる反面、本体の死に連動して連座で全滅することもない独立した個として稼働し続ける。
 此度の作戦において、ブラックモアはこれを時間をかけて三千人に対して撃つことにより、かつて朽ちた筈のオーヴァード旅団を再結成することに成功していた。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「大尉の仰るように、指針が決まったのは大きいですね。後は"ラフメタル"や、ブルーの戦線で事が巧く運べば……」

ダン・レイリー :
「プランを設定したなら、後はやるだけだ。
 段取りよく行きたいところだな」

 成否の心配はそこまでしていない。
 ショウ───“ラフメタル”も、“炎神の士師”も、するべきをしくじることは己に掛けてしないだろう。
 そして“雷霆精”も。

 ………そしてそこまでが、ある種のタイムリミットでもあった。
 口にはしないが、恐らく己がするべきことの一つについて。

アトラ :
「……うんうん。潜伏してたって表立って戦力が削がれりゃノーリアクションでは居られないかもしれないし。
 何より言う通り、他の心配事が無ければ無いだけいいっすから」

 とは言え、刻限を気にしなくてはならないのもその通り。
 時間切れは即ち、敗北───だけじゃない。色んな命が掛かってるし。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「先生もお疲れさまでした!
 一仕事終えたところですし、今日は何処か美味しいレストランを紹介しますよ!」

“ファンシービビッド”アダマス :
「やった、ありがとう♡
 ぼくったら前線行きの指示は受けてないから、このままお留守番組だし」

“ファンシービビッド”アダマス :
「あ、きつそうだったら遊びに来てね。
 やさしいセラピーしたげるから。お代はミリアのレストラン情報でいいよん」

“ファンシービビッド”アダマス :欲を言うなら仕事後のデート権もゆずってもらおうか

ダン・レイリー :既にスタートから欲だったと思わんか? 思わんようだな

ダン・レイリー :まあさておき…

アトラ :デートですって奥さん 誰だろう奥さん

ダン・レイリー :
「気遣いを受け取るよ。しかし、“しんどい”を口にすれば殴られる職場でね。
 そいつを恃むのはどちらかというと年下のティーンたちだと思っておいてくれ」

 そして今回の御代がわりに仕事後のデートとやらも楽しんでやってくれ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「んふふふふふふふふふふふふふふ」
 満更でもない顔

アトラ :(大丈夫そう???)

“ファンシービビッド”アダマス :そりゃあもう ひとりずつ

“ファンシービビッド”アダマス :ちゃんと頭のてっぺんからつま先まできれいにしてあげるからね

アトラ :ひえ~……

ダン・レイリー :フィクションの魔王かなにかめいた言い方だ

ダン・レイリー :そしていいのか“ジューダス・マカービアス”のこの反応は どうなんだ 後でバディに聞かせてはダメかこの反応

アトラ :おもろそうだし良いんじゃないすか?

アトラ :いやまあウチ ウチはそういうキレーどころとか方法とかさっぱりなんで……愛嬌だけで切り抜けてきたんで……

“ファンシービビッド”アダマス :大丈夫♡やさしくするよ♡美しき罪人でも味わえない世界を見せてあげるから♡

SYSTEM :
 ……かくして敵の正体を探り、その実態へと迫ることに成功した。
 一仕事終えて、一同は歓談を交えながらその場を去る。

SYSTEM :
 ……連絡橋が矢庭に激震を起こしたのは、まさにそれと同時のことだ。
 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……! いけない、長居し過ぎた……!」

 その場の全員が察したのは、大橋の遠方。弾かれるようにミリアはそちらの方面へ顔を向けた。
 視線の先には、ミシシッピ川の海中を遡行する約40ノットの大型機影。姿こそ見えないが、感覚を研ぎ澄ませることの出来る症状を持つならば知覚が可能だろう。

SYSTEM :
                                  サ イ フレーム
 その速力と、可動部から発されるエネルギーは、事前調査で確認した新型機甲猟兵に相違ない。
 

ダン・レイリー :
 サイフレーム
「機甲猟兵か………!
 配置していたとて何ら不思議ではない───」

 すぐに意識を切り替える。
 ヤツが囮の可能性も踏まえて、偏差状況を把握───同時にその矛先を、エンジェルハイロゥ・シンドロームの五感で以て察知せんと試みる。

“ファンシービビッド”アダマス :「うわ……っ、来てる来てる!」

“ファンシービビッド”アダマス :
     ・・・
「すっごく黄色いなあ!? これ、もしかしなくても──」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「っ、ワーディング展開します!」

 ミリアは既に遁走の選択肢を消して、民間人への被害を抑えるべくワーディングを生成する。
 この距離では接敵は避けられないと踏んでのことだろう。

アトラ :
「ちょっ…… ……ちょいちょいちょい……」 

 やや遅れる形で顔を音の側へ向け。
 ……いやしかし、現状驚く以外に自分が出来ることはない。ぐ、っと得物を寄せておく。

SYSTEM :
 接近する機影。ダン・レイリーがその五感で以て、迫る機体の操縦席を注視すると……

SYSTEM :
 その視線と交差するように。
 殺意に飢えた赤き双眸がその視線と交わるのを感じ取った。
 それはまさに、朽ち果てた荒野にて死した屍を啄む鴉のような。

????? :
「──ああ、そうさ、俺だよ小僧ォ」

SYSTEM :
 肉薄する敵影。
 その距離がまさに100mまで近づいた折、機体は飛び跳ねるようにしてミシシッピ川より打ち放たれた

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :
 大橋の上に二足で着地し、高みから見下ろすようにしてそれは一同の目前に姿を晒した。
 ……警戒する一同に対し、しかし交戦に入るまでもなく、それは重々しい駆動音を立ててハッチを開き始める。

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :
 その奥。
 握っていた操縦桿を手放し、荒々しい手つきで赤髪をかき上げて身を乗り出す長身を、ダン・レイリーは古い記憶で知っていた。

????? :
「巻き添えが何人かいるな。
 まあ、いいさ
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 この世の闘争に無関係な奴なんぞいねえ。
 世界は誰もが、時代の当事者なんだからなァ」

ダン・レイリー :
 ───知っている声を聴くのは三度目だ。

 至極当然の理屈と、それを抜きにした“嫌な予感”の去来が現実になったことに、鋭い視線が向く。
        アイテ
 銃を向けた先の兵士であることしか知ることは出来ず、知ることは恐らくないと考えていたような男の声。 

ダン・レイリー :
「………来たかよ───」

 死なず/死ねずの男どもの長。
 いずれ腐って消えて欲しい、腐れ縁の一つの、目に映るものが概ね楽しくてしょうがないみたいな宣誓を、俺は耳にしていた。

 尽き喰む死禽
「ブラックモア───」

SYSTEM :
 血塗られた拷問台、有刺鉄線、政治家を火葬する薪。
 無辜なる者はナパームの炎に犯され消えていく。
 

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
         21st Century Schizoid Man
 それは、まさに二 十 一 世 紀 の 狂 人の姿。

 カミンスキー旅団長、シャンバラの実質的リーダー。
 戦争狂、ヴォルフ・カミンスキーに他ならなかった。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「あァ、来たぜ。新時代の前夜祭だ。
 俺なりの流儀で、歓迎しに来たのさ」

ダン・レイリー :

 何をしに来た───愚問。
 歓迎しに来た───愚答。 

ダン・レイリー :
 数年来の友人のところに出向くような気軽さ。
 ちょっと会いに来ました、をするための乗り物にはあまりにも物騒で不適格な鋼の猟兵。
 だがそいつとて、血と硝煙が香水代わりの飢えた獣にはちょっとしたタクシー気分なのだろう。

ダン・レイリー :
「満を持して、か。
 ずいぶん行儀悪く我慢してくれたものだ」

 驚きすぎることはない。
 すぐに臨戦態勢に入ったのは意識と身体の両方、得物に手を掛けるのもすぐだ。

 とは、いえ。
 ワーディングの範囲で逃れたのは一般人であり、ここでの遭遇は単純な想定範囲の中の最悪。
 
 こいつが“やる気”なら、想像したくないが対応の展開は一つ………。

“ファンシービビッド”アダマス :
「もー……っ、なんだこの状況!
 彼、キャプテンのことそんなに大好きだったワケ!?」

アトラ :
「じゃっ…… ……じゃあ、あれが!?
 ちょっとちょっと、自分とこの住処だからって派手に出て来すぎじゃない!?」

 御本人もさることながら、その乗り物だって立派な鉄塊だ。
 ……というか、そんなものと一緒に出てくるなんて……もしかして一触即発?

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「先生、下がって。
 交戦となった場合、退路は私が」

 警戒するように、懐の拳銃に意識を向けながら。敵意の籠った視線をブラックモアから離さずに一歩前へ

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「カッハハハハハハ、そう力むなや。
 折角わざわざ赴いてやったんだぜ? 俺の経験上、こういう機会は結構稀だ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「人と人が殺し合うんだ。相互理解は深い方がイイと思うがねぇ。
 ま、それだけのためにわざわざツラ晒したワケじゃねえんだが……」

ダン・レイリー :
 ふん、と軽く鼻を鳴らす。

 死に損なったのは此方だ。
 銃を向けた相手同士が再び巡り合う機会など、基本フィクションにしかない。
 その点で言えば貴重だろうし、そもそもそれ以外の面から見てもそうだ。

 殺し合う人間が、いったん手を止めて相互に面合わせなど、そんな無駄は少数派だろう。

ダン・レイリー :
「抜かせ。殺し合う前提の相互理解など、概ねは一方的な気分のお膳立てだ。
 よくも言ったよ“ブラックモア”───」

ダン・レイリー :
「それで何だ。
 何時ぞやから気が変わって今更の宣戦布告か?」

 あるいは歓迎会の招待状でも贈りに来たか。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「はン、んなまどろっこしいことするかよ。
 手前の面見てから、こいつは聞いておきたかったんだよ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「おまえ──満足か?」

ダン・レイリー :「───。何?」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
 一歩乗り出して、男は語る。哄笑を上げながら。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
「人を殺すのに人の命令でやらされてんの、それ自体が不服とは思わねェかって聞いてンだよ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「順序が逆だろう。責務を果たすために殺すなんてのは。
 殺すための責務を果たす。それが本来あるべきカタチだと思うぜ?

 命と向き合うってのはそういうことと俺は思う訳だ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「自由の値段も死の価値も、もっと純粋であるべきだろ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「……手前、いつまでいいように遣われてる気だ?
 命令に疑いを持たないなんてのは、戦士としては三流だ。あの地獄を生き抜いた手前に限って、それはありえねェだろ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「だからよ、そろそろ自然な形に戻そうぜ。
 新しい時代と共に」

ダン・レイリー :

 呆れた話だ。
 それは短絡的かつ乱暴な目的を果たす最終手段であり、
 こいつのそれは手段そのものを目的だと主張するのに等しい。

 ただ一つだけ、意味を言い換えるならば。
 こいつの話に、もしも意味なんてものを見出そうと思うならば………。 
 ・・
 それを全く流してやるつもりもなかった。 

ダン・レイリー :
 一度そいつが言葉を吐き出し切るのを聞いてやってから、僕は嘆息一つと共に言葉を発する。

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・・・・
「おまえも兵士だったのにそれを聞くか?
 とりあえず、これで最初の愚問はイーブンだ」

ダン・レイリー :
「おまえ自身のそれは、おまえに戦争を命令する人間はおまえ以外の何物でもあってはならないってことだろうが………。

 滅茶苦茶を言っている自覚がないようだから、とりあえず此方への疑問だけ解答してやる」

ダン・レイリー :
 いつまで使われている気だ。
 なぜ生きている。

 その解答は言い分こそ違うが、
 けっきょく回答の内容は同じ。

ダン・レイリー :
「それが誰の命令においても、僕が尽くすベストは変わらないということだ。
 おまえがおまえに命令してそうするようにな」

 YESであっても決定的NOだった。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「カハッ」

 その回答、確かにそれを認めつつ、明確に退ける回答。
 それを受けた死禽は喜ばしげに嗤笑する。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「いいな、それはいい。
 ふてくされたタマなし小僧をブチ抜くよりかは余程いい!
 手前が望むなら、こっちに引き入れてやっても良かったが……そんなこと抜かしたらよおまえ、もう後腐れなくぶつかるしかねぇだろ!
 ハ、ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
 

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
 男の望むものは闘争。
 そしてそれは敵と味方に腑分けされる。
 ──彼にとって、味方も敵もどうでもよい。
 目の前で接した相手の立場に過ぎない。だから笑いながら歓迎し、片や嗤いながら撃ち殺す。
 そういうことが出来る。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「安心したぜ。少なくとも手前、戦士としての自覚ぐらいは出来てるみてぇだな。
 兵士と戦士は両立しうる。つうか、大抵の奴らはそうだった。ありきたりだが、普遍的な形だ。だが……」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
 ・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺にはそいつを選ぶ権利がなかった。
 俺ぁ生まれつきそういう立場だったからな」

 特に気負う様子もなく、新兵に教訓を語り聞かせるような壮年の兵士のように、男は語り始める

ダン・レイリー :「………」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……兵士としての人生を強要された、ね。
 ・・・・・・
 少年兵上がりね、あなた」

 怜悧な目で、警戒心と嫌悪感を露わにして睨み据える。

ダン・レイリー :
「それ以外の選択肢も自由もなく………。
        ・・・・・・
 ただ戦場でだけ自由になれた」

ダン・レイリー :
 最初からそれしか知らないならば、どれだけ選択肢があるのかの認識もない。

 ましてや、そこから脱した違う生き方を択ぶ発想がない。平和に馴染めなくなるとかそれ以前の話だ。コイツは、確かに───。

ダン・レイリー :
「飛び続けたか。
 その延長線を」

 生まれながらの兵士だった男は、そのまま生まれながらの戦士になり、飛び続けていた。

 死を運ぶ黒い鳥。
 戦場の全てを知りながら、そこ以外の環境に適応し得ない、血と硝煙の鳥籠の中の鳥。格差が、敵意が、諸々何もかもの間の悪さが生んだ魔物だ。

 そんなことは負い目にさえも思わぬ声色は、そういうところまで飛び立った者の証だ。

アトラ :
「…… ……何それ、……」

 ……彼が何を言っているのかは分からないし、分かるべきでもないのだろうが。
 素直な気持ちだけ漏れる。

“ファンシービビッド”アダマス :「……」

“ファンシービビッド”アダマス :
「近くに来てみたら、ますます反吐が出る臭いだ。生まれでナットク。
        ジユウ
 自分の為だけの戦場がそんなにほしいかい」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「ああ。大儀も名分もかなぐり捨てた民族紛争とか言われてる。東欧のどこぞの国のな。
 俺はその頃から兵隊やってんだよ。ああ、そん時ぁ意味も理由もなく命を賭けるだけのクソガキだったさ。ボンボンの元に生まれて勝ち組の国についてる手前に、ビンボーな国がどう餓鬼を遣うか想像できるか?」

ダン・レイリー :
「経験を伴わない想像しか出来ん以上、そこに大した意味はない。言葉にもしたくない。
 だが、それで………」

ダン・レイリー :
「地獄に居過ぎて、理由もなく戦う兵隊の少年が馬鹿らしくなったのか?」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「いいや? そう言うのはよ、意外と人に言われねえと判んねえもんだ。それ以外の選択肢を知らねえし、そういう発想を浮かびもしない。
 その辺り……そこのお嬢ちゃんも似たような覚えあるんじゃねえか?」
 
 ちら、とアトラにその赤くぎらつく目線を送る。薄々、その素性にもあたりをつけていたのだろう。

アトラ :「…… うぐ」 否定しない。武器の入った鞄を握る。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「だが……」

「性分だからかねぇ。周りの連中と比べて俺はちっとばかり往生際が悪かった」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「クソッタレな戦場。弾代わりに飛ばされ、弾除けに使われ。心底むかついたが、殺された奴がどうなるかは誰より見てきた。
 だから、すっかり負けん気が身に付いちまった」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「『死を懇願した時、勝負は決まる』。
 俺の同輩は只のクソガキのまま、最後にはそいつを祈ったが、俺はそうでもなかったわけだ」

ダン・レイリー :
「そうして生き延びた。いや、あるいは………」

 反骨心がそうした。
 目の前の敵に負けてやるものかという、新兵/餓鬼の絵空事が、どんな形にせよ、この男を活かしたのだろうという推測だけがあった。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「緩やかに吹き抜ける風が、炎を燃やし広げる。
 屍が腐っていくのを、朱い太陽の下でハゲタカはじっと待っている。
 ……死ねば鳥の餌、蟲の餌、惨めに消えてなくなるだけ。だから何でもしたさ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
     ・・・・・・・
「だから、似たようなこともした。
 嗚呼……思えばそれが始まりだったのかもしれねェ」

 どこか懐かしむような、昂然とした様子で男は、そう語る。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「…………!」

 それが……彼が言おうとした言葉の意味することに、ミリアは慄然とした。
 同時に、湧き出る嫌悪感に吐き気を抑えて。

“ファンシービビッド”アダマス :「────っ」

“ファンシービビッド”アダマス :
 ・・・
「食ったんだね……?」

アトラ :
「…… ……」

 嫌な顔は隠さない。だが、……そう。強く否定できる立場にはない。

ダン・レイリー :
「───。ただの、反骨心だけで」

 生き延びるため。
 死にたくない、負けたくない。
 その行き着く先、張り詰めた極限状態の心身が、容易く道を外したのだろうという想像が形になる。

 ───どれほど悍ましくとも、一つしかない選択肢のために生き足掻いた生物であり、結果だ。
 ・・・・・
 そんなことは承知の上だったのだろう。が。

ダン・レイリー :「………よもやと思ったが」 瞑目する。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
飢えて死ぬことを厭ったか、或いは先に諦めた人間に対して怒りがあったのか。
恐らくは両方だ。それが食べて問題ないか、保証も何もない。
極限状態、剥き出しの渇望と怒りが、それを駆り立てた。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
   ・・・・・・・・・・・・・
それもオーヴァードになる前のこと。
本当の意味でこの男は……覚醒する以前から『屍を啄むもの』だった。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「それがきっかけだったかそいつより前からそうだったのかは、よくわからねえが。
 よく言うよな? 何時の時代も、それを決められるのは『今を生きている人間だけ』だってな」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「それにどこの誰とも知れないハゲタカに食わせるのも。こんな場に追いやった奴等に使い潰されて終わるのも。
 不本意だよなァ。それじゃ戦士が浮かばれねェ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「だからこそ俺がそいつを継ぐのさ。
 俺はそういう奴等を、その後もそうしてきた。
 俺の命は、あいつらのおかげで繋がれてる。
 今や俺達は一つのマーダー・オブ・クロウってわけさ…」

“ファンシービビッド”アダマス :「……腹の中の三千人が、それかよ」

“ファンシービビッド”アダマス :
「気持ち悪……吐きそう。
        イ ロ        イロ
 君のぎらついた感情に纏わりついた血は、とてもそうは言ってませんけど」

“ファンシービビッド”アダマス :
「君にとってはそうじゃないんだろうね。……いやだな、鮮明になるとなおのこと気分悪くなってくる。
 君にとって、喰うことはトモダチの証なんだ」

ダン・レイリー :
            アバドン
「底抜けの胃袋を持った、奈落の王………」

 確かに僕は、コイツを少し量り間違えたようだ。

 こいつは確かに死に損なったし、それを切欠に戦おうとしたわけじゃない。
 ないが───。

ダン・レイリー :
「そうして兵士たちのミームを継ぎ………。
 いいや、喰らって育ったか。

 ふざけるんじゃあないぞ、“ブラックモア”。
 死人に口なしを地で行く気か」

アトラ :
「死にたくないから、好きにされたくないから、何でもやった……っていうのは、理解できる。
 分かるって言いたくないけど」

「……けど、それで継いだ気になってんのも、救ったみたいな顔してんのも……全然良くない」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……と言っても、訊き入れる気はないんでしょうけど」

 予め調べた知識に照らして、プロファイリングがより正確になっていく。少なくとも必要に迫られてそうした事実が後押しした面も考えれば、これもまた後天的な異常者の成れ果てと言うに相違ない。
 そして、そこまで固まった在り方を変えることはジャームで無くても難しい。絶対的な隔たりを感じずにはいられなかった。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「喰らうってのは、一番この世界で自然なことだ。
 友誼による精神の成長も。
 養分による肉体の成長も。
 継承による魂の成長も。
 すべて、喰うことで生まれる」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「だからこそ俺はあの地獄で生き抜くにつれて、こう思うようになってきた」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「緩やかに吹き抜ける風が、炎を燃やし広げる。
 屍が腐っていくのを、朱い太陽の下でハゲタカはじっと待っている。

 ──ありのままの世界は、思いのほかよく出来てる。
 美しい、闘争と死の世界だ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「俺はこの美しい、喰うか喰われるかの闘争の場所が。もっと広がればいいと思った」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「何かに従い、状況に流され、辛うじて生き永らえたクソガキが。
 初めて自分の欲を持った瞬間だよ。それは、今の俺にも引き継がれてる」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「……生き永らえたからこそ、そいつに気付かせてくれたのさ、旦那は。
 あの人は言った。『結局の所、おまえも自由になりたいんだろ』ってよ」

ダン・レイリー :「………“マスターテリオン”───」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「俺は自由になる場所を欲していた。或いは……
 俺の居場所が、俺の自由な意志で作られることを望んでいた」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「これは俺の戦争さ。
 俺の起こす戦争だ。労なく親が作ったシステムに乗っかるだけのブタ共が、金もうけのためにやる戦争じゃねえ。
 イデオロギーもない。大儀もない。純粋な他者への憎しみと生存競争の為に押し広げられる闘争の時代!」
 

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「そこで、俺達は朱い太陽を観よう。
 人が人を殺し、死んだ奴を烏が屍を啄む。そんな時代で、自由になろう」

ダン・レイリー :
 今更なにかを説いてやる道理もない。
 何故ならコイツはジャームだ。
 ・・・・・・・・・・・
 嵐と分かり合う術はない。
 これは経験則上のものであり、また徒労だ。これは結局内側への言葉だという認識が、少なからず己の戦争の中で積み重なって来た。 

ダン・レイリー :
 然るに俺の言葉もまた、
 俺自身に向ける言葉だ。

 自由を謳う男の刻んだ世界の痕跡に対して、
 自らが決定するべき選択は一つ。

ダン・レイリー :
 ・
「俺は貴様のように………。
 生まれてから戦争をするしかなかった人間じゃない。その地獄も想像しか出来ない」

「だが貴様のように………。
 銃を執ることの意味を教わらず育ってきた人間じゃない」

ダン・レイリー :
            Bullshit
 ………命令と思惑の中に悪態の一つも吐いてやりたかったことも。零じゃない。むしろ、多い。 

ダン・レイリー :
 何もかも投げ出してやろうと、自由になってやろうと。
 恰好を付けて、最期を気取ろうとしたことだってある。

 しかし、だ。
 同じように自らに命令して戦争を始めた/再開した人間同士であるならば、そうである以上は取るべき選択がある。

ダン・レイリー :
「人が人を殺す仕事をやるような軍人は皆、自由という言葉を自由だけにしなかった。

 ………はじめに頓珍漢を言わなくて良かったよ、“ブラックモア”」

ダン・レイリー :
       ・・・・・
「貴様はやはりテロリストだ。

 テロリストと交渉も是非の議論もしない。
 意見が一致した。戦争を教えてやる」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「──カッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
 よく抜かした小僧ォ! そうこなくっちゃなァ!!」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「俺はこの時代を広げ、俺の生存圏を押し広げる。
 コイツは生存競争、原始的な闘争だ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「巻き添えなんぞ知ったことかよ。
 戦争に無関係な奴なぞ居るとでも?
 朱い太陽と血の荒野は、誰しもの心に深く刻まれてるんだぜ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「生き場所が違う生き物がぶつかり合った時。
 その時名も、素性も知らんでも、殺し合うことを余儀なくされる。
 だがそいつの何が悪い。十分だろう? 男がソイツを抜く時は、そのぐらいの理由で良い。
 飢えて渇いて手を伸ばし、ぶつかり合う。
         ・・・・・・・・・
 その束の間だけ、俺達は自由に成れる」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「クク、こうやって殺し合う奴の面拝みにやってくるのもな。
 新鮮な気持ちだよ。新時代の幕開けに相応しい。これからこんなことが世界中のそこいら中で、駆けまわることが出来ると考えたら、猶更負けられねえなァ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「…………」

 少なくとも周囲を検める限り、この男が何か仕掛けたつもりはない。未だに火器を取り出すこともなく生身を晒している辺り、主な目的は勧誘か。
 いや……意味のない行為を行う事こそ、自由を重んずる男にとって必要な行いだったのか。
 交戦準備に入ると同時に射殺出来るよう、服の袖に隠したスリーブガンに意識を向けながら

“ファンシービビッド”アダマス :
 不快感を隠さない目で“ブラックモア”を見る。
 ここでことを構える気はないと判断して、ミリアの背に隠れるように下がりながら意識は観察に傾けていた。

アトラ :
「…… ……。
 戦って戦って、みんなが生きるために何でもするなら……ウチらみたいなのも増えるかもね。
 なんも自由じゃない、なんも嬉しいことない、…… ……」

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・
 自分のしたい時に戦い、殺し、奪う。
 転じて、今は“そういうこと”がしたい気分だった/逆説、“その気になった”なら平気で仕掛けようと考える───。 

 突き詰めると恐らくコレだろう。
 考えてしまえばなんのことはない。

ダン・レイリー :
 戦争に真摯な狂人………などではない。
 その妙な律義さと生真面目さは、
 ヤツの作る世界に、恐らくはあるものを求めた男の領分。 

 とうの本人は単純明快。負けたくない、死にたくない。自由が欲しい。
 その小僧が兵士となり、小僧のまま大人になり、戦奴たちの王になっただけだ。

ダン・レイリー :
「その新鮮さも最後だ、良く味わえ」

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
「ハッ! それも残り二週間で俺達を止められたらの話だけどなァ!」

 哄笑し、男は十分に満足したのか。
 しかしそのまま殺意を相手にぶつけることなく、静かにこう告げた。

"尽き喰む死禽"ヴォルフ・カミンスキー :
    Starless / And Black out
「──『皓月を喰らえ、死禽の天蓋』」

SYSTEM :
【Information】
エネミーエフェクト《ミッドナイトシネマ》が発動しました。
使用者:"ブラックモア"
対象者:シーン
効果:
   シーン内の光を奪い、あらゆるエフェクトが自分と同一のエンゲージにいる
   キャラクターにしか使用できなくなる。

SYSTEM :
       フッケバイン
 直後、周囲を 凶鳥の曇天 が覆う。
 コンマ1秒でもあれば速射が出来る体制にあったミリアは、しかし射撃の機を完全に逸していた。

SYSTEM :
 鴉は戦地を前にまさしく欣喜雀躍する。

 死を。死を。
        Nevermore Die
 ──取り逃した、二度となき死を。

 それが齎される気を前に、屍を渡る黒い翼が飢えのままに羽を広げる。

SYSTEM :
 これを放置して、待っている景色は語るまでも無い。
 無尽蔵に死体を暴き、死の時を待ちながら国という国に馳せ参じて殺し回る。
 トライバルエリアの血みどろの憎悪の応酬という原始の自然に立ち返る。

SYSTEM :
 他の者がそうであったように、この男もまた確たる欲望を抱いてこの地にいる。
 しかし、間違いないことはひとつ。

 ──この男に限って言えば。本当に対話の余地など存在せず。
 倶に天を戴か不るものだということだ……。

SYSTEM :
 やがて程なくして闇は晴れる。
 嵐の如くこの地を蹂躙した鴉の群れは掻き消え、見下ろす巨体の姿も失せていた。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「……敵影、消失。光学迷彩の類で潜伏している様子もありません。
 ……本当に、ただ此方の様子を見に来た、だけみたいですね」

 ミリアは即座に周囲状況を改め、今度こそブラックモアが現場より去ったことを確認する。
 非合理的な行動。だが、ジャームがどういうものかを考えれば、ある意味では説明もつく。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 ・・・・・・・・・・・・・
「己の在り方を刻みつけたがる。知性を持ったジャーム程そういう行動を取りがちと言いますが。
 彼の場合、随分と直球に出るようです」

ダン・レイリー :
「………何ともつながりを持てぬが故の行動だったな。ジャームのそれは」

 撤収。いや、撤退と言う言葉も相応しくない。
 本当に自己表現と“モチベーション”のための、どこまでも外向的に見せかけた自我の発露がソレだ。

“ファンシービビッド”アダマス :
「……ううん、確かににおいが遠いナ。ホントにただキャプテンに会いに来たって考えると納得出来ちゃうかも」
 ポケットに突っ込んでいた手を出して、ほっと一息。

アトラ :
「…… ……だからって出てくる欲がアレなの、ホント良くないなぁ。
 分かってたっちゃ分かってたんだけども……」

ダン・レイリー :
「全く。薄々思っていたことを外した気分だ。
 一目見ただけの新兵の面を覚えている辺りは、なんとも筋金入りだが」

ダン・レイリー :
「いざ戦闘となっていたらどうするか考えてはいたが、杞憂だったのは不幸中の幸いだ。
 此処でも殺せる、と侮りたくはない」

 とんだ悪縁に付き合わせたな、“ファンシービビッド”───と一言。
 影響を受けないことと“愉快”“不愉快”は別の話である。

“ファンシービビッド”アダマス :「ヘーキヘーキ、気にしないで。あんなの嗅いできた以上、どんなやつかはちょっと気になってたんだ」

“ファンシービビッド”アダマス :
「向こうから会いに来てくれて助かっちゃったかも♡
 ……ま、そんなふうに好奇心出したら出したですごいの見せられちゃったんだけどサ。も~、喉のえぐみがすごくって」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「うう、ごめんなさい先生……たいへんなとこに連れてきてしまって……」

ダン・レイリー :「(つくづく独特の表現だな)」 えぐみとは

アトラ :「うぇ~……そういう問題もあるんすね……その、なんか……そういうの」

“ファンシービビッド”アダマス :「いーの。こんなトコに飛び込んできたんだし、ちょっとヤバいの見るぐらいあると思ってたからね」

“ファンシービビッド”アダマス :
        エンジェルハィロゥ
「そそ。ぼくって感覚肥大なのね?
 感情が見えるコいるだろ。あれが、ぼくの場合クチとかハナにも来るワケね」

“ファンシービビッド”アダマス :「だもんで、ああいうのがも~ダメ。アレぐらいキマったヤツだと真っ黒け。味見もしたくないレベル」

アトラ :「真っ黒け」

ダン・レイリー :
「同じエンジェルハイロゥ・シンドロームでも適性と用法は違う。
 ………特化するとそうもなるというわけか」 

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「まさしくお目汚ししました……
 クソ、先生になんてものを。あの鳥頭絶対許さないんだから」

 ギリリ

“ファンシービビッド”アダマス :「あの悪くない顔のこと、ぼくのかわりにメチャメチャにしておいてネ」

アトラ :めちゃめちゃて。

ダン・レイリー :
「お望み通りに。
 男に二言はないし、“食い荒らします”といままさに宣言されたこの国を守るのが仕事だ」

ダン・レイリー :悪くない顔、という前置およびミリア・ポートマンの反応を力ずくで押し流しながら、応答する。もとより、つけるべきケリの一つであった。

アトラ :
「そもそも止めなきゃいかんのは当然として。
 あんな言い草のもん、自由とか思いたくないっすからね……」

 顔は悪くない判定なんだ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「勿論です! 私からも、然るべきやり方でオトシマエをしっかりつけさせないと」

水無瀬 進 :
『……しかし、思った以上に壮絶な奴だったなぁ。
 出来ることなら他の子達には顔すら合わせたくない類の人間だ』

水無瀬 進 :
『気に病まないといいけどね。とくにお嬢様、最近なんか毎日ちょいちょい気分悪そうだし』

ダン・レイリー :「………」

ダン・レイリー :
「引き摺られるかも、か」

 思案する。
 ………初めての邂逅から日に日に起きる変化は、自分の置かれている状況に思考が追い付いて来たが故のものだろうか?

ダン・レイリー :
「………ああいう時には、どうあれ大なり小なりの立ち止まる時間が要る。
 それさえなく進めば、いつかきっと、進む足がどうにかなる」

ダン・レイリー :
「取り返しがつかない兆候が出れば、止めるより他にないが………」

 ………。
 何となくだが、“それ”を択ばないだろうという推測だけはあった。

アトラ :
「…… ……すっぱり割り切れる感じでもないかもですしね。難しっす」

 行動起こしたのは彼自身でも、原因って考えたら……また、別の考えも出てきそうで良くない。

“ファンシービビッド”アダマス :んん~? と様子を見て、軽く手を叩く。

“ファンシービビッド”アダマス :「噂のナタリーお嬢様のコト? 実質的にはともかく巻き込まれなんでしょ、大変だよね」

ダン・レイリー :
「ン。ああ………そうだ。
 元々オーヴァードだったとは聞くが、狙われる立場にあるのも事実でな。事件から切り離せる位置にはいない」

ダン・レイリー :
「それも実際にオーヴァードから害意を手段としてぶつけられるようなのは初めてだろうからな」

 蓄積していく痛みを切り開かれるようなことは(以前の様子から)望んでいまいが、良い状態ではないのも事実と思える。難しい塩梅だ、彼の言うとおりに。

アトラ :
 その巻き込まれが最近の雰囲気の原因なら。
 ……まあ、何というか。仮に焦りみたいなのがあるとして、その原因のひとつには含まれてる気がするのでややバツが悪い。
 実際のところまでは推し量れないけど。何とも言えない表情で頷いている。

“ファンシービビッド”アダマス :
「ふうん……」
 腕を組んで考え込む。

“ファンシービビッド”アダマス :「その子、責任感が強くって? まじめで? いい子だと」

ダン・レイリー :「概ねは」

ダン・レイリー :………なので話の通じない手合いにぶつけるのも少々と、ミナセも考えていたのだろう。

“ファンシービビッド”アダマス :「うう~ん」

“ファンシービビッド”アダマス :
   ・・・
「で、お嬢様なんでしょ?
 ああいう生まれがどうしようもないやつって効くだろうなあ」

アトラ :「……あぁ~……」

水無瀬 進 :
「確かにね。そこから選び取った結果がアレ、ということに変わりはないと言っても、だ」

“ファンシービビッド”アダマス :
   ・・・・・・・・・・
「ん。選んだからこうなったなんて、頭イっちまったやつの言い訳だぜ。
 君らは納得できても、その子は難しいかもねえ」

“ファンシービビッド”アダマス :「だって、前提が違うんだもんな」

水無瀬 進 :
「環境ってどうしようもなく響くだろうからね」

ダン・レイリー :「自分の立場が“そう”であれば尚のことか」

水無瀬 進 :
「そして狡猾な"弱者"は大抵の場合、その牙を借りて襲い掛かってくるんだ」

アトラ :「……………」 まあ……確かに。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「それでも対峙は避けられません。彼女の戦術的価値を鑑みれば、ブラックモアとの相性はそう悪くない。
 彼女もそれを見越して、余計に気を張るでしょう。
 ……誰かが傍についててあげなきゃ」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「今後の課題は、多いですね。
 ですが……今は兎に角、撤収しましょう。敵の気が変わる前に」

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「あんな気分で強襲してきたのが、同様に襲い掛かってくる可能性も捨てきれない。
 一見平和に見えて、やっぱりここは最大の危険度を誇る、鴉の棲み家なんですから」

ダン・レイリー :
「…。そうだな。
 ヤツにとって重要なのはヤツの内向的なメンタルだ。
 それ次第ではあの機甲猟兵が二度の上陸をかまさないとも限らん」

アトラ :「わあ~ メチャ怖い」

ダン・レイリー :
「ナタリーについてもだ。
 現地に赴くと決めたなら、現地で出来る限りの事をしてやらねばならん。対処療法のようなもんだとしてもな」

“ファンシービビッド”アダマス :「ぼくもしばらくはバックアップだからさ、後方支援ぐらいになら入れるし」

“ファンシービビッド”アダマス :
「今回の任務は君たちだけで戦ってるわけじゃないしね。
 ぼく以下、色んな人たちがバタバタ走り回ってるんだぜ。
 そりゃあもう、人によって思惑はいろいろあるけどさ」

“ファンシービビッド”アダマス :「一番危険なトコを君たちにやらせてるぶん、後ろで余計なコトされないように頑張るからサ。無理のしどきは選んでがんばってね」

ダン・レイリー :
「実感している。だから猶更、頑張らないわけにはいかんよ。
 チームという一単位でもそうなんだからな。其方の期待と努力は活かしてこそだ」

アトラ :
「うす。もす!」

 ナタリーちゃんにも御友人として出来ることはあるかもだし。
 “ブラックモア”に対してだって、立ち向かわなければならない以上やるしかない。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
「はいっ。私も、いつもお世話になっています。
 今後もどうか、よろしくおねがいしますね」

 にこ、と微笑んで

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 その後。軽い現場検証を行った後、ミリアはアダマスを車に丁重に載せて去って行った。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :
 余談ながら……あんなものを見せつけられた手前、食事に行く予定を壮絶に悩んだそうだが。
 そこはやはりあの二人だけのことはある。それが何だとばかりにちゃっかり予約済みのコースを堪能したそうだ。

“ファンシービビッド”アダマス :イヤな気分はおいしいものとステキなもので押し流すにかぎるよね

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :はい! 今日のストレス、全部この時間で押し流せちゃいました!

SYSTEM :
  ソレハソレトシテ
 ……閑話休題。

 ニューオリンズの都市を支配するブラックモアとの対峙は、一同に改めて敵の狂気と脅威を示したに違いない。
 その背後に立つ、獣たちの王の姿も、また。

SYSTEM :
 たった一人で群を為す一糸乱れぬ鴉の軍勢。
 幾つもの意思で築かれる世界を護る軍勢。
 その趨勢が如何に転がるか、世界は試されることとなる。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 イベントシーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ダン・レイリー :相変わらずのことだが此方のロイスは埋まり切っている。

ダン・レイリー :………序でに言うと変更もない。大丈夫だ。

アトラ :ん~~~~~~ まあまだ空けといてもいい気がする!ウチも特になしで!

GM :オーケイ!!

SYSTEM :【Information】
 開示情報が追加されました。

SYSTEM :【人物:ヴォルフ・カミンスキー/1】
シンドローム:ブラムストーカー/エンジェルハイロゥ
       ブラックモア
コードネーム:尽き喰む死禽
ワークス/カヴァー:FHセルリーダー / 傭兵
経験:地獄 欲望:闘争 覚醒:憤怒 衝動:飢餓
Eロイス:暴食の胃袋
エンブレム:ムーンドッグ
          マーダーオブクロウ
 退廃的な戦争狂。凶鳥の曇天。
      イノヴェルチ
 死を喰らう異端者とも。
 元はFHムーンドッグ(正確にはその前身)に所属し、現在のリーダーたるタカジョウと肩を並べた仲でもある。

 ユーゴスラビアで少年兵として活動した生き残り。生まれついて両親から棄てられ、少年兵として捨て駒として戦場に放り出されてきた彼は死を絶対視し、そこから生き延びるために血を這いずる少年時代を送る。
 大儀も名分もない民族同士の憎しみのぶつけ合いの中で生まれた男。そんな彼は塹壕で空腹の絶頂の折に経験した『味方の屍肉を喰う』カニバリズムによって生き永らえたことが人格形成に非常に歪な影響を与えることとなる。
 嫌悪と抵抗感と状況への怒りから自分を置いてさっさと死んでいった味方と一つになる、という信仰と共に遺骸を喰らい、その怒りによって中東に埋没した遺跡の影響を受けてR拡散前に覚醒を果たす。
 彼にとって人食いとは相手の命と一つとなる儀式であり、戦場を伴に駆ける友誼の証。そうした破綻した理論を掲げるうち、何時しか境がなくなったジャーム。殴られて生まれ、憎しみを吐き出す形以外に対話の手段を知らなかった彼は、当然のようにそれで対人関係を交わす怪物に成り果てた。

SYSTEM :【人物:ヴォルフ・カミンスキー/2】
エフェクト:ミッドナイトシネマ、無明の世界等

 東欧の戦争が終結する頃に、マスターテリオンと邂逅。『自由に生きたいと望んでいる』という本質的な渇きを指摘され、『地獄しか居所がないなら、その為に地獄を広げることは悪ではない』と諭され、FHに勧誘。ムーンドッグに推薦され、熾烈を極めるFH同士の覇権争いに身を投じることとなる。
 ムーンドッグに席を置いたのは、テリオンと共謀して『新時代』を作るための兵士を募るためであり、此処で相当数の賛同者を引き抜いてブラックモアはムーンドッグを去り、テリオンと共にシャンバラを乗っ取る。
 マスターテリオンがコードウェルに敗れるまで、シャンバラの仮のリーダーとして着々と準備を進めていた。

 少年時代のカニバリズムの経験から、人を捕食する行為が一体化する儀式でもあり、自らの能力はその経験から派生したもの。死肉を突く鴉と自己を同一視し、そこから能力が発展した。

 彼の欲望は『人に強制されるのでない、自分の為だけの戦争』を押し広げ、そこで『自由』を手にすること。
 人に強制され、人の作った場で、人を殺して生きてきた。だからこそ自分の意志で自分の殺したい相手を自分で殺したい。
 そんな歪んだ形の自由を欲している。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……




【MIDDLE ⑬ - Moon rising】

SYSTEM :【MIDDLE ⑬ - Moon rising】
登場PC: Dan
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 件の調査を終えた後の日、ダン・レイリーはニューオーリンズにて借り宿の一室にいた。
 この街の中は未だ油断ならない状況が続いているものの、インフラ設備を食い散らかすレネゲイズワームが既にないことは大きかった。

SYSTEM :
 少なくとも今、上官との無線を繋いでも妨害される危険性も少ないだろう。万が一という時のための備えも必要ならば呼ぶことが出来る筈だ。
 念を入れて事に当たるなら事情を知っているブルー、ミリアの両名に関してはこの場に呼ぶことは可能だ。しかし、飽く迄一対一での対話に拘るならば、このまま普段通りに無線を開けばいい。

 すべての準備は、自らの心持ち次第だ。

ダン・レイリー :
   ・・・・・・
 ───ケリをつける。 

ダン・レイリー :
 己のこの事件に対する軍人としての任務は、
 また別のものであったことを前置きする。

 しかし個人的目的は何かと問われたのならば、
 概ねソレだった。

ダン・レイリー :
 ある時から、時計の針を止めたまま、ずっと終わっていない一つの戦争があり。
 そもそもからして戦争とは、いつまでも続けば禍根を残し傷跡を生むのが常である。

 どこかで終わりにしなければならなかったのだ。それが、あるいは己の“成すべきこと”だった。

ダン・レイリー :
 そのために狐につまされることもあれど、己は段取りを進めて来た。

 その段取りの終わりを自覚したころ、根幹にいた悪縁に邂逅しようとは、これまた何処かの男の言葉を使いたくなるほどの皮肉を感じたが。

 なんでもないように、無線を手に取った自分の手に、震えや緊張は無縁だった。

ダン・レイリー :
 ・・・・・・・・
 万全を期すならば二人がいる。
 だが、その二人には十分することをしてもらっていた。あるいは、俺自身の効率とは無縁の拘り/置いて来たもののせいかもしれない。

ダン・レイリー :
 ………本当に、普段通りに無線を開く。

ダン・レイリー :
 第一声は───。

『レイリー大尉だ。局長』

 それで十分だった。

SYSTEM :
 己が為すべきを為し、責務を全うする。己だけが出来る、己のチームの中での役目は知れていた。
 積年の決着の為に、無線を取る手はしかし重くはない。
 それは、喪失の果て自棄になったゼロからの道のりが、その蓄積の重みがそうさせるのか。
 程なくして秘匿回線と繋がることに成功した。
 

ヘルムート・ヘス :
『君か。
 定時連絡の時間からは聊か早いが。問題でも起きたか』

ダン・レイリー :
『ああ。問題が起きていた。
 シャンバラ摘発の任務遂行において、支障を来す類のだ』

 前口上などは、最早そんなものでいい。
 今更あれこれどうこうと話を積み重ねることはないだろう。

ダン・レイリー :
『僕はあんたに、そこについて、幾つか要求しなくちゃあいけないことがある。
 それ故の緊急連絡であることは分かって貰えると思う』

ヘルムート・ヘス :
『────ふむ。
 話を聞こう。まずはそれからだ』

 老人の声は落ち着いている。言葉の雰囲気から、単なる支援要請ではないことは薄々でも勘付き始めていたのか。

ダン・レイリー :
『ああ。
 ………しかしだ、あんたも分かっているはずだ。DAPPA局長』

 これを口にすると、男の反応はどうだったか。
 少なくとも今までは、元でも自分にとっての局長はこの男だという意識で呼んでいた。薄々“そう”かと思わなかったわけではないが、まさか嘘から出た真になろうとは思わなかった。

 ───閑話休題。

『僕は回りくどいのが得意じゃない。
 だから、こう言わせて頂く』

ダン・レイリー :
『爺さん。

 あんたがシャンバラとどういう関係だったのか。
 あんたと関係の深い海向こうの第三帝国が何を“やらかした”のか。
 それが必要になったんだ』

ヘルムート・ヘス :
   ・・・・・・・・・・
『……それを訊くことの意味を、君は理解している筈だが』

ヘルムート・ヘス :
『それを押しての問いかけと見做して構わんのだな』

ダン・レイリー :
『ああ』

 承知の上で進めた。
 そのための段取りも、全ては一つ事のためだ。

『………あんたは俺にこう言い、了承した。
 シャンバラ摘発の任務を遂行せよ、と』

ダン・レイリー :
『そしてずいぶん昔に、俺に命令したことを覚えているか?
 ・・
 アレがよしんば狂言でも茶番でも、始めてしまった俺には終わらせる責任がある』

ダン・レイリー :
 例えばあんたを、我等の祖国に蜥蜴の尻尾扱いさせることになってもだ。

 …などと嘯く平常心の声色は、肯定に等しい。兵士の行いとしてあまりにも不適格であることに対して、俺の態度は一貫していた。

ヘルムート・ヘス :
『………………』

 吐息。大きな吐息が、無線越しに響く。ざりざりと砂嵐の音に紛れて聞こえるそれは、諦観のようにも聞こえただろう。

ヘルムート・ヘス :
『……私は最初。君があの島から生還した時。
 まるで何も見ていないかのように。
            デブリーフィング
 しかし顔つきだけ変えて帰 還 報 告に来た時。内心では何事かと不信がっていたものだよ』

ヘルムート・ヘス :
『家族の故か、兵としてを貫徹したか、或いは何も見ていなかったか。
 だが、或いは私の目指す先に幾ばくかの同調を得られたと、そう思ってもいた。
 それは、酷く身勝手な思い込みだと薄々気付いていながら』

ヘルムート・ヘス :
『君にとってはそれを糺す時が今ということか』

ダン・レイリー :『………………』

ダン・レイリー :
『是と思うこと、成すべきと思うことを果たす。
 力を持った兵士の責務だ』

 どこかの新兵に、それを導く立場の人間が言った。それが正しいことならば帰って来るとも。
 言ったのは爺さんだったか、それとも、あそこで亡くなった“別の”爺さん/最初に死んだ老兵だったのか?

 まあ、どちらでもいい。

ダン・レイリー :
 重要なことはひとつ。その新兵と来たら、そいつを真に受けたのだ。
 少なくとも返し切れない恩があったと思って、信じるものを自分で探して、次に伝えてきた人間のバトンなのだろうと思って、こうしてきた。

 一度、全てがゼロになったことまで。
 きっと、予定されていたことであった。

ダン・レイリー :
『あの時の仲間たちを言い訳にしない。
 俺は奴らの怨念返しじゃない』

『家族の故など浮かぶ余裕はなかった。
 兵としてを貫こうという殊勝さも、あの炎に巻かれて消えて行った』

ダン・レイリー :
『………だが、俺の時間はあの日から進んでいない。
 ケリをつけないといけない。………』

ダン・レイリー :
 あるいは。
 あの日、自分が自分に命令したことは、
 全てこのためだった。

 死者に引き摺られてすることではなく、
 自暴自棄になって選んだことではない。
 あるいはそれしか道がないのだとしても、

 そうすると決めたのは、あのしょうもない理屈を『信じてやれる』出来事が一つだけあったからだった。

ダン・レイリー :
 ・・・・・
『今がその時だ、爺さん。
 
 俺はあんたの恩を仇で返したよ』

ヘルムート・ヘス :
『……そうかね。
 あの炎の中で見出した何かが、その身を変えたか。
 不忠だが、咎めはせんよ』

ヘルムート・ヘス :
『私もまた祖国のために忠を尽くそうとした。
 いや……あれはそのような殊勝な理由ではなかったか』

ヘルムート・ヘス :
『あれは…………恐れ、だった。
 私の起源は恐れだった』

ヘルムート・ヘス :
『未知に対する恐れ。故にこそ私は、それらすべてを御する道を望んでいた』
 

ダン・レイリー :
 ・・  ・・
 未知とは恐怖だ。
 ………そしてソレを既知にすることで人間社会は回って来た。

ダン・レイリー :
『………あんたはレネゲイドのアンノウンを、そう捉えたのだな』

 そう捉えることが、立場や経験からして、ごくごく自然だったのだろうと理解した上での台詞だ。

ヘルムート・ヘス :
『君は私の所業を観て、感じた筈だ。
 酷い裏切りと、感じるより先に『何故』と』
 

ヘルムート・ヘス :
『私にも伴うものがいた。あのアーネンエルベのレーベンスボルンの中、ひそかに築かれた薄暗い実験棟の中でその身を拓いた時から』

ヘルムート・ヘス :
『私には本来それは、慣れ親しんだ者でもあったのだ。だからこそ私は恐れの故に渡米した先でさえ、それを学んだ。
 知的好奇心であり、同時に功名心でもあった。
 このレネゲイドなるものを解き明かし、数多の場所に散らばった聖遺物を。この移民の国で役立てようと』

ヘルムート・ヘス :
『これの進化の先に、人々の未来が待っている、とまで前向きだったわけではない。
 少なくとも、そう。
 自らへの問いかけでもあり、自己実現であった。それを識ることで、自分は何者となり、何のために生まれたのか。
 それを知りたかった』

ヘルムート・ヘス :
『己が何者であるかを知ることは重要だ。人生を生きるにおいては。
 それを知らずとも、或いは『どう生きるべきか』を識ることこそ幸福へと繋がる。
 
 十字教の時代から、労働とは祈りであり、神に課せられたミッションを果たすことこそが幸福であると』

ダン・レイリー :
『………だが、その功名心が生んだ黎明も、己自身との問いかけも………。
 何時の日か、違うものを帯びていた。か?』

ヘルムート・ヘス :
『いいや、私はそれが真と信じて生きてきた。レネゲイドとは、共に生きる隣人。この歴史の中で幾度となく見え、そして影響を及ぼしてきた。常在菌のようなものだ。
 これらとの溝を縮めることこそが、私の為すべきことだと。そう思っていた』

ヘルムート・ヘス :
『…………あの時、までは』

ダン・レイリー :
『………あの時?』

ダン・レイリー :
 未知の変数Xを、パンドラの箱呼ばわりしないといけないことが生まれたという。

 だが………予測が出来るとするならば、それは。

ダン・レイリー :
『何を見たのか? か。
 その答え、推測は出来るが確信までは至らない………』

ダン・レイリー :
『あんたが、未知を“可能性”と呼んで有難がることが出来なくなった理由………。
 解明から“管制”に変わった理由は、いつの、どこだ?』

ヘルムート・ヘス :
『……1999年。12月の、ある月のない日。
 私は……
 我々は。ソレを観た』

ヘルムート・ヘス :
『宛ら、月が落ちてくるような、その夜。
 落下する月の裏側に、我々は……』

ヘルムート・ヘス :

『──『神』を観たのだ』

ヘルムート・ヘス :
『私は一目見た時に、直感した。
 あの月の裏側で見た景色が。あれこそが人とレネゲイドの行き着く果て』

ヘルムート・ヘス :
『────ああ、あんなものが。
 ・・・・・・・・・・・・
 あのようなおぞましいものがレネゲイドと人の共生の果てと?』

ヘルムート・ヘス :
『そう識ったと同時に。これまで学んできたものがほんの氷山の一角に過ぎないと。
 人の想像の及ぶ限り遥かな外宇宙にまで広がり続ける深淵なる冒涜の星々、暗澹たる混沌を湛えた狂気の産物であると気付かされた時』

ヘルムート・ヘス :
『──私は気付いた。
 ・・・・・・・・・・
 コレは人類には不要だ』

ヘルムート・ヘス :
『……そうだ。我ら十人の探究者は。
 誰もが一様に、アレを、見た。

 ある男は純粋な好奇心故に欣喜雀躍し、それを持ち帰ろうと奮闘した。
 ある男は羨望に焦がれ己が身を恥じ、そうならない自分たちを恥じた。
 ある男は己が意味を問い直し、生まれることの意味を問い始めた。
 そしてある男は呆れたように溜息をついた。


 そして私は……これは残る僅かな十数年の歳月を使い切ってでも封じねばならぬと理解した』

ヘルムート・ヘス :
『レネゲイドウイルスとは可能性を広げるために人々にもたらされた神の恩寵などではない!
 あれは神々が人を糧として成長するための胤に過ぎない!
 我々は、レネゲイドという種の踏み台となるために、その為にこれを宿したに過ぎない──!』

ヘルムート・ヘス :
 …………言葉を継ぐにつれて、老人の声はどんどんとエスカレートしていた。
 その終わりには、最早それは絶叫に等しかった。
 まるで薬物中毒の幻覚か、老いによる幻覚に惑わされるかのような鬼気迫る声。

ヘルムート・ヘス :
 曖昧模糊にして意味不明な誇大妄想じみた言葉は、ダン・レイリーの知る所では宇宙を友愛する一部の好事家と何ら変わらないようにも見えた。
 だが真実が一つある。
 少なくともヘルムート・ヘスの中では。
 それが、その見た景色こそが、致命的に彼の志を恐怖に染め上げたのだ。

ダン・レイリー :
『………』

 自分は此処に来て、なにか得体の知れないものと直面している。
 いや正確に言うならば、そんなものと直面した“らしい”恩師の憔悴と恐れから来る主張と直面していた。

 言葉を挟む間もないほどに加速していく言葉の羅列に、どんな意味があったのか。どんな意味を見出していたのか、知る術はない。

ダン・レイリー :
 技術の予想以上の進捗から来る可能性への恐怖───。
 純粋な私利私欲から来た独占と管轄の為の活動───。

 転じて、ソドムにこそ集約するだろう未来予想図。

 そういう、ある種の人間らしいものであり、己が無線を掛ける前に想像し、また今予想していた“無難な選択肢”から、まるで悪魔に取りつかれたか、レネゲイドが齎す衝動の暴走めいてトチ狂った爺さんの言葉は、あまりにもかけ離れていた。

 ・・・・・・・・
 あんたらしくない。

 その言葉をこれほど口にしたくなる瞬間はなかったが、いまそれを口にしたとて返って来るものは、予定調和のような渋顔などではないのだろう………。

ダン・レイリー :
『“何故”の、答えか』

 そして爺さんの前では断じて口にしないが、彼の豹変と恐怖はこの事件に何ら関係性を持たない。

 あまり冷酷なことを言えば、過程は無視して良かった。どれほど無視してはならない巨大な癌だとしても、今は。
 故にそのことについて“何故”は一切聞かない。必要なことはただ一点。

ダン・レイリー :
 爺さんが見たものの真偽などどうでもいい。良くはないが、そういうことにしなければ進まない。
 ・・
 それが歯車を狂わせ、発端を生んだのだという事実。

 レネゲイドに恐れを持ったという事実のみを以て、第三者の客観的意見で、爺さんが行おうとした『結果』を振り返る。即ち。

ダン・レイリー :
『R監視社会………』

『第三者があんたの到達点を指差した言葉だ。
.        センチネル
 R因子の管制とその衛士………その切欠は、あんた自身の恐れから来るものだったということか』

 この話題には触れない。
 これ以上、爺さんの晩節における乱心と狂気の切欠を見るのは複雑なところだ。

 というより爺さんはこの話題において、正常な判断を出来ないだろう。仮に本当に正常だったとて、それを自らの眼から見て『正常』と口に出来るかは怪しいところだ。

SYSTEM :
 ダン・レイリーがそれを耳にした折に何を思ったか、ヘルムート・ヘスという碩学がその語る瞬間に何を感じたか。
          ・・
 ……これらは、総じて余談に過ぎない。
 畳みかける啓蒙の片鱗を、ただ冷徹に捉えたダンの反応は正しかった。
 すべての運命がソドムへと収束する、そのほんの切れ端に混ぜられた冒涜的悪意。
 その啓蒙をきっかけに何か得体のしれない出来事を起こそうとも、それは敢えて探り踏むべきものではない。

SYSTEM :
 そして、それはヘスにとっても共通認識であった故か、或いはその一点から目を背けたい深層心理が働いた故か。
 暫し息を切らしたように、老いさらばえた男の息遣いが聴こえた後。
 まるで悪い夢をなかったことにするように、ひと呼吸を置いて老人は話を元の路線に戻した。

ヘルムート・ヘス :
『…………そうだ。
 齢70に至り、死より恐ろしいものが出来た。
 レネゲイドという強大なものを、それを御するために。そして、それはペンタゴンも同じだ。……恐怖の由来は別だとしても』

ヘルムート・ヘス :
『R監視社会……
 シャンバラ カオス               コスモス
 連 中が混沌を求める中、我々が求めたのは秩序だった」

ヘルムート・ヘス :
『レネゲイドウイルスという道の病原菌について。アメリカ合衆国は研究を続けていたが、2000年代初頭まではいずれも成果を上げられていない。
 成果が上がらない分野に金は降りてこない、ごく小さな分野における閑職だったのだ。だが……

 私の背中を後押しするように。そして私の恐怖を煽り立てるように。件の中東の遺跡から、レネゲイドは拡散した』

ダン・レイリー :
 ウィアードエイジ
 奇妙な時代とかいう頃の産物に乗り遅れた………。
 主な要因はそれだけではないが、その一つがこれだったと記憶している。

ダン・レイリー :
『そして御伽噺ではなく現実のものだと分かれば………ペンタゴンは知りたがる。
 毒なのか、薬なのか。それ以前のものなのか。あんたが根回しするチャンスも、いくらでもあったというわけか』

ヘルムート・ヘス :
『加えて言うならば、示し合わせたようにアメリカ同時多発テロが勃発した。
 アメリカは大義名分のもとに戦争目的で無数の闇予算を捻出する余地が出来た。DARPAもこの時期に大幅に拡張されている。

 そこで私は対テロ戦争、対テロ対策組織として新たなる分野、IAO……情報認知局を創設した』

ヘルムート・ヘス :
『尤もIAOの掲げた目的と、R管理社会の目的に、大きなずれがある訳ではない。後者の手段と目的を通すために、前者の理念が必要だったからそうしたまで。
 それは記録上、僅か1年で閉鎖されたというカバーストーリーを敷きながら秘密裏にすすめられた』

ヘルムート・ヘス :

ヘルムート・ヘス : I A O
『情報認知局の目的とは、即ち国家による思想統制。
 個人情報に対するアクセスをより緊密なものとし、テロリズムの発端となる危険思想が生まれた折にこれを検挙し、テロという行為を未然に防ぐテクノロジーの開発……
 ありきたりな言い方をすれば『国家が市民の意思をコントロールするシステム』の開発を目的としている』

ダン・レイリー :
『本当に陰謀論のソレだな』

 そうにしておかねばならない話とも言うか。

『………予算は降り、組織は出来た。
 システムの開発のために要るのは、そのノウハウ………』

ヘルムート・ヘス :
『少なくとも我々は、その過程でアメリカ市民の思想統制を行うつもりでいた。
 ……レネゲイドが人間の情動に関連することは、その時点で分かっていた。それを封じるには、人の情動を封じることが必要だった』

ヘルムート・ヘス :
『人の思想と意志を国家がコントロールする。
 それは、レネゲイドが好む『意志』を封殺することで市民間への感染を防ぎ、また軍事利用に当たっては必要な意志を奮起させることでレネゲイドの持つ能力を高めようとした。
 戦時下の混沌の中では世論操作は容易い。戦争という行為にヘイトを集中させることもまた然り。
 だが、縦しんばその管理社会が完成したとしてもまだ足りなかった』

ダン・レイリー :『…足りなかった?』

ヘルムート・ヘス :
『何のことはない。結局の所、意思をコントロールすることでレネゲイドを制御するのは常に限界があるのだ。
 そこは飽く迄ペンタゴンへ話を通すための建前であり、R管理社会を盤石な者にするサブプランに過ぎない。

 ……だからこそ彼らと繋がりが持てていたことは渡りに船だった』

ヘルムート・ヘス :
『オデッサの、かつて死んだことにされていた男から、私は兼ねてより研究を続けている『遺産』に関する話を聞かされていた。
 太古の昔、死海に沈んだというヨルダンの都市ソドム。そこで、オーバーテクノロジーを発展させた管理社会が営まれていたということについてな。
 あのアーネンエルベの実験棟から出てきた私ならば、それが眉唾でない事は知っていた。話を受けた当時こそその手を取ることはなかったが、あちらが握っていた技術の中には私の求める技術が眠っていた』

ヘルムート・ヘス :
『嘗てレネゲイドで栄えた国家は、レネゲイドの暴走をコントロールすることに成功していた。
 ・・・・・・・・
 成功例が既にある。ならば、それは決して夢物語ではない。

 ──そうして、R因子管制機構、そのシステム化の計画が始まったのだ』

ダン・レイリー :
 ………確かに、ソドムにはモデルケースがあった。
 都市限定とて、レネゲイドそのものの励起を抑制する手段があったという話は既に聞いている。

『ヨーゼフ・メンゲレ………。
 そことのコンタクトが、ソドムとのコンタクトに繋がり、そして始まったか』

ダン・レイリー :『………ペンタゴンにとってのその始まりが、当時の俺たちか、あるいは………』

ダン・レイリー :あの、雪の降る村だったのか………。

ヘルムート・ヘス :
『レネゲイドの覚醒は基本的にアトランダム。まして覚醒後のオーヴァードに望んだ『機能』を付与することは困難を極める。
 だからこそ中東の戦争という場、即ちR因子拡散の原点となる遺跡周辺に出兵した兵士たちから、多くの検体を見出した。
 ……察しの通り、それが君達だった』

ヘルムート・ヘス :
『R因子管制機構とは、その因子の付与に成功したセンチネルを各州に配備することで設計されるものだった。
 都市由来の因子管制機構を合衆国全土に齎すための子機だ』

ヘルムート・ヘス :
『因子を付与されたセンチネルを中継して因子管制のシステムを米国全土に敷くこと。その上で、市民全員に対して思想統制を敷くこと。
 この二つにより、国内のレネゲイド感染率、暴走率を抑え、また国外からの侵攻に対してセンチネルによるR鎮圧部隊を送り込み迎撃する。
 アメリカはそれを以て対レネゲイド戦線の巨大な拠点となる……』

ヘルムート・ヘス :
『それが私の目指すものであり。
 それを果たすには、真逆の目的で遺産に触れるシャンバラと呉越同舟を余儀なくされた』

ダン・レイリー :
 ………その第一段階として、因子制御のためのデータ取りが。

 アトランダムに発生し、どのような機能になるかも分からないオーヴァードを、なるべく『狙い通り』の形にし、衛士とすることこそが、ペンタゴン/爺さんのプランだったってことになる。

 感情の一件から此処に至るまで、可能な限りのイレギュラーの発生余地を削ろうという魂胆が見えた。

ダン・レイリー :
『ソドムのシステムは必要でも、それの主導権を握っている奴らの作り出す社会は真逆………』

ダン・レイリー :
『確かに“消えて貰いたい”わけだ。
 シャンバラを首尾よく消し、遺産を収め、因子を複製・量産する手段が整えば、アメリカは遅くないうちにそうなる………』

ダン・レイリー :
 ある意味懸念通りと言えようが、
 実際はどうか。

ヘルムート・ヘス :
『……だが、事はそうは運ばなかった』

 そして今がある。ヘスは沈鬱な声でそう告げる。

ダン・レイリー :『だろうな』 運んでいればこんなコンタクトはない。だからこそ、爺さんは“諦観”で応じていたのかも知れなかった。

ヘルムート・ヘス :
『ペンタゴンとて一枚岩ではないが、すでに私のプランを支持する者の多くは失われた。
 見切りをつけた彼らは私の暴走という形ですべての責任を押し付けようとしている。
 その為の口実など幾らでもある。私がナチのアーネンエルベの被験者であること、裏でオデッサに引き取られた戦争犯罪人と手を結んでいたこと。
 体よく見逃していた部分を掘り起こすだけで、私はあっという間に死刑囚となる』

ヘルムート・ヘス :
『……それでも、私がこの作戦を進めるのは。
   ・・・・・ ・・・・・・・・・
 最早私の行動に、私自身の命など些末であるからだ』

ヘルムート・ヘス :
『……皮肉なものだ。死より恐ろしいものを前にして。
 死を恐れぬ若かりし気概を取り戻そうなどとは』

ダン・レイリー :『………』 

ダン・レイリー :
『あんたにとって、人の生き死には些末になっていたわけだ。
 その戒めの箱を開かないためにすることが』

ダン・レイリー :
 それはそうだ。
 自分の死も恐れない人間でないと、
 気安く他人の命など奪えはしない。

 だが、そこの些末はいい。
 俺の個人的感情は、最早捨て置こう。

ダン・レイリー :
『………あんたの撒いた種。
 Project Arkはもはや、爺さんの手を離れても動き出すとでも?』

ヘルムート・ヘス :
『そのような保証があるのならば、私は静観を決め込んでいるだろう。
 だが……』

ヘルムート・ヘス :
 ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・
『移民とて、己が国が踏み躙られようとしている。
 たとえそれが己が撒いたものであれ、阻止するため動くのが軍人というものではないかね』

ダン・レイリー :『………………』

ダン・レイリー :
『………そうだな。
 それが軍人の、軍人に課す任務というものだった』

ダン・レイリー :それこそ、始めてしまったことならば猶更だ。俺のそれは肯定ではあった。

ヘルムート・ヘス :
『この作戦が終わると同時に、私はすべての責任を問われ日の光を浴びることもなくなるだろう。
 私は多くの罪を犯し、国を危険にさらした重罪人だ。個人的な恐怖でそれを為してきたことを否定はすまい』

ヘルムート・ヘス :
『……だが私は何も、この国への恩義まで忘れたつもりはない』

ヘルムート・ヘス :
『遠いこの地は、狂った独裁者の歪んだ夢に使い潰される以外の運命を用意してくれたのだ。
 あちらにも思惑があり、利用され続けてきたとしても、それは少なくとも生まれた国からもたらされるものよりかは許容できた』

ヘルムート・ヘス :
『それを呼び込んだ身で語れる言葉ではないがな。少なくとも私は私の国をテロリストに奪われる事だけはご免被る』
 

ダン・レイリー :

 あるいは………。

 爺さん自身がそうだったんだろう。
 生きる場所を授かり、怪物でなく研究者としての使命を授かった。

『あんた自身の、居場所………』

ダン・レイリー :
 その仕上げに至るための道に、
 どうしようもなく、予測も回避も不可能な“間の悪さ”があっただけなのかもしれない。

 だがもちろん。そのことについて水に流してやれるかは、また別の話だ。
 俺は奴らの怨念返しのために生きているわけじゃないつもりだが、
      ・・・・・・・・・・・
 俺自身が、茶番と割り振られた余談を忘れて生きているわけじゃなかった。

ダン・レイリー :
『………過去は消失しない………。
 否定されても。加算があっても、そこにあるものがなくなることはない』

ダン・レイリー :
 ・・・
『だから、俺はあんたに………。
 あんたに残った合衆国軍人の部分に要請をする。あんたが今どういうつもりだったとしても、俺にとってはそれだけなんだ』

ダン・レイリー :
『俺はケリをつけに来た。
 だから………ヘルムート・ヘス。

 テンペスト一個中隊の仇であり恩義であったあんたにも、成すことを成して貰わないといけない。
 シャンバラ摘発のため、俺が嫌いにはなれなかったアメリカのため。あるいは、俺が継いできたもののため』

ダン・レイリー :
 あんたがアメリカの地に根付いて、そこで交わしたはずの“忠誠の誓い”が生きているなら───より一層のことだった。

ヘルムート・ヘス :
『承った。
 尤もこの老人に出来ることなど、たかが知れている』

ヘルムート・ヘス :
『私から圧力をかけることをしないこと。他の米政府の介入を差し押さえること。
 それを除けば、あとは語ることのみだ』

ヘルムート・ヘス :
『これまでの作戦で君が私に意図的に伏せてきたことが、幾つかあるだろう。
 恐らくは私の意思を把握しきれなかった故に、語ろうにも切り出せなかったことが』

ヘルムート・ヘス :
『今ならばそれに応えることもできる。
 例えば、あの沖縄の離島の実験について』

ダン・レイリー :
『あの沖縄の離島で行われていた実験………』

 己が知らぬうちに対象であったもの、
 海向こうで行われていて今も間接的に関わって来るもの、
 そして………遺産というレネゲイド体に纏わるもの。概ね三つが『実験』の言葉で浮かぶが、あそこで行われていたものは一つ。

ダン・レイリー :
『あの離島で行われていた遺産継承者の濃縮実験は第二段階、後天的にソドムの『継承者』を作るためのプランとまでは推測する』

『………何れもシャンバラから提供され、あるいは確認した技術の実用化のためだった。そう認識しているが』

ヘルムート・ヘス :
『そうだ。後天的な後継者を作り出し、ソドムの技術を完全に手中に収めるための計画。
 こちらは私も深くは関与していない。都市の完全な掌握は我々合衆国が求めるものではあるが、優先度で言うならさほど高くない。寧ろ妨害しておきたい分野ですらあった』

ヘルムート・ヘス :
『あちらも最終的には現在のプランに移行したようだ。初めから存在する適合者を使用することでロックを解除すること。
 『預言者』がそれを探り当てることによって、人為的な後継者の完成を待たずして計画はシフトした』

ヘルムート・ヘス :
『君の言うようにアメリカ合衆国としても件の技術の宝物庫をそのままにしておきたい訳でもない。センチネルのシステムが完成した後、すぐにシステムを稼働させたい目論見もあった。
 もし、シャンバラが実験成功までこぎつけたとしても、すかさず奪取してこちらが使用するため、研究所内部、特に沖縄の研究所に関しては注意深く監視していたのだ』

ダン・レイリー :
 呉越同舟もむべなるかな、というところ。
 お互い目的のラインが違い、そこには妥協などしようがない。

 ただ“レネゲイドを抑制する”という一部が欲しいアメリカの思惑と、
 全てを無作為にぶちまけて自由と言う名のカオスを作りたいFH/シャンバラの思惑では話が異なる。

『………あの作戦が狂言だったとて。
 ペンタゴンや爺さんの思惑より先にシャンバラが………。
 ソドムの本懐が稼働してしまえば、全てが台無しになる』

ダン・レイリー :
『逆に言えば、ソドムとそれにまつわるオーバーテクノロジー…遺産についての主導権は、ある程度シャンバラのものだったと見えるが。

 そうでない部分もあったはずだ』

ヘルムート・ヘス :
『Project Ark。……シャンバラにとっては新たな時代への船出となる
                ア ル カ
 選ばれたオーヴァードの新時代の方舟であり。

 アメリカにとっては混沌を迎える中、
       ア ルカ
 合衆国という方舟を組み上げ、人間として生きてゆくための計画だった』

ヘルムート・ヘス :
『故にその漕ぎ手となる者。
 産み落とされた契約者の中には、理論値の上で適合率が極めて高い個体が、ごく少数だが既に発見されていた。
 最終的な帰趨で言えばすべて失敗と見做して間違いない。だが、それは何らかの要因で実験過程で問題があった場合をも含めている』

ヘルムート・ヘス :
『実験が始まった当初の段階でも、非常に高い適合率を叩き出した検体も存在していた。
 何が問題で失敗とみなされ廃棄されたか、それとも何処かに紛失したかはさだかではないが……僥倖というべきか不気味というべきか、その後に続く試みの悉くが何らかの原因で失敗に終わった』

ダン・レイリー :
『………何らかの原因、か』

 アメリカを方舟と喩えて生まれた計画こそが『Project ark』であり、その漕ぎ手は幾人も生まれたが、最終的帰結においては、遅かれ早かれ失敗であったという。
 まるでソドムの側が、あるいは、迎えるべきでないものを拒むかのように。“不気味”/オカルティズムな話だ。

ヘルムート・ヘス :
『理由までは判らない。だが、結果として時間は稼げ、手遅れになる前にこのような戦線を築き、追い詰めることが出来た。

 もしその内の一人でも生き残っていたならば、万が一あちらが遺産との接続までこぎつけたとしても…それを妨害する事も可能だったかもわからない』

ヘルムート・ヘス :
『尤も、過ぎたことを口にしても仕方がない。あの実験の検体は君がそうしたように、既に爆破されて一体も残ってはいない』

ヘルムート・ヘス :
『いや、ないものねだりをしている時間はなかったな。
 少なくとも私は先のように、それなりに当時の知識を有している。何かしら君の知らんとするところについても答えられるつもりだ』

ダン・レイリー :
『過ぎたこと、か』

 過ぎた話と言えばその通りだった。
 この遺産の漕ぎ手が仮に生きている可能性など、一から十まで洗い出していてはキリがないというもの。

 残っているものも、あの離島の基地諸共消えたのであれば………。
 いま必要なことはそこではないことも、事実であった。

ダン・レイリー :
『ソドムの遺産について、此方は必要最低限の知識を保有し、認識している。
 
 ………「アポクリファ・クリフォト」………。
 死海文書の外典。
 そいつは古代都市ソドムの核であると聞いた。戦後のナチスが研究を進めていたものであることも』

ダン・レイリー :
『包み隠さず言えば、こいつについての重要な証拠をアメリカ本国が握っていることもだ。

 いつ、誰の手で渡ったのかは…爺さんとの繋がりから想像がつくが』

ヘルムート・ヘス :
『討伐した折に幹部の尋問に成功していたか。そうでなくば、そこまでの知見は得られまい。
 抜け目がないな』

ヘルムート・ヘス :
『左様。そも、古代都市ソドムとは厳密に言えば実体を持つ都市ではない。
 考古学の世界においては、紀元前1700年頃ヨルダンに発生した隕石の衝突と共に消滅した秘密都市だ』

ヘルムート・ヘス :
『発見された段階では、それは一つの小さな箱。
 ア ー ク
 聖櫃だった。
 その内に蛇の像を宿した、ケルビムを象る黄金の箱だ』

ダン・レイリー :『…発見された段階では、か。それではまるで…』

ヘルムート・ヘス :
『そうだ。
 ソドムとは、核となる遺産クリフォトを元として、遺産の意思存在たるエヴァンジェリンと現地民シャンバラの手によって拡張されたものだ』

ヘルムート・ヘス :
『その殆どの部分を焼失した都市は、FHの協力の下で新たに開発され、再構築された。
 現代で言えば驚異のテクノロジーを搭載しているが、古文書に記されるほどの技術力はない。『現在の所は』だが」

ダン・レイリー :
『何らかの形で拡張、発掘されて変わる可能性は遥かにある………。
 そもそも現代時点でさえ、ここがばら撒いてくれたミュートスキューブを用いた兵器は、現代兵器の開発者たちが首を吊る出来だった』

ダン・レイリー :
『しかし再構築とは。
 シャンバラの母体を考えれば頷ける範疇かも知れないが。
 ………それでいて実体のない都市と言うのは比喩か当時の話か?』

ヘルムート・ヘス :
『飽く迄当時の話だ。現在、何処にその所在があるかは私にもわからない』

ヘルムート・ヘス :
『しかし行動を起こす段になれば、それは必ず自ずから姿を晒すだろう。都市もまた契約者を求め、今なお声を上げ続けているのだから』

ダン・レイリー :
『契約者がいなければ、都市は機能しない。
 だからこそシャンバラはその遺産継承者を求めていた………』

ダン・レイリー :
『そうである以上、居場所や座標の心配をする必要は“ない”か』

ダン・レイリー :
 一旦ここで区切る。
 肝心かなめの部分は、ソドムの中核を成す遺産と、それにまつわる証拠の部分だ。

ヘルムート・ヘス :
『ああ。君たちは約束の地を必ず踏むこととなるだろう。まして、あの男と繋がっているならば猶のこと』

ダン・レイリー :あの男………。

ダン・レイリー :
『やはり………シャンバラの“マスターテリオン”というのか? 知っているのか?』

ヘルムート・ヘス :
『尤も多くを知っている訳ではない。
 だが確実なことは、奴がジャームであることと。解放衝動を宿したものであること。
 そしてその電子生命としての在り方は、紛れもなくソドム由来の技術であるということだ』

ヘルムート・ヘス :
『つまりテリオンのバックアップは、現在のソドム内に保管されている。そう見て良いだろう』

ダン・レイリー :
『クリフォト破壊の折、その接触は不可避か』

 …確かにブラックドッグ・シンドロームにはそういう電子を操る術がある。
 だが、そんな規模の情報補完など夢のまた夢であることだし。実態を持たない都市などという言葉が、よもやこういう方向に転がるとは夢にも思うまい。

ヘルムート・ヘス :
『そして、解放衝動の伝染。獣の因子と呼ばれる性質。
 ……奴の目論見は詰まる所、その性質を使った者。それが大なり小なり、『エヴァンジェリン』に影響を及ぼしている可能性は高い』

ヘルムート・ヘス :
『衝動が変化する程ではない。だが積極性が増している部分は決してないとは言い切れぬ。
 その時、エヴァンジェリンもまた、自らの望みに忠実となるだろう。ともすれば自ら課した縛りをも脱ぎ捨てて』
 

ダン・レイリー :
 元より衝動を抑えるべき理性がないならば、その望みの方向性さえ合う限り、違和感を違和感として気付くブレーキがない。

 エヴァンジェリンは、この『マスターテリオン』によって、主義と主張を剥き出しにするわけだ。

ダン・レイリー :
『あるいはヤツの望む通りに。

 ………エヴァンジェリンを介し、ソドムに産み落とされて来た遺産をマスターテリオンが使う可能性も考えられるが』

ダン・レイリー :
『…遺産と言えば、ソドムの都にはR因子管制機構の原型があった。そちらについては、そのノウハウもあるはずだ。
 少し話がズレるが、あれの対応策は?』

ヘルムート・ヘス :
『都市内部に存在する因子管制システムか。
 完全に無力化することは難しいが、幾つか手はある』

ヘルムート・ヘス :
『一つは侵蝕率が100%を超えた段階で効き目が薄くなること。
 もう一つは、ソドム内部の物体とソドムから認識される人間に対して効果を発揮しないことだ』

ヘルムート・ヘス :
『前者はその制御が難しくなることから、パッシブでのエフェクトキャンセラーを振り切って活動することが出来るようになる。
 後者は、例えばナタリー・ガルシアのような例外を指す。それに加え……』

ヘルムート・ヘス :
『都市の遺産によって遺伝子配列が変化し、都市内部の人間の者と近くなった際にも同様の現象が起きる。
 『浄火の柱』を取り込んだ"ラクシャーサ"がそれにあたる。こちらはもう失われた手段だが、自らその病を引き受ければ条件を満たす前からここを素通りできる』

ヘルムート・ヘス :
『攻略に当たっては、このいずれかから選び取る他あるまい』

ダン・レイリー :
『了解した。実際のところ………選べる手は最初のヤツくらいだろう。
 リスクと隣り合わせとはいえ、呑まねば対ソドム攻略では足手纏いだ』

 自分についても(するべきではあるが)心配はない。
 ブラックモアとの交戦を最後に、少なくともヤツを招く誘蛾灯になる懸念があったが、不幸中の幸いも一つはあると考えられる。

ダン・レイリー :
『尤もエヴァンジェリンの適性については未知数、ソドムの防備もそれ以外にあって然るべきともあらば、その対応策で漸くスタートラインだ。

 ………』

ダン・レイリー :
『ソドム外にも懸念と、此方ではコンタクト出来ない情報があるが………やはりまずは「アポクリファ・クリフォト」。ソドムの核、蛇の聖櫃───そいつに関する可能な限りの情報が欲しい。

 最終目的はコレの破壊だ。この出自を考えるなら、ペンタゴンがこいつをノーマークでいることもないだろう』

ヘルムート・ヘス :
『恐らくそれは"コードトーカー"の尋問に成功していれば、それ以上の情報は得られないだろう。
 だが可能な限りの情報というのならば……』

ヘルムート・ヘス :
『疑問に思ったことはある。
 大量生産、大量消費による加速的成長によって前人未到の科学文明、この星からの脱却さえも果たしたこの都市だが。
 どれだけ効果的にエネルギーを再利用しようともエントロピーは収束する。レネゲイドはその例外の一つであるが、それは単に見かけでそう見えるだけで……別の形でしわ寄せがきているのではないか、と』

ヘルムート・ヘス :
『それらの行き着く果て、何処へ行くのか。
 そしてそれを処理するには、同質の……。
 あらゆるものを否定する何かでなければならぬのではないか、と』

ヘルムート・ヘス :
『すまんな。今のは想像の範囲の言葉で、確証はない。記憶の片隅にでもとどめておくとよい』

ダン・レイリー :
 大量生産と大量消費の果てには、大量の塵が生まれる。

 人が活動する以上、どんなものでも塵は貯まる。それが消費して生きる生命の絶対原則だ。

 打開策をソドムが打ち出していたとて、それは表向きの話ではないのか───不可避となり、沈殿するモノを処理するための存在がなくてはならないのではないか。

 爺さんの仮定を、自分は黙って聞いていた。

ダン・レイリー :
『………無価値を証明する者。
 何もかもをくべ否定する、未来の礎となる吹き溜まりか』

ダン・レイリー :
『参考にはする。
 あるいは本当にあって、都市自体の避けられぬ綻びなのかもな、それが』

 そんなものがあったとして、
 果たしてどのようなことが起きるのか。
   
 ………最悪の場合、専門家に横流しだ。

ダン・レイリー :
『であるならば、本当にソドムの遺産周りについては“ここ”が関の山だな。
 ロサンゼルスでUGNに引き渡されたコードトーカーから引き出した情報はそこ止まりだった………』

ダン・レイリー :
『………あと何か知っているとなればヨーゼフ・メンゲレ………。
 シャンバラの黎明に関わったであろう男の方であり、あの国の末期の尻尾だが。ヤツが研究していたのが死海文書なら、これ以上はないとも見える』

ヘルムート・ヘス :
『あの男は発端ではあるが、裏を返せばそれだけだ。元々、器用な男ではあったがそれ以上のものでもない』
 

ダン・レイリー :
『だろうな………。
 と、言えるほどその印象を残したわけじゃないが。実際、ヤツがシャンバラの末端からも重んじられている様子はなかった』

ダン・レイリー :
『分かった。ソドムについては、これ以上は現物で測るより他にない。
 ………そしてそうである以上、引っ掛かっている話がある。さっきの仮定のやつだ』

ダン・レイリー :

ダン・レイリー :

ダン・レイリー :
 この遺産の漕ぎ手が仮に生きている可能性など、一から十まで洗い出していてはキリがないというもの。

 残っているものも、あの離島の基地諸共消えたのであれば………。
 いま必要なことはそこではないことも、事実であった。

 ………だが。

『さっきの…ソドムの“処理場”めいたヤツの仮定じゃないが、ひとつだけ思考実験に付き合って貰いたい』

ダン・レイリー :
『………もしもあの実験の献体が、ペンタゴンの与り知らぬところで存在していたとするならば、どういうことが予想される?』

ヘルムート・ヘス :
『……もしもの話か。珍しいことを話すものだ。
 だが、もし存在していたならば……』

ヘルムート・ヘス :
『それは推定される限りにおいて、EXレネゲイドとの共感能力に長けた個体。
 『遺産の器』とも呼ぶべきものとなっている筈だ』

ヘルムート・ヘス :
『あそこでの濃縮実験とは詰まる所、遺物の契約適性を濃縮させることにあった。最後まで残っていた場合は、その特性を継ぎ、遺物との高い契約能力を有している。
 ナタリー・ガルシアが様々な要因で破滅のスイッチを押そうとした際、保険となるかもしれぬ』

ヘルムート・ヘス :
『願わくばあちらがそれを有していない事を祈るばかりだ。そも、あの実験に成功した暁には十中八九彼らは自らの麾下へ加えていたろう。
 幹部の一人に混ざっていたことだろうが、見る限りでそれはない』

ヘルムート・ヘス :
『加えて言うならそうであった場合、既に詰みだ。
 あのトライアルの場に揃っていたものは戦闘用の遺物ばかりだ。そうでなければトライアルが成立しない、というだけの理由ではない。
 ──遺産の器となり得る肉体が生まれた時、『獣』が何をするかなど分かり切っている。そして、あの男は最強を求めていた」

ヘルムート・ヘス :
『獣の強大な自我を開放するために最も相応しい、それに耐えうる器として、トライアルの最後を生き延びた肉体を手に入れる。
 その上で、都市をあくまで己の手で掌握する。人づての支配でなく、完全に自らがそれを御するために』

ヘルムート・ヘス :
『だが少なくとも神はまだ、移民の国を見捨ててはいないらしい』

ダン・レイリー :
『………。
 そうだな。我ながら珍しい話をしたと思う』

ダン・レイリー :
 何もかも仮定だ。

 そうはならなかったこと、そうなり得たこと。
 仮にこれからも芽があるのであれば、阻止の必要があることと、そうした仮定をあまり考えたくはないこと。概ね、過ぎた話で片付け得る内容ではある。

 少なくとも、そうしなくてはならない話ではあった。 

ダン・レイリー :
 ………言い換えるならば。
 彼方の手に渡ってはいけない相手は、ナタリーだけでは“ない”ということになるが。

 これを話す意味はない。
 最初からそのつもりがないことに、今更決意表明は要るまい。

ダン・レイリー :
『見放される前に、捨てたものじゃないと照覧して貰うさ。
 ケリをつけるという宣誓は俺自身のものだが、この国が嫌いになったつもりはまるでない』

ヘルムート・ヘス :
『そうしたイレギュラーが盤上に存在しないことは、旗色の悪い現状でも唯一の救いだろう。
 追い風は吹いている。残すはブラックモア率いるマスターテリオン、そしてエヴァンジェリンと都市の攻略だ』

ダン・レイリー :
『………良くも悪くも、名前すら確かでない不確定要素などはもうない。か』

 アメリカ政府から見たソレは少なくとも“ない”。爺さんの言葉を考えたならば、それが結論だ。
 その不確定でない要素も、名以外のものは分かったもんじゃなかったが、そこはもう此処で爺さんとペンタゴンの知識を借りるだけでは進むまい。

ダン・レイリー :
 ………。
 須らくイレギュラーは整理されたとみるべきで、あと爺さんに頼むべきは『語ること』以外の仕事である。
 “そうだ”と安心を持つためにも、自分の中での情報を整理しよう。

『デトロイトのO-Tec社社長、ゴドフリー・ソーマ。
 ヤツについては何か知らないか? 爺さん、あんたの様子で“ペンタゴンの子飼い”って線はほぼ消えていたもんだが、民間企業がまだシャンバラとつるんでいるそうでな』

ヘルムート・ヘス :
『シャンバラと連携するギルドの人間か。彼については面識があるが、生憎と知っていることは多くない。
 ゴドフリー・ソーマ、42歳。元は日本の巨大財閥、神城の重鎮、相馬家の嫡男だったと聞いている。神城の名は君も聞いたことがあると思うが』
 

ダン・レイリー :
『神城………確かに覚えがある。
 彼方での勤務も短くはなかった』

 だが、その元の人間が何故………。

ヘルムート・ヘス :
『どういう経緯かは不明だが、恐らくは1990年代の湾岸戦争期に癒着が始まったことからFHと関係を持つようになったのだろう。
 そこからギルドとなるO-tec社に赴き、そこで一定の地位を築いたという。現在では非常に大きな基盤の一つになりつつある』

ヘルムート・ヘス :
『社会の裏側に蔓延るFHとて、表社会の活動基盤が無ければ順当に追い込まれるのみ。シャンバラにも彼らが裏で糸を引く政治家や財団を幾つか抱えている。
 O-tec社自体はその中で言えば矮小な部類だ。少なくとも大元のオデッサが持つ影響力と比べれば。
 だがゴドフリーの手腕によって急成長を遂げ、彼自身のコネクションにより販路は格段に広がった。そこで築かれるO-tec並びに関連企業名義の実験施設もだ』

ヘルムート・ヘス :
『しかし彼自身は非戦闘員であった筈だ。商売柄、自衛できる戦力は常に用意しているだろうが、驚異の程で言えばヨーゼフ・メンゲレと大差ない』

ダン・レイリー :
 いちおう、辻褄は合う。
 神城由来の人間であること、版図を積極的に広げて来たこと。
 その才能から、シャンバラのスポンサーとしての側面を持つこと。

 ………唯一意見を尊重されている部分だけが全く分からない。
 非戦闘員であるという点についても確証が持てない、が。

ダン・レイリー :
『脅威の度合いとして、わざわざ前述の面子を差し置いて考えることではない………か』

ダン・レイリー :
 俺は探偵ではないし、ソレにはなれんが。これで漸く、不確定要素は零のはずだ。

ヘルムート・ヘス :
『そうだな。現時点で優先すべきは、既に明らかとなっている三人の筈だ』

ヘルムート・ヘス :
『……他には何かあるかね。
 聞けることは今、聞いておくといい。私自身、何時逮捕されるかもわからぬ身だ。
 たとえそうなったとて、私のいないままでもペンタゴンの連中に君らの作戦に口出しさせんつもりだ』

ダン・レイリー :
 暫し通信越しに沈黙。瞑目する。
 とはいえ、殆どのイレギュラーは整理され、口頭と文面で脅威を記し合うタイミングは過ぎていた。
 あるいはこの作戦も折り返しの、詰めるべきを詰めるところまできているというわけだ。

ダン・レイリー :
『ああ。十分だ。
 目下の疑問点は解消されている』

『………ブラックモアに借りを返し、マスターテリオンおよびエヴァンジェリンを撃破する。
 シンプルなゲームではないが、少なくとも全うせねばならない任務だ』

ダン・レイリー :
 ………そして。
 あの日の戦争にケリをつけるべきである以上、その相手は一人ではなく。
 その縁の一つ。途切れ見限った縁が、いま本当に終わろうとしているのかもしれなかった。
       パトリオット
『ペンタゴンの愛国者達が渋い顔をするかも知れんが………。
 この国をみすみすタイタニックにしてやる気はない。作戦中、彼らと足を引き摺り合って、時代の終わりを仲良く見届ける気もな』

ダン・レイリー :
『………だからあんたの言葉を、今一度信用する。
 あんた自身の中に残っている、最後の一線を』

ダン・レイリー :


 その命をくれ、ヘルムート・ヘス。



 詫びの言葉も、感謝の言葉もない。
 ただ、嘗ての上司であり、恩義ある男であり、先人だった───あるいはほんのちょっとばかりの敬意さえあったのだろうか───男への、恐らく最後の要求が“それ”だった。

ヘルムート・ヘス :
『ああ。……私の行いは、悲願の成就に辿り着くことはなかったが。
   ミーム
 私の遺志を継ぐものもまた、現れることもなかったが。
 
 口惜しいが。やはり新たな時代に、我らの影は不要なのだろう』

ヘルムート・ヘス :
『そうだ。すべては、ゼロから生まれる。
 その縁のすべてを清算した先にこそ、過去の物語は終わり、ゼロから新しいOneが生まれる。

 私諸共に、おまえの過去を縛る枷を。
 おまえたちの手で、我ら老人が残した負の遺産に決着をつけてきたまえ。
 ──本当の、新しい時代のために』

ダン・レイリー :
.Yes,Sir
『了解』

 それは兵士“ホワイト・スカイ”が合衆国軍人として、
 成すべきを成す人間の言葉に応えるためのもの。
 ホワイト・スカイ
 黎明の空を見届けよという最後の命令への同意だった。

ダン・レイリー :
 その新しい時代に生まれ、時代を歩くべきヤツらがいて、自分はちょうど橋渡しのところで生まれた。
 古い時代を生きた彼や兵士からのバトンを受け継いで。

 自らの役割としては、満足のいくところである。故に公的な己に問うこと、戦士の己に問うことはもうなかった。

ダン・レイリー :

 ………。

ダン・レイリー :

 ところで。
 その、公的な己のものでも、
 戦士の己のものでもない言葉が、残っていた。

ダン・レイリー :

『爺さん』

ヘルムート・ヘス :
『……何かな』

ダン・レイリー :

 それは合衆国軍人ダン・レイリーの言葉ではない。
 よって、特に記録するでもない余談だ。

ダン・レイリー :
『あんたのやったことに理由はあったが、理由があったとしても、俺は赦しはしない』

ヘルムート・ヘス :
『承知の上だ』

ダン・レイリー :
『ジョッシュ、アンディ、ロベルト、ハヤト、グレバムの爺さん………』

            おれ
 最初に恐慌状態になった新兵を庇って、いつかの教訓をその身で以て示した老兵。
 覚悟を最初に決め、いつも不死身だと冗談を抜かしていた同僚。
 いつもは自分に負けて来たくせに、あの時だけは、誰よりも勇気のあった同僚。

ダン・レイリー :

『連中の怨念は連中のものだ。それを理由にはしない。
 ただ、それをデータに変えた所業を“過去”で終わらせることはない。出来ない』

 それだけじゃない。沖縄の離島以前で死んでいったヤツ。
 嫌気が差して辞めようとした後のことは知れないヤツ。
 ………あの日に至るまでの自分を積み上げ、今も糧となったもの。

 思うに前も後も出会いには恵まれていたことが、ダン・レイリーにとっての救いであったことは言うまでもないが。

 過去は消えない。“それとこれは別”だ。

ダン・レイリー :
 ………その過去の経緯がどんなものだろうと、知ったところで結果は結果だ。
 仕方がないで終わらせる術を自分は知らない。
 終わらせることが出来る人間がいたとしても。
 そいつに向けるものは敬意であって、それに倣うということではなかった。

 大人になるとしがらみも理解る。今こそ、予想出来る理由に、何の理解もしていないわけでない。
 だがあの日、あの時。
 その時に懐いた感情を“若気の至り”で片付けてしまうようなくたびれ方はしないつもりだった。

ダン・レイリー :

 だが………。
 少なくとも………。

 過去が消失しないものであるならば。
 消失ではなく、昇華するべきものならば。

ダン・レイリー :


『あんたが俺に、どんな理由でも………。

 生きる理由をくれたことについては、感謝している。ずっとだ』

ダン・レイリー :
 あんたが俺に対してやったそのことだけは、
 ・・・・・・・・・・・・
 善果として返って来る善因にする。

ダン・レイリー :
『その答えが、俺のする手向けで、返答だ』

ダン・レイリー :
 曰く狂った碩学とまで呼ばれ………。
 取り返しのつかないところに行き、
 客観的に見て何も残らぬかもしれない男への、己が知る最大の手向けであり。

 あるいは“ホワイト・スカイ”ではないただのダン・レイリーが告げる、最初で最後の別れの言葉だった。

SYSTEM :……………………
…………
……

ヘルムート・ヘス :
 無線機を置き、老兵は隠居先のアメリカの屋敷の中で深く息をついた。
 日が差し込む黎明の空、当時の新兵は今己の思惑を超えて為すべきを為そうとしている。

 ヘスがあの時かけた言葉は間違いなく打算から来るものだ。広げた理念も、そう設計出来るに越したことはないとして、心理学を学んだヘスの知見からくるメソッドに倣ったに過ぎない。

ヘルムート・ヘス :
 だが、少なくとも。居場所を護り、為すべきを為すその意志について、自らは偽ったつもりはなかった。
              ミーム
 言葉にするまでも無く。その意志は受け継がれていたのだろう。

「因果とは奇妙なものだ」

ヘルムート・ヘス :
「彼らの死をただのデータにはすまい。責務を果たして征く所へ行ったことだけは、間違いないのだ。その尊厳を意味で穢すまい。

 ──そして次は、私の番のようだ。随分、手番が遅くなってしまったが」

 役目を果たさねば。そうして、車椅子に置いた何某かのボタンを操作して。

SYSTEM :
 ──機銃のけたたましい銃声が響き渡ったのは、その直後のことだ。

SYSTEM :
 機銃掃射の音。
 窓硝子が割れ、カーテンを翻し、吹き抜けた冬の寒風が暖炉の火を消した。
 

強化猟兵 :
 カーペットを赤いしみが広がっていく中を、ぞろぞろとペストマスクの衛兵たちが機銃を片手に踏みしめて入り込んでいく。
 死を運ぶ鳥たちの中心にいたのは、しかしその縁者とは違っていた。

SYSTEM :
 衛兵たちに交じって部屋に闖入した男は、その風景を何の感慨もなく見つめながら、下がるよう手で兵士たちに下知を下す。

SYSTEM :
 カーペットを踏みしめるブーツの音が、転がった薬莢を蹴り飛ばしながら進む。
 生死を確かめるように足蹴にして転がしたところで、男の懐から携帯の音が鳴り響いた。

"鉄腕"ゴドフリー・ソーマ :
 暫く着信音が鳴り響く中、入念に転がった何某かを注意深く足で転がし、漸く男はその電話に出た。

"鉄腕"ゴドフリー・ソーマ :
「……私だ。
 ああ、取引先へ向かう手前、野暮用を済ませたところだよ」

"鉄腕"ゴドフリー・ソーマ :
「金にはならんが、商売の邪魔だ。
 いずれ始末せねばならん相手だったのだから、この局面で潰せたのは僥倖というべきかな」

"鉄腕"ゴドフリー・ソーマ :
「新しい時代を作るのは老人ではない。頑迷な第三帝国の亡霊には、悉く退場願わねば。
 無論、ペンタゴンにも。UGNなどという面倒な手合いにも、だ」

"鉄腕"ゴドフリー・ソーマ :
「そんなことより、例の機体の開発は手筈通り進んでいるんだろうな。
 ……よろしい。勤勉さは人間の美徳だ。ロールアウトには私も立ち会うとしよう」
 

"鉄腕"ゴドフリー・ソーマ :
「……そうだな。血と戦争は金になる。
 此処で捨てるのは、あまりにも惜しい」

"鉄腕"ゴドフリー・ソーマ :
「では例の場所で落ち合おう。
 新たなる、新時代のために」
 
 言いつつ、男は電話を切る。

SYSTEM :
 男は適当に片づけておけ、と顎で下知を下し、その場を後にした。
 碩学と呼ばれ、国家によって人民を支配しようとした怪人の、あまりにあっけない幕切れだった。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 イベントシーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ダン・レイリー :何時も通り………僕自身に変更するロイスはないな。

ダン・レイリー :ずっとタイタスだったものが裏返ることもない。これが正しく昇華される時があるなら、それは任務を果たすべき時だよ。

GM :成程……クールだぜ大尉

GM :了解ですです

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……




【MIDDLE ⑭ - 戦闘-市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ"】

SYSTEM :
【MIDDLE ⑭ - 戦闘-市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ"】

登場PC: Syou Kain
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 奇しくも二人が陣取ることとなるのは、最初にニューオーリンズの地を踏んだ場所の近くだった。
 バーボンストリートから十数キロ先、彼らの人々の営みから僅かに離れた工廠にて、それは発見された。

 ミシシッピ川へと通ずる地下搬入口。恐らく、そこから件の機体は幾度となく出動し、その機動力を生かしてニューオーリンズの街に強襲を仕掛けてきたのだろう。
 

SYSTEM :
 敵の攻撃の拠点となる地区。此処を潰せば、難所ニューオーリンズの攻略に大きく前進するだろう。
 ……本来、敵地の相当はナタリーとダン・レイリーが専ら務めてきた。だが今回は電撃戦を仕掛けるにあたり、二人を温存して鐘と勇魚が担当することとなっていた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 勇魚と鐘は、敵の工廠の地下基地に乗り込む最中だった。
 二人は地下隧道を気配を殺しながら(片方が隠しきれているかは不明だが)、敵地へと進んでいるところだ。
 勇魚は特に無駄口を開けることなく、淡々とした様子で足音を立てずに先導していた。その表情は、鐘の方向からは見ることは出来ない。

灰院鐘 :
 無音の歩行に、抑えた足音が続く。
 郊外に潜伏する敵の拠点へ向けて、ふたりは狭隘な道を進んでいた。

 ……と言っても、青年がいる必要はあったのかどうか。いざというときの盾を務めるにしても、こう気配が漏れているようでは、彼が原因で「そのとき」が来てもおかしくはない。

灰院鐘 :
 先導する背中を、そっと伺い見る。彼の相棒が必要以上に口を開かないのは、いつものことだ。だが……

灰院鐘 :
"その代償は『感情の欠落』。悲哀を喰らうことで燃え上がり、赫怒を喰うことで膨れ上がる。その感情を遣って、力を後押しするもの"

灰院鐘 :
「だ」

 いじょうぶ、と問いかけた口をつぐむ。

灰院鐘 :
 そうであろうと、なかろうと、彼女の責務に変わりはない。
 青年は自然とナタリーとリリアを思い起こし、同時に、勇魚が口にしたいくつかの言葉を振り返った。理念。矜持。証明。そして──為すべきこと。

灰院鐘 :
「……んがんを受けとめる練習をしたんだ。アトラくんに手伝ってもらって」

 強化猟兵の防護を貫く射撃は、守り手の彼にはちょっとした天敵だ。さあどうぞ、と立ち尽くしてめいっぱい撃ち込んでもらったとかナントカと聞くに耐えない説明が続く。

灰院鐘 :
「だいたい狙われるのはお腹か頭だろ? お腹は力を込めればいいとして、頭はどうしようって」

灰院鐘 :
「そこで考えたんだ。頭突きの衝撃で威力を相殺するのはどうだろう」

 ものすごくまじめな声が、敵地にちいさく残響した。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「…………」

 灰院鐘が同行した合理的な理由は特にない。殲滅だけならば勇魚だけで十分なことは、恐らく承知の上だ。
 それでも彼が同行したのは……きっと、その然るべき時を見届ける時が来た故だろう。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 その腕に宿した必殺の異能、その性能を見せる時。なのだが。

「…………ここは敵地ですよ、"ラフメタル"」

 溜緊張感のない声に対して、何とも言えなさそうな表情でため息交じりに少女は釘を刺す。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 語られた内容については最早突っ込む気も起きないようだった。彼女はいつものように生真面目な様子で応えを返す。
 そこに感情の揺れは見えない。迷いもまた。

「研鑽は結構ですが、それを今試すことは控えてください。
 ……今回は、以前の機械化兵のようにはいかないでしょうから」

灰院鐘 :
「そっかあ」ざんねん、と頷く。

灰院鐘 :
 勇魚の迷いのない姿に、かえって青年は胸が痛んだ。刺すような疼きに内心で首を傾げる。為すべきことを為す。その正しさと頼もしさを知ればこそ、悼む理由などないはずなのに。

灰院鐘 :
 かぶりを振って、青年はいつものように微笑んだ。

「守りは任せて」

 いまだ慣れずとも、彼にも守護者として与えられた役割がある。
 必要性の有無はあえて口にしない。いつであろうと、どこであろうと……あるいは誰であろうと、そうすることに変わりはないのだから。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「はい。……頼りにしています。
 ………………」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「もう、三週間も経ちますね。
 最初にこの街を見て回った時から」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「出来れば、あの時過ごした時間ぐらいは燃え残っていて欲しいものですね」

 普段の調子で語る言葉は、しかし幾分か寂しげに聞こえた。

灰院鐘 :
「……うん」

 代わってあげられたら──いつか投げかけた愚問は今も、彼の裡に燻っている。理屈としても、理念としても、不可能だと直に突き付けられてなお残る思いは、熾火のようだ。

灰院鐘 :
「もし焚べられても……僕が憶えてるよ。この先も、ずっと」

灰院鐘 :
「いつか君に思い出を語れるように」

 ……先の展望など、彼にはない。長く続くような生き方をしていない自覚くらいはある。

 それでも。
 彼は余程あの言葉が気に入ったらしい。

 "未来に希望を持つなんて言葉は、その程度に無責任で、自分のためだ"

 自分のぶんがあれば、誰かにあげられる。目の前の少女の前途に光があることを、鐘はただ祈るばかりだった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「────そうですか。
 少し、安心しました」

 静かに告げて、勇魚は最後に残った心のしこりを振り切った。

SYSTEM :
 ────そして。
 長い隧道を進んだ先に、二人はその姿を見出した。

SYSTEM :
 地下隧道を抜けた先に不自然に存在したスペースの中、二人はまさに帰投した鋼の鬼。
         カリギュラ
 O-tec社の試作機、暴君 の名を冠する機甲猟兵の姿を見た。

SYSTEM :
 水陸両用、高機動力を持ち、搭載した武装の破壊力は押して図るべし。
 出力の向上した高周波振動バイスは、恐らく以前鐘が受け止めたものとは比較にならぬほど切れ味が上がっている。

SYSTEM :
 斃せぬと言うほどではない。これまでのエージェントを斃してきた腕を以てすれば、決して敵わないというものではない。
 だが、犠牲失くして倒せる戦力でもなかった。
 願わくば見つからず直接戦闘を避けて爆破したいところだが。

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :
 どうやら相手はそれを赦してはくれないようだ。白兵戦用に高度に研ぎ澄ませたレネゲイドの粒子を感知するセンサーが、過たず未登録の因子に反応した。
 まるで自我持つ獣のように。二足の歩行戦車は剣を思わせる流線形の身体の切先をこちらに向けた。

強化猟兵 :
 それに合わせ、すかさず警戒に当たる強化猟兵が駆けつける。
 ブラックモアの私兵にして、記憶の中に生きるアバドンの鴉の軍勢。最早何度となく戦ってきた猟兵たちは、素早くカリギュラの弱点となる足の関節部分を護るように陣取った。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……気付かれることは承知で近付いたものの。
 流石に、動きが早い。やはり交戦は避けられないか」

 狭い地下工廠の中、銃火の筒先が一斉に向けられて尚、勇魚は沈着冷静を保ちながらそれらを前に一人ごちた。
 

灰院鐘 :
「僕のせいかも。ごめんね」

 困ったな、とのんびり呟いて隣に立つ。
 あいかわらずの徒手は、しかし既に不可視の引力が働いている。対敵を構成する物質が、地下基地を築く要素が、彼にとってはほんの少し手を伸ばせば届く部品だ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「構いません。今に始まったことではありませんし。
 別段、結果が変わるわけでもなし」

 寧ろかかる迷惑が私だけならマシな方。などと軽口を叩きながら

灰院鐘 :「よかった!」よくはない

灰院鐘 :
「アラスカで見た機体より、ずいぶん進化したみたいだね。さすがに痛そうだ」

 それにしても、と。
 巨大なブレードを仰ぎ見ながら、まるで受ける前提みたいに感想をこぼす。

「あのときと違って、サポートもいるし。うん、でも……」

灰院鐘 :「君の敵じゃない」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「当たる前提の話をしないでください。
 ……それに」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──当然です。
 私は、私に頂いた者へ報いるため。この時の為に、力を磨いてきたのですから」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 すぐ隣に傍立つ鐘から一歩、敵の前へ出る。
 その眼差しには、その右手に封じられた力を紐解く覚悟が伺えた。

灰院鐘 :改めて、勇魚くんの力を借りたい。『極大消滅波』をお願いするよ

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :──了解です。為すべきを、為します

SYSTEM :
 少女は一瞬、眼を伏せて思いにふける。
 戦場の中、瞑目して回想するには、その一瞬で事足りた。
 いずれも餌とするなどという下心ありきで積み上げたものでは断じてない。それを、今薪としてくべる決意を固めた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

──────右手を伸ばす。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 右手を伸ばす。前へ。
 或いは、立ちふさがる鋼の騎兵たちへ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 凪いだ勇魚の心に灯がともるように。
 まるで炉心が動き出すように。
 それに合わせて、遍く周囲の酸素が飢え、熱量を上げていく。
 まるでそれは、太陽が降りてきたような。

強化猟兵 :
 瞬間、歴戦の戦士たちは己の致命を察知した。
 初見でありながら動物以上に研ぎ澄ませた経験と感覚が、全力で警笛をかき鳴らす。
 あれを撃たせたら、拙い。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 向けられる殺意をものともせず。

 炎神の士師は、その白く輝ける右手を伸ばし続けた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

 勇魚は既に捉えている。
 迫る鋼の鬼神、"カリギュラ"のすべてを。

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :
 両の腕に搭載された鋼の爪。
 あれこそが死だ。圧壊する魔腕。すべてを圧し砕く高周波振動バイス。
 触れるすべてをねじ伏せ、蹂躙する破壊の爪。

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :
 その最大火力を以て放たれるくろがねの鉄槌が、解き放たれる。

 向けられる殺意の先は、泰然と佇む勇魚へと!

SYSTEM :
――大地を引き裂く腕が振り下ろされる。

――速い。目では追えない。

SYSTEM :
 生半な能力者では耐え切れまい。
 高い再生能力を持った《エグザイル》のオーヴァードや、
 《キュマイラ》のオーヴァード以外には。

SYSTEM :
 もしも直撃を避けられたとしても、
 連続する衝撃波によって打ち殺される。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 しかし、生きている。
 勇魚は、まだ。
 傷ひとつなく、立っている。
 機鬼の魔腕が裂いたのは虚空のみ。

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :

『────────!』


 鋼の魔腕は。
 触れることさえ、敵わなかった。
 微動だにせず、そこに立ちながら、右手を翳す炎を前に、その両足が解けて頽れていた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

「――――――――遅い」

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :
『────────!』

 膨大な熱エネルギーの反応を前に、足掻くようにそれは口部に搭載された熱線を吐き出そうと蠢いた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

「――――――――喚くな」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 それは、人の身には抗えないもの。
 確かに、人なれば何もできないものだ。
 ──けれど。けれど。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 ──けれど。どうやら。
 彼女の"御手"は、人ではないらしい。
 

市街戦仕様大型機械化兵"カリギュラ" :
 頤を開けようとした鋼の顎が、その熱量に耐え切れずショートする。
 溶解した鋼が射出口を塞いでいた。
 最早それは、何の抵抗力もなく。
 王の前に、膝を屈するが如くに鉄の身体を横たえた。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 首を垂れる巨躯へ向けて。
 彼女の手が、翳される。
 遍くすべてを焼き焦がす炎神の手が。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 炎の怒りが、その手が。
 周囲を炎獄に変えていく。
 
 それは、炎神の士師の腕。
 始まりの炎。原初の種火。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 そして、彼女は、そう告げる。
             な
 その右手に備わりし、神の咒を。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :

  ローカパーラ・ヴァイシュヴァーナラ
「『昇天し遍照す祖なる篝火』――――ッッ!!!」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
メジャーアクション:《極大消滅波 LV7》
対象:

効果:小規模戦闘エリアを制圧扱いとする

SYSTEM :
 ──────────────────────!

SYSTEM :
 広がる光明。
 極限まで高められた輻射波動によるそれは、最早砲撃に近し。
 悉くを爆ぜ飛ばし、遍くすべてを炎にて清める。

SYSTEM :
 抗う暇さえなく。
 その身から這い出る鴉たちさえも、一滴の血を奪わせる暇もなく。

SYSTEM :
 僅かな一瞬のうちに、光はすべてを焼き尽くしていった。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 眩い光が晴れて。
 鐘が捉えたのは、一面に広がる灰燼と。
 その中に一人立つ、小さな後ろ姿のみだった。

灰院鐘 :
 すべてが、光に消えた。

 血の焦げる音も、鋼の融けた臭いもない。
 眩んだ視界のなか、感じるのはただ肌を焦がす熱と──

灰院鐘 :
 ──圧倒的な存在感。
 巨いなるものの顕現を、五感に依らない知覚で捉える。

 その意味を正しく把握するだけの知識と知性は、青年にはない。
 だが、だからこそ彼の理解は本能的だ。人たるものと、人ならざるもの。遺産とは、絶対の境を侵すものだ。

灰院鐘 :
 ……こんなものを抱えて、彼女は生きてきたのか。

 とうに聞かされていたはずの事実が、実感を伴って青年に重く圧し掛かった。

灰院鐘 :
 ・・・・・・・・・・
 同じ土俵には立てない。
 その故は……力量の差でも、使命の有無でもない。

 人の在り方を狂わせる呪いを宿して、なお人として生きること。
 戦いの場が、戦うべき相手が、違っていたのだ──初めから。

灰院鐘 :
 ……額を拭う袖は、濡れもしなかった。
 青年は小さく息をついて、そこでやっと呼吸を止めていた自分に気付いた。

灰院鐘 :
 光が晴れ、視界が戻る。
 地下に燻る残火が小さな背中を照らしていた。

 降りつもる灰燼のなか、ただひとり。

灰院鐘 :
 同じ時間を生きられない。今を生きるものではない。
 ……少女の孤独と不安は、人として生きるかぎり付いて回る。これまでも、これからも。

灰院鐘 :
「勇魚くん」

 いつもとかわらない、おっとりとした声が呼びかけた。
 踏み出した勇魚を追うように、大きな一歩で隣へ。

灰院鐘 :
 横髪に隠れた表情を覗くことはしなかった。
 振り仰いでくれると信じていたのか、ただ待ちたかったのか。それは青年しか……いや、彼自身にこそ分からなかったが。

灰院鐘 :
「かっこよかったよ」

灰院鐘 :
 ……遠く離れても、信じて待ち続ける。それは決して、灰院鐘にはできないことだ。

 歩幅の大きすぎる彼は、きっと置いていくばかりで……
 追いつけない相手には、開いた距離をどうすることもできない。

灰院鐘 :
 だが──

 今、この時は。
 隣にいる。傍にいて、重なった道を歩んでいる。

 共に戦う友であり……相棒として。

SYSTEM :
 悉くが塵芥と化し、まるで巨大な爪が抉り取ったかのように地形が消し飛ぶ。

 地下基地一帯を焦熱で焼き尽くし、貫通した熱は天井の一部に穴をこじ開けていた。

SYSTEM :
 灰燼の上で残火が躍る中、差し込んだ日差しが少女を照らす。光と影は、まるで両者の隔たりを示すようにも見えた。
 その境に、青年は踏み出し、越えて、勇魚の隣へ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 遠い場所にいるかのようだった少女。
 既にその声も届かない高みへ立っているかのような、しかしその振舞いに反して少女は、鐘の声に一拍遅れて応えを返した。

「──どういたしまして。
 無事でしたか、"ラフメタル"」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……消耗が厳しい。これは今の私ではまだ抑えきれない力です。
 あなたにまで被害が及んでいなければよいのですが」

 語る口振りは、やや疲労が見られるが概ね大きな変化はない。
 いつもの様子で振り返る表情には、鐘に対する忘却の兆しは見られなかった。
 彼女にとっても、まだ鐘は己のバディである、と……そう認めているからこその応じ方だった。

灰院鐘 :
「……だいじょうぶ! ちょっと熱かったけど」

灰院鐘 :
 いつもと変わらない勇魚の応対に、しかし青年が懐いたのは安堵ではなかった。

 あまりに地続きなしぐさは、ともすれば期待すらしてしまいそうだ。
 何も失わずに済んだなどという、安い幻想を。

灰院鐘 :
 ……信じてはいない。まやかしは、所詮まやかしだ。
 実像の世界に存在できないからこそ、幻は想われる。

 だからこそ、灰院鐘は想うのだ。
 彼女から失われるものがあるのなら、
 それは自分に纏わる記憶であればよかったと──

灰院鐘 :
 無事を問われて、へいき! と笑う青年は、いつにも増して無頓着だ。しかし勇魚の目から見ても、すこし前髪が焦げているくらいで、なんの影響もないことが分かる。

灰院鐘 :「それより君のほうが心配だ。ここからは背負っていこうか?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「そうですか……良かった」

 何処か気を張っている様子だった少女の顔が、僅かに和らいだ。とても安心した様子で、息をつく。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
 鐘の胸の奥に抱いた心境を、今は勇魚は覗かない。見えても見えぬふりをした。
 彼がそういう青年であることも、自らがその負債を負おうとしたがったことも、勇魚はよく覚えていたからだ。

「……いえ、私は」

 左の手で制するが、同時に緊張の糸が切れたように片膝がひとりでに折れ地面につく。咄嗟についた右手が、地面を白く白熱させ蕩けていく。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……すみません。お願いします。
 右手に触れないよう気を付けて。余熱だけでも、この通りただでは済まない」

灰院鐘 :
「勇魚くん!」

 和らいだ表情に微笑みを返す間もなく、小柄な体が頽れ、地についた片手が舗装された地面を灼き融かしていく。

灰院鐘 :
「うん。まかせて」

 青年は頷いて、慎重に勇魚の背へ手を回した。
 自らが傷つくことを恐れてではなく、少女の負い目にならないために。

 背負うのはあきらめて、胸の前で抱えあげる。

灰院鐘 :「あっ」

灰院鐘 :「そういえばね、ディアスさんに教わったんだ。こういうときは『羽みたいに軽い』って言うんだって」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「……他の抱え方はなかったんですか。
 いえ、この際注文は付けません」

 やや不満げな視線を向ける。こういう運び方をされるのは慣れていないのだろう。

灰院鐘 :「?」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「もう結構です」

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「はあ…体格差を考えれば当然と思いますが。
 覚えておきます」

 いまいちピンと来ていない様子の反応だ。ともすれば災害救助の折に似たようなことを口を滑らせるやもしれない

灰院鐘 :
「それじゃあ帰ろっか」

 ゆっくりと歩きだす。歩みは遅鈍でも、歩幅があるぶん進んでいく。
 少しだけ弾んだ足取りは、彼なりの気遣いだったのだろうか。

灰院鐘 :
 人知らず消えていった時間への哀悼は、胸にしまわれたまま。

 失うためではなく、生きるために積み重ねたもの。
 それを、勇魚は覚悟と共に焚べた。

 ならば。重なった時間を憶えておくことが、鐘にできる数少ないことのひとつで……

 敬意と信頼、そのあかしだ。

”炎神の士師”勇魚=アルカンシエル :
「──そうですね」

 勇魚は失せものを自覚しない。その力によって何が代償となったのかを、最後まで識ることは叶わない。
 炎神、ヴァイシュヴァーナラの燔祭に捧げられた贄は、その煙を、思いの残滓を天へと立ち昇らせていく。

SYSTEM :
 失せた者への哀悼は、自分でない誰かがしてくれる。なればこそ、それで勝ち取ったものをこそ、残ったこの手でかき抱く。
 彼女はそれで構わなかった。割り切ったと言い切れないが、一度決めたことでもあった。

 ──そして、戦の終わりを告げる狼煙を後に、二人は帰るべき仲間の元へ帰投する。
 これまでのように、変わりない様子で。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 イベントシーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

灰院鐘 :勇魚くんにロイス……

灰院鐘 :……は、もう取ってあるからGMとハグさせてもらおう! いつもありがとう!

GM :おおお!おお!お待ちください!

GM :あーう

灰院鐘 : 

GM :了解ですです(しゅぽ

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
判定に成功しました。
New Orleans:sectorBを制圧しました。

SYSTEM :
【WARNING!】

 1エリアのセクタをすべて攻略したことにより、ボスイベントフラグを経過しました。
 イベントシーンの情報が一部開示されます

SYSTEM :
【Information】

 イベント条件が開示されました。

SYSTEM :
イベント:洋上プラント『屍禽城』攻略戦
発生条件:エリア『NEW ORLEANS』のすべてのセクタを攻略する。
内容:  何らかの条件の下で『ブラックモア』と戦闘を行う。
終了条件:敵対ユニットを戦闘不能、或いは戦闘から離脱する。

SYSTEM :
推奨条件……
 ・ユニット四体以上
 ・範囲攻撃あり
 ・同一エンゲージ攻撃可能
 ・カバーリングエフェクト所持
 ・高火力単体攻撃可能

GM :話の中での開示はまあRPがいい感じに転べばやるつもりですが

GM :次は敵基地の洋上プラントを攻め落とすぞ!という話ですです

灰院鐘 :がんばるぞ~!

ダン・レイリー :了解した。鴉の巣は海上と来たか…

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :ワタリガラスよろしく、というところですね。
となると……

水無瀬 進 :先に準備が要るかもね。購入判定は出来ないけど、話を間に挿入する事も出来ると思うよ

水無瀬 進 :実際に投入する面子も選定していいかもだ。まあ、今は全員投入して、手数のいると割れてる訳だから、いっそ全投入もアリかもだけど

ダン・レイリー :そうだな………ルイジアナに“ヤツ”の存在は確認できていない。戦力を投入するなら、いまが好機とも言える状況だ。

紅 蘭芳 :彼の相手までしてたら手が回りませんからね。今のうちに畳みかけて各個撃破です!

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :ま、いままでうちら温存してきたわけだし、ここらが吐き出し所じゃない?

"千刃空夜叉"レイラ・イスマーイール :で、どうすんのさ。ここは全ツッパしかないっしょ

ダン・レイリー :機を見て逃がすわけにもいかない…。

ダン・レイリー :ならば先の“コードトーカー”に対する配分と同じだ。総力を挙げてブラックモアを撃破、シャンバラの牙城を崩す───。

ダン・レイリー :ルイジアナにいるチーム全戦力だ。すまんが命を貸してもらうぞ。

アトラ :さんせーさんせー!あいつの言ってること、何かイヤだし!みんなで行ってぶっ飛ばしちゃおう!

灰院鐘 :こんなものでよければいくらでも!

ブルー・ディキンソン :まっかされまーす。戦ってナンボ!

GM :そしてここからボス戦となりますが

GM :この間に色々シーンを挟むことも可能です

紅 蘭芳 :戦闘に入る前にNPCカードを切っておくのも手かもですね

ダン・レイリー :ああ。とはいえ、事前に可及的速やかな手当をしておく必要がある負傷者もいない…

灰院鐘 :げんきだよ~!

ダン・レイリー :速やかな意思表示でよろしい。 

ダン・レイリー :ミナセからの支援活動も、現地の想定規模を考えると、逸って使うもんじゃないな。悪く言えば行き当たりばったりだが、いざという時の隠し玉としておこう。

ナタリー・ガルシア :私も万全ですわ

ナタリー・ガルシア :(セルフで髪をたなびかせて仁王立ちする)

ダン・レイリー :今の今からその調子なら尚よろしい。…連中は何だかんだと言って戦争馴れしてきた奴らだ。長丁場になるし、疲労も避けられん。飛ばし過ぎてバテるんじゃないぞ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :"アンサーシーカー"……インスピレーションについてはどうでしょう?
ここで切るより、他に使う機会があるかもですが

ダン・レイリー :む。そうだな………。

ダン・レイリー :………個人的には………人事を尽くした目先ではなく、もう少し待ちたい。皮算用やら宝の持ち腐れにするつもりもないが、急いで判断し要請するカードではないと考えるよ。

"悪党共に鉄槌を!"ミリア・ポートマン :今の所、着実に進んでいますからね。
了解です

ブルー・ディキンソン :……じゃー準備の間に、あたしちょっと電話するところがあるから。

ブルー・ディキンソン :あたしはそれやっていいかなGM。相手はまあ……もちろん同じ格好したあの女。

GM :オーケイです! では次のシーンはそちらですかね

ブルー・ディキンソン :ん、サンキュー!

GM :では他になさそうなので、早速展開していきますますます

SYSTEM :
インタールードシーンを開始します。
インタールードを展開しています……




【INTERLUDE ⑮】

SYSTEM :
【INTERLUDE ⑮】

登場PC:Blue
登場侵蝕:なし

SYSTEM :
 ニューオーリンズ反転攻勢。その要となる敵基地が判明した後、強襲のために準備を進めている頃のことだ。
 ブルーは自身に課せられた使命を成し遂げ、また合衆国の暗部や動向に掣肘を利かせたことで、今度こそ自由の利く身となった。
 ならば多少なり私的に動く余地も生まれてくるものだ。

SYSTEM :
 この最後の時間、装備の点検が終わり暇を持て余し、折よく他のメンバーとも別れたタイミングで、彼女はやっておくべきことがあった。

ブルー・ディキンソン :
 頸のインプラント回路を介した直通連絡は、あまり人前で見せるものではない。
 ケーブルを直結させているときの姿は無謀で、切ってからではないと行動が取れない。
 だから、ミリアの時もそうだ。
 こういう時は常に一人、理由をつけて一人にならなければ。

 ……最も、くだんのミリアを解放したこともあるし。
 もう今作戦中にこれを使うことはないと踏んでいたのだが……。

ブルー・ディキンソン :
「ったーく……、""お礼""ぐらい言わなきゃ気が済まんネ……」

 別に怒ってはいないし不機嫌でもないが、
 掛ける相手が一人だけいた。

ブルー・ディキンソン :
 適当に借りた安いホテル。
 そのベッドの上に体を沈めて、ブルーは自分の頸にケーブルを直結させた。
 ネットワークの上に自らの意識をのぼらせながら、記録上にある回線へリクエストを送信。

 仕込みの一環であたしがこの一件に関わる最初の"シャンバラ"の情報をもたらし、
 仕込みの一環であたしをコードトーカーの根城へ送り込むひと芝居を打った、

 あのにっくき同業者にである。
 別に憤ってるわけではないが。

SYSTEM :
 宛ら眠るようにネットワークにダイブし、記録された秘匿回線にアクセスを開始。
 自らのコネクションの一つ、情報屋の体で幾度かやりとりを続けていた相手へと通信を試みる。

 応答は早かった。相手が誰であるか察しはついていたろうに、特に気にする様子もないようだ。

情報源 :
『……ふふ、どうやらご無事のようですね。
 安心しました。伊達に修羅場は潜っていませんね』

情報源 :
『それで、今回はどのようなご用事で?』

ブルー・ディキンソン :
「何を……、
 何をいけしゃあしゃあと……」

ブルー・ディキンソン :
「ぜんっぜん無事じゃないわっ!!
 解体されそうになるし胴体に穴は開くしミリアはうっかり殺られかけたしで大変だったんだぞぅおい!!」

 ──即座に捲し立てた。

情報源 :
『生存出来たのですから良かったではありませんか。
 それに恐らく後者二つは私の管轄外ですね』
 

情報源 :
『前者についても直接敵地を探索するには必要なリスクの筈。一刻も早く、ミリア嬢を助け出したかったのでしょう?』
 

情報源 :
『ブリュンヒルデの眠りを覚ます役目を負ったからには、燃えるオーディンの館ぐらい踏破していただかなければ』
 語る言葉には全く悪びれる様子もない。直接目にしていなくても表情が目に浮かぶようである。

ブルー・ディキンソン :
「詩人かおのれは!!」

ブルー・ディキンソン :
「…………まぁ、まぁ、それは事実だし。
 一時的にメモリーロックをしていたとはいえ、後からそれは分かってたし。
 ……それはそれとして出し抜かれたの事にムカついただけだし……」

 ごにょごにょ、と言い訳を述べる。

「……それはそれとして」

情報源 :
『素直でよろしい』
にこにこ

ブルー・ディキンソン :
「ギッ…………」

「……ゴホンゴホン、まさかバージニアから来たラングレーさんとは驚きでしたけどネ!!」

情報源 :
『おや、お気付きでしたか。それとも、わざわざ言質を取りに?
 まあどちらでも構いませんが。概ね裏方は手筈通りに事が進んだようですから』

ブルー・ディキンソン :
「後者よ」

情報源 :
『それは重畳。尤も、表では飽く迄フリーランスの情報屋として通っていますので、そのように扱い下さいませ』

ブルー・ディキンソン :
「あいよ──……まあ、それはお互い様だろうしね」

情報源 :
『私の任務はあなたたちのサポートと、裏方の交渉の円滑化。つまりは悪友との縁切りの手伝いをしていたわけです。
 あのまま静観してはあちら方に重く踏み倒し難い貸しを作る羽目になりますから』

情報源 :
『それにこれも貸し借りの範疇の一つ。
 あなたは今回の一件でCIAとのコネクションを得ることとなるのですから。そう悪い取引でもなかったのでは?』

ブルー・ディキンソン :
「……そりゃまあ、ヤセネヴォの連中に比べたら、話のわかるやつと通じるのは良い事だけど」

ブルー・ディキンソン :
「そこについては、あんたの手際の良さから"アタリ"をつけられなかった、あたしの落ち度だあね。
 ま、ま、西側で仕事する時は大体おたくらラングレーの目からは逃れられないしネー」

ブルー・ディキンソン :
「まあ、この事に関する言質を自分で取っておきたかったってのは本当のことなんだけど……、
 どっちかっていうと、あたしが本題として聞きたいのはO-Tecの事かな」

「ミリアからは色々聞いたけど、人伝よりは本人の口から聞けることもあるかもねって」

 諜報の現場においては重要機密は書類やデータでははなく、
 人間の脳をバンクにすることも多々ある。
 実際のところ、彼女がどこまでの情報を提供しているかが気になった。
 現地諜報員の"所感"というのも、この際は大きな情報源となる。

情報源 :
『ご理解いただけて何よりです。
 では今後とも御贔屓に。あなた方といると退屈しませんから。
 ……それで、今回の御用件というのは、あの軍事兵器開発会社についてですね』

情報源 :
『あの会社がギルドの一員であること。
 シャンバラと密接な関係を築いており、機甲猟兵の製造元となっていること。
                            ロンダリング
 シャンバラの闇取引によって得た莫大なヒト、モノ、カネを 洗 浄 し、それら資金を元手に合衆国各地にシャンバラの戦力を配備していること。
 その辺りは概ね把握しているようですが』

ブルー・ディキンソン :
「手広いねえ……羨ましい限りですこと……。
 
 まあ、そうだね。
 その辺は概ねミリアから聞いたことだけど……しかし随分大規模だね。
 工場にしても、どっかデカいところおっ立ててたりするんじゃないの?」

ブルー・ディキンソン :
「機甲猟兵にしたって結構な数でしょ。
 コソコソやってる風には見えないっつーか……」

ブルー・ディキンソン :
「その辺も実は掴めてたりしなーい?
 こっちも米国内の敵の一掃の具合が良くなってきてるし、
 そこまで急成長してると大元のシャンバラを絶っても生き残りそうだし……一応ね?」

情報源 :
『そうですね。プロジェクトが肥大化するにつれてその手の穴は広がるものです。
 基本的に部品の製造はシャンバラの息のかかった研究セルが、民間企業を装い、或いは金を積んで製造させていたといいます。
 それらを幹部セルリーダーの管轄の巨大な工場に集め、各種オーヴァードの技師の元で組み立てられていたようですが』

情報源 :
『一部の機体に関しては恐らく、あのプラントで製造されていた。カリブ海洋上に敷設されている、と情報のあった、あのプラントですね』

情報源 :
『しかし、あんな場所にあんな規模のプラントが築かれているとは夢にも思いませんでしたが。
 あのプラントには高度な迷彩が施されていました。衛星上からでは確認できず、また廃棄物に関しても海上の調査が及ばないよう処理されていたようです』

ブルー・ディキンソン :
「念入りだな……ま、当然か」

情報源 :
『宛ら地図にない島とでも言いましょうか。
 量産体制が整うまで、ここで試作機が製造されていたのでしょう』

情報源 :
『それにシャンバラの根絶自体は現時点では考えない方がいいでしょう。
 ラングレー
  我 々 もそこまでは要求していない』

情報源 :
『元々、シャンバラは非常に大規模である反面、その繋がりは緩く、問題となっていたのは幹部組織から流れるレネゲイド関連資源でした。
 そこを断てば、自ずと『力』によって集まった組織は瓦解するでしょう』

情報源 :
『既に製造された分の部品で、別途戦力を組み立てるセルもいるでしょうが、影響力で言うならシャンバラと比べれば微々たるもの』

情報源 :
『後は、新しいパートナーの方々のために仕事を残しておくとしましょう』

ブルー・ディキンソン :
「こんなカラダなもんだから、技術面についてはちょっとばかし興味がね。
 その行く先はどうなるかなーって、まぁ、甘い汁を啜ろうだなんては思っていないけど……」

「うん、まあ、トップをシバけばなんとかなるってのは楽な話だ。
 あたし的に言えばスマートだね……で」

ブルー・ディキンソン :
「なるほどプラントか。
 そっちの方が重要っちゃ重要だ……、
 衛星上からも確認できないステルスプラントっていう事は、
 そのプラントに関しては、これ以上の情報はなさそうと見ても良いの?
 ステルスの件と、試作機の件と、カリブ海の方にあるってくらいか」

「……まあ、ラングレーのあんたが"驚く"くらいだから、
 よっぽどの代物なんだろうけどさ……?」

情報源 :
『まさか、買い被りですよ。
 私は運命の主役でもなく、それを変える立場でもない、常に時の歯車の一部。端役に過ぎません』

ブルー・ディキンソン :
 返事の代わりに吐息一つ。
 「よくいう」と言いたげな感じだった。

情報源 :
『ただプラントの規模について、その観方は正しいかと。私見を述べれば、あれだけの規模の洋上プラントは私も始めて見ます。
 多くの強化猟兵部隊が徘徊し、軍艦、武装ヘリ、地対空ミサイル、そして水陸両用型の機甲猟兵が新型量産型合わせ凡そ十機前後。
 まさに海上の軍事要塞。軍事力の規模で言うなら小国に相当します』

ブルー・ディキンソン :
「……………………マジ?」

情報源 :
『つくづく恐ろしいものですね、オーヴァードの力というものは。此処なら現存の技術でも、アメリカのあらゆる場所をミサイル攻撃が可能。
 縦しんば残した状態で計画を発動させれば、文字通りに本土は火の海という訳です。
 これだけの規模の構造物を今まで見逃すことになろうとは……逆に感服いたします』

ブルー・ディキンソン :
「…………、
 …………、
 …………」

ブルー・ディキンソン :
 絶句。
 流石のブルーも、そこまでの内容を知らされては唖然せざるを得なかった。
 早々に叩かざるを得ない。
 そんなものかカリブ海の上に浮かんでいるという時点で大変なことだ。

ブルー・ディキンソン :
「……しかもオーヴァードがそれを仕切るっていうんだ。
 大国相手にも良い勝負が出来そうでいやはや……金持ってるところは羨ましいねホント……」

「……まあ、お抱えの軍事力の内容まで知れたのは棚からナントカってやつなんだけどさ」

情報源 :
『ワームウイルスによるインフラ、防衛システムの破壊。オートキャンセラーによるオーヴァード戦力の無力化。
 そしてこの海上要塞。
 ……戦争の準備はとっくにできていて。ソドムに頼るまでもなく、あちらには勝算があった。ということでしょうね』

情報源 :
『すべてが発動していれば、どうなっていたことか。
 物量差はあれ、各地のFH戦力は悉くがシャンバラに迎合することは容易く想像できます。その場合、物量すら問題でなくなる』

情報源 :
『まあ、これはもしもの話。今はその二つを抑え、こちらが攻める側に立っている。
 そちらの攻略はあなた方の管轄の筈。国の命運はあなた方に掛かっています。
                  ジークフリート
 頑張ってくださいませ。かわいらしい護国の英雄様』

ブルー・ディキンソン :
「こえーナー! 連中!!
 よっぽど現代的にラストバタろうとしてたんじゃん!」

「……うぇー今になってミリアの決死の演技が実を結んだっていう感触があるな。
 全くホントどうなっていたことやら……」

ブルー・ディキンソン :
「……まあ、そうさな。
 色々副産物も転がってきて、順調だってくらいポイントは潰せてきてるわけだしね。
 主要な部分はほとんど掌握したようなもんだし……」

 ミリアの件が個人的な想定よりも少し後ろになったのを含めても。
 嘘みたいに好調だ。
 コードトーカーとだって、最終的にそれが茶番である事を明かしたにしても、戦い自体は全力によるものだったわけだし。
 ……となればまあ、このままノリにノッていくのがいいわけだ。

ブルー・ディキンソン :
「まぁ……まぁ、そうね。
 ちゃんと潰しておかないと、約束の紅茶も飲めなさそうだし───」

ブルー・ディキンソン :
「……褒めてくれるのは嬉しいんだけど、
 それ、最終的に背中からグサってやられたりしない? あたし」

情報源 :
『順調とはいえ、いずれも綱渡りの道でした。どれか一つでも仕損じればリカバーの利きようがない状況を、巧く制覇しています。
 組織の垣根を越えて皆、善い仕事をしてくれていますね。

 共通の敵が現れた時、かつての敵同士は蟠りを棄てて団結する……』

情報源 :
『……というのは、アメリカンコミックスの悪党などが好んで口にする戯言絵空事と相場が決まっていますが。
 その辺り、背中を刺しかねない勢力への掣肘も、既に加えてあるようですね』

情報源 :
『ダン・レイリー大尉は責務を果たしたようです。結末は少々意外でしたが』

ブルー・ディキンソン :
 責務を果たした──となれば。
 あの密会で明かされた事を思い返し、一人妙に納得する。
 要するに、しっかりと釘は刺せたわけだ。
 確かにこれで後ろを気にする必要は無くなったが……、

「……お早いねえCIAは」

ブルー・ディキンソン :
「……で、その意外な結末って?
 単に"掣肘を加えた"ってだけじゃ、そういう表現はしないと思うけどナ」

情報源 :
『さて、ご想像にお任せしましょう。
 もう心配がなくなったことだけは間違いありませんよ。老人の息のかかった手勢も、裏方で動いているようですが、依然として目立った動きもないご様子』

ブルー・ディキンソン :
「ちぇ、相変わらず秘密主義なヤツ〜」

 仕事柄だろうが。

情報源 :
『職務上お話できないこともあります。マネーになる情報ならば猶更ですよ』

情報源 :
『それに、今必要なコトは背中を気にせずに進めるということだけ。
 頑張ってくださいまし。気を付けるべきは残す所、敵方の動向のみです』

ブルー・ディキンソン :
 ……まあ、それはそうだ。
 米国内のことが気にならないわけではない。

ブルー・ディキンソン :
 が、しかし。
 それを気にしている暇がないのも事実。

ブルー・ディキンソン :
 ダン・レイリーへの個人的な興味と、
 フジユウ
 自由の国の航の行く先と、これから出逢う時化やら何やら。
 その他全ての、この国のことをひっくるめて──あたしには、関係がない。
 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
 首を突っ込むのなら、それはまた別の話だ。

ブルー・ディキンソン :
「あは。
 こればっかりは、そちらさんが正論だ。
 後ろを気にするのはストークのすることじゃあない」

ブルー・ディキンソン :
「じゃ、ご期待通りに頑張らせていただきますかね。
 ま、せめて終わった後の茶会に不味い菓子を持ち込むような事にはならないようにしたいね」

情報源 :
『ええ。そう言う訳で、その辺りの御家騒動については然るべき扱いで留めておいてくださいまし。
 COMPANY
 私の会社も、あなた方とは良き関係を築きたいと思っていますので』
 薄く嗤い。

情報源 :
『そして然る後。茶会の席にて此度の旅の話を聞かせてくださいまし。
 こちらもとっておきの茶葉とフレグランスを用意してお待ちしております』

ブルー・ディキンソン :
「…………眠くなるのは勘弁ナ!!!」

 善意だけでこの生き方はできない。
 そしてこの生き方から変わるつもりもない。
 この手のやつとは、こうやって薄く踏み込まない程度に関係を維持しておくのが吉。
 確かに食わせ者ではあるが、超が付く優秀なエージェントである事に変わりはないんだし。

 あたしとの関係を表すのは、さっきみたいな"軽いやり取り"、それだけでいい。
 ……それで、彼方があれ以上の要件がないのなら、あたしはこのまま通信を切るだろう。

情報源 :
『あら残念。お礼ついでに、今この場で熟睡できるよう囁いて差し上げるつもりでしたが。
 お気に召さなかった御様子で』

情報源 :
『私からは以上です。
 では、どうかご武運を。また御入用なら、何時でもお声がけください。あなたの情報源として、可能な限りフォロー致しましょう』

ブルー・ディキンソン :
「はいよ。そん時は是非。
 ……そんじゃね、ミリアにもよく言っておく」

 ……ぷつん。
 頸のケーブルを引っこ抜いて、ゆっくりと全身に意識を戻していく。
 あとは──まあ、何事もなければ、予定の時間までは待機かな。

SYSTEM :
 情報源となるコネクションの女は最後にそう告げて、通信は途絶えた。
 意識は電子の海から再度現実に浮上し、ケーブルを伝って拡散した自我は再度収束して義体を動かし始める。

SYSTEM :
 シャンバラ掃討作戦、その最後の柱となるプラント攻略作戦。その結構の時は近い。この一時に何ら邪魔立てが入らず過ごすことが出来たのは幸いだったことだろう。
 今はただ、最後の闘いの為にその身を休める時だ。

SYSTEM :
─── □ ■ □ ───

SYSTEM :
【check!】
 シーンが終了しました。
 取得したいロイスが存在する場合は宣言してください

ブルー・ディキンソン :んー……。

ブルー・ディキンソン :無いかな。このままでオッケー。

GM :

GM :さて、ではシーンの方もこれで完了
いよいよボス戦に入ります

GM :ぼちぼち展開していきましょー

SYSTEM :
イベントシーンを開始します。
イベントを展開しています……